椎名のライフが減らされる音が会場中に響き渡る。その瞬間は観客も何が起こったのか理解できなかったのか、その間はとても静寂な空間が保たれていた。
だが、それはそう長くは保たない、すぐさま轟音へと様変わりする。
鳴り止まぬ歓声という名の轟音。その全てが勝者である司を讃えている。
「………………………」
黙り込み、少しだけ頭を下げる椎名。この大舞台で惜敗して流石に悔しいのだ。だが、それもほんの一瞬だけ、直ぐにいつもの笑顔に変わる。
「……………たは〜〜〜〜〜負けた〜〜」
そう言って疲れ切ったのか、その場で仰向けに倒れこむ椎名。このバトルに持ちうるすべての気力を振り絞っていたのが伺える。
司もBパッドを閉じる。場に残っていたホウオウモンとイーズナ、朱に染まる薔薇園がゆっくりとその姿を消滅させていく。
「何やってんだ…………ここからパンツ丸見えだぞ」
「なぁ!?!」
表情一つ変えない司にそう言われて椎名は思わず顔を赤らめながらもすぐさま制服のスカートを手で押さえながら起き上がった。
ーそして改めて、
「司、いいバトルだったよ!またやろう!」
「………最後までそれか、ほんとイかれてるな、お前は」
「いいじゃない!イかれてるくらいがちょうど良いんだよ!私は!………そんなイかれてる私に勝ったんだから、絶対に優勝してよね!」
「お前に言われるまでもない、ヘラクレスの三連覇を阻止し、俺が優勝する…………そして俺が三連覇を成し遂げる」
「……………へへっ」
椎名は司にそれだけ話すとそのステージを降りた。この後は直ぐに決勝、【朱雀】こと、赤羽司と、【ヘラクレス】こと、緑坂冬真のバトルになるのだから。
「めっさ惜しかったな〜〜めざっち!、もうちょっとやったやん!」
「!!……真夏の兄ちゃんっ!」
椎名が降りた直ぐそこには今にもステージへと上がろうとしていたヘラクレスの姿があった。決勝前だと言うのに随分と軽いノリだった。これも慣れなのか、はたまた大物なのか、
「へへ、勝ちたかったけどね〜〜まぁ良いよ私は直ぐそこで楽しんで2人のバトルを観とくから」
「ハッハッハ!ほな、目ん玉かっぽじってしっかり見ときぃ!このヘラクレスの界放リーグ、最後のバトルをなぁ!」
椎名にそう強く言い残し、ヘラクレスは上へと上がっていった。彼にとっては学生として最後の公式バトルなのだ。俄然燃えているのだろう。
そして上がった先には【朱雀】こと赤羽司が待ち受けていた。
「よぉ、朱雀…………いや、赤羽司、お互い顔しか知らんかったが、やっとこれでやれるなぁ」
「……そんなに喋る事もないだろう、早く始めようぜ、ヘラクレス」
「むっ!談笑ができひんとこはなんかごっちーにそっくりやなぁ……………まぁええけど」
司は再びBパッドを展開して、バトルの準備をしていた。一見して見ると、頭が固いようにも見えるが、ヘラクレスにはわかる。あれは自分と早くバトルをしたい気持ちの表れなのだと、それほどまでに楽しみなのがひしひしと伝わってきていたのだ。
そんな後輩の気持ちを先輩である自分が応えないわけにはいかない。ヘラクレスはたった今誓った。このバトル、【本気で行くと】。
ヘラクレスも直ぐにBパッドを展開した。
ーそして、
「「ゲートオープン!!界放!!」」
ー第9回界放リーグの決勝戦が幕を開けた。
******
「始まったな」
「あぁ、始まったな」
ここは各学園の理事長が観戦するVIPルーム。6人の理事長達がその決勝戦を観戦していた。喋っているのはジークフリード校の理事長、龍皇竜ノ字と、キングタウロス校の理事長、大公獅子だ。
「ハッハッハ!これで終わりだな竜ノ字!あの場所には俺が行くぜぇ!」
「うるさいっ!まだ決まったわけじゃないだろう!勝つのは朱雀だ!そして、奴が三連覇して俺があそこへ行く!」
2人は10年前から賭け事をしていた。その長き戦いに自分の勝利で決着がつきそうなのだ。大公のテンションが上がるのも納得だ。
龍皇も当然諦めてはいない。なんとか朱雀にヘラクレスに勝ってもらいたかった。自分があの場所へ旅行したかったから。
******
そして始まる。決勝のバトルが、世界が注目する一戦が、
ー先行はヘラクレスだ。
[ターン01]ヘラクレス
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、テントモンを召喚や」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨3
ヘラクレスが早速召喚したのはいつものてんとう虫型の成長期スピリット、テントモンだ。
「召喚時でコア増やすでぇ」
テントモン(1⇨2)
テントモンの効果は他の成長期スピリットとは一風変わった効果だ。緑ではお馴染みのこの効果でヘラクレスは先行の第1ターンにもかかわらず、コアを増やした。
「ターンエンドや」
テントモンLV1(2)BP2000(回復)
バースト無
ヘラクレスはそのターンを終える。次は司のターンだ。
[ターン02]司
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、俺はイーズナを召喚し、さらにネクサスカード、オリン円錐山を配置するっ!」
手札5⇨3
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨4
「!!………ほぉ、また厄介なヤツ入れとるなぁ」
司が呼び出したのはいつものハイブリッドスピリット、イーズナと、ネクサスカード、オリン円錐山。彼の背後に円錐型の山が聳え立つ。
このカードは司がヘラクレス対策に入れていたカードだ。
「ふっ!……この効果で俺の赤のスピリット全ては効果によって手札、デッキに戻らない……ターンエンドだ」
イーズナLV1(1)BP1000(回復)
オリン円錐山LV1
バースト無
オリン円錐山の効果は赤属性全てにバウンス効果の耐性を与えるという強力なもの、ヘラクレスの主力にはカブテリモンを始めとしたバウンス効果持ちのスピリットが多い。この手の効果は彼のデッキにとってはかなり辛いことだろう。
そして次はそんなヘラクレスのターン。対策はあるのか、
[ターン03]ヘラクレス
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨4
トラッシュ3⇨0
「メインステップ………せやなぁ、こう行くか!ヒゲコガを召喚するでぇ!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨3
ヘラクレスが呼び出したのは髭を生やした殻人のスピリット、ヒゲコガ。そのアタック時効果はカブテリモンに勝る劣らず優秀である。
「さらにバーストを伏せる!」
手札4⇨3
ヘラクレスのバースト。ここでは一体何が伏せられているのか期待が高まる。
「アタックステップや!ヒゲコガ!アタックやで!!」
剣を持って走り出すヒゲコガ。そして同時にアタック時の効果も処理される。
「アタック時の効果でコアを増やすことでイーズナを疲労させる!」
ヒゲコガ(1⇨2)
「………!!」
イーズナ(回復⇨疲労)
ヒゲコガが巻き起こした突風が、司のイーズナを疲労させてしまう。
そう、バウンスできないとはいえ、ヘラクレスにはまだこの疲労効果がある。
ブロッカーのいなくなった司はこのターン、すべてのアタックをライフで受けなければならなくなった。
「……ライフで受ける」
ライフ5⇨4
ヒゲコガの一閃が、司のライフを1つ破壊した。
これだけでヘラクレスは終わらない。容赦なく畳み掛ける。
「次ぃ!テントモン!」
「……それもライフだ………ぐっぅ!」
ライフ4⇨3
テントモンは羽を広げ飛び立つ。そしてそのまま勢いよく司のライフへと激突し、それを1つ破壊した。
「ターンエンドや……バウンスは通じんくても、疲労は通じるんやでぇ」
テントモンLV1(1)BP2000(疲労)
山賊親分ヒゲコガLV1(1)BP4000(疲労)
バースト有
「……………知っているさ、そのくらい」
ヘラクレスはそのターンを終える。次は司のターンだ。
[ターン04]司
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨7
トラッシュ4⇨0
イーズナ(疲労⇨回復)
「メインステップ、オリン円錐山のLVを上げ、ホークモンをLV2で召喚!」
手札4⇨3
リザーブ7⇨4⇨0
オリン円錐山(0⇨3)LV1⇨2
トラッシュ0⇨1
司が呼び出したのは自分のデッキの潤滑油となるスピリット、赤の鳥型スピリット、ホークモンだ。
「召喚時効果っ!カードオープンっ!」
オープンカード
【朱に染まる薔薇園】×
【ハーピーガール】×
【ホウオウモン】×
残念ながら効果は全てハズレ、1枚も加えられずにトラッシュへと送られるが、
トラッシュでも機能するホウオウモンがトラッシュへと送られた。ヘラクレスもそれを見逃さなかった。
「アタックステップ!ホークモン!」
仕掛けてくる司。飛び立つホークモン。目指すはヘラクレスのライフ。ヘラクレスは前のターンでフルアタックしたせいでブロックができない。ここは当然、
「ライフで受けよか〜〜」
ライフ5⇨4
ホークモンの羽を飛ばす攻撃がヘラクレスのライフを1つ砕いた。
ーだが、それは彼のバーストの発動条件でもあって、
「さぁ!俺のライフ減少でバースト発動や!手裏剣大地!」
「!!?」
バーストカードが勢いよく反転すると共にヘラクレスの背後に現れたのは、手裏剣の形をしていて、中に浮いている大地。それは緑の強い効果をふんだんに取り込んだネクサスだ。
「先ず、バースト効果でコアをリザーブに、さらに配置し、配置時効果でイーズナを疲労や」
リザーブ1⇨2
「……………」
イーズナ(回復⇨疲労)
手裏剣大地が回転して巻き起こる風が、またイーズナを疲労させてしまう。
司はこれにより、このターンの攻めてを失ってしまった。
「………ターンエンドだ」
イーズナLV1(1)BP1000(疲労)
ホークモンLV2(3)BP5000(疲労)
オリン円錐山LV2(3)
バースト無
仕方なくそのターンを終える司。次はヘラクレスのターンだ。
[ターン05]ヘラクレス
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨6
トラッシュ3⇨0
テントモン(疲労⇨回復)
山賊親分ヒゲコガ(疲労⇨回復)
「メインステップ、………………さて、ウォーミングアップはここまでやで」
「!?!」
口角を上げながらそう言うヘラクレス。
コアもシンボルも十分に溜まった。ヘラクレスは手札から自分のデッキのアタッカーであるあのスピリットを召喚する。それは誰もが認めるスピリットであって、
「アトラーカブテリモンをLV2で召喚や!」
手札4⇨3
リザーブ6⇨0
トラッシュ0⇨3
「!!」
蠢く地面。その中から飛び出してくる赤き甲虫。完全体のアトラーカブテリモンだ。如何なる状況でもヘラクレスのバトルでは中軸を担う強力なスピリットである。
だが、今回に限っては遺憾無くその力を発揮できない。司の配置したネクサスカード、オリン円錐山の効果によって、その召喚時及びアタック時に発揮される手札バウンス効果を封じられているからだ。
「オリン円錐山の効果で、俺の赤のスピリットは手札には戻らない」
「知っとるわ、……まぁでもアトラーのアタックが通れば勝てるんやけどな〜〜」
そう、バウンスはしないだけで疲労効果は効くのだ。そのこともあって今の司の場のスピリットは全て疲労状態。ヘラクレスのスピリットたちが、司のライフを破壊しに行くことだろう。
「手裏剣大地のLVを2に上げ、アタックステップや!アトラーでアタック!」
テントモン(2⇨1)
ヒゲコガ(2⇨1)
手裏剣大地(0⇨2)LV1⇨2
走り出すアトラーカブテリモン。目指すは司の残り3つのライフだ。
「…………まぁでも耐えるんやろ?」
「わかってるじゃねぇか、フラッシュマジック!シンフォニックバースト!」
手札3⇨2
ホークモン(3⇨2)LV2⇨1
トラッシュ1⇨2
ヘラクレスはわかっていた。司がまだ耐えることを。そうでなければ積極的にアタックはしないだろうと考えていたからだ。
「アトラーのアタックはライフで受けるっ!」
ライフ3⇨2
すべてのスピリットが疲労状態ではライフで受けるしかない。アトラーカブテリモンのツノを突き出すような体当たりの攻撃を受けた司。そのライフが1つ飛ばされた。
さらにまだアトラーカブテリモンの効果は続く。今までの彼のバトルではほとんどが決定だとなった効果である。
「アトラーの効果!ライフを減らした時、完全体の数だけさらにライフを破壊!今はアトラーが1体や!よって追加で1点もらうでぇ!」
「ぐっ、………ぐっう!!」
ライフ2⇨1
アトラーカブテリモンの赤い稲妻を纏ったツノの一撃がさらに司のライフを減少させる。
だが、司が使っていたマジックカード、シンフォニックバーストの効果がここで発揮される。
「俺のライフは2以下!よってシンフォニックバーストの効果でお前のアタックステップを終了させるっ!」
弾け飛ぶ黄色い閃光。それがヘラクレスの3体のスピリットの身動きを封じ込めた。
ヘラクレスが如何に強いと言ってもアタックステップを止められてはなすすべがない。仕方なくそのターンを終了させることになる。
「………やるやないか、ターンエンドやで」
テントモンLV1(1)BP2000(回復)
山賊親分ヒゲコガLV1(1)BP4000(回復)
アトラーカブテリモンLV2(3)13000(疲労⇨回復)
手裏剣大地LV2(2)
バースト無
手裏剣大地のLV2効果で疲労していたアトラーカブテリモンを回復させながら、ヘラクレスはそのターンを終えた。次は司のターンだ。ここまで一見すると追い込まれているように見えるが、
[ターン06]司
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
「ドローステップ時、オリン円錐山の効果でその枚数を1枚増やす」
手札2⇨4
オリン円錐山のLV2効果は赤属性のネクサスでもかなりの有名な効果だ。司は僅かながらに手札を増やした。
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨5
トラッシュ2⇨0
イーズナ(疲労⇨回復)
ホークモン(疲労⇨回復)
「メインステップ、ホークモンのLVを再び2に上げる」
リザーブ5⇨4
ホークモン(2⇨3)LV1⇨2
ホークモンのLVが上がった。これによりホークモンは進化の効果を発揮できる。
(ヘラクレス、俺とお前は今まで比べることができなかったな、…………だが、今日それはハッキリするだろう、俺の方が圧倒的であると言う結果でなっ)
心の中でそう思う司。司とヘラクレスは2年違い、ジュニアリーグでは都合上バトルすることができなかった。つまり司がジュニアリーグで優勝したのはヘラクレスがいなくなった時である。
散々ヘラクレスの方が強いだの周りから言われてきた。だが、それも今日で終わる。司は、朱雀は見せつける。自分の実力を、ヘラクレスに。
「アタックステップ!その開始時にホークモンの【進化:赤】を発揮!手札に戻し、成熟期のアクィラモンに進化させるっ!」
リザーブ4⇨3
アクィラモンLV3(4)BP6000
ホークモンに0と1のデジタルコードが巻きつけられて行く、それは次第に膨らんでいき、破裂。新たに現れたのは2本の大きなツノを携えた巨鳥型の成熟期スピリット、アクィラモンだ。
「アクィラモン……ねぇ」
「浮かれてる場合じゃないぞ!アクィラモンの召喚時及びアタック時の効果でBP4000以下のスピリット、ヒゲコガを破壊するっ!」
「!!」
アクィラモンの2本のツノから放たれる赤い稲妻が、ヒゲコガに命中する。ヒゲコガは堪らず爆発してしまった。
「さらにアタックステップは継続っ!やれぇ!アクィラモン!今度はテントモンを破壊するっ!」
「……………」
アクィラモンの今度の狙いはテントモン。見事に稲妻を命中させ、それを破壊してみせた。
だが、まだヘラクレスの場には強大なアトラーカブテリモンが残っている。司はそれを見越しているようにアクィラモンのもう1つのアタック時効果を発揮させる。
「アクィラモンのアタック時効果【超進化:赤】を発揮!手札に戻し、完全体のスピリット、シルフィーモンをLV3で召喚っ!」
シルフィーモンLV3(4)BP12000
「きよったなぁ、ジョグレス体」
アクィラモンも0と1のデジタルコードに巻き付けられて進化する。新たに現れたのはこれまで何度も司のデッキで活躍してきたエーススピリット、白き聖なる獣人、シルフィーモンだ。
その召喚時効果でBP12000以下のスピリットを破壊できるのだが、今回はヘラクレスの場に該当するスピリットがいないため、不発の形で終わった。
「行くぞ!シルフィーモン!アタックッ!」
「?」
滑空するように飛び立つシルフィーモン。目指すはヘラクレスのライフだ。
ヘラクレスは不思議に思った。何故BPがアトラーカブテリモンより低いシルフィーモンでアタックしてきたのか、だが、それは直ぐに理解した。持っているのだ、BP増強系マジックを、またはフルーツチェンジでもいいだろう。
その予想は的中している。現在司の手札には椎名との準決勝で勝負を決めたフルーツチェンジが手札にあったのだ。
ヘラクレスは何かあると確信し、ここは敢えてバトルしないことを選択した。
「なるほどなぁ〜ライフで受けるで」
ライフ4⇨3
「だろうな」
司もそのヘラクレスの考えを読んでいたのか、驚くこともなく、納得していた。
シルフィーモンの上からの体当たりが、ヘラクレスのライフを減少させる。そしてシルフィーモンにもバトル終了時効果が備わっており、
「シルフィーモンの効果!バトルの終わりに俺のライフを1つ回復させるっ!」
ライフ1⇨2
司のライフがシルフィーモンの聖なる力により、1つ増幅した。これでこのターンのアタックは終わりかと思われたが、
「まだ行くぞ!イーズナ!」
「あらあらそれでも行くんかい……………まぁ、ライフで受けたるけど」
ライフ3⇨2
司の手札に何があるかわからない以上、アトラーカブテリモンでブロックするのは危険だと考えたのか、ヘラクレスはイーズナのアタックもアトラーカブテリモンという強力なスピリットがいるにもかかわらず、ライフで受けた。
ーそして同時に理解した、司の作戦が、
「ターンエンドだ」
イーズナLV1(1)BP1000(疲労)
シルフィーモンLV3(4)BP12000(疲労)
オリン円錐山LV2(3)
バースト無
次はヘラクレスのターンだ。
[ターン07]ヘラクレス
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ5⇨8
トラッシュ3⇨0
「メインステップや、……………にしても分かりやすい奴やわ〜〜〜赤羽司、」
「?」
「お前、トラッシュに落っこったホウオウモンをこのターンの俺のアタックステップで使う気やろ?その効果でアトラーを破壊して、隙だらけになった俺のライフを次のターンで破壊する……………それがお前の作戦や」
「!?!」
司は思わず黙り込んだ。その予想は十中八九的中しているからだ。
その司の様子を見て、ヘラクレスは自分の予想が当たっていると理解したのか、一気に攻め立てる。もちろんホウオウモンの破壊効果を加味しても司のライフを減らせる戦法で、
「2体目のアトラーカブテリモンを召喚やでぇ!」
手札4⇨3
リザーブ8⇨1
トラッシュ0⇨4
「!?……2体目!?」
再び蠢く地面から2体目のアトラーカブテリモンが飛び出してくる。2体並ぶその姿は圧巻の一言だ。
「どうや!これで1体は破壊できても、残った1体が必ずお前の2つのライフを砕くでぇ!」
司の場は疲労状態。つまりブロックができない。そしてアトラーカブテリモンはライフをより大きく減らす効果を持っている。言葉の通り1体でも生き残れば司の残った2つのライフを破壊することが可能なのだ。
そして幕を開ける。驚異のアタックステップが、
「アトラー1体にコアを適当に1個乗っけて、アタックステップや!4つ目のコアの乗ったアトラーでアタック!」
リザーブ1⇨0
アトラーカブテリモン(3⇨4)
終わりに向けて走り出すアトラーカブテリモン、そのうちの1体。ホウオウモンの除去能力は強力ではあるものの破壊できる対数は1体のみ。2体を破壊することはできない。だが、それもある方法を使うことで可能にすることができる。
司はこの状況を予想していた。そして見事にヘラクレスは乗っかった。そしてここで確信した。自分の勝ちであると。
「詰めが甘かったなぁ!ヘラクレス!」
「なんやと!?」
「俺はここでフラッシュマジック!イエローリカバーを使用!黄色のスピリットであるシルフィーモンを回復させるっ!!」
手札4⇨3
リザーブ3⇨2
トラッシュ0⇨1
シルフィーモン(疲労⇨回復)
黄色のマジックカード、イエローリカバー。それは単純明快に黄色のスピリット1体を回復させる効果を持っている。
これにより、黄色であるシルフィーモンが黄色の光を纏い、回復状態となった。
バトルの腕の立つ者は咄嗟にこれがどういうことなのか理解しただろう。このシルフィーモンが回復状態のままならば、………………ヘラクレスのアトラーカブテリモンを2体とも返り討ちにできるということに。
ヘラクレスにフラッシュはないのか、そのままタイミングを逃し、再び司にフラッシュが回ってくる。
ーそして、発揮される。
「フラッシュ!【煌臨】発揮!対象はシルフィーモン!トラッシュからホウオウモンを重ねるっ!」
シルフィーモン(4s)LV3⇨2
トラッシュ1⇨2s
「!!…………来るんか」
シルフィーモンが灼熱の火柱の中に包まれていく。シルフィーモンはその中で姿形を変えていく。それはより大きな翼を広げている。
「天空の王よ!今こそ飛び立ち、地上の全てを薙ぎ払えぇ!究極進化ぁぁあ!!」
その巨大な巨鳥型のスピリットは、火柱を一息で吹き飛ばす。
「………ホウオウモンっ!」
ホウオウモンLV2(3)BP12000
現れたのはホウオウモン。もうこの界放リーグで何度も司を救ってきた切札だ。その金色の炎はどんな敵をも焼ききることだろう。
「ほぉ〜〜こうして対面してみると立派なもんやなぁ〜〜」
「見惚れてる場合じゃないぞ!ホウオウモンの煌臨時効果!!」
「!?!」
「ホウオウモンは煌臨元となった赤の完全体スピリット1体を手札に戻すことによって、お前のBP10000以上のスピリット1体を破壊するっ!………………シルフィーモンを戻し、BP13000のアタックしていないアトラーカブテリモンを破壊するっ!」
手札3⇨4
「!?!」
「金色の超炎!シャイニングエクスプロージョン!!!」
ホウオウモンの翼から放たれる金色の超炎。それは瞬く間に降り注ぎ、ヘラクレスの場にいるアタックしていない方のアトラーカブテリモンを灰にしてしまった。
「これで終わりだぁ!」
司の手札にはバトルでBPを比べる時にそのBPを入れ替えてしまう強力な効果を持つ黄色のマジック、フルーツチェンジがある。
ホウオウモンとアトラーカブテリモンではアトラーカブテリモンの方がBPが上だが、このマジックでそれを逆転できるのだ。
この現時点で司は凄いと言えるだろう。何せ、学生では誰も防げなかった、ヘラクレスの有名な戦法【キングスロード】の前に、ブロッカーを残したのだから。
だが、それは飽くまで現時点ではの話であって、
「………………ハッハッハ!!!」
「!?!」
突然腹を抱えて笑いだすヘラクレス。司も何事かと思って目を見開く。
「ハッハッハ、悪い悪い、なるほどなぁ〜イエローリカバー、そしてオリン円錐山、極め付けはホウオウモン。全てはこの俺の場を一気に破壊する戦法だったわけや、バレてない方の手札にはBP増強か、フルーツチェンジでも仕込んどんのやろ?」
「……………」
それが司の作戦だったのだ。オリン円錐山でアトラーカブテリモンの厄介なバウンス効果から煌臨元のシルフィーモンを守り、疲労状態から回復状態に戻すためにイエローリカバーを使い、そして負けているBPをフルーツチェンジで逆転させる。
それは見事にはまったと言える。完璧な作戦だった。だが、司は少々ヘラクレスという男を侮っていたのかもしれない。
「司、お前は強い、メチャクチャなぁ、だけど…………………俺はまだ超えられないでぇ」
「なに!?」
往生際が悪い、思わずそう思ってしまった司。だが、その感情はヘラクレスが手札に手をかけた瞬間に消え去ってしまう。何かが来る。と、直感した。
「ごっちーと吸血以外には見せたことないんやでぇ!………………いくぞぉ!煌臨発揮!対象はアトラーカブテリモンっ!」
リザーブ3s⇨2
トラッシュ3⇨4s
「!?!…………お前も煌臨だと!?」
ホウオウモンの燃え盛る炎を吹き飛ばしてしまう程の暴風。それはバトル中のアトラーカブテリモンの中心から発生した。
アトラーカブテリモンはその中で姿形を変えていく。その姿はより巨大になり、ツノの形状、色までも変わっていく。
そしてヘラクレスはその名を口にする。自身が強いと認めた者にしか使わない、最強のエーススピリットの名を。
「赤き甲虫よ!今こそ黄金の甲虫王者となり、眼前の敵をひねり潰せ!究極進化ぁぁあ!!」
手札3⇨2
暴風を吹き飛ばすのは新たなるカブテリモン。その姿はホウオウモンと同じく、究極体だ。
「………ヘラクルカブテリモンっ!!」
ヘラクルカブテリモンLV2(4)BP18000
その名はヘラクルカブテリモン。黄金の甲殻に、折れることのない4本の立派なツノは正しく甲虫の究極王者。
ーヘラクレスの場にこれが出たからには、勝負は一瞬で終わることだろう。何せ、今までヘラクレスは五護と吸血以外でヘラクルカブテリモンを使わなかったが、使った時は、必ずそのターンでバトルを終わらせているからだ。
「へ、ヘラクルカブテリモンだと!?」
「そうや、これが俺のエーススピリット……………」
その猛々しい姿は眼前にいた司をだじろかせた。とてつもないプレッシャーを感じたことだろう。
「おぉ!かっこいい!……やっぱ私が戦いたかったなぁ!」
そうスタジアムの端っこではしゃぐのは椎名だ。
ヘラクルカブテリモン。バトラーとしてここまで闘志を燃やしてくれる相手は他に数少ないだろう。
「ヘラクルカブテリモンの煌臨時効果!煌臨元となった緑のスピリット、アトラーを手札に戻すことで、ボイドからコアを3つヘラクルに追加や!」
手札2⇨3
ヘラクルカブテリモン(4⇨7)
ヘラクルカブテリモンもホウオウモンやヴァイクモンと同じく煌臨元を手札に戻すことで何かしらの効果を発揮する究極体である。その上に3つのコアの恵みが与えられた。
だが、煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ。つまりアタック中のアトラーから煌臨したこのスピリットは今もなおアタック中なのである。このままでは司のホウオウモンにブロックされてフルーツチェンジを使われて無残に散っていくことだろう。
「だが、煌臨したところで意味はないっ!ホウオウモンでブロッ……………」
「ブロックは待ってもらうでぇ」
「!?!」
そう、ヘラクルカブテリモンはまだ効果がある。それはコアを支払うことで強力なモノを発揮させる優れものであって、
「ヘラクルカブテリモンの効果!ヘラクルのコア3つをトラッシュへ置くことで、相手のスピリット1体を疲労させ、ヘラクル自身を回復させるっ!」
ヘラクルカブテリモン(7⇨4)
トラッシュ4s⇨7s
「…………な、なんだと……っ!」
ホウオウモン(回復⇨疲労)
羽を広げるヘラクルカブテリモン。そう思った瞬間に、目にも留まらぬ速さで飛翔し、その強靭なる腕でホウオウモンの首根っこを鷲掴みにし、ホウオウモンを振り回す。そのまま地面に思いっきり叩きつけ、ホウオウモンを行動不能にしてしまった。
そしてなりよりこの効果でヘラクルカブテリモン自身が回復したのだ。つまり2回の攻撃ができる。
「さぁ、アタックは継続中やで」
「くっ、………ライフで受ける…………ぐっぅ!」
ライフ2⇨1
ヘラクルカブテリモンの目にも留まらぬ速さの突進。それが司のライフを一方的に破壊していった。
もう司になすすべない。終わったと思った途端に悟った。今まで自分のプレイングやカードに驚いていたのは演技だ。最初の最初、自分がオリン円錐山を配置した時から必ずヘラクレスはこうなることを予想していた。と、
そして放たれる今年の界放リーグ最後の攻撃。
「楽しかったでぇ!司ぁ!……………ギガブラスター!!」
ヘラクルカブテリモンの4本のツノから放たれる地面をえぐり、空を裂く程の強烈な電撃砲。それは司の残ったライフをいとも容易く消しとばした。
「……………………俺はいずれあんたを超えるぜ」
ライフ1⇨0
司は消えゆく自分のライフを目にしながら、最後にそう呟いた。ヘラクレスもそれを聞いて薄っすらと笑みをこぼしていた。確信したのだ。「こいつは俺を超える」と、
ー朱雀はその羽をもがれ、敗北した。甲虫の究極王者の前に、全く歯が立たず、無残にも最後のライフを散らした。
ヘラクレスの勝利を伝える実況者や、アナウンス、そして観客の歓声。
ヘラクレスは見事に史上初となる界放リーグ三連覇を成し遂げてしまった。
「俺を超えたいならプロに来いや司、楽しみに待っとるやさかい………………じゃあの」
「………………あぁ」
ヘラクレスはそれだけを言い残してスタジアムを降りる。この後は色々と忙しい、閉会式や表彰式に優勝者として参加しなくてはならないからだ。
通用しなかった。自分の全てはあのヘラクレスという強靭なるバトラーに通用しなかった。司はただ1人スタジアムに残ってそのことを痛感していた。悔しい、ただ単に悔しかった。その単純明解な感情が心のどこからか渦巻いていく。
だが、同時にいずれ必ず超えると決めた。バトラーなら当然のことだ。一度負けた芽座椎名に勝てたように、次は一度負けたヘラクレスに勝つ、それだけだ。
第9回界放リーグはまたもやキングタウロス校の代表、ヘラクレスと言う2つ名を持つ緑坂冬真の優勝でその幕を下ろした。
ーこれを機に、司や椎名などの後世達はより大きく成長していくことだろう。
そして大会が始まる前に絶対に勝ち上がらないと予想されていた芽座椎名、今回のダークホースとなった彼女には、世間から嬉しい2つ名が送られることになった。その名は【蒼龍の舞姫】。椎名にしては少々大そびれた異名だ。
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「……………おいおい嘘だろぉ!?」
各学園の理事長がいるVIPルームでは龍皇竜ノ字はその結果に信じられないような目で見ていた。
逆に大公獅子は満面な笑みで嬉しそうな表情を浮かべ、勝ち誇ったかのように龍皇の肩にその手を置いた。まるで「わかってるだろうな?」とでも言いたげなように。
「ハッハッハ!!永きに渡った戦いも終わりを迎えたなぁ!竜ノ字!ちゃぁんと振り込んどけよぉ!俺の口座になぁ!」
「ぐぅ!!……………ち、ちっくしょぉぉ!!!」
叫び渡る龍皇の嘆き、約10年にも渡った理事長間の賭け事も幕を下ろしたのであった。
そのVIPルームではよく見てみると1人だけ少なかった。その正体はデスペラード校の理事長であり、夜宵の父でもある紫治城門だ。
彼はこの結果を見るなり、早々に帰宅したのだ。
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ここはスタジアムの外。まだ熱気に包まれたそれを他所に見るのは紫治城門だ。事前に呼び寄せていた車の後ろの席に乗り込み、そして発進させた。
「………頃合いですかな?」
運転手が慣れた手つきで運転しながら城門にそう言った。
「あぁ、まぁね、オーバーエヴォリューションに目覚める者も目星はついたよ、……………それはそうと、アレはもうできてるのか?」
「いえいえ、アレはまだ時間がかかりますよ、ですがご安心を、後2週間程でできます故、」
「ふふふ、そうか、だったら後1ヶ月後くらいにはいよいよ決行されるな、期待しているぞ……………【Dr. A(どくたーえー)】」
終始全くつかみどころのない話をする、紫治城門と、Dr.Aと言う謎の男。
約1ヶ月後、界放市を舞台としたある事件が幕を開ける事はまだ誰も知らないことであった。
〈本日のハイライトカード!!〉
「椎名です!今回はこいつ!【ヘラクルカブテリモン】!!」
「ヘラクルカブテリモンはついに現れたヘラクレスのエーススピリット!コアを増やしつつ、疲労から回復し、逆に相手のスピリットを疲労させちゃうよ!何はともあれ、おめでとう!真夏の兄ちゃん!」
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
【界放リーグ編】は今回で終了し、次回からは1年生編ラストである【紫治一族の野望編】がスタートします!お楽しみに!
そして昨日公開されたデュークモンとベルゼブモンに関して、
度々質問を受けるのですが、これから出てくるバトスピ コラボデジモンもこの作品にしっかりと出します!寧ろそのための作品なのですから、当然です。
ただ、私の予想してた以上にパックが出るスパンが短いことがあって、今回のテイマーズ組は発売されてから出てくるのがとても遅れる可能性があります。というか、遅れます。おそらくは1年以上、
ですが、これだけは言い切りますよ、全部出します!なので期待してくださっている皆様には多忙なご迷惑をおかけすることでしょうが気長にお待ちいただけると幸いです。私も出来る限り執筆速度を上げて早く出せるよう心がけます。