メガネ端正(転生)   作:飯妃旅立

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永遠のライバルである奴との邂逅


8.見つけ

 

「止まってくれ、少年。

 今ラントは少々緊張状態にある。用向きが重要なものではないのなら、遠路はるばる申し訳ないが引き返してくれると助かる」

 

「そうですか……いえ、別に入らなくても問題は無いんです。

 ただ、人を探していて……」

 

「人? ……特徴を教えてくれ。俺はひがなずっとここで警備をしている。ここを通ったのならば、俺が見ているはずだからな」

 

「本当ですか?

 ええと、2人いるんですけど……1人は……なんというか、天然でおっちょこちょいで、元気だけが取り柄、みたいなストラタ人女性で」

 

「見た目にそぐわず辛辣だな、少年。

 しかし、残念だがここ数日でストラタ人女性を見た覚えはないぞ」

 

「……いや、本当にどこいった。

 あ、ええと、それでですね。もう1人なんですけど……」

 

 

「――アストン、という人を探しています」

 

 

 

 

 

 

 話を聞けば、アドルフ・ラントが家を追い出されてから既に五年の月日が経っているらしい。その間浮浪の身で、行くあても無く彷徨っていた所、とうとう生きる気力を失って林の中へ身投げする所だったとか。

 魔物を狩ればガルドを稼げる世界が故の放浪力だな。

 

 彼は素直に俺達の元に匿われる事を受け入れた。

 その際、

 

「政治のカードにしてくれてもいい。……俺の愛したラントは、もうどこにもないからな」

 

 という旨の発言をしてたので、大いにこれを利用する事にする。

 恐らく常日頃であれば絶対に言わない、そうとう参っていたからこそ出た言葉なのだろうが、発言は取り消せない。盛大に使わせてもらおう。

 

 ということで、早速一筆書かせたのだ。

 

 実の弟、アストンへ向けた手紙を。

 

 それを民兵隊長だろう男に見せれば、この通り。

 俺は今、厳重な警備(と言っても民兵二人程だが)を付けられ、ラント領に招待されている。

 ちなみにイライザに関してはもうほぼほぼ諦めている。部下にハンドサインで周囲警戒は伝えてあるのだが、予感的に多分来ることは無いだろう。

 

「……君が、アドルフからの手紙を授かったという少年か?」

 

「おじさんは?」

 

「あぁ、すまない。

 お……私はアストン・ラント。ここの領主を務めている」

 

 アドルフと酷似した姿の、まだ三十そこらの男性が現れる。

 この頃からそのしかめっ面は変わらないのな。なんだ、ラントで生まれた兄弟は必ず弟が仏頂面になるのか。

 

「あぁ、あなたがアストンさんですか。

 はい、私がアドルフおじさんから手紙を授かった者です」

 

「詳しく話を聞かせて欲しい。あの人は……兄さんは、今どこにいるんだ?」

 

 アストン・ラントの顔は仏頂面だが、どこか焦りが見えている。

 アドルフを死に追いやったと思っているんだったか。そこに舞い込んだ……まぁ、一応吉報。それも実の兄ともなれば、心配するのは当然か?

 

「アドルフおじさんとはストラタで出会いました。その時、先程の手紙をアストンさんに届けてほしいと。私が丁度船の出港待ちをしていた時でしたので、追いかける暇も無く……」

 

「……そうか。兄さんはストラタにいるのか。

 ……無事、なんだな」

 

 心から安堵した、という表情のアストン。

 

 だが、それだけの事を伝えるために此処に来たのではない。

 

「それと、こちらは手紙ではないので信用度には欠けると思うのですが……伝言が」

 

「伝言?」

 

 これは、毒だ。

 彼を確実に来させるための。俺が家を出るための。

 ただ、微かな罅にしかならない毒。

 

「『俺はもうラントへ戻る気はない。お前達とも縁を切る。俺の愛したラントはもう存在しない』……以上です」

 

「……!

 そう、か……そう、だよな……。

 ……ありがとう、少年。ライモンと言ったか……まだ十を数えるくらいだろうに、この手紙と、伝言。届けてくれて感謝する」

 

 これはアドルフが本当に言った言葉だが、伝言とは頼まれていない。

 俺が使えると判断したからこその、言葉だ。

 

「……あの、それで……ですね。少しお願いがあるのですが……」

 

「なんだ?」

 

「少々疲れてしまって……一晩だけ、ラント領で休ませてもらえないでしょうか」

 

 疲れているのは事実だ。グレルサイドから全力疾走をしてきたからな。ドリア程度では補えない疲労が足に溜まっている。

 

「……勿論、問題は無い。なんであれば、この家に泊まるか? 良いだろう、フレデリック」

 

「では、客間を準備いたします。しばしお待ちください」

 

 アストンが初老の男に声を掛けた。ずっと控えていた男だ。

 ……この頃からノパーソでプロマイド集めてたのかな。

 

「少々時間がかかる。何分、最近は客人など全く来なかったからな。

 その間、ラントを見て回ると良い。疲れているのなら、中庭のベンチに座っていてくれ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 やはり身内の手紙を持ってきた、という事実は強いな。

 仮初とはいえ、既に「仲間」という括りに入れられているのだろう。

 

 いやはや。

 動きやすいな。

 

「あなた、お話は終わりましたか?」

 

「ケリーか。丁度いい、入ってくれ」

 

 ノックと共に、凛とした女性の声がかかる。

 扉が開き、入ってきたのは、青髪の女性。

 一瞬、一瞬ではあったが、扉の向こうでメイドに抱かれている三歳か二歳くらいの幼児二人の姿が見えた。

 

 アストンやアドルフと同じ髪色の子と、目の前の女性と同じ髪色の子。

 

 ――今はまだ、初めましてはいわないぞ。未来の弟君。

 

「この子は……?」

 

「君が来た時には既にいなかったから分からないとは思うが……私の兄、アドルフの手紙を届けに来てくれた少年だ」

 

「まぁ……」

 

 その言尻に、「あなたが常に後悔していると言っていた、あの?」というようなニュアンスの吐息が漏れる。まぁ、今のアストンの顔からはかなり険がとれているからな。

 あの伝言も、どう作用したのかはわからんが……まぁまぁ吹っ切れてはいるのだろう。

 

「ライモンと申します」

 

「あら、これはご丁寧に。

 私はケリー・ラント。まだ幼いと言うのに……私からも、感謝をしますね」

 

「いえ、託を届けるのは、旅人として当たり前の事ですから」

 

 ちなみにこれはイライザから習った作法である。

 この国というかこの世界全域において旅人というのは非常に多く、死の危険も非常に近い事から、誰かに何かを託ったのならば、可能な限り叶えてやるのだとか。

 イライザの言葉なので今一信用性に欠けるが、良い風習だとは思っている。

 

「では、そろそろ失礼いたします。豊かなラント領、ゆっくりと見て回らせていただきますね」

 

「あぁ、楽しんでくれ」

 

 アストンとケリー、どちらもへ一度ずつ頭を下げて、部屋を出る。

 言ってはいなかったが、執務室にいたのだ、今まで。多少なりとミーハー精神はあったが、アンマルチア族の技術でもないので興奮はしなかった。

 あのパスワード宝箱がすでにあるとは思わなかったが。アレ誰が置いたんだ?

 

 メイドの開ける扉を潜り、外へ出る。

 

 いい天気だ。アストンが整備していると言う花壇も、非常に美しい。

 

 “研究”は夜に行うとして……Let’s 観光である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想像していた通り、豊かで長閑ではあるものの、何もないラント。

 林檎の樹や風車こそストラタには無いモノなので面白いとは思うのだが、興味をそそられる、という程ではない。

 ストラタ人特有の蒼を基調としたこの服が珍しいのか、ラント領の住民が遠巻きにこちらを眺めているが、話しかけてくる様子は無い。だから、その……暇である。

 圧倒的に。

 

「おい、お前」

 

「ん?」

 

 と、ようやく声を掛けられた。

 威圧的に。

 

「オマエ、ストラタ人だろ? 今ラント領はキンチョー状態にあるんだ。ヘンな事はするなよ!」

 

「おや……出会い頭に失礼な人ですね。私は招待されたというのに」

 

 短髪、銀の髪の……子供。

 同い年くらいだろうか? 無邪気なのは良い事だが、無礼なのはどうかな。

 イマスタを見習え、ガキ。

 

「ふん! お前、なんか胡散臭いんだよ! それに、なんか気に食わねえ!」

 

「感情的ですね。論理的ではない。

 誠に申し訳ないのですが、私は君みたいな本能だけで喋る獣が苦手でして……出来る事なら、早急に私の視界から消え失せてくれると助かるのですが」

 

 なんか気に食わない、というのは同意しよう。

 思わずどこぞの陰険眼鏡死霊術師の口調を真似てしまうくらいには、俺はこのガキが嫌いである。

 なんだろう……こう……魂的な意味で。

 

「へっ、正体を現したな! オマエみたいな奴の事を、インギンブレーっていうんだろ。どうせ領主様たちには良い顔して、心の中ではなんとも思ってないんだ」

 

「難しい言葉を知っていますねぇ。

 ではこんな言葉を知っていますか? 杓子定規というのですが……」

 

「知らねえけど、馬鹿にしてるのはわかるぞ……!」

 

 肩をすくめる。

 話にならないタイプは苦手だ。しかし、この顔なんか既視感があるな。

 

「では頑固一徹ならどうでしょう。無知蒙昧でも良いですよ」

 

「ネチネチネチネチうるせえ! 勝負しろ! その方が速え!」

 

「脳筋馬鹿、と……。

 しかし勝負ときましたか。困りましたね……まぁ、子供の喧嘩と思ってくれることを願いましょうか」

 

 弓を抜く。これは折り畳んである奴ではなく、カモフラージュ用に身に着けている子供用の大きさの弓だ。

 原素(エレス)も打ち出せるしそこそこの威力は出るが、そこそこ止まりである。

 俺が弓を抜いたと同時くらいか、ガキも剣を抜く。剣……木刀か。当たったら痛そうだな。

 

「ヘン、弓使いか。遠くからネチネチやるお前にはお似合いだな!」

 

「おや、ウィンドル兵にもアーチャーはいたと記憶しているのですが……彼らも侮辱する気ですか? 流石脳筋、目の前の事しか見えないようだ」

 

「言ってろ!」

 

 斬りかかってくるガキ。

 思ったより早い。鍛えているな?

 恐らく父親が民兵……ん? 民兵?

 

「てやぁ!」

 

「おっと」

 

 今、一瞬何かを掴みかけたような。

 そのせいで反応が遅れてしまったが、問題は無い。

 身体を逸らして木刀の袈裟斬りを避け、ほぼ仰向けのような姿勢で原素(エレス)を番える。

 

「はっ!」

 

 術技にしない、ただの原素(エレス)塊。

 だが子供には十分痛いはずだ。これに懲りたら、格上を見分ける努力を――、

 

「あぶねっ!?」

 

「……木刀で叩き落しただと」

 

 いや、咄嗟に払った木刀が丁度原素(エレス)塊を捉えたという所だろうが……。

 ……原素(エレス)塊の弾速も考える必要が出て来たな。あと、迎撃された時用の仕込みも。

 

「へン、こんくらいで驚いてんな! 根暗メガネ! 今度はこっちから行くぜ!」

 

「……先程から喧しいですねぇ。

少しは口を閉じる事が出来ないか、野犬。煩わしいぞ」

 

 バースト技は流石に使わないが、アーツ技くらいなら使っても大丈夫だろう。

 自身の内にある原素(エレス)に指向性を持たせ、弓に番え――。

 

「こら! けほっ、なにしてるの!」

 

 咳混じりの少女の声に、止められた。

舌足らずな幼い少女の声。

 

「けほっ、けほっ。街の中で暴れちゃダメでしょ!」

 

「シェ、シェリア!? 違うんだ……いや、それよりお前出てきちゃダメだろ! 寝てろよ!」

 

 シェリア、だと?

 ……確かに言われてみれば……真紅を思わせる赤髪に、後ろに括った三つ編み。

 まだ言葉が喋れるようになって間もないだろう、弱い三つほどの少女だというのに、溢れんばかりの負けん気。

 

 ……シェリア・バーンズ。

 史実において、俺ことレイモン・オズウェルが好きになる女性、か……。

 

 ……無いな。

 俺はどちらかというとイマスタのような静かな子が好みなんだ。うん。どちらかと言えばだぞ?

 シェリア・バーンズはシェリア・バーンズで良い子だと思うので、末永く彼とイッチャイチャしていてくれ。

 

「もう、バリー! けほっ、喧嘩はだめって言ったでしょ!」

 

「け、喧嘩じゃ……」

 

 あぁ、やはり。

 やはりコイツがバリーなんだな。

 

 まぁ、身体的特徴と圧倒的なまでの性格の不一致から薄々気付いてはいた。

 遥か未来、俺と彼とコイツで、この少女を取り合うのか。

 

 いや、前から思ってはいたが……歳の差ありすぎじゃねえ?

 今彼女三歳くらいだろ? でオマエ十歳くらいだろ?

 ……あぁ、でも恋を自覚するのが十四歳くらいだとしたら……彼女は七歳。まぁ、まぁ……なのか? ……うーん。

 理解できん。が、頑張れ。気には食わんが応援だけはしといてやろう。

 

「……気が削がれましたね。この勝負は預けておきましょう。十五年後にでも、ね」

 

 返事を待たずして、その場を去る。

 余り観光は出来なかったが、時間が時間だ。夕食も馳走してくれるとの話だったので、早々に帰らせていただこう。

 

 ……なんか久しぶりに子供相手にムキになったな。

 俺らしくも……ある、のか? わからんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 夕食を頂き(非常に美味しかった)、誰もが寝静まった深夜。

 と言っても見張りの民兵は普通に起きているだろうから、本当に誰もが、というわけではないのだろうが。

 

 客間に用意された自身のベッドにまるで子供がくるまって寝ているかのような膨らみを持たせて、眠る前から開けていた窓から外に出る。無論、音は立てない。

 弓使いとして、そういう気配を消す技術は散々訓練したからな。モーリス相手に。

 

 そして、ラント領外……北西の方向、上空で不自然に旋回を繰り返している()()()()()()()()へ向けて、

 

「――陽炎」

 

 いやぁ、便利である。絶影も速く覚えたいものだ。

 

 パッと切り替わった視界と浮遊感。

 この術技、割と怖い原理で在る事が最近分かったのだが、まぁ気にしてはいられない。そんな事を言っていたらアンマルチアの技術も追っていられないし、強さの探求も出来ないし。

 

 重力に引かれて落ちる身体。若干の恐怖と、全幅の信頼を込めてそのまま落ちる。

 

「はい、と。短い間の空の旅、楽しめましたか?」

 

「存外な。イーグルの群れがいたら、飛び移って空を旅行するのもいいかもしれん」

 

「囲まれてつつかれて穴だらけになりそうですね」

 

「真面目に返すなよ。冗談だ」

 

 俺を受け止めたのは、勿論例の部下。

 ちなみにデゼールイーグルの脚に紐を付けて旋回させていたのもコイツである。

 

 俺が夜に動く事はわかっていたから、脱出手段を造ったのだ。

 

「護衛の奴らは?」

 

「足止めを。今なら自由ですよ」

 

「そうか。では、付いて来い。臨時パーティだ」

 

「御意に」

 

 俺が弓使いで、コイツは短剣使い。多少なりとも神聖術も使えるらしいが、攻撃術の方が得意だとか。

 明らかに俺が後衛だというのに、俺が先陣を切って進む。まぁ俺しか場所を知らないから当たり前なのだが。

 

 北ラント街道の林の中を進む。

 流石に街道沿いには兵士がいるようだ。まぁ、フェンデルとの国境がすぐそばだからな。

 夜中に入り込む事なんて定石中の定石だろうし。

 

 右へ曲がる。

 兵士の姿はこの辺にはない。

 

 そして辿り着いたのは花畑――ではなく、その前にある泉。湧水と言ってもいいくらいの、小さな場所。

 

「……ここは?」

 

「ここは地理的に各種原素(エレス)の集う場所でな。

 地質的にも、水質的にも、非常に豊富な栄養とエネルギーを持っている。そこの水を飲んでみろ」

 

「はぁ……。では。

 ん――これは……!」

 

「不老長寿の薬、エリクシール。アレも原素(エレス)を奇跡的な配合で組み合わせたものだが、なんとここの湧水は、それが自然に行われているのさ。

 もしくは、過去の一族が、ここの水を参考に調合した可能性もあるが」

 

 風機遺跡やウォールブリッジ地下遺跡がほど近く、何よりシャトル発射装置がすぐそばにあるのだから、可能性としては高いかもしれない。

 

「目的はこれ、でしょうか?」

 

「あぁ。ライフボトルの空瓶をこれでもかと持ってこさせたのはこのためだ」

 

「……とうとう気をやってしまったのかと思いましたが、そういう事でしたか」

 

「夜の内に、持ってきた瓶全てにこの水を入れるんだ。勿論迅速に、気付かれずに、な」

 

「全く、人遣いが荒いですね……まぁやりますが」

 

「お前、ほとほと舌が回るようになったな。大いに結構だが、仕事はこなせよ?」

 

「無論です」

 

 暗闇で見えないが、恐らくドヤ顔をしているだろうことはわかる。ちょっとウザい。

 

「帰り用の部下は?」

 

「ラント家の屋根に潜ませています」

 

「まるでNINJAだな……」

 

 陽炎は別に魔物相手だけでなくとも使えるので、部下を一人潜ませておいたのだ。

 行きと同じ方法で飛ぶ。そして、帰る。

 陽炎様様である。

 

「では、明日の昼までお休みください」

 

「ああ。フェンデル軍を見かけた場合は、交戦せずに逃げろよ」

 

「はい」

 

 林の中へ入って行く部下を後目に、泉の水をごくり。

 ……美味え。

 

「帰るか」

 

 その後、特にアクシデントも無く、客間のベッドに帰還する事が出来た。

 

 




プロトス1がいた花畑の説明は原作の作中でされていますから、同じようにあの泉もそういうことだと思ってください。
今回は非常にセコいレイモン君でした。
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