メガネ端正(転生)   作:飯妃旅立

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思ったより時間が経っていた


33.りはん

 

 宿屋。

 ストラテイムの角から取れた豊富な火の原素(エレス)がストーブを動かしているが、宿屋全体を賄うには足りない。そもそもストーブ一基で全体に暖を届けるというのは土台無理な話なのだ。せめて二基……いや、三基くらいはないと。

 とはいえ、この寒村の宿屋にそんな金があるはずもなく。

 その寒さに顔を顰めながら、ヒューバートやアスベルが眠りに就いた部屋を出て、廊下――階段上――で眠くなるまで思考実験をしていた時の事だった。

 

 階下……一階から、哀愁の籠った歌が聞こえてくる。

 

 理想に燃える二人の男。

 内一人はその理想(ユメ)に敗れ、国を去る。

 国を出た男は見失った理想を探し続け、残った一人は――。

 

 メロディはしっかりしているが、詞がしっかり乗っていない。

 即興で合わせているだけなのだろう。

 

「何か思う所が?」

 

「いや、特には無いさ。

 俺の夢は奴らの持つ不確かな理想(ソレ)じゃあなく、確信をもって”ある”と断言できる目的(ユメ)だ。立場も環境も、思想も。何もかも違う。何を言う資格も無いし、何を言おうとも思わん」

 

「そうですか。

 そろそろ、出立します。合流はザヴェートの宿屋で?」

 

「ああ。しくじるなよ。

 そして、危機を悟ったらすぐに逃げろ。フェンデルはお前が思っているより強敵だ」

 

「御意に」

 

 廊下の窓越しにそんな話をして、俺も部屋に戻る。

 寒さで眠れないなど、お坊ちゃまらしい言葉を吐いている場合ではないな。

 一応言い訳をさせてもらうと俺はストラタ国民だから、慣れていないのだ。いやホントに。ヒューバートは幼少時にはまだウィンドルにいただろう、そう、俺は純ストラタ人故に暑さは大丈夫でも寒さは、だな。

 ……見苦しい言い訳を脳内で終えて。

 

 即席懐炉を脚と腹で抱きながら、眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

「昨日、村の人から聞いた限りでは、フェンデルの大煇石こと大紅蓮石(フォルブランニル)は、やはりザヴェート近郊にあるようですね」

 

「ええ、私の聴いた情報とも合致します。ザヴェートで研究が行われているのなら、その周辺に研究対象があるのはなんらおかしな事ではありませんからね」

 

「……」

 

「どうしました、兄さん?」

 

「いや……なんか、ヒューバートとライモンって、似てるなぁと」

 

「なッ……何を言い出すんですか! 僕はこんな胡散臭いつもりはありません!」

 

「私もこんな未熟なつもりはありませんねぇ」

 

「ほんとだ、似てるね」

 

 ――そんな一幕が朝にあった。

 

 鋭いと褒めるべきか、鈍いと貶すべきか。

 まぁ、天然アスベル・ラントのせいで、マリク・シザースの疑念が納得に変わってしまったようだが。

 俺としては別に似ている事に対して特に文句はないのだが、あそこで反論しないのは不自然だろう。むしろ”そういうボロを出す奴だ”という認識を植え付けられる良い機会だ。

 とまぁ、そんなことがあって、少しだけ突出しがちなヒューバートを先頭にフェンデル山岳トンネルを進む。

 

 雪山のトンネル。外よりは暖かい、なんて思うなかれ、意図的にだろう平らに掘削された地面と上方及び右方に吹き抜ける形に造られているこのトンネルは、まるで氷室のようなつくりになっており、外よりもかなり寒い。

 何よりすぐそこにベラニックがあるのにも拘らず魔物が沸いているという素敵仕様。機械化が進んでいるなら整備して駆除しろよ。危ないだろ。

 

「ねぇねぇ、ライモンはさ、フェンデルの大煇石の研究がどーなってるのかとか、考えてる?」

 

「はい? まぁ、それなりには。戦闘中に話す内容ではないと思いながらも一人で張り切ってくれる軍人がいるので話し相手になりますよ」

 

「あ、頑張れー、弟くーん。

 それで、どうかな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうですねぇ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「やっぱりそうだよねぇ」

 

 俺達の分まで必死に動いているヒューバートとマリク・シザースに聞かせるように、聞こえるようなギリギリの音量と具体的な名詞を使わない曖昧な会話をする。

 パスカルのそれは無意識なのだろうが、いやはや、天然でやってのけるのには恐れ入る。

 実際問題、前衛三人と後衛二人という理想的なパーティなので、俺達の踏み入る隙間はないのだ。俺もパスカルもトリッキーな遊撃手だからな。

 

「あ、ところでですね、パスカルさん。

 火の輝術について少し聞きたい事が」

 

「ん、オッケー。何が聞きたいのかね?」

 

「ええ、直線状に放出する際の余剰原素(エレス)の削減についてなんですけど……」

 

 まだ大紅蓮竜と契約していないパスカルだが、その知識は今聞いておきたい。

 何故ならこの後で、少しだけ……彼らの元を離れなければいけないから。

 

「ん~、あたしも火の原素(エレス)はそんなに得意じゃないけど、わかった、考えてみるよー」

 

「お願いします」

 

 考える事を放棄したわけではないが、時に答えを見るのも大事な飛躍の一つだ。

 要らない時間をかけてまで悩むより、答えを知る人に聞いて、さらにその先を研究した方がはるかに効率良く、益のある事だと思う。

 

 そんな感じで。

 ろくすっぽ戦わないまま、俺とパスカルは山岳トンネルを抜けたのだった――。

 

 

 

 

 

 

「あーっ! レイもがっ」

 

 トンネルを抜けた直後、俺の昔の名前を口走ろうとした馬鹿の口に雪を投げ入れる。

 

「おや、久しぶりですね、頭と口が繋がっていない事で有名なウィル君。私はライモンですよ、覚えていますか?」

 

 ちなみにロックガガンの腹の中にいたのはウェル君である。

 兄弟揃って天才なのだが、兄弟揃って馬鹿なのだ。

 

「けほっ、けほっ、つめてー!

 レ……ライモン、なんでこんな所にいるんだよ! っていうか、あーっ!」

 

 ウィルは俺に怒鳴ったかと思えば、すぐに目移りし――アスベルに向かって指を差しながら声を上げる。

 その指を叩き落とした。

 

「いてっ、何すんだ!

 って、そうじゃない。そんなことより、それ、ロックガガンの笛!」

 

「あ、はい、そうですけど……」

 

「ダメですよ、アスベル。会話は通じません。

 そしてあなたが欲しいのはこれでしょう、ウィル」

 

 フィルムケース……のようなものに入れたロックガガンの毛を見せる。

 こういう話の通じない輩に対する準備は万端にしておくのが基本だ。何故なら、笛を返さないなら毛を持ってこいの一点張りになることがわかりきっているから。

 しかもアスベル・ラントのような善人はそれを無視する事が出来ない。

 であれば、ここで解決してしまうのが最善である。

 

「おーっ! おーっ! 昔から気が利く奴だとは思ってたけど、ここまで気の利く奴だとは思ってなかった。んじゃ貰ってくよ」

 

「はいはい」

 

 ちなみに見返りを求めるのも無駄である。

 奴は心の底から世界が自分を中心に回っていると思っているタイプなので、奉仕を奉仕とも思わない、所謂関わってはいけないタイプなのだ。

 こうやってあしらうのが一番。

 

「ほう? どこにいるとも知れなかった旧知の研究員の欲するものを偶然持っていた、というのか」

 

「たまたまですよ。偶然です」

 

「フッ。偶然、か。恐ろしい偶然もあったものだ」

 

「ハハハハ」

 

 もうバレているのは知っているから、そろそろ面倒なかまかけを止めてはいただけないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 帝都行の船に乗る。

 

 甲板の上で一人悩むソフィ。

 声を掛けるべきかは、割と本気で悩んでいた。

 

 ソフィ――プロトス1は、恐らく死ぬ事の無い存在だ。

 

 転生(てんしょう)という余りに得難い経験をした俺ですら、死ぬ。その先があると思うのは楽観が過ぎる。ま、あったらいいとは思うがな。

 俺も、アスベル・ラントも、ヒューバートも、マリク・シザースも、パスカルも、シェリア・バーンズも――死ぬ。

 彼女はそれに耐えきれるのだろうか。

 近い未来、彼女は自身の存在意義の一つを失う。

 時が進むにつれて、彼女を縛るモノは無くなっていく。

 

 なんと残酷か。そう思う。

 

 対策手段は三つ。

 一つは、ウォールブリッジ地下遺跡かフォドラで、彼女の人格消去(リセット)を行う事。光子を失って記憶を喪失する事が出来たのだ。新しく光子を入れ替えてやれば、恐らく出来ない話ではない。

 二つ目は、その素体を完全に破壊する事。ラムダのような精神体になってしまうかどうかはわからないが、分滅保全をする前に破壊してしまえば、プロトス1は機能を終えるだろう。ただしこれは、彼女自身が自らの意志で行えるとは思えない。

 そして最後、三つ目は――。

 

「何者かもわからない人間を、信用はできません」

 

 流石ヒューバート。

 タイミングは最悪だな。タイミングを失うのはラント家の宿業なのか?

 

 ……いや。

 一人、克服した奴もいたか。

 

 まぁ、ヒューバート達が出てきた以上、俺が声を掛けるというわけにはいかない。

 何者かもわからない人間は、大人しく船室に戻るとしますかね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄軋む重帝都ザヴェートに着いた。

 各自情報を集める事となったので、そのまま宿屋に直行する。

 

「首尾はどうだ」

 

「万事上手くいきました。総統閣下殿はライモン様にお会いになられるとのことです」

 

「そうか。余程手厚い歓迎を受けたようだな」

 

「ええ……機械兵自体はどうということはないのですが、面倒な仕掛けと蒸気熱で散々な目に遭いました。あの建物作った奴はどうかしてますね」

 

「律儀に中から行ったのか? 真面目だな」

 

「生憎ですがね、私はライモン様のように”自身の原素(エレス)組織を希薄にして風に流し、目的地で再構成する”などという原理を聞いても意味の解らない所業は行えないのです。ライモン様もどうかしていますよ」

 

「それは重畳。

 さて、部下が手足に火傷してまで掴み取ってくれた機会(チャンス)だ。無駄にはしないさ」

 

 部下の持ってきた招待状を懐にしまう。

 そして一筆、アスベル・ラント達へ文を残す。

 

 一時的にだが……さようなら、だ。

 




ちなみに雪降る中でもライモンはサングラスかけてます。
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