バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

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第18話「オーバーエヴォリューション」

 

 

 

 

 

ヘラクレスの弟子、炎林頂は、界放リーグ開催前、師であるヘラクレスとある約束を交わしていた。

 

 

『師匠!俺はこのリーグで必ず勝ち残る!そしてあなたを超える!』

 

 

意気込みからか、大声で叫ぶ炎林。あまりの声の大きさにヘラクレスはついつい耳を手で覆いかぶせる。内心うるさいと思うものの、その想いはしっかりと彼の胸に伝わっていた。

 

 

『……あぁ、ほな、必ず勝ち上がって来いや!』

『はい!どんなに汚くて、かっこ悪くても必ず勝ち残ってやる!』

 

 

そんな男と男の熱い物語が始まっていた。

 

第一試合の白熱した試合からか、鳴り止まぬ歓声の中、2人の戦士はスタジアムの中央で睨み合っていた。その2人の戦士とは、【朱雀】こと、赤羽司と、ヘラクレスの弟子、炎林頂だ。

 

司は雅治の話から炎林のことは大体知っていた。ろくにデッキの構築もできないものという認識が強く頭から離れなかった。雅治がそう言ったのではない。彼が勝手に強く思い込んでいるのだ。実際はその通りだった。ほんの何ヶ月か前は、

 

一方で炎林の方も緊張していた。それもそのはずだろう。何せあのヘラクレスと共にまさかこのような場に立てるとは思ってもいなかったはずなのだから、彼も彼なりに努力はしていた。その努力が報われたと言えるだろう。

 

そして2人は互いを睨みつけるまま自身のBパッドを展開する。1回戦第二試合の始まりだ。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

歓喜が熱狂しているスタジアムの中、2人のバトルが始まる。先行は炎林だ。

 

 

[ターン01]

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「見ててくださいよぉ!師匠!……メインステップ、いくぜ朱雀!俺はネクサスカード、天空を貫くバリスタを配置!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

炎林が背後に呼び出したのは、巨大なバリスタ。文字通り天空さえも貫けそうだ。

 

このネクサスはコスト4ながら、赤と緑のシンボルを持つ優秀なネクサス。効果は自分のアタックステップ中のみのBP増加といささか地味だが、使い減りしないいい効果だ。

 

 

「ターンエンド」

天空を貫くバリスタLV1

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目など、できることは限られてくる。炎林はこのままターンエンドし、司にターンを渡す。

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺もネクサスカード、朱に染まる薔薇園を配置し、バーストをセット」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

司の背後に現れたのは赤い色に染まっている薔薇が咲き誇る庭園。それは見たものを魅了させる美しさがある。

 

そして伏せられるバーストカード。状況にどう対処してくるのか期待が高まる。

 

 

「ターンエンド」

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト有

 

 

司もそれ以外は特に動くことなく、そのターンを終えた。最初のターンにネクサスを配置するというのは実はかなり強い動きであって、

 

この後のターンでお互いに凄まじい攻防を繰り返すのが目に見えている。

 

 

[ターン03]炎林

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!俺はホムライタチを召喚!」

リザーブ5⇨4

 

 

炎林がこのバトル最初に召喚したスピリットはこのデッキの潤滑油的存在、尻尾が炎のように揺れている鼬のようなスピリット、ホムライタチ。

 

ホムライタチは赤のスピリットだが、メインステップ中は緑のシンボルを追加できるので、彼のデッキのスピリットの展開には大いに役立つ。

 

司とてそれを当然理解している。炎林のことは雅治から聞いていた。ヘラクレスの弟子だが、彼から貰い受けたデッキが強く、調子に乗っていた。と彼のことを解釈している。だが、仮にも1年ながら他の3年生を蹴散らし、ここに来ている。油断は禁物だった。

 

 

「さらに!俺は六分儀剣のルリ・オーサをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

細長い剣を携え、緑のスマートな昆虫型のスピリット、ルリ・オーサが召喚された。その効果はとても有名だ。

 

 

「ルリ・オーサの召喚時効果で、赤のスピリット2体にコアを1つずつボイドから追加!ルリ・オーサはLV2の時は赤のスピリットとしても扱うため、ルリ・オーサとホムライタチに1つずつコアを追加する!」

ホムライタチ(1⇨2)

六分儀剣のルリ・オーサ(2⇨3)

 

 

天に自身の剣を掲げるルリ・オーサ。その願いは通じたのか、天より2つのコアの恵みが、彼自身とホムライタチに追加された。

 

 

「まだだ!俺はもう1体のルリ・オーサをLV1で召喚!……さらにその効果でホムライタチとLV2のルリ・オーサにコアブースト!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

トラッシュ1⇨2

ホムライタチ(2⇨1⇨2)

六分儀剣のルリ・オーサ(3⇨4)

 

 

2体目のルリ・オーサが現れる。すると、再びコアの恵みが彼らに与えられ、司との総コア数を一気に突き放した。単純にこのターンだけで4つのコアを増やしている。いくら朱雀と雖も、これはかなり難しい状況であると言える。

 

そしてここからが、彼が変わったところだ。炎林は手札のカードをさらに引き抜く。

 

 

「そして、俺はソウルコアを支払い、マジックカード、ソウルドローを使用!……効果によりソウルコアを支払ったため、デッキから3枚のカードをドローする」

手札2⇨1⇨4

ホムライタチ(2⇨1)

六分儀剣のルリ・オーサ(4s⇨3)

トラッシュ2⇨4s

 

 

ソウルコアの置かれていたルリ・オーサからそれを取り払い、一気に手札を潤す炎林。彼はこの前、こんなカードは入れていなかった。理由としては結局エースである金殻皇ローゼンベルグの効果で手札などいくらでも稼げるからだ。だが、それだけでは足りないと思い知り、ドローカードを10枚近くデッキに詰めたのだ。

 

その結果、今まで以上にデッキの回転率が上がり、有り余るコアに無駄がなくなった。

 

彼は自分のこのヘラクレスから譲って貰ったデッキの無限の可能性を知ることになった。デッキを研究して組み上げるのがとても楽しかった。これもジークフリード校に行ったお陰かと思えば少々気まずいが、

 

だが、お陰で自分は今よりもっと強くなれる。このデッキの無限の可能性を見ることができる。やはり彼も彼なりにかなり成長していた。それは観客席にいる真夏や、雅治も感じている。

 

 

「もう1枚、ルリ・オーサからコアを使い、今度はフェイタルドローを使用し、カードを2枚ドロー!」

手札4⇨3⇨5

六分儀剣のルリ・オーサ(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ4s⇨6

 

 

ルリ・オーサがレベルダウンするも、コアだけでなく、手札の差も司より上回る炎林。そして次は並べられたスピリットでアタックを仕掛ける。

 

 

「アタックステップ!天空を貫くバリスタの効果でBPプラス2000!!やれ!ホムライタチ!」

ホムライタチBP1000⇨3000

六分儀剣のルリ・オーサBP3000⇨5000

六分儀剣のルリ・オーサBP3000⇨5000

 

 

「……ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ホムライタチの小さい口から放たれる火炎放射が司のライフを破壊した。これでルリ・オーサ2体のアタックが通ればまた一気に有利になれる。彼がそう思った矢先だった。司のバーストがオープンされる。

 

 

「バースト発動!秘剣二天一龍!」

「なに!?」

「この効果でBP5000以下の相手のスピリットを2体破壊する!くたばれぇ!ルリ・オーサ2体を破壊!」

 

 

巻き起こる炎の斬撃がルリ・オーサ2体を切り刻む。耐えられなくなった2体はあえなく破壊されてしまった。

 

 

「2体破壊に成功したことにより、カードをドロー」

手札3⇨4

 

 

迂闊だった。炎林は再確認する、今回の相手は緑ではない、赤だ。あの【朱雀】が相手なのだ。ヘラクレスに挑む前には丁度良い相手じゃないか。と。

 

どちらにせよこのターンはやることがなくなった。彼はこのターンを終える。

 

 

「……ターンエンド」

ホムライタチLV1(1)BP1000(疲労)

 

天空を貫くバリスタLV1

 

バースト無

 

 

次は司のターンだ。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨7

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ、再びバーストを伏せ、イーズナとホークモン、ハーピーガールを召喚!ハーピーガールはLV2!」

手札5⇨1

リザーブ7⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

司は今一度バーストを伏せると、一気に自分のよく使うスピリットたち、赤と黄色のスピリット、イーズナ。赤の鳥型成長期スピリット、ホークモン。手足が鳥のような女性、ハーピーガールを召喚した。

 

さらにホークモンの召喚時効果を使用する。

 

 

「召喚時効果!カードを3枚オープンする」

オープンカード

【ホルスモン】○

【朱に染まる薔薇園】×

【ホウオウモン】×

 

 

効果は成功、アーマー体であるホルスモンが彼の手札に加えられた。そして始まる。恐ろしいアタック連打が、

 

 

「アタックステップ!ハーピーガールでアタック!アタック時の【連鎖:赤】でBP3000以下のスピリット、ホムライタチを破壊!」

手札1⇨2

 

「……くっ!」

 

 

ハーピーガールの翼に炎を纏われた翼撃が、ホムライタチを切り裂いた。ホムライタチがそれに耐えられるわけもなく、爆発してしまった。この場面でのハーピーガールはとても恐ろしい。

 

 

「アタックは継続だ!」

 

「ぐっ、ら、ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

ハーピーガールの翼が、今度は炎林のライフに直撃し、ガラス細工が砕けるように粉々になる。

 

そしてハーピーガールの追加効果がここで起動。

 

 

「ハーピーガールの効果!【聖命】!俺のライフを1つ回復!さらに、朱に染まる薔薇園LV1の効果で、俺のライフがアタックステップ中に増加したため、デッキから1枚ドローする」

ライフ4⇨5

手札2⇨3

 

 

司のライフが初期状態に戻るとともに、カードがドローされる。ライフの差と手札の差を詰める良い一手だ。

 

 

「まだだ!続け!ホークモン!」

 

「くそ!それもライフだ!」

ライフ4⇨3

 

 

ホークモンは自身の羽を炎林のライフに向かって投げつける。それは凄い勢いで突き刺さり、彼のライフを貫いた。

 

 

「イーズナ!………」

 

 

炎林のライフをさらに削るために走り出すイーズナ。ここで司は手札のカードを1枚引き抜く。【アーマー進化】だ。

 

 

「フラッシュ!【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!1コストを支払い、これを召喚!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ2⇨3

ホルスモンLV1(1)BP4000

 

 

ホークモンの頭上に独特な形をした卵が投下される。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは赤き空飛ぶ獣型のアーマー体、ホルスモン。

 

 

「ホルスモンの召喚時効果!お前のネクサス、天空を貫くバリスタを破壊し、カードを1枚ドローする!」

手札3⇨4

 

「なに!?」

 

 

ホルスモンがネクサスの天空を貫くバリスタに鋭い眼光を放つと、たちまちそれは地面へと沈んでいく。

 

そして、これはまだイーズナのアタック状態。ホルスモンも【アーマー進化】で召喚されたため、まだアタックできる。

 

 

「ら、ライフだ」

ライフ3⇨2

 

 

イーズナは小さい体ながらも渾身の体当たりでぶつかっていき、炎林のライフを1つ破壊した。

 

 

「やれぇ!ホルスモン!」

 

 

攻撃の手を一切緩めない司。ホルスモンが羽ばたく。何もできない炎林はそのままライフで受けるほかなかった。

 

 

「く、ら、ライフで、……うわぁあ!」

ライフ2⇨1

 

 

ホルスモンの自身の身体を回転させた竜巻のような攻撃が、炎林のライフを通り過ぎるように貫き、破壊した。これで炎林のライフは1。風前のともし火だ。

 

炎林は、僅か4ターンでここまで実力に差が出てくるとは思ってもいなかった。だが、彼はまだ諦めてはいない。何度も何度でも起き上がると決めたのだから、どんなに汚くなっても、かっこ悪くてもヘラクレスに、師匠に挑戦したいのだ。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ」

ホルスモンLV1(1)BP4000(疲労)

イーズナLV1(1)BP1000(疲労)

ハーピーガールLV2(2)BP4000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト有

 

 

できることを全て終え、そのターンを終える司。このターンの猛アタックが、ヘラクレスの弟子である彼にさらなる火を灯したことは知らなかった。

 

 

[ターン05]炎林

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ7⇨8

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ8⇨14

トラッシュ6⇨0

 

 

メインステップになるも、現状炎林の盤面は秘剣二天一龍、ハーピーガール、ホルスモンの効果により、空。何もない。ライフの差も1と5。普通なら誰もが無理だと思ってしまう。

 

ーだが、彼はそれを覆す。

 

 

「メインステップ!俺は2体のホムライタチを召喚!」

手札6⇨4

リザーブ14⇨10

トラッシュ0⇨2

 

 

炎林は前のターンでの大量ドローで引き抜いていた2、3枚目のホムライタチをここで連続召喚する。これにより今後のスピリット展開が楽になる。さらにそこから逆転へと大きく動き出す。

 

 

「次はこいつだ!賢竜ケイローン!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨7

トラッシュ2⇨4

 

 

2体のホムライタチの次に召喚されたのはケンタウロスのような見た目だが、上半身は竜人の姿をした赤のスピリット、賢竜ケイローン。それはこの場では最も活かされるスピリットであって、

 

 

「ケイローンの召喚時効果!BP5000以下のスピリットを1体破壊して、1枚ドロー!……俺が破壊するのはお前だぁ!ホルスモン!」

手札3⇨4

 

「なに!?」

 

 

ケイローンは弓矢を手に持ち、ホルスモンに向かって放つ。それは見事にホルスモンを射抜いてみせた。耐えられなくなったホルスモンは爆発してしまう。

 

賢竜ケイローン。それだけでも優秀な効果だが、緑との混色デッキならばこれだけでは終わらない。

 

 

「まだ終わらない!!【連鎖:緑】でコアを1つこいつに置き、【連鎖:緑緑】でさらにもう1つ追加!」

賢竜ケイローン(1⇨2⇨3)LV1⇨2

 

「ちぃ!またコアブーストか!」

 

 

賢竜ケイローンは緑のシンボルが2つあるだけでルリ・オーサと同じく一気にコアを2つ稼げるスピリット。また司とのアドバンテージ差を突き放す。

 

だが司もただでは転ばない。ここでセットされていたバーストを発動させ、少しでも取り戻そうとする。

 

 

「俺のスピリット破壊後により、バースト発動!……シャイニングバースト!……この効果でBP10000以下のお前のスピリットを1体破壊だ!消えろ!ケイローン!」

「ぐっ!」

 

 

ケイローンの体が光輝いたかと思えば、その光は突如爆発する。ケイローンは当然耐えられず、自身も直ぐに大爆発した。

 

 

「さらにコストを払い、メイン効果だ、デッキから1枚ドロー、さらにバーストにより発動されていたので、もう1枚ドローだ」

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

手札4⇨5⇨6

 

 

やはり仕掛けていた破壊バースト。だが、それは一時しのぎにしかならない。炎林は展開する。どんなに邪魔をされようとも、デッキとの絆を信じて突き進む。

 

 

「まだだ!俺は2体目の賢竜ケイローンを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨7

トラッシュ4⇨6

 

「なに?!…2体目だと?」

 

 

すかさず召喚された2体目のケイローン。それは先とほとんど変わらぬモーションで弓を準備する。筋肉質で力強いこの腕から放たれる矢が次に狙うのは……

 

 

「ハーピーガールを破壊!そしてカードをドローし、コアを2つ追加ぁ!!」

手札3⇨4

賢竜ケイローン(1⇨2⇨3)

 

「ぐっ!……くそっ!」

 

 

ケイローンが狙ったのはハーピーガール。ハーピーガールはその矢で射抜かれ、そこを中心に燃える尽きるように消滅していった。

 

実を言うと、炎林は全くアドバンテージを失わずにこれを行なっていた。賢竜ケイローンの召喚コストで2。そのコアブースト効果でプラマイ。そして召喚してマイナス1だが、それを召喚時の1枚ドローする効果で補っている。逆に司の盤面はシャイニングバーストである程度持ち直しているものの、主力を失いズタボロ、そう考えると差は圧倒的だった。

 

司は、正直信じられなかっただろう。まさかあの噂聞く分では、全く自分の敵にはならないだろうと踏んでいた相手がここまでやるとは、今なら彼がヘラクレスの弟子だと納得できる。

 

だが、まだだ、彼は炎林のメインステップはまだまだ続く。大量に有り余ったコアを使い、今度は自分が認める最強スピリットを召喚する。

 

 

「俺はさらに!エーススピリット!金殻皇ローゼンベルグをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨0

トラッシュ6⇨10

 

「……っ!!」

 

 

椎名の持つロイヤルナイツ、マグナモンにも勝にも劣らないほどの黄金の輝きを放つ人型の昆虫スピリット、そのツノは凶暴な猛牛のように曲がっている。

 

その存在だけで会場を震え上がらせる。彼のエーススピリット、金殻皇ローゼンベルグが召喚された。ローゼンベルグは人差し指を静かに司に向ける。まるで彼を打倒しようとするかのように。

 

 

「ローゼンベルグの召喚時効果!ボイドからコアを3つ追加!その勢いでLV3にアップ!」

金殻皇ローゼンベルグ(3⇨6)LV2⇨3

 

 

もうこのバトルの間だけでいったいいくつのコアを増やしただろうか、あれだけ展開して、邪魔もされたと言うのに、場には4体のスピリットが並んでいる。しかも手札は未だに3枚。それもこのローゼンベルグの効果で増える。

 

準備は整った。炎林は長いメインステップを終了させて、ようやくアタックステップに入る。

 

 

「アタックステップ!いけぇ!ローゼンベルグ!その効果でBPをプラス10000し、【連鎖:赤】でデッキから2枚ドローする!」

金殻皇ローゼンベルグBP11000⇨21000

手札3⇨5

 

 

このローゼンベルグはもともと2つのシンボルを持つスピリット。減らせるライフは2つだ。

 

さらに炎林は司に追い打ちをかける。残ったイーズナを破壊しつつ、一気にかたをつけるカードを引き抜く。

 

 

「フラッシュマジック!バードウィンド!不足コストはケイローンのLVを下げて確保!この効果でローゼンベルグを回復させ、【連鎖:赤】でBP4000以下のスピリット、イーズナを破壊!」

手札5⇨4

賢竜ケイローン(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ10⇨12

金殻皇ローゼンベルグ(疲労⇨回復)

 

「……っ!!」

 

 

イーズナが竜巻に巻き込まれて破壊されると同時にローゼンベルグが再び起き上がる。アタックするだけで凶器と言えるローゼンベルグが2度もアタックすれば、それは誰が見ても大変だと言うことに気がつくだろう。

 

 

「さぁ!いけぇ!ローゼンベルグ!」

 

「くそっ!仕方ねぇ!ライフで受ける!……ぐう!」

ライフ5⇨3

 

 

ローゼンベルグはその手に持つ巨大な大剣で、司のライフを2つも一刀両断する。おまけに今は回復状態。これがもう一度飛んでくる。

 

 

「もう一度だぁ!やれぇ!」

手札4⇨6

 

 

もはや当たり前のようにデッキから2枚ドローする炎林。このバトルは勝った。……彼がそう思った瞬間。司は手札のカード1枚を引き抜く。それはなんとかこの場を凌ぐカードであって。

 

 

「……俺は手札からマジック!シンフォニックバーストを使用!」

手札6⇨5

リザーブ5⇨3

トラッシュ4⇨6

 

「!!」

 

「……こいつの効果でこのバトル中に俺のライフが2以下ならてめぇのアタックステップは終わる!………ローゼンベルグのアタックはライフで受けてやるよぉ!…………ぬぉぉ!!」

ライフ3⇨1

 

 

「……くっ!そんなカードまで………」

「俺のライフは1!条件達成だぁ!」

 

 

シンフォニックバーストの条件達成に伴い。聖なる光が炎林の場のスピリット達の邪魔をする。これで炎林はどう転がってもこのターンは終了せざるを得なくなった。

 

 

「………ターンエンドだ」

ホムライタチLV1(1)BP1000(回復)

ホムライタチLV1(1)BP1000(回復)

賢竜ケイローンLV1(1)BP5000(回復)

金殻皇ローゼンベルグLV3(6)BP11000(疲労)

 

バースト無

 

 

惜しくも司を仕留められないまま、そのターンを終える炎林。だが、十分すぎる反撃だったと言える。何せ、司のスピリットを全滅させただけじゃなく、ライフを1にまで追い込んだのだから。そして今回は真夏の時とは違う。引いていた。カウンター系のカードを。

 

ー司はここからやり返すことができるのか。

 

 

(なるほど、ヘラクレスの弟子、……ねぇ、……なんか負けられない想いでもあるってか?…………それだったら俺にだってある!………俺はもう誰にも負けないくらい強くなる!だから応えろ!俺のデッキ!俺を勝利へと導け!!)

 

 

司がそう心に思った瞬間。一瞬だが、彼のデッキが赤く光輝いた。それが目に見えたのか、特別VIPルームの紫治城門は思わず立ち上がった。

 

 

「ん!!?」

「おいおい、どうした?ぎっくり腰の前兆?」

「む?………いや、なんでもない」

 

 

何事もなかったかのように再び腰を下ろす紫治一族の頭領、紫治城門。

 

彼は確信した。赤羽司は【アレ】に目覚めようとしていたのだ。それは彼のドローステップが来ればわかることだ。

 

司は息を呑み込み、このヘラクレスの弟子と言う強敵に挑む。自分の全てを、全身全霊をかけて、今まさにラストターンが始まろうとしていた。

 

 

「俺のタァァァァァァンン!!!」

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

 

 

「ドローステ、…………?」

 

 

このドローステップの時だった。司のデッキが突如、燃えるように光輝いた。炎林を含め、当然のように騒然とする観客や選手たち、だが、内心一番驚いていたのは他でもない、司だった。思わずその凄まじい光量にたじろいだ。

 

 

「な、なんだこれ、……」

 

 

そんな中、紫治一族の頭領、紫治城門だけが、この状況を目の当たりにして、興奮が抑えきれなかった。

 

 

(おぉ!やはり!やはり彼が【アレ】に目覚めるであろう3人うちの1人だったか!……さぁ!この私にその力を示すのだ!)

 

 

そう考える紫治城門。必死に声が漏れぬよう、堪えている。彼にとってこの現象は喉から手が出るほど見たかった。いや、欲しかったのだ。

 

この場にいるもう1人の紫治一族、夜宵もまた1人、選手の控え室で、

 

 

「…………や、やっぱり、司ちゃんが【アレ】に目覚めるんだ…………」

 

 

予想はしていたからか、他と違い、あまり驚く様子はなかった。が、その表情からはどこか寂しそうなものを感じさせる。

 

一方、司はその不思議な現象を目の当たりにしつつも、いつもの冷静さを取り戻していた。そしてその現象の正体に気づく。それはなかなかお目にかかれるものではなかった。

 

 

「こ、これはまさか……………【オーバーエヴォリューション】……!!?」

 

 

【オーバーエヴォリューション】。それはバトル中に起こる奇跡の現象。それが訪れたバトラーのデッキは光輝き、そこには新たなるカードが、命が宿ると言う。言うなれば、バトラーとデッキの進化。

 

非科学的だが、現在判明していることは3つ、1つは、それが正式なデッキのカードであること。普通はイカサマ等で新たに加えられたカードはいくらBパッドにそれを叩きつけても反応しない。だが、その【オーバーエヴォリューション】で得たカードは使用が可能なのだ。なんとも摩訶不思議なことだが、公式にこれが起きた時はそれを使用して良いと言うことが承認されている。過去にもそのカードで、ある無名のチャレンジャーがチャンピオンを破るというケースも存在する。

 

2つ目は、一説によれば、それが起こっている理由は、バトラーとデッキの絆が頂点に達した時のみ起こると言われている。

 

そして最後、3つ目は、それが起こるのは人1人につき、一度だと言うことのみ。他の細かいところはまだ何も解明されていない。

 

司は恐る恐るそのカードをドローした。ドローしたらそのデッキの赤い光は消えた。そしてドローしたのは赤と黄色のデジタルスピリット。やはり見たことのないカードだ。だが、不思議と司はもう驚くことはなかった。むしろ一瞬でその摩訶不思議な登場の仕方をした怪しいカードを仲間だと認め、理解する。

 

そしてなにより、この状況ではうってつけだ。

 

 

「いくぜ、ヘラクレスの弟子、炎林頂。俺はお前を認め、このカードでお前を討つ!」

手札5⇨6

 

「や、やれるもんならやって見やがれぇ!」

 

 

流石にこれはやばいと考えてしまったのか、炎林はやや腰が引ける。だが、それは直ぐに安心に変わる。

 

自分の残りライフはわずか1だが、ブロッカーは3体。そして手札には散々ドローしたおかげで、緑の強力なマジックカード、ストームアタックがある。いざとなればこれで妨害すれば完璧のはず、そう考え直したのだ。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨12

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ、先ずは下準備だ……朱に染まる薔薇園のLVを2に上げ、効果により、ホークモンをフル軽減でLV2で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ12⇨11⇨7

朱に染まる薔薇園(0⇨1)LV1⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

赤と黄色のネクサス、朱に染まる薔薇園。LV2の時には赤のスピリットをほとんど黄色のスピリットのようにも扱える効果を持つ。そのカラクリは、赤のスピリット全ての軽減シンボルを黄色としても扱えるようにするからだ。その結果、ホークモンがフル軽減で召喚された。司はその召喚時の効果も使用する。

 

 

「召喚時効果、カードを3枚オープン!」

オープンカード

【シュリモン】○

【イエローリカバー】×

【アクィラモン】○

 

 

効果は成功。この場合は、該当する2枚のうち、どちらか1枚を手札に加えることになる。司が選択するのは、

 

 

「俺はアクィラモンを手札に加える」

手札5⇨6

 

 

司は成熟期のスピリット、アクィラモンを手札に加えて、残ったカードを破棄した。そして、まだホークモンの効果は終了しない。滅多に使わないが、その追加効果も起動させた。

 

 

「ホークモンの追加効果で、2コストを支払うことで、手札にある黄色の成熟期スピリットを召喚する!…俺は手札のテイルモンをLV3で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ7⇨2

トラッシュ1⇨3

 

 

司が召喚したのは黄色の成熟期スピリット、猫のように愛らしく、小さい体躯だが、本当はネズミ型のスピリット、テイルモンが召喚された。

 

そして司はついでのように手札のマジックを使用する。

 

 

「さらに俺は、赤のマジック、レッドライトニングを使用する、この効果で、BP6000以下のスピリット、賢竜ケイローンを破壊する!」

手札5⇨4

リザーブ2⇨0

トラッシュ3⇨5

 

「!!……ケイローン!」

 

 

赤く迸る雷がケイローンを襲う。当然耐えられなくなり、ケイローンは大爆発を起こした。だが、ケイローンの破壊程度では彼の盤面に致命傷を与えることはできない。

 

司はメインステップでやることを全て終えたからか、そのままアタックステップへと移行する。その際にホークモンの【進化:赤】が発揮された。

 

 

「アタックステップ!その開始時に、ホークモンの【進化:赤】を発揮!こいつを成熟期のスピリット、アクィラモンに進化させる!」

朱に染まる薔薇園(1⇨0)LV2⇨1

アクィラモンLV3(4)BP6000

 

 

ホークモンにデジタルのベルトが巻かれて、その姿形を変えさせていく。そして新たに現れたのは、頭部から巨大な2本の角を生やした赤の巨鳥型、成熟期スピリット、アクィラモンだ。

 

 

「アクィラモンの召喚時及びアタック時効果!BP4000以下のスピリット1体を破壊する!ホムライタチを1体焼き払え!」

 

 

アクィラモンの炎を纏わせた翼撃が、2体いるホムライタチの1体を蹴散らしてしまう。ホムライタチは呆気なく破壊されてしまった。

 

 

「くっ!だが、この程度!」

「耐えられるものなら耐えてみろ!アタックステップは継続だ!やれ!アクィラモン!アタック時効果で残ったホムライタチを破壊!」

 

 

飛び立つアクィラモン。そして同じような容量で炎林の場に残ったホムライタチを破壊した。これで彼の場にいるのは疲労しているローゼンベルグ。そして残りライフは1。司の場にはアタック中のアクィラモンも含め、テイルモンの2体。これで決まったかに思われたが、ここで炎林が温存していたカードが目を光らせる。

 

 

「ここだ!……フラッシュマジック!ストームアタック!この効果で、お前のテイルモンを疲労させ、俺のローゼンベルグを回復させる!」

手札6⇨5

リザーブ3⇨1

トラッシュ12⇨14

 

「!!」

 

 

発揮される緑の究極マジック、風の方向は、ローゼンベルグには追い風だが、テイルモンには向かい風、これによって、2体の状態は逆転し、ローゼンベルグが戦闘態勢に入る。炎林は勝ちを確信する。これでアタック中のアクィラモンをブロックすれば自分の勝利だと、

 

 

「よっし!俺の勝ちだぁ!!」

 

 

ーだが、

 

 

「それはどうかな?」

「なに!?」

 

 

その発言に対し、そう言い返す司。司はこの時を待っていた。あんなに手札を抱え込んだのだ。きっとさっきのように攻防に使えるマジックが残っているはず、司はそう思ったからこそ、先ずは周りの破壊できるスピリットを破壊したのだ。さっきの【オーバーエヴォリューション】で創生されたあのカードを使用するために。

 

司はその新たなるカードを引き抜く。それはこれからの彼のバトルでも、きっとエースとして活躍してくれるであろう。

 

 

「フラッシュ、俺は手札のこのカードの効果、【ジョグレス進化】を発揮!対象はアクィラモンとテイルモン!」

「なにぃ!?【ジョグレス進化】!?なんだそれは!!」

 

 

【ジョグレス進化】その聞き覚えのない進化に戸惑う炎林と他の人達。これは彼が得た新たなる力。

 

 

「【ジョグレス進化】は自分のターンのフラッシュのみ使える進化、その対象に選ばれるのは成熟期のスピリット2体だ」

「!!」

 

 

【ジョグレス進化】は比較的【アーマー進化】に近い効果と言える。だが、その対象条件が成熟期2体のみと重たい分、それらよりも遥かに強力なデジタルスピリットが呼び出されるのは目に見えている。

 

 

「赤き巨鳥と神聖なる白き獣が混じり合う時、気高き白き獣人が姿を現わす!………ジョグレス進化ぁぁぁ!!……シルフィーモン!!」

手札4⇨5

シルフィーモンLV3(7)BP12000

 

 

アクィラモンとテイルモンは互いに上空に飛び立ち、自身のデジタルコードを分解させ、衝突し、混ざり合う。新たに現れるのは司の言う通り、バイザーを装着した白き獣人。小柄だが、そのオーラでその強さが理解できる。

 

 

「し、シルフィーモンっ!?なんだそりゃ!?」

 

 

炎林はあんなスピリットなど見たこともなかった。そもそもジョグレス進化などと言う聞いたこともない進化方法で召喚されたのだから、知らなくてもしょうがないが、

 

 

「あ、あれが、【赤羽一族の伝説のスピリット】って奴かいな?」

「い、いや、違う、あれとは別だ!……僕も知らない、あんなスピリットっ!」

 

 

真夏は直感的にあれが伝説のスピリットだと予想を立てるが、違う。あれは今さっき、司の【オーバーエヴォリューション】によって創生された新たなるカード。雅治もそれを理解していた。まさか自分の親友がこんな不思議な現象に立ち会うなど、考えてもいなかっただろう。

 

 

「す、すごい!すごいよ!司!あんな進化もあるんだぁ!」

 

 

控え室で飛び上がる椎名。ワクワクしてきたのだ。さっきバトルしたと言うのに今すぐにでも誰かを捕まえてバトルしたい気分だった。

 

 

「これが俺の新たなる力、シルフィーモンだ!」

「だ、だが、たかが1体増やしたくらいで、この差は埋まらない!お前の負けだ!」

「俺がそんな無意味なことをするように見えるか?」

「………え?」

 

 

ローゼンベルグは回復状態。いくらシルフィーモンがBPで上回っているとはいえ、残り1つのライフを減らせるような状況には見えないのも事実。

 

だが、司の言う通り、もちろんこの召喚には意味があるのであって、

 

 

「シルフィーモンの召喚時…………相手のBP12000以下のスピリット1体を破壊する」

「は、はぁ!?」

「喰らえぇ!!!聖域の凶弾!!!トップガン!!!」

 

 

シルフィーモンは両手を前に突き出しながら小さめでとてつもないエネルギーを凝縮させたエネルギー弾を放つ。それは一瞬でローゼンベルグのとこまで行ったかと思えば、その腹部を貫いてみせた。ローゼンベルグはこれに耐えられず、倒れるように力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「…………そして、【ジョグレス進化】での召喚であれば、その破壊されたスピリットのコアはリザーブではなく、トラッシュに送られる」

 

「な!?!?」

トラッシュ14⇨20

 

 

ローゼンベルグに置かれていた6つのコアが、炎林のトラッシュへと送られた。これでもはや彼に対抗する手段はない。後はシルフィーモンのアタックを待つだけ、

 

 

「これで、………終わりだ!シルフィーモン!」

 

 

高い脚力を活かし、上空に飛び上がるシルフィーモン。そしてそのまま腕のわずかに生えた羽を活かし、滑空、炎林の元へと急降下していく。

 

ヘラクレスの弟子、炎林頂は、試合前に師であるヘラクレスと交わした約束を思い出していた。その目にはほのかに涙を浮かべている。

 

 

ー『師匠!このリーグで俺は必ず勝ち残る!そしてあなたを超える!』

 

 

勝ちたかった、ただその一心で突き進んだ。その結果、同じ世帯では勝つのが困難を極める【朱雀】相手にここまでやった。それは見事と言える。だが、彼としてはやはり、この【界放リーグ】で師であるヘラクレスとバトルしたかった。恩返しも兼ねて、

 

敗北は決した。炎林はこのバトルのラストコールを宣言する。

 

 

「……………ライフで受けるっっ!」

ライフ1⇨0

 

 

急降下してきたシルフィーモンが、そのまま炎林のライフに直撃、彼の最後のライフを破壊した。これにより司の勝利となる。見事2回戦に駒を進めてみせた。

 

炎林は負けたショックからか膝から崩れ落ちる。

 

場に残ったネクサス、朱に染まる薔薇園と、ジョグレス体スピリット、シルフィーモンが役目を終えたため、ゆっくりと消滅していく。そして司はBパッドを閉じ、炎林に最後にこれだけを言い残して、控え室に戻る。

 

 

「お前は…………強かった」

 

 

炎林にはその司の背中はとても大きく見えた。互いに全力でバトルして得た、何かしらの共感なのかもしれない。それだけ張り詰めた緊張感の中でのバトルだった。

 

炎林はなんとかその場から立ち上がり、湧き上がる歓声の中、なんとか控え室への帰路につく。バトルに負けたため、荷物だけ取ったら後は観客席で観戦するだけだが、

 

 

「…………よっ!」

「!………し、師匠っ!」

 

 

スタジアムまでの通路には師であるヘラクレスがいた。彼の試合は次だからだ。

 

炎林は何故か涙が止まらなかった。悔しかったから、約束を果たせなかったから、色々とあるが、とにかく溢れんばかりの溜め込んでいた涙が、彼の瞳から溢れてきた。彼はまた膝から崩れ落ちた。

 

ヘラクレスは泣き崩れる炎林のとこまでいくと、少しだけ腰を下ろし、その下を向いた頭をポンっと叩いてこう言うだけだった。

 

 

「お前かっこええやん!」

 

 

炎林は自分が試合前に言った言葉を思い出した。

 

 

ー『はい!どんなに汚くて、かっこ悪くても必ず勝ち残ってやる!』

 

 

ヘラクレスはその後、直ぐにバトルを行うため、その場を後にした。炎林は余計に涙が止まらなくなった。コンクリートに溜まる涙が水溜りのように円を書いていた。

 

 

(さぁ、弟子がここまでやりよったんや、………次は俺の番やな)

 

 

******

 

 

司は自分の控え室で一息ついていた。なんとか勝てた試合だった。正直、途中でシルフィーモンが来なければかなり大変だった。偶然の中に必然があるというが、まさかこの場で起きるとはと考えながらも、司は次の試合を観るためにモニターのスイッチを入れた。すると、

 

 

《1回戦第三試合、勝者!緑坂冬真!!》

 

 

「…………は?」

 

 

司はその瞬間背筋が凍りつき、鳥肌が立ったのが伝わってきた。信じられなかった。もう終わっていたのだ。第三試合が、自分がここまできて、モニターをつけるのに5分とかかっていなかったといのに、ヘラクレスこと緑坂冬真は既に勝利を収めていた。負けた相手はミカファール校の獣道岳。

 

やはりこのリーグで一番の障害となるのはヘラクレス。そう考えを改める司だった。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【シルフィーモン】!!」

「シルフィーモンは新たなる進化方法、【ジョグレス進化】で召喚できる完全体のデジタルスピリット。召喚時に相手のBP12000までのスピリットを破壊したり、ライフを回復させたりできるよ!」







最後までお読みくださり、ありがとうございました!
ようやくタイトルの伏線回収できて心より満足しております。これからも慢心なく、頑張っていく所存です!

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