「………う〜〜ん。ダメだ、どの資料を漁っても、欲しい情報が見つからない」
界放市ジークフリード区。バトスピ学園ジークフリード校。芽座椎名の母校である。
今、芽座椎名はその学内にある図書館にいた。様々なバトスピの歴史が綴られているこの図書館だが、それでも、椎名が欲しい情報が詰まった本は出てこなかった。
もちろん、欲しい情報はロイヤルナイツに関する事だ。確かにロイヤルナイツに関する書類ならある。だが、それら全てが集結した時、何が起こるのかは一切記されてはいないのだ。
「………どうや、見つかったか、椎名?」
「おぉ真夏。いや、全然ダメだよ………ここは本当に由緒正しき界放市のバトスピ学園なのか?」
「ディスんなディスんな、学生時代に殆ど足運んでないくせに」
椎名に声を掛ける「真夏」と呼ばれる関西弁混じりの女性。
彼女の名は「緑坂真夏」…………
椎名の同窓生であり、親友である。今は教師となり、ジークフリード校でバトスピを教えている。
「………つか、真夏が教師とはね〜〜」
「ごっつ驚いたわ、まさか今界放市にいて、学校の図書館借りたいだなんて急に電話して来るんやもん」
「いや〜〜ごめんごめん、宛がなくてさ」
椎名が界放市を去ってから3年が経過している。久し振りに親友水入らずの会話に、和まされる。
そんな折、真夏は椎名がロイヤルナイツに関係する本を手に取っているのを目にし…………
「なんでロイヤルナイツなんか………」
「あ、いや、別に何でも」
「………ま、まさか芽座葉月が」
「だから何でもないって、心配しないでよ」
長い事椎名を見て来ている真夏にはわかる。咄嗟についた彼女が吐いた言葉が嘘で、自分の直感が真実である事を…………
いつもそうだ。大事な事は言わず、全て自分だけで解決しようととする。
「………変わらへんな、そう言うとこ」
「…………ごめん」
葉月との戦いに、真夏を勝手に巻き込むわけにはいかない。そう思っている椎名は、敢えて彼女には何を告げなかった。
ただ、そう言う気持ちは、真夏には筒抜けである。
そしてそんな椎名に、一通の電話が鳴り響く。椎名は取り敢えずBパッドを取り出し、着信に出てみる。
「はい」
《椎名。よかった、オマエは無事のようだな》
「おぉバーク………無事って?」
「え?……バークって、あのバーク・アゼムの事かいな?」
「うん、まぁね」
椎名とは協力関係にある、バーク・アゼムからの着信であった。
真夏との会話を電話越しに聞いたバークは「オマエ今どこにいる?」と一言。椎名はそれに対し「母校」とだけ告げた。
「そんな事より、無事ってどう言う事だよ。なんかあったのか?」
《………落ち着いて聞け………昨日、プロバトラーの一木花火がオーストラリアで何者かの襲撃に遭い、倒れた》
「ッ………なに、花火さんが!?」
自分の兄貴分に等しい存在である、一木花火の突然の負傷報告に、椎名は声を荒げ、戸惑いを見せる。その声を聞くなり、真夏もより一層険しい表情を見せると同時に、やはり何かあったに違いないと確信を持つ。
《意識は不明で、詳しい事情はまだ何もわからないとの事だ………これは飽くまでオレの仮説なんだが、それをやったのは、芽座葉月だ》
「!!」
《彼をあそこまで痛めつけられるカードバトラーはそういない。確認は取れていないが、おそらく『オメガモン』も盗られているだろう》
「…………」
………『オメガモン』
一木花火の持つロイヤルナイツの一種で、葉月のアルファモンと同じくロイヤルナイツの中でもトップクラスのスペックを誇るとされている。それが葉月の手に渡ったとなると、いよいよ持って深刻な状況だ。
《………後、オマエの直感は的中していたよ》
「ッ……まさかわかったのか!?……ロイヤルナイツが全て集まったら、何が起こるのかを」
《あぁ》
ここ数日、米立の広大な図書館でその事を調べていたバーク。エニー・アゼムの子孫である彼でさえ知らなかった事実を今、椎名にも語り出す。
《………ルーチェモン》
「!?」
《ロイヤルナイツが全て集結した時に復活するとされる、大天使だ》
バークは結論から語り出す。
………ルーチェモン。名前からして、デジタルスピリットだろうか。だが、バークの口振りからして、カードではなく、どうやら実在する存在のようだ。
《大天使と言っても、その実態や、やって来た所業は悪魔に等しい。鬼などよりも強大な力を持つ彼は、鬼王ノヴァがエニー・アゼムと芽座一族に敗れた後、世界を滅ぼそうと目論むが、またしてもエニー・アゼムたちが阻止。その力は13枚のロイヤルナイツのカードに分断され、今も深い眠りについていると言う…………》
「…………デュークモン達に、そのルーチェモンの力が……!?」
バークにそう言われた直後、椎名はデッキからデュークモンのカードを取り出し、それを見つめる。
今まで何も気にせず使用して来たロイヤルナイツのカード達には、その世界を滅ぼそうと目論みを立てた大天使の力が含まれていたのだ。
《13枚のロイヤルナイツが揃うと、ルーチェモンの力が共鳴し合い、復活の助力をしてしまうかもしれない。そう考えた芽座一族は、ロイヤルナイツのカード達を世界各国にばら撒いたのだ。二度と揃わなくさせるために》
「だから芽座一族の祠には、最初からマグナモンとデュークモンしかいなかったのか……………待て、じゃあ葉月はそんな危険な奴を復活させようとしているのか!?」
《それはわからん。アイツがそれを知っててロイヤルナイツを集めようとしているとは思えないが…………兎に角だ、一木花火の元へはオレが行く。オマエは心配せず、今のうちに界放市で英気を養っておけ》
「…………あぁ、わかったよ」
その言葉を最後に、椎名はバークとの通話を切った。花火の怪我とロイヤルナイツの情報がどっちも頭の中に入り、まだその困惑を抑えられない。
だが目的は定まった。ロイヤルナイツを集めようとする葉月を止め、ルーチェモンの復活を阻止。それだけが判明しただけでも十分な進歩だ。
「………休んでなんか、いられないな。葉月に取られる前に、私が残りのロイヤルナイツを集めないと」
「椎名………」
気を張り詰めている椎名。バークの忠告も、受ける気はないらしい。
真夏は、そんな余裕のない椎名を見て…………
「椎名。私がいくら止めようとした所で、結局戦いに行くんやろ?………もうわかりきってんねん」
「………真夏」
「そんで、私らみたいな一般人が敵う敵でもないって言うのも、わかんねん。だから、せめて、帰って来て、また元気な顔見せてーな。それだけが、私の願いや」
「…………あぁ、また来るよ」
椎名は真夏からある1枚のカードを受け取りながら、その言葉も真摯に受け止めた。命を賭ける気などない、必ず生きて帰って来る、そう誓って…………
「ふ………やっぱ真夏は私の中のオアシスだな」
「イケメンみたいなセリフ言うなや、元頭の中お花畑のくせに」
「はは、違いないや」
2人は笑い合い、久し振りに楽しいひと時を過ごした。この時間が、バークの言う「英気を養う」時間になって……………
******
数時間後、取り敢えず他のロイヤルナイツを探すため、空港へと向かって歩みを進める椎名。
界放市の都心部を越え、空港を利用する者以外は誰も通ることのない一本道を、ただひたすらに歩いていた。周囲は原っぱや田んぼなどが目に入り、とてものどかだ。
そんな折、椎名に向かって歩いて来る少年が1人。精々12歳程度か、その少年は椎名の目の前まで来ると、立ち止まり、彼女の歩みを制止させた。
「………こんな所に子供?」
「芽座椎名だな。オレと、バトスピしろ」
「…………」
突然デッキを突きつけられる。少年の自信に満ち満ち溢れているこの表情は、どこか昔の葉月を連想させられてしまう。
「………悪いな。今お姉さん忙しくて、いつかやれる日を待ってるぞ」
「は、はぁ!?……お、おい何言ってんだテメェ!!」
華麗にスルーした椎名。言ってる意味がわからないと言わんばかりに、少年は声を張り上げる。
「は、はは〜ん。さては貴様、このオレに負けるのが怖いんだな」
「??……いや、別に」
「じゃあなんで断るんだよ!!」
「だから忙しいんだって。早くそこをどきなさいよ」
煽ってみるが、特に効果無し。世界を二度も救った伝説のカードバトラー、芽座椎名に隙はない。
「………貴様、このオレを誰だと思っている!!」
「……………子供」
「そう言う事じゃねぇ!!……聞いて驚くなよ、オレの名は「獅堂レオン」………あの芽座葉月の一番弟子だ!!」
「ッ!?……葉月の一番弟子!?」
「へへ、ようやく顔色が変わったな」
目の前にいる銀髪の少年の名は「獅堂レオン」…………
彼は誇らしげに芽座葉月の一番弟子と名乗る。その事実に、流石の椎名も驚きが隠せない。
「葉月が……弟子を?……何のために」
「オレは、師匠にバトスピのイロハを教えてもらった身!!……もう誰が相手でも負ける気がしねぇ、例えそれが、師匠の義理の妹だとしてもな!!」
「………」
「バトスピを楽しむモノだとかうつつを抜かしてる貴様が、「勝つためのバトル」を追求したこのオレに勝てるわけがねぇ!!……今日それを証明してやるぜ」
「……勝つためのバトル………か」
レオンと言う少年の言動や趣向、バトルに対する価値観などからは確かに、あの葉月に通じるものがある。どうやら本当に、彼は葉月の弟子らしい。
椎名的には、あの自分以外に興味のなさそうな葉月が弟子をとるとは到底思えないのだが………
「………いいぞ。やろうか、バトル。私が勝ったら葉月の所に連れて行ってもらう」
「へへ、ようやくその気になったか。勝つのは強者の特権。オマエを倒して、オレも師匠みたいに名乗りを上げてやる」
だが椎名にとってもこれは好都合。レオンを倒し、早急に葉月の元へと辿り着く事ができる。いつもは後手に回ってしまっていたが、今度はこっちから仕掛けられる…………
そう思っていた。
「その必要はないぞ、レオン」
「!!」
「し、師匠!?」
本の一瞬、瞬きの間に、今ではS級の犯罪者として有名となってしまっている、芽座葉月が、そこに現れていた。リーパーと一体化し、既に人ならざる者となっている椎名でも、その存在を今まで感じる事ができなかった。
この時点で椎名は、既に葉月も人ならざる者となっている事に気がつく。
「は、葉月………!!」
「椎名。随分とトゲが目立つ女になったな。そんな気色悪い目で、オレを見るな」
「………今まで、どこに行ってたんだよ」
「オマエの質問に、答えてやる義務はない」
約4年ぶりにあった義理の妹であるにもかかわらず、その態度はとても冷たい。それもそのはず、葉月は昔から、椎名の事を『妹』だと認識した事はないのだから…………
「し、師匠。なんでここに……オレに芽座椎名を倒させてくださいよ!!」
「レオン。残念だが、オマエでは椎名は倒せん」
「!!」
「アイツももう、それなりに怪物だからな………オマエは帰って、シスターズ達に稽古でもつけてもらえ」
「……は、はい」
勝てないと言われたのが、それなりにショックだったのか、レオンは肩をすくめながら、Bパッドの機能を使ってワームホールを形成。それを潜り抜けて去って行った…………
これで、椎名と葉月は2人きりとなって…………
「アンタが、弟子を取るなんてな。どう言う風の吹き回しだ?」
「…………オレの手持ちのロイヤルナイツは8枚」
「!?」
椎名の質問を無視し、又しても葉月は自分勝手に語り出す。
「オマエが戦った三聖騎シスターズどものロイヤルナイツと合わせて11枚。これが、どう言う事かわかるよな?」
「………私の2枚のロイヤルナイツと合わせて、13枚全てのロイヤルナイツが、現世に揃った!?………じゃあやっぱり、花火さんもアンタが」
「あぁ、奴のオメガモンもオレがもらった………そして、オマエの持つロイヤルナイツも、これから貰う」
「ッ………!!」
張り詰めた空気の中、花火を重傷に追いやったのも、葉月である事が判明。それを知った椎名は、頭に血が昇りかけるが、どうにかそれを抑えて…………
「アンタ、知ってんのかよ。ロイヤルナイツが揃ったら、どうなってしまうのかを」
「伝説の怪物、ルーチェモンが復活する………だろ?」
「ッ………まさか、それを知った上で!?」
「当然だ。伝説の怪物、オレにこそ相応しい力だ………その力は、幼少期より、オレを選んでいた」
「!?………どう言う事」
「これから敗れ去るオマエが、知る必要はない」
「………」
バークが調べ上げて来たロイヤルナイツの秘密、伝説の怪物ルーチェモン。葉月はそれさえをも承知の上で、ロイヤルナイツを揃え、蘇らせようとしていた。
そして「もう話は終わりだ」とでも告げるかのように、彼は己のBパッドを展開し、デッキをセット。椎名に大きな圧を掛ける。椎名は当然、そのバトルからは逃げる事はできない…………
「さぁ、決着をつけるぞ。オマエのロイヤルナイツを全ていただく、今ここで………」
「ロイヤルナイツは渡さない。絶対に阻止してみせる!!」
椎名もまたBパッドを展開し、デッキをセット。互いにバトルの準備を完了させる。
そして…………
………ゲートオープン、界放!!
およそ4年ぶりに、2人のバトルスピリッツが幕を開けた。この戦いは、世界の存亡が掛けられていると言っても過言ではない、危険なモノ…………
それに臆せず、椎名の第1ターンが幕を開ける。
[ターン01]芽座椎名
「メインステップ……ワームモンを召喚」
ー【ワームモン】LV1(1)BP3000
椎名の場に、可愛らしい芋虫型の成長期デジタルスピリット、ワームモンが召喚される。その効果はブイモン、ギルモンと同様に、サーチ効果だ。
「召喚時効果、デッキから2枚オープン、その中にある、完全体か究極体のデジタルスピリット1枚を手札に加える…………よし、私はデュークモンのカードを手札へ」
「………」
早速。椎名はエースカードで、尚且つロイヤルナイツの一柱である「デュークモン」のカードを引き当てて見せる。
「ターンエンド」
手札:5
場:【ワームモン】LV1
バースト:【無】
幸先の良いスタートを切り、第1ターン目をエンドとする椎名。だが、気は抜かず、手札を固く握り締め、次の葉月のターンに備える。
[ターン02]芽座葉月
「メインステップ…………犀ボーグを召喚。効果でコアブースト」
ー【犀ボーグ〈R〉】LV2(3)BP5000
葉月が手始めに呼び出したのは、犀の姿をしたサイボーグ。背中にキャノン砲を備えているのが特徴的だ。彼はその効果でさりげなくコアを1つ増加させる。
「バーストをセットし、ターンエンド」
手札:3
場:【犀ボーグ〈R〉】LV2
バースト:【有】
…………『バースト。アルファモンか?』
葉月のターンエンドの宣言と共に、椎名はそう思考した。葉月の持つロイヤルナイツの1つにして、彼のエース「アルファモン」…………
それは強力なバースト効果持ちのスピリット。警戒心を強めるのは、無理もない事だ。
[ターン03]芽座椎名
「メインステップ………【アーマー進化】発揮!!……対象はワームモン」
「!!」
「現れよ、黄金の守護竜………マグナモン!!」
ー【マグナモン】LV3(4)BP10000
ターン開始早々に仕掛ける。場のワームモンがデジタル粒子となり消滅、椎名の手札へと帰還すると、その代わりになるように、黄金の鎧をその身に纏う、青き竜人が降り立つ。
そのスピリットの名はマグナモン。椎名の持つ強力なスピリットにして、ロイヤルナイツの一柱。
「……マグナモン。もう一度貴様を手中に収める日が来たか」
「召喚時効果!!……最もコストの低い、相手スピリット1体を破壊する…………黄金の波動、エクストリーム・ジハードッッ!!」
マグナモンは現れるなり、全身から黄金の波動を解き放つ。葉月の場にいる犀ボーグはそれから逃れられず、たちまち飲み込まれていき、爆散していった。
だが、それをされるのは、葉月も計算の内だったらしく…………
「召喚時効果発揮後のバースト、双翼乱舞」
「ッ……アルファモンじゃない?」
「効果により、デッキから2枚ドロー」
警戒していたバーストカードは、アルファモンではなく、採用率の高いバーストマジック「双翼乱舞」…………
効果により、彼は2枚のカードを引く。
「………アタックステップ、マグナモン!!」
「ライフだ」
〈ライフ5➡︎4〉芽座葉月
予想がハズレ、少し動揺するが、すぐさま切り替えてマグナモンにアタックの指示。黄金のオーラを纏った拳の一撃が、葉月のライフバリア1つを砕いた。
「………ターンエンドだ」
手札:6
場:【マグナモン】LV3
バースト:【無】
フィールドに無限ブロック効果を持つマグナモンを備え、そのターンをエンドとする椎名。
次はどこまでもその一手一手が読めない、葉月のターンだ。
[ターン04]芽座葉月
「メインステップ………2体目の犀ボーグを召喚。コアブースト」
ー【犀ボーグ〈R〉】LV2(2)BP5000
マグナモンに破壊された犀ボーグが又しても出現。その効果で葉月のコアが増える。そして、その増えたコアを使い、彼は手札から別のスピリットカードを召喚していく………
「さらに来い、ハックモン」
「!!」
ー【ハックモン】LV2(2)BP4000
葉月のフィールドに現れたのは、赤いマント、ゴーグルを着用した、小型の白い竜。一見すると、ただの成長期のデジタルスピリットだが、椎名はこれが、あのスピリットに進化する事を知っている…………
「召喚時効果……5枚オープンし、その中の対象カードを加える………ジエスモン」
「!!」
「よってこれを手札に加え、そのままハックモンを対象に煌臨。現れよ、白きロイヤルナイツ………ジエスモン!!」
ー【ジエスモン】LV3(5)BP14000
ハックモンの足元から出現した大竜巻。彼はその中でデジタル粒子を身に纏い、大きな成長を果たす。
やがてハックモンだったそれは、大竜巻を容易く一刀両断し、その姿を見せる。全身が剣で構成されたような、鋭い身体を持つロイヤルナイツの一柱、ジエスモンだ。
「ジエスモン………」
「ハックモンはその効果で3つのコアをジエスモンに齎す…………アタックステップだ、やれ、ジエスモン!!」
ジエスモンは高速で浮遊し、椎名のライフバリアへと迫る。
「ジエスモンはその効果により、ブロックされない」
「………ライフで受ける…………ぐっ!?」
〈ライフ5➡︎4〉芽座椎名
ジエスモンの剣撃が、椎名のライフバリアを紙切れのように斬り裂く。いつもとは違う、大きなライフダメージに、椎名は痛みと共に、過酷だったDr.Aらとの戦いを瞬間的に思い浮かべる。
「………ターンエンド」
手札:5
場:【ジエスモン】LV3
【犀ボーグ】LV2
バースト:【無】
マグナモンとジエスモン。2体のロイヤルナイツが出揃い、バトルは中盤の第5ターン目へと移行していく…………
[ターン05]芽座椎名
「メインステップ………マグナモンのLVを2に下げ、もう一度ワームモンを召喚」
ー【ワームモン】LV2(3)BP5000
「召喚時効果。2枚オープン………!」
再びワームモンを召喚し、その効果を発揮させる椎名。そのオープンされた2枚のカードの中には、親友、真夏から渡されたカード…………
必ず無事に戻って来ると誓いを込めたカードである。
「私はこのカード『リリモン』を手札に加える」
「………緑坂真夏のカード………?」
「行くぞ葉月、私は負ける訳には行かないんだ。アタックステップ、その開始時に、ワームモンの【進化:緑】を発揮!!……緑の成熟期スピリット、スティングモンに進化!!」
ー【スティングモン】LV2(4)BP8000
「効果で1つ、コアブースト」
ワームモンが0と1のデジタルコードにその身を包み込まれていき、進化を果たす。新たに現れたのは、甲殻を持つスマートな昆虫戦士、スティングモン。
「さらにスティングモンでアタック!!……その効果でもう1つコアを増やし、【超進化:緑】により、緑の完全体スピリット、リリモンを召喚!!」
ー【リリモン】LV3(5)BP12000
立て続けに発揮される、デジタルスピリット特有の進化コンボ。スティングモンは可憐且つ巨大な花に包み込まれていき、そこで妖精のような姿に進化を果たす。
やがて花は開花し、その中から緑の完全体デジタルスピリットにして、芽座椎名の親友、緑坂真夏のエースカード、リリモンが、しなやかにフィールドへ舞い踊る。
「使わせてもらうよ、真夏。リリモンでアタック!!」
学生時代、何度も間近で見て来た真夏のリリモン。それを今、初めて椎名が使用して行く。
「その効果でコア2つを自身にブーストし、回復。さらに【旋風:1】の効果でジエスモンを重疲労させる!!」
「!!」
「フラウカノン!!」
リリモンは両腕で装備する、花の形をした巨大な砲手から、花々木々などの自然の力が込められたエネルギー弾を発射。それはジエスモンに被弾し、ジエスモンは高重力にでも掛かったかのように、地面へ倒れ行く。
「一度の回復でも疲労状態に戻るだけの重疲労状態なら、ジエスモンのアタックは封じ込められる」
「………」
「そしてこれが、リリモンの本命のアタック!!」
「ライフだ」
〈ライフ4➡︎3〉芽座葉月
リリモンはフラウカノンを仕舞うと、軽やかに宙を舞い、葉月のライフバリアに接近。それを蹴り付け、1つ破壊する。
そして直後に、葉月は手札から1枚のカードを抜き取り…………
「オレのライフ減少により、手札から絶甲氷盾の効果を発揮」
「!?」
「このアタックステップを強制終了させる」
放たれたマジックカードは「絶甲氷盾〈R〉」…………
その効果により、いくら強力な効果を持つリリモンがいても、ロイヤルナイツの称号を持つマグナモンがいても、少なからず、このターン、椎名はアタックができなくて…………
「………ターンエンドだ」
手札:7
場:【マグナモン】LV3
【リリモン】LV3
バースト:【無】
アタックステップは止められるものの、ロイヤルナイツのジエスモンを重疲労状態は追いやり、それからの次の攻撃を阻止した椎名。一度そのターンをエンドとする。
次は劣勢に立たされているにも関わらず、何故か焦り一つ見せない、葉月のターンだ。
[ターン06]芽座葉月
「………メインステップ。アルマジトカゲを2体、連続召喚」
ー【アルマジトカゲ】LV2(2)BP3000
ー【アルマジトカゲ】LV2(2)BP3000
葉月のフィールドに、硬い鱗を持つ小さなトカゲ、アルマジトカゲが2体出現。その効果は、白でありながら、赤としても扱えると言う、非常にシンプルな力。
「マジック、ソウルドロー。コストにソウルコアを支払う事で、3枚のカードをドローする」
スピリットの召喚と手札の増加を壮大に行い、己のデッキを回転させる葉月だが、肝心のジエスモンは、リリモンの効果によって、今尚疲労状態。
その上で、さらに無限ブロック効果を持つマグナモンが、椎名の場で構えているため、他のスピリットでも攻撃ができなくて…………
「………ターンエンドだ」
手札:5
場:【ジエスモン】LV3
【犀ボーグ〈R〉】LV2
【アルマジトカゲ】LV2
【アルマジトカゲ】LV2
バースト:【無】
可能な限り、できる事を終えたのか、そのままターンエンドの宣言。再び椎名へとターンが巡って来る。
椎名からしたら、この有利な状況を保ったまま、どうにか勝ちへと向かいたい所だが…………
…………『あの手札には、何かある』
そう感じずにはいられなかった。
[ターン07]芽座椎名
「メインステップ………ワームモン、スティングモンを連続召喚」
ー【ワームモン】LV1(1)BP3000
ー【スティングモン】LV1(2)BP5000
前のターンの進化コンボで利用したスピリット達を一斉召喚する椎名。ワームモンの召喚時効果が発揮されるが、今回は不発に終わる。
「アタックステップ!!……リリモンでアタック、効果でコア2つをボイドから追加し、回復。【旋風:1】でジエスモンを再び重疲労状態に!!」
今一度、リリモンの効果が猛威を振るう。フラウカノンが被弾し、ジエスモンはまた重疲労状態に陥る。
「阻め、アルマジトカゲ」
まるで石ころでも投げるような、軽い気持ちでブロックの宣言を告げる葉月。そんな彼からの命令でも、一生懸命にリリモンへ立ち向かうアルマジトカゲ。
駒のように回転し、リリモンへと襲い掛かるが、平手打ちで弾き返され、無惨にも爆散してしまう。
「回復したリリモンでもう一度アタック!!……その効果でコアを増やし、残ったアルマジトカゲ1体を重疲労」
三度目のフラウカノン。今度は2体目のアルマジトカゲに命中し、それを地面に磔にする。
「犀ボーグ」
二度目のブロックは犀ボーグ。リリモンを仕留めようと、背中のキャノン砲から砲弾を射出しようとするが、その前にリリモンのフラウカノンが顔面に直撃。力尽きて爆散してしまう。
これで、葉月のフィールドは重疲労状態となったジエスモンとアルマジトカゲが1体ずつ、ブロッカーは全て消え去って…………
残ったスピリットでフルアタックすれば勝てると言う、圧倒的に優位な状況。だが、椎名は…………
………『勝てる、勝てそうだけど………なんだ、この葉月から滲み出て来る、途方もないプレッシャーは……!?』
そう感じ、戸惑っていた。
手元にロイヤルナイツが増えすぎた影響か、葉月がもうただの人ではなくなっている事はなんとなく気づいていたが、それにしても彼から発せられるプレッシャーは尋常ではなかった。
しかしこの状況、カードバトラーであるのならば、勇気を持って前へ出る以外の選択肢はない……………
「………マグナモンで、アタック!!」
振り絞った勇気で、マグナモンへアタックの宣言を送る椎名。マグナモンは首を縦に振り、低空飛行で彼のライフバリアへと飛び行く……………
だが、案の定と言った所か。葉月は手札からある1枚のカードを切り、それをBパッドへと叩きつけた。
「フラッシュ………ロイヤルナイツ、デュナスモンの効果を発揮」
「ッ………別のロイヤルナイツ!?」
「相手のコスト6以上のスピリットがアタックしている時、1コスト支払い、手札から召喚できる!!………現れよ、飛竜のロイヤルナイツ、デュナスモン!!」
ー【デュナスモン】LV3(4)BP17000
空を切り、上空から葉月のフィールドへと現れたのは、飛竜の力を持つロイヤルナイツ、デュナスモン。デジタルスピリットの龍らしい顔と、白い鎧、紫の翼が印象に強く残る。
これは、葉月がオーストラリアのエアーズ・ロックで得た、新たなロイヤルナイツであり…………
「召喚アタック時効果、BP20000以下のスピリット1体を破壊する」
「!!」
「いい加減目障りだ、消えろ、リリモン」
デュナスモンは登場するなり、全身のオーラを飛竜の形へと変え、それをリリモンへと放つ。リリモンは避ける暇もなくそれに被弾したしまい、その身体燃え上がって消し炭となってしまう…………
「くっ……ごめん、真夏」
「謝る暇など与えんぞ………さらに手札からロイヤルナイツ、ロードナイトモンの効果を発揮」
「ッ………!?」
「互いのアタックステップ中にスピリットが召喚された時、このスピリットを1コストで召喚する………現れよ、正義のロイヤルナイツ、ロードナイトモン!!」
ー【ロードナイトモン】LV3(3)BP16000
華麗に舞う薔薇の花吹雪と共に姿を見せたのは、桃色の鎧を持つロイヤルナイツ、ロードナイトモン。
ロイヤルナイツの2体連続召喚に、流石の椎名も驚愕せざるを得ない。
「ロードナイトモンの召喚アタック時効果。このターンの間、相手スピリット1体のBP12000、0になれば破壊する………散れ、スティングモン」
「!!」
ー【スティングモン】BP5000➡︎0(破壊)
ロードナイトモンの鎧から伸びる4本の帯刃。それが鞭のようにしない、スティングモンを切り刻む。耐えられなくなったスティングモンは敢えなく爆散。
「マグナモンのアタックは、デュナスモンでブロックする!!」
「くっ………!!」
止まらない、止められないマグナモンのアタック。それをデュナスモンが阻み、ロイヤルナイツ同士の戦闘となる。
両腕を取り合い、取っ組み合いになる両者。最初こそ互角であったが、デュナスモンがマグナモンを上空へと蹴り上げた事で状況は一変。
マグナモンは上空でもなんとか耐性を立て直そうとするが、その前にデュナスモンが空いた両腕から高エネルギー弾を数弾発射。それらはマグナモンの堅牢な鎧を容易く砕き、それを爆散にまで追い込んだ。
「………これで、オマエのスピリットは貧弱な虫だけだ」
「…………」
デュナスモン、ロードナイトモンのコンボによるカウンターを受け、椎名の場は、成長期スピリットのワームモンのみとなってしまう。
「……1つだけ質問していいか?」
「…………」
突然手を止め、葉月に質問してもいいかと了承を得ようとする椎名。葉月は無視するが、それでも彼女は勝手に質問を投げ掛ける…………
「そんなにまで強くなって、葉月はいったい、何がしたいんだ?」
「………強くなる事に、何の問題がある」
「問題があるのはその手段だ!!……他の人を傷つけてまで強くなろうとする理由はなんだって聞いてんだ」
葉月の、執拗なまでにロイヤルナイツを集めて強くなろうとする理由を、椎名は訊いた。
葉月は少しだけ沈黙すると、ようやく椎名の質問に答える。
「………オレは、あの芽座一族だ。大昔、ロイヤルナイツを駆り、エニー・アゼムと共に鬼どもを絶滅させた、由緒正しき最強のバトスピ一族だ…………その子孫たるオレが最強を目指して、何が悪い?」
「…………いや、別に悪いとかじゃなくて」
「オレは、ジジイのように生温い考え方は持たない。必ず最強になり、芽座一族こそが、いやこのオレこそが最強であると、この世界に知らしめてやる」
「!!」
今、初めて聞いた気がした。葉月が強くなろうとする、本当の理由を…………
彼の言う『ジジイ』とは、彼の実の祖父、椎名の育ての親である「芽座六月」に他ならない。そんな彼が話題の一端として上がった時、椎名は…………
「葉月………それが、アンタの強くなりたい理由なのか。芽座一族……強さと、それに伴う名誉が、そんなに大事なのかよ」
「………あぁ、それがオレの全てだ」
「…………1つだけ、アンタに言わないといけない事があったんだ」
強くなりたい理由に、呆れる椎名だが『これを聞いたら、何か変わってくれるかもしれない』と思い、唇を震わしながらも、ある事を、葉月に告げる…………
「葉月………芽座六月、じっちゃんは…………じっちゃんは………」
「…………」
「じっちゃんは………死んだんだ」