メガネ端正(転生)   作:飯妃旅立

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オリキャラ注意。


4.出会い

 

 八歳になった。

 

 ダヴィド大統領と所長、俺と俺の部下で秘密裡におこなっている水道工事もようやく三割進んだ、と言った所で、大蒼海石(デュープルマル)から搾り取る水の原素(エレス)の削減に遅々とではあるが近づいている。

 といってもこの三割は土地面積的な意味での三割だ。

 住民に悟らせないように内面を削るのは中々難しい作業で、特に居住区では一層の慎重な作業が求められるだろう。

 

 だから、作業の全体で見ればまだ一割にもいっていない。

 残り十七年。いっそのこと盛大に使ってしまえばいい、などと囁く悪魔もいないわけではないのだが、やはり俺の愛した大煇石。出来るだけ元気でいて欲しいと思う。

 

 ユ・リベルテの事はこのくらいでいいだろう。

 

 俺が今執心しているのは、何を隠そうエレスポットである。

 素材集めは着々と進行しており、何度かセイブル・イゾレに行ってはイマスタと共に議論を行う日々。何の議論かと言えば、「エレスポットはどのようにしてこれを可能としているか」についてだ。

 俺は然ることながら、イマスタも既にエレスポットは実現可能なものとしてとらえている。

 故に、この設計図をくれた旅人が何者であるのか。これはどういう経緯から出来た設計図なのか、熱く熱く語っているのだ。

 

 なお、イマスタの母親は俺が説得した。

 何、娘が金持ちの子供と仲良くなり、想像の話をしているだけでお金を貰えると言うのなら、喰いつくのも当たり前だろう。

 とはいえイマスタの母親は子供思いで、娘を騙すつもりならたとえ大統領の子であっても容赦しないときつく念を押された。

 無論だと答えたが、正直羨ましいと思いながらの返答だった。

 オズウェル家は非常に複雑な家庭故、俺はあまり母の温もりに触れずに育ってきたのだ。

 

 もっとも、精神年齢が自身より下の母親に温もりを求めるほど俺は人恋しくない。

 特に問題はなかった。

 

 で、現在。

 

「凍牙!」

 

 弓から放たれた水の原素(エレス)。それは射出時の流水であった頃の勢いを保ったままに凍りつき、速度とでこぼこした長球形を保ってグラニットータスに直撃する。

 が、流石にトータス系らしくその体表は硬い。鈍重故に危険はないものの、今の俺の火力ではなかなか難しそうだ。

 

「手を貸すか?」

 

「結構だ!」

 

 今度は原素(エレス)のみではなく、しっかりと矢も番える。

 狙いを定める必要はない。この距離と相手の図体の大きさがあれば、適当に射ても当たる。

 だから、集中すべきは原素(エレス)の扱いの方だ。

 水の原素(エレス)の拡散し波打つ特性をしっかりと引き出し――接敵する!

 

「扇氷閃!」

 

 ほぼ零距離から放たれた矢は斜め上に向かって五つに拡散する。

 そこにあるのはもちろんグラニットータスの図体だ。俺の身体の小ささも相俟って、五本の矢は余すことなくグラニットータスの身体を刺し貫く。

 

「ハッ……くそ、息が持たないか……!」

 

 そのまま続けざまに威力の高い術技を使おうとしたのだが、子供の身ではCCが足りない。

 仕方がないので、踏みつぶされる前に離脱する。

 

「絶望的なまでにCC不足だな……体感でしかないが、下限6の上限10と言った所か……」

 

「諦めるか?」

 

「ハ、そんなわけがないだろう。大人しくそこでみていろ!」

 

 次も矢を番える。

 矢を番えず、原素(エレス)だけで行う射撃は無限に行えるが、威力に難がある。矢を番えて行う射撃は、矢の数は有限だが、高威力を叩き出せる。前者がアーツで後者がバーストだな。

 

「ふぅ……」

 

 CCが足りず、連携が行えないというのなら。

 一度の消費で済む高威力の射撃で以て、これを補えばいい。

 

「……三叉槍(さんさそう)!」

 

 右足を前に、左足を下り、ほぼしゃがんだ様な体勢で行う射撃。

 風と火の原素(エレス)を纏って放たれた矢は、風の原素(エレス)によって地面スレスレを這うようにして進みながら、三つに分かれる。

 矢は地を這うごとに威力を増し、砂や石を巻き込みながら曲線を描いてグラニットータスに向かう。

 

 そしてグラニットータスに接敵した瞬間、噴火を思わせる勢いで火の原素(エレス)がその身体を貫いた。

 

 倒れるグラニットータス。

 

「……まだまだ改善の余地があるな」

 

「ま、八歳でこれなら大したモンだよ。ストラタ兵としてみりゃ落第も良い所だがな」

 

 先程から茶々を入れて来ていた男――現ストラタ軍少佐を務めるこの男は、なんと休暇中たまたま通りかかっただけの、本当になんでもない縁の存在だ。

 もっとも、二人して砂嵐に遭遇し、遭難しているという点をみれば、既に何でもない間柄とはいえなくなっているのかもしれないが。

 

「喉は渇いてねぇか?」

 

「大丈夫だ。無理をするつもりはないが、砂漠で必要以上の水分は発汗を促す。衣服が濡れるのは避けたいからな」

 

「ハハ、しっかりしてやがる」

 

 ストラタ砂漠は広大だ。

 俺の部下が必死に探してくれているとは思うが、見つかるまでにそれなりの時間がかかると思われる。

 その間生き抜かなくてはならない。

 

「しかし、グラニットータスがいるってこたぁ……」

 

「ここはストラタ大砂漠の東側。西へ行けばユ・リベルテに、東へ行けばセイブル・イゾレに着ける……と考えるのは些か浅はかだろうな」

 

「まぁ、ここが砂漠じゃなけりゃそれでいいんだがな」

 

 ストラタ大砂漠全体から見れば、ユ・リベルテもセイブル・イゾレも小さな一角でしかない。

 東西へ向かった所で、砂山や海に突き当たってしまえば通り過ぎているし、かといって頃合いを見て南北へ進めばさらに遭難する事だろう。

 こういう場合は動かないのが一番であるのだが、水分や食料、何より夜の寒さをしのげる場所が必要な以上、動かなければ死んでしまう。

 

 現在俺がこうして戦っているのは、いざという時……強敵が現れた時などに、この男に万全の状態でいてもらうためだ。

 俺などよりも遥かに強いだろうこの男を温存して於けば、例え俺が倒れたとしても背負って行ってもらえるだろうしな。

 

「っ……地鳴り……ロックガガンが近くにいるのか!」

 

「不味いな、食事に巻き込まれるのもそうだが、移動に巻き込まれても終わりだぞ。亀車ならそういったものを感知して離れられるはずだが、俺達にはどうしようもない」

 

「……ロックガガンは植物、サボテンが主食だったはずだ。出来るだけサボテンから離れるぞ」

 

「へぇ、あんなナリしてサボテン食って生きてんのか。お前、良く知ってたな」

 

 ロックガガンの生体は謎に包まれている。

 セイブル・イゾレでも日夜研究がおこなわれているのだ。ユ・リベルテの住民が彼の存在について全く知らないのも無理はない。

 

「サボテンを食べる際に、大量の砂と一緒に魔物や旅人を飲み込んでしまうんだ。

 奴にとって特に害のあるものではないからな。どうする、ロックガガンの体内なら冷え込みを防げるぞ」

 

「冗談が上手いな、最近の子供ってのは。

 そういう冗談はユ・リベルテに無事帰ってから聞かせてくれ。飽きるほどにな」

 

「ああ。だが、幸運かもしれない。

 ロックガガンの食事場はある程度決まっている。奴が現れた場所から現在地を割り出せるかもしれん」

 

「かもしれない、か。

 まぁ、それくらいしか手がかりがねぇんならしょうがねえ。ここがその食事場じゃねえことを祈りつつ、周囲を警戒しておくか」

 

 軽い言葉を吐きながら、真剣に周囲を探る男。

 地響きは遠くなっていっている。だから、どこに這い出てくるかを見逃さないようにしているのだ。

 身長的に、俺では砂丘に阻まれてしまうからな。

 

「……あれか? 北……10時の方向に、茶色の奴がいるぜ。距離は……あぁ、巨大すぎて遠近感がわからねぇが、30はあるな」

 

「10時。とすると……」

 

 足元の砂漠に魔物の爪で簡易的な地図を描く。

 ストラタ大砂漠の大まかな形、ユ・リベルテ、セイブル・イゾレの位置。現在自分たちがいるであろう区域と、ロックガガンの現れた場所。距離。

 とすると……。

 

「1時の方角に向かって直進だ。日が落ちない内に突っ切れば、セイブル・イゾレに辿り着けるだろう」

 

「おう、じゃあ行くか」

 

 そこまで距離が離れていなくてよかった。

 俺達は魔物を無視して、全速で砂漠を駆ける。

 

 砂丘が、砂が俺達を妨害する。

 だが――。

 

「見えた! セイブル・イゾレの研究塔だ!」

 

 俺の身長でも見える、あの塔。

 今一層の力を脚に入れ、

 

「小僧、下がれ!!」

 

 短い付き合いとはいえ聞いた事の無い程に切迫した声の男に首根を掴まれ、引き戻された。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――!

 大量の砂と風を纏うそれは、俺と男を軽々と吹き飛ばした。

 

「くそッ、今のがロックガガンか!」

 

「風の攻撃術でクッションを造れないのか!」

 

「無理だ! この暴風の中じゃ原素(エレス)を操るどころじゃない!」

 

 男が輝術を使えるというのでそれに頼ったのだが、ダメだった。

 仕方がない。

 何故できるか、何故再現できたのかわからなかったから、怖くて封印していたあの術技を使うしかないか!

 

「おい、俺の腰に掴まれ! 飛ぶぞ!」

 

「はぁ!? 気でも触れたか、既に飛んでんだろ!」

 

「冗談言ってる暇があるなら早くしろ!」

 

 首根を掴んでいた男が空中で身を捻り、俺の腰をがっちりとホールドする。

 砂嵐、否、大竜巻が吹き荒れる中で、弓を構えた。

 

「どこかに……魔物は……いた、マンドラタント!」

 

 この最悪の視界で見つけられた事は幸運と言うほかないだろう。

 

 自身の内に水の原素(エレス)を集中させ、それを火の原素(エレス)で昇華させるイメージを造り出す。

 

「成功しろよ……陽炎!」

 

 俺と男の姿は、砂塵の中から一瞬にして掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイブル・イゾレの宿屋。その一室。

 

「互いの無事と、万物(なに)よりも美味え水に在り付けた事を祝って――」

 

「「乾杯!」」

 

 カチン、と、涼しい音が鳴り響いた。

 

 ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干すのは、酒や果実水ではなく、ただの水。

 冷えてすらいない、本当にただの水を、しかし二人は最高の飲み物だと言わんばかりの顔で飲み干す。

 

「っ……っかぁ~! 生き返るってな、こういう事を言うんだろうな!」

 

「文字通りな。

 本当に、どちらかが死ぬという事がなくてよかった」

 

「ロックガガンの移動に巻き込まれた時は流石に覚悟したけどな! ハッハッハ!」

 

 全く以て笑い事ではないが、まぁ俺も笑っておく。

 狸共とも、イマスタとも違う、突き抜けるような快活さは、傍にいて楽しくなるものだ。

 未来の弟君も似たような性質の女性に惚れている事だし、これはオズウェル家の宿命なのかもしれんな。

 

「改めて、礼を言っておこう。あの時助けてくれて本当にありがとう。アンタがいなければ、俺はロックガガンに踏みつぶされていたか撥ねられていたか、どちらにしろ死んでいた事だろう。

 本当に感謝している」

 

「お互い様だろ。お前がいなければ今頃俺は自分の現在地も分からずに砂漠を彷徨っていただろうし、あの砂嵐の中で助かったのはお前のおかげだ。俺からも礼を言うぜ」

 

 お相子だと、男は言う。

 男。そういえば、名前を聞いていなかったし、言っていなかったな。

 

「俺の名はレイモン。レイモン・オズウェルという。出来るのなら、アンタの名前を聞かせて欲しい」

 

「オズウェル……? へぇ、お前が例の神童だったのか。通りで。

 俺はモーリスって名前だ。さっきも言ったが、軍で少佐の地位を預かってる」

 

 神童。

 そんな風に呼ばれているのは知らなかった。

 ガリードは絶対そんな事言わないだろうし、所長も同じ。

 とすると……情報源は大統領か?

 

「オズウェル家とは関係なく、モーリス、お前とは個人的に仲良くしたいと思っているぞ」

 

「おいおい、軍人に私情を挟めってか?」

 

「そうは言わんさ。単純に、飲み仲間になって欲しいって事だよ」

 

「……お前、いくつだよ」

 

 あっ。

 

「……成人したら、に決まってるだろ? 俺が今八歳。俺が成人する頃には、お前もいい年だ。引退しているやもしれないし、大出世しているやもしれん。少なくとも少佐じゃあないだろう。

 なら、一緒に飲む時間も増えるというものだ」

 

「ふむ。

 ま、そう言う事なら大歓迎だぜ。お前といればいい酒も飲めそうだしな」

 

「ほう、オズウェル家の神童を財布扱いか。

 本当に出世しそうだな、お前」

 

「ハッハッハ、お前が成人する頃には幸せな家庭を築いてとことん悔しがらせてやるよ」

 

 そうか、それは楽しみだ。

 

 俺達はもう一度笑い合って、グラスを鳴らすのだった。

 




皆さんお気づきかと思われますが、グレイセス世界(というかエフィネアとフォドラ)は
超 絶 広 い です。
ラントの裏山から見える海。あれ、位置的にバロニア左上(フェンデルとウィンドルが挟んでいる)湾なのですが、羅針帯と水平線しか見えません。
また、シャトル発射時のムービーでも周囲に大陸は見えませんでした。
あの速さで射出されるシャトル(地球を抜け出すのに必要なロケットの速度が4万km/h弱。性能はもう少し良い物と思われる)の滑走路なので、最低でも555kmくらいはあると思います。(東京から兵庫県の真ん中くらいまでの距離)。

ちなみに、フォドラからエフィネアへ帰ってくるまでの時間は凡そ16秒。
5万km/hくらいは出ていると考えて、(ただムービー視る限り加速度は余り無い感じ)エフィネア・フォドラ間の距離は222km(月と地球の距離が約38万km)。
フォドラのシャトル発射口から見えるエフィネアの見かけの大きさは、丁度地球から見て海王星が月の位置にあった場合とおなじくらい。(地球の半径6,371km、海王星の半径24,622lm)だというのにフォドラはエフィネアの何倍もの大きさを誇っている。
=エフィネアはフォドラにかなり近い位置にあるという結論になるので、222kmも信憑性あがるかな?
加速度は全く考えてません。だからもう少し遠いかも。

ゲームではデフォルメされていましたが、原作では物凄い距離を移動していたようですね。シャトルのマップ画面は流石にデフォルメし過ぎて時空が歪んでいましたが。
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