ここは【ジャンクゾーン】。界放市の周囲に配置されたこの場所は、言わばゴミ溜め、国からも見放された完全なる無法地帯だ。
普段はならず者以外はいないこの場所で、ある一族の長の野望が叶えられようしていることなど、誰も予想はしなかっただろう。
「…………あ、あなたは……!?」
「あら、話したことなかったかしら?……夜宵の姉、【紫治明日香】よ、…………よろしく」
「!!……あなたが夜宵ちゃんのお姉さん!?」
【ジャンクゾーン】のとある場所、椎名と夜宵のことを思い、司と真夏を先に行かせた雅治は夜宵の姉、明日香と対面することになった。
夜宵とは昔馴染みの関係ではあるが、その姉である明日香と一度も会ったことがなかった。夜宵がこちら側に来る時はあっても、自分達が夜宵側に行くことはなかったからだ。
ただ、その存在は知っていた。歳が2つ離れている以外の情報はなかったが、
「な、なんで夜宵ちゃんのお姉さんが………」
「あら?敵として対面しているのにもかかわらず気づかないなんて、鈍いわねぇ、……………少し考えてみなさい」
「…………………ッ!」
雅治は少しだけ落ち着いてこれまでの出来事を見つめ直し、ありとあらゆる可能性を考慮し、考察した。
何故誘拐されたはずの夜宵の姉がそれをほっぽり出して今自分の目の前にいるのか、その理由はただ一つ。【最初から夜宵は誘拐されてなどいないからだ】。
つまり罠、自分達は誘拐などよりもっと何かとてつもなく邪悪なものに巻き込まれている。と。
夜宵が敵であることは信じられないことであったが、明日香の放つオーラや話し方、独特な雰囲気もあって、これしか他に思いつかなかった。
「ふふ、やっと気づいたみたいね」
「……………あなた達の目的はなんなんだ」
「…………そうね〜〜、私に勝ったら教えてあげる」
流石にそう簡単にその目的は話したりなどしないか、不本意だが、やるしかない、なんとかしてこの明日香に勝利し、いち早く椎名達のところへと駆けつけなければならない。今の雅治はそれを第一に考えた。
そして無言でBパッドを展開する雅治。デッキをそこに置き、準備は万端だ。
「さぁ、行きましょうか」
「……………えぇ、」
「「ゲートオープン!!界放!!」」
バトルが始まる。先行は雅治だ。
[ターン01]雅治
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、僕は天使キューリンを召喚して、さらにネクサスカード、華黄の城門を配置!……ターンエンド」
手札5⇨4⇨3
リザーブ4⇨2⇨0
トラッシュ0⇨3
天使キューリンLV1(1)BP1000(回復)
華黄の城門LV1
バースト無
雅治が早速呼び出したのは、かの有名なスピリット、クーリンをモチーフとしたスピリット、キューリンと、黄色のデッキではかなりの汎用性を誇るネクサスカード、華黄の城門。
雅治の背後に巨大な門が現れる。
[ターン02]明日香
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、…………そうね〜〜、先ずはこれからかしら?ガジモンをLV1で召喚」
手札5⇨4
リザーブ5⇨1
トラッシュ0⇨3
「!!……やっぱり紫か!」
明日香が初手に呼び出したのは耳の長い紫の成長期スピリット、ガジモンだ。明日香はその召喚時効果で新たなるデジタルスピリットの確保を狙う。
「召喚時効果で2枚オープン」
オープンカード
【ヴァンデモン】○
【ヴァンデモン】○
効果は成功、ガジモンは系統「道化」「夜族」のうち、どちらか1枚を手札に加えることができる。ここでは2枚オープンされたヴァンデモンのカードをどちらか1枚を加えることになる
「ヴァンデモンを加え、残りは破棄……………まぁこんなものね、ターンエンドよ」
ガジモンLV1(1)BP1000(回復)
バースト無
「…………ヴァンデモンは完全体のスピリット、………」
そのターンを終える明日香。やはり【紫治一族】お得意の紫デジタルスピリットでバトルするようだ。特に明日香は完全体のヴァンデモンのカードを加えたということは、そのランクが3であることが示唆される。雅治もそれを悟った。
次はそんな雅治のターン。早くこれに勝ち、椎名を助けなければならないという想いが、このバトルの展開をより早く進めようとしていた。
[ターン03]雅治
「スタートステップ時、華黄の城門の効果、手札のスピリットかマジックを1枚手元に置き、デッキからカードを1枚ドローするっ!………僕はアルマジモンを置き、カードをドロー!」
【アルマジモン】
手札3⇨2⇨3
黄色のネクサスカード、華黄の城門、その効果はとても汎用性が高い、手元に置かれるカードは手札にあるものとほぼ同等で使用できる。
つまり、相手に見せる以外のデメリットがほとんどと言っていいほどないのだ。それだけでドローを追加できるのはかなりお得であると言っていい。
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨4
トラッシュ3⇨0
「メインステップっ!今手元に置いたアルマジモンを召喚!」
リザーブ4⇨2
トラッシュ0⇨1
華黄の城門の効果で手元に置かれていたアルマジモンのカードをそのまま場へと召喚、アルマジロ型の黄色成長期スピリットのアルマジモンが、雅治の足元から勢いよく飛び出した。
そしていつものようにその召喚時の効果で進化系のスピリットの獲得を試みる。
「召喚時効果、カードをオープンっ!」
オープンカード
【ディグモン】○
【華黄の城門】×
【華黄の城門】×
効果は成功、雅治はアーマー体スピリットであるディグモンのカードを手札へと加えた。
さらにそこからそのディグモンの【アーマー進化】も決める。
「ディグモンを加え、さらにその【アーマー進化】を発揮!対象はアルマジモン!1コスト支払い、鋼の叡智、ディグモンをLV2で召喚っ!」
手札4⇨5
リザーブ2⇨0
トラッシュ1⇨2
ディグモンLV2(2)BP6000
アルマジモンの頭上に独特な形をした卵が投下される。アルマジモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化を果たす。現れたのは昆虫型のアーマー体スピリット、鼻先きと両手がドリルになっているディグモンが現れた。
「へぇ、アーマー進化…………」
「ヘラヘラしていられるのも今のうちですよ!ディグモンの召喚時及びアタック時効果!このターンの間、相手のスピリット1体をブロック不可にするっ!今回はガジモンが対象だ!」
「………!!」
ディグモンはその3つのドリルを回転させ、それを地面に突き刺し、亀裂を生じさせる。そのまま地割れとなり、ガジモンを襲う。ガジモンはそれに足を挟まれてしまい、身動きが取れなくなった。
「アタックステップ!ディグモンでアタック!」
走り出すディグモン。目指すは明日香のライフ。ガジモンがこのような状態のため、明日香はそれをライフで受ける他ないのだが、
「ライフで受ける」
ライフ5⇨4
ディグモンの3つの回転するドリルがいとも容易く明日香のライフを砕いた。
「よし!ターンエンドだ」
天使キューリンLV1(1)BP1000(回復)
ディグモンLV2(2)BP6000(疲労)
華黄の城門LV1
バースト無
天使キューリンは自身の効果によりアタックができない。雅治はそのターンでやれることを全て失い、それを終える。
この最序盤でのディグモンの存在というのはかなり大きいと言える。コアの少ない序盤で強力なスピリットを召喚することで相手に少なからずともプレッシャーがかかるからだ。
当の明日香はまるでそれを意に介していないように見えるが、
[ターン04]明日香
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨6
トラッシュ3⇨0
「メインステップ、……………ネクサスカード、ムゲンマウンテンを2枚配置してターンエンド」
手札6⇨4
リザーブ6⇨1
トラッシュ0⇨5
ガジモンLV1(1)B1000(回復)
ムゲンマウンテンLV1
ムゲンマウンテンLV1
バースト無
明日香の背後に聳え立つのは気が遠くなるような高い山々。ムゲンマウンテンは全色のネクサスカードだが、シンボルとその効果は紫寄りである。
明日香はそのターンを終えた。BPの低いガジモンでのアタックは控えているのか、それとも何か違う目的か、どちらにせよ、アタックしないというのは雅治の思考を大きく揺らしていた。
[ターン05]雅治
「スタートステップ時、華黄の城門の効果でアルマジモンを手元に置き、ドロー」
【アルマジモン】
手札5⇨4⇨5
雅治は【アーマー進化】によって手札に戻っていたアルマジモンを再び華黄の城門の効果のコストにした。
単純ながらいいコンボであると言える。何せ効果の都合上、手札に戻りやすい成長期のスピリットカードを使いまわしながらドローを行なっているのだから。
あまりゆっくりもしていられないのだ。雅治は明日香のライフを一気に速攻で叩く作戦にいく。
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨3
トラッシュ2⇨0
ディグモン(疲労⇨回復)
「メインステップっ!手元に置いたアルマジモンを再び召喚!」
リザーブ3⇨1
トラッシュ0⇨1
アルマジモンが再び召喚される。そしてまた召喚時だ。
「召喚時効果!カードオープン!」
オープンカード
【アルマジモン】×
【パタモン】×
【パタモン】×
今回は外れた、オープンカードは全てトラッシュ送りとなる。
だが、問題ない。雅治の怒涛の攻めが幕を開ける。
「アタックステップっ!アルマジモン!」
「ライフで受ける」
ライフ4⇨3
颯爽と飛び出したアルマジモンの体当たりが明日香のライフを1つ破壊する。
「次だ!ディグモン!」
ドリルを回転させながら走り出すディグモン。そしてこのタイミングで雅治は今一度【アーマー進化】を行う。
「フラッシュ!サブマリモンの【アーマー進化】発揮!対象はアルマジモン!1コストを支払い、サブマリモンを召喚!」
リザーブ1⇨0
トラッシュ1⇨2
サブマリモンLV1(1)BP5000
「!!」
アルマジモンの頭上に再び独特な形をした卵が投下される。アルマジモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化していく。そして現れたのは青属性の潜水艦のようなアーマー体スピリット、サブマリモンだ。
「サブマリモンの召喚時効果!コスト4以下のスピリットを1体破壊!ガジモンだ!」
「!!」
サブマリモンの魚雷が発射される。ガジモンはそれを避けられるわけもなく、直撃し、爆発を引き起こした。
「ディグモンのアタックは継続中!」
「……………ライフで受ける」
ライフ3⇨2
再びディグモンのドリルアタックが明日香のライフを削り取った。
「サブマリモン!」
雅治の命令を聞くや否や発進するサブマリモン。
そして、
「ライフで受ける」
ライフ2⇨1
サブマリモンの一角のツノが、明日香のライフに突き刺さり、それを1つ破壊した。
「よし!後1つだ!……ターンエンド!」
ディグモンLV2(2)BP6000(疲労)
サブマリモンLV1(1)BP4000(疲労)
天使キューリンLV1(1)BP1000(回復)
華黄の城門LV1
バースト無
アーマー体の【アーマー進化】による怒涛の連続攻撃、それが綺麗に決まり、わずか5ターン目にして明日香のライフを1まで追い込んだ雅治。
これは勝った。雅治は思わずそう思ってしまった。バトルにおいて、なによりも慢心はダメだというのに、
[ターン06]明日香
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ5⇨6
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ6⇨11
トラッシュ5⇨0
「へぇ、なかなかやるじゃない、……………でも私に勝てない」
「!?!」
雅治は驚いた。この明日香という女性がこの絶対絶命である状況にもかかわらず冷静でいられることに。寧ろその冷たくて棘のある声色は逆に自分にプレッシャーを与えているように感じる。
だが、ライフ差も場の差も圧倒的、ここからの巻き返しなど俄かには信じがたい、
「メインステップ、クリスタニードルを2体召喚…………」
手札6⇨4
リザーブ11⇨9
明日香が召喚したのは小さい蛇型のスピリット、クリスタニードルだ。
そして明日香はここからさらに展開する。自分が認める最強スピリットを、父である紫治城門から直接譲り受けた紫の完全体を。
「闇へ誘え…………ヴァンデモンをLV3で召喚!」
手札4⇨3
リザーブ9⇨1
トラッシュ0⇨3
「!!……ヴァンデモン…………」
羽ばたく黒い蝙蝠達が密集していく。それが混ざり合い、合併して現れたのはまるでヴァンパイア。その名の通り吸血鬼のような完全体スピリット、ヴァンデモンだ。その存在感は雅治の場のスピリット達を恐怖させる。
「…………そう、これが私のエース、……ヴァンデモンよ」
「………………っ!」
雅治自身も思わずその場でたじろいだ。何という威圧感だろうか、あんなに表情は飄々としているというのに、それが存在しているだけで息が苦しい。
そして明日香はこのヴァンデモンでアタックを仕掛ける。
「アタックステップ…………いきなさい、ヴァンデモン……………アタック時効果であなたはこのバトルでは自分のスピリットのコアを1つトラッシュに置かないとブロックできない」
「………!!」
ヴァンデモンの効果だ。完全体のスピリットでのアタックは相手にプレッシャーを与える。
だが、そんなの軽いものだ。ヴァンデモンの本領はこれから発揮されるのであって、
「さらにヴァンデモンのもう1つのアタック時効果、相手の手札を1枚破棄するっ!」
「!?!……蝙蝠!?……うわっ!!」
手札6⇨5
破棄カード
【タイムリープ】○
雅治の手札にまとわりついてきたのは、ヴァンデモンが放った黒ずんだ蝙蝠の群れ。それらは瞬く間に雅治の手札を1枚破棄させた。
問題なのはその破棄されたカードであって、
「この時、破棄されたのがマジックカードであれば、さらに相手のライフをリザーブに送るっ!タイムリープはマジックカード!………喰らいなさい!蝙蝠達の一撃を!」
「!?!……ぐっ!」
ライフ5⇨4
黒ずんだ蝙蝠達は今度は雅治のライフをも狙いに行く。そのままそれを1つ破壊した。
そしてそれが過ぎ去った後、雅治の目の前には本命のアタックであるヴァンデモンの姿が現れており、
「ヴァンデモンのアタックは継続中よ」
「………これもライフだ…………ぐっ!」
ライフ4⇨3
ヴァンデモンの鉤爪による強烈なひっかく攻撃が雅治のライフをまた1つ引き裂いた。
「ふふ、ターンエンドよ」
ヴァンデモンLV3(5)BP12000(疲労)
クリスタニードルLV1(1)BP1000(回復)
クリスタニードルLV1(1)BP1000(回復)
ムゲンマウンテンLV1
ムゲンマウンテンLV1
バースト無
2体のクリスタニードルをブロッカーとして残し、不気味な笑みを浮かべながらそのターンを終えた明日香。まるで余裕であると言わんばかりに。
確かにこのターンのアタックはすごいと言わざるを得なかっただろう。だが、結果はたった5つあるライフを2つ減らしただけに過ぎない。
ブロックできるスピリットもたった2体しかいないと言うのに、次の雅治のターンをどう凌ぐというのか、
あの紫治一族の末裔でおそらく夜宵以上の実力者である彼女がたったこれだけの実力であるとは、雅治には到底思えないことであって、
[ターン07]雅治
「スタートステップ時、華黄の城門の効果、再びアルマジモンを手元へ、カードをドロー」
手札5⇨4⇨5
【アルマジモン】
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨5
トラッシュ2⇨0
ディグモン(疲労⇨回復)
サブマリモン(疲労⇨回復)
兎に角はやくこのバトルを終わらせて椎名を助けに行かなければ、雅治はそう思って、また攻め急ぐことになる。
「メインステップ!手元よりアルマジモンを再召喚!さらに手札からはパタモンを召喚するっ!」
手札6⇨5
リザーブ5⇨3⇨1
トラッシュ0⇨1⇨2
雅治は展開した。手元より、いつものアルマジロ型のスピリット、アルマジモンと、耳で空を飛べる哺乳類型の成長期スピリット、パタモンを、
まだ展開は続く、…………それは3度目の【アーマー進化】だ。
「さらにペガスモンの【アーマー進化】を発揮!対象はパタモン!1コストを支払い、希望の天馬、ペガスモンをLV1で召喚するっ!」
リザーブ1⇨0
トラッシュ2⇨3
ペガスモンLV1(1)BP5000
今度はパタモンに独特な形をした卵が投下される。パタモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化を果たす。そして新たに現れたのはペガサスのようなアーマー体スピリット、ペガスモン。
「ペガスモンの召喚時及びアタック時効果!相手のスピリット1体をBPマイナス3000して、0になったらそれを破壊する!………クリスタニードル1体をマイナスする!」
「……………」
クリスタニードルBP1000⇨0(破壊)
ペガスモンの前脚から放たれる聖なる光線が、明日香の2体のクリスタニードルのうち1体を貫く。クリスタニードルは瞬く間に消滅してしまうが、
「クリスタニードルの破壊時効果により、華黄の城門を破壊」
「……………」
クリスタニードルが消滅する直前に放った毒ガスが、雅治の華黄の城門を徐々に浸食していく。
そしてそれは消え去っていく。クリスタニードルは破壊時、又は消滅時に紫にしては珍しいネクサス破壊効果を発揮する。
だが、雅治とてそれをちゃんと理解していた。もはや華黄の城門など不必要だ。この体数差でゴリ押しできる。
「アタックステップ!ペガスモンでアタック!再び同じ効果を発揮させ、クリスタニードルを破壊するっ!」
「……………」
クリスタニードルBP1000⇨0(破壊)
再び放たれるペガスモンの聖なる光線。明日香の場にいる残ったクリスタニードルもそれを受け、破壊されてしまった。
「よし!いけぇ!ペガスモン!」
当然、ペガスモンのアタックは継続される。その優雅な翼で飛び立つペガスモン。目指すは明日香の最後のライフだ。
雅治の場には、アタックできるスピリットが合計4体いる。これは勝った。と、雅治が考えた時だった。明日香が自分の手札から1枚のカードを引き抜いたのは………
「……………フラッシュマジック、………ナイトレイドを使用」
手札3⇨2
リザーブ3⇨1
トラッシュ3⇨5
「!?!」
「ナイトレイドは相手のスピリット3体からコアを1つずつリザーブに送る。この時、ヴァンデモンがいるならさらに置く場所をトラッシュへと変更する…………」
「な、なんだって!?」
「私はアルマジモン、サブマリモン、ペガスモンからそれぞれコアを1つずつトラッシュへ送るっ!」
「………………ぐっ!」
アルマジモン(1⇨0)消滅
サブマリモン(1⇨0)消滅
ペガスモン(1⇨0)消滅
トラッシュ3⇨6
ヴァンデモンの手から放たれる無数の蝙蝠達が、今度は雅治の3体のスピリット、アルマジモン、サブマリモン、ペガスモンを襲う。3体ともコアを全て抜き取られてしまい、その場から消滅してしまった。
「さらにこの効果で消滅したスピリットの体数分デッキからドローできる…………3体消滅したから3枚ドローね」
手札2⇨5
場のアドバンテージどころか手札のアドバンテージも一気に逆転する明日香。
だが、忘れてはならない。まだ雅治の場にはアタックできるディグモンがいることを。
「………でもまだ僕の場にはディグモンがいる!いけぇ!」
三たびドリルを回転させながら走り出すディグモン。目指すは明日香のライフだが、
雅治はこの紫治明日香という人物がどれほどの強敵であったかを理解することになる。それは正直言ってバトスピ一族の学生とは思えないほどのものであった。
「……………残念ね、この程度だなんて、」
「!?!」
そう言って、呆れた表情のまま、明日香はまた手札のカードを1枚引き抜いた。
「フラッシュマジック…………反魂呪………トラッシュの夜族スピリットをノーコスト召喚する」
手札5⇨4
ヴァンデモン(5⇨3)LV3⇨2
トラッシュ5⇨7
「トラッシュの夜族……………!?!ま、まさか!」
「そう、そのまさかよ…………トラッシュより2体目のヴァンデモンを召喚!」
ヴァンデモン(3⇨2)LV2⇨1
ヴァンデモンLV1(1)BP7000
地面にめいいっぱいドス黒い闇が広がっていく。その中でゆっくりと姿を現したのは明日香の持つ2体目のヴァンデモン。このカードはガジモンの召喚時効果で事前にトラッシュへと落とされていたものだ。
この時点で雅治はこのターンでバトルに決着をつけることができなくなった。そして明日香はここからさらに畳み掛ける。信じられないカードをこの場で使用した。
「……………煌臨発揮…………対象は2体目のヴァンデモン」
リザーブ1s⇨0
トラッシュ7⇨8s
「………!!」
反魂呪の効果で召喚されたヴァンデモンに悍ましいほどの闇が取り付いていく。それはどんどん肥大、巨大化していき、ヴァンデモンを新たなるデジタルスピリットへと進化させていく。
雅治はたった今気づいた。【紫治明日香は完全体まで使用できるランク3ではない】と言うことに。それはこの世界においては本当に信じられないことであって、
「…………ま、まさかあなたは…………っ!!」
「……………そうよ、私の指定されたランクは……………4」
「!?!」
「さぁ!暗黒の裁きを下せ!究極進化!!………………ヴェノムヴァンデモン!!」
手札4⇨3
ヴェノムヴァンデモンLV1(1)BP11000
その闇が一気に取り払われた。そしてそこにいたのは完全体のヴァンデモンがさらに進化した究極体のデジタルスピリット、ヴェノムヴァンデモンだ。その巨大な体は雅治に確かな恐怖を与えていた。
通常、デジタルスピリットを制限しているバトスピ一族と言うものは学生のレベルではどうあがいても完全体までしかその使用を許されることはない。それは強すぎる力を未熟な学生のうちに与えてしまってはならないという考えから来たものだ。
だが、この紫治明日香はどう言うことか、それを超えた究極体までの使用が許されているランク4まで到達していた。この世界においては全くもって考え付かないことであった。
「ら、ランク4だって!?そんな馬鹿な!?」
「私は特別なの………初めからランク3だと思って戦ってたあなたの負けよ、長峰雅治」
ここで頭が1個も2個分も抜けたヴェノムヴァンデモンの煌臨時効果が発揮される。
「ヴェノムヴァンデモンの煌臨時効果!相手のスピリットのコア3をトラッシュへ送る!これにより残った2体のスピリットのコアを全てトラッシュへ!」
「!?!」
天使キューリン(1⇨0)消滅
ディグモン(2⇨0)消滅
トラッシュ6⇨9
ヴェノムヴァンデモンから放たれる闇のエネルギー、それが雅治の場のディグモンと天使キューリンに直撃した。2体はコアを抜き取られ、その場から消滅してしまう。
たった1ターンだ。僅か1ターンの間で雅治の場を全て消滅どころかコアまでも全てトラッシュ送りにしてしまった。これで次のターン。雅治は反撃のしようがなくなる。
あんなに押していたと言うのに、あんなに勝ちが見えていたと言うのに。一瞬にしてそれは遠のき、逆に負けという絶望が見えてしまった。
ヴェノムヴァンデモンは雅治からスピリットと同時に戦意までもを奪い取ってしまった。
「……………た、ターン…………エンド」
バースト無
何もすることがなく、雅治は絶望を抱えたままそのターンを終えてしまった。次は明日香のターンだ。
[ターン08]明日香
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
「ドローステップ…………っ!?!……」
手札3⇨4
明日香はそのドローカードを見て思わず目を見開き、驚いた。手札にスピリットがいないのだ。このままではこのターンでは決められない。最悪雅治のライフは3。場にいるヴァンデモンの効果でマジックカードが落とせれば決めることができるが、
それでも手札にアタックステップを終わらせるタイプのマジック程度しかないのが彼女にとっては腑に落ちないことであって、
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨9
トラッシュ8⇨0
ヴァンデモン(疲労⇨回復)
「………メインステップ、全てのカードのレベルをマックスに」
リザーブ9⇨0
ムゲンマウンテン(0⇨1)LV1⇨2
ムゲンマウンテン(0⇨1)LV1⇨2
ヴァンデモン(2⇨5)LV1⇨3
ヴェノムヴァンデモン(1⇨5)LV1⇨3
自身のカードにコアが置かれ、その影響で力が上昇する明日香の2体のスピリット。そして恐怖のアタックステップが幕を開ける。
「アタックステップ!いきなさい!ヴァンデモン!アタック時効果!相手の手札を1枚破棄!」
「………」
手札5⇨4
破棄カード
【パタモン】×
再びヴァンデモンの効果で蝙蝠の群れが飛び上がる。それは雅治の手札を襲い、それを1枚はたき落とすが、それはマジックカードではない。ライフの破壊までには至らなかった。
「ちぃっ、マジックじゃないのね」
その結果に思わず舌打ちをしてしまう明日香。だが、ヴァンデモンのアタックは有効。そのまま翼を広げ、飛翔し、雅治のライフを狙う。
「……………ライフで受ける」
ライフ3⇨2
ヴァンデモンは雅治のライフを殴りつけて破壊した。
雅治にもう戦意はなかった。もう負けだ。ただただそれだけを考えていた。自分の力ではどう足掻いてもあの人には勝てない。と。
「…………ターンエンド」
ヴァンデモンLV3(5)BP13000(疲労)
ヴェノムヴァンデモンLV3(5)BP16000(回復)
ムゲンマウンテンLV2(1)
ムゲンマウンテンLV2(1)
バースト無
そのターンを終える明日香。次はもう戦う力など残っていない雅治だ。
彼がターンを始める前に、明日香は唐突にこんなことを言ってきた。それはなんの突拍子もなく、自然に、かつ、淡々と、
「あなた、自分がなんで【界放リーグ】の予選にでなかったか、わかる?」
「………………」
なぜ夜宵の姉が自分が【界放リーグ】の予選すら参加していないことがわかるのか、雅治は少しだけそう思ったが、もはやそんなことどうでもよかった。
どちらにせよ明日香の口は止まらない。その理由を単刀直入に述べていく。
「…………あなた、あの芽座椎名とか言う娘が好きなんでしょ?」
「…………!!」
これには少し反応した。そしてさらに明日香は続けて、
「あなたはあの娘の前でかっこ悪いとこを、負けるとこを見せたくないがために、体が勝手に参加を拒んだのよ」
「…………!!!」
あぁ、これでようやく謎が解けた。自分が【界放リーグ】に出場しなかった理由が、いや、本当は初めからそんなことわかっていた。ただ、自分の心の中では納得していなかっただけだ。
【好きな娘の前で無様に負けたくない。】自分がそんなことを考えるようになってしまったのは、ジークフリード校でヘラクレスとバトルした時か、いくら相手が相手とは言え、辛かった。椎名の前で、好きな娘の前で敗北するのは、
今思えばなんと恥ずかしくてだらしない理由だろうか、参加した者達は皆、自分自身のプライドのみを持って戦ったと言うのに。自分はそんな低俗な理由で参加すらしなかったのだ。なんと愚かだろうか。
「情けないわねぇ、そんな理由で不参加だなんて、…………今頃あなたの愛しの女の子は、間違いなく始末されているわよ」
「!?!」
雅治は理解した。今、自分が負けてはいけないことを。思い出した。椎名を助けなければならないことを。そんな小さな羞恥心など捨て去って早くこの場を通らなければならないことを。
「…………そ、そうだ………僕は意地でも椎名を助けないといけないんだ!こんなところで立ち止まってなんかいられない!」
そう思うだけで、叫ぶだけで、体中の力がみなぎってくる。戦意を増幅させる。不思議と負ける気がしなかった。「勝てる」ただそのことだけを考えられるようになった。
ーそんな時だ。彼のデッキが声に応えたのは、
「…………で、デッキが」
黄色く光輝いていた。目で直視できないほどの溢れんばかりの光量だ。これはあの【界放リーグ】で、司が引き起こしたあの現象に酷似している。
間違いない、これはあの時と同じものだ。
(………来たわね、オーバーエヴォリューション!やはりこの子が)
思わず笑みをこぼした明日香。そう、これが見たかったのだ。雅治を煽ってまで引き起こしたかった。我が父の悲願の願いを達成させるためにどうしてもこの力が必要なのだ。
この【オーバーエヴォリューション】の力が、
「こ、これはあの時と全く同じだ…………デッキが僕の声に応えている………!?」
雅治は思わずそう思ってしまった。そうだ、【オーバーエヴォリューション】とはバトラーとそのデッキの絆が頂点に達した時に行われる現象。雅治の椎名を助けたい想いがデッキに表れたのだ。
不思議と雅治はもう負ける気がしなかった。
ーこの勝負…………勝てる
「僕のタァァァアン!」
雅治は勢いよくターンを始める。
[ターン09]雅治
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
「ドローステップ!…………!!」
手札4⇨5
雅治はその【オーバーエヴォリューション】で新たに創生されたカードをドローした。そのカードはやはり見たことも聞いたこともないカードであって、
だが不思議とそのカードの絵を見ただけで使い方が頭に流れてくる。初めて見たにもかかわらず。まるで今までもずっと一緒にいたかのように。
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨11
トラッシュ9⇨0
「メインステップ!僕はエンジェモンとアンキロモンを召喚!」
手札5⇨3
リザーブ11⇨0
トラッシュ0⇨8
雅治が初めに召喚したのは気高き天使型のデジタルスピリット、エンジェモンと、鎧のような硬い皮膚を持つ恐竜のようなデジタルスピリット、アンキロモンだ。
この2体はいずれも成熟期のデジタルスピリットである。
「これで準備は整った」
「!?!」
これだけ見ると、ただ破壊されるだけの成熟期を召喚しただけだ。だが、明日香は悟った。間違いなくここで新たなるカードが、【オーバーエヴォリューション】によって得た新たな力が召喚されると。
「僕はこのカードの効果、【ジョグレス進化】を発揮!対象はエンジェモンとアンキロモン!この2体を手札へと戻し、新たな姿へと進化させる!」
手札3⇨4
「!!!?!」
「鉄壁の竜と勇敢なる天使が混じり合う時、そこに新たなる希望が宿る!ジョグレス進化ぁぁあ!!」
飛び立つエンジェモンとアンキロモン。この2体は衝突し、混ざり合い、新たなる姿へと進化していく。デジタルコードが混ざり、新たに誕生したのはまるで土偶のような見た目に天使のような翼が生えた完全体のデジタルスピリット、
「シャッコウモン!!!!」
シャッコウモンLV2(3)BP10000
「……………こ、これが【オーバーエヴォリューション】のカード………っ!」
雅治の場に新たに降り立ったのは鋼の天使、シャッコウモン。その体格はヴェノムヴァンデモンにも勝にも劣らない。
そしてシャッコウモンには召喚時効果がある。雅治はそれを存分に発揮させる。
「シャッコウモンの召喚時!相手のスピリット全てのBPをマイナス5000!そして0になったらそれらを破壊するっ!」
「ふんっ!たかだか5000!誰も破壊はされないわよ!」
そう、明日香の2体のスピリットはいずれも10000を超えている。弱体化はしても0になることはない。
だが、それは普通の召喚での話であって、雅治はさらに発揮させる。【ジョグレス進化】によって得られるシャッコウモンの本当の力を。
「この時!シャッコウモンが【ジョグレス進化】で召喚されていたのなら、このマイナス効果にさらにマイナス15000させる!」
「………………な、なんですって!?!」
つまりはマイナス20000だ。これを受けて、そうそう生き残るスピリットなどいないだろう。
シャッコウモンは両目にエネルギーを溜める。
ーそして、
「いけぇ!シャッコウモン!闇を解き放てぇ!アラミタマァァァア!!」
「!!!!!」
ヴァンデモンBP13000⇨0(破壊)
ヴェノムヴァンデモンBP16000⇨0(破壊)
シャッコウモンの両目から照射される赤い光が、明日香の場のスピリット達を包み込んでいく。
それらは一瞬のうちにその光で溶解されてしまった。
そしてこの勢いのまま雅治はアタックステップへと移行する。明日香の残った1つのライフを破壊するために。
「トドメだ!アタックステップ!シャッコウモンでアタックだ!」
今度は明日香のライフにその光が当たる。
そしてついにその遠かった残り1つのライフを…………………
「なるほど、…………やるじゃない……ライフで受けるわ」
ライフ1⇨0
減らした。完全に破壊した。明日香のライフを光で包み込むように押し潰した。
「…………か、勝った………」
強敵だった明日香を、雅治は満身創痍になりながらもなんとか新たなるジョグレス体の力で勝利を収めた。が、次の瞬間。
「おめでとう、長峰雅治。……………私が言えた口じゃないけど最後にこれだけは言い残すわ……………」
「………………え!?」
明日香が最後に残した言葉はとても意外で、これまでの彼女からは信じられないような言葉であった。
ーそして、
「……………た、頼むわ、よ」
「…………!?!」
雅治は驚いた。
それもそのはず、何せ、たった今バトルで敗北した夜宵の姉、紫治一族の長女、紫治明日香が最後に自分に捨て台詞を吐くなり、自分の目の前で倒れこんだのだから、まるで気を失ったかのように。
いや、どちらかといえば、魂だけが抜け取られた。そんな感じだった。
〈本日のハイライトカード!!〉
「はい!椎名です!今回はこいつ!【シャッコウモン】!!」
「シャッコウモンはシルフィーモンと同じ完全体で、ジョグレス進化で召喚できるスピリット!その召喚時に相手のスピリット全てのBPを下げることができるよ!」
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
※ガジモンの召喚時効果が少し違ったので少し訂正しました。