メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
またご都合主義です。
「ライモン様。丁度二時間のお手洗い、腹痛は収まりましたか?」
「よく口が回るじゃないか。まぁ、そうだな。
非常に有意義な時間だったし、なにより飛び切りの収穫があった。今ならモーリスの奴に80年モノのワインを奢っても良いくらいには気分が良いぞ」
「ふむ。明日の天気は晴れのち槍でしょうから、鋼鉄の傘を準備した方がよろしいかと」
「本当に口が回るようになったなオイ。
……まぁ、今は良い。それより、ウォールブリッジをイライザが通った形跡はあったか?」
「いえ。一人にバロニアまで確認させに行った所、そもそもこちらの街道には来ていないようですね」
「ええ……じゃあなんだ、アイツどこ行ったんだ……?」
「さぁ、そこまでは」
ホクホク顔でウォールブリッジ地下遺跡から出てきた俺を待っていたのは、この何とも言えない報告だった。
あの性格ならどこでもなんだかんだやっていけるようには思えるが、同時にフェンデルの改革運動の失敗が近年に有った事を考えると、やはり少々心配だ。
特にこちらへ来ていないというのなら、行った場所はラント、もしくはオーレン村の方面。今の時期であればオーレン村はただの林業村だから心配はないだろうが、問題はラントの方だ。
今のラントは(というか色々ある前のラントは)、フェンデルとの緊張状態がかなりのものになっているはず。
証拠にバロニアとグレルサイドにはいたストラタの観光客や旅人が、ラントにはいなかったのだから。西ラント街道にいたストラタ人女性が珍しがられていたくらいだしな。
ストラタ人が戦争に巻き込まれないようにするため、という事もあるだろうし、ラント側が受け入れを拒否していた可能性も高い。
何にせよ、今ラントに行くのはあんまりオススメ出来ないと言う話だ。
イライザがこういう事を考えているかどうか……考えているならば、向かった先はオーレン村という事になるが、あんな何にもない田舎村にわざわざ行くか?
まぁ観光という面で見れば……あぁ、現実逃避はやめよう。
アイツはグレルサイドへ行くと言っていたんだ。
こっちにいないのなら、あっちにいったとみるべきだろう。
「グレルサイドへ行くぞ。研究材料は特にないからな、宿で疲労を取ったらすぐにラントへ向かおう」
「ラント領には研究材料があるのですか?」
「ああ、あるぞ。とびきりのがな」
「……それは、天然成人女性の生態、とかではないですよね」
「お前、口数が増えた分ジョークセンスは落ちたな。もう少し捻らないと減俸するぞ」
「それは素晴らしい。ライモン様程のジョークセンスをお持ちの方を笑わせられるとなれば、私は芸人として食べて行けるでしょうから」
「減点だ。で、支度は出来ているのか?」
「ええ、全員出立可能です」
「そうか。及第点だな」
この部下は俺がまだ歩けもしない頃から付いている、所謂古参の部下であり、それなりの数がいる俺の私兵のまとめ役でもある。
昔はただ付き従うだけで会話なんて全くなかったのだが、ここ最近……俺が研究員の肩書を得たくらいから、かなり話しかけてくるようになった。
俺はコイツの癖とか嗜好とかを知っているし、コイツもまたそれは同じ。
身体年齢こそ違えど、十年二十年来の親友のようなノリでいてくれるコイツには感謝している。
「少々急ぐ。
道中の露払いは任せてやる。出来るな?」
「無論です。例えライモン様がダークボトルを頭から浴びていようと、魔物が襲ってくることは無いでしょう」
「それはいい考えだ。すぐにダークボトルを用意してくれ。背後からお前にかけてやる」
「謹んでご遠慮いたします」
そう言って肩をすくめて、無駄に優雅な礼をした後、奴は駆けて行った。
ウォールブリッジの方向に。
そう、俺はウォールブリッジ地下遺跡を抜けて、グレルサイド街道に出ていたのだ。
にも拘らず出てきた俺を直ぐ見つける事が出来たのは、奴の先見の明によるものか、はたまた単純に目が良くて足が速かっただけか。
どちらにしろ、重宝したい部下である。
「さて……」
エレスポットを取り出し、
料理をセットする場合、その料理を
ドリアの効果はHP14%回復。そして、フィールド移動速度UP。
セットした瞬間、ウォールブリッジ地下遺跡で溜まっていた足の疲労がふっと無くなり、さらには身体も軽く感じている。
「さて、言質は取ったぞ。
これで魔物が一匹でも出てきたら、本当に減俸するからな……!」
俺は駆けだした。
子供の歩幅とはいえ、それなりの速度で駆けぬけているはずなのに、本当に一匹も魔物が出てこない事に舌を巻きながらの、グレル旧街道。
このまま西ラント街道へ突っ切る……というのが理想だったのが、少々面倒なものを発見してしまった。
「――やっぱいるじゃないか、魔物! 減俸だ! 手伝え!」
「失礼、寄り道は想定していませんでした」
グレル街道・グレイル湖の逆側の茂み。人の手が入っていないその軽い林の中で、誰かが襲われている。
これが盗賊なんかだったら自分の運の無さを呪えと見放していただろうが、襲われているのが見るからに戦えなそうな中年のおっさんともなれば、少々違う。
だって戦えない独りぼっちの中年のおっさんだぞ。
――コネクションを造るには最適じゃないか!
「凍牙ァ!」
三つ折りに畳まれていた複合弓を背から引き抜き、瞬時に弓の形に戻して
鋭く射られた氷の礫が魔物――ウルフに直撃する。弱そうだ、が……数が多いな。襲われている奴は出血している可能性がある。
「火の
「一人くらいつけなくて大丈夫ですか?」
「誰に物を言っている!
と、言いたい所だが! 救助したらとっとと救援に来い! この数は無理だ!」
「流石ですねライモン様。潔い」
立て続けに術技としての形を成さない
暗がりにいた魔物はどうやらウルフ種だけのようで、ウルフ5匹にタイニーウルフが8匹と、ご近所づきあいのハンティングタイムだったらしい。一匹居候がいるようだが。
「森から出てこい! 俺が相手をしてやる!」
魔物に対し、言葉が通じるわけではない。
だが、威嚇している事は伝わるはずだ。
案の定、遠吠えを上げて森から出てくるウルフ達。
「馬鹿め、森から出てしまえばこっちのものだ!」
火の
狙いは一番大きいウルフ。リーダーが死ねば、士気も下がるはずだ。
「轟天!」
放たれた矢は雷迅の如く飛び、一直線にウルフへと向かう。
しかし、直線であるからこそ避けやすかったのだろう。一番大きいウルフは素早い動きでそれを避けた。
直後、そのウルフと、周囲にいたタイニーウルフを巻き込むようにして雷が落ちる。
「はン、手元に雷を発生させたら感電するだろうが! そんなことも分からないか、馬鹿め!」
なお、戦闘中の俺は軽い
「向かってくるか……それは賢い! 認めよう、囲まれたら弓使いはどうしようもない!」
だが、それを考えていない俺ではない。
前方に風の
さらに上空へ向かって矢を三本、これまた風の
仰向けになった身体をバク転するように回転させ、下向きになった身体でさらに風の
「虚空閃!」
下向き30度程の角度で強く引き絞った矢を放つ。風の
あとは重力のまま落ちるだけ、そう見たのだろう、復讐に駆られたタイニーウルフが突進の姿勢を取るのが見える。
「まだ終わらんぞ、
先程上空にはなった三本の矢。
それが、まるで狙い澄ましたかのような軌道でタイニーウルフを三匹、地へと縫い止めた。
その隙に着地。バックステップで距離を取る。
「っは……はぁ、はぁ……くそ、エクシード9くらい欲しい……」
本音が零れるが、まだウルフは残っている。
「――お待たせいたしました、ライモン様。お見事です」
「……ふん、秒と掛からず全滅させたお前らにはまだ及ばん」
「それは当たり前というものです。あなたは護衛対象、我々は護衛。
護衛対象が護衛より強くてどうするというのですか。それでは」
俺の部下ではない、護衛の方の奴らにウルフは全滅させられた。
ストラタ兵。わかってはいたが、全く及ばないな……。
「お疲れ様です、ライモン様。どうかお気になさらぬよう。もっとも、貴方にそんなナイーブな心があるとは思えませんが」
「素晴らしいな。疲労を覚える主に対して吐く言葉としては最上級だ。褒めてやる」
「ありがたき幸せ」
……コイツはコイツで……あぁ、別にいいんだけどな。
こう……もうちょっと労いというか……あ、お疲れ様ですって言ってやがる。
「それで、襲われていた奴は無事だったのか?」
「はい。すでに神聖術による治癒も施してあります」
「
「問題ありません。あと、
はいはい。
わかったわかった。
俺の負けだよ、減俸とか言わないから早く話を進めてくれ!
「こちらへ」
「……コイツ」
本当に……良い縁ばかりだな、俺。
「おじさん、意識ははっきりしていますか?」
「……ああ。助けてくれて、感謝しているよ」
部下と護衛に周囲を見張らせて、木陰でおっさんと会話をする。
妙に既視感のある顔だな。ウィンドル人のようだが。
「おじさん、名前は? 家と名前を教えてくれれば、送り届けますが……」
「……アドル。アドルという。……家はもうない」
……無駄足か。
浮浪者を助けたのか。いらんコネだな。犬も食わん。
「そうですか。どこかアテは?」
「無いな……。他人に頼らない生き方をしてきた……。繋がりは、どこにもない」
最高に使えない人材じゃあないか。
あの盗賊より使えないぞ、ウルフに負けてるくらいだし。
うわ、こんなおっさんよりイライザの方が優先事項上だぞ……。
「ふむ。
では、一番近いラント領へ送って行こうと思いますが、よろしいでしょうか? ラント領主に言えば、多少なりとも――」
「ダメだ。ラント領だけは、ラント領主だけは……頼れん」
「……ふむ?」
アテがない、そう言っていた。
家は
そしてこの既視感ある顔。ブラウンと赤紫を足して割ったような色味の髪に、小麦色の肌。不器用そうな顔。
「……おじさん、本名を教えてください。場合によっては私が
「……! 君は……」
「私はストラタで、それなりの地位を持っています。ウィンドルからの亡命者一人、匿う事は難しくありません。
なお、これを拒否する場合、泣いて暴れてもラント領へ連れて行きます」
欲しいと思った。
これはガリードを笑えないな。
コイツは、良いカードになると……心の奥で嗤っている自分がいる。
「……アドルフだ。アドルフ・ラント。
実の弟に領主の座を追われ、ラントからも追われた……憐れな長男坊だよ」
おっさんは、自虐するようにそう言った。
アストンパパは見た目の年齢が若すぎるんですけど、原作(幼少期)39歳、(青年期)46歳、今の作中だと31歳ですね。
アスベルが領主になったのは突発事象だったわけで、普通領主って26~35くらいの間で交代すると(継ぐと)思われるので、ご都合主義で丁度今の時期になりました。