第28話「文化祭と過去の出来事」
界放リーグが終わってから約1ヶ月後のことだ。月日は11月終わり、真っ赤になってた紅葉の葉は冬の始まりを告げるかのように色褪せるてくる頃、
界放市の学園はどこに行っても今日は【文化祭】だ。
文化祭と言えばバトスピ学園でなくても学生にとっては一大イベントだ。それぞれの学生達はクラスの出し物に全力を注ぐ。
ーそしてこのジークフリード校でも、
「いらっしゃいませ〜〜メイド喫茶にようこそぉ!」
教室に入ってくる一般の男子生徒3人を元気な声で迎えたのは1人のメイド服を着た少女、長めの赤毛に飛び跳ねたアホ毛と首にかけたゴーグルが印象的。
彼女は彼らの席へ案内して注文だけ聞くと、せっせと厨房へと向かった。
「お、おい、あのメイドの子可愛くねぇか!?」
「あ、あぁ!声かけて見ようかな〜〜〜?」
「あの子って確か…………【蒼龍の舞姫】じゃね?」
「え!?それってあの今年の界放リーグベスト3に入ったあの?」
「あぁ、信じられねぇよなぁ、顔あんなに可愛いのにバトルの実力は【朱雀】とほぼ同じなんだぜ?」
男子生徒3人はすっかりその話で盛り上がった。
そう、話題になっていたのは芽座椎名だ。
椎名は今年の界放リーグを機に、すっかり有名人となっていた。今では「【蒼龍の舞姫】とは」と聞けば、界放市にいる誰もが「芽座椎名」と答えることだろう。
【蒼龍】とはおそらく椎名が軸にするブイモンとその進化系統を刺したのだろう。【舞姫】は可愛らしいルックスが原因か、今まではあまり女性の強バトラーが有名にならなかったこともあるだろう。色々なことが重なって大そびれた異名となった。椎名自身はその異名を気に入っている。
椎名達のクラスの出し物は見ての通りメイド喫茶をやっていた。
「…………ねぇ、真夏ぁ?」
「ん?」
「やっぱりちょっとこれ恥ずかしいんだけど」
椎名は裏の厨房でイチゴパフェを作っている真夏に声をかけた。やはり他人にこんなメイド衣装を見せるなど気恥ずかしいのだろう。
「何言うとんの?あんた自分で「やってもいい」言うたやんけ」
「いつ!?」
「クラスで話し合ってる時に居眠りしながらや」
椎名は別にメイド喫茶のメイド役は乗り気じゃなかったが、真夏の言う通り、居眠りしていて、寝ぼけながら全て承諾してしまったのだ。椎名の自業自得である。
「み、身に覚えがない…………」
「ほらほら、お客さん来たでぇ!行って来いや〜〜〜めざしちゃんっ!」
真夏は椎名の背中を押して仕事をさせようと厨房から追い出そうとする。
「もう、真夏まで「めざし」って、私は「しいな」っ!もしくは【蒼龍の舞姫】でもいいよっ!」
「えらい気に入っとるなぁ〜〜その二つ名」
「まぁね!かっこいいじゃん!響きが!」
「そんなに本人も気に入っとるなら、これも話題性は抜群やな〜〜」
「ん?これって?」
椎名がその言葉に疑問符を浮かべると、真夏は懐から1枚のチラシを取り出して、椎名に見せた。
「今回、椎名にはこれに出てもらうんやでぇ」
「……………えぇ〜〜〜〜っと、………【ミス・ジークフリード コンテスト】?…………何すんのこれ?」
「分からんのかい!!」
思わずずっこける真夏。今思えば椎名は田舎者、大会名だけが掲載されたチラシだけでは理解できるわけがなかった。
真夏はゆっくりとそれを椎名に説明していく。
「いいかぁ、ミス・ジークフリード コンテストっちゅうのはなぁ、ジークフリード校の選り取り見取りの女生徒が集まって…………」
「わかった!バトルするんだね!」
「違う、一番可愛い子決める大会や」
「バトルしないのぉ!?」
驚く椎名。まぁ、無理もない、今まではこういった行事ごとは全てバトルが絡んでいたのだから。
椎名としてはただただ可愛い子を決めるだけの大会などが出てくるとは思ってもいなかったことだろう。
「えぇ、めんどくさそ〜〜、バトルしないならいーや参加しな〜〜い、」
「いや、もうあんたはエントリーされとるでぇ」
「えぇ!?なんで!?」
「なんでって、写真投票で決定したことやし、それに断れたけどなぁ、これもクラスで話し合ってて、……………寝ぼけながら…………」
椎名はこの大会のエントリーまで寝ぼけながら承諾していた。この学園のミスコンは先ずは学園中の女生徒の写真が提示され、その中から選ばれたものだけが本戦に出場できるのだ。
もちろん拒否権はある。椎名も断れた。だが、その話し合いをクラスでしている時に、また椎名は寝ながらそれを承諾していたのだ。
ちなみに真夏にも声がかかっていたが、真夏自身がその出場を拒否した。
「私はあんたなら【ミス・ジークフリード】になれる思うとる!」
「嫌だよ!そんな厳つい称号!」
******
場所は変わり、ここは職員室。今日のこの場所は一般の人達は立ち入りができない。教師や生徒にとって絶好の休憩ポイントとなっていた。
イベントのあれやこれやで走り回っていた椎名と真夏の担任、空野晴太は自分の机椅子で一抹の休憩をしていた。
そんな彼に同期の女教師、鳥山兎姫が話しかけて来て、
「あら、空野先生、おつかれですか?」
「おぉ、兎姫ちゃん、おつかれ〜〜……………いや、ゆっくりもしてられないんだよね〜〜、次はミスコンの写真撮らないといけないし」
晴太は新任教師ゆえに文化祭の様子を撮影するカメラマンをしなければならなかった。それが今日の忙しさに繋がった。
「そう言えば、ミスコンは芽座さんが出るんでしたっけ?」
「あぁ、ほんっと、まさかあいつがたった半年で人気者になるなんてなぁ」
「やっぱり界放リーグの効果かしら?」
「だろうね」
話題が芽座椎名にシフトする。担任としても椎名の飛躍はとても嬉しかった。
ただ、信じられなかったのだ。あの時、約9ヶ月前、自分が入試で相手をしたあの少女が今では話題沸騰中の【蒼龍の舞姫】になるのが、
「本当に凄い奴だよ、最初見た時はただ単に変な奴だとしか思ってなかったのにな」
晴太は思い出す。あの9ヶ月前の出来事を。
ーこれから語られるのは今から約9ヶ月前、椎名達今の1年生の入学試験の物語だ。
******
ここは第1スタジアム。ここではジークフリード校、第9期生の入学試験が行われていた。その試験内容は、バトスピ 学園らしく、バトルスピリッツの勝負だ。
数々の教師と受験生のバトルが繰り広げられている。ライフが割れる音や、爆発がその熾烈さをより詳しく伝えてくれる。
生徒相手に教師は本気を出さない。デッキは支給されたベーシックなカード達のみを使用して組んでいる。なので、ある程度はデッキに制限がない生徒が勝てる。
ーのだが、
「ダークディノニクソーでアタックッ!!」
「ら、ライフで受けるっ!………うわぁ!」
ライフ1⇨0
その当時の晴太が操っていた黒くて小さい恐竜型のスピリット、ダークディノニクソーが腹部のチェーンソーのようなもので受験生の男子生徒の最後のライフを破壊した。
空野晴太。プロ入りはほぼ確定で、天才と言われていた彼がなぜか教師となり、入試試験に赴いていた。もうかれこれ10回はバトルしているが、誰も彼から白星を勝ち取ったものはいない。観客席でそれを見ていた受験生達はただただその強さに痺れていた。
だが、当たりたくはなかった。負けるからだ。そして始まる。恐怖の受験番号発表が、晴太が読み上げる受験番号の持ち主が、次の犠牲者となるのだ。
「次、受験番号、0417」
晴太に受験番号を当てられたら死刑判決を下されたのも同じこと。次の犠牲者は0417だ。
ただ、今回のその0417という受験番号の生徒は幾分か変わっている生徒であって、…………
「あっ!私だ!はいはーい!今から降りて来まーす!」
元気だが、なんとも気が引き締まらない能天気な声色。周りの生徒達は驚いた。まるで今から挑む相手が誰かもわかっていないかのような反応だったからだ。
ーその声の正体は当時の【芽座椎名】だ。観客席から降りようとするが、
「ちょ、ちょっとあんた相手が誰だかわかっとんの?」
「ん?」
そう椎名に聞いて来たのは当時の真夏。まだ彼女は椎名のことを何も知らない。
「何って、多分学校の先生でしょ?」
「……………本当にわかっとらんかったんかい……………いいかぁ、あの人はなぁ、天才と言われてるバトラーなんやでぇ、プロ入りもせんと、何故かこんな学園の先生になったんや」
真夏は椎名に晴太の事を教えた。これで少しは緊張感を持ってくれると真夏は思ったが、
「天才っ!!?凄い!じゃあ!それに指名される私ってもっと凄いのかな!!」
「え!?……………いや、番号発表はランダムやから関係ない思うけど」
「よっし!俄然やる気でできたぁ!いくぞぉ!」
「あぁ、ちょ、」
真夏の言葉に聞き耳すら立たず、椎名は観客席を降りていった。そして向かうは晴太のいるステージのバトル台の1つだ。
「受験番号0417!芽座椎名です!先生めっちゃ強いんですよね!?よろしくお願いします!」
(ゴーグル…………)
椎名はそう言いながら元気よく深々とお辞儀をした。晴太は手持ちのファイルから椎名の資料を確認しながらも、その椎名が身につけていたゴーグルが気になっていた。後にそのゴーグルが自分の大事な人のものであるということに気づくのだが、
「はい、芽座椎名ね、じゃあ、この学校を志望した動機から聞こうか」
「?動機?」
「あぁ、これ面接も兼ねてるから」
バトスピ 学園の入試バトル前は軽い面接、と言っても志望動機を聞くだけだ。
「動機かぁ、………私はいつか見たあの人みたいにかっこよくなりたくて来ました!」
「…………なんか凄い抽象的だね」
椎名のちょっとズレた発言に戸惑う晴太。今時なかなかいないだろう。こんな緊張感を全く感じていないような能天気な受験生は、
「まぁいいや、じゃあ早速バトルしようか」
「おぉ!待ってました!」
いよいよ始まる入試バトル。晴太は手慣れた手つきで自分のBパッドを展開する。
ーが、椎名は、
「……えーーーっと、……あっ!ここだっ!………………あわわっ!?」
あまりその扱いに慣れていないのか、ポンっと、開き出すBパッドに驚く椎名。晴太もそれを見て不思議に思う。
「Bパッド使った事ないの?」
「ん?……あっ!はい!そうなんですよ!私田舎もんなんで!」
「堂々と言うことかな」
傾いたまま倒れたBパッドを起こしながらそう言う椎名。今のこの世界のバトラーにおいて、この歳になってもBパッドが扱えないと言うのはおかしいことであって、
まぁそんな事を気にしても仕方ない。晴太は椎名のマイペースな性格に振り回されながらもなんとかバトルの準備を終えた。
そして入試バトルが始まる。椎名にとって大事な一戦が、
「いくよ、」
「はい!」
「「ゲートオープン!!界放!!」」
入試バトルが始まる。先行は晴太だ。
[ターン01]晴太
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、俺はダークディノニクソーをLV2で召喚!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨2
晴太が早速召喚したのはさっきのバトルも使用していたスピリット、黒いボディの小さい恐竜のスピリットで、腹部にチェーンソーのようなものを仕込んでいるダークディノニクソーだ。
「おぉ!目の前にスピリットが!さっきは遠目からだったからわかりずらかったけど思ったよりリアルだなぁ!」
椎名はこの時、初めてBパッドを使ってのバトルだったからか、その鮮明さとリアルさに感動していた。
試験中にいちいちうるさい受験生に構ってもいられない。晴太はそのターンを進めた。
「このターンはエンドだ」
ダークディノニクソーLV2(2)BP4000(回復)
バースト無
先行の第1ターン目などやれることは最低限に限られている。晴太はダークディノニクソーを召喚しただけで様子を見ることにした。
次は椎名のターンだ。Bパッドを使っての初めてのターンに、胸が高鳴っていた。
「よっし!私のターンだっ!」
[ターン02]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
「ドローステップッ!…………おぉ!ラッキー!!」
手札4⇨5
ポーカーフェイスと言うものを知らないのか、ドローしたものを見て大いに喜びの表情を見せる椎名。いいものを引いたのが丸わかりだ。
「メインステップ!…………よし!じゃあ早速行きますか!………やっぱ最初に召喚するならこれでしょ!私はブイモンをLV1で召喚っ!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨1
トラッシュ0⇨3
「!!?……デジタルスピリット!?」
椎名の足元から飛び出してきたのは青い体の小さい竜。額のブイの字が特徴的な青の成長期スピリット、ブイモンだ。
椎名はそれを召喚するなり、
「おぉ!ブイモンっ!会いたかったよ!」
「ちょっ、何する気?」
椎名は手札をBパッドの盤面に置き、バトルそっちのけでブイモンの方へと赴いた。
ーそしてブイモンに触れようとしたが、
「あ、あれ?」
その撫でようとした右手はブイモンの頭を綺麗にすり抜けてしまった。いくらやってもやはりその手はブイモンをすり抜けてしまう。
「さ、触れない…………」
「当然だっ!これは飽くまで映像!触れるわけないだろう!?何考えてんだ!」
「そ、そんな〜〜〜」
Bパッドで映し出されるスピリットは全て立体映像であって実際に存在しているわけじゃない。どんな人間でも知っていることだ。だが、椎名は全く知らなかった。
ずっとスピリットに触れて見たいと思っていた彼女にとって、これは本当に残念なことであって、
落ち込みながらも元の場所へと戻った。
「………なんなん?あの子…………アホなん?」
そう引き気味な感じでそう呟く観客席にいる真夏。椎名の奇行は観客席にいた全受験生の笑いの的だった。
(…………変な奴)
そんな事を考えていたのは当時の司だ。自分の試験が終わった後も、こうして実力者である晴太のバトルを見ようと観客席に残っていたのだ。
「ちぇ、夢が1つ叶うと思ったのになぁ〜〜……………まぁいいや、気を取り直して、……ブイモンの召喚時効果発揮!デッキからカードを2枚オープンして、その中の対象となるデジタルスピリットを手札に加える!」
オープンカード
【ワームモン】×
【ライドラモン】○
効果は成功、アーマー体であるライドラモンが手札に加えられた。
「よし!ライドラモンを手札に加えるよ!」
手札4⇨5
主力である1枚、ライドラモンが加えられた椎名の手札。そして彼女はすぐさまそれを出し惜しみなく召喚するために引き抜いた。
「ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモンっ!1コストを支払って、轟く稲妻、ライドラモンをLV1で召喚!」
リザーブ1⇨0
トラッシュ3⇨4
ライドラモンLV1(1)BP5000
ブイモンの頭上に黒くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化する。そして新たに現れたのは黒い鎧の獣型アーマー体スピリット、ライドラモンだ。
「あ〜〜ライドラモンっ!カッコいい!………背中に乗って見たかったなぁ〜〜」
ライドラモンが召喚されるなり、その召喚時の効果よりも先に自分の願望を口にする椎名。一度、たった一度でいいからライドラモンの背中に乗って地を駆けて見たかったのだ。
「!!……アーマー進化か……!!」
「そうです!ライドラモンの召喚時効果!私のトラッシュにコアを2つ追加するっ!」
トラッシュ4⇨6
ライドラモンが雄叫びを上げると、椎名のトラッシュにすぐさまコアの恵みが2つも与えられた。
「………あいつも【アーマー進化】を使うのか…………」
そう呟く司。だが、そのの声色には興味の念は募ってはいない。ただ単に見えたものに対してそう呟いただけ、別に椎名のデッキが気になったわけでは決してない。
「アタックステップ!ライドラモンっ!」
後攻1ターン目、先制一発をめがけて走り出すライドラモン。
「…………ライフで受けようか」
ライフ5⇨4
最序盤でBPの低いダークディノニクソーでブロックは出来ないか、晴太はライフの減少を選択する。
ライドラモンのその高速の体当たりは晴太のライフを1つ粉砕した。
「よっし!ターンエンドだ!」
ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)
バースト無
やれる事を全て失くしたため、そのターンを終える椎名。ライフを減らした挙句にコアブーストもできたので幸先が良いスタートと言える。
[ターン03]晴太
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨4
トラッシュ2⇨0
「メインステップ、よし、もう1体ダークディノニクソーをLV2で召喚」
手札5⇨4
リザーブ4⇨1
トラッシュ0⇨1
晴太は場にもう一体のダークディノニクソーを並べた。
そしてがら空きとなった椎名の場に攻め入る。
「アタックステップっ!ダークディノニクソー2体で連続アタックっ!」
走り出す2体のダークディノニクソー。椎名はコアもない、ブロッカーもいないため、この2体のアタックはどうやってもライフで受けるしかなくて、
「よし!ライフで受けるっ!……………うわっ!」
ライフ5⇨4⇨3
ダークディノニクソー2体の腹部のチェーンソーで切り裂く攻撃が、椎名のライフを2つ破壊した。
初めての攻撃に椎名はやや驚いた。
「おぉ、やっぱリアル…………これが映像だなんて……………」
「俺はターンエンドだ」
ダークディノニクソーLV2(2)BP4000(疲労)
ダークディノニクソーLV2(2)BP4000(疲労)
バースト無
やれる事を全て失い、そのターンを終える晴太。次は椎名のターンだ。
[ターン04]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
「ドローステップっ!…………おぉ!やったねぇ!」
手札5⇨6
(この子ポーカーフェイスをなんだと思ってるんだ…………)
またドローカードを見て大喜びする椎名。そんな彼女を見て、晴太も流石に呆れ気味。
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨9
トラッシュ6⇨0
「……よし、だったら直ぐには出さずに……………よし!決めたっ!バーストをセットして、ガンナー・ハスキー2体と、猪人ボアボアを1体、LV2と1ずつで召喚!」
手札6⇨5⇨4⇨3⇨2
リザーブ9⇨2
トラッシュ0⇨2
椎名はバーストと共に一気に展開する。犬型のスピリット、ガンナー・ハスキー2体と、猪の頭をした獣人、ボアボアが1体だ。ガンナー・ハスキーのLVは1と2で1体ずつだ。
「…………速攻デッキか、」
このスピリット達を見て、晴太は椎名のデッキが速攻デッキであると理解した。それもアーマー進化を軸にした厄介なデッキであると、
「さらにライドラモンのLVを2に上げます!」
ライドラモン(1⇨3)LV1⇨2
レベルが上がり、証明するかのように雄叫びを上げるライドラモン。
そして椎名はアタックステップに入る。晴太のライフをこのターンで全て破壊するために、
「よしっ!アタックステップだっ!先ずはお願いっ!ライドラモンっ!」
椎名の指示に頷き、走り出すライドラモン。目指すは晴太の残り4つのライフだ。
晴太も前のターンでフルアタックしてしまったせいで、ブロッカーがいない、ここは一先ずライフの減少を選択することになる。
「………ライフで受ける」
ライフ4⇨3
再びライドラモンの強烈な体当たりが炸裂する。晴太のライフがまた1つ破壊される。
そしてここではさらにライドラモンのLV2、3の効果が発揮される。それはとても強力なものであって、
「さらに!ライドラモンが相手のアタックによってライフ減らした時、追加でもう一つ、ライフを破壊するっ!」
「!?!」
「青き稲妻、ブルーサンダー!!!!」
「ぐっ!」
ライフ3⇨2
ライドラモンのツノから放たれる青い稲妻が、晴太のライフを直撃する。そのライフはまた1つ砕かれた。
「や、やるやん!あいつっ!いけるんとちゃう!?」
この怒涛の攻撃に真夏を含めた周りの受験生が沸いた。もしかしたら、もしかする。と考えたのだ。
ーだが、
「よしっ!次!ボアボアでアタックっ!そのアタック時効果の【連鎖:緑】でコアを1つ増やす!このまま一気に決めるよっ!」
猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2
後2つのライフめがけ、鉄球を振り回しながら走り出すボアボア。
3体のスピリットに対して後2つなのだ。「決まった」と思う者もいただろう。だが、相手はあの【一木花火の唯一弟子】と言われている【空野晴太】なのだ。
ーそう上手くはいかない。彼は静かに1枚の手札を引き抜いた。
「フラッシュマジック!フレイムテンペスト〈R〉!ソウルコアを支払って使用するっ!」
手札4⇨3
リザーブ3s⇨0
ダークディノニクソー(2⇨1)LV2⇨1
トラッシュ1⇨5
「…………え!?」
荒れ狂う炎を纏った大きな竜巻。それは次々と椎名の場にいたスピリット達を巻き込んで行き、終いには全てを焼き尽くした。
ー椎名の場はたった1枚のマジックによって壊滅した。
「マジックカード、フレイムテンペスト〈R〉はソウルコアを支払って使用する事で相手の場にいるBP7000以下のスピリットを壊滅させる」
「ま、マジですか……ッ!………あっ、でもガンナー・ハスキーのLV2の破壊時の効果でコアが2つ増えます!」
リザーブ9⇨11
ガンナー・ハスキーの効果により、椎名のリザーブにコアが2つ追加された。
ただ、さっきまで調子良かったかのように見えた椎名の場は一瞬で壊滅。周りの受験生達は「あぁ、やっぱりダメだった」などと呟いていた。
この次のターンでどうなるか理解していたからだ。
「ちぇ、仕方ないな、このターンはエンドだよ!」
バースト有
バーストがまだあるものの、手札はたった2枚。絶体絶命と言っても過言ではないだろう。
それなのに椎名は苦い顔を全くせずに、ただバトルを楽しんでいるかのような口調でそのターンのエンド宣言をした。
普通の受験生では先ずない傾向だ。「受かりたい」だから勝つ。そのような心情になるのが通常だ。バトルを楽しめ、というのが無理な話である。苦しい状況なら尚のことだ。
「ふんっ!………興醒めだな」
そう言って観客席を立ち上がったのは司だ。単純に見飽きてしまったのだ。どの道いくら頑張ってもあの「変な奴」に勝ちはないだろうと確信して、
「あれ!?司、どこ行くの?」
司が出口ですれ違ったのはちょうど試験を終えた、当時の雅治だ。今よりも背が低く見える。
「帰る」
「空野晴太のバトルを見ていかないのかい?」
「奴のデッキは入試用だ、本気じゃない、それにどの道、今やってる変な奴で最後だしな」
「?……変な奴?」
「自分の力量も理解できない、ただの馬鹿だ」
それだけ言い残して司はスタジアムを出て行った。
この時司は、その「変な奴」が自分の生涯のライバルになろうとは、思ってもなかっただろう。
「全く、自分だって、変な癖に、…………じゃあ僕は見てこようかな?その「変な奴」のバトルを……」
雅治は空いた司の席に座って、その椎名と晴太のバトルを見物することにした。この後、自分の心の中が桜色に染まるとも知らず。
そしてバトルは続く。次は晴太のターンだ。
[ターン05]晴太
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨6
トラッシュ5⇨0
ダークディノニクソー(疲労⇨回復)
ダークディノニクソー(疲労⇨回復)
「メインステップ、俺はブレイブカード、竜甲冑ドラグマルを召喚!」
手札4⇨3
リザーブ6⇨3
トラッシュ0⇨2
「ッ!!……ブレイブ!」
地中から飛び出してきたのは甲冑を身に着けている竜。ドラグマル。これはスピリットではなく、ブレイブ。スピリットと合体できるのだ。
「でも先生、肝心の合体先のスピリットがいないよっ!」
竜甲冑ドラグマルの合体条件はコスト4以上。現在晴太の場にいるスピリット、ダークディノニクソーはいずれもコスト2のスピリットだ、合体はできない。
だが、晴太がそんな凡ミスをするはずがない。さらに1枚の手札を引き抜いてみせた。
「何言ってんだ、そんなの今から出すに決まってるだろ?…………さらにスレイブ・ガイアスラをLV1で召喚っ!」
手札3⇨2
リザーブ3⇨0
ダークディノニクソー(2⇨1)LV2⇨1
トラッシュ2⇨5
晴太の場に降り注ぐ巨大な火の玉。地面に落ちたと思えばすぐさまそれは形を形成して行く。現れたのはかの有名なスピリット、ガイアスラの小型版とも言えるスピリット、スレイブ・ガイアスラだ。
ガイアスラシリーズではお馴染みの効果を持っていることから、こちらもわりかし有名であって、
「……す、すごい!」
「まだ行くぞ!スレイブ・ガイアスラと竜甲冑ドラグマルを合体!合体スピリットとなるっ!」
スレイブ・ガイアスラ+竜甲冑ドラグマルLV1(2)BP7000
ドラグマルの甲冑が次々とスレイブ・ガイアスラに装着されていく。
スレイブ・ガイアスラは強大な合体スピリットと化した。これを見た観客席の受験生達は完全に椎名の勝利を諦めた。「勝てるわけがない」そう思ったのだ。
「アタックステップっ!スレイブ・ガイアスラでアタック!竜甲冑ドラグマルの合体時効果でさらにBP4000アップ!」
スレイブ・ガイアスラBP7000⇨11000
竜の尻尾だけで地面をすいすいと移動するスレイブ・ガイアスラ。目指すは椎名の残り3つのライフだ。
スレイブ・ガイアスラ。ガイアスラの名に恥じぬ、【超覚醒】の効果を持っている。
【超覚醒】とは、【覚醒】の亜種効果の1つなのだが、【覚醒】のようにコアを自身に移動させるだけでなく、疲労から回復もするという恐ろしい効果。つまり、他のスピリットのコアの数だけアタックできると言っても過言ではない。
他の者達が勝てないと思ったのもおそらくはそこからきたことだろう。
だが、当の本人は、椎名は全然諦めてはいない。寧ろここからが本番であるかのような顔つきでそのアタックを待ち受けていた。
晴太もそんな椎名を見て不思議に思う。この負けそうな場面で悔やみや嘆きと言った感情を一切見せないのはなぜか、と。
「流石、バトスピ学園、こんな人達がゴロゴロいるところなんだ、………………へへっ、やっぱ来て正解だったよ、じっちゃん………」
椎名はこの場でもただ単にバトルを楽しんでいた。理由も理屈も何もなく、ただただ楽しかった。
ーそして、
「見せてやるっ!私のエーススピリットを!」
「!?!」
「エーススピリット」その言葉に思わず反応した晴太。このタイミングで召喚できる者とは一体なんだと考えをよぎらせる。
そして椎名の裏向きで伏せられたバーストカードが反転する。自身のエースを召喚するための布石だったものだ。
「相手のアタックによりバースト発動!トライアングルバーストッ!!」
「!?!」
「この効果でコスト3以下のスピリット1体をノーコストで召喚するっ!来いっ!ブイモン!!」
手札2⇨1
リザーブ11⇨8
ブイモンLV2(3)BP4000
光り輝くトライアングル。その中から飛び出して来たのはライドラモンの【アーマー進化】の効果により手札に戻っていた小さき青竜、ブイモンだ。
「まさかあんなのがエースなのか!?」晴太はそう思った。だが、また直ぐに理解した。本番はこれからであるということに。
「さらにトライアングルバーストのフラッシュ効果を発揮させて、ダークディノニクソー2体を疲労させるっ!」
リザーブ8⇨5
トラッシュ2⇨5
「………………」
ダークディノニクソー(回復⇨疲労)
ダークディノニクソー(回復⇨疲労)
動き出すトライアングル。それはダークディノニクソー2体を縛り付け、動きを封じた。だが、それだけではスレイブ・ガイアスラのアタック回数は対して変わらない。2体の上のコアを外しながら回復すれば問題はないからだ。
だが、ここで、ここでようやく現れる。椎名の未来永劫変わることのない。史上最強のエーススピリットが、
「そしてフラッシュ!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!」
リザーブ5⇨4
トラッシュ5⇨6
「また【アーマー進化】!?」
「1コスト支払い、炎の燃ゆるスピリット、フレイドラモンをLV2で召喚っ!」
フレイドラモンLV2(3)BP9000
ブイモンの頭上に、今度は赤い卵が出現する。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化する。そして新たに現れたのは炎を燃え上がらせるスマートな竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモンだ。
「ここに来て、赤のスピリット…………!?!」
「おぉ、フレイドラモンっ!会いたかったよ〜〜頑張ってね!」
目の前のフレイドラモンに感動する椎名。今まで夢見た光景が舞い降りてきたのだ。その喜びは計り知れない。そんな椎名を見て、フレイドラモンも「任せてくれ」と言っているかのように頷いてみせた。
青と緑を使っていたからか、急に赤のスピリットが出てくるのは新鮮なものだったのだろう。周りは騒然としていた。
「……………赤のアーマー体…!」
そう呟いたのは雅治。赤のアーマー体を使うものを他に1人知っているからか、思わずそれを口ずさんでしまった。
「よっし!フレイドラモンの召喚時効果!BP7000以下のスピリット1体を破壊するっ!」
「!?!」
「ダークディノニクソー1体を破壊っ!……爆炎の拳っ!ナックルファイアァァア!!」
フレイドラモンの燃え上がる炎の鉄拳が、瞬く間にダークディノニクソーを捉え、爆発させる。【超覚醒】の攻撃回数を減らした。
「だが、このアタックはどう受ける?」
BPでは圧倒的にスレイブ・ガイアスラには敵わない。このままでは連続攻撃により、フレイドラモンは破壊されてしまうだろう。
だが、フレイドラモンにはまだ効果が隠されており、
「フレイドラモンの効果で相手のスピリットを破壊した時、デッキからカードを1枚ドローするっ!」
「おいおい、まさかそれで逆転する気じゃないだろうな?たった1枚で」
「へへっ、そのまさかですよ先生、このドローは奇跡を起こしますよ!」
そんなにドローに自信があるのか、全く躊躇もなしにデッキから1枚のカードを引き抜いた椎名。
ーそしてそれを確認した途端。口角が上がる。
「よっしゃぁ!フラッシュマジック!アビサルカウンター!効果により合体スピリットのブレイブ、ドラグマルを破壊するっ!」
手札1⇨2⇨1
リザーブ4⇨1
トラッシュ6⇨9
「………なにぃ!?」
大きな竜巻が突如発生し、スレイブ・ガイアスラを巻き込む。その攻撃は装備されたブレイブ、ドラグマルだけを剥ぎ取り、それを爆発させた。
これでスレイブ・ガイアスラはフレイドラモンよりBPが低くなった。
「…………………」
晴太は黙り込み、考えた。ここまで両手放しで自分のデッキを信じられるバトラーなどいったい何人いるだろうか、と考えていたのだ。
確信した。椎名は天才だ。とんでもない金の卵だ。
「フレイドラモンでブロック!!」
ドラグマルがいなくなった瞬間を狙って打ち出されるフレイドラモンの炎の鉄拳と言う名の弾丸。スレイブ・ガイアスラはそれをひらひらと避けていく。
遠距離戦は部が悪いと見たフレイドラモンは近接技でケリをつけると決めた。高い脚力を活かし、天高く飛び上がり、その身に炎を纏った。
ーそして、
「いっけぇ!!フレイドラモンっ!渾身の爆炎!ファイアァア!ロケットッ!!」
そのままスレイブ・ガイアスラに向けて勢いよく急降下していくフレイドラモン。その勢いを全く殺せないまま、衝突し、大爆発。スレイブ・ガイアスラは粉々に砕け散った。
「よしっ!」
ガッツポーズを上げる椎名。周りの受験生達は唖然としていた。まさかあの場から切り返してここまで綺麗なカウンターを決めるなどと誰が思っていただろうか、
晴太はもはや何もできない。そのターンを半ば強制的に終わることになる。
「ターンエンドだ」
ダークディノニクソーLV1(1)BP2000(疲労)
バースト無
ー次は椎名のターンだ。
[ターン06]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札1⇨2
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨11
トラッシュ9⇨0
フレイドラモン(疲労⇨回復)
「メインステップ、ブイモンを召喚!」
手札2⇨1
リザーブ11⇨5
トラッシュ0⇨3
三たびブイモンが召喚される。それ以上はもう何もする必要はないと見たか、椎名はアタックステップに入った。
「アタックステップッ!フレイドラモンでアタックッ!アタック時効果でBP7000以下のスピリット1体を破壊するっ!残ったダークディノニクソーを破壊!……ナックルファイアァァア!!」
手札1⇨2
フレイドラモンの飛び行く炎の鉄拳が晴太の場に残った最後のスピリット、ダークディノニクソーを焼き切った。
「ライフで受ける」
ライフ2⇨1
なすすべがない。晴太はフレイドラモンの炎を纏わせたパンチをライフで受け止めた。
「ラストだ!ブイモンッ!!」
待ってましたと言わんばかりに走り出すブイモン。目指すは当然晴太の残ったラスト1のライフ。
そして終わりのラストコールが、
「………こんな奴がいるとはな、…………ライフで受けるよ」
ライフ1⇨0
ブイモンの頭突きの攻撃が晴太の最後のライフを砕く。ガラス細工が割れたような音がバトルの終了を表すようにこだまする。
これに伴い、勝者は、受験生の椎名だ。
「やったぁぁあ!!!!勝ったよ〜〜〜!!」
両手を上げ、喜ぶ椎名。その姿を見て、ブイモンとフレイドラモンもそれを祝うかのように咆哮を上げる。
周りの受験生達も、他の試験官の先生達もその結果を見て大いに驚いていた。それほどにこの勝利は凄まじい偉業であったと言える。
「…………まるで花兄と姉さんみたいだ、」
思わずそう呟いた晴太。どうもあのゴーグル、バトルの仕方が、自分の尊敬する義兄と実姉に重なっていた。まるで足して2で割ったかのようなそんは感じに思えていた。
椎名が晴太の教師生活を充実させるキーパーソンになった瞬間であった。
(…………か、かわいい)
雅治は遠目で見ていた椎名に思わずそう思ってしまった。一目惚れだった。長い髪、橙色に近い赤毛、バトルしてる時の楽しそうな表情。全てが理屈抜きで好きになった。長きに渡る彼の恋路が始まりの汽笛を鳴らした瞬間だった。
「あの子、おもろいわ〜〜後でまた声かけたろかな?」
最後は真夏。この後2人は本当に友人関係を結ぶことになるのであった。
これが【第1話】よりも前に起きた椎名達の入試バトルの物語。全ては椎名のこの入試バトルが現在の全ての人間関係を築き上げてきたのだ。
******
「今思えば懐かしいよ……………」
舞台は戻り現在、兎姫と談笑していた晴太は昔話に浸っていた。
だが、その時間もつかの間、直ぐに腕時計を見て、慌ただしい様子に変貌する。
「うわっ!もうこんな時間じゃん!ごめん兎姫ちゃん!俺もういくわ!」
「はいはい、いってらしゃい」
そう言って、バタバタしながら職員室を出て行く晴太を兎姫は軽く手を振りながら見送った。
******
舞台はまた変わり、普通の体育館。ここではこの時間、【ミス・ジークフリードコンテスト】が行われている。今は自己紹介タイムだ。エントリー順でそれぞれ軽く自己紹介していた。
それに出場する椎名とそのアシスタント的な立ち位置として一緒にいる真夏は舞台裏で待機している。しかも椎名はメイド衣装のままだ。
「…………予想以上に人がいる………」
「まぁ、ミスコンやしな……………大丈夫やて、あんたならいつも通りやってれば優勝なんていけるて!」
「いや、別に優勝目指してはないけど」
ーそんな時、
《次は今年の大本命!エントリーNo.17!……1年D組、芽座椎名ちゃんだぁ!!》
そんな司会者の男子生徒のマイク声がしたと思ったらそれに応えるようなとんでもないくらいの声量が聴こえてきた。ほとんど全てが男の人の声だった。もはや界放リーグの時の観客の声といい勝負だ。
予想以上の大盛況に椎名は思わずたじろいだ。
「ほら、行ってきぃ、」
「わっ、」
真夏がポンっと椎名の背中を押すと、椎名はそれに押し出されて体育館のステージに出てきてしまった。
椎名の登場のより、さらに沸き上がるオーディエンス。椎名としては出たくはなかったが、ここまで来たからには致し方ない。自業自得でもあるのでやるしかないだろう。
「さぁ!椎名ちゃん!先ずは自己紹介を!」
司会者の男にマイクを渡される椎名。そして愛想笑いで話す感じで、
「…………そ、そうですね、はは、あんまり自信ないですけど、頑張ります…………?」
この瞬間にまた歓声という名の轟音が体育館中に響き渡る。
メイド衣装ということもあってか、たった一言。たった一言で会場の熱気がピークに達する。今年のミスコンに限っては椎名を見るためにだけにこのジークフリード校の文化祭に来る者もいた。
それほどまでに椎名が界放リーグで叩き出した結果というものは凄まじかったと言える。椎名はもはやジークフリード校のカリスマと言っても過言でもないだろう。
「はい!芽座椎名ちゃんでしたぁ!!」
司会者のセリフに終わりを感じた椎名はせっせと舞台裏にいる真夏の方へ戻った。
「やばいやばい、無理無理!!めちゃくちゃ恥ずかしいよ!」
「だから行けとるて!あんた自分の顔のステータス知らんやろ!?」
まるでこの世の終わりのように真夏に寄りかかる椎名。「せめてバトルが、バトルがしたい。」その気持ちでいっぱいだった。まさかバトスピ学園に来てこんなことをやるなど想像もしてなかっただろう。
「あ、そう言えばBパッド鳴っとったで」
「えぇ?誰からだろ?」
Bパッドは携帯のように通信機能も付いている。登録していれば誰でも通話可能だ。
椎名は荷物置き場に置いていた自分の鞄の中からBパッドを取り出して、確認する。
ーそれは通話ではなく、メールだった。
ーただ、その内容は震え上がるほど驚くものであって、
ー椎名は頭の血の気が引いていくのが伝わってきた。
「ごめん真夏!急用思い出した!ミスコンサボるね!?」
「え、えぇ!?なんで!?どこいくん?…………って、もうおらんのかい」
鬼気迫るような椎名の声。そして風のように通り過ぎ、真夏を置いていった。
椎名はメイド衣装のまま学校を飛び出した。そして目的地へ走り出す。
そのメールの内容は【紫治夜宵を誘拐した】と言うものだった。犯人が告げたことは、今すぐ1人で指定の場所に来ること、
「待っててねっ!夜宵ちゃんっ!今行くからっ!」
兎に角椎名は走った。足の疲れも気にせずに、ただ夜宵の無事だけを祈ってその指定の場所まで走り行く。
ーこれが紫治一族の罠とも知らずに、
〈本日のハイライトカード!!〉
「はい!椎名です!今回は【フレイドラモン】!!」
「言わずと知れた私のエーススピリット!効果破壊と指定アタックを使い分けて敵を討つよ!」
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!