「うわぁぁぁぁあ!!!やばい!やばいよぉ〜!……遅刻だぁぁぁぁあ!!」
椎名は朝っぱらから全力で叫びながら学校までの通り道を走っていた。学生なら誰もが恐れる遅刻と言うものと戦っているのだ。足がはち切れそうになるくらいの速度でアスファルトの上を走る椎名。学校からは徒歩約20分だったが、椎名の俊足をもってすれば5分程で到着できる。
「よし!校内についた!後は………」
校内まではついても今度はその校舎に入り、中を走らないといけない。階段が靴箱と遠いせいで遅刻するのは必至の状況だった。おまけに1年生の教室は4階にあるため、尚のこと辛いものがある。だがここで、椎名はある方法を思いつく。それは彼女にとっては本当にグッドアイデアと言える作戦。
「あっ!そうだ!」
椎名は校庭で何故かその場で手元にあった上履きに履き替えた。
******
そしてここは4階の椎名のクラス教室、担任の教師が番号順で出席を取っていた。
「真夏、」
「はーい」
「椎名………椎名?」
真夏の次の椎名の名前を呼ぶ男性教師、だが、椎名の返事はない。そして男性教師が名簿から目を背き、椎名の机に振り向こうとした次の瞬間、
「はいはーい!!」
椎名はなんと教室の窓をガラリと開けて入ってきた。この教室は4階だと言うのに、そして、ベランダもない。下はもう校庭だけの造りなのだ。椎名は壁からよじ登ってエスカレートした方が早いと考えて校庭からよじ登ってみせたのだ。クラスの者たちは真夏を含めて全員が唖然。担任の教師も口を大きく開けて呆気にとらわれていた。椎名はそんなことは一切気にせずに取り敢えず一安心したような顔つきで何事もなかったかのように自分の席に座る。窓側の一番後ろだ。その横には真夏がいる。
「いやぁ、危なかった、危うく遅刻するとこだったよ〜あ!真夏、おはよう!」
「おはよう……って……あんたどうやってここまで来たん?!」
「え!?…いや、普通によじ登って………」
そう言いかけた途端、椎名の目の前には担任の教師がいた。その顔はまさしく金剛力士像にも匹敵するほどの強面だった。それを見た椎名は蛇に睨まれたカエルのように思わず背筋が凍りついた、そして恐怖を表しているかのように自身のアホ毛がアンテナのように真っ直ぐ硬直する。
「………し〜い〜〜なぁ〜〜!!!お前はまた何やってんだぁぁぁぁあ!!」
「いや、でもほら、ちゃんと授業には間に合いましたよ、………だから晴太先生……今日は穏便に………」
「ばっかもぉぉぉおんん!!間に合い方ってもんがあるだろうがぁぁぁぁあ!!…今日一日中廊下に立ってなさぁぁぁぁあい!!」
「ええぇぇえ!!?」
【空野晴太(そらのはれた】、今年で23歳。椎名と真夏のクラス担任。プロに行ける実力がありながらも教師になった、若き天才。教師としては新任なので、今は問題児の塊の椎名に苦労させられている毎日。生徒達のことを下の名前で呼んだりと、なかなか面倒見のいい性格だ。ただし、怒るとこの通り、とてつもなく怖い顔になって叱ってくる。椎名は入学してからもう3回もこの顔を見ていた。と言うか、させていた。
「……ちぇ、間に合ったのになぁ、」
そう呟き、軽く文句を言いながら、教室の前で突っ立っている椎名。この学園の校舎はコンクリートでできている。当然上履きだけでは足が痛くなってくる。しかもこれを今日1日とはなかなかハードな所業だ。
教室の中では既に授業が始まり、晴太の声がする。今日の1時間目は確か、【赤属性の歴史】だったか、
椎名は勉強が苦手だった。かったるいし、今までほとんどしたことがない。バトルも頭脳派ではなく直感派だ。勉強と言う行い自体が自分と噛み合っていない。そう考えていた。
「うぅ、バトルしたい……」
せっかく遥々遠い島から引っ越してまでこの学園に通ったのだ。椎名としては毎日のように楽しいバトルがしたかった。と言うか、すると思っていた。だが、その実態のほとんどはバトスピの歴史や戦略の考え方、対策などの授業。おまけに国語や数学、英語など、普通の教科もあるときた。実技という形でバトルすることはあるものの、ほとんどがそちらに授業枠を割かれていた。
「おいおい、笑わせるぜ、…この学園にいながらバトルがしたいだって?」
「…!?、あなたは誰?」
授業中であるにも関わらず、1人の男子生徒が廊下で項垂れている椎名に話しかけてきた。白髪のと言うか、どちらかといえば銀に近い髪色にギザギザの形が特徴的だ。
「そんなにバトルしたいのなら、どうだ、この俺とバトルしないか?……お互いのエースカードを賭けたアンティルールでな」
「おっ!いい度胸してるじゃん!私は売られたバトルは買うよ、」
「……よし、じゃあ第3スタジアムに来い、そこでバトルだ」
この生徒はこの前の毒島と同じようなタイプの人間なのだろうか、授業もサボっているようだし、……でも今の椎名はアンティルールでもなんでも、バトルできればそれでよかった。椎名はそう思いながらもその男子生徒とその場を後にし、学校の第3スタジアムに赴いた。スタジアムとは、学校にいくつも設置されており、授業中以外ならフリーで対戦しても構わない場所だ。ただし忘れてはいけない。今は授業中だ。
椎名とその男子生徒はBパッドをセットし、バトルの準備を行なった。
「そう言えばあなたの名前は?私は椎名、芽座椎名。やるからには楽しいバトルにしよう!」
「俺は、お前と仲良くなるためにバトルしに来たわけじゃねぇ、格の違いを見せてやりたいだけだ。早く始めるぞ、【めざし】」
「め、ざし?」
「めざしいな、なんだろ?だったらめざしじゃねぇか」
「いやいや!!分ける場所おかしい!!めざ、しいなだから!」
名前からもじられて【めざし】と言う妙な渾名を付けられる椎名。まさか出会って間もない男子生徒にこんな恥ずかしい渾名をつけられるとは思ってもいなかった。
因みにめざしとは【目刺】のことであり、干物の一種だ。小魚の目から顎を竹串などでとうしてそれを数匹束ねたもののこと。春の季語の1つでもあり、栄養も豊富。
「「ゲートオープン!界放!」」
ーそんなこんなでも、2人のバトルが始まる。先行は椎名。
[ターン01]椎名
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ!ガンナー・ハスキーを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨1
トラッシュ0⇨2
椎名の場に拳銃を持つために背中から青い腕が生えている犬型のスピリット、ガンナー・ハスキーが現れた。
「ターンエンド」
ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000
バースト無
先行の第1ターン目を終え、次は謎の白髪の男子生徒のターンだ。
[ターン02]男子生徒
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、俺はネクサスカード、朱に染まる薔薇園をLV1で配置!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨5
男子生徒の背後にとても綺麗な赤薔薇園が配置される。朱に染まる薔薇園は赤と黄色のネクサスカード、シンボルもその2色が入っているため、男子生徒は赤と黄色の使い手だと言うことが示唆される。
「おお!綺麗!」
「…ターンエンドだ」
朱に染まる薔薇園LV1
バースト無
やはり女の子か、薔薇の花畑の美しさに心踊らされる椎名。それを他所に男子生徒はネクサスの配置にコアを全て使い果たしたので、このターンをエンドとする。
[ターン03]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨4
トラッシュ2⇨0
「いっくよぉぉぉお!…メインステップ!猪人ボアボアを2体立て続けに召喚!」
手札5⇨3
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨2
椎名が勢いよく手札の2枚をBパッドに叩きつけると、場には鎧を着用した猪頭のスピリットが現れる。手には鎖付き鉄球を所持している。それが一気に2体も呼び出された。
猪人ボアボアは青と緑の1つずつの軽減シンボルだが、ガンナー・ハスキーのメインステップ時の効果で青のシンボルが追加されていたため、どちらもフル軽減で召喚されたのだ。
「アタックステップ!猪人ボアボア2体でアタック!その【連鎖(ラッシュ)】の効果でボイドからコアを1つずつ猪人ボアボアに置き、LVを1つずつ上昇!」
猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2
猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2
2体のボアボアは男子生徒を威嚇するように、鎖付き鉄球を振り回す。
猪人ボアボアはアタック時にLVを1つあげる効果と、それに付随する【連鎖:緑】の効果でボイドからコアを置くことができる。その【連鎖】の条件はガンナー・ハスキーが満たしている。
「……どっちもライフで受けとくか、」
ライフ5⇨3
そのまま放り込まれた2つの鉄球が男子生徒のライフを砕く。
「続け!ガンナー・ハスキー!」
「それもライフだ」
ライフ3⇨2
続けてガンナー・ハスキーにアタックさせる椎名、ガンナー・ハスキーは背に生えた腕に持つ拳銃で男子生徒のライフを撃ち抜いた。
まさしく電光石火のような速攻。瞬く間に男子生徒のライフは半分を切ってしまった。
「よし!ターンエンド!」
ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(疲労)
猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)
猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)
バースト無
なかなか調子の良い速攻だったが、次の男子生徒のターンで、彼の逆襲が始まる。
[ターン04]男子生徒
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨9
トラッシュ5⇨0
「メインステップ、イーズナを召喚」
手札5⇨4
リザーブ9⇨8
男子生徒の場に現れた最初のスピリットはまるでイタチのような赤と黄色のハイブリットスピリット、イーズナ。イーズナは可愛らしく小さい鳴き声をあげる。
「続けて、ハーピーガールを2体、いずれもLV3で召喚!」
手札4⇨2
リザーブ8⇨0
トラッシュ0⇨2
美しい容姿の少女だが、腕と足が強靭な鳥のような姿になっているスピリット、ハーピーガールが一気に2体召喚された。
「おぉ、…なんか華やかだね」
椎名は赤き薔薇園に舞い降りる3体のスピリットに見惚れる。だが、美しいものには棘がある。椎名はこのターンでそれを思い知ることになる。
「ふっ!行くぞ、アタックステップ、やれ!ハーピーガールでアタック!その効果でLV2・3の相手のスピリットにはブロックされない」
ハーピーガールLV2・3の効果、それは相手のLV2・3以下の相手のスピリットからはブロックされないと言うもの。終盤になればかなり活きて行く効果となりうるが、現在は、
「残念だったね!今の私のフィールドのスピリット全ては疲労状態、あんまり関係ないよ!」
そうだ、その通り、元々がブロックできない状況ならばアンブロッカブル効果など意味がない。だが、ハーピーガールはある条件さえ満たせば序盤からでも十二分に発揮できる効果があった。
「この俺がそんな意味のないことするかよ、……ハーピーガールの効果はまだ続く、【連鎖:赤】の効果でBP3000以下の相手のスピリット1体を破壊する、くたばれ!猪人ボアボア!」
「なにぃ!?」
飛び立ったハーピーガールの強烈な翼撃がボアボアを襲う。ボアボアは鉄球ごとぶっ飛ばされて爆発を起こす。
ハーピーガールも猪人ボアボアと同様に【連鎖】の効果を所持していた。ハーピーガールは【連鎖:赤】で相手のBP3000以下の相手のスピリット1体を破壊する効果がある。ボアボアが破壊されたのはこの効果だ。【連鎖】条件はネクサスの朱に染まる薔薇園や、ハイブリットスピリットのイーズナで満たされていた。
「さぁ、継続だ、このアタックはどうする?」
「……ライフで受ける」
ライフ5⇨4
ハーピーガールは今度は椎名のライフを翼で破壊した。そしてこの瞬間にもハーピーガールのもう1つの効果が発揮される。
「ハーピーガールの効果、【聖命】!ライフを1つ回復する」
ライフ2⇨3
ハーピーガールが椎名のライフを砕いた瞬間、男子生徒のライフが1つ復活する。
これぞ黄色の代表的な効果の1つ、【聖命】、相手のライフを破壊すれば自分のライフを1つ回復できる強力な効果だ。
さらに、男子生徒のコンボは続く、今度は朱に染まる薔薇園の効果が起動。
「さらに朱に染まる薔薇園のLV1・2の効果、俺のアタックステップ中に、俺のライフが回復した時、カードを1枚ドローする」
手札2⇨3
朱に染まる薔薇園LV1・2の効果、自身のアタックステップ中に、ライフが回復したならカードを1枚ドローする効果、この効果と、ハーピーガールの相性は最高中の最高だった。相手のライフを減らし、スピリットを破壊した挙句、ドローまで行う。これは男子生徒にとって相当なアドバンテージをもたらしていた。
そしてこれの恐ろしいところは、まだ待機中のもう1体のハーピーガールが残っていると言うこと。
「もう1体のハーピーガールでアタック!アタック時効果【連鎖:赤】!!……今度はガンナー・ハスキーを破壊だ!」
「くっ!」
男子生徒の命令で、2体目のハーピーガールが飛び上がる。滑空するように翼撃を放ち、ガンナー・ハスキーを切り裂いた。
「さぁ!継続中だ!」
「……ライフだ……ぐぅっ!」
ライフ4⇨3
ハーピーガールは翼で椎名のライフを破壊、そしてまたあのコンボが繰り出される。
「ハーピーガールの効果でライフを1つ回復、さらに朱に染まる薔薇園の効果で1枚ドロー」
ライフ3⇨4
手札3⇨4
あっという間だった。あっという間に男子生徒は椎名のフィールドをほぼ壊滅させただけではなく、ライフ差も手札差をも覆してみせた。
「……すごい……!、こんな奴がいるのか、すごいや」
椎名は只々感心の声が漏れる。とても楽しいのだ。さっきはこの学園に来て少し後悔すらしていたが、今のでまた気が変わった。やはり、ここは、バトスピ学園は楽しい、すごい場所だと認識していく。
「おいおい、感心してる場合かよ、ターンエンドだ」
イーズナLV1(1)BP1000(回復)
ハーピーガールLV3(3)BP5000(疲労)
ハーピーガールLV3(3)BP5000(疲労)
朱に染まる薔薇園LV1
バースト無
男子生徒は余裕の表情でターンを終える。ライフと手札を増やしてほぼ完璧なプレイングだった。それは誰もが観ても、美しいと感じさせるターンであっただろう。
「よし!私のターンだ!」
椎名は期待に胸を膨らませ、意気揚々とターンシークエンスを進めた。
******
一方その頃、椎名の教室では、1時間目が終わる。休み時間中、晴太は流石に1日中廊下に立たせておくのはやり過ぎたと自己反省して、椎名を中に入れるつもりでいた。そして教材をまとめて手に持ち、廊下を出ると、
「おい、椎名、もういいから中に入ってなさい、………椎名?…………」
返事がしない。さっきまで廊下に立たせたはずなのに。そう思って晴太は廊下全体を見渡す。
第3スタジアムまでバトルをしに向かった椎名はそこには当然存在しない。晴太は手持ちの教材や周りの空気を震撼させるほどの大きな息を吸い上げる。
ーそして、
「し〜〜〜〜なぁぁぁぁぁあ!!」
授業中にばっくれた椎名に対してまた顔の血管が浮き出てくるほど本気で怒る晴太、その雄叫びが学園のその校舎に響き渡った。
******
晴太がお怒りになっているとはつゆ知らず、椎名は目の前の強敵とのバトルに全力を尽くしていた。
[ターン05]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ5⇨6
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ6⇨8
トラッシュ2⇨0
猪人ボアボア(疲労⇨回復)
「メインステップ、ブイモンを召喚!LV2!」
手札4⇨3
リザーブ8⇨3
トラッシュ0⇨2
椎名のフィールドにブイモンが姿を見せる。ブイモンはやる気を見せるように拳を強く握る。
「猪人ボアボアもLV2へ!」
リザーブ3⇨2
猪人ボアボアLV1⇨2(2⇨3)BP4000
ボアボアはLVが上がり、それをアピールするかのように雄叫びを上げる。
「アタックステップ!ブイモン!いけぇ!」
アタックステップを開始し、ブイモンに特攻させる椎名、ブイモンがその2本足で走り出す。
「……ライフで受ける……ぐっ!」
ライフ4⇨3
ブイモンの勢いをつけた強烈な頭突きが男子生徒を襲う。男子生徒は少しよろめくも、すぐに態勢を立て直す。
男子生徒の残ったブロッカーはLV1でBP1000のイーズナのみ、ブロックは極力避けたかったのだろう。
「続け!ボアボア!効果でLV3にアップ!」
猪人ボアボアLV2⇨3
椎名の命令で再び鎖付き鉄球を振り回すボアボアだが、その側であるスピリットが進化をしようとしていた。
「いくよ!【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!ブイモンを手札に戻して、アーマー体、フレイドラモンにアーマー進化!」
リザーブ2⇨1
トラッシュ2⇨3
「……来るか、赤のアーマー体」
ブイモンの頭上から炎を模した卵が降ってくる。ブイモンと衝突し、混ざり合う。そして、竜人型のアーマー体、フレイドラモンが召喚された。
「今日も頼むよ!フレイドラモン!」
フレイドラモンLV2(3)BP9000
フレイドラモンは椎名の言葉に対して、まるで任せろと言っているかのように吠える。その咆哮はスタジアムを震撼させるほどに響き渡った。
「フレイドラモンの召喚時効果!相手のBP7000以下のスピリットを破壊!……イーズナを焼き尽くせ!爆炎の拳!ナックルファイア!」
放たれるフレイドラモンの炎の鉄拳がイーズナを包み込む、イーズナは耐えきれずに小さく爆発を起こした。
「そしてカードを1枚ドロー」
手札3⇨4
フレイドラモンは召喚時とアタック時にBP7000以下の相手のスピリット1体を破壊し、成功すればドローすることができる。
【アーマー進化】は他の【進化】とは違い、タイミングはフラッシュのみと、かなり幅広く対応できる。
例えば進化元をアタックさせた後のタイミングで使えば、攻撃回数が単純に1回増えることになる。今がまさにその状態、疲労状態のブイモンを戻したからといって、進化先のフレイドラモンまで疲労はしない、フレイドラモンで追撃が可能なのだ。
「さぁ!ボアボアのアタックは継続中!」
「……ライフで受ける」
ライフ3⇨2
ボアボアのハンマー投げのような攻撃で、再びライフを減らされる男子生徒。これでハーピーガールの【聖命】の力で押し戻されたライフはプラマイとなる。
ーだが、椎名の場にはまだ、フレイドラモンが残っている。
「いけぇ!フレイドラモン!アタック時効果!今度はハーピーガールを破壊!………ナックルファイア!」
「……またか」
フレイドラモンは再び炎の鉄拳を使う。狙った的はハーピーガール2体の内の1体、放たれた炎に避けることはできずに、ハーピーガールは燃え尽きてしまう。
「そして1枚ドロー!」
手札4⇨5
アタック時にもドロー効果は存在する。椎名はカードを1枚ドロー、そしてここからがフレイドラモンの本領発揮だ。
「フレイドラモンのLV2効果!相手のスピリット1体を指定アタックできる!」
「……!!」
「残ったハーピーガールに指定アタック!………砕け散れ!渾身のファイアァ!ロケットォォ!」
フレイドラモンは宙に舞うと、そのまま炎を自身の体全体に纏い、残ったハーピーガールに向けて落下、それと衝突したハーピーガールはその凄まじい攻撃には耐えられず、1体目同様、燃え尽きてしまう。これで男子生徒のフィールドのスピリット全ては除去された。
フレイドラモンはLV2になると【進化】と名の付く効果を持つスピリットに指定アタックの効果を付与できる。椎名はこの効果で疲労しているハーピーガールを狙い撃ちにしたのだ。
このターンで椎名は手札差、ライフ差、スピリット差など、大きくアドバンテージを取り返してみせた。この調子でいけば間違いなく勝利できることだろう。
だが、それだけでは勝てないのが、バトルスピリッツの面白いところである。
「ターンエンド」
猪人ボアボアLV2(3)BP4000(疲労)
フレイドラモンLV2(3)BP9000(疲労)
バースト無
[ターン06]男子生徒
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ9⇨10
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ10⇨12
トラッシュ2⇨0
「メインステップ、朱に染まる薔薇園をLV2へ」
リザーブ12⇨11
朱に染まる薔薇園(1⇨2)LV1⇨2
男子生徒はメインステップの初めに朱に染まる薔薇園のLVを上げる。効果が1つ追加された。
「朱に染まる薔薇園のLV2効果で俺の赤のスピリットカードの軽減シンボルは黄色としても扱う」
「……!!」
朱に染まる薔薇園、LV2の効果はメインステップ時に赤のスピリット及びブレイブのカードの軽減シンボルを黄色としても扱う効果、平たく言ってしまえば赤は黄色と同じ色としても扱うと言っても過言ではない。
男子生徒はこの効果をフルに活かし、新たなるスピリットを召喚する。
「……赤きデジタルスピリット、ホークモンを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ11⇨9
トラッシュ0⇨1
「……赤のデジタルスピリット……!」
赤い鳥型の成長期スピリット、ホークモンが男子生徒の元へと駆けつける。
「ホークモンの召喚時効果、デッキから3枚オープンし、その中の成熟期か、アーマー体を1枚、手札に加える」
オープンカード
【朱に染まる薔薇園】×
【イーズナ】×
【ホルスモン】○
ホークモンの召喚時効果でオープンされるカード達、男子生徒はその中の対象内のスピリットカード、ホルスモンを手札に加えた。
「【めざし】、お前はさっき、【アーマー進化】の効果を連続アタックの駒に使ったな」
「【めざし】じゃなくて【しいな】!」
「………アーマー体の正しい使い方を教えてやるよ」
名前の間違いに一々突っかかる椎名。男子生徒もアーマー進化を行うのか、そう言いながらリザーブのコアを1つ支払った。
「【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!こいつを手札に戻して、羽ばたく愛情!ホルスモンをLV2で召喚!」
リザーブ9⇨6
トラッシュ1⇨2
ホルスモンLV2(3)BP6000
ホークモンの頭上に翼のようなものが生えた卵が落下してくるそれはホークモンと衝突し、混ざり合うことで、それを進化させる。獣型の赤きスピリット、ホルスモンが愛情の風を育みながら誕生した。
「おぉ!フレイドラモンと同じ赤のアーマー体かぁ!!カッコいい!!」
フレイドラモンと同様の赤のアーマー体の登場により、興奮を抑えきれない椎名、それを他所に男子生徒はターンを進める。
「俺は、もう一度ホークモンを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ6⇨4
トラッシュ2⇨3
「……!……またホークモンが」
アーマー進化の効果で一時手札に戻ったホークモンが再び男子生徒の元に駆けつけた。ホークモンはその体を赤く発光させて召喚時効果を発揮させる。
「再び召喚時だ!」
オープンカード
【ハーピーガール】×
【ライフレボリューション】×
【ホルスモン】○
捲られたカードの中には再びホルスモンのカードが発見される。男子生徒は再びそれを手札に加える。
そして椎名は気づく、男子生徒が行おうとしていたことに、
「……まっ、まさか……!」
「そのまさかだ、再び【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!ホークモンを手札に戻し、2体目のホルスモンを召喚!こいつもLV2だ!」
リザーブ3⇨1
トラッシュ3⇨4
ホルスモンLV2(3)BP6000
再びホークモンに翼の生えた卵が落下して衝突、男子生徒のフィールドに2体目のホルスモンが現れる。その登場と共に流れる強かな風が椎名の制服を、飛び跳ねた毛を靡かせる。
アーマー体の使い方はタイミングによって様々である。相手のアタックステップ中ならば、相手への妨害となり、自分のアタックステップ中ならば、追撃の要に、そして、メインステップ中には連続で召喚することが可能となる。
「……なるほどね、メインステップ中だったら連続召喚は可能だよね」
椎名とて、決して知らなかったわけではないが、自分のデッキの相性の都合上、どうしてもアタックステップ中に召喚することが多かった。故にメインステップでの連続召喚はあまり行わなかったのだ。
「最後に再びホークモンを召喚」
手札5⇨4
リザーブ1⇨0
朱に染まる薔薇園(1⇨0)LV2⇨1
トラッシュ4⇨5
朱に染まる薔薇園がLVダウンしてしまうものの、ホークモンが三度男子生徒の元に現れた。
「そしてバーストを伏せる」
手札4⇨3
「……おっ、バーストか」
最後に男子生徒はバーストカードを伏せた。バーストカードは言うなれば【罠】、条件さえ満たせば即発動でき、使用したバトラーに莫大な恩恵を与えることができるカードだ。フィールドにもその影響が出る、男子生徒のフィールドから見て左上側に裏向きでカードが伏せられた。
これで準備は万端、いよいよ3体の赤き鳥獣達が侵攻を始める。
「アタックステップ!この瞬間にホルスモンの効果を発揮!ホルスモンは自分のアタックステップ中にアーマー体のBPを3000上げる、それが2体分」
「……てことは、合計12000までアップ……!」
「御名答、」
ホルスモンBP6000⇨9000⇨12000
ホルスモンBP6000⇨9000⇨12000
2体のホルスモンはそれぞれ赤く発光しだす、互いの相乗効果でBPが10000を超える。椎名のフィールドで一番高いフレイドラモンさえも易々と超えてみせた。
「まぁでもこの際BPは関係ねぇ、このまま決めるぞ」
確かに今はBPの増加などあまり関係なかった。この3体のスピリットのフルアタックで椎名の残りのライフは尽きるからだ。
「いけ!ホークモン!」
「ライフだ!」
ライフ3⇨2
ホークモンは自身の翼から赤い羽根をいくつも飛ばし、椎名のライフを串刺しにして、1つ破壊した。
椎名の場には疲労状態のスピリットしかいない、何か抵抗するすべがない限りはほぼ強制的にライフの減少を許容されていた。
「次だ!いけ!ホルスモン!………テンペストウィング!」
ホルスモンが羽ばたく、身体を竜巻のように高速で回転させて椎名のライフへと突っ込んでくる。だが、このタイミングで椎名の手札の1枚が光りを放つ。
「まだだ!まだ終わらない!!フラッシュタイミング!マジック!チェイスライド!」
リザーブ2⇨0
猪人ボアボア(3⇨2)LV2⇨1
トラッシュ3⇨6
「なに!?」
「この効果でアタックしてない方のホルスモンを疲労させる!」
椎名のマジックカード、チェイスライドが発揮される。その効果はシンプル、相手のスピリット1体を疲労させるというもの。
緑の突風がアタックしていないホルスモンを疲れさせる。
「アタック中のホルスモンはライフで受ける!………ぐぅ!」
ライフ2⇨1
ホルスモンの竜巻のような攻撃が椎名のライフを1つ貫いた。これでいよいよ椎名の残りライフは1、本格的に追い詰められた。
だが、それは男子生徒も同じことである。なんせこのターンで勝負を決められなかったのだ。残りライフ2の状態で次の椎名の攻撃を防がなければならないのだ。しかもブロッカーゼロで。
「くっ!ターンエンドだ」
ホルスモンLV2(3)BP6000(疲労)
ホルスモンLV2(3)BP6000(疲労)
ホークモンLV1(1)BP3000(疲労)
バースト有
[ターン07]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨8
トラッシュ6⇨0
猪人ボアボア(疲労⇨回復)
フレイドラモン(疲労⇨回復)
「メインステップ、ボアボアのLVを元に戻し、再びブイモンを召喚!LVは2!」
猪人ボアボア(2⇨3)LV1⇨2
手札5⇨4
リザーブ8⇨2
トラッシュ0⇨2
猪人ボアボアのLVが元に戻るのと同時に椎名のフィールドに今一度ブイモンが現れた。
「さらに私もバーストをセット!」
手札4⇨3
椎名も負けじとバーストを伏せる。男子生徒は当然それを警戒する。
「アタックステップ!いけぇ!フレイドラモン!アタック!」
フレイドラモンがその身に炎を灯しながら再び男子生徒のフィールドへと飛び出していく。
「アタック時効果でホルスモンを破壊!……ナックルファイア!」
フレイドラモンの炎の鉄拳が2体のホルスモンの内1体を襲う。爆炎に包まれてホルスモン1体は大爆発した。
「そしてカードを1枚ドロー」
手札3⇨4
ホルスモンのBPアップは自分のアタックステップ中のみ、相手のアタックステップ中はBP6000のままなのだ。
だが、それは男子生徒のバーストの発動条件でもあって、
「相手による自分のスピリットの破壊でバースト発動!シャイニングバースト!」
「なに!?」
「この効果でBP10000以下の相手のスピリット1体を破壊、俺が選ぶのはもちろんフレイドラモン!」
光り輝く炎に包まれてフレイドラモンが大爆発を起こした。シャイニングバーストは自分のスピリットの破壊に反応するバーストマジック、破壊に特化した効果しか持たないフレイドラモンとの相性は最悪だろう。
「くっ!フレイドラモン……!」
爆発からなる爆風を感じながらフレイドラモンの破壊を噛みしめる椎名。男子生徒は見越していた。仕留められなかった次のターンでも、椎名がフレイドラモンから必ずアタックを仕掛けると言うことに。だから破壊後のバーストを伏せたのだ。
「そしてその後、コストを払い、デッキから1枚ドロー、バーストでの発動だった場合、さらに1枚ドローする」
手札3⇨4⇨5
トラッシュ3⇨2
トラッシュ5⇨6
シャイニングバーストの効果で追加のドローを行うの男子生徒、だが、このタイミングで椎名がとどめを刺すべく動き出す。
「………今だ!!相手の効果によって手札が増えた時、バースト発動!グリードサンダー!この時点で相手の手札が5枚以上の時、相手はその手札を全て捨て、デッキから新たに2枚ドローする」
「なに!?……ぐっ!」
手札5⇨0⇨2
破棄カード
【光翼之太刀】
【朱に染まる薔薇園】
【テイルモン】
【ネフェルティモン】
【アクィラモン】
椎名のバーストから放たれる強烈な電撃、それは男子生徒の手札を捉え、捨てさせ、そこから新たに2枚ドローさせたのだが、手札の合計枚数は目で見るより明らかに少なくなっていた。
「そして、コストを払って、相手のスピリットをコスト合計5以下になるように好きなだけ破壊!……残ったホルスモンを破壊だ!」
リザーブ6⇨2
トラッシュ2⇨6
「………ぐっ!」
フィールドに迸る青い電撃がホルスモンを襲う。ホルスモンはそれに耐えられなくなり、大爆発を起こした。
これで男子生徒のフィールドに残ったのはホークモンだけとなる。
「猪人ボアボアででアタック!その効果でLVアップ!」
猪人ボアボアLV1⇨2
「ライフで受ける」
ライフ2⇨1
猪人ボアボアの鉄球が三度男子生徒のライフを破壊した。これで彼も残りライフ1、追い詰められた。
「よし!いけぇ!ブイモン!」
椎名のブイモンが待ってましたと言わんばかりに走り出す。目指すは男子生徒のライフ。これで椎名の勝利だと思われていたのだが…
「……調子にのるなよ、俺はフラッ……あぁ?」
その光景に思わず気を抜いた男子生徒、その理由は目の前にいた今にも自分を殴ろうとしていたはずのブイモンの姿が消えたのだ。ブイモンだけではない、猪人ボアボアもその姿を消した。椎名もその光景に当然驚く。
「え!?……あれ、ブイモン!…ボアボア!?……どこいったぁぁぁぁあ!!?」
何が何だかわからない椎名、さっきまでBパッドの上に置かれていたデジタルコアも消滅していた。いくらカードを取り上げて再びBパッドに叩きつけても一切の反応がなかった。そんな中、男子生徒はブイモン達が姿を消した理由を理解した。
「お前のBパッド……」
「充電切れしたんだよ!!椎名ぁぁぁぁあ!!」
「げっ!?、晴太先生!」
男子生徒がその理由を説明しようとした途端、スタジアムの扉を力強く開けながら晴太が現れる。その怒りに満ちた顔は椎名達に近づいて来るたびにより濃くなっていく。
「充電切れ!?」
「お前知らなかったのか、Bパッドもらった時に充電機も貰っただろう?」
「あ、あれか……」
Bパッドはスマホやタブレットと同じ充電式の機械だ。田舎育ちの椎名はこのBパッドの仕組みについては全く知らなかった。入学試験の時にBパッドをもっていないと言うことで貰ったBパッドだが、その時から使用して以降の約1ヶ月間、充電などしたことがなかった。
「あっ!!じゃあさっきの勝負は?」
「当然引き分けだ」
「えぇ!?狡い!!もう少しで私の勝ちだったのに!」
「勝ちだったのにじゃなぁぁぁぁあい!!し〜〜〜なぁ〜〜お前は今日1日ずっと反省文を書いてもらうからなぁ、覚悟しておけよ」」
「いやだよ!なんで!?」
「問答無用じゃあぁぁぁぁあ!!」
「いやぁぁぁぁあ!!」
そう言いながら晴太は動けないように椎名の首根っこを鷲掴みにして連行する。そして何かを思い出したかのように後ろを振り返り、男子生徒に注意事項と連絡をする。
「あ、そうそう、君も担任の先生が探していたよ、授業はサボらないようにね、【赤羽司(あかばねつかさ)】君」
「……はい、気をつけます」
「赤羽、司、それが名前か……じゃあね!司!またバトルしよう!次こそは決着だ!」
「お前は黙ってろ!」
「痛!!」
軽く頭を下げる男子生徒。あまり反省しているようには見えない。なかなか口数が減らない椎名をチョップで静止させる晴太。椎名と共にその場を後にした。
【赤羽司】、赤羽一族の末裔、赤羽一族とは昔から数あるバトルの名門一族の1つ、司はその赤羽一族の中でも30年に1人の天才と謳われており、その華麗且つ美しいバトルから世間は彼のことを【朱雀】と言う異名を名付けた。
「どうだった?……芽座椎名は」
「ん?いや、まぁ今一歩ってとこかな」
椎名達が去った後、スタジアムの影からひょっこりと現れる司の友人らしき栗色の髪で短髪の男子生徒。司は手札に残った赤のマジックカード【フレイムブロウ】を見せつけながらそう答えた。
ー【フレイムブロウ】はBP10000以下の相手のスピリット全てを破壊する効果がある。もし、バトルを続けていたら椎名のスピリットはこの効果で全滅していたので、本当に勝っていたのはどっちかまだわからなかったのだ。
「へぇ、今一歩か、司がそう言うなんて珍しいね……それにしても久しぶりじゃない?君のことを名前で呼ぶ奴なんて」
「どうでもいい………呼び方なんて人それぞれだろ」
そしてその後すぐに2人もその第3スタジアムを後にした。これが芽座椎名の生涯の好敵手、赤羽司との最初のバトルだった。
〈本日のハイライトカード!!〉
「はい!椎名です!今回はこいつ!【ホルスモン】!」
「ホルスモンはフレイドラモンと同じ赤のアーマー体!自分のアタックステップ時には特定のデジタルスピリットのBPが3000上がるよ!」
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