メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
「お世話になりました」
「こちらこそ、兄さんの手紙を届けてくれた事、感謝している。君の道中に剣と風の導きがある事を祈っているぞ」
「ありがとうございます。では」
そんな感じで、滞りなくラント領を出る事が出来た。
エリクシール計1300本とラント領主との繋がり。さらに、ラント元次期継承者の入手。
ガリードへの土産としては十分だ。政治の事に関してはガリードの方が上手いだろうから、繋がりの方はそのまま献上するつもりである。
東ラント道へ出る。
小川に溜まる煇石の欠片に、この土地の
ラント領から死角に来た所で、
「お疲れ様です。周囲、監視の目はありません」
部下が出てきた。
相も変わらず、仕事は出来る奴だ。
「バロニアへ戻るぞ。一人、先行させて宿を取っておけ。長期滞在になるからな」
「例のお嬢さんはもう良いので?」
「良くない。
だが、いないのだから仕方がない。というか、アタリはついている」
「そうですか。
では、デゼールイーグルはどうしましょうか? まだ持っていた方がよろしいでしょうか」
「……あー、陽炎用にか? いや、アレはお前達が思っているより怖い原理の武技でな……日常的に多用したいとは思えん。普通に歩いていくから、デゼールイーグルは……あぁ、ストラタの魔物だったな、ソイツ」
「ええ、放すと生態系の破壊の恐れがあると共に、ライモン様に疑惑の念がかかる恐れも」
「まぁ、どうにかしろ。出来るだろ?」
「……最近指示が雑になってきましたね。信頼されていると言えば聞こえはいいですが……」
「言葉の先を読むなよ。だが敢えて言うぞ。信頼も信用もしている。任せた」
「御意に」
そう言って離れる部下。
さて……急用が無い、久しぶりののんびりとした時間だ。
ゆったり行きますかね……。
歩きながら考える。
考えるのは陽炎についてだ。
陽炎。ターゲットがいる場合、距離を無視してワープのような事が出来る武技。
初めは形だけをマネて、どういう原理かもわからずに発動していた怖い武技。
今は原理を知り、余計に怖くなった武技である。便利だから使うのだが。
この世界の生物は、プロトス1やラムダのような存在を除き、人間も魔物も
防御力とはどれほど結合が硬いか、で。
攻撃力とはどれほど結合を破壊できるか、なのだ。
その前提知識を持ってもらったうえで、陽炎という武技について語ろう。
陽炎は、自身の内に水の
ようは一度気化しているのだ、この武技は。
彼らも瞬間移動系の術技はいくつか使用していたが、彼らの場合は光子によるもの。元から分裂と再結合が出来る設定で造られている光子と、世界を流転し別たれれば別たれたままである
今の俺がこうして存在できているのは、陽炎という技へのイメージが強かったから……だとしか思えない。この技の結果を知らずに発動する者がいたのなら、たちまち世界に
まぁ、便利だから使うのだが。
決して多用はしたくない武技である。
「……だからというのはおかしな話なんだがな……」
目の前に現れたチュンチュンに対し、いつもの感覚で陽炎の準備をする。
そしてそこに、枠組みをつくるような感覚で……光子を注ぐ。
「……絶影」
昨日、早く習得したいなんて嘯いてはいたが、既に形は出来ているのだ。
陽炎と同じくチュンチュンの頭上に文字通り出現した俺。
陽炎と違うのは、風の
その分CCを多く消費するが、再結合する光子を使用しているために散り散りになる可能性が少ない、理想的な技である。
「ぐっ……」
完成しているなら、であるが。
出来ているのは形だけ。
まだ獲得したばかりの光子を十全に扱えていないせいか、少量とはいえ自身の
逃がしてしまう量は距離に比例し、今行った10mの跳躍で体感ではあるがライフを5%ほど持って行かれた。明確なダメージを受けるのだ。
――「跳躍弓兵」の称号を入手。
そんなアナウンスが聞こえたような、聞こえなかったような。
まぁ、来るとは思っていた。前にも説明したが、称号とは器を広げる為に必要なもの。今まで持っていた「道楽少年」と「見習い研究員」、「ポットクリエイター」に「エネミー博士」、「凍牙の誇り」に続く六個目の称号。十歳にしてこれが多いのか少ないのかは、よくわからん。
というか今更であるが道楽少年って……。
いやまぁ、その通りなんだけどさ。
じゃ、またバロニアについたら依頼書漁りでもしますかね……。
バロニアに着いた。
まだ宿へは行かない。そのまま、北バロニア道へと突き進む。
前方。500m程。
この緑溢れる国で良く目立つ、特徴的な蒼発見!
子供用の弓を抜き、番えるのは――吸盤付きの矢!
「紅蓮!!」
少量の火の
「――ぁぃた!?」
矢はのんびり歩いていやがった彼女の額へヒット!
射角、風向きなどを全て計算して放った、最高の一射だったと言えるだろう。
ちなみに少量の火の
女性の事も考えられるレイモン・オズウェル。流石紳士。流石端正メガネ。
「イライザ!」
「うぇぇぇ……頭を、頭を射抜かれたぁ……ありゃ、吸盤? って、ライモン君?」
「ライモン君? じゃない! 探したんだぞ! なんで普通にオーレン村に行ってんだ!」
「出会い頭に怒られた!? っていうか、本当にライモン君? お、おかしいナ~、ライモン君はもっとこう……敬語で、私みたいなのでもお姉さん呼びしてくれる良い子のはずなのにナ~」
じゃかあしい。
一番に考えた可能性だったことが腹立たしいんだ。
グレルサイドに行くと言っていたから、ラントのはず。違った。
コイツ、グレルサイドがどこにあるかもわかってなかったじゃないか……!
「もしかして……何か心配かけた?」
「……いや、俺の早とちりだ。イライザは何も悪くない」
「いやいや! 怒ってるよ、怒ってるよライモン君! 怒髪天を突くって感じだよ!」
「安心しろ。もう怒っていない。あ、吸盤矢は返してもらうぞ」
きゅぽん。
うむ、良い音だ。流石ストラタ軍事開発部が血と涙と悪ノリを込めて創り上げたジョークグッズ。あっぱれだ。
「え、ええと……もしかして、私がグレルサイドにいると思って……追いかけてくれてたり?」
「ウォールブリッジ、グレルサイド、ラントまで探したが特に問題は無い。イライザは何も悪くないからな。早とちりした俺が悪い」
「ご、ごめんね!? お願い、お願いだからあの心優しいライモン君に戻って~!」
……あ、そういう。
俺が怒っているからこの口調だと思ってたのね。
……天然、かぁ。俺もまだまだだなぁ。
「……はぁ。一応言っておきますけど、あっちが素です。これは外交用の口調。まぁ、これがいいと言うのならコレにしますが」
「うん、それがいい!」
「流石イライザお姉さん。自分に正直だ。
それで、オーレン村はどうでした? 一泊したようですが」
「んー、特に何もないトコだったけど、林業は結構興味深かったなぁ。ほら、ストラタって林、無いじゃない? あったら大統領を上げて丁重に保護されるくらいなのに……あんなにバッサバッサと」
「ストラタというか、ユ・リベルテに限って言えば
「え? でもウィンドルから木材を輸入しているよね?」
「……存外学はあるのですね。失礼しました。
確かにウィンドルから輸入を行っていますが、輸入分だけでは足りませんよ。ストラタは大国家。増え続ける人口に対しては少なすぎます。
よって、今は自国の植林事業で賄っている部分が多いんです」
「ほへぇ~……ライモン君、物知りだねぇ。えらいえらい」
……まぁ、撫でられるのは悪い気はしない。
が、納得は行かない。
「はぁ……。それで、いつグレルサイドへ行くのですか?」
「んー。明日にでも?」
「護衛しますよ。なんだかんだ言ってグレルサイド自体は良く見れませんでしたからね。
正直、イライザお姉さん一人を旅させるのは心配なんです」
「あはは……それ、モーリスにも言われたなぁ」
「え」
え。
え?
「モーリス?」
「あ、うん。幼馴染というか……単純に家が隣というか。
『お前が一人旅ィ? やめとけやめとけ、魔物の餌になるのがオチだぞ』って。
悔しかったから、誰にも言わずに出てきました、みたいな……」
……ちゃんと首輪にぎっとけよ!
つーか幼馴染って……幼馴染って!
俺にはいなかったぞ幼馴染! 現在進行形! なぜ! Why!?
「……尚更イライザお姉さんを守る理由が出来ました。貴女に何かあったら、その彼に顔向けできません」
「あはは、大袈裟だなぁ。大丈夫だよ、ウィンドルは平和な国なんだから」
フェンデルとの小競り合いも知らないのか……。
この人、旅させちゃダメなタイプだな、完全に。
モーリス、大丈夫だ。俺が責任もって連れ帰ってやる。
「ふぅ。
まぁ、付いていくのは決定事項です。不満はありますか?」
「え? ないない! むしろライモン君みたいな美少年と一緒にいられるのは嬉しいって言うか……あ、恋愛対象って意味じゃないよ?」
「わかってますよ?」
そうだったら怖い。
……いやまぁ、イライザは確かに美人なのだが。
「では、バロニアへ帰りましょうか。宿は取ってありますので」
「おぉ、気が効くぅ!」
溜息を吐く。
今日はゆっくりベッドで寝たい……。
ようやく日間・透明から抜け出せた……。ありがとうございます。