季節は夏。
学生達は夏休み真っ只中だ。
だが、そんな中でも大人達は働く。2年前に高校を卒業したこの色黒の関西男、緑坂冬真、又の名をヘラクレスも同様。
しかし、そんな彼に限っての仕事とは、プロとしてのバトルをこなしていくだけなのだが………
「行って来いアトラーカブテリモンッッ!!……レッドホーン!!」
「ら、ライフで……う、うぁぁぁぁっ!!!」
とあるプロのバトラーのリーグが行われる会場にて、ヘラクレスは決勝のバトルを行なっていた。赤き甲虫の完全体スピリット、アトラーカブテリモンがその赤い一角に稲妻を纏わせ突進していき、対戦者の最後のライフをそれで貫き、彼に勝利をもたらした。
ー「き、決まったぁぁぁぁ!!!!この夏のビッグイベントを制したのは又もやこの男、ヘラクレスだぁぁぁ!!!」
テンションがハイになった実況者がそう叫ぶと、周りの観客たちも轟音のような歓声と拍手喝采をヘラクレスに浴びせていく。実況者の言葉から、ヘラクレスはここ以外でも多くの大会で優勝しているのが伺えて………
「いや〜はっはっは!!どうもどうも〜〜!!」
止まぬ轟音。止まぬヘラクレスコール。今を生きる日本のカードバトラー達が皆彼に熱い視線を送り、注目するのだった。
「サインは可愛い女の子だけ受け付けるでぇぇぇ!!」
ただ、この女好きの性格は相変わらずであり、バトルする時以外は常にそのことばかりである。良くも悪くも何も変わらない。
しかし、そこが彼の強さであるのだろう。
こうして、夏のビッグイベントはヘラクレスの優勝で締めくくり、幕を下ろしたのだった。
******
それから約一週間後、ヘラクレスはリーグもひと段落した事もあって、第二の故郷である界放市に帰郷していた。
今の時間帯は夜。昼間は賑やかだが、真夜中のみ人気が少ない公道を彼は呑気に歩いていて………
「………と、言うわけで前置きは終わりや〜〜さぁ!!ここからが俺にとっての夏のビッグイベントやでぇぇぇ!!今から真夏ちゃん家行って寝込みを襲ってくる!!でもって優勝した事を褒めてもらうんや〜〜」
意味深な発言も見受けられるが、ヘラクレスはどうやら妹である真夏の家に向かっているらしい。サプライズのつもりなのか、夜に来たという理由もそこからであろう。
「おっ!!真夏ちゃん家や〜〜るんたったのた〜〜!!」
真夏の家が見えてくるところまで近づいた上機嫌なヘラクレスはやや独特で気色悪いスキップをしながらさらに近づいていく。
界放市で真夏が借りている家は1階建だ。木製だが、新築であり、汚れもあまりない。ヘラクレスはそんな真夏の家の玄関を避け、一旦回り込んだ。
真夏の部屋を除くためだ。急に出てきてサプライズするつもりなのだ。
「おっ、灯りついとんな〜〜……フォフォッフォ〜〜夜更かしは美容の大敵やで〜〜」
気づかれぬよう、小声で忍び足で近づいていくヘラクレス。その行いは最早軽い犯罪を犯している。
そんな彼はとうとう真夏の部屋の窓付近に到達する。ヘラクレスはカーテンの隙間から微かに見える真夏の姿を確認した。
「おぉ〜〜真夏たん!!風呂上がり?風呂上がりだよね〜〜!!可愛い〜〜流石は我が妹………国宝級……1万円札に推薦しとくべきやったわ〜〜」
黒々とした髪をクシでとかしながらBパッドを触っている真夏を見ながら、犯罪者ヘラクレスはまた小声でそう呟いた。
しかし、幸せな時間はそう長くは続かず………
「ん、あ〜〜ええよ、また明日会うか〜〜えぇ?いや、恥ずいわ!!」
「っ!?」
真夏はBパッドで誰かと通話していた。その内容の一部がヘラクレスの耳の中に飛び込んで来る。
その内容は彼にとって衝撃的なもの。頭の中に落雷が落ちてきた。
(え?なになに………なにこの会話、明日会う?………え、誰とや?………しかも、『恥ずいわ!!』って………なにこの感じ………まさか、まさかやと思うけど……………………)
ヘラクレスは頭の中で素早く整理し推理していく。しかし、余裕がなくなっていたこともあってか、その答えはたった1つしか出てこない………
それは………
(ま、真夏ちゃん……彼氏できたのぉぉぉぉぉ!?)
心の中で強く叫び、気力を吸われたように意気消沈するヘラクレス。信じられない。まさか真夏が、自分の妹に限ってそんな………
(ありえんへんありえんへん!!なんで?もう高校3年やで!?……そ、そんなん今更………)
………許せない。それだけは絶対に
意気消沈したヘラクレスは空っぽになった中身に真夏の彼氏に対する憎悪が次々と注ぎ込まれていく。
そして彼は徐にBパッドを取り出し、ある人物にメールを送りつけた。それは真夏の事をよく知る人物だ。
(お、覚えとけよ彼氏!!明日中にはお前を特定して虫の糧にしてくれるぅぅぅう!!!!)
ヘラクレスは結局その晩は真夏と顔を合わさなかった。翌日も会うと言っていた事を利用し、それを尾行するためである。
明日、ヘラクレスはBパッドのメール機能で協力を求めた人物と共に真夏を尾行する…………はずだった。
******
翌日、ヘラクレスはアフロとメガネを着用し、変装してある人物と共に真夏を尾行、そしてとある喫茶店に赴いていた。
だが、少し気になることもある。その一緒に尾行した人物についてだ………
「………ところで君、誰やねん」
「おっス!!…私姐さんの弟子の岬五町っス!!用があって無理だって言う姐さんの代打でやって来たしょぞんっス!!」
「し〜〜ッッ!!声がでかいねん!!真夏ちゃんに勘づかれるやろ!!」
ヘラクレスが協力を求めていたのは他でもない、芽座椎名だった。しかし、今日現れたのはこの長い金髪を2つのシュシュで束ね、上着が学校ジャージの少女、岬五町。ヘラクレスに合わせて彼女もアフロとメガネで変装している。
「まさか、本当にあのヘラクレスと会えるなんて、光栄っス!!」
「めざっち、かわいい子をよこすのは全然えぇけど、こん時にこんなハツラツな子をよこさんくても良かったやろ」
ヘラクレスとて五町のような顔はかわいい女の子は好きだが、五町の性格はあまりにも尾行には向いていない。
「ところで五町ちゃんやったな?」
「うっス!」
「真夏ちゃんの彼氏ってどんなんや?」
「彼氏?……真夏パイセン彼氏とかいたんスか?…まぁ確かに真夏パイセンモテそうですけど」
「だからこうやって尾行して探ってるんや!!……そうか〜〜まぁ1年やったらわからんかもな」
季節は夏休み。その時期に彼氏ができたって事もあるかもしれない。故に1年の五町に聞いてもその情報は出回っていない可能性が確かにあった。
「真夏パイセン、誰と待ち合わせしてるんスかね?」
「そりゃ、もちろん彼氏やろ、あんなかわいい服着とるんやし」
「あっ、誰か来ましたよ」
「彼氏や!!絶対彼氏や!!」
真夏の座っているテーブルに誰かが近づいてくる。2人は目を凝らしてその人物を視認しようとする。
しかし、その人物とは………
「ごめんごめん、遅くなった」
「もう〜遅いでぇ、椎名!」
他でもない。いつもの黒いパーカーとゴーグルと、膝付近まである長いブーツを履いている芽座椎名だ。間違いない。
「え?あれ姐さん?……用事ってそう言う事?」
「え?めざっち?………あ、まさか昨日真夏ちゃんと電話しとったんて………」
少し離れてる席でそれを見たヘラクレスと五町は目を丸くしながら小声で呟いた。椎名は真夏と会う約束があったから、五町にヘラクレスの相手を任せたのであろう。
そして昨日、真夏と電話で通話していたのも椎名だ。そう思ったヘラクレスは安堵するが………
「ていうか、あれめざっちなんか?……雰囲気変わったな〜〜」
「え?そうなんスか?…私と出会った時からあんな感じっスよ、クールっていうか」
「クール?……あのめざっちが?…なんや色々あったんやな〜〜」
椎名と会うのは実に2年ぶりだが、その雰囲気や顔つき等、あまりの変容っぷりに若干の戸惑いを見せるヘラクレス。
「どっちかっつうと、昔のめざっちは君みたいな感じやったで?」
「おおっ!!まじっスか!!私が姐さんに似てるんスか!!」
「だから声がデカイィィィィイ!!…お願いやから静かにしてくれぇぇ!!」
確かに五町は昔の椎名に近いかもしれない。明るいところとか、猪突猛進なところとか、数えると数え切れないくらいはあるかもしれない。
「まぁ、めざっちならえぇか、女の子同士なら寧ろ好物やわ」
「うわっ!!それ赤字タグが増える奴っスよ!!」
「メタ発言やめぇい!!………まぁ、邪魔すんのもあれやし、俺らも帰ろか」
「うっス!!」
ガールズトークを繰り広げる椎名と真夏の間を気づかれないようにゆっくりと通り抜けようとするヘラクレスと五町。しかし、その道中で椎名と真夏の会話が耳に入ってきて…………
「………ところでさ真夏、アレ、渡すの?」
「はぁ!?まだ考え中やて!!」
「「!?」」
その会話に思わず足を止めてしまう2人。
「でもさ、絶対喜ぶと思うよ」
「いや………でもな」
椎名の言葉に頬を赤らめて恥じらう真夏。ヘラクレスは咄嗟に頭の中で情報をまとめていく。
『アレ渡すの?』椎名からの発言なのだ、椎名に渡すものではないのが見受けられる。真夏の顔も赤い。つまりこれは………これって………
(彼氏おんの確定やん!?!!)
そう心の中で叫んだヘラクレス。そして収まり切れない怒りの感情が彼を襲い………
「うぉぉぉぉお!!」
「「「!?!」」」
叫んだ。本当に叫んだ。五町の声の大きさとは比べものにならない程の爆音を、しかも椎名と真夏の目の前で…………
これには流石に椎名と真夏も気づいて………
「え?…その声ってまさか………」
「真夏の兄ちゃん!?(ほんとに帰ってきてたのか………)」
「あぁ、そうや!!コンチクショーめ!!」
そう強く言い放ちつつ、ヘラクレスは着用していたアフロとメガネを外した。椎名と真夏の目の前でその姿を露わにする。
「え?待て、じゃあ横にいるのは………」
「あ、私っス、姐さん!!」
「やっぱあんたか、五町」
「はぁ!?なんやどうなっとるんや!?」
五町も徐にアフロとメガネを外して正体を現した。送りつけた椎名は冷静な表情を見せているが、何も知らなかった真夏だけは困惑の表情を浮かべている。
「真夏ちゃん!!彼氏って誰や!!もう我慢ならんねん!!教えてくれやぁぁあ!!」
「はぁ!?何言うとんのん、兄さん!?」
「しらばっくれんのかぁ!?しらばっくれる言うのなら君はどうやめざっちィィィィ!!!」
「いや、彼氏ってなんの事だよ」
怒りのままに椎名と真夏に質問責めを繰り出してくるヘラクレス。その内容は真夏に彼氏がどんな奴かの一点張り。2人は意味がわからないと言わんばかりに言い返す。
そんな状況を見かねて、ヘラクレスはある作戦に動き始める。
「じゃあ、めざっち、俺とバトルせぇ!!俺が勝ったら真夏ちゃんの彼氏の事を洗いざらい話してもらうでぇぇぇ!!でもってそいつは俺が潰す!!」
「はぁ!?なんでそうなるんだ!?」
「しらばっくれるからだろがい!!」
「おぉ!!姐さんとヘラクレスパイセンのバトル!!」
「もう………どう言うこっちゃ」
バトルを椎名に降ってくるヘラクレス。強行作戦に出た。界放市を救った椎名と、界放リーグ初の3連覇を成し遂げた男ヘラクレスのバトル。五町は大はしゃぎするが、真夏は疲れ果てたような表情をしている。
その後、ヘラクレスの凄まじい勢いを止める事は出来ず、結局バトルする羽目になった椎名。喫茶店を出て、緑の多い公園に行き、バトルの準備を行った………
「さぁ、いくでぇめざっち!!」
「なんでこんな事に………まぁいいや、やるからには全力で行くよ」
ヘラクレスは椎名から真夏の彼氏が誰かを聞くため、椎名は何やら勘違いしているヘラクレスを落ち着かせるため、バトルスピリッツが開始される。
「「ゲートオープン、界放!!」」
五町と真夏が見守る中、コールと共に2人のバトルが幕を開ける。先行はヘラクレスだ。
[ターン01]ヘラクレス
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、来いやテントモン!!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨3
【テントモン】LV1(1⇨2)BP2000
「おぉ!アレが噂のテントモンっスか!!」
「兄さん、本気やな」
ヘラクレスが初手で呼び出したのはてんとう虫型の成長期スピリット、テントモン。その効果でコアが増える。
「ターンエンドや、さぁ早よ来んかい!」
【テントモン】LV1(2)BP2000(回復)
バースト【無】
「言われなくとも、やってやるよ……!」
椎名を急かしながらそのターンをエンドとするヘラクレス。彼が女性に対してこのような事を口にするのは珍しい。それほど切羽詰まっているのが見受けられる。
次は椎名のターン。颯爽と進行していく。
[ターン02]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、来い、ブイモン!!……召喚時効果発揮!!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨1
トラッシュ0⇨3
【ブイモン】LV1(1)BP2000
オープンカード↓
【ギルモン】×
【ワームモン】×
椎名は青くて小さな竜型の成長期スピリット、ブイモンを呼び出す。その効果は失敗し、トラッシュへと破棄された。
「アタックステップ!!……先手必勝だ、ブイモン、いけぇ!」
「………ライフで受けるでぇぇぇ!!」
ライフ5⇨4
早速ブイモンでアタックを仕掛ける椎名。ヘラクレスはテントモンでは守らず、そのアタックをライフで受けた。ブイモンの頭突きがそれを1つ砕く。
「ターンエンド」
【ブイモン】LV1(1)BP2000(疲労)
バースト【無】
先制点を与え、そのターンをエンドとする椎名。次はヘラクレスの第3ターン目だ。
[ターン03]ヘラクレス
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨5
トラッシュ3⇨0
「メインステップ、2体目のテントモンを召喚やで!!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨2
【テントモン】LV2(3⇨4)BP3000
ー!
ヘラクレスの場に2体のテントモンが並ぶ。そのコア数が加速していき、ヘラクレスはアタックステップへと移行する。
「アタックステップ!!テントモンの【進化:緑】を発揮!!成熟期スピリット、カブテリモンに進化や!!」
【カブテリモン】LV2(4)BP8000
テントモンがデジタルコードに巻かれていき、その中で姿形を大きく変化させる。やがてそれは飛び散っていき、中から新たに4本の腕、立派な一角を持つ甲虫型の成熟期スピリット、カブテリモンが奇声を張り上げながら姿を現した。
「早速来たな……」
「余裕ぶっこいてられるんも今のうちやで!!アタックステップは継続、カブテリモンでアタックや!!その効果でブイモンをデッキの上に!!」
「!?」
カブテリモンはヘラクレスの指示を聞くなり、羽根を広げ飛び出していく。そして一角からビームを照射して、椎名のブイモンを狙い撃った。ブイモンはそれに直撃してしまい、デジタル粒子となってデッキの上に戻ってしまう。
「アタックは継続中や!!」
「くっ……ライフで受ける………っ」
ライフ5⇨4
カブテリモンは4本の腕を活かし、椎名のライフをこれでもかと殴りつけ、それを1つ粉々に砕いた。
「ターンエンドや………早く真夏ちゃんの彼氏の情報を吐いてもらうでぇ」
【テントモン】LV1(2)BP2000(回復)
【カブテリモン】LV2(4)BP8000(疲労)
バースト【無】
「だから兄さんは何を勘違いしとるんや」
「え?真夏パイセン彼氏いないんスか?」
「おらんおらん、いるわけないやん!」
『どう言うことだ?』そう思う五町。頭の悪い彼女でも何かを勘違いしていたことになんとなく勘付いて来た。ただ、怒りで頭がいっぱいのヘラクレスにはその声は一切届かないが…………
[ターン04]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨7
トラッシュ3⇨0
「メインステップ、私はネクサスカード、ディーアークをLV2で配置!!」
手札5⇨4
リザーブ7⇨2
トラッシュ0⇨3
【ディーアーク】LV2(2)
椎名は自分の腰に手の平サイズの機械を装着した。
「さらにディーアークの【カードスラッシュ】の効果、手札にあるブイモンのカードを破棄し、そのLV1BP2000以下のテントモンを破壊!!」
手札4⇨3
破棄カード↓
【ブイモン】
「!?」
「ブイモンヘッド!!」
ブイモンのカードをトラッシュに捨て、【カードスラッシュ】の効果を発揮させる椎名。ブイモンが場に現れ、テントモンに頭突きをかまして消滅する。テントモンはその衝撃で爆発してしまう。
「さらにバーストを伏せ、ターンエンド」
手札3⇨2
【ディーアーク】LV2(2)
バースト【有】
そのターンをエンドとする椎名。攻める事は出来なかったものの、強力なネクサス、ディーアークの配置には成功したため、磐石となったといえば聞こえはいいか………
次はヘラクレスのターン、数を並べ、攻めいく………
[ターン05]ヘラクレス
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨5
トラッシュ2⇨0
【カブテリモン】(疲労⇨回復)
「メインステップ!!一気にいくでぇ!!テントモンを召喚!!効果でコアを増やす!!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨2
トラッシュ0⇨2
【テントモン】LV1(1⇨2)BP2000
前のターン、【進化】の効果で手札に戻ったテントモンが今一度呼び出される。その召喚時効果でコアがまた増加した。
「さらに!!完全体、アトラーカブテリモンをLV1で召喚するでぇぇぇ!!」
手札4⇨3
リザーブ2⇨0
【カブテリモン】(4⇨1)LV2⇨1
【テントモン】(2⇨1)
トラッシュ2⇨7
【アトラーカブテリモン】LV1(1)BP10000
「!!」
蠢く地中から飛び出してきたのは赤き甲殻を持つ甲虫型の完全体スピリット、アトラーカブテリモン。ヘラクレスの持つデッキにおいては優秀なアタッカーである。
しかし、弱点もある。何か打つ手があるのか、椎名は少しだけ口角を上げて……
「アトラーカブテリモンの召喚時効果は強制効果………つまり、私のスピリットはいなくとも、効果は発揮されている……!!」
「?」
「つまり、これを発動できる………バースト発動!!メギドラモン!!」
「!?」
椎名が待っていたと言わんばかりにバーストカードを勢いよく反転させる。そのカードは1年前は振り回されっぱなしだった鬼の力を象徴するカード。
「その効果で合計BP15000以下まで好きなだけ破壊する!!」
「なんやと!?」
「私はBP5000のカブテリモンと、BP10000のアトラーカブテリモンを破壊!! 地獄の咆哮…ヘル・ハウリング!!」
地中から響く轟音。爆音。それにカブテリモンとアトラーカブテリモンは的にされ、まともに受けてしまい、大爆発を起こした。
「その後召喚する……来い、地獄の魔竜、メギドラモン!! さらにディーアークの効果でドロー!」
手札2⇨3
リザーブ2⇨0
【メギドラモン】LV1(2)BP7000
地獄の底から飛び出してくるように場へと現れたのは、真紅の魔竜、究極体の姿、メギドラモン。その凶悪な姿は他のデジタルスピリットの一線を逸脱している。
「椎名………あれも平気で使うようになってたんか………」
あのメギドラモンを平然と召喚する椎名を見て、そう呟いた真夏。メギドラモンとて椎名の仲間だ。デ・リーパーとバトルした時にそう気づき、椎名はそれ以降、メギドラモンをずっとデッキに入れていた。
「………なるほどなぁ……めざっち本当強うなったなぁ〜…………せやけど」
椎名の底知れない強さを目の当たりに、そう言葉をこぼすヘラクレス。しかし、その軽い言動は決してバトルを投げ出しているようには見えなくて………
そして反撃に出ると言わんばかりに、彼は手札のカード1枚を引き抜いた。
「俺には勝てんで!!…殼人スピリットが効果で破壊された時、このカード、重殼騎士ガンゾウムの効果を発揮させるでぇ!!」
「なに?なんだそれは!?」
「このスピリットを1コスト支払って召喚、さらにそうした時、破壊されたスピリット1体を同じ状態でフィールドに残す………来るんやガンゾウム!!そして蘇れ、アトラーカブテリモン!!」
手札3⇨2
リザーブ1⇨0
【テントモン】(1⇨0)消滅
トラッシュ7⇨8
【重殼騎士ガンゾウム】LV1(1)BP6000
【アトラーカブテリモン】LV1(1)BP10000
「っ!?…なんだって!?」
唯一場に残ったテントモンが消滅したかと思えば、ヘラクレスの場に上空から重圧な鎧を纏った殼人スピリット、ガンゾウムが現れる。そしてガンゾウムは手に持つ巨大な槌を両手で振るい上げ、地面に勢い良く叩きつけると、地中からアトラーカブテリモンが浮き出てきて、復活を果たした。
「こんなんに驚いとる暇ないでぇ、アタックステップや!!アトラーカブテリモン、ガンゾウムでアタック!!アトラーの効果でメギドラモンを疲労!!」
「っ!!」
【メギドラモン】(回復⇨疲労)
場に残ったアトラーカブテリモンとガンゾウムでアタックを仕掛けるヘラクレス。アトラーカブテリモンは甲殻の至る所から赤い稲妻を轟かせ、メギドラモンを狙い撃った。メギドラモンはそれを受け、膝をつき、疲労状態となってしまう。
「っ………ライフで受ける…………」
「なら受けてみよ、このヘラクレスのキングスロードのアタックをなぁ!!」
「ぐ、ぐぁぁぁぁあ!!!」
ライフ4⇨3⇨1
アトラーカブテリモンの一角の一撃が1つ、ガンゾウムの槌を叩きつける重たい一撃がそれぞれ椎名のライフを襲い、2つ、合計3つが破壊された。
「くっ………強い……メギドラモンで凌いだ気でいたけど、それを超えてライフを破壊して来るなんて………」
改めてヘラクレスの実力を再認識する椎名。
そうだ。この目の前の男は過去に界放リーグの3連覇を成し遂げた程の人物。どんなに厚い壁を用意してもキングスロードの呼ばれる戦術で容易く飛び越えて来る。
そんな強敵と椎名は今対峙しているのだ。油断しているつもりはないが、この調子では間違いなく敗北する。
「どうしためざっち、もう終わりかいな?………ターンエンドや」
【重殼騎士ガンゾウム】LV1(1)BP6000(疲労)
【アトラーカブテリモン】LV1(1)BP10000(疲労)
バースト【無】
圧倒的な攻撃力を見せつけ、そのターンをエンドとするヘラクレス。次は椎名のターン。気を改めて引き締め、ターンを進行していく。
[ターン06]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨7
トラッシュ3⇨0
【メギドラモン】(疲労⇨回復)
「よし、メインステップ、メギドラモンのLVを2に上げ、【煌臨】発揮!!対象はメギドラモン!!」
リザーブ7s⇨5
【メギドラモン】(2⇨3)LV1⇨2
トラッシュ0⇨1s
「!!」
このターン、椎名が初めて使用したのは煌臨の効果。メギドラモンが赤き光に包まれていき、その中で呪われたような竜の姿が清廉潔白、勇猛なる騎士へと変わっていく。
「来い、赤きロイヤルナイツ……デュークモン!!」
手札4⇨3
【デュークモン】LV2(3)BP14000
「!?……ロイヤルナイツ!!」
その光を解き放ち、新たに椎名の場へと姿を現したのは槍と盾を携える赤属性のロイヤルナイツ、デュークモン。ヘラクレスは一目見てそれが今の椎名のエースである事を悟る。
「おぉ!!これが姐さんのエース、デュークモン!!」
五町も椎名のデュークモンを生で見たのは初めてだったか、嬉しそうにはしゃぎだした。
「ディーアークの効果でドロー………さらに2枚目となるネクサス、D-3をLV2で配置!!」
手札3⇨4⇨3
リザーブ5⇨1
トラッシュ1s⇨3s
【D-3】LV2(2)
デュークモンに続き、椎名はディーアークとさらにもう1つの機械を腰に装着する。
「アタックステップ!!…駆けろ、デュークモンッッ!!」
椎名の指示を受け、槍を構えるデュークモン。そしてこの瞬間に特有のアタック時効果が発揮される。
「デュークモンのアタック時効果、シンボル2つ以下のスピリット1体を破壊する!!」
「!!」
「対象はアトラーカブテリモンだ………聖槍の一撃…ロイヤルセーバーッッ!!」
デュークモンの強力なアタック時効果。槍の先から勢い良く発射されるビームは一直線にヘラクレスのアトラーカブテリモンまで伸びていき………直撃した……爆発による爆風、爆煙が辺りに飛び散っていく。
………しかし……
「っ!?」
「残念やったなめざっち、アトラーカブテリモンは健在やで……!!」
その爆煙から姿を見せたのはロイヤルセーバーが直撃したはずのアトラーカブテリモン。特に耐性効果もないスピリットのはずだが、その甲殻には傷1つ付いていない。
「ガンゾウムのもう1つの効果、殼人スピリット全てに【重装甲:赤/青】を与える」
「なに!?」
「ロイヤルナイツと言えども赤である限り、効果破壊は通用せんでぇ」
ガンゾウムは正しく鉄壁の盾。それが存在する限り、破壊に特化している赤と青の効果をシャットアウトする効果を味方にばら撒く事ができる。
アトラーカブテリモンにロイヤルセーバーが効かないのもそれが原因だ。
「くっ……だけどアタックは続いている、デュークモンのもう1つのアタック時効果でトラッシュにあるギルモンを手札に戻し、ターンに一度回復!」
手札3⇨4
【デュークモン】(疲労⇨回復)
トラッシュに落ちていたギルモンのカードが椎名の手札へと戻り、アタック中ながらもデュークモンは赤き光を一瞬帯びて回復状態となる。
「さらにネクサス、D-3の効果!!疲労させる事で【アーマー進化】を行う!!来い、フレイドラモン!!」
手札4⇨3
【D-3】(回復⇨疲労)(2⇨0)
トラッシュ3s⇨4s
【フレイドラモン】LV1(1)BP6000
まだ動く椎名。今度はD-3の効果を発揮させ、成長期スピリットが不在にもかかわらず、【アーマー進化】を行う。上空から赤きスマートな竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモンが椎名の場へと降り立った。
「デュークモンのアタックは継続中!!」
「ライラや!!………っ」
ライフ4⇨3
デュークモンがヘラクレスの前方へと迫り、その鋭い槍の一撃でそのライフを1つ貫く。
「まだだ、今度はデュークモンとフレイドラモン2体でアタック!!」
「っ!!……それも受けたろやないかい!!……っ、ぐうっ!!」
ライフ3⇨2⇨1
今度は召喚したてのフレイドラモンもアタックを仕掛ける。デュークモンが再び槍でライフを貫いた直後、フレイドラモンの炎を纏わせた拳の一撃が炸裂し、合計2つのライフが消し飛んだ。
これでヘラクレスも椎名同様ギリギリの1となった。
「………ターンエンドだ」
【デュークモン】LV2(3)BP14000(疲労)
【フレイドラモン】LV1(1)BP6000(疲労)
【ディーアーク】LV2(2)
【D-3】LV1(疲労)
バースト【無】
できることを全て終え、そのターンをエンドとした椎名。ライフが残り1であるにもかかわらず攻め立てたのは次の返しのターンを守り抜ける自信があるが故なのか、それともハッタリか………
だが、そんなものは考えたところで仕方のないこと、ヘラクレスは自分のターンを迷う事なく進行した。
[ターン07]ヘラクレス
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札2⇨3
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨12
トラッシュ8⇨0
【アトラーカブテリモン】(疲労⇨回復)
【重殼騎士ガンゾウム】(疲労⇨回復)
「めざっちぃぃ、いいやないか、中々面白い成長を遂げたみたいやな!!」
「………まぁね」
「せやけど、俺の成長の方が遥かに上回っている!!…それをこのターンで証明してやるわぁぁ!!」
強者故のオーラ。迫力を剥き出しにするヘラクレス。並大抵のバトラーでは立ってられないような衝動は椎名の内心をざわつかせる。
ここまで彼が何かしらに熱くなることは意外と少ない。妹の真夏が関わっている事も理由の1つであろう。
「メインステップ!!2体のLVを最大にアップ!!」
リザーブ12⇨6
【アトラーカブテリモン】(1⇨3)LV1⇨2
【重殼騎士ガンゾウム】(1⇨5)LV1⇨3
コアが増加し、その力をより増幅させる2体の殼人スピリット達。ヘラクレスはそんな彼らを操り、椎名の最後のライフを撃つべくアタックステップへと移る。
「アタックステップ!!アトラーでアタック!! その効果で疲労状態のスピリット2体を手札に戻す!!」
「!!」
「フレイドラモンとデュークモンの2体や!!」
アトラーカブテリモンがヘラクレスから指示を受けるなり、4本の腕に赤い稲妻を纏わせ、それを地面に叩きつけて椎名の場へと走らせる。
だが、椎名も負けじと反撃に転じる。
「滅龍スピリットが効果の対象となる時、手札のグラニの効果発揮!!」
「なに!?このタイミングで!?」
「1コスト支払って召喚する事で、デュークモンは手札に戻らない!!」
手札3⇨2⇨3
リザーブ1⇨0
トラッシュ4⇨5
【デュークモン】(3⇨2)LV2⇨1
【グラニ】LV1(1)BP6000
デュークモンの前方に突如飛来するグラニ。それがデュークモンの盾となって赤い稲妻を搔き消すも、フレイドラモンはそのまま直撃、デジタル粒子に変換されて椎名の手札へと戻った。
「流石っス姐さん!!効果を逆手にとってブロッカーを出した!!」
椎名のプレイングに感激するように五町は叫んだ。確かにこれでグラニというブロッカーが新たに場へと立ったが…………
「あまいでめざっち!!俺にこれがあるのを忘れとらんとちゃうか?……フラッシュ【煌臨】発揮!!対象はアトラーカブテリモン!!」
リザーブ6s⇨5
トラッシュ0⇨1s
「っ!!」
「来る、兄さんの最強スピリット………!」
ヘラクレスが負けじとそう宣言すると、アトラーカブテリモンが黄金の光に身を包まれていく。アトラーカブテリモンはその中で姿形を大きく変えていく。
「赤き甲虫よ!今こそ黄金の甲虫王者となり、眼前の敵をひねり潰せ!究極進化ぁぁあ!!」
手札3⇨2
ヘラクレスが呼び出すのは自身の持つ最強のエース、最強のカブテリモン………
「ヘラクルカブテリモンッッ!!」
【ヘラクルカブテリモン】LV1(3)BP12000
黄金の光を弾き飛ばしながら現れたのは黄金の甲殻、強靭な三本の頭角を持つ究極体スピリット、ヘラクルカブテリモン。その雄叫びがフィールド全体に木霊した。
「おぉ!!これがヘラクルカブテリモンっスか〜〜!!かっちょいい!!!」
「でもこれ、椎名ごっつやばいで」
ヘラクルカブテリモンの登場に感激する五町。しかし、椎名側にとってこの事態は非常に危険。何せ、このヘラクルカブテリモンは自分達が1年の時にはほぼどうする事もできなかった程のスピリットなのだから。
「また会えて嬉しいよ、ヘラクルカブテリモン……!!」
「呑気やな!!煌臨時効果発揮!!煌臨元カードを手札に戻し、コアを3つヘラクルカブテリモンに追加ッッ!!」
手札2⇨3
【ヘラクルカブテリモン】(3⇨6)LV1⇨2
煌臨元となったアトラーカブテリモンのカードがヘラクレスの手札へと戻り、ヘラクルカブテリモンにコアが追加される。それによってLVが上昇した。
「さらにさらにヘラクルカブテリモンのもう1つの効果発揮!!3コスト支払い、敵スピリットを1体披露させ、ヘラクルカブテリモンを回復!! グラニはおねんねや!!」
リザーブ5⇨2
トラッシュ1s⇨4s
【ヘラクルカブテリモン】(疲労⇨回復)
「っ!!」
【グラニ】(回復⇨疲労)
ヘラクルカブテリモンの放つ突風がグラニの飛行を妨げる。しかしそれはヘラクルカブテリモンにとっては追い風。逆にヘラクルカブテリモンは回復状態となった。
「煌臨したスピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!アトラーカブテリモンはアタック状態やった、つまりこのヘラクルカブテリモンもアタック状態!! これで終わりやぁぁあ!!真夏ちゃんの彼氏を教えろぉぉぉぉぉ!!」
「………まだ覚えてたんや……」
バトル展開が熱くて忘れがちになっていたが、しっかりと真夏の事を覚えていたヘラクレス。流石は重度のシスコンと言ったところか。
椎名のライフは残り1。このアタックが通るだけで終わりだ。ブロッカーも寝かされた。
しかし、まだ逆転する手立てはその中にあって………
「フラッシュマジック、デルタバリア!!」
手札3⇨2
リザーブ1⇨0
【ディーアーク】(2⇨0)LV2⇨1
【デュークモン】(2⇨1)
トラッシュ5⇨9
「なんやと!?」
「これにより、このターンの間、私のライフはコスト4以上のスピリットからは0にされない!!そのアタックはライフで受ける!!」
ライフ1⇨1
椎名の前方に三角形のバリアが出現する。ヘラクルカブテリモンはその眼前まで迫り、それを殴ったり頭角で貫こうとするも、ことごとく失敗。諦めてヘラクレスの場へと戻った。
「くっ……ライフごと守るマジックかいな、小賢しい………まぁええ、次の俺のターンで終わりや、ターンエンド」
【ヘラクルカブテリモン】LV2(6)BP18000(回復)
【重殼騎士ガンゾウム】LV3(5)BP10000(回復)
バースト【無】
致し方ないか、デルタバリアを突破できない今、このターンをエンドとするしか他になくて………
次はなんとかヘラクレスの猛攻を凌ぎ切った椎名のターン。全身全霊を込めてカードをドローする。
「私のターン……!!」
[ターン08]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札2⇨3
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨10
トラッシュ9⇨0
【デュークモン】(疲労⇨回復)
【グラニ】(疲労⇨回復)
「メインステップ………デュークモンとD-3、ディーアークのLVを最大に!!」
リザーブ10⇨1
【デュークモン】(1⇨6)LV1⇨3
【D-3】(0⇨2)LV1⇨2
【ディーアーク】(0⇨2)LV1⇨2
椎名の場にある全てのカードのLVが上昇する。
「さらにディーアークの【カードスラッシュ】の効果でギルモンを破棄!!」
手札3⇨2
破棄カード↓
【ギルモン】
「?」
ディーアークの【カードスラッシュ】の効果。その効果をメインステップで使用する椎名。破棄したギルモンのカードのLV1BPは3000。しかし、ヘラクレスの場にはそんな低BPのスピリットもいなければガンゾウムの与える【重装甲】によって受付もしない。
所謂空打ちと呼ばれるもの。だが、これは消して無駄な行いではなく………
「アタックステップ!!デュークモン……いけぇ!」
「!!」
「さらにこのフラッシュタイミングでデュークモンのアタック時効果を発揮させ、トラッシュにあるギルモンを再度手札に戻し、回復する!!」
手札2⇨3
【デュークモン】(疲労⇨回復)
「なるほど!!だから先にディーアークの効果でギルモンを落としたんだ!!」
赤き光を一瞬だけ帯びて、回復状態となるデュークモン。椎名の狙いはこれだった。五町も流石と言わんばかりに声を上げる。
「めざっち、君が考えんとしている事がわかったでぇ」
「!!」
「デュークモンとグラニでアタック、俺の2体のスピリットでブロックさせ、その道中のフラッシュタイミングでフレイドラモンを召喚し、残り1つのライフを破壊する………やろ?デュークモンの回復効果を使ったんも、BPが同じヘラクルカブテリモンを誘き出すため………」
椎名の戦術をズバリ言い当てるヘラクレス。実際は正解だ。椎名は3体のスピリットを並べてヘラクレスの最後のライフを破壊しようとしている。
「……せやけど、受けて立つで、ヘラクルカブテリモン!!デュークモンの相手しやれ!!」
ヘラクレスの指示を聞くなり、ヘラクルカブテリモンがデュークモンの方へと飛び出す。デュークモンも槍と盾を構え、戦闘が幕を開ける。
ぶつかり合う両者。デュークモンが槍で貫こうとするも、ヘラクルカブテリモンの強固な甲殻に阻まれる。ヘラクルカブテリモンが太く巨大な腕でデュークモンを叩きつけ、それを吹き飛ばす。デュークモンはなんとか態勢を整え、再び槍を構えるが…………
「やっぱまだまだ甘いでぇ!!フラッシュマジック、ワイルドライド!!」
手札3⇨2
リザーブ2⇨1
トラッシュ4⇨5
「!!」
「この効果により、このターン、ヘラクルカブテリモンのBPを3000アップ!!そしてBPを比べてスピリットを破壊しよったら回復できる!!」
【ヘラクルカブテリモン】BP18000⇨21000
ヘラクルカブテリモンがデュークモンに迫り、巨大な腕でそれを掴んで離さない。そのまま体電を放ち、デュークモンを破壊する気でいるのか、頭部の方から音を立てながら電流が発生する。
「これでヘラクルカブテリモンは何度でもブロック可能!!…手始めにデュークモンを消し去れぇぇ!!」
「いや、まだだ!!フラッシュマジック、ブルーカードを使用!!」
手札3⇨2
リザーブ1⇨0
トラッシュ0⇨2
【デュークモン】(6⇨5)LV3⇨2
「っ!?」
「この効果により、カードを4枚オープン、その中の「成熟期」「完全体」「究極体」を持つスピリットカードを場に存在する色が一致しているスピリット1体をデッキの下に戻して召喚する!!……カードをオープン!!」
オープンカード↓
【デジヴァイス】×
【ライドラモン】×
【メガログラウモン】◯
【ズバモン】×
椎名が突如として放ったマジックカード。その効果でカードがオープンされる。
効果は成功。椎名は見事にデュークモンと同じ赤一色のスピリット、メガログラウモンを引いた。よってこれを呼び出す。
「デュークモンをデッキの下に戻し、現れろ!!メガログラウモンッッ!!」
【ディーアーク】(2⇨1)LV2⇨1
トラッシュ2⇨3
【メガログラウモン】LV3(5)BP12000
椎名の場のデュークモンがヘラクルカブテリモンの目の前で消滅する。その代わりか、地響きと共にメガログラウモンが新たに出現した。
「…メガログラウモンの登場により、ディーアーク効果でドロー………バトルエスケープだ、これでヘラクルカブテリモンは回復しない!!」
手札2⇨3
「くっ……!!」
ワイルドライドの与える効果はBPバトルによる勝利が条件。しかし今回はデュークモンがBPバトルの途中で戦線を離脱したため、無効。
結果的にヘラクルカブテリモンは回復しなかったのだ。
それどころか、今現在の椎名の場はグラニとメガログラウモンの2体。フレイドラモンを呼ばずともガンゾウムの上からさらにライフを破壊できて………
「だがなぁ、めざっち、この程度の小手先で俺が屈すると思うたか?……まだまだ在学生には負けられんでぇ!!フラッシュマジック、英雄獣の双牙!!」
手札2⇨1
【ヘラクルカブテリモン】(6⇨4)
トラッシュ5⇨7
「!!」
「この効果により、スピリット2体を疲労させる……グラニとメガログラウモンや!!」
「っ!?」
【グラニ】(回復⇨疲労)
【メガログラウモン】(回復⇨疲労)
鋭く鋭利な爪の形を象った疾風がメガログラウモンとグラニを襲う。2体はそれに叩きつけられ、疲労状態となり、このターンの身動きを封じられた。
「これで、フレイドラモンだけじゃ突破はできひんなぁ?」
「…………」
絶望的な状況。次のターンに回して仕舞えば間違いなく負けると言うのに。D-3の効果でフレイドラモンを呼び出しても無駄、ガンゾウムに阻まれるだけだ。
「ウソ……姐さん………」
「心配なんかせんでええよ五町……」
「え?」
「あの椎名の顔は『勝つ』って言う時の椎名やから!!」
椎名の敗北が濃厚になり、顔色を暗くする五町。しかし、当の本人である椎名の表情は決して曇ってはおらず………
真夏はその椎名の顔を知っている。この時の椎名は必ず勝つ。そして椎名は僅かばかりにその口角を上げると………
「真夏の兄ちゃん…いや、ヘラクレス!!…私はこの時を待っていた!!あんたが非公開情報だったカード全てを使い切るこの時を!!」
「っ!?」
そう強気に言い回す椎名。
ヘラクレスの手札には何かあると考えていた椎名は先ずはそれが何かを探るのが目的だった。そして、彼の手札がアトラーカブテリモンのみとなった今がチャンス。そう言わんばかりに彼女は手札からあるカードを引き抜いた。
「フラッシュ【チェンジ】発揮!!対象はメガログラウモン!!」
【ディーアーク】(1⇨0)
【メガログラウモン】(5⇨3)LV3⇨2
トラッシュ3⇨6
「!?…【チェンジ】やと!?」
仮面スピリット特有の効果という概念があるが故に、デジタルスピリットのデッキでは聞きなれない【チェンジ】の効果。椎名はそれを発揮させる。
上空に異次元の渦が発生し、メガログラウモンは立ち上がり、そこへと飛び立ち、吸い込まれるように中へと向かっていった。
「吠えよ皇帝竜……インペリアルドラモン ドラゴンモード!!」
【インペリアルドラモン ドラゴンモード】LV2(3)13000(回復)
「っ………デ、デカ!!」
渦の中から新たに現れたのはメガログラウモンではなく、巨大な体躯、翼を持つドラゴン、インペリアルドラモン。それが現れるだけで風圧が発生し、椎名達の髪や服を強く靡かせる。
「ドラゴンモードでアタック!!」
回復状態で入れ替わっているため、ドラゴンモードはアタックが可能。椎名は間髪入れずにドラゴンモードに指示を送り、それを受けたドラゴンモードが大きな咆哮を張り上げ、戦闘態勢に入った。
「さらにフラッシュタイミング、D-3の効果で【アーマー進化】発揮!!もう一度来い、フレイドラモン!!」
手札2⇨1
【D-3】(2⇨0)LV2⇨1(回復⇨疲労)
トラッシュ6⇨7
【フレイドラモン】LV1(1)BP6000
再びD-3の効果が発揮され、フレイドラモンがドラゴンモードの背の上に乗る形で現れた。腕を組み、堂々と構えている。
「ドラゴンモードのアタックは継続中!!」
「っ……ガンゾウムでブロックや……!!」
ライフは1。守る手札のカードもない。唯一のブロッカーであるガンゾウムに指示を送るヘラクレス。ドラゴンモードは背にある砲台にエネルギーを充填していき………
「ぶちかませドラゴンモード!!……超弩級砲!!メガデスッッ!!」
椎名の叫ぶ技名と共に砲台から放たれる高エネルギーが凝縮された弾丸。それは空を切り、唸りを上げながらガンゾウムの元へと一直線に迫っていく。
そしてガンゾウムに直撃、ガンゾウムの重圧で強固な鎧が一瞬にして砕け散っていき、敢え無く大爆発を起こした。
「……な、なんてやっちゃ……!!」
いったい、これほどの力を身につけるのにどんな経験をしたというのか………椎名の底知れない強さを改めて実感したヘラクレス。
そして、これで終わりだ。
椎名はそう言うように………
「フレイドラモン……いけぇ!……渾身の爆炎……ファイアァァロケットッッ!!」
ドラゴンモードの背からフレイドラモンが脚力を活かし跳び上がり、炎全身に纏ってヘラクレスの方へと急降下していく…
……そして
「ぐ、う、うぁぁぉぁぁ!!」
ライフ1⇨0
そのまま激突し、最後のライフを砕き切った。
これにより椎名の勝利。2年前では学生最強を誇っていた緑坂冬真、ヘラクレスを遂に超えた。
「へへ、まぁ楽しいバトルだったよ、真夏の兄ちゃん!」
「めざっち……こんなに強ぉなっとったんか、完敗や……せやけど」
「だけど?」
「真夏ちゃんの彼氏だけは誰か教えてくれぇぇぇぇ!!!」
「えぇ!?、まだ言うの!?」
負けるのはいい。けどどうしても真夏の彼氏だけは知りたかった。どうしても抑えられない欲求が彼を動かしていて…………
困り果てる椎名。しかし、そんなヘラクレスを止めたのは…………
「アホかぁぁあ!!」
「ふぼぉぉ!?」
「え?真夏!?」
真夏だった。ヘラクレスの前に、自分の兄の目の前に近づくと、思いっきり顔面をぶん殴った。怒りの鉄槌がヘラクレスを黙らせた。
「あたしに彼氏なんておらん!!」
「え?だって……なんかあげるとかなんとか言って恥ずかしそうにしとったやん」
「そ、それは……」
少しだけ照れる真夏。ヘラクレスはそう言う真夏の行動から、確実に彼氏がいると思っていた。
しかし、実際は………
「それはあんたにあげるもんや!!ほれっ!!」
「っ!?」
真夏は懐から取り出した小さな紙袋をヘラクレスに手渡した。困惑するヘラクレス。中身を恐る恐る見てみると、そこにはタコのような可愛らしいマスコットのキーホルダーが入っていて………
「え?なに、これ?」
「だぁぁかぁぁらぁぁぁあ!!!あんたがこん間夏のリーグ優勝したからあげる言うとるんやぁぁあ!!さっさと貰えやッッ!!」
「そう言うことだったんスね」
ようやく全ての事柄が1つに纏った。真夏はずっとヘラクレスにそのプレゼントを渡そうと思っていた。だが、ヘラクレスはずっと渡す相手が彼氏だと思い込んでここまで拗れてややこしくなった。
五町もようやく納得した。椎名もBパッドをしまいながら微笑ましくその2人を見守っている。
「な、なんだ…そゆことやったんか…………真夏ちゃん………ありがとうな!…なんか嬉しいで!!」
「べぇ、別に渡したかったわけやないで!!椎名がそうしようって言うからだからして……」
「はっはっは!!」
照れ隠しなのか、真夏は誤魔化そうとしている。しかしながら頬を赤らめているためその説得力はない。ヘラクレスはそんな真夏の様子を見て大きく笑った。
そして……
「さぁ!!真夏ちゃん!!事件もひと段落したところでぇ!!今から共に街へと洒落こむでぇぇ!!」
刹那。
一瞬のうちにヘラクレスはいつもの純度の高いシスコンの正確に戻り、真夏に向かって飛び込み、抱きしめようとするが……………
「誰が洒落こむかぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
「ぐっほぉぉぉ!!」
自分に向かって飛び込んでくるヘラクレスの顔面をまた思いっきりぶん殴る真夏。しかし、これがいつもの調子。これがいつもの緑坂兄妹なのだ。
「やっぱ仲良いよね、真夏と真夏の兄ちゃん!」
「い、いいんスかね?」
椎名が真夏とヘラクレスのやり取りを微笑ましいと言うように呟くが、側から見たらヘラクレスが一方的に真夏に殴られているようにしか見えないこともあって、五町はやや疑問符を浮かべながら相槌をうった。
〈本日のハイライトカード!!〉
椎名「本日のハイライトカードは【インペリアルドラモン ドラゴンモード】」
椎名「チェンジで入れ替わる対象は完全体か究極体だったらなんでもいい、連続アタックや、防御札にも使えるよ」
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〈次回予告!!〉
夏が終わり、季節は秋が訪れてきた。そんな中、晴太の誕生日プレゼントを買いに出かけていた鳥山兎姫はその道中で………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「恋路決着!?エグゼシードVSゲイル・フェニックス!」…今、彼らは一線を超える?
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※次回のサブタイトルや内容は予告なしに変更の可能性があります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
今回のサブタイトルは後で変更するかもしれません。
多分この章は107話くらいまで続くと思います。それ以降は最終章です。取り敢えず今は椎名達の平和な日常をお楽しみください!
都合上、椎名も偶に前の椎名みたいな感じになる時があるかもしれません。
最近は私、バナナの木の活動報告も潤ってきております。お目を通していない方は是非一度見ていってください!