季節は秋、肌寒い夜の中、椎名は1人、自分の住まうマンションの一室で、パジャマに着替えてベッドに転がっていた。頭の中で明日の2回戦の相手である吸血のことを頭に浮かべる。イメージトレーニングだ。
彼は、吸血はどこか、椎名のよく知る人物である【芽座 葉月(めざ はずき)】に似ているところがあった。
芽座葉月とは、椎名がじっちゃんと慕う、芽座六月の実の孫である。椎名の5つ上であり、兄妹さながらに育てられた。
だが、そんなある日、彼が16になる頃、六月と大喧嘩をしてしまい、それが原因となり、彼は家出をして、それっきり帰ってこなくなった。椎名は未だその喧嘩の発端を知らない。
葉月は昔からバトルスピリッツと言うゲームを楽しんでいるようには見えなかった。腕は確かだが、それ故にか、さらに力だけをつけようという上昇志向の持ち主だった。
「……………今頃どうしてるのかなぁ〜……葉月の奴………」
椎名は知らないうちに考えていることが吸血から葉月に変わってしまっていた。
葉月が居なくなってもう5年の歳月が経つか、あの日以来、六月はたまに葉月を探すために旅に出るようになった。心配だったからだ。祖父として、
椎名も当然心配だった。彼は意地悪で、冷たくて、椎名をよく虐めていたが、それでも椎名は彼のことを実の兄のように思って生きてきた。
「………こんなこと考えるなんて、らしくないや、…………とにかく明日頑張ろう!」
いつになく暗いことを考えてしまっていた椎名は、途中で考え方を180度回転させ、明日の2回戦のことだけを思い浮かべる。
ーそしてそのまま部屋の明かりを消して、1人寂しく就寝した。
******
ー翌朝、観客の歓声が少しだけ響いてくる界放リーグのスタジアムの裏で、エンペラーこと吸血堕天は2年前の界放リーグ後のことを思い出していた。それは彼にとってとても嫌な記憶。
ー『キバを使って優勝できなかっただと!?』
ー『えぇ、父様、ですが3位に入賞しました』
ー『そんなものに価値はない!!あの下民まみれの大会でよくもそんな順位が取れたものだな!!お前は一族の恥だ!!』
「…………そうだ、3位など意味はない。僕は吸血一族のエリートなんだ、今年こそは下民共に実力の差を思い知らせてやるっ!」
吸血一族の兄弟の中から唯一キバのデッキを授かることを許されたエリートである吸血堕天はどうしても許すことができなかった。この名誉ある大会で下民が、ヘラクレスが優勝することが、もっと言えば大会に出場することさえも間違っていると考えている。
そんな憎しみと焦燥の感情を抱えながら、彼はスタジアムに行き、そこで待ちぼうけていた椎名と顔を合わせる。
「あっ!吸血先輩!今日はよろしくお願いします!やるからには良いバトルにしましょう!」
「芽座椎名……世界にただ1枚しかないロイヤルナイツ、マグナモンを使う、……下民のバトラー」
元気よく深々と頭を下げてお辞儀をする椎名に対し、エンペラーこと、吸血は相変わらず「下民」の単語を使ってくる。
椎名はお辞儀した頭を元に戻すと、吸血に対して質問をする。それはずっと彼女が彼に対して思っていた疑問。
「ねぇ、吸血先輩、………あなたはバトスピを楽しんでますか?」
「?」
「いや、なんだろう、昨日の先輩と空牙のバトルを見てたら、こう、何か変なプレッシャーを感じたって言うか、楽しむ余裕がなかった感じだったって言うか、」
昨日、思ったことを素直に言葉にして見た椎名。吸血はその冷たい目線を椎名に向けたまま、それに回答する。
「…………お前はバトルが楽しむものだとでも思っているのか?」
「!?!」
「……下民はそうかもしれないな、だが、一族は違う、それぞれ家の名誉をかけて戦うのだ!楽しいなど思うはずもない!」
思わずその威圧感のある言葉に背筋が凍りつく椎名。だが、同時に違うとも思った。
確かに今まで椎名が戦ってきた一族のバトラーは少なからずそう言うものを賭けてきたのかもしれない。それは九白一族の岩壁とのバトルがはっきりと教えてくれた。
だが、司や夜宵は違った。夜宵はただただバトルを楽しんでいたし、司だって最初出会った時から心の底ではバトルを楽しんでいるように感じた。
ーバトルを、バトルスピリッツを楽しもうとしていない人の方が少ない。
「いや、やっぱりバトルは楽しむものだ!一族とか、下民とか関係ないよ、私がこのバトルで証明してみせる!」
「バトルは勝ちと負け、それ以外には何もない!」
2人はそれぞれの想いを募らせながらも、Bパッドを展開して、バトルを始める。
「「ゲートオープン、界放!!」」
芽座椎名と、吸血堕天による、2回戦、第一試合が幕を開ける。先行は椎名だ。
[ターン01]椎名
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、……よし、先ずはガンナー・ハスキーを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨2
椎名がこのバトルで初めて召喚したのは緑の犬型スピリット、拳銃を所持するために青い筋肉質な腕を背に生やしたスピリット、ガンナー・ハスキーだ。
紫のコアシュート効果の対策もあって、できるだけ多くのコアが乗せられている。
「……ターンエンド」
ガンナー・ハスキーLV1(2)BP2000
バースト無
先行の第1ターン目など、やることが限られている。椎名はそれだけでこのターンを終えた。次は吸血のターンだ。
[ターン02]
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、僕はネクサス、旅団の摩天楼をLV1で配置………その配置時効果でデッキからカードを1枚ドローする」
手札5⇨4⇨5
リザーブ5⇨2
トラッシュ0⇨3
今回、吸血が最初に呼び出したのはキバはなく、細長い摩天楼。それは紫のデッキならなんでも採用圏内に入る強カードだ。
ドローと軽減コストのシンボル確保を同時に行った。
「さらに、バーストを伏せてターンエンド」
手札5⇨4
旅団の摩天楼LV1
バースト有
そしてまた何かわからないバーストを伏せる。基本的に彼のデッキのバーストはライフ減少後か、破壊後に限られるが、最初に伏せるのは大抵、公式のバトルではキバフォームだ。
とにかく、吸血はそれだけでそのターンを終えた。互いに静かな滑り出しだったと言える。
[ターン03]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨3
トラッシュ2⇨0
「メインステップ!………ワームモンをLV2で召喚!」
手札5⇨4
リザーブ3⇨0
ガンナー・ハスキー(2⇨1)
トラッシュ0⇨1
椎名が呼び出したのは緑の成長期スピリット、芋虫のような外見のワームモンだ。
このワームモンは勇猛なる昆虫戦士へと進化できる可能性を秘めたスピリットであって、
椎名はアタックステップに移行する。
「アタックステップ!その開始時にワームモンの【進化:緑】の効果発揮!手札に戻して、緑の成熟期、スティングモンに進化!」
スティングモンLV2(3)BP8000
ワームモンの身体中にデジタルのベルトが巻かれて、彼のコードを変えていく、そして新たに現れたのは勇敢なる昆虫戦士、成熟期のスティングモンだ。
「………進化か、」
「スティングモンの召喚時かアタック時!ボイドからコア1つをこのスピリットに置く!」
スティングモン(3⇨4)
スティングモンには優秀なコアブースト効果がある。椎名はその効果で一気にコアの差を開かせる作戦だった。
単純にコアが増え辛い紫との対戦ではこの一手は大きく響いてくることだろう。
「さらにアタックステップは継続!いけぇ!ガンナー・ハスキー!」
さらにアタックを開始する椎名。普通はコアが増えるスティングモンからのアタックとなるが、今回はあえてガンナー・ハスキーからアタックした。
それは椎名があのバーストを警戒しているからこそであって、
「ライフで受ける」
ライフ5⇨4
当然だが、身を守ってくれるスピリットがいないため、吸血はガンナー・ハスキーのアタックをライフで受けることになる。
ガンナー・ハスキーの乱射が、吸血のライフを1つ砕いた。だが、これは彼のバースト発動の条件でもあって、
ー勢いよくそれがひっくり返る。
「……ライフ減少後により、バースト発動!……仮面ライダーキバ キバフォーム!この効果で貴様のガンナー・ハスキーのコアをリザーブに置き、消滅させる!」
「!!」
ガンナー・ハスキー(1⇨0)消滅
突如現れる謎の人影、それは天空に飛び立ち、滑空するようにガンナー・ハスキーに強烈なキックを浴びせる。ガンナー・ハスキーはそれに耐えることができず、その体を消滅させた。
「さらにこれをLV2で召喚!」
リザーブ3⇨0
仮面ライダーキバ キバフォームLV1(3)BP4000
その人影の正体は仮面ライダーキバ キバフォーム。吸血一族に伝わるキバデッキの最も基礎となるカードだ。吸血は早速これを召喚した。
「よし!やっぱりキバフォームだった!」
椎名はバーストがそれだとよんでいた。だからその効果で消滅してしまうであろうガンナー・ハスキーからアタックをしてその無駄を省いたのだ。
「ふんっ………キバフォームの召喚時効果でデッキからカードを1枚ドローする」
手札4⇨5
キバフォームの召喚時はかの有名なシキツルさんと同じ効果だ。吸血はその手札を少しだけ潤す。
「さらにスティングモンでアタック!」
スティングモン(4⇨5)LV2⇨3
すかさずスティングモンでアタックする椎名。スティングモンはその効果で自身のLVを上げる。
「それはキバフォームでブロックする!」
「!!……BPはこっちの方が高いのに……!!」
スティングモンの高速の突きをキバフォームは軽く避けるものの、素早さでは圧倒的にスティングモンが上、避けた先に再び突きを入れられ、キバフォームは吹き飛ばされてしまう。
ーだが、LV2のキバフォームには不老不死とも取れる効果が存在していて、
「LV2のキバフォームは破壊時、手札1枚を破棄することで手札に戻る」
手札5⇨4⇨5
破壊カード
【キャッスルドラン】
LV2のキバフォームは手札を犠牲にする事で破壊を免れる。
キバフォームはカードに姿を変え、吸血の手札へと帰還した。
「………またバーストを撹乱させる気か………」
わざとバーストカードを手札に戻すことによって、次にセットされるバーストを撹乱させるという吸血独自の作戦。小汚いようにも見えるが、これも立派なバトルスピリッツの戦術の1つだ。
「……ターンエンド」
スティングモンLV3(5)BP10000(疲労)
バースト無
動けるスピリットがいないため、椎名はそのままターンを終えた。スティングモンの召喚により、コアのアドバンテージ差は存分に開いたと言える。
[ターン04]吸血
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨7
トラッシュ3⇨0
「メインステップ、…………………バーストを伏せ、ターンを終える」
手札6⇨5
旅団の摩天楼LV1
バースト有
「…………え!?それだけ!?」
思わず目を見開いた椎名。それもそのはず、バーストは伏せるとは思ってはいたものの、それだけでターンを終えるとは考えてはいなかったからだ。
当然これは彼なりに考えがあってのことであって、
(ふふ、さぁ、スピリットを大量に展開し、アタックしてこい、下民よ、…………その次のターンが貴様の敗北を決定付ける瞬間だ……!!)
彼が伏せたバーストはキバフォームではない。空牙のバトルの時同様、これは白の汎用防御マジック、【絶甲氷盾】だ。
今、この段階で彼の手札には強力なキバの最強フォーム、エンペラーフォームが存在していた。
吸血は事前に芽座椎名という人間のバトルを研究し、熟知していた。彼女のデッキは速攻が前提。コアが増えた今、椎名は間違いなく速攻部隊を展開してくることだろう。そのスピリットのアタックを絶甲氷盾でしのぎ、返しのターンでキバフォームを召喚、そしてエンペラーへの【チェンジ】でそれらを一掃する予定だった。
ーその作戦は完璧。……………完璧なはずだった。
[ターン05]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
「ドローステップ………(あのバーストなんだろう……………ん?あれ?…………これは……)」
手札4⇨5
バーストのあれやこれを考える椎名。だが、このドローステップで引いたカードを見て考えるのをやめてしまった。それは、そのカードは間違いなくこの場で最強のカードだと直感的に認識したからだ。
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨3
トラッシュ1⇨0
スティングモン(疲労⇨回復)
「メインステップ!……よし!ここはいつも通り!猪人ボアボア、ワームモンをLV1ずつで召喚!」
手札5⇨3
リザーブ3⇨0
スティングモン(5⇨3)
トラッシュ0⇨3
(………勝ちだっ…………!!)
あいも変わらず、椎名は速攻部隊のスピリットたちを手札の負担も全く気にせずに展開する。その思い切りの良さが椎名のいいところではあるが、このままでは吸血の思う壺だ。次のターンでエンペラーフォームの餌食とされかねない。
吸血も内心勝ちを確信した。「下民とはなんと愚かなのだろう」とも考えていた。決まった動きしかしない。考える頭がない。と。
「さらに、バーストをセットして……………アタックステップだ!」
手札3⇨2
バーストを伏せて、勢いよくアタックステップに入る椎名。場にいる3体のスピリットたちも戦闘態勢に入る。
「いけぇ!ボアボア!アタック時効果でコアを増やしつつ、LVアップ!」
猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2
手に持っている鎖付き鉄球を振り回す猪人ボアボア。その効果は【連鎖:緑】でコアを増やしつつLVを上げる効果。また椎名と吸血とのコア差が開く。
吸血はもうライフで受ける気満々だ。もはや宣言する必要もないくらいだ。
「ライフで受けよう」
ライフ4⇨3
そのままボアボアの鉄球の攻撃を受け入れる吸血。ライフが1つ砕かれた。そして計画通りのバーストを発動させる。
「ライフの減少によりバースト発動!絶甲氷盾!………ライフを1つ回復し、さらにコストを払うことでこのターンの貴様のアタックステップを強制終了だ!」
ライフ3⇨4
リザーブ8⇨4
トラッシュ0⇨4
「あっちゃぁあ、絶甲氷盾だったかぁ」
失敗したかのように頭を掻く椎名。立ち込める猛吹雪が、彼女のスピリットの身動きを封じ込める。これではこのターンのアタックは無理だ。
「ターンエンド!」
スティングモンLV2(3)BP8000(回復)
猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)
ワームモンLV1(1)BP3000(回復)
バースト有
仕方なくそのターンを終える椎名。次は吸血のターン。エンペラーフォームを召喚する気だ。
[ターン06]吸血
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ5⇨9
トラッシュ4⇨0
「メインステップ!……僕はキバフォームをLV2で召喚!」
手札6⇨5
リザーブ9⇨4
トラッシュ0⇨2
予定していた通り、ここでエンペラーフォームの敷地となるキバのベースフォーム、キバフォームを召喚した。その効果はかの有名なシキツル互換。カードがドローされる。
「召喚時効果!カードをドローする……!!」
手札5⇨6
デッキから1枚のカードを引き抜いた吸血。本当にこの時点で勝ちを確信していた。やはり一族の人間がそこら辺にいる下民などに負けるわけがない。
ーそう思った束の間だった。椎名のバーストが勢いよくひっくり返ったのは。
「相手の手札が効果により増えた時!バースト発動!………………グリードサンダー!!!」
「……………はぁ?」
「この効果で、相手は全ての手札を破棄し、新たに2枚のカードをドローするっ!」
「な!?……ぐ、ぐおおぉぉお!!!!」
手札6⇨0⇨2
破棄カード
【キャッスルドラン】
【仮面ライダーキバ キバフォーム】
【絶甲氷盾】
【絶甲氷盾】
【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム】
【仮面ライダーキバ ドガバキフォーム】
場に迸る青い稲妻。それは瞬く間に吸血の手札を襲い、破棄させる。せっかくのエンペラーフォームがトラッシュへと送られてしまった。そして新たに引かれた2枚のカードの中にも2、3枚目のエンペラーフォームの姿はない。
「へへ!せっかくいい手札だったのに残念だったねぇ!…………さらにコストを支払って、キバフォームを破壊!……不足コストはワームモンから確保!」
スティングモン(3⇨1)LV2⇨1
猪人ボアボア(2⇨1)
ワームモン(1⇨0)消滅
「………手札を破棄して、キバフォームを回収………っ!」
手札2⇨1⇨2
破棄カード
【キャッスルドラン】
ワームモンが消滅し、迸る青い稲妻は今度はキバフォームを破壊しようとするが、それに直撃する前に、キバフォームは自身の効果により、吸血の手札へと帰還してしまった。
あまりに唐突な出来事で一瞬なにがなんだのかわからなくなって混乱した吸血。そしてふと理解した。下民に完全にしてやられた。と。
椎名はグリードサンダーのカードをドローした瞬間にこれはいけると考えた。少なくとも吸血の場か、手札には効果により手札を増やすキバフォームがいるのを知っていたからだ。裏を掻く必要性もバーストのカードを考える必要もなくなった。
結果は予想以上のプラスとして帰ってきた。吸血のデッキの特徴でもあった、なくなり辛い手札は、今やカスカスになり、場のスピリットは再び消えた。
「ぐっ!……き、き、貴様ぁぁぁぁあ!!下民のくせに!下民のくせにぃぃい!!」
頭の中がそのことでいっぱいになり、大いに取り乱すエンペラーこと、吸血堕天。完全に下だと見下し、否定していた芽座椎名という女子に思わぬ反撃を受けたのだ、無理もない。
ーいや、無理はあった。明らかに椎名のバーストは警戒すべき存在であったはずだ。だが、彼はそれを無視して普通に予定した通りの動きをした。
調子に乗りすぎだ。この程度の反撃など当たり前だろう。去年、一昨年も同じように取り乱してヘラクレス、五の守護神に敗北を喫した。
ー愚かなのは自分だ。そう認めたくないからこそ、彼は心の底から激怒していたのだった。
「へっへ!吸血先輩!バトルはなにが起こるかわからないから楽しいんだよ!」
椎名としては本当の意味でバトルの楽しさを伝えたいがために発した言葉出会ったが、吸血にはもはやその椎名の言葉は自分に対する煽りにしか聞こえない。
「下民めっ!それでいて尚一族を愚弄するかっ!」
「え!?いやいや、違うって!」
全力で椎名も否定するが、今まで以上に聞く耳を持たない吸血。完全に頭に血がのぼっている。
ーそして残った2枚の手札で展開する。僅か2枚のドローでもさすがはエンペラーか、引きの良さを見せつける。
「僕はブレイブカード!キバットバットⅢ世を召喚!」
手札2⇨1
リザーブ7⇨4
トラッシュ2⇨4
「!!……コウモリ!?………ちっさ!」
現れたのは小さなコウモリのような機械。それはまるで意思があるように見える。
このカードを小さいからと言って侮ってはいけない。その効果はキバのサポートに完全に徹底した効果であり、
「召喚時効果!カードを3枚オープン!その中のキバのカードを手札に加える!」
オープンカード
【仮面ライダーキバ バッシャーフォーム】○
【デスマサカー】×
【旅団の摩天楼】×
効果は成功、キバの名前を含む、仮面ライダーキバ バッシャーフォームが彼の手札へと加えられた。
そして、キバットバッドの効果はこれだけでは終わらない。吸血はバッシャーフォームの【チェンジ】の効果を使用する。
「さらに!今手札に加えたバッシャーフォームの【チェンジ】の効果発揮!この効果で相手スピリット1体のコアを2つリザーブへ送る!対象はスティングモンだ!くらえぇ!」
リザーブ4⇨1
トラッシュ4⇨7
「……っ!……スティングモンっ!」
スティングモン(1⇨0)消滅
突如現れたのは仮面ライダーキバのフォームの1つ、バッシャーフォーム。その色は綺麗なエメラルドグリーンで、手には独特な形をした拳銃が握られている。
バッシャーフォームはその銃を両手に持ち、水の力を圧縮してスティングモンに向けて発射する。スティングモンはそれに貫かれ、消滅してしまった。
そして【チェンジ】の効果と言えばその後、場にいる仮面スピリットとのバトンタッチする効果だが、
「……でも、仮面スピリットはいないから入れ替えはできない」
「バカだな、下民め、…………キバットバッドⅢ世はキバの【チェンジ】の入れ替えの対象にできる……!!」
「!?!」
「僕はこのキバットバッドⅢ世を対象に、バッシャーフォームと入れ替える!」
仮面ライダーキバ バッシャーフォームLV1(1)BP3000
キバットバッドⅢ世が、バッシャーフォームの腰にあるベルトに装着するようにひっつく。バッシャーフォームはその場で存在を維持した。
この時、吸血はキバットバッドⅢ世をそのままバッシャーフォームに合体させることもできたが、それをせずに手札に加えた。枯渇した手札を再び召喚時の効果で増やすためだが、頭に血がのぼっているわりにはなかなかいい判断である。
椎名は驚いていた。まさかあんな少なくなった手札で反撃してくるなんて、と。それが彼女のやる気をさらに引き上げさせる。
「バーストを伏せて、ターンを終える!」
手札2⇨1
仮面ライダーキバ バッシャーフォームLV1(1)BP3000(回復)
旅団の摩天楼LV1
バースト有
もはやそのバーストは隠すまでもない、キバフォームだ。このままでは防御をすることができないので、それを伏せるのは致し方ない。
次は椎名のターンだ。
[ターン07]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札2⇨3
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨9
トラッシュ7⇨0
猪人ボアボア(疲労⇨回復)
「メインステップ!……よっし!ブイモンを召喚!」
手札3⇨2
リザーブ9⇨6
トラッシュ0⇨2
椎名の場に小さき青き竜、ブイモンが現れた。ようやくのご登場だが、今からでも遅くはない。その召喚時の効果を発揮させる。
「召喚時効果!!カードを2枚オープンして、進化系を手札に加える!」
オープンカード
【風盾の守護者トビマル】×
【マグナモン】○
「!!……ロイヤルナイツッ!!」
効果は成功。椎名はアーマー体であるマグナモンを手札へと加えた。
ーそして椎名はすぐさまそれをブイモンを対象として召喚する。
「マグナモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コスト支払って、黄金の守護竜、マグナモンをLV3で召喚!!」
リザーブ6⇨2
トラッシュ2⇨3
マグナモンLV3(4)BP10000
ブイモンの頭上にゆっくりと黄金に輝く鎧を纏った卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは、ロイヤルナイツが1体、黄金の鎧をその身に纏う蒼き竜。マグナモンだ。
「……ちぃ!下民如きがっ!」
「マグナモンの召喚時効果!相手の場にいる最もコストの低いスピリット1体を破壊!……今の先輩の場にはバッシャーフォームが1体だけ!それを破壊するっ!……黄金の波動!!エクストリーム・ジハード!!」
マグナモンはその黄金の力を集中させ、一気に解き放つ。その波動の障壁のようなものは、瞬く間にバッシャーフォームを中に取り込み、消滅させた。
「へっへ!どんなもんだ!バトルはこっからだよ!先輩!」
「………策がはまったくらいで………調子にのるなよ……この下民がっ!」
マグナモンとボアボアが雄叫びをあげる。ドローもプレイングも絶好調な椎名。ここまでのバトルでライフは椎名が5。吸血が4。今が椎名のターンであることを考えると、椎名が吸血を相当追い詰めていることがわかる。ロイヤルナイツのマグナモンの存在がよりそれを明確にしていた。
だが、相手はあの【エンペラー】吸血堕天。当然この程度の策にはめられた程度では終わらないのであって、
デジタルスピリットと仮面スピリット、【アーマー進化】と【チェンジ】。相反する2つのデッキの決着は……………次回だ。
〈本日のハイライトカード!!〉
「はい!椎名です!今回はこいつ!【キバットバッドⅢ世】!!」
「キバットバッドⅢ世は紫のブレイブ!召喚時にキバを持ってきたり、キバの【チェンジ】の対象になったりもできるよ!……………ていうか次回に持ち越しかーーーーい!」
決着は次回です!最後までお読みくださり、ありがとうございました!