バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

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第13話「予選へのカウントダウン、ホークモンの進化」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椎名は下校中だった。学園一の、いや、界放市一の祭り事、【界放リーグ】。その学園別代表選抜予選まで、残すところ後1週間。猛暑が続くこの夏に、それに参加するバトラーは皆、切磋琢磨しながら自身のデッキを磨いていた。

 

それに伴い、椎名も自分のデッキを調整しようと考えていた。だが、なかなかそれは上手くいっているとは言えなかった。

 

自分のマンションに帰る椎名。だが、自分の部屋のドアの前であることに気づく。

 

 

「?………鍵が開いてる……!?」

 

 

今朝閉めたはずの自分の部屋のドアの鍵が開いていたのだ。椎名は何事かと思い、恐る恐るそのドアをゆっくりと開ける。部屋はそこそこ広い。ドアの方向からリビングまで一直線に見える。そのリビングには椎名の顔見知りの人物がいた。白くて長い髭を生やした初老の男性だ。その男の姿を見て、椎名は思わず呆気にとらわれた。彼は椎名にとって最も大事な恩人であって、

 

 

「じ、じっちゃぁぁぁん!!」

「おぉ!しぃ!帰ったか!……待っとったぞぉぉー!」

 

 

靴をその場に脱ぎ捨ててそこまで一直線に走り行く椎名。椎名がじっちゃんと呼ぶこの老人こそが、親のいない椎名を育てて来た人物。名を【芽座 六月(めざ ろくがつ)】。椎名だけではない。今もなお、数多くの身寄りのない子供達を育てている人物だ。

 

六月は椎名の部屋の合鍵を所持していた。だからこそ部屋に上がることができたのだ。だからとて、普通は年頃の女の子の部屋に勝手に入るのはいささか問題になりそうだが、……その相手が椎名ならばそれも気にされない。

 

 

「じっちゃん!なんで、言ってくれないの!びっくりしたよ!………他の子の面倒は誰が見てるの?」

「ほっほ、シスターしかおらんじゃろ、なぁに、すぐ帰るよ」

 

 

他の子、と言うのは椎名と共に育った孤児の子供達のこと。椎名は今まで、その子達と家族や兄弟となんら変わらない関係を築いてきた。

 

 

「ええ!?すぐ帰るの?一緒にご飯でも食べようよ!」

「おぉ!椎名の手料理かぁ、久し振りに食べたいが、今回はちょっと野暮用でここまで来とるからのぉ、」

 

 

椎名が六月に会うのは約4ヶ月ぶり。年頃の女の子が育ての親に久しぶりに会えたのだ。少しでも長く一緒にいたいのだろう。

 

だが、六月は椎名にあるカードだけを渡してこの場を去ってしまう。

 

 

「椎名、もうすぐ【界放リーグ】の予選が始まるんじゃろう?……鍛えなくて良いのか?」

「あぁ、なんか調子が悪くてさ、なかなかいいデッキ作れないんだよね」

 

 

椎名は若干のスランプに陥っていた。いつもはバトルになれば本能のままにバトルをし、勝って来たが、それはただ自分のドローセンスが高かっただけ、一歩ズレたら即敗北していたバトルなど、いくつもあった。だからこそデッキ自体を強化しなくてはならないのだが、

 

色々と抜かしたくないカードや、枚数調整が難しくてとても苦労していた。それにこのジークフリード校での予選だったら、【朱雀】の司を視野に入れなければならない。他のライバルである雅治と真夏はなぜか【参加はしない。】と言ってたので、彼らの対策までしなくていいのが不幸中の幸いだった。もちろん椎名としても彼らには参加して欲しかったのだが、

 

 

「………それはお前がいろんなバトラーやデッキとバトルしてきたからじゃ」

「………え…!?」

「お前はきっとこれまでのバトルで数々のバトラーに触れ、それらが持っているであろうバトラーとデッキの絆を見てきた。自分のももちろんのぉ、だからこそカードがデッキから抜き辛くなっとるんじゃ」

「んーーー……………………………どう言うこと?」

「ほっほ、まだわからんくてええよ」

 

 

六月の言うことに頭を抱える椎名。確かにいささか難しいかもしれない。つまりはここまでのバトルで自分のデッキはこれ以上の強化ができないと、無意識のうちに考えてしまっているのだ。今の自分のデッキのカード達に恩情を感じているが故に。その心をより強くしてしまったのが、他のバトラーとそのデッキ達だ。

 

 

「そんな時は新たな力を得ればいいんじゃよ!……………気持ちをリセットせい!…ほい!」

 

 

そう言って六月は椎名にバトルスピリッツのカードを手渡した。それは光輝いていて、何が何だかわからない。だが、椎名はこれを見たとき、一瞬で気づいた。これは自分が欲していたもの。自分のデッキコンセプトを潰さずに、尚且つ強化できるカード。だと言うことに。

 

 

「こ、こんな凄いのど、どこで……!?」

「まぁ、もらっとけ、お前にぴったりなカードじゃ」

 

 

椎名は新たな力をもらい受け、新たにデッキ構築を始める。必ず良いデッキが作れることであろう。

 

 

******

 

 

時同じくして、ここはジークフリード校の体育館裏。普段はほとんど誰も通らないこの場所には、白銀のギサギサ頭が特徴的で、見た目から性格までキザな少年。赤羽司がいた。何やら細身で柄の悪そうな男と、それの取り巻き3人組と揉めているようだ。

 

 

「……こんなところに呼びつけてなんのようだ……俺は今デッキの調整で忙しいんだ」

 

 

司は柄の悪い男のパシリであろう、取り巻き3人組に呼び出されてここに来た。偉そうにしている柄の悪そうな男が、コンクリートでできた地面から立ち上がる。そして司を嘲笑うようにこう言った。

 

 

「お前が【朱雀】か、あの同年代の女に負けたって言うのは」

「………あれに言い訳などしない。馬鹿にしたいならなんとでも言え」

 

 

司はしょっちゅうこんな感じで不良に絡まれることがあった。それは自分の粗相な態度が、相手の癇に障ってしまうのがほとんどの原因だ。

 

 

「それでなぁ、【朱雀】……!……俺は今度の予選のために強いカードが欲しいのよ……」

「だからなんだ……俺のカードでも欲しいとか言うのか?」

「ビーーーーンゴー!!正解!女に負けた雑魚でもあの【赤羽一族】だ!強いカードの1枚や2枚持ってんだろぉ!?」

 

 

椎名が【朱雀】に勝ったという噂はあまり良き意味で広がらないこともあった。このようにして、【朱雀が女に負けた】という事実だけが伝わり、朱雀が本当は弱くてただの鴨。という身もふたもない嘘になってしまうことがある。

 

それは椎名がまだ無名のバトラーであることも理由に挙げられる。椎名の実力がわからない者は【朱雀】が女に負けた。という認識にしかならないのだろう。

 

司の前ではあれ以来このようなことが今回を含め、三度起こっている。もちろんそのような輩は全部返り討ちにしたのだが、

 

彼は有無を言わず、いつものように自分のBパッドを手提げカバンから取り出した。今回も返り討ちにする気満々だ。

 

 

「御託はいい、俺に勝ったらカードなんぞくれてやる、先ずは俺よりお前が強いと言うことを証明しろ」

「ふっふっ!そうこなくちゃなぁ!!」

 

 

柄の悪そうな男の裏でニタニタと笑う取り巻き達。彼らは4人とも、あの【朱雀】か本当に弱くなったと勘違いをしている。腕の立つバトラーなら普通は司が弱くなっていない。寧ろ強くなっていることに気づくはずだ。だが、彼らにはそれが分かっていない。つまり彼らは司にとっては本当に【雑魚】のような存在であった。

 

柄の悪い男もBパッドを取り出し、展開。そして始まる。おそらくこの物語において1番情けないバトルが、

 

 

「「ゲートオープン!界放!!」」

 

 

ーバトルが始まる。先行は柄の悪い男だ。

 

 

[ターン01]柄の悪い男

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「はっはぁ!!メインステップだ!俺はゴツモンをLV1で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

男がテンションを上げながら召喚したのは白のスピリット。岩を擬人化したかのような成長期スピリット、ゴツモンが召喚された。

 

男はなぜかこのゴツモンを召喚しただけでなぜか勝ち誇ったかのような顔になり、こう言った。

 

「どうだ!俺はこう見えても【九白(くしろ)一族】の人間なんだよ!」

 

 

男がそういうと、他の取り巻き達も粋がっているように騒ぎ出す。

 

【九白一族】。元々存在する古来の一族だが、10年前から【デジタルスピリットの多様化】により、白のデジタルスピリット達を操るようになる。強者が特に多いが、それは最早宗教じみており、現在の総数は約300人はいると言われている。それはどの一族よりも子孫繁栄の意識が強いからだろう。この一族も【紫治一族】同様、カードは【制限式】である。この男は、

 

 

「お前、ランク1の落ちこぼれだな?」

「………!!んだとぉ!」

「図星かよ………まぁ、【九白】のほとんどはオーディーン校だもんな、…聞いたことあるぜ、ランクが1以下の奴はオーディーン校には行けず、他の学園に行かないと行けないってな」

「ぐっ!!!!てんめぇ!!」

 

 

オーディーン校の理事長は【九白一族】の現在の頭領でもある。9年前から学園が立ち上げられた頃、この一族はこのオーディーン校に通わなくてはならなくなった。だが、それはランク2以上のものだけ、ランク1以下の者はオーディーン校に通う資格がなくなるのだ。

 

それ故にオーディーン校の生徒の大多数が【九白一族】の者を占めるため、別名【九白学園】とも呼ばれるほどだ。

 

この柄の悪い男がこんなジークフリード校にいると言うことはランク1以下で確定だったのだ。男はそのことを気にしているのか、司にそれを言われた途端に怒りの感情を露わにする。

 

 

「ターンエンドだ、ほら!かかってこいよ!」

ゴツモンLV1(1)BP2000

 

バースト無

 

 

先行の第1ターンではやることは限られる。男はそのターンを終えた。だが、この後、圧倒的な実力差を知ることになる。司を、【朱雀】を、【赤羽一族】を甘く見た報いを受けることになる。

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はイーズナを2体連続召喚する」

手札5⇨3

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

司が早速召喚したのは赤と黄色、2色の色を持つハイブリットスピリット、イタチのような姿のイーズナが2体現れた。

 

 

「さらに、俺はホークモンをLV1で召喚!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

トラッシュ1⇨2

 

 

司がさらに召喚したのは、このデッキの顔、ホークモン。器用に赤い翼を広げて場に降り立つ。

 

 

「召喚時効果!カードをオープン!」

オープンカード

【ハーピーガール】×

【ハーピーガール】×

【アクィラモン】○

 

 

効果は成功。ホークモンは「成熟期」「アーマー体」を1枚回収できる。これにより、司は「成熟期」のアクィラモンを手札に加えた。

 

 

「そして、イーズナ2体を消滅させて、ホークモンをLV2にアップさせる」

手札2⇨3

イーズナ(1⇨0)消滅

イーズナ(1⇨0)消滅

ホークモン(1⇨3)LV1⇨2

 

「な!?こいつ自分のスピリットを2体も………!!」

 

 

イーズナ達のコアが取り除かれたため、無惨だが、2体とも場から消滅した。カードアドバンテージ的にはだいぶ痛いが、ホークモンがこの早い段階でLVアップしたのはかなり大きいと言えた。

 

 

「アタックステップ、その開始時にホークモンの【進化:赤】を発揮、ホークモンを手札に戻し、「成熟期」のアクィラモンを召喚する!」

 

 

ホークモンに0と1のデジタルコードが巻きつけられていく、それは膨らんでいき、破裂。すると、新たに現れたのは頭部に2つ大きなツノを携える巨鳥型の成熟期スピリット、アクィラモンだ。

 

 

「ぐっ!!成熟期……!!」

 

 

男は司を妬むように成熟期スピリットのアクィラモンを睨みつける。

 

今までこういうことがしたかった。進化というものを。他の兄弟や親戚が羨ましかった。みんな息を吸うように進化してくるから、どうしても自分も一度やってみたかった。だが、自分には一切使うことが許されなかった。

 

もちろん。【九白一族】の大体はランク2。つまり、ほとんどの者は成熟期までの使用が許されていた。この男は単純に実力が備わっていないだけだ。

 

だが、この男は誰よりも成熟期のカードを、進化系のスピリットを、欲していた。実力が備わってないなど理由にしたくなかった。

 

 

「アクィラモンの召喚時効果、BP4000以下の相手スピリット1体を破壊する………くたばれ、ゴツモン」

 

 

アクィラモンの口内から放たれる業火が、男のゴツモンを焼き払った。アクィラモンはこの効果を召喚時とアタック時に発揮できる。

 

その後、司は呆れたような顔つきでアタックステップを継続させる。

 

 

「……アタックステップは継続だ、やれ、アクィラモン」

 

「ら、ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

アクィラモンの強烈な翼撃が、男のライフを1つ粉々にした。ガラス細工が割れたような音が場にこだまする。

 

 

「……ターンエンド」

アクィラモンLV2(3)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

できることを全て終え、このターンを終える司。たったこのターンだけで実力の違いが身に染みたのか、あんなにはしゃいでいた取り巻き達は既に沈黙し、怯えるような顔つきになっている。

 

 

[ターン03]柄の悪い男

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「……ぐっ!メインステップだ、2体目のゴツモンとアイスメイデン〈R〉を召喚する」

手札5⇨3

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

男は2体目のゴツモンと、小型のロボットを召喚する。このアイスメイデンのLV2のBPは5000。アクィラモンの破壊効果ではギリギリ破壊できないラインであった。

 

 

「アタックステップだ!いきやがれ!ゴツモン!」

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ゴツモンの硬い岩皮膚を活かした体当たりが炸裂する。ライフが1つ砕けるも、司の余裕そうな表情までを砕くことはできなかった。それがまた男の気に触る。

 

 

「ぐっ!……ターンエンド」

ゴツモンLV1(1)BP2000(疲労)

アイスメイデン〈R〉LV2(2)BP5000(回復)

 

バースト無

 

 

アクィラモンでは破壊されないアイスメイデンを残し、男はそのターンを終える。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

アクィラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、…………このターンで終わりだ」

「………はぁ!?……笑わせるぜ!アクィラモンの効果じゃアイスメイデンは破壊されないし、第1、俺のライフはまだ4だぞ!!ライフの計算もできねぇのかよ!【赤羽一族】は!!!」

 

 

突然の司の勝利宣言に腹を抱えて笑う男達。いくらなんでもそんなことはできないと、やはり【朱雀】はこけおどしのただの雑魚だと思い直しかける。だが、もちろんこれは本気だ。本気でこのターンで終わらせようとしていた。

 

 

「……俺は、異魔神ブレイブ、天魔神を召喚する」

手札4⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「!?!……異魔神ブレイブだとぉ!?」

 

 

アクィラモンの背後からゆっくりと天より舞い降りてくる天使のような異魔神ブレイブ。天魔神。左右に合体できる異魔神達の中でも扱いやすい効果を内蔵している部類だ。

 

 

「天魔神の右にアクィラモンを合体」

アクィラモン+天魔神LV2(3)BP9000

 

 

天魔神の右手から放たれる光線がアクィラモンと繋がる。異魔神ブレイブ独特の合体方法だ。

 

 

「アタックステップ………やれ!アクィラモン!効果でゴツモンを破壊……!」

 

 

アクィラモンの口内から放たれる業火が、ゴツモンを再び焼き払う。これだけでは彼のブロッカーを排除できないが、

 

 

「それがなんだってんだ!……俺のブロッカーのアイスメイデンは破壊できねぇぞ!」

「……天魔神の右合体時効果でBP6000以下のスピリットを破壊する………!!」

「な!?」

 

 

天魔神の右手に矢が待たれる。天魔神はそれを全力で小さな機械に槍投げの要領で投げつける。アイスメイデンはそれで串刺しにされ、爆発してしまった。

 

 

「だ、だが、たった1回のアタックでは俺のライフを0にはできねぇ!」

 

 

ブロッカーを排除してもアクィラモン自身は天魔神との合体でダブルシンボル。残り4つの男のライフを破壊できない。

 

だが、アクィラモンを操っているのは司。【朱雀】と呼ばれている彼が決めると言って決められないはずがない。

 

ーさらに手札の1枚を引き抜く。

 

 

「フラッシュマジック!…イエローリカバー……アクィラモンを回復する」

手札3⇨2

アクィラモン+天魔神(3⇨1)LV2⇨1(疲労⇨回復)

トラッシュ4⇨6

 

「……は、はぁ!?」

 

 

黄色のマジック。イエローリカバー。ターンに1回だけ使用でき、黄色のスピリットを1体回復させる効果を持つ。アクィラモンは今、天魔神との合体で、黄色のスピリットとしても扱っている。この効果を受けることができたのだ。

 

黄色い光を浴び、アクィラモンは回復する。これでダブルシンボルの2回アタック。合計4つのライフを減らせる算段が整った。

 

 

「さぁ、どう受ける?」

 

「ら、ライフだ………!!」

ライフ4⇨2

 

 

アクィラモンの強烈な脚の一撃が男のライフに刻まれる。それはいとも容易く2つ破壊された。

 

ーそして、

 

 

「トドメだ!………雑魚野郎!」

 

「………う、うそだぁぁぁぁあ!!」

ライフ2⇨0

 

 

男の悲痛の叫びも虚しく。アクィラモンは非情にその残りのライフを跡形もなく蹴散らした。

 

ー4ターン、僅か4ターンの出来事だった。

 

衝撃に吹き飛ばされる男。取り巻き達はその光景を目の当たりにし、恐れ慄き、腰が引けつつも、情けない背を司に見せながら、その男を置いてその場から逃亡した。

 

男も倒れてから腰が抜けて、立ち上がることができなかった。まさか実力の差がここまであるとは思っていなかった。ここまで完膚なきまでに叩き潰されるなど想像もしてなかった。全く弱くなってなどないじゃないかと何度も何度も心の中で叫ぶ。

 

司は少しだけ疲れた表情をしながらもその場を去って行く。ただ強いバトラーとバトルをするよりも、口先だけの弱者との方が疲れる。司はそう考えていた。

 

 

「やぁ、司、……僅か4ターンで決めるなんて、流石だね、」

「なんだ雅治、覗いてやがったのか、」

 

 

少し離れたところでひょっこりと現れたのは、彼の親友雅治。

 

司はずっと疑問に残っていたことを雅治に問うことにした。

 

 

「………お前、本当に【界放リーグ】に出ないのか?」

「……あぁ、今年はやめとくよ」

 

 

雅治はなぜか【界放リーグ】に出ないと言っていた。その理由は誰にも教えてはいなかった。親友の司でさえもその理由は知らない。

 

雅治本人にもその理由は分からなかった。体のどこからか、羞恥心や、劣等感が湧き出て来て、自分の本能が、大会に出るなと言っているような感覚だった。本当は出たいはずなのに。

 

 

「そんなにチンタラしてると、俺はもっとお前を追い越していくぞ」

「………………」

 

 

司の言葉に言い返せない雅治。2人は昔から競い合っていた。司は嫌だったのだ、張り合う相手が少なくなるのが、【界放リーグ】であれば、その張り合える相手はいくらでもいるからか、それ以上に雅治を問い詰めることはなかった。だが、司はこれだけは理解している。自分がこの世で一番張り合いがある相手は雅治だと言うことを。

 

雅治とて、参加したくないわけではなかった。本当の理由は司ではなく、椎名にあると言うことは、雅治自身も未だに気づかないことであって、

 

 

******

 

 

場所は変わり、ここは【紫治一族】の巨大な屋敷。夜宵と、その姉、【紫治 明日香(しち あすか)】と会話をしていた。その内容は明日の【界放リーグ】の予選についてだ。

 

 

「本当に出場しないつもりなんですか?お姉様」

「今までそんなのに興味なかったから1回も出たことなかったのよ、今さら出場なんて柄じゃないわ、あんただけ出場しなさい」

「で、でも、2人の方が進出できる確率が………」

「バカねぇ夜宵、毎年デスペラード校には強すぎて必ず出場できる奴がいる。そいつのせいで2つある枠が1つになるのよ」

 

 

突き刺すような刺々しい言葉で夜宵にそう発言する明日香。【界放リーグ】で、本戦に勝ち残れるのは、各学園から2名ずつ、だが、デスペラード校には1年の時に入学してからと言うもの、キングタウロス校の【ヘラクレス】同様、毎年必ず本戦に勝ち残る者がいた。その者は今年で3年、つまり枠は1つしかないのも同然だった。

 

 

「必ず勝ち残りなさい、夜宵。なんとしても【アレ】に目覚める者を見定めるのよ」

「………はい、わかってます、お姉様」

 

 

彼女達の言う、【アレ】が何かは定かではない。だが、【界放リーグ】の裏側で何かとてつもないことが起ころうとしているのは確かなことであった。

 

 

******

 

 

その日の夜。ここは界放市の空港。用事が済んだ六月は、再び離島に飛び立とうとしていた。早めにチェックインを済まし、待合所のベンチで腰を下ろしながら、椎名のことを考えていた。

 

 

(椎名、……大きくなったのぉ、……中身は相変わらず子供のままじゃったが………だが、それで良い、お前はそれで…………)

 

 

椎名は捨て子、当然自分の本当の親の顔を知らない。知りたいと思ったことはない。自分には既に血は繋がってなくとも、大事な家族や兄弟がたくさんいるからだ。

 

それで十分だった。いもしない本当の親など考えたくもなかった。ただ、自分のことが大好きで、自分も好きな家族がそこにいてくれたら、…それで。

 

六月はそんな椎名をずっと可愛がって来た、とてつもないくらい溺愛していた。他の身寄りのない子供達も同様にそうして来たが、椎名は特別だった。いろんな意味で。それはこの物語が進むにつれ、明らかになっていくことだろう。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【アクィラモン】!!」

「アクィラモンはホークモンが進化した赤の成熟期スピリット、召喚時とアタック時で相手のBP4000以下のスピリットを1体ずつ破壊できるよ!」





最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!

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