単独任務の褒美のひとつとしてシズに休暇を与え、休みの楽しみを分からせたいアインズ。
これが上手く行けば自分の休暇も思い通りに出来るという考えもあった。

シズの休暇が充実したものになれば他のナザリックに属する者達にも休暇が与えられることになるだろうが、はたしてアインズの思惑通りに事が運ぶのかは誰にもわからない。
   


※原作には出てきていない捏造設定あり。

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楽しい休暇の過ごし方

 穏やかな日差しと鬱蒼とした森林地帯、巨大な円形闘技場などで構成されている場所。ここはナザリック地下大墳墓六階層のジャングルだ。

 草原と森の境目の、木漏れ日が柔らかな陰影を作っている場所に高さ二メートルを越える白い塊が二つと、それを抱き締める小柄な少女がいた。彼女はシズ・デルタ。至高の存在が創造した戦闘メイドプレアデスの一人だ。

 シズが抱きしめているのはスピアニードルと呼ばれている、この階層に生息している魔獣だ。戦闘態勢になると自分の毛を針のように尖らせ敵を近づかせない厄介なモンスターだが、危険を感じていない状態だと非常に柔らかい毛並みを持つアンゴラウサギにも似た存在である。

 

「・・・・・・連れて帰りたい」

 そう、彼女は可愛くモコモコしたものに目がない。

 今日は至高の御方に休暇なるものを貰っている。働くことこそ忠義の証だという意識がナザリックのNPCにはあるのだが、前もってシズは聞いていたのでそれほどの衝撃はなかった。至高の存在の意思こそが絶対なのだから。

 懐から本日の行動予定を書いた紙を取り出す。この休暇を過ごすきっかけになった主人に呼び出された日のことを思い返していた。

 

 

 

 ●

 

 

 ナザリック地下大墳墓の支配者、アインズ・ウール・ゴウンは休暇制度を根付かせたいと思っていた。かつての仲間が作り出したNPC達は友人の子供のようなものだ。

 人間だった頃に味わった過酷な労働環境にはしないという強い意思を持っていたのだが、主人のため、ナザリックのために働くことが喜びであり存在意義だと思っているNPC達には休暇をとる意味を理解してもらってないのが現状だ。

 階層守護者や一般メイド達に休みというものを与えてみたのだが、アインズの想像の斜め上を行く部下の考えや行動に困惑と諦めが心を支配していたこともある。

 しかし、最近外の人間と友人になったものがいる。プレアデスのシズだ。彼女が人間と交流をもち、休みをただ楽しむだけの日がある意味を知ってくれるのではないか?と。そうなれば、彼女がモデルケースとなって他のNPCにも広まり、ひいてはアインズのプライベートタイムも作りやすくなるのではないのだろうかと考えていた。

 

(ふーむ。我ながらいいアイデアじゃないか?以前は自分が率先して連休を取りひどい目に遭ったからな。)

 

 まるでメイド達に介護されているかのように、アインズは何もさせて貰えなかった。一切の自由を奪われてしまうのは本当に地獄だ。

 

(いや、NPCに罪はない。想定できなかった自分が悪いのだ。)

 

 罪はないが、彼女達の忠誠心と仕事意識をなめていた。

 目の前には呼び出していたシズが、首をかしげていた。どうやら考え込みすぎていたようだ。

 

「よく来てくれた。今日呼び出したのは以前話していたお前に休暇を与えるという件についてだ。」

「・・・・・・休暇ですか?」

 聖王国の帰り道、馬車の中での会話を思い出す。

「・・・・・・覚えています」

「うむ。プレアデスにも休暇を導入するならばまずはお前をと思っていたのだ。」

「・・・・・・至高の御身のご意志ならば」

「よし。プレアデスの業務を調整してからになるが数日中には一日の休暇を用意できるだろう。そうだ、そうなったら早速聖王国のお気に入りに会いに行くか?」

 良い感じでアインズのプラン通りに進ん行く予感だ。

 

「・・・・・・いえ・・・またの機会にしておきます」

「・・・ぇ?」

 

 いきなり躓くアインズ。

 

「そっそうか。うん。あー…よかったら理由を教えてくれるか?」

 予定と違うとはいえ、ナザリックのNPCに少しでもゆとりを持たせたいというアインズの気持ちに嘘はない。

 

「・・・・・・先約が・・・あります」

 以前、ユリと街を見て回る約束をしていたとアインズに説明した。しかしユリは魔導国で親を失った子供達が暮らす孤児院を運営をしていたことを思い出す。

 

「・・・・・・でも、迷惑になる」

 ナザリックのためにの仕事を、自分のために止めてしまうのは申し訳ない気持ちになってしまう。この仕事が決まったときの姉の喜びを思うと邪魔をしたくない。

 

「ふふっ、そんなことはないとも。私にとって友人の子供のようなお前達のささやかな願いを叶えられなくてどうする。私に任せておけ。初めての休みなのだ、少し私がアドバイスしておこう。」

 そう言ってアインズは、「休みでも明確な目標」「紙にメモ(重要)」「好きなことを追及」等々、可愛い子供を心配するように少々暴走気味だった。

 それを聞いているシズは、あまりの情報量に目を白黒させ、一連の出来事を見ていた本日アインズ様当番のフィースは、その心温まる光景に潤む目尻をハンカチで押さえた。

 

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

「・・・・・・そろそろ次の予定ぶふっ」

 むせた。シズは控えめにいっても、もみくちゃにされていた。雪崩のように押し付けてくる二つの白く大きな毛玉達に、一筋のストロベリーブロンドが映えていた。

 彼女が記念すべき初休暇で計画したのは、可愛いものを巡っていくことだった。現在、六階層守護者のアウラに許可をとり、お気に入りのモンスターを愛でている。至福の時間だった。

 今でも仕事をしていないという後ろめたさが少しあるのだが、敬愛する主人に背中を押されている以上少しでも楽しむことこそ忠誠の証よと、金髪ロールヘアの三女から諭されている。

 

「・・・・・・ん!堪能した」

 フカフカのスピアニードルに挟まれながら手元のメモを見る。そこにはナザリック地下大墳墓を我が手にと公言してはばからないバードマンの名があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 九階層で彼は捕まった。エクレア・エクレール・エイクレアー。イワトビペンギンの姿で生み出され、執事助手という役職の彼は一般メイド達が掃除した場所のチェックを行っていたはずだった。

 いつの間にかシズの小脇に抱え込まれたエクレアは、早々に抵抗を諦めていた。

 

「さらわれるのはいつものことですが、今日は何か違う雰囲気ですね。どうしたんですか?」

 普段なら、自分を持ち運ぶ係でもある男性使用人が、遥か遠くに置き去りにされることはない。いつもと違う状況に少し不安になるエクレアだが、最早彼に出来ることはない。

 

「・・・・・・アインズ様に、休暇をいただいた」

「休暇ですか。なるほど、それは冷静では居られないですね。」

 以前、一般メイドの狂ったような働きぶりに無いはずの胆が冷えたアインズが、仕事をしない日を作るという宣言をしたことがある。その事で存在意義を失うと感じたメイド達の訴えで出来たのがアインズ様当番だった。そして、よりアインズは一人になりにくくなったのだが。

 

「・・・・・・休暇とはあえて暇をつくること」

「ふむ、その暇を使って運動しているのかな?」

「・・・・・・違う、予定に遅れているから急ぐべき」

 シズは急ぐあまりランニングしているほどのスピードで()()()いた。しかし奇跡的に誰も廊下にいなかったので、窘められることはなかった。

 予定では、自分の部屋があるこの九階層から一日が始まるはずが、エクレアがシズから密かに逃げ回っていたため仕方なく六階層を先にした経緯がある。

 

「予定を立てて動くとは。なかなか良い心掛けじゃないですか。」

「・・・・・・アインズ様の・・・アドバイス」

「ほほう、さすがは至高の御方!我々のような配下のものにも満遍なく降り注ぐ慈愛の御心。感服いたします。・・・将来ナザリックを支配下に置いたとき、参考にさせていただきましょう。」

 かなり大胆なことを言っているが、そうあれと生み出された存在であれば何も問題ではない。それに急いでいるシズには全く耳に入っていなかった。

 休暇とは、労働から解放されているものだ。アインズが見ていれば違うそうじゃないと頭を抱えていそうだが、これでもシズは楽しんでいた。それが見た目では表れにくいというだけで。

 ぎゅっとエクレアを胸に抱え込み、上層への転移門を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリックの地表にはログハウスが建てられており、プレアデスが一日ごとに持ち回りで勤務している。

 この場所は対外的な意味で最初の砦だ。侵入者の動向を探り、場合によってはこの場にいる者が殺されることによって大義名分を作り出すのだ。決してお宝目当てで侵入しようとしてはいけない。

 しかし、侵入者など招き入れなければ全然来ないこの場所に大きなドラゴンが鎮座していた。

 キーリストラン=デンシュシュア。彼女は異次元の存在に旦那を殺され、塒ごと蹂躙されたせいで前以上に達観した性格になった。

 反抗しなければ命の危機は無いと悟った今では、与えられた空中輸送業に従事し、休日に茶飲み話を楽しむ日々だ。

 

「そろそろ出番すよー。用意するっす。」

「はい。ルプスレギナ様」

 今日のログハウス勤務はルプスレギナ・ベータ。キーリストランは希に目が笑っていないこのメイドが恐ろしかった。初めて会ったときドラゴンの鋭敏な感覚が、積極的に害を与えようとしていると囁いた。

 事実、ルプスレギナはそう仕向けることが何度かあった。ドラゴンは殺してしまっても様々な用途で有効活用出来るとアインズが喜んでいたからだ。

 一匹くらいなら殺したとしても、向こうに手を出させれば正当防衛だと思っているかは定かではないが、罠を器用に避ける小賢しい奴ほど()めがいがあると思うタイプなのである。

 緊張の待機時間が終わりを告げた。今日はこのメイドが背に乗ることはない。中央霊廟から出てきた小柄な少女が今日のお客様だった。

 

「今日はよろしくお願いいたします、シズ様。」

「・・・・・・ん。よろしく」

 彼女とはこれだけで済むのだ。支配下にいるドラゴン達に、嬉々として不和の種を仕込もうとすることはない。

 

「シズちゃんいいな~。ユリ姉達と遊べるんっすよね。」

「・・・・・・楽しみ」

 本日の仕事は、彼女達の支配者が治める都市への人員輸送だ。シズの用事が済むまでは自由時間を与えられていたので、入国管理をしている茶飲み友達と話す時間が持てるだろう。

 

「・・・・・・行ってくる」

 抱えていたエクレアをルプスレギナに渡しつつ、キーリストランに飛び乗った。

 

「おみやげよろしくーーっす!」

 凄い勢いでエクレアごと手を振る姉に頷き、束の間の空の旅を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルは、かつてリ・エスティーゼ王国の国王直轄領に存在し、戦争をしていたバハルス帝国、南にあるスレイン法国という二大国家の中間にあり、人や金に加え様々な物資の流通する城塞都市だ。

 現在は、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の首都であり、今まで住んでいた人間はもちろんナザリックの支配下にある多様な亜人達を要する国家になっていた。

 入国審査を顔パスしたシズは、ドワーフの職人が綺麗に整備し直された石畳を歩いていく。

 アインズから言われていた、姉との待ち合わせの場所はすぐそこだ。

 この街の広場にはプレアデスの長女であるユリ・アルファが、孤児院の子供達やその付き添いである未亡人達を引き連れていた。

 

「いらっしゃいシズ。よく来てくれたわね。」

「・・・・・・うん」

 いつもと変わり無く無表情に見えたが、シズの顔は少し照れているようにユリの目には映っていた。改めて外で会うというのは少し気恥ずかしいのかもしれない。

 数日前、アインズから呼び出されたユリは、シズが外での任務を無事果たした褒美に姉との約束を叶えようと聞かされた。恐縮し断ろうとするユリにそうなると予期していたアインズは、シズと街を回るついでに子供達を引率し、遠足のようなイベントにすれば良いと伝えた。

 広場では子供達がはしゃいでいた。それはもう縦横無尽に走り回っていた。未亡人達は微笑みながら見守っていた。

 シズの回りにもいつの間にか子供が集まり、好奇心に満ちた目を向けていた。

 

「ふふっ、子供達とシズのことを話していたのよ。僕・・・私の大事な妹が会いに来てくれるって。」

「・・・・・・大事な妹」

 それはシズにとっても同じである。麗しい姉妹愛であった。特にこの二人はカルマが悪に偏っていない、ナザリックには希有な存在だ。ユリにとっては癒しでもある。

 ユリは未亡人達と話をし子供達を任せると、シズに向き直る。

 

「さっそく街を回りましょう。シズは何かリクエストはある?」

「・・・・・・特には。ユリ姉のおすすめは?」

「そうね。それなら露店が良いわ。いろいろなお店があるのよ?」

 そんな話をしながら、二人は歩き出す。これからが本当の休暇といえるだろう。

 魔導国に組み込まれた当初、アンデッドに占領された恐ろしい場所というイメージが先行していたが、現在はアインズが提唱した今までとは違う新しい冒険者を目指す者達が集まっていた。

 人が増えれば活気が増し、儲けの匂いに敏感な商人達がまた集まってきていた。

 他の姉妹達にどんなお土産が良いか相談しながら歩いていく。仲睦まじく、天上の美を持つ二人に男達は骨抜きになっていくが、魔導王に仕えていることを知っているため声を掛ける者はいない。

 途中にあった、アインズ扮するモモンとその騎乗魔獣が一体となったハムスケモモン像なるアイテムは全員に買っていくことに自然となった。

 賑やかな商業地区を少し離れた高台にある、見晴らしの良いオープンカフェに二人で座っていた。ユリは紅茶、シズは高カロリーの専用ドリンクを持ち込んでいる。

 

「この後だけど、アインズ様からはシズに聞きなさいと言われているわ。」

「・・・・・・最後は自分の趣味を兼ねている」

「シズが行きたいところなら何処でも付き合うわよ?」

 手にしたメモに視線を落とし、ユリに行き先を告げる。可愛いものめぐり最終目標がいるその場所を。

 

 

 

 

 

 

 

 子供達と合流し、向かったのは魔導国行政区。三つある城壁の最も内側にあるこの場所は魔導王の居城と、王国からアインズに譲渡された際、住民を虐げることの無いよう監視するため、魔導王の軍門に下った英雄モモンの住居などがある。

 言うまでもなくアインズとモモンは同一人物であり、住民の反抗心を緩和するマッチポンプである。

 ここにはモモンの騎乗魔獣であり、アインズのペットでもあるハムスケが馬小屋に住んでいる。

 シズはハムスケに会うためアインズにお伺いを立てたのだが、二つ返事で許されたばかりかハムスケが許せば私に許可を取る必要はないとまで言って貰ったのだ。

 遠目に見える馬小屋周辺は、乗馬訓練用の馬場と芝生が構成する場所があり、そこには寝起きのハムスケと今日の予定をアインズから聞いていた冒険者姿のプレアデスもう一人の三女、ナーベラル・ガンマが説教をしているようだった。

 

「全く、至高の御方にお仕えしているにも関わらず、いつまでダラダラと寝ているのかしら。ちょっと可愛がられているからって調子に乗っているんじゃ無いの?」

 眼光鋭く嫉妬も交え、一方的に捲し立てるナーベラルに、ハムスケは申し訳なさそうに口を開いた。

 

「すまないでござるナーベラル殿。昨日は闘いの訓練をしていて少し疲れたていたのでござる。」

 シズとの約束もあり、アインズに休みを貰っていたハムスケは例のごとく惰眠を貪っていたのだが、先ほど来たナーベラルに叩き起こされた。

 

「だらけるにも程があるのよ。曲がりなりにも野生に生きていたのなら、ナザリックの外にいる時は緊張の糸は切らさずにいるべきだわ。」

 果てしなく続きそうだった説教も、シズ達が近くまで来たことにより終わりを告げた。

 

「こんにちはナーベさん。今日はよろしくね。」

「話は魔導王陛下より聞いております。ここが魔導国見学の最終目的地になっていると。」

 ユリとナーベラルが他人行儀なのには理由がある。ユリやシズはアインズが王国や聖王国を蹂躙した魔皇ヤルダバオトから支配を奪ったという設定なので、ナザリックに無関係の者がいる時は演技をしなければならなかった。

 挨拶もそこそこに、大人と違い怖いもの知らずの子供達はハムスケに向かって突撃していく。ユリ達に手伝われ背中に乗ったり顔をなでまわす者や、人間の救世主たるアダマンタイト級冒険者に握手をせがむ子供達を、完璧に無視するナーベラル。

 シズは最終目標(ハムスケ)を前におあずけを喰らっていた。子供達を先に触らせてほしいとユリに頼まれていたからだ。

 夕焼けが周りを橙色に染めていく。お腹が減ったと口々に騒ぎ立てる子供達にユリは微笑みかけ、引率していた大人達に孤児院へ戻り夕食にするよう伝えた。

 ユリ、シズ、ナーベラルの三人とハムスケだけになった。シズはさっそく、ハムスケを堪能するため背に飛び乗る。

 

「久しぶりねシズ。外の任務から帰っていたのは知っていたけど今まで会えなかったわね。元気だった?」

「・・・・・・うん、元気。ナーベラルはずっとここ?」

「ええ。最近冒険者の仕事が増えてきて、此処にいることが多いわ。」

 入国したばかりで身の程を知らない下等生物(サナダムシ)どもが、何とかナーベと話そうと周りをウロチョロしていると、一人ぐらい亡き者にしても良いのではと思ってしまう。

 

「今月は報告会に来られるのよね?」

「勿論よ、ユリ姉様。今回は全員参加できると思うわ。」

 プレアデスは月に一度集まり、お茶会しながら現在抱えているものや終えた仕事を報告し、反省点やアドバイスを贈りあっている。

 

「・・・・・・この手触り、善い」

「気に入ってくれて嬉しいでござるよ。この前、殿のメイドの方々に“とりみんぐ”という毛繕いをして貰ったでござる!」

 一般メイドの中にも可愛いもの好きが数人いるらしく、お互いにスキンシップがあるらしい。

 

「・・・・・・むっ、次は私がする」

「ユリ姉様、シズはハムスケの事を結構気に入っているのですか?」

「そうみたい。アインズ様に許可を頂いて会いに来たみたいよ。」

「・・・・・・出来れば欲しい」

「気に入ってくれたのは嬉しいでござるが、難しいでござる。拙者は殿の物であるが故に。」

「ハムスケあんたねぇ。調子に乗るなって言ったのをもう忘れたの?」

「も、申し訳ないでござる。」

 ナーベラルの剣幕に怯えるハムスケ、それを慰めるシズに、妹を(なだ)めるユリ。

 女三人(+一匹)よればかしましい。彼女達は束の間の団欒を楽しんだ。間断無く話していたときに生まれる、一時の静寂。

 その時空間に漆黒の転移門が生まれ、彼女達にとって至高の存在が降臨した。

 跪こうとしたプレアデスを手で制す。堅苦しい場所以外ではあまり畏まる必要は無いとアインズは考えていた。主に自分のためにだが。

 

「平伏せずともよい。休暇を取らせているシズに感想を聞こうと思ってな。今日はまだ終わっていないが今まで過ごしてきてどうだった?」

「・・・・・・皆のおかげで楽しめました」

「そうかそうか。休暇とは仕事を忘れて楽しむものだからな。ユリ、ナーベラル、それにハムスケも今日は御苦労だった。」

 アインズは上機嫌に配下を労う。ある程度は自分の思惑通りにいったようだ。

 

「もったいないお言葉です。しかし光栄にもアインズ様より仕事を任せていただいている身。我々に気遣いなど無用です。」

「ユリ姉様の言う通りです。アインズ様のために働けることより大事なことなどございません。」

 シズもハムスケもコクコクと頷いている。一朝一夕でこの重い忠誠を和らげることは出来ないのだろう。

 

「ありがたく思うぞお前達、ハムスケも皆と仲良くやっているようだな。」

 いつの間にかシズとハムスケは寄り添っていた。この世界では大魔獣でも、転移前の世界で人間だった意識の残るアインズからすれば、ジャンガリアンハムスターがそのまま大きくなっただけのようなハムスケはモモンより、子供や女性が乗ったほうが良いと思っている。

 

「シズ殿には欲しいとまで言って貰ったのでござるよ。殿!」

 ご機嫌なハムスケだが、プレアデス達は焦っていた。主人のペットを欲しいと思うのは不敬だと思ったのだ。

 

「申し訳ありませんアインズ様。シズはアインズ様から奪おうと思っての発言ではないのです。」

 ユリは必死に許しを請うが、シズには許可を出している。

 

「気にする必要は無い。ハムスケも嫌ではないのだろう?」

「嬉しいでござる!」

「ならば何も問題はないさ。・・・ふむ。そうだ、ハムスケに同族を探すと約束をしていのるだが、そのメンバーにアウラだけは決めていたのだが、お前もどうだシズ?」

 同族という言葉に髭をピンと跳ね上げるハムスケ、シズはそれに合わせるように顔を上げた。

 

「・・・・・・是非、行かせてください」

「よろしくお願いするでござる。某に子が出来れば、きっとシズ殿に懐くでござるな。」

 前にも思ったが、ハムスケの種族がまさにねずみ算式に増えたら恐ろしいことになりそうだ。

 

「まあ程々にな。そろそろ私は戻るとしよう。遅くなればアルベドに怒られてしまうからな。」

 アインズが去り、弛緩した空気が流れる。最上位の存在に拝謁するのはいつまでも慣れることはないだろう。だがそれとは逆に、アインズとなにか出来るということは天にも昇る気持ちになるのだ。

 

「凄いわシズ。アインズ様に直接約束して頂いくなんて!」

「・・・・・・うん、最高の休暇」

「そういえば可愛いモンスターを集めたいと言っていたでしょ?それも一緒に叶えて頂いけるかも知れないわね。」

「・・・・・・それがメインでも良い」

「それはないでござるよ~。同族探しを優先して欲しいでござる。」

「・・・・・・冗談・・・でござる」

 涙目になるハムスケの顔を優しく撫でるシズ。沈み始めた太陽が一際強く辺りを染めていく。

 

 今日は本当に良い日だ、とシズは思う。

 

今度の休暇は彼女に会いに行こう。最近出来た後輩に思いを馳せながら、西の空を日が沈むまで見上げていた。

 




みえる様 誤字報告有難うございます。


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