バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

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第22話「キバを砕け、爆裂の拳!ロックガントレット!」

ー『また3位だと!?……いい加減にしろ!お前は他の兄弟たちとは違うんだぞっっ!』

ー『……ですが父様、相手はあのヘラクレス…………』

ー『お前と同年代の下民じゃないか………口答えするな、これ以上私をがっかりさせないでくれ』

ー『…………はい、父様』

 

 

これは去年の界放リーグ後の吸血一族の話。吸血は2年前は五護鉄火に、1年前は緑坂冬真に敗北を喫していた。

 

吸血とて、昔はバトルを楽しみたくないわけではなかったのだ。バトスピ一族としてのプライドが、名誉が、父の教えが、彼のその心を縛り付けて、いつのまにかその気持ちを忘れさせていったのだ。

 

そして、界放リーグ2回戦、第一試合の芽座椎名対吸血堕天のバトルは。現在のフィールド状況は以下の通り。

 

 

《椎名》ライフ5

猪人ボアボアLV1(1)BP2000(回復)

マグナモンLV3(4)BP10000(回復)

 

バースト無

 

 

《吸血》ライフ4

 

旅団の摩天楼LV1

 

バースト有

 

 

そして現在は椎名のメインステップ、吸血は椎名のグリードサンダーにはめられてしまい、手札の枯渇や、盤面のスピリット維持に苦戦していた。

 

 

「猪人ボアボアのLVを2に上げて、アタックステップ!………ボアボアでアタックだ!」

リザーブ2⇨0

猪人ボアボア(1⇨3)LV1⇨2⇨3

 

 

鎖付き鉄球を手に持ち、走り出すボアボア。

 

吸血の場にスピリットがいないのなら、警戒すべきはあの伏せられたバーストカードだ。だが、あのバーストはもう何かわかっている。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ4⇨3

 

 

勢いよく投げつけられた鎖付きの鉄球が、吸血のライフを1つ粉々にする。そしてこれが吸血のバーストの発動条件だ。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動!仮面ライダーキバ キバフォーム!効果により貴様のボアボアからコアを2個取り除き、これをLV2で召喚!」

リザーブ3⇨0

仮面ライダーキバ キバフォームLV2(3)BP4000

 

「………」

猪人ボアボア(3⇨1)LV2⇨1

 

 

勢いよくひっくり返るバーストカード。そしてキバフォームが再び現れ、ボアボアを滑空するように蹴りつける。ボアボアは力が抜き取られるも、なんとかこの場に留まった。

 

 

「召喚時効果で1枚ドロー」

手札1⇨2

 

 

吸血はキバフォームのシキツル互換の効果でデッキからカードを1枚引き抜いた。

 

だが、気は抜けないだろう。次はロイヤルナイツ、マグナモンの攻撃なのだから。

 

 

「いけぇ!マグナモンでアタック!」

 

「………ちぃっ、ライフだ」

ライフ3⇨2

 

 

マグナモンの渾身のパンチが吸血のライフを粉々に粉砕した。キバフォームでブロックしてライフを守りつつキバフォームを手札に戻すことができたが、残り少ない手札を破棄しなくてはならないためか、それはしなかった。

 

 

「よっし!後2つぅ!ターンエンドだよ!」

猪人ボアボアLV1(1)BP2000(疲労)

マグナモンLV3(4)BP10000(疲労)

 

バースト無

 

 

ターンを終える椎名。ここまではほとんど椎名のペースでバトルが進んでいる。マグナモンが防御能力に特化したスピリットであるということもあり、ここから吸血が逆転するのはさながら不可能に見える。

 

だが、ここから彼も意地を見せる。持ち前の引きの良さを見せつけ、一気に形成を傾かせる。

 

 

[ターン08]吸血

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

 

 

メインステップに入る前、吸血は椎名のロイヤルナイツ、マグナモンを分析していた。やはりあれをどうにかしないと勝ち筋は見つからないだろう。

 

 

(ロイヤルナイツ、その一柱、マグナモン。召喚時にほぼ確実に相手のスピリットを1体葬る効果に加え、疲労ブロッカー能力、どれも強力だが、最も厄介なのはスピリットとブレイブの効果を受け付けない耐性効果、キバフォームはおろかエンペラーフォームでさえも奴の装甲を砕くことはできない……………だが、倒す方法がないわけではない)

 

 

マグナモンの効果で最も重要なのはスピリットとブレイブの効果を受けない効果だ。仮面スピリットの【チェンジ】の効果も飽くまでスピリットの効果、マグナモンを倒すことはできない。だが、それ以外なら、

 

 

「……メインステップ、再びブレイブカード、キバットバッドⅢ世を召喚っ!」

手札3⇨2

リザーブ9⇨2

トラッシュ0⇨2

 

「!!……またあのコウモリっ!」

 

 

吸血の場にあの仮面ライダーキバをサポートする不思議な効果を発揮するコウモリが現れる。その召喚時効果はキバを手札に加える効果を持つ。

 

 

「召喚時効果でデッキからカードを3枚オープンっ!」

オープンカード

【マーク・オブ・ゾロ】×

【マーク・オブ・ゾロ】×

【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム】○

 

「!!……エンペラーフォームっ!」

 

「ふっ!……俺はこれを手札に加える」

手札2⇨3

 

 

キバデッキの最強スピリット、エンペラーフォームが彼の手札へと加える。その存在感はかなり大きい。

 

 

「アタックステップ……」

 

 

さらに彼はこの場でアタックステップに入る。マグナモンをどかす作戦でもあるのか、

 

 

「キバフォームでアタック!」

「マグナモンは疲労状態でブロックできる………返り討ちだ!」

 

 

疲労から立ち上がるマグナモン。走ってくるキバフォームを返り討ちにする気だ。

 

だが、それは敵わない。吸血は手札のカードを1枚引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!ダークネスムーンブレイク!………このカードはキバのアタック中にはコストが3のマジックとして扱う!」

手札2⇨1

 

「…!!…マジックか!」

 

 

仮面スピリットのデッキはそれぞれのカテゴリごとに必殺のマジックが存在する。キバの必殺カードはダークネスムーンブレイク。当然マジックだ。マグナモンの装甲を貫くことができる。

 

 

「この効果で相手のスピリットのコア2つをリザーブに置く!対象は当然マグナモンだ!……ダークネスムーンブレイク!」

 

 

上空に飛び立つキバフォーム。そのままマグナモンに向かってかかと落としのようなキックを浴びせる。マグナモンは耐えたものの、若干弱ってしまう。地面にはキバのコウモリの紋章のような跡が残る。

 

 

「ぐっ!……でもまだマグナモンは倒れないっ!」

マグナモンは(4⇨2)LV3⇨2

 

 

LV2になってもマグナモンは疲労状態でブロックできる。そのBP8000。キバフォームを倒すには十分すぎるパワーだ。

 

しかし、今の吸血に抜かりはない。さらに手札のカードを1枚引き抜く。

 

 

「さらに俺は2枚目のダークネスムーンブレイクを使用する!対象はもちろんマグナモンだ!さらに2つのコアを抜き取る!」

 

「なにぃ!?」

マグナモン(2⇨0)消滅

 

 

最初に飛び込んだ勢いを使い、まるで踏み台を使ったかのように再び飛び上がるキバフォーム。そしてマグナモンをその右足で貫いた。

 

流石に2撃目は耐えられなかったか、マグナモンは力尽き、その場で倒れ、その肉体を静かに消滅させた。

 

 

「ま、マグナモンが……っ!」

「耐性効果におごりすぎたなぁ!下民がぁ!このターンで終わりだぁ!……ダークネスムーンブレイクの追加効果!この効果でスピリットが消滅した時、トラッシュにあるネクサスカード、キャッスルドランをコストを支払わずに配置する!」

「……トラッシュから!?」

 

 

ダークネスムーンブレイク。その効果は相手のスピリットを消滅させるだけにあらず、追加効果でトラッシュあるネクサスカードを配置できる。

 

 

「来いっ!キャッスルドラン!」

「!?」

 

 

地震、地中が揺れる。そしてそこから飛び出してくる巨大なドラゴン。その体は文字通り城。いや、城から亀のように首や手足を伸ばしていた。

 

 

「で、でっかぁ!?」

 

 

思わずその大きさにたじろぐ椎名。大きな翼の羽ばたきが、強風を巻きおこし、彼女の服や髪を靡かせる。

 

そしてまだこのタイミングはキバフォームのアタック中であって、

 

 

「キバフォームのアタックはどう受ける下民?」

 

「こっちはライフが腐るほど残ってるんだ!……当然ライフで受けてやるっ!」

ライフ5⇨4

 

 

キバフォームの高速のパンチが椎名のライフを1つ砕いた。これで吸血はようやく椎名のライフを破壊したことになる。

 

だが、それだけでは終わらない。吸血はあわよくばこのターンで椎名のライフを全て破壊するつもりでいた。

 

 

「ハッハッハァぁ!!キバットバッドでアタック!」

「!!」

 

 

その小さな翼で飛び立つキバットバッド。そして吸血はチェンジさせる。最強のキバを。

 

 

「僕はこのエンペラーフォームの【チェンジ】を発揮させる!対象はキバットバッド!そしてこの時、ネクサス、キャッスルドランの効果で自身を疲労させることでそのコストをゼロにするっ!」

キャッスルドラン(回復⇨疲労)

 

「!!」

 

 

キャッスルドランは自身の力を使うことでキバのチェンジのコストをゼロにできる。

 

そして椎名もそれを察した。ここまで召喚をなんとか妨害してきたがダメだった。ここまでダメージを背負ってもそれを出してくる吸血に執念や執着心さえ感じる。

 

そして先ずはそれが現れる前の減少が始まる。

 

 

 

「…………その効果で貴様のボアボアのコアを除去する!」

 

「ぐっ!ボアボアっ!」

猪人ボアボア(1⇨0)消滅

 

 

黒い霧の中から突如現れた紫の飛ぶ斬撃。それは瞬く間にボアボアを引き裂いた。

 

 

「そしてその後キバットバッドと入れ替える!その時、キバットバッドはそのスピリットと合体できる!」

仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバッドⅢ世LV3(5)17000

 

 

そしてその黒い霧の中から現れたのは最強のキバ、エンペラーフォーム。黄金の鎧、マント、剣を携えて椎名の目の前に現れた。

 

キバの【チェンジ】の対象となったキバットバッドⅢ世はその仮面スピリットに自身を合体させる効果がある。エンペラーフォームの腰にそれが小さく収まる。これによりエンペラーフォームのパワーが数段増した。

 

あの追い詰められた状態からよくもここまで返したものだ。さすがは【エンペラー】と呼ばれるだけのことはある。

 

 

「ライフで受ける……ぐっ」

ライフ4⇨2

 

 

エンペラーフォームのザンバットソードと呼ばれる剣が一瞬のうちに華麗なる剣術で椎名のライフを2つ破壊した。

 

 

「ターンエンド!!」

仮面ライダーキバ キバフォームLV2(3)BP4000(疲労)

仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバッドⅢ世LV3(5)BP17000(回復)

 

旅団の摩天楼LV1

キャッスルドランLV1(疲労)

 

バースト無

 

 

吸血はこのターンを終了させる。ただ、優勢であるとは言え、彼の手札はゼロ。ライフは2。厳しい状況だった。

 

ー次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン09]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ10⇨11

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ11⇨14

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ…ブイモンをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ14⇨8

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名は再びブイモンを召喚する。そして逆転の糸口を見つけるべく、その召喚時の効果を使用させる。

 

 

「召喚時効果発揮!カードを2枚オープンし、その中の「アーマー体」「成熟期」を手札に加えるっ!」

オープンカード

【No.26キャピタルキャピタル】×

【ワームモン】×

 

 

残念ながら効果は失敗、2枚ともトラッシュへと破棄されてしまった。

 

 

「ふんっ!運も尽きてきたようだなっ!」

「いや、まだだ、……運は使うものじゃない、自分の手で引き寄せていくものだ……………」

 

 

そうだ、椎名の手札にはまだ可能性が大いにあった。椎名はあるものを全てフル使い、吸血に挑む。

 

 

「バーストをセットして、アタックステップっ!その開始時にブイモンの【進化:青】を発揮!ブイモンを手札に戻して、エクスブイモンに進化させるっ!」

エクスブイモンLV3(11)BP7000

リザーブ8⇨0

 

 

椎名の場にバーストが伏せられると同時に、ブイモンが0と1のデジタルコードに身体を巻かれて、成長していく、そして新たに現れたのは青き闘竜。エクスブイモン。その腹部には自身の名を関してエックスの文字が刻まれている。

 

その効果は青属性ではお馴染みの手札交換効果だ。

 

 

「エクスブイモンの召喚時効果で、デッキからカードを2枚ドローして、その後1枚破棄する」

手札2⇨4⇨3

破棄カード

【トライアングルバースト】

 

 

手札の質を向上させることに努めた椎名。そのターンを終了させる。

 

 

「………ターンエンド」

エクスブイモンLV3(11)BP7000(回復)

 

バースト有

 

 

コア除去の対策でありったけのコアが乗せられたエクスブイモンがブロッカーとして椎名の陣営を固める。

 

ー次は吸血のターンだ。

 

 

[ターン10]吸血

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札0⇨1

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

仮面ライダーキバ キバフォーム(疲労⇨回復)

仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバット三世(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、キャッスルドランのLVを2にあげる」

リザーブ5⇨3

キャッスルドラン(0⇨2)LV1⇨2

 

 

LVが上がる今にも動き出しそうなネクサス、キャッスルドラン。そして吸血はここからアタックステップへと移行する。椎名を追い詰めるために。

 

 

「アタックステップ!その開始時にキャッスルドランの効果!LV2の時、こいつをコスト6のBP10000のスピリットとして扱うことができる!」

キャッスルドランLV1(2)BP10000

 

「!!?ネクサスがスピリットに!?……いや、まぁ、スピリットっぽかったしなぁ」

 

 

キバが住んでいると言われているネクサス、キャッスルドラン。それはLVを上げることで、ネクサスとしての機能を停止させる代わりに、キャッスルドラン自身をスピリットとして場に呼ぶことができる。

 

吸血の背後から前線に向かってきたキャッスルドラン。そのドラゴンとしてのサイズの大きさは椎名のエクスブイモンとは比べ物にならない。

 

そして吸血のアタックステップが本格的に始まる。椎名の残り2つのライフを奪いにいく。

 

 

「アタックステップは継続!いけぇ!エンペラーフォーム!」

 

 

走り出すエンペラーフォーム。現在のエンペラーフォームはキバットバッドⅢ世と合体しているため、ダブルシンボル。椎名のライフも2つ。椎名は意地でもこのアタックを防がなければならなかった。

 

 

「………お願い、エクスブイモン………っ!」

 

 

唯一の場にいるエクスブイモンにブロックの支持を頼む。だが、BPの差は圧倒的にエンペラーフォームが上。覆ることはない。

 

 

「無駄だ!失せろ雑魚!」

 

 

エンペラーフォームのザンバットソードの一閃が、エクスブイモンを通り過ぎるように切り裂く。エクスブイモンはその場で大きく爆発した。

 

これで椎名の場は再び全滅。そこにつけ込むように今度はキャッスルドランがゆっくりと動き出す。

 

 

「キャッスルドランでアタック!」

 

 

このターンでフルアタックを決められて仕舞えば、椎名のライフはゼロ。だが、椎名の手札にはスピリットを疲労させるチェイスライドのカードがある。これがあれば防ぐことができるが、椎名はこれを使わずに別の方法でこの攻撃を凌ぐつもりでいた。

 

 

「相手のアタックによりバースト発動!トライアングルバースト!」

「なに!?」

 

「この効果で手札にあるコスト4以下のスピリット、………ブイモンを召喚する!」

手札3⇨2

リザーブ11⇨8

ブイモンLV2(3)BP4000

 

 

トライアングルの光りが地面に浮かび上がる。その間から椎名のブイモンが再び姿を見せる。

 

 

「くっ!……だが、所詮はBP4000、キャッスルドランの相手ではない!」

「へっへー!……それはどうかな?……ブイモンでブロック!」

 

 

BPでは圧倒的に劣るものの、椎名はブイモンで巨大なキャッスルドランに立ち向かう。

 

だが、大事なのはこのBP勝負で勝つことではない。ブロックすることにあった。椎名は1枚の手札を引き抜いた。

 

 

「フラッシュ!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、燃え上がる炎の竜人!フレイドラモンを召喚!」

リザーブ8⇨7

トラッシュ3⇨4

フレイドラモンLV3(3)BP9000

 

「……!!…またアーマー進化か」

 

 

ブイモンの頭上に赤くて独特な形をした卵が投下される。ここまではいつも通りだったが、ブイモンとそれの間を挟むようにキャッスルドランが現れる。

 

ブイモンはこのままではアーマー進化できないと思い、高くジャンプしてキャッスルドランを足場にする。そしてそのまま赤の卵に衝突し、混ざり合う。キャッスルドランの頭上で椎名のエースカード、フレイドラモンが召喚された。

 

 

「フレイドラモンの召喚時効果!BP7000以下のスピリット1体を破壊!破壊対象はキバフォームだっ!……爆炎の拳!ナックルファイアァァ!!」

 

 

そのまま天高い位置からアクロバティックな姿勢のまま炎の鉄拳を放つフレイドラモン。それは瞬く間に地上に存在するキバフォームに命中し、焼失させた。

 

フレイドラモンは椎名の場に華麗に着地してみせた。

 

 

「くっ、キバフォームの効果は発揮させないっ」

 

「じゃあ私はフレイドラモンの効果でデッキから1枚ドローする」

手札2⇨3

 

 

さっきまではブイモンとキャッスルドランの勝負であったが、【アーマー進化】によりブイモンが消えたことにより、バトル自体が無効となり、結果的にキャッスルドランが疲労しただけとなった。

 

これにより吸血の場のスピリットは全て疲労したことになる。

 

 

「…………ターンを終了する」

仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバッドⅢ世LV3(5)BP17000(疲労)

 

キャッスルドランLV2(2)

旅団の摩天楼LV1

 

バースト無

 

 

仕方なくそのターンを終える吸血。この場はかなり厳しいように感じるが、残った1枚の手札には強力なカードが仕込まれており、

 

ー次は椎名のターンだ。ここが正念場となるだろう。

 

 

「へへっ!……」

「なにが可笑しい」

 

 

椎名はなぜかこんな場面でも笑っていた。吸血は自分が負けそうな感じだからと勘違いしてやや怪訝そうな顔をする。

 

椎名が笑ったのは当然別の理由だ。というか、これはもはやいつものことであって、

 

 

「いやぁ、バトルは楽しいなぁ、って思ってさ」

「この状況でまだそんなことをほざくか、バトルは勝ちと負けしかない、勝敗以外の価値などないのだ」

「そうかなぁ?……今の先輩は私から見ればバトルを楽しんでいるようにしか見えないな」

「!?」

 

 

唐突に放たれた椎名の言葉に思わず目を見開いた吸血。だが、直ぐにそんなことはないと考え直す。当然だ。今まで楽しさよりも勝ち負けが大事だと教わってきたのだ。たった1人の下民の言葉に惑わされる自分ではない。

 

だが、たしかに椎名とのバトルでその心は傾きつつあったのは確かなことであった。

 

その証明が次のターンに行われる。

 

 

[ターン11]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ7⇨8

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ8⇨12

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、私はブイモンを召喚して、さらに、ブレイブカード、鎧殻竜グラウン・ギラスを召喚!」

手札4⇨2

リザーブ12⇨7⇨4

トラッシュ0⇨4

 

 

椎名が呼び出したのはブイモンと、赤属性のブレイブ。岩のような外骨格を持つ竜、グラウン・ギラスが場に現れる。その効果はまさしくネクサスキラーとも呼ばれている効果であって、

 

 

「召喚時効果!相手のネクサス1つを破壊する!キャッスルドランだ!」

「!?」

 

 

グラウン・ギラスが足踏みするように地ならしを引き起こす。すると、キャッスルドランは悲鳴のような咆哮を上げながら地面に沈んでいった。

 

 

「そしてフレイドラモンと合体!」

リザーブ4⇨0

フレイドラモン+鎧殻竜グラウン・ギラスLV2(8)BP12000

 

 

グラウン・ギラスが生物としての機能を停止させ、フレイドラモンに自身の身体を装備させていく。フレイドラモンの腕や肩はグラウン・ギラスの岩で覆われ、固められた。

 

そして椎名はアタックステップに移行する。おそらくこれが最後となるだろう。

 

 

「アタックステップ!ブイモンでアタック!」

 

 

先ず椎名がアタックさせたのはブイモン。元気よく走り出していく。

 

 

「……それはライフで受けよう」

ライフ2⇨1

 

 

ブイモンの強烈な頭突きが吸血のライフを1つ破壊した。これでいよいよ後1つ。椎名のフレイドラモンのアタックが決まれば椎名の勝ちだった。

 

 

「いけぇ!フレイドラモンっ!……グラウン・ギラスの合体アタック時効果で旅団の摩天楼を破壊!」

 

 

フレイドラモンは鉄拳を放つ。いつもはその手から出てくるのは炎だが、今回は無数の岩が連なるように伸びていった。それは瞬く間に旅団の摩天楼へと突き刺さり、それを消滅させた。

 

そして走り出したフレイドラモン。だが、これだけでは決められるはずがなかった。吸血は自身の手札の最後の1枚を引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!……ネクロブライトを使用するっ!」

リザーブ8⇨6

トラッシュ0⇨2

 

「!!……紫の究極カード!?」

 

 

吸血が使ったのはその強力さ故にデッキに1枚しか入れられないカード。ネクロブライトはトラッシュあるコスト3以下の紫のスピリットを復活させる効果を持っていた。

 

ー吸血が召喚するのはもちろん。

 

 

「僕はこの効果で仮面ライダーキバ キバフォームを召喚!」

リザーブ6⇨1

仮面ライダーキバ キバフォームLV2(5)BP4000

 

 

紫の靄の中から現れたのは今回何度も召喚されたキバフォームが現れた。吸血はその召喚時のドロー効果を発揮させ、逆転を狙う。

 

 

「その召喚時の効果でデッキから1枚ドロー!」

手札0⇨1

 

 

ドローしたカードを恐る恐る見つめる吸血。そしてその口角は上がった。最高のドローをしたのだ。椎名のフレイドラモンを破壊し、自分に最高の勝利をもたらしてくれるカードが来たのだ。

 

そして次は椎名のフラッシュタイミングとなる。椎名は事前に加えていた1枚のマジックカードを引き抜く。

 

 

「フラッシュマジック!チェイスライド!この効果で今出てきたキバフォームを疲労させる!」

手札2⇨1

フレイドラモン+鎧殻竜グラウン・ギラス(8⇨5)

トラッシュ4⇨7

 

「…………」

仮面ライダーキバ キバフォーム(回復⇨疲労)

 

 

緑の突風がキバフォームを怯ませる。だが、この程度のマジックで怯む【エンペラー】ではない。ドローした1枚のカードを引き抜く。それは正しく最強のカードだった。

 

 

「フラッシュ!エンペラーフォームの【チェンジ】を発揮!その効果で貴様のスピリット全てのコアを2つずつリザーブに送る!」

リザーブ1⇨0

仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバッドⅢ世(5⇨3)LV3⇨2

トラッシュ2⇨5

 

「なぁ!?3枚目のエンペラーフォーム!?……ぐっぅ!」

フレイドラモン+鎧殻竜グラウン・ギラス(5⇨3)

ブイモン(3⇨1)LV2⇨1

 

 

再び飛んでくる紫の斬撃、それは瞬く間にフレイドラモンとブイモンを切り刻んでいく。

 

事前にコアを乗せていて正解だった。まさかたった1枚のドローでエンペラーフォームをドローするとは思ってはいなかったものの、消滅という最悪の危機からは逃れた。

 

だが、【チェンジ】で最も恐ろしい効果は他の仮面スピリットと回復状態で入れ替えるということ。

 

 

「場のキバフォームを手札に戻し、発揮させたエンペラーフォームを代わりに入れ替える!」

仮面ライダーキバ エンペラーフォームLV3(5)BP14000

 

 

キバフォームの鎧が弾け飛ぶ。そしてそこには新たなる黄金の鎧。2体目のエンペラーフォームが場に現れた。2体並ぶ様は圧巻だった。

 

そして吸血は椎名のフレイドラモンに勝負を挑む。この2体目のエンペラーフォームで。

 

 

「ブロックだぁ!エンペラーフォーム!下民のエーススピリットごとき、蹴散らしてしまえぇ!」

 

 

フレイドラモンは旅団の摩天楼を破壊した時と同じように、連なる岩を発射させ、エンペラーフォームに攻撃するが、エンペラーフォームは手持ちのザンバットソードでいとも容易くそれを切り刻んでいく。

 

 

「ハッハッハ!残念だったなぁ!BP14000のエンペラーフォームには遠く及ばん!」

「へへっ!やっぱ先輩楽しそうですよ!」

「!?!…………誰が楽しんでいるだと!?この下民がぁ!一族を小馬鹿にするのもいい加減に…………」

「だって、私のフレイドラモンをこんなに必死に倒そうとしてるじゃないですか」

「!!?」

 

 

椎名はバトルの途中から気づき始めていた。吸血が本当は心の奥底ではバトルスピリッツを楽しんでいるということに。

 

 

「私に勝ちたいんだったらネクロブライトのカードはフレイドラモンの時じゃなくて、BPの弱いブイモンの時に使うべきだ、…………でもあなたはそれをしなかった……………ってことは私のフレイドラモンを倒したかったってことですよね?やっぱり楽しんでるじゃないですか」

 

 

ニッコリと微笑ましく笑う椎名。だが、吸血はその言葉に心が大きく揺れたのか、動揺を隠せなかった。

 

 

「う、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいぃぃぃい!!!僕はこれっぽっちも楽しんではいない!」

 

 

動揺しつつも全力で否定する吸血。だが、もう椎名には誤魔化せない。

 

ーそしてラストだ。椎名はラスト1枚のカードを引き抜く。

 

 

「フラッシュマジック!ワイルドライド!!……この効果でこのターン、フレイドラモンのBPを3000上げ、BP勝負に勝った時回復する!」

手札1⇨0

リザーブ4⇨1

トラッシュ7⇨10

フレイドラモン+鎧殻竜グラウン・ギラスBP12000⇨15000

 

 

「な、………なん、だと!?……ラスト1枚がそのカード………」

 

 

これでエンペラーフォームのBPは14000だ。椎名のフレイドラモンよりも劣ってしまう。

 

 

「いっけぇ!!フレイドラモンっ!」

「ば、バカな!?」

 

 

BPが跳ね上がり、パワーアップしたフレイドラモンはエンペラーフォームとの距離を詰め、懐に入る。

 

剣の間合いの内側に来られたエンペラーフォームはその剣を振るうことができない。フレイドラモンはそのグラウン・ギラスとの合体で得た岩の拳で何度も何度もエンペラーフォームの鎧を殴りつけていく。

 

 

「その名を指し示せぇ!フレイドラモン!……………爆裂のぉぉぉお!!!!……ロックガントレットぉおお!!!」

 

 

フレイドラモンの決めのダブルパンチ。その時に装備された岩が衝撃で砕け散り、もともとのフレイドラモンの炎と合わさり、それはまるで爆弾さながら。エンペラーフォームも流石にそれには耐えることは出来ず、無惨にもその黄金の鎧は砕け散り、自身も力尽きて、爆発していった。

 

 

「え、エンペラー、フォーム」

 

 

絶対的な自信を持っていたエーススピリット、エンペラーフォームの破壊は流石にショックだったか、落ち込むような声を漏らす吸血。彼はもはや椎名に「下民」と言う気力さえ残されてはいなかった。

 

 

「ワイルドライドの効果でフレイドラモンは回復」

フレイドラモン+鎧殻竜グラウン・ギラス(疲労⇨回復)

 

 

フレイドラモンはワイルドライドの力により再び活力を取り戻す。吸血の場に唯一残ったエンペラーフォームは疲労状態。もはや邪魔するものはいない。

 

彼の手札に残った1枚のカードはキバフォーム。それも役には立つことはない。残ったコア数のことも考えればフラッシュの順番によっては彼は椎名に勝てたかもしれない。

 

 

「フレイドラモンでラストアタック!!」

 

 

だが、同時に吸血はなにかに気づいた。もうすぐ敗北して、バトルが終わるというのに。なぜだろうか、心の奥底が晴れやかになるような、靄が吹き飛ばされたような、清々しい、そんな気持ちだった。

 

ーそして最後のコールを宣言する。

 

 

「……………ライフで………受ける」

ライフ1⇨0

 

 

フレイドラモンの手から放たれる渦を巻く炎が、吸血の最後のライフを破壊していった。

 

吸血のライフゼロに伴い、界放リーグ、第2回戦、第一試合の勝者は芽座椎名だ。見事この壮絶なバトルに決着をつけてみせた。

 

あの【エンペラー】を倒したのだ。実況者や、観客席から轟音のような音が鳴り響いてくる。フレイドラモンも気高く咆哮しながらもゆっくりとその姿を消滅させていった。

 

椎名はBパッドをしまい、ゆっくりと吸血のところに歩み寄っていく。吸血はもう疲れきった、力が抜けた、そんな感じの表情をしていた。

 

 

「吸血先輩、………良いバトルでしたよ!またやりましょう!」

 

 

そう言って笑いながらサムズアップする椎名。だが、吸血はもう何も口にすることはなく、無言のままその場から直ぐに退散してしまう。

 

椎名はその寂しそうな背中をただ眺めることしかできなかった。

 

 

「バトルの楽しさ…………伝わってたら良いんだけどなぁ」

 

 

椎名は最後にそう呟いた。自分がやったことは吸血にとってはただのお節介だったのかもしれない。が、やはりバトルの、バトルスピリッツの楽しさを知らないのは人として辛すぎる。

 

でも、吸血は終盤、明らかにバトルを楽しんでいた。椎名は絶対にそうであったと信じて、自分も控え室に戻っていった。

 

 

******

 

 

【エンペラー】こと吸血堕天は自分の控え室で荷物を片付けていた。さっきのバトルのことを考えながら。

 

 

「なんなんだ、なんなんだ、この気持ちは、溢れ出る感情は!?…………負けたというのに、負けたというのに、……なぜ心が晴れやかなのだ……………っ!?!」

 

 

さっきのバトル。明らかにいつもの自分とは違う感情が流れてきていた。不思議な感じだった。あの憎たらしい下民に負けたというのに、去年、一昨年よりも結果が悪かったというのに、何故か心踊っていた自分がいた。

 

ーそれは本当は少しだけ考えたらわかることだった。ほんの少しだけ視点をずらすだけで、

 

吸血は何故だか、今度は急に涙が止まらなくなった。さっきのバトルのことを考えると、その時の思いを考えると、………それはどんどん大きな粒になっていく。

 

 

「何故なんだぁぁぁぁあ!!誰か説明してくれぇぇえ!!!あのバトルはなんだったんだぁぁぁぁあ!!!!!」

 

 

自分の鞄を地面に投げつけ、項垂れる吸血。本当は気づいている。素直な気持ちになれていないだけだ。

 

今日の2回戦は、界放リーグは、芽座椎名とのバトルは、吸血にとって最高に楽しかったのだ。吸血がその気持ちを理解し、新たな一歩を踏み出すのはもう少し先だった。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【エクスブイモン】!」

「エクスブイモンはブイモンが進化したスピリット、手札入れ替えの効果で手札を整えさせてくれるよ!次回もお楽しみに!」






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