《皆さん!おはようございます!【紫治 夜宵(しち やよい)】です!今日も元気にパープル・ヒーリングを始めちゃいましょう!》
これはあるラジオの人気番組。紫治夜宵の【パープル・ヒーリング】だ。パーソナリティを務める紫治夜宵は16歳にして、この界放市では絶大な人気と知名度を誇る有名な芸能人。この街においては彼女の名前と顔を知らない者はいない。このラジオ番組だけでなく、界放市のグルメリポートや、歌手など、その幅はかなり広く、基本的に職を選ばない。
ーそしてこの番組で一番人気のコーナーが、
《ハイ!それでは次のコーナーです!………【導け!バトスピ占い!】………このコーナーは、今から私がドローするカードで今日1日のみんなの運勢を占っちゃおう!…と言うコーナーです!……では早速今日のカードをドローしていきましょう!》
ちなみに、普通は星座や、干支などで占うのが一般的だが、この街ではそれぞれの人達が持っている、又は使っているデッキの色だ。何故ならこの街の9割以上がカードバトラーなのだから。デッキが混色の場合はそのベース色が対象になる。例えば司だったら赤だ。
夜宵は用意されたカードの束の中から1枚引き抜く。引いたカードは、
《ハイ!今日のカードは【ネコジャラン】です!》
【ネコジャラン】猫のような外見に、尻尾がネコジャラシになっているのが特徴的。緑のスピリットであるが、赤、青のスピリットとしても扱う効果を持っている。夜宵はそのカードから見える今日の運勢を伝える。
《今日の1番は緑のあなた!楽しみにしていることがやっとやってくるかも!でも友達を見失うことには気をつけて!ラッキーアイテムは輪ゴム!》
《2番目は青のあなた!今日はいいことがあるかも?でも物は壊さないようにね!ラッキーアイテムは懐中電灯!》
《3番目は赤のあなた!デッキを調整してたら思わぬ発見があるかも!?でも油断してるといきたくないところに連れて行かれちゃいそう!ラッキーアイテムはケチャップ!》
《4番目は白のあなた!あまり外に出ない方が悪いことは起こらないかも?ラッキーアイテムは白い短パン!》
《5番目は黄色のあなた!ゆっくり注意してたら好きな子と距離を縮めるチャンス!?でも一瞬でも気をぬくととてもつまらない1日に!ラッキーアイテムはバスケットシューズ!》
《そして、ごめんなさい!6番目は紫のあなた、今日は色々面倒なことが起こりそう、ラッキーアイテムは黒いニット帽!》
淡々と明るく可愛らしい声色で、そう伝える夜宵。飽くまでも占いなので真に受ける必要性もないが、これがまたよく当たると最近専らの評判なのである。そして最後に行うのが、
《そして最後に今日ドンピシャで運がいい人!それはデッキが緑と青の混色で、尚且つ赤属性が少し混じってるデッキを使ってるそこのあなた!今日はとても素晴らしいことが起きます!楽しみにしててくださいね!》
このドンピシャコーナーだ。さっきまでと違い、絶対にその幸福が来ると断定して話している。あまりにも条件が細かすぎるゆえに当たる人間はほとんどいないのだが、今回は違った。
ラジオ放送が終わり、そのラジオのスイッチをリビングで切る少女が1人。椎名だ。
「……………それ私じゃん!!!!!」
椎名は驚いた。確かに椎名はさっきのドンピシャのコーナーの条件に合っていた。1ミリのズレもなく。
ちょうど2週間前だろうか、テレビのドラマやバラエティで登場する紫治夜宵を見たのは、彼女の話が面白かった。そこから椎名は彼女のファンになった。男性だけでなく、女性ファンも多いのも、紫治夜宵の特徴であった。ちなみにファンの人達からの彼女の呼ばれ方は【夜宵ちゃん】だ。
椎名は幸せな気持ちになる。何という幸福感だったろうか、それは本人にしかわからないものだが、自分の好きな芸能人に名前を呼ばれたことに等しい筈だ。椎名は悟る。今日は必ず素晴らしいことが起こると。
「あっ!もうこんな時間だ、早く行かないと、」
今日は日曜日。学校は休みだ。だが椎名には行かなければならない場所があった。それはショッピングモール。この間、雅治と約束したのだ。一緒に買い物でも行かないか?と。
椎名は私服に着替えて出かける準備をした。黒いパーカーに大きめのブーツが印象に根強く残る。
「あぁ、と、懐中電灯持ってこ〜〜〜っと」
紫治夜宵の占いで言われたラッキーアイテムの懐中電灯も忘れなかった。椎名はそれを手に持ち、懐に入れると、住宅街を飛び出した。
******
そしてここは界放市一のショッピングモール。果てしなく大きくて、広い。とにかく広い。日曜日ということもあって大勢の人達で賑わっていた。そんななか、ショッピングモール前のベンチで座っている男子が1人。雅治だ。
彼は今日という日を待ちわびていた。まさか椎名とショッピングできるなどとは夢にも思わなかっただろう。雅治は待ち合わせの時間から2時間前からここに座っていた。それほど緊張しているのだろうか、椎名とは学校などで普通に話す分には特に問題はないのだが、こういうことになるとどうも思い上がってしまう。
そしてそこから少し離れたところからその様子を眺める人影が2つ。真夏と司だ。彼らは変装のつもりなのか、サングラスとアフロのカツラで他人になりすましていた。だが、司は何やらご機嫌斜めで、
「おい、関西女」
「ん?なんや?」
「なんやじゃない、……なんだこの格好は、何故俺がこんな恥ずかしい格好で人気の多いショッピングモールにいねぇといけねえんだ」
「何言うとんの?…せっかくの椎名と長峰のデートなんよ?!……こんなおもろっそうなイベントそうそう起こらへんって!……見たいやろ?」
「見たくない。俺は【界放リーグ】に向けてデッキの調整に忙しいんだ」
「【界放リーグ】の予選なんてまだ後2ヶ月近くあるやないか、………あっ、椎名や椎名や!」
「おい!服を引っ張るな!……くっ!てめぇ、とことん逃がさねぇつもりだな」
司とて、雅治が今日椎名とショッピングモールに行くことくらいは知っていた。雅治と司は今同じ家で2人で暮らしているため、いやでもそのことは雅治から聞かされるのだ。
だからといって雅治の恋愛に興味がないわけではない。極力応援したい気持ちも少なからず司にはある。だが、それは他人が介入していいものではないと司は考えているからこそ、今日は彼を遠ざけようとしたのだ。それでも真夏に無理矢理連れて行かれてしまったのだが、あまりの彼女の強引さに、結局尾行することになってしまった。
司は女子のそういうところが嫌いだ。
そんな中でようやく椎名が到着する。元気よく手を振りながら近づいて来る。この時間は約束の時間より5分ほど早かった。
「おお〜い!雅治!おまたせ〜〜!!」
「し、椎名!……お、おはよう!」
「?」
ベンチから勢いよく立ち上がってしまう雅治。椎名もいつもと違う雅治に見えるのか、やや怪しげな目で見つめる。
「どうかしたの?」
「い、いや〜〜なんでもないよ、じゃあ行こうか……!」
そう言って話を切るかのように歩き出す雅治。椎名もそれについて行く。目の前のショッピングモールへと足を運んだ。外から見るより内側は遥かに膨大だった。色々な品物を揃えた店が所狭しと並べられている。
「おぉ!ここが界放市一のショッピングモール!広ぉぉい!」
椎名は目を輝かせながら感動の声を上げる。彼女の故郷である離島にはこんな大きな店などないからだろう。
雅治は私服の椎名と会うのは初めてだった。そのこともあってか彼は新鮮な気持ちになっていた。だが、ここで浮かれすぎて入念に計画していなかった分のツケが回ってくることになる。
「そういえばさ、何買うの?」
「ん!?」
「いや、なにか買いたいから誘ったんじゃないの?」
そういえばなにも考えていなかった。そうだ、なにも買わずにショッピングなどおかしい。本当の理由は【椎名と一緒にいたかった】だが、そんなの告白同然だ。雅治に言えるわけがない。しかし、彼のI.Qは高い。咄嗟の言い回しで回避する。
「いやぁ、ほら、あれだよ、夕飯のメニューを増やそうと思ってね!椎名は一人暮らしで料理は得意だって聞いたから!」
「あぁ!そういえば司と2人で暮らしてるんだったね!今度遊びに行っていい?」
「う、うん!いいとも!」
なんとか切り抜ける。だが、この言葉が司と真夏の耳にも入っていて、
「あの野郎!めざしなんて誘うんじゃねぇよ!うるさくて敵わねぇぞ!」
「まぁまぁ、長峰の調子も戻ってきたみたいやし、よしとしようやないのぉ」
そう言ってからの肩にポンと手を置く真夏。2人は物陰に隠れながら2人を尾行しているが、そのサングラスとアフロの格好のせいでかえって悪目立ちしていることには気づけていない。
咄嗟に切り抜けたことで、雅治の調子を取り戻したのか、いつものように普通に喋れるようになっていた。咄嗟に考えた嘘から考え出した歩く道のりを椎名に伝えようとする…………が、ここで事件が起きた。
「よし!椎名!先ずは野菜のコーナー……を?」
振り返って椎名の方を振り向いて見るとそこに椎名は見当たらなかった。まるで瞬間移動でもしたかのような速さでどこかへと姿を消したみたいだった。
「あ、あれ!?椎名?」
雅治は直ぐに周りを見渡した。が、やはりどこにもいない。真夏と司も椎名を見失っており、
真夏が思い出したかのように手をポンっと合わせる。この大きなショッピングモールに行くならば、そこそこ重要なことであった。
「あっ!そういえば、椎名の奴、方向音痴やった……」
「いやいや!もはや音痴のレベルじゃねぇぞ!?」
3人の椎名捜索の長い旅路の始まりであった。一方の椎名はというと。
******
「あれ?どこだろ?ここ……さっきから雅治もいないし、うーむ……雅治、道に迷ったのかな?」
気づいた時には全く違う通りへと足を運んでしまっていた椎名。自分が迷子だという自覚は毛頭ない。取り敢えずその場をもう一度歩いて見る。
「ちょっと!?……離しなさい!」
「いいじゃねぇか!少し俺らと遊ぼうってだけだって!」
「ん?」
すると椎名の目に留まったのは、ゲームコーナーでショートカットでサングラスと黒いニット帽を被っている女の人が、なんか毒島っぽい感じのキャラ3人組に絡まれている様子だった。椎名は女の敵は許せない。考える間もなく、そこまで早歩きで一直線に歩み寄って行く。
「ふんっ!」
「あぁ!?」
椎名は近づくなり、直ぐにその手を退かした。その勢いで女性のサングラスが外れる。毒島っぽい3人組は椎名を睨みつける。なんとも言えない濁った目だった。椎名もまた、彼らを睨みつけた。
「おいおい!なんだ、ネェちゃん!邪魔しないでくれるぅ?」
「今いいとこだったのに!」
「つか!あんたも結構いいなぁ!どうだ、2人まとめて…………」
昔、椎名は育ての親から色々と鍛えさせられていた。肉体的に、バトスピのためと銘打って。だが、椎名は5年くらい前に気づいた。バトスピに肉体的な強さはいらない。ということに。
椎名は今一度気づく。この鍛えた拳は、肉体はこいつらを倒すためにあるのだと、だけどもこれはバトルスピリッツ。カードゲームの物語だ。そんなことをしてしまえば作品が崩壊しかねない。
と、考え、椎名は懐から懐中電灯を取り出した。
「あぁ!?懐中電灯?」
「ハッハッハ!なに!?それで俺らとやろうっていうの?」
(あっ!あれは………!)
大声で叫んで嘲笑う3人組だが、ニット帽の女の人だけは違った。まるで何かに気づいたかのような顔つきになる。椎名はそれを両手に持ち。
「ふんっ!」
「「「「へ!?」」」」
〈バキッ!〉……そんな割れた音が鳴り響く。椎名はまるでアイスの棒を分けるかのように懐中電灯をその手だけで真っ二つにしてしまった。壊れた後からネジやら破片やらのパーツがぼたぼたと零れ落ちていく。
「……こ、こいつ、や、やべえぞ」
「あ、あぁ」
「か、帰ろうぜ」
危険と悟ったのと、引いたのと、いかれてると思ったのとで、さまざまな気持ちが混ざってしまった3人組は呆れてその場を逃走していった。
「……やっちゃった……どうしよう、ラッキーアイテム」
事なきを得たものの、椎名は今日の自分のラッキーアイテムの無残な姿を見てもどかしい気持ちになる。そんな時、そのニット帽の女性が椎名に話しかけてくる。この後椎名に人生で一番の衝撃が訪れる。
「あ、あの……助けてくれてありがとう!……ところでその懐中電灯…………」
「ん?……あぁ、いいのいいの、これ安もんです…………し…………へ!?」
サングラスが外れて、見れるようになった素顔はまさしく翼のない天使と言ったところ。椎名は何度もこの顔をテレビで見た。その正体は【紫治 夜宵】だった。
「や、夜宵ちゃぁぁぁん!?」
「!?!」
思わず声を上げてしまう椎名。まさか見ず知らずの人を助けたつもりが、見て知ってる人を助けていたのだ。しかもその相手があの人気芸能人、夜宵ちゃんだっだ。これ以上の衝撃はない。
椎名の叫びに周りの人達もそこに目を向けてしまう。あの夜宵ちゃんがここにいるとなると大騒ぎは間違いないだろうと考えた夜宵は、椎名の口を無理矢理手で抑えてもう片方の手で椎名の右手を掴み、椎名と共に一目散に走り出した。
******
「ふぅ!ここなら人目は少ないわねぇ」
夜宵が椎名を連れて来た場所は、このショッピングモール外にある別館のバトル場。ピラミッド型なのが特徴で、ここは一番上。基本的に通り道になるのは1回と2回くらいなので、一番上はバトル場が1つしかないことも相まって、なかなか人が来ない場所なのだ。
「ほ、本当に夜宵ちゃんなの?いや!何ですか?」
「ふふ、同い年でしょ!タメ口でいいわよ!………【芽座 椎名】ちゃん」
「……えぇ!?なんで私の名前を!?」
「だってぇ、さっきの懐中電灯にそう書いてあったんだもの!それに!芽座椎名と言ったら、あの司ちゃ、……じゃないじゃない、【朱雀】に勝ったバトラーじゃない!」
「……!!」
椎名はまた驚いた。まさか司に勝利しただけで自分の名前がこんな有名人まで届いていたと言うことに。とても嬉しかった。ほっこりして、体から温かみを感じる。
「私!あなた達の通うジークフリード校から一番距離が近いデスペラード校の生徒なの!!そのくらいの噂は飛んでくるのよ!会えて光栄!」
「い、いやぁ!私こそ会えて光栄だよ!まさか夜宵ちゃんとバッタリ会っちゃうなんて!夢のよう!」
「それでね!ずっと椎名ちゃんとバトルして見たかったの!どう?ここで一戦!」
「うん!いいよいいよ!望むところだ!」
夜宵がデスペラード校に通っているというのは意外にもあまり知られていない。椎名もそのことを初めて知った。それは彼女がラジオ等でも口にしないからというのもあるが、それ以上に、ある異常な人物の権力の力の影響でもあった。
一市民である椎名には決してわからないことであった。2人はBパッドを展開してバトルの準備をした。そして始まりのコールが両側から鳴り響く。
「「ゲートオープン!界放!!」」
バトルが始まる。先行は夜宵だ。
[ターン01]夜宵
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ!先ずはネクサス!No.3ロックハンドをLV1で配置!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨4
早速夜宵が呼び出したのはネクサスのカード。それも紫属性だ。まるで生きているような感じで、両手のような大岩が彼女の背後から出現した。
「ターンエンド!……楽しませてね!」
No.3ロックハンドLV1
バースト無
先行1ターン目などやることが限られている。夜宵はこのターンを終える。次は椎名だ。『楽しませてね!』とあの夜宵ちゃんから言われたのだ。俄然やる気を出していく。
[ターン02]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ!先ずはガンナー・ハスキーを召喚!さらにその効果で青シンボルを1つ追加し、フル軽減で猪人ボアボアを召喚!LV1!」
手札5⇨3
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨3
椎名が召喚したのは、拳銃を持つために青い腕を生やした緑の犬型スピリット、ガンナー・ハスキーと。猪頭で、鎖付きハンマーを振り回す猪人ボアボア。椎名はこれだけ並べるとアタックステップに入る。
「アタックステップ!いくよ!夜宵ちゃん!ガンナー・ハスキーと、ボアボアでアタック!ボアボアのアタック時の【緑:連鎖】でボイドからコアを1つボアボアの上に置く!」
猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2
一挙に走り出す2体。相手が紫と分かれば早めにコアを貯めてコア除去をし辛くするのが常套手段だ。
「これが、噂の青緑速攻か……ライフで受けます!」
ライフ5⇨3
2体はそれぞれ立ち止まり、銃の連射と、ハンマー投げで、それぞれ夜宵のライフを1つずつ粉々に粉砕した。
「よし!ターンエンド!」
ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(疲労)
猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)
バースト無
椎名はこの時、夜宵を舐めていたのかもしれない。彼女のバトルの実力を知る者は、デスペラード校の生徒や、教師、又は彼女の肉親とあと数人程度しか知らないので、無理はないが、
椎名は初めて感じる事になる。紫治夜宵の。いや、【紫治一族】の末裔の強さを。
[ターン03]夜宵
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
「ドローステップ時!No.3ロックハンドの効果発揮!手札にある系統「呪鬼」のスピリットカードを1枚破棄する事によって、そのドロー枚数をプラス2にする!私はオーガモンを破棄!」
手札4⇨3⇨6
破棄カード
【オーガモン】
「!!……ドローステップで3枚も……!!」
これがロックハンドの恐ろしい効果の1つだ。通常、この手のカードは結局はプラマイになることが多いのだが、ロックハンドは手札に「呪鬼」スピリットがいれば、一気にドローステップでアドバンテージの差を広げることが可能なのだ。
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨7
トラッシュ4⇨0
「メインステップ!先ずはバーストを伏せて……紫のデジタルスピリット!ピコデビモンをLV2で召喚!」
手札6⇨4
リザーブ7⇨2
トラッシュ0⇨2
バーストが伏せられると同時に、丸型の体で、コウモリのような羽を持つ使い魔のような紫のデジタルスピリット、ピコデビモンが現れた。そのピコデビモンが持つ能力は、普通の成長期とは少し変わっていて、
「召喚時効果でカードを1枚ドロー!」
手札4⇨5
ピコデビモンの効果でカードを1枚デッキから引き抜く夜宵。紫のコスト3と言えばこの効果だ。ピコデビモンにはその効果が内蔵されている。確実にカードが増えるため、紫デッキではこのような効果はほとんどと言っていいほど入る。そしてピコデビモンはデジタルスピリット。当然進化もできるのであって、
「そしてアタックステップ!ピコデビモンの【進化:紫】を発揮!これを手札に戻して、成熟期のスピリット、デビモンをLV2で召喚!」
リザーブ2⇨3
デビモンLV2(2)BP7000
ピコデビモンにデータのベルトが巻きつけられる。そしてそれらが離れると、新たな姿に進化していた。それはさっきの丸型とは打って変わって細身の堕天使型。如何にも悪と言った感じのデビモンが召喚された。
「おぉ!紫のレアカード!」
「ふふ!デビモンの真価はアタック時よ!アタックステップを継続!そのままデビモンでアタック!……アタック時効果発揮!」
「………!?」
デビモンは自身の手を下に向ける。するとそこから闇の瘴気のようなものがどんどん溢れ出てくる。地面まで到達すると、それは横に広がり、ゆっくりと消えていく。だが、完全に晴れる頃に、椎名は気づいた。そこには屈強な鬼が目の前にいると。
「な、なんだ、こいつ!?」
「これはオーガモン、成熟期のデジタルスピリットよ………デビモンはアタック時にトラッシュにいる系統「成長期」「成熟期」をノーコスト召喚できるの。このオーガモンはさっきロックハンドの効果で破棄したやつ」
リザーブ3⇨0
オーガモンLV2(3)BP12000
「び、BP12000、……ッ!!」
紫の特徴はコア除去だけではない。トラッシュのスピリットを蘇らせる効果にも長けている。デビモンが持つ能力は特に強力なものだ。何せアタックするだけでその効果を発揮できるのだから。
「さぁ!アタック中!」
「ぐっ!……ライフで受ける!」
ライフ5⇨4
デビモンの強力な右手が椎名のライフを1つ切り裂いた。
「次よ!オーガモン!」
「これもだ!」
ライフ4⇨3
オーガモンは巨大な棍棒を振り回し、椎名のライフを1つ叩き割る。これでライフだけなら同値に持っていかれた。
「ターンエンド!」
デビモンLV2(2)BP7000(疲労)
オーガモンLV(3)BP12000(疲労)
No.3ロックハンドLV1
バースト有
「つ、強い……夜宵ちゃんってこんなにバトル強かったんだ……っ!」
「そりゃあまぁ、だって私は【紫治一族】ですから♪」
「し、しち、一族?」
【紫治一族】紫のカードを使いこなす一族であり、故人の供養したりする僧侶のような役目もある。その長、夜宵の父である。【紫治 城門(しち じょうもん)】は故人の供養の他にも、デスペラード校の理事長までもを務めている。超人且つ【伝説バトラー】の1人。大きな権力とは彼のことだ。
約9年前、デジタルスピリットが多様化してから、この一族のしきたりは少し変わっていった。それはカードの制限だ。
「私の一族にはランクがあるの、成長期しか使ってはいけないのがランク1、その次が2、3って言う風にね、私はランク2。だからこの成熟期の進化が限界なの………そしてランクを上げるためにはお父様に認められなくてはいけない」
「へ〜〜〜そんな事するとこもあるんだ」
「だから私は早く一人前になって、完全体まで手に入れたい!だからバトスピ学園に入学したの!」
「………なれるよ!夜宵ちゃんなら!私は全力で応援する!」
「うん!ありがとう!……じゃあ次は椎名ちゃんのターンだね!」
「よぉ〜し!!」
椎名は夜宵の強さを理解した気がした。誰よりも努力したのだろう。きっと、それでも認めてはくれない父を認めさせるためにデスペラード校に入ったのだと。
彼女がこんなアイドルじみた活動をしているのはそれが原因の1つであった。父親の気を引かせたい。その一心で2年前からデビューしたのだ。それがかえって父親を困らせるばかりか、もう後戻りできなくなっているのだが、本人自体はこの活動を楽しんでいる。
******
一方その頃、椎名を探している他の3人はと言うと、
「おぉ〜い!長峰ぇ!」
「ん?あれ、緑坂さん?用事あるんじゃなかったの?」
「そんなのホンマにあるわけないやろ?………それでな!【朱雀】が椎名の居場所がわかる言いよるねん!」
真夏と司は流石にやばいと気づいたのか、アフロもサングラスも外していた。雅治だけでは拉致があかないと考えた司は、ある作戦に出たのだ。それは普通ではありえない、オカルトチックな作戦。幽霊の存在を全く信じていなかった司からは想像もつかない作戦であって、
「!?……司もいるのかい?」
「もうすぐ来るで」
真夏がそう言ったのもつかの間、司がゆっくりと2人のとこまで歩み寄った。だが、その手には奇妙なものを持っていた。それは全国のご家庭では必須な存在。誰もが知っている赤い物体だ。
「……司」
「なんだ」
「その手に持ってるのはなに?」
「…………さっき買ってきたケチャップだ」
「いや!見ればわかるよ!?……ふざけてるのかい!?」
「なんか、これ買うたらすぐ見つかるんやて」
そう言いながら3人は司を先頭にして、適当に歩き出す。果たしてこんなんで別館にいる椎名を見つけることができるのか。
******
そして、ここは再び別館のバトル場、そのてっぺん。椎名の第4ターンがスタートする。
[ターン04]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨6
トラッシュ3⇨0
ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)
猪人ボアボア(疲労⇨回復)
「メインステップ!ブイモンを召喚!」
手札4⇨3
リザーブ6⇨4
トラッシュ0⇨1
椎名は瞬時にドローステップでドローしたブイモンのカードをBパッドに叩きつけて、召喚する。ブイモンが彼女の足元から飛び出してきた。
「……これが軸になる成長期スピリットッ!」
「そうだよ!召喚時効果!」
オープンカード
【フレイドラモン】○
【風盾の守護者トビマル】×
ブイモンの召喚時効果は成功。椎名の手札にアーマー体スピリット。フレイドラモンのカードが新たに加えられた。そして、
「フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払って、炎燃え滾るアーマー体!フレイドラモンをLV2で召喚!」
手札3⇨4
リザーブ4⇨1
トラッシュ1⇨2
フレイドラモンLV2(3)BP9000
ブイモンの頭上に赤くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのはスマートな赤の竜人スピリット、フレイドラモン。
(ふ〜〜ん。これが司ちゃんを破ったアーマー体スピリット、フレイドラモン……でもそう好き勝手には動かせないわよ!)
椎名が司に代表バトルで勝利して以降、ジークフリード校だけでなく、それと最も距離の近いデスペラード校と、タイタス校でも、椎名の噂が広まっていた。夜宵も当然それを知っている。
そしてそうなると必然的に最後に逆転を飾ったというフレイドラモンもまた、有名になっていた。同学年か、それ以下の学年では全く敵わないと言う【朱雀】に勝ったのだ。本当はもっと広まっていてもおかしくはないのだが、
「フレイドラモンの召喚時かアタック時の効果!BP7000以下の相手のスピリット1体を破壊して、カードを1枚ドローする!……破壊対象は、ピッタリ7000のデビモン!……爆炎の拳!ナックルファイア!!」
手札4⇨5
「……くっ!」
フレイドラモンの拳の炎が飛ばされる。それは真っ直ぐデビモンの方へ行き、衝突。凄まじい勢いでデビモンを焼却させた。
「よし!デビモンを倒した!……ガンナー・ハスキーのLVも2に上げ、バーストをセットし、アタックステップだ!………いけぇ!フレイドラモン!オーガモンは無視してそのままライフにアタックだ!」
手札5⇨4
リザーブ1⇨0
猪人ボアボア(2⇨1)
ガンナー・ハスキー(1⇨3)LV1⇨2
椎名の場にバーストが伏せられると同時に走り出すフレイドラモン。もう1つの指定アタック効果を使用したいところだが、現在夜宵の場にはBPがフレイドラモンより上回っているオーガモンが存在。これでは指定はできないため、疲労していることをいいことに、そのままライフを削りに行った。
このままでは、椎名のフルアタックで、夜宵のライフは尽きてしまうが、何故か彼女は笑っていた。まるでフレイドラモンを嘲笑うかのように。
「ライフで受けます!」
ライフ3⇨2
フレイドラモンの渾身の炎の拳が、夜宵のライフを破壊する。だが、それは彼女のバーストの条件でもあって、勢いよくそれが開く。
「ライフ減少により、バースト発動!妖華吸血爪!デッキからカードを2枚ドローする!」
手札5⇨7
「……!!」
紫のバーストカード、妖華吸血爪。それはライフ減少に反応し、カードをドローさせるという紫らしい効果だが、その恐ろしさはフラッシュにある。
「さらに、コストを支払ってフラッシュの効果を発揮!私は手札を好きなだけ捨てて、その枚数分だけ相手スピリットのコアをトラッシュに置く!」
リザーブ3⇨0
トラッシュ2⇨5
「なにい!?」
「私は手札を7枚のうち3枚を破棄!椎名ちゃんのフレイドラモン以外のスピリットのコアを全てトラッシュに置くわ!」
手札7⇨4
破棄カード
【ピコデビモン】
【ピコデビモン】
【妖華吸血爪】
「くっ!!」
ガンナー・ハスキー(3⇨0)消滅
トラッシュ2⇨5
夜宵の破棄したカード達が紫の棘となり、ガンナー・ハスキーの背に突き刺さる。そしてそれに干からびるまでエネルギーを吸われてしまい、そのまま力尽き、消滅した。
しかも送られたコアはトラッシュ。次のターンでは防御に回すことはできなくなった。
「……くっそぉ、仕方ない、このターンはエンドだよ!」
フレイドラモンLV2(3)BP9000(疲労)
猪人ボアボアLV1(1)BP2000(回復)
バースト有
一気に片付けるつもりが逆に追い込められてしまった椎名。仕方なくそのターンを終えるが、限られたコア数で次のターンを生きなければならない。
[ターン05]夜宵
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
「ドローステップ時!再びロックハンドの効果で、今度はピコデビモンを破棄して、枚数を2増やす!」
手札4⇨3⇨6
破棄カード
【ピコデビモン】
さっき3枚もカードを破棄したにもかかわらず、もやは既に6枚まで戻す夜宵。それも紫属性の特徴だ。そのドロー能力は赤属性をも凌ぎナンバーワンなのだ。
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨6
トラッシュ5⇨0
オーガモン(疲労⇨回復)
「メインステップ!魂鬼を2体!LV1で召喚!」
手札6⇨4
リザーブ6s⇨4
先ずは軽減確保か、夜宵はコストが0で、尚且つ呪鬼スピリットである魂鬼を2体召喚する。鬼の頭だけが霊魂になっていて、少々気味が悪い。そのうちの1体にはソウルコアが置かれており、
「マジック!デッドリィバランス!私はソウルコアが置かれている魂鬼を選択!……さぁ椎名ちゃん!あなたも自分の場から1体スピリットを選びなさい!」
手札4⇨3
リザーブ4⇨3
トラッシュ0⇨1
「くっ!………仕方ない。ごめんね!ボアボア!」
紫のマジック、デッドリィバランス。お互いのスピリットを1体選択して破壊させる効果がある。椎名は疲労状態と言えども流石にフレイドラモンは生贄にはできなかった。
両者から選ばれた魂鬼とボアボアは突如現れた巨大な天秤に吸い込まれるようにそれぞれ左右に置かれる。置かれたと思えばそれは動く前に豪快に爆発した。
「そしてソウルコアの置かれた魂鬼の効果!破壊時にカードを1枚ドローする!」
手札3⇨4
魂鬼はコスト0ながら効果がある。それはソウルコアが乗っていないといけないと言う、デッキによっては響いてきそうな条件ではあるものの、追加効果は破壊されるだけでドローすると言う便利なもの。
デッドリィバランスで使えれば尚無駄がないと言える戦法であった。
フレイドラモンの破壊の危機は去ったかに思われたが、夜宵は自慢気に手札のカードを見せつける。
「再び魂鬼にソウルコアを置き、2枚目のデッドリィバランスを使用する!……私は当然、魂鬼を選択!」
手札4⇨3
リザーブ3⇨2
トラッシュ1⇨2
「………!?!」
発揮される2枚目のデッドリィバランス。椎名の場にはもはやフレイドラモンしか存在しない。魂鬼とフレイドラモンが吸い込まれるように巨大な天秤にかけられ、そして、かけられた瞬間爆発した。
「くっそぉ、フレイドラモン……!!」
「魂鬼の効果で1枚ドロー」
手札3⇨4
全く無駄がない。完璧な戦法で、夜宵は椎名の場を壊滅させた。さらにまだ終わらない。ここから怒涛の展開が待っていた。
「さらに、3枚目の魂鬼を召喚し、No.3ロックハンドをLV2にアップして、その効果を使用!トラッシュにある呪鬼スピリットはコストの支払いにソウルコアを使うことで、トラッシュから蘇生できる!」
手札4⇨3
リザーブ4⇨3
No.3ロックハンド(0⇨1)LV1⇨2
「え!?トラッシュから蘇生?………召喚するってこと!?」
「その通り!私はソウルコアを使用して、トラッシュの呪鬼スピリット、デビモンをLV1で再召喚!」
リザーブ3s⇨0
トラッシュ2⇨4s
デビモンLV1(1)BP5000
3体目の魂鬼が出現すると同時に、ロックハンドの両掌から悍しいほどの闇が蓄積される。そしてそれらが地面に投下されると、フレイドラモンが倒したはずのデビモンが浮上してきた。彼は焼却されたにもかかわらず、元気ピンピンだ。
「アタックステップ!オーガモンでアタック!」
「くっそ!ライフだ!」
ライフ3⇨2
オーガモンが飛び出して来る。そのまま勢いよく自慢の棍棒を振り回し、椎名のライフを粉々に砕いた。
そして次は蘇生されたデビモンの番だ。
「さぁ!次よ!デビモンでアタック!!その効果でトラッシュよりピコデビモンを再召喚!」
オーガモン(3⇨2)LV2⇨1
ピコデビモンLV1(1)BP1000
デビモンはオーガモンを呼び出した時と同様の方法で地の底に眠るピコデビモンを呼び覚ました。ピコデビモンもその召喚時効果を発揮させる。
「ピコデビモンの召喚時でデッキから1枚ドロー………そしてデビモンのアタックは継続中よ!」
手札3⇨4
「それはライフで受ける!」
ライフ2⇨1
(………!?!……またライフで!?)
ボロボロの黒い翼で飛翔し、迫り来るデビモン。そのままその強靭な鉤爪で椎名のライフを1つ八つ裂きにした。このままでは後一度のアタックでも通して仕舞えば椎名の負けだ。
(……?……なんで?なんでバーストを発動させないの!?……この流れの中で条件は全て満たしたはずなのに……っ!)
夜宵が気になっていたのは椎名のバーストだった。バーストは大きく分けて5つの条件がある。【自分のスピリットの破壊後】【相手のスピリットのアタック後】【効果によって相手の手札が増える】【相手の召喚時効果発揮後】【自分のライフ減少時】だ。
夜宵はいずれもこのターンのうちにそれらを全てやってしまっている。つまりいつ椎名のバーストが発動してもおかしくはない状況であったということだ。だが、椎名はそのバーストを発動させなかった。何か狙いがあるのか、それともブラフか、どちらにせよ、あのバーストは油断ならない存在だ。
この場合はバトラーの判断に委ねられるが……………夜宵はそれでもアタックする覚悟を決めたようだ。やはりここで行くのが真のカードバトラーと言えるであろう。
「結構楽しかったわ!ピコデビモンでラストアタック!!!」
夜宵のピコデビモンによる渾身のアタック。だが、ここに来て、椎名のバーストが勢いよくオープンする。椎名はこの時を待っていた。リザーブにコアが貯まるその瞬間を、
「相手のアタックにより私のバーストを発動!」
「え!?このタイミングで!?」
そのカードとは、
「緑のバーストマジック!トライアングルバースト!」
「!?!」
「その効果により、コスト4以下のスピリット1枚をノーコスト召喚する!来て!ブイモン!…………さらにコストを払い、フラッシュ効果で、魂鬼を疲労!」
手札4⇨3
リザーブ6⇨0
ブイモンLV2(3)BP4000
トラッシュ5⇨8
トライアングルの緑の光の中から、【アーマー進化】によって手札に戻ってきたブイモンが現れた。その額に金色のV字を輝かせている。
残ったトライアングルはそのまま魂鬼を捕らえる。魂鬼は身動きが取れなくなってしまった。
「ピコデビモンのアタックはブイモンでブロックだ!」
ピコデビモンの注射器のような物を飛ばす攻撃はブイモンには全く通じない。全て腕で払いのける。そしてブイモンは空中へと飛び上がり、得意の頭突きをピコデビモンにおみまいして、地面に叩き落とし、爆発したかに見えたが、
夜宵にも渾身の一手はあった。いざという時の保険が、その手札には握られていたのだ。夜宵は勢いよくBパッドにそれを叩きつけて発揮を宣言する。
「フラッシュマジック!式鬼神オブザデッド!」
「!?!」
「この効果で、コストを支払い、トラッシュにいるもう1体のピコデビモンを召喚!不足コストはデビモン以外の全てのスピリットから確保する!………………さらにその召喚時の効果でカードを1枚ドロー!」
手札4⇨3⇨4
魂鬼(1⇨0)消滅
オーガモン(2⇨0)消滅
ピコデビモン(1⇨0)消滅
トラッシュ4s⇨7s
ピコデビモンLV1(1)BP1000
ブイモンと戦っていたピコデビモンを含めて、デビモン以外のスピリットが一気に消滅してしまうが、夜宵の場に闇の瘴気が立ち込める。そしてそこから新たに飛び出してきたのは新たなるピコデビモンだった。
式鬼神オブザデッドは、トラッシュにある「呪鬼」「霊獣」スピリット1体をコストを支払って召喚する効果のあるマジックカードだ。
「……これで終わりよ!アタック!」
ブイモンはバトルしてしまったせいで現在は疲労状態。もう椎名を守るスピリットは存在しなかった。ピコデビモンが椎名の最後のライフをめがけて飛翔する。
ーだが、最後まで何があるかはわからないのが勝負の理論である。椎名はさらに1枚のカードを引き抜く。それはまさしく奇跡の一枚。
「フラッシュタイミング!ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、青き稲妻、ライドラモンをLV3で召喚!」
ブイモン(3⇨2)LV2⇨1
トラッシュ8⇨9
ライドラモンLV1(2)BP5000
「……何ですって!?」
独特な形をした黒い卵が、ピコデビモンの飛翔を邪魔するように浮遊する。ある程度そうすると、それはブイモンに吸い込まれるように飛んでいき、衝突、混ざり合い、黒いアーマーに青の雷を落とす緑のアーマー体、ライドラモンが召喚された。
「ライドラモンの召喚時でボイドからコア2つをトラッシュに追加!…………そしてライドラモンでピコデビモンをブロック!」
トラッシュ9⇨11
【アーマー進化】で召喚されたスピリットは当然新たな召喚扱いなので、回復状態。ブロックが可能だ。空中に浮かぶピコデビモンめがけて飛び立つライドラモン。青き稲妻を纏った一撃でそれを瞬時に引き裂いてみせた。
「…………ターンエンド」
デビモンLV1(1)BP5000(疲労)
No.3ロックハンドLV1
バースト無
椎名は夜宵の猛攻を何とか凌ぐことに成功。それと同時にこのバトルの勝利がほぼ確定する。当然だ。何せ夜宵の場には疲労しているデビモンと、ネクサスのみ。使用できるコアもたった2つ。ライフも後2つ。これはライドラモンの効果の射程範囲内だ。勝負は最後まで何があるかわからないとは言え、流石にこのコア数では次の椎名の攻撃を耐えるのは難しい。
[ターン06]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨12
トラッシュ11⇨0
ライドラモン(疲労⇨回復)
「メインステップでライドラモンのLVを3に上げ、アタックステップ!…………いけぇ!ライドラモン!」
ライドラモンは凄まじい速度で地を蹴り、走り出す。
「……ライフで受ける」
ライフ2⇨1
ライドラモンはそのまま勢いを殺さず、夜宵のライフを体当たりで破壊する。そしてそのまま椎名はライドラモンの第2の効果を発揮させる。
「ライドラモンは相手のライフを破壊した時!さらにもう1つのライフを破壊する!………轟の雷!ブルーサンダー!!!」
「………!!……やっぱりよく当たるなぁ、私の占い………ッ!!」
ライフ1⇨0
最後にそう呟く夜宵。自分の色は紫。今日の紫の運勢は最悪だった。
ライドラモンのトドメの落雷が、夜宵の最後のライフを砕き、椎名に勝利を収めさせた。バトルの終わりに伴い、スピリット達がゆっくりと消滅していく、残っていたのはデビモンとライドラモンだけだった。
「はぁ、負けちゃったぁ、流石は【朱雀】を倒す程のバトラーねぇ」
「へへ!……楽しいバトルだったよ!夜宵ちゃん!!」
お互いに満足げな表情で話す夜宵と椎名。それほどまでにこのバトルが楽しかったと言えよう。だが、ここで来客が訪れる。真夏、司、雅治の3人だ。彼らは階段を走りながらこのバトル場のてっぺんまで上ってきたのだ。
「おぉ!いたいた!探したでぇ、椎名!」
「真夏!司!雅治!……あれ!?真夏用事あるんじゃなかったっけ?」
「いや、あれやで、これは…………早く終わったから様子を見に行こかなぁーおもてな」
「まぁ、見つかってよかったよ」
「全くだ」
「てか、なんで司まで…………」
「………うるせぇ」
普通に語らい出す4人だったが、
「そう言えば、そこの人は誰や?」
「あっ!そうそう!聞いて驚かないでねぇ!この人は!…………」
真夏が聞く。椎名が夜宵を紹介しようとし、他の皆を驚かせようとしたその時だった。夜宵は黒いニット帽を取り、勢いよく抱きついた。その相手は【朱雀】こと、赤羽司だった。
「司ちゃぁぁぁぁあん!!!!会いたかったぁ!」
「「え、えぇぇぇ!?」」
それを見て驚く、椎名と真夏。真夏に至っては夜宵ちゃんがここにいることに関しても驚いていた。真夏は彼女のファンと言うほどでもないが、当然知名度の高い人物であるため、知ってはいた。
側にいた雅治はその顔を見て思い出す。この人は自分達が昔から知っている人物であると、司はイラついたような表情で彼女の名を叫んだ。
「なんでてめぇがここにいるんだぁぁぁぁあ!!夜宵ぃ!!!!」
椎名と真夏が落ち着くのに3分ほどの時間を有した。それから改めて雅治からの説明が入る。彼女達はその話をよぉく耳を傾けて聞いた。
「えぇっと、……2人とも知ってると思うけど、この夜宵ちゃんこと、【紫治 夜宵】ちゃんは、僕と司とは昔馴染みなんだ」
「ほ、ホンマかいな」
「いいなぁ」
そう、彼らは昔からの友人だった。出会ったのは10年くらい前。赤羽家の歴代当主達の供養のために彼女の父が出向いたのがきっかけだった。夜宵が司に好意を寄せるようになったのはここからだった。同じく司が女子が苦手になるのはこれが始まりだった。
「昔馴染みって言うよりかは、司ちゃんと私は婚約者って言った方がいいかな?」
「誰がてめぇみてぇな尻軽女と俺が婚約したよ」
「尻軽じゃないですぅ!昔から司ちゃん一筋ですぅ!片手にケチャップ持ってる人が何言ってるの!?私のラジオ聴いてる証拠じゃない!!」
「あぁ、そうか、今日の赤属性のラッキーアイテムだったから」
「…………偶々だ」
「あぁ!ちょっとどこ行くの!?司ちゃぁぁぁぁあん!」
司はそれだけ言い残すと、買ったばかりのケチャップを投げ捨ててそのまま去っていく。人とはどこで繋がっているのかわからないものだと思った椎名であった。
******
これはその日の夜。夜宵は自宅に帰宅した。彼女の家はそれはそれは豪華な屋敷であった。扉に入るなり大勢の召使いが彼女をお出迎えする。そして夜宵はサングラスとニット帽を外し彼らに渡した。
疲れたような顔をしながらも、夜宵は自分の部屋に戻ろうとするが、その道中、ある人物とすれ違う。彼女の姉だ。夜宵と同じく美人だが、見た目だけでも妙に刺々しい印象を受ける。
「どうだった?夜宵、芽座椎名は当たり?それともハズレ?」
「……ごめんなさいお姉様。芽座椎名は実力は伴っていますが、現段階では判断できませんでした…………でも、赤羽司は間違いなく【アレ】に目覚めつつあります」
「あら、赤羽家の長男にもあったの?」
夜宵な雰囲気は椎名達と話していた時とは明らかに別人だった。それが彼女の本性なのか、はたまた相手が自分の姉だからかは定かでない。
「まぁ、いいわ、あんたはさっさとあんなアイドルじみた活動なんか辞めて、今日みたいに【計画】の手伝いをしなさい!…お父様もそれを望んでいるわ」
「お姉様、あれはもう私の趣味なのよ、辞めちゃったら周りの人にも迷惑がかかっちゃう、今更辞められないわ」
「あぁ、…………そっ」
そう言って彼女は夜宵の横を通り過ぎて行った。あまり機嫌が良さそうな顔ではなかった。
つかみどころの無い会話だったが、この界放市で何かが起ころうとしているのは確かなことであった。
〈本日のハイライトカード!!〉
「はい!椎名でーす!今回はこいつ!【ライドラモン】!!」
「ライドラモンは私が使う緑のアーマー体スピリット!相手のライフを破壊すると、さらに相手のライフをもう1つ砕くことができるよ!……夜宵ちゃん可愛かったなぁ!またいつか、会えるよね!」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
なんだかんだ投稿できました。
このお話。実は最初に夜宵が言った占いが全部当たってます笑。
《※お詫びと謝罪》
この度は【妖華吸血爪】のフラッシュ効果を、誤って1体ではなく全体に対して使用していたことを大変深くお詫び申し上げます。バトル内容は少々返させていたきました。
次回からはこのようなことが起こらぬよう。気を引き締めて書き留めていきます。本当に申し訳ありませんでした。