メガネ端正(転生)   作:飯妃旅立

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いつも通り更新期間伸びて行くヤーツ


32.きたん

 ベラニック南の港に着いた。

 想像通りの寒さ。これはしっかり慣れておかなければ、ここぞと言う時に手足が動かない、なんてことになりそうだな。

 それに雪が降っている。絶影は光子がなんとかするのでいいのだが、陽炎は不味いかもしれない。万が一にも雪を取り込んで身体を再構成した場合、臓器のどこかに水溜りが出現する事になりかねん。

 

「大煇石の場所ははっきりしませんでした。ただ、集めた情報を総合すると、帝都ザヴェートからそう離れた所ではないようです」

 

「そうですか。しかしザヴェートは遠い。とりあえずベラニックの街を目指しましょう」

 

 フェンデル兵の格好をした密偵と話すヒューバート。

 その格好――ストラタ軍の青い装束――のままフェンデル兵と話すのは些か無理があると思うのだが、どうだろうか。

 

 ともあれ、一行は雪国の道を進む――。

 

 

 

 

 

 

「なんだこの大穴は!」

 

「……恐らく火の輝石の暴発でしょうね。風の輝石が風を纏い、風を放つように。水の輝石が水を滴らせ、熱を奪うように。

 火の輝石も、火を燻らせ、熱を放ちます。性質上、扱いはとても難しい。励起状態の火の輝石を地面に埋めておくだけで地雷……ああ、いえ、致死性の高いトラップにする事も出来ますよ。敵が踏んだ瞬間にBOMB! という次第でね」

 

「詳しいな。その使い方はオレも知らなかった。何か、そういうものを造っていたことがあるのか?」

 

「いえいえ、私は原素(エレス)の研究者ですから。実践もしない使い道などいくらでも思いつきますとも」

 

「そうか」

 

 もっとも、この方法は俺のように原素(エレス)を見極められる者が一人でもいれば無力化される。地面に不自然な火の原素(エレス)があればわかりやすいからな。ウィンドル以外の国は大気中の原素(エレス)も多くは無いし、地中であれば尚更。

 だが、見つけられなかった場合は非常に厄介だろう。軍隊に対しても兵士一人に対しても痛烈なダメージを与える兵器になるはずだ。

 科学と兵器が切っても切り離せぬ仲なのは、どこも同じかね。

 

「怖いんだね、火の輝石って……」

 

「使い方次第ですよ。恐らくこの先のベラニックにあるでしょうが、人々の役に立つものも多々あります。

あと、あまり知られてはいませんが、活動を停止した火の輝石を細かく砕いたものと、鉄粉、水、塩類、あと炭ですかね。

 これらを合わせて布袋にでも入れておけば、一週間ほど保つ暖かい袋が出来上がります」

 

「……そんなに長い間保つのか?」

 

「はい。もっとも、フェンデルにおいて火の輝石を個人で使うのは少々難しいですからね。試行が少なければ実用にも至らないのは道理というもの。使用されている方は少ないかと」

 

 カイロに火の輝石を足しただけのそれだが、火の輝石は熱を放つ効果を持つ。活動を停止したとしても、その温もりが完全に消え去るには数十年が必要で、非常に冷めにくい性質を持っている。熱されやすく、冷めにくい性質だ。

 布袋にする理由は酸化を遅くするため。低温火傷を防止するためなどいろいろ理由はあるが、最たるは「紙袋が造れないから」である。アレを造るには専用の紙から造らないといけないからな。

 このカイロの主熱源はあくまで火の輝石。他の触媒や促進剤で熱を発生させ、火の輝石に蓄えさせる事で長持ちさせる。さらに熱を逃がさない様、断熱材の効果も期待している。

 

 捨てる神あれば拾う神あり、といったところかね。

 

「……あんまりもたもたしていると、疑いの目を向けられるかもしれない。ベラニックに急ごう」

 

 アスベル・ラントの言葉に頷く。

 見渡せば、多少なりと懐疑の目を向けてくるフェンデル兵がちらりほらり。

 こんな暗い寒空の下でサングラスをかけているけどワタシアヤシイモノジャアリマセーン。

 

 一行はベラニックへ急ぐ――。

 

 

 

 

 

 忌憚の寒村ベラニック。

 その名の通り、寒村――どこもかしこも触れば崩れてしまうんじゃないかと思うようなボロ屋ばかりで、街とはいえない、今にも絶えてしまいそうな様相を見せていた。

 街の人に大煇石について聞く、という事になったのだが、どうせ大した情報は出てこないだろう。こういう住人が限界の場所は、よそ者に厳しいのだから。

 

「……では、手分けして。日没頃、宿屋に合流しましょう」

 

「ああ」

 

 そう言って別れた俺は、すぐにその辺りのボロ屋の裏へ身を隠す。

 私兵部隊にだけわかる、非常に分かりづらい印の下に文を入れた布を埋め、街中に戻り、

 

「少し、良いか」

 

「……これはこれは、マリクさん。何用で?」

 

 マリク・シザースに捕まった。

 

 

 

 

 

「お前は大気中の原素(エレス)を見極められるようだな。前々から何でもない事のように話していたが、それは稀有な才能だ。……その才を見込んで、頼みがある」

 

 治癒術を扱う者ならだれでもできると思うのだが……もしや違うのだろうか。

 マリク・シザースに連れられ、道中で話を聞く。

 

「地面に埋まった輝石の欠片拾い……この子らの分を、今日だけで良い、手伝ってやってくれないか」

 

「今日知った楽は明日に苦を生みますよ?」

 

「……頼む」

 

 俺は原素(エレス)の無い世界を知っている。原素(エレス)の無い風景を知っている。

 だから、原素(エレス)は非常に異質に映る。

 だが、この世界の……元からこの世界しか知らない住民は違うのかもしれない。その色があることは当たり前で、認識は無意識で、原素(エレス)は景色の一部で。

 なれば、なるほど。確かに俺の視界は稀有なのかもしれないな。

 

「……わかりました」

 

 何故見つけられないのかわからないくらい主張している輝石を、取り出した一本の矢でほじくり返していく。表層に在る非常に細かいもの。少し掘った所にある指の間に挟める程度の大きさのもの。かなり深い所にあるこぶし大のものは……やめておくか。

 

 この辺りに在るものはある程度掘り出した。枯渇しないようにある程度で留めてある。

 

「これだけあれば、十分ですか?」

 

「……うん。ありがとう、おじちゃん」

 

 残酷な事をするものだ、と思う。

 毎日の苦労の中に降ってわいた幸運。楽を知ってしまったが故に、明日からの”今まで堪えられていた労働”が”耐え難い苦痛”に変わる。

 同情は何も生まない。強いて言えば、苦しみだけが生まれ出でるか。

 

 俺が掘り返した輝石を布袋に集め、こちらを何度か振り返りつつもトタトタと駆けて行く子供達を見送りながら、マリク・シザースの顔を見る。

 その表情は硬い。

 

「随分とフェンデル人に肩入れしますね。過去がどうであれ、ウィンドルの元騎士。フェンデルは敵国でしょう?」

 

「……子供だぞ」

 

「子供でも、フェンデル人です。ウィンドルやストラタに恨みを抱いているかもしれません。旅人のウィンドル人に憐れまれたとあっては、それが憎しみに変わる可能性もあります。

 敵対者に同情しても、いい結果は生みませんよ」

 

「お前は……」

 

「もっとも、私はこの国と敵対しているわけではありませんから、そこに何の感情もありませんが。積極的に助けるつもりも、敵対するつもりもありませんよ」

 

 子供達が宿屋に入ったのを確認して、手に持っていた矢を思い切り地面に突き刺す。凍牙でソレを凍らせ、衝破で掘り返す。

 出てきたのは、先程見つけたこぶし大の火の輝石。凍らせたのはまだ生きているからだ。

 

 それを軽く手前に放り投げ、木弓を抜き放ちながら虚空閃。

 

 凍った火の輝石はバラバラに砕け、地面に降り注いだ。

 

「ですから、これは手向けです。フェンデル人に、ではなく、これからお世話になる宿屋の子供に、ですがね」

 

「……そうか」

 

「何してるんですか? 行きますよ?」

 

「何?」

 

「ストラテイムの角。不純物の少ない物を見抜いてあげますから、とっとと狩りに行きましょう。あの程度の輝石で足りるものですか。今日の宿が最低限温まるよう、五本……いえ、十本は欲しいですかね」

 

「お前……」

 

 フェンデルに来てからほとんど動いていなかったしな。

 良い肩慣らし兼、信用度上げと言った所か?

 

 弓兵と後衛術者、パーティとしてみればバランスの悪い事この上ないが、個人で見れば俺とマリク・シザースの相性はいい。

 戦場を縦横無尽に駆け回って矢を放つ俺と、一部の技を除いてほとんど動かないマリク・シザース。遊撃手と後衛という、ツーマンセルではよくある構成なのだ。

 

「アスベル達に気取られたとあっては、格好もつかないでしょう。わざわざ独りの私に頼み込んできたのですからね。日没前にさっさと行きますよ」

 

「……ああ」

 

 その声色は、少しだけ――明るかった。

 

 

 

 

GC「ダークかめにん」

 

 ラントとフェンデル国境付近にて

 

「トータス! トータス! 国境は渡れないっスよ! でも……」

「でも? なんだ?」

「チップを握らせれば抜け道を使ってラント側に渡してくれる、渡し屋という奴ですね」

「ラントに帰れるのか!?」

「はい。ですが、私がその抜け道を知っているのでお金を握らせる意味はありませんね」

「……そんなもの、何故貴方が知っているんです?」

「旅人の知恵ですよ。知っている人はそれなりにいると思いますよ? ま、旅に慣れていない……アスベル達のようなカモ相手にぼったくりをして稼ぐ闇商人というのも多いのですがね。ね、ダークかめにんさん」

「うっ……ひ、冷やかしならとっととどっかいけっす! 営業妨害っす!」

「いえいえ、はい、1000ガルドです。連れて行ってくれるのでしょう? 安全に、確実に、バレないルートで。専門分野は専門家に任せますよ、旅人のにわかな知識じゃなくて、ね」

「め、目が笑ってねっす……」

「おや? 私はサングラスをかけていますから、目など見えない筈なのですが……はは、この大所帯を連れるのは流石のダークかめにんさんでも無理で、緊張しているのですかね?」

「なん……なんなんすか! おれがアンタになんかしたっすか!」

「ええ――私はかめにんと仲が良くて。ダークかめにんを見つけたら、捕えるようにと――」

「逃げるが勝ちっす!」

「……さて、アスベル。ラントへ行きましょうか」

「あ……ああ。あれはいいのか?」

「ええ、もう原素(エレス)組成は覚えましたので、ね」

 

 

 

GC「オトナーズ」

 

 ベラニック宿屋にて。

 

「あがあああああ寒くて眠れないようぅぅ……あれ、教官にライモン? 二人も寒くて眠れないの?」

「今夜は冷えるからな」

「私は寒さに慣れたくて」

「どうだ、一杯。酒でも飲めば、暖かく眠れるだろう」

「お、いいね~! いただこうかな!」

「ちょっと待ってろ、二人分、つくってやる」

「手馴れてますねぇ。マリクさんは教官になる前、バーテンダーでもやられていたのですか?」

「……さぁな」

「ほら、出来たぞ」

「おー、美味しそ! いただきまーす……んぐんぐ、ぷはぁ! 良い味~!」

「いやぁ、本当に。ストラタではワインがメインでしたが……火酒のカクテルもいいものですね」

「ところでさ~……教官ってもてるでしょ」

「なんだ、唐突に」

「多少の秘密があった方が女の子にもてるって聞いた事があるよ」

「秘密というわけではない。他人に誇れるような過去がないだけだ。秘密というのなら、そこの男は秘密だらけではないか?」

「ん~、ライモンは秘密がありすぎてもてるもてない以前に警戒されちゃいそうだよね~」

「おっとこっちに飛び火しましたか。勝手にやっててくれませんかねそういう話は」

「お前もいい歳だろう。良いのか、独り身のままで」

「そっくりそのままお返しいたします、アラフォー独身男性殿」

「……」

「誇れるような過去かぁ。あたしも昔は失敗ばっかりしてたから、ちょっと気持ちわかるなぁ」

「昔も、ではなく今も、じゃないですか。あなたは」

「そうとも言う! って、あれ、弟くん? 眠れないの? お酒飲む? って、弟くんはまだ子供だったか~」

「……酒が飲めない年齢というだけです。子ども扱いしないでいただきたい」

「ヒューバートさん、そろそろ温まってきただろう彼女を部屋に送り届けてやってくれませんか? 元気な分、アルコールの巡りも早いようですから」

「……はぁ。これだから酔っぱらいは……」

「え~らいようぶあお~……ひとりでかえれるよ~~~」

「ちょっ、ふらついてるじゃないですか! ああ、もう! はい、とっとと帰りますよ! 

 ……お二人も早めに切り上げてください。一時の休息は一時だからこそ許されるんです」

「ええ、もう少し飲んだら眠りますよ」

「……」

 

「少し、驚いている」

「何にですか?」

「あの男……ヒューバートは、一時の休息など必要ない、と言うタイプだと思っていたのだがな」

「ああ……まぁ、反面教師でもいたんじゃないですか? 一時も休息しないで倒れてしまうような馬鹿とか」

「アスベルのことか?」

「いえいえ。彼の父親のことですよ」

「……なるほどな」

「もう一杯、お願いできますか?」

「……ああ」

 

 

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