ここはジークフリード校、今日は文化祭真っ只中だと言うのにもかかわらず、椎名と真夏の担任教師、空野晴太は生徒達の写真撮影を放ったらかして、ある人物とBパッドで通話していた。それは彼にとってはとても馴染み深い人物であって、
「…………え!?【ジャンクゾーン】に学園の生徒達が出入りしている?……………わかりました直ぐに俺も行きます」
驚きながらも、晴太は最後にそう言って通信を消した。そう言えばミスコンの途中で椎名がいなくなっていたことを同時に思い出す。晴太は何か関係があるのではないかと睨んだ。
その予想はほぼ的中している。何がどうあれ、晴太もその知人と共に無法地帯、【ジャンクゾーン】へと早急に赴いたのであった。
******
「………真夏、………兄ちゃん連れて早く病院に行って」
「え!?」
場所は変わり【ジャンクゾーン】。Bパッドを展開し、「バトルしろ」と言わんばかりに突きつけてくる夜宵を見ながら椎名は真夏にそう言った。
真夏はその言葉に困惑する。
「で、でも」
「大丈夫、………夜宵ちゃんは私が止める」
「……………わかった、………必ず無事でおりや」
「………オッケー」
真夏は正直椎名のことが心配で仕方なかったことだろう。そもそもそれが目的でここまで来たのだから。
だが、同時にこんな状態である自分の兄も放っておけるわけがない。最悪ここには司もいる。ここは彼に任せようと思い、真夏は疲れ切ったヘラクレスに肩を貸しながらこの場を離れた。
この【ジャンクゾーン】の広場で、椎名、司、夜宵の3人だけとなった。
「………いいのかめざし」
「?」
「夜宵はどう言うわけか、お前に【オーバーエヴォリューション】を引き起こさせようとしている………バトルすればあいつの思うツボだ」
「……………そうかもね、でも私がここで夜宵ちゃんを止めないと今度はヘラクレス以外の別の誰かがあんな目にあうかもしれない……………だったら私がそれを止めないと」
司が椎名にそう言った。そうだ。【オーバーエヴォリューション】はバトルの最中にしか起きない。司の言う通り、夜宵とバトルしてしまえば彼女の思うツボなのだ。
だが、同時に椎名は感じていた、自分の責任を。自分という存在のせいで真夏の兄が、ヘラクレスがあそこまでひどい怪我を負ったことを。
そうだったのなら間違っていてもここで夜宵を止めないといけない。
司も本当はこれを止めたかったことだろう。だが、仮に自分が夜宵とバトルしようとしても既に覚醒済みの自分では夜宵はバトルしたがらない。どうすることもできなかった。今はただそれを見ることしか、
「勝負だ夜宵ちゃん!お望みであれば【オーバーエヴォリューション】なんていくらでもやってやる!私が勝ったらもうこんなことは二度としないって約束して!」
「あら、覚醒してくれるの?嬉しい……………じゃあ始めましょうか」
椎名もBパッドを展開した。デッキを置き、デジタルコアも出現させ、始まる。2人の二度目のバトルが、
「「ゲートオープン!!界放!!」」
始まった。
ー先行は椎名だ。
[ターン01]椎名
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札に4⇨5
「メインステップ、ガンナー・ハスキーを2体召喚してターンエンド」
手札5⇨3
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨2
ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(回復)
ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(回復)
バースト無
現れたのは2匹の猟犬のようなスピリット、ガンナー・ハスキー。その背には拳銃を所持するために青い筋肉質な腕が生えている。
先行の第1ターン目などやれることが限られてくる。椎名はこれだけでターンを終え、夜宵に渡した。
[ターン02]夜宵
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、ネクサス、No.3ロックハンドを配置してターンエンド」
手札5⇨4
リザーブ5⇨1
トラッシュ0⇨4
No.3ロックハンドLV1
バースト無
夜宵の背後に巨大な手の形をした山々が連なる。これは夜宵のデッキにとってはなくてはならないネクサスカードであって、
だが、それを配置することにより、次のターン椎名の速攻を受けることは承知していた。
[ターン03]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨3
トラッシュ2⇨0
「メインステップ、猪人ボアボアを召喚!」
手札4⇨3
リザーブ3⇨0
トラッシュ0⇨1
椎名がメインステップに入るなり颯爽と呼び出したのは猪頭の獣人、ボアボア。武器として鎖付きの鉄球を所持している。
「アタックステップ!」
椎名はアタックステップに入る。夜宵を元に戻すため、フルで、全力でアタックを仕掛ける。
「夜宵ちゃんにとって!……そんなにお父さんの願いが大事なのッ!?」
椎名の言葉と共に2体のガンナー・ハスキーが走り出す。狙うは夜宵のライフ。
たしかに馬鹿げている。いくら実の父の願いを叶えるためとはいえ、ここまでのことを仕掛けるのは、椎名達側からしてみればまったくもっておかしなことであって、
だが、彼女の父、城門の願いこそ、自分たちの願いでもあるのだ。
「……………ライフで受ける」
ライフ5⇨3
ガンナー・ハスキー達の拳銃による乱射で夜宵はそのライフを2つも破壊された。
「…………ボアボア!」
猪人ボアボア(2⇨3)LV1⇨2⇨3
鎖付きの鉄球を投げ飛ばすボアボア。その効果でレベルとコアを増やした。
そして夜宵はそれをライフで受けると共に語った。父、城門の願いを、それが自分たちにとってどんなに大切かを、
「………ライフで受ける」
ライフ3⇨2
ボアボアの鎖付き鉄球が夜宵のライフを1つ粉々にした。
「…………簡単なことよ、父である城門の願いこそ、私たち姉妹の願いでもあるのだから」
「……………!?」
夜宵はその口からその欲望を語った。それは椎名と司を驚愕させるにはあまりにも十分すぎるものであって、
いや、それは普通の反応であっただろう。どうしても一般的な考え方とは思えない。
ーそれは、その内容とは、
「………………私の母、………【紫治亜槌(しちあずち)】をこの世にもう一度生き返らせること…………」
「……………え」
「…………何言ってんだ夜宵………!?」
そう、その願いとは紫治城門の妻であり、夜宵、明日香姉妹の実の母である【紫治亜槌】の蘇生。
【紫治亜槌】は10年前、交通事故でその命を落としている。
人が生き返るなど、正直馬鹿げている。思わず呆気に囚われる椎名達。だが、それを話している夜宵の目は明らかに嘘をついていない。本気である。
「…………お母様を蘇らせるためにはあなた達オーバーエヴォリューションに目覚める3人の力が必要なの」
「………………3人?」
司はその夜宵の発言に考えさせられた。【3人】という単語に、今、間違いなく狙いは自分とこの芽座椎名だ。つまり後1人いる。オーバーエヴォリューションに目覚める者が、
ヘラクレスか、いや、違う、それなら夜宵が間違いなくあんな簡単に逃がしたりはしなかっただろう。だったら、考えられる人物はただ1人…………
「…………雅治!」
「そう、流石司ちゃん、後1人は雅治君。姉に任せているわ」
「…………あの時のあいつか」
最初から狙いは自分と椎名と雅治の3人であることに気づいた2人。
「夜宵ちゃん!だったらなんで何も言ってくれないの!?事情さえ知ってれば協力だったらいくらだってするのに!!」
死んだ人は二度と動かないし、蘇らない。それは生き残った家族や友人達にとっては苦痛である。それが実の母であったのならその夜宵の心の傷というのは尚のこと深いことだろう。
椎名は母親の顔を知らない。ゆえにこの発言が出せるのだろうか。協力できるなら夜宵の母を生き返らせたい。そう思ったのだ。
だが、
「…………普通の方法じゃないんだろ?」
司がそう言った。椎名の発見に黙り込んだ夜宵を見て、悟ったのだ。大雑把だが、それがどんな方法か、
「………!?………どういうこと!?」
「人を生き返らせるほどだ、おそらく俺たちの命を代償にでも使う気だったんじゃないのか?」
「…………っ!?!そんな!?」
人の、生物の命はなによりも重たいものだ。それを蘇生するとするのならばそれなり代償がいると司は考えていた。
椎名も少し思い出した。ここに来た時、夜宵は椎名に【生贄に選ばれた】と言っていた。もしそれがそっくりそのままの本当の意味なら……………
「えぇ、代償はあなたたち3人の魂」
「………!?」
ビンゴだ。司の予想はほぼ的中している。代償は自分たち3人の命。それでようやく紫治亜槌が蘇るのだ。
椎名は心が苦しかった。どうしても夜宵に同情してしまう。自分だけの命だったらどれだけ良かったことだろうか、椎名は間違いなくこのことに雅治と司が絡んでなかったらそれが間違っているとわかってても自分の命を差し出したことだろう。
何せ、自分の命1つで夜宵の大切な人が生き返ってくれるのだから。
「長くなったわね、じゃあ、椎名ちゃん…………続きを」
「……くっ!……ターンエンド」
ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(疲労)
ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(疲労)
猪人ボアボアLV2(3)BP4000(疲労)
バースト無
椎名はやれることを全て失い、そのターンを終えた。
次は夜宵のターンだ。
[ターン04]夜宵
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
「ドローステップ時、No.3ロックハンドの効果、手札の呪鬼スピリットカード1枚を破棄することでその枚数を2枚増やす………オーガモンを破棄」
手札4⇨3⇨6
破棄カード
【オーガモン】
No.3ロックハンドの効果は強力なものだ。夜宵のデッキならばトラッシュに落ちたカードも無駄にはならない。
《リフレッシュステップ》
リザーブ5⇨9
トラッシュ4⇨0
「メインステップ、ピコデビモンをLV2で召喚………その召喚時効果でカードを1枚ドロー」
手札6⇨5⇨6
リザーブ9⇨4
トラッシュ0⇨2
夜宵がこのバトルで初めて召喚したのは小さなコウモリのような小悪魔、ピコデビモンだ。そのシキツル互換の効果でカードをドローした。
さらに夜宵はここからアタックステップへと移行する。いつもの動きだ。だが、これから行われるのはいつも以上に強力なものであって、
「ピコデビモンの【進化:紫】を発揮!………ピコデビモンを手札に戻し、紫の成熟期スピリット、デビモンを召喚!」
デビモンLV2(2)BP7000
リザーブ4⇨5
ピコデビモンはその0と1の自身のデジタルコードを変換させ、姿形を変えていく。そして新たに現れたのは悪魔のようなスピリット、デビモンだ。
「………………!!」
「アタックステップは継続!デビモンでアタック!」
その古びた黒い翼で飛び立つデビモン。そしてそのアタック時効果を発揮させる。デビモンの手に闇の瘴気が溜められ、それがとは放たれる。
「デビモンのアタック時効果でトラッシュのオーガモンをLV3で復活!」
オーガモンLV3(5)BP12000
その中から現れたのは鬼型の成熟期デジタルスピリット、オーガモンだ。その力強い腕で棍棒を構えている。
ここまではいつもどおりだ。いつもどおりの夜宵のバトルの仕方だ。だが、彼女も成長している。強くなっている。それはデビモンのもう一つのアタック時効果を発揮させれば直ぐにわかることであって、
「…………さらに私はデビモンの【超進化:紫】を発揮!」
「…………え!?」
「夜宵はランク2のはず……………」
そう、夜宵はランク2だった。昨日までは、昨日、ようやく認められたのだ。父である城門に、完全体までの使用が許されるランク3に、
城門の野望を果たすため、ということもあるのだろう。どちらにせよ司と椎名にとっては素直に喜べる状況ではない。
デビモンに暗黒の瘴気が取り付いていく。それは徐々にデビモンの姿形を変えさせていく。
ーそして新たに現れたのは、
「レディーデビモンを召喚!」
レディーデビモンLV2(2)BP7000
その姿はまさしく女性型デビモンと言ったところか、紫の完全体スピリット、レディーデビモンがその禍々しいオーラを隠すことなく場に現れた。
「………夜宵ちゃんが……完全体を…………」
これがこんな状況ではなかったらどんなに喜べたことだろうか、何せ夜宵はあんなに父に認められようとしていたのだから、椎名はそのレディーデビモンの存在に余計に心苦しくなってしまう。
だが、そんな椎名に構うわけもなく、夜宵は無慈悲にレディーデビモンの召喚時効果を発揮させる。
「レディーデビモンの召喚時効果、疲労状態の相手スピリット1体を破壊してデッキからカードを1枚ドローする……………ボアボアを破壊」
手札6⇨7
「…………!!」
レディーデビモンは登場するなり凝縮した闇のエネルギー弾をボアボアに投げ飛ばした。ボアボアはそれに直撃してしまい、耐えられるわけもなく爆発してしまった。
「そしてアタックよ!レディーデビモン!」
今度はレディーデビモンが飛び立つ。
椎名のスピリットは全て疲労状態。ブロックはできなかった。
「……………ライフで受ける」
ライフ5⇨4
レディーデビモンの凝縮されたエネルギー弾が、今度は椎名のライフを襲い、それを1つ破壊した。
「…………ターンエンド」
レディーデビモンLV2(2)BP7000(疲労)
オーガモンLV3(5)BP12000(回復)
No.3ロックハンドLV1
バースト無
夜宵はそれでこのターンを終えた。
次は椎名のターンだ。
「………………夜宵ちゃんは本当にそれでいいの?私たち3人を犠牲にしてお母さん蘇らせて…………それで」
「…………!?」
「…………私はお母さんがいないから正直わからないとこもあるよ…………でもやっぱり犠牲の上に立つ命は間違ってる!!」
「…………!!…………あぁ、もう…………うるっさいなぁ!!」
「私はこのバトルに勝って夜宵ちゃんにわからせる!命の重さを!!」
夜宵は椎名の言葉に苛立ちを覚えるかのように頭を掻く。
そして椎名はターンを始める。本気だ。本気で夜宵を倒しにいくと、今、誓った。
[ターン05]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ5⇨6
トラッシュ1⇨0
ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)
ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)
「メインステップ、バーストをセットして、ブイモンをLV2で召喚!」
手札4⇨3⇨2
リザーブ6⇨1
トラッシュ0⇨1
椎名の場にバーストが伏せられると同時に召喚されたのは小さな青き竜、ブイモン。額のブイの字を輝かせながらその召喚時を発揮させる。
「召喚時効果発揮!カードオープン!」
オープンカード
【猪人ボアボア】×
【マグナモン】○
効果は成功、椎名はマグナモンのカードを手札に加えた。だが、加えてすぐに進化はさせずに直ぐにアタックステップへと移行する。
「よし!マグナモンを手札に加え、アタックステップ!ブイモンでアタックだ!」
手札2⇨3
走り出すブイモン。だが、今の夜宵の場にはBPの高いオーガモンがブロッカーとして立っており、
「…………私がそんなこけおどしにかかるわけないでしょ!オーガモンでブロックよ!」
ここでブイモンのアタックをライフで受けて仕舞えば間違いなく【アーマー進化】による連続アタックをされてしまう。ならばと言わんばかりに夜宵はブイモンの相手にオーガモンを選択させた。
椎名は仕方なく手札のマグナモンの【アーマー進化】を使用させる。
「手札にあるマグナモンの【アーマー進化】を発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、黄金の守護竜!マグナモンをLV3で召喚!」
リザーブ1⇨0
トラッシュ1⇨2
マグナモンLV3(4)BP10000
ブイモンの頭上に黄金の鎧を着た卵がゆっくりと投下されていく。ブイモンはそれを受け入れるように衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化していく。そして現れたのはロイヤルナイツが一体、マグナモンだ。
「……………マグナモン…………ねぇ」
「マグナモンの召喚時効果!相手の場にいる最もコストの低いスピリット1体破壊する!コスト4のオーガモンを破壊!……………黄金の波動!エクストリーム・ジハード!!」
「………………」
マグナモンの全身から放つ黄金の波動が、瞬く間にオーガモンを包み込んでいく。オーガモンはそれを受けて耐えられるわけもなく、消滅してしまった。
これで夜宵の場のブロッカーは全て排除した。
だが、いなくなったオーガモンに気づき、レディーデビモンが動く。
「レディーデビモンの効果!自分のスピリットが効果により場から離れたなら、相手のスピリットのコア1つをトラッシュへ送る!ガンナー・ハスキー1体を消滅させるっ!」
「!?」
ガンナー・ハスキー(1⇨0)消滅
トラッシュ2⇨3
またまたレディーデビモンの凝縮されたエネルギー弾が、今度はガンナー・ハスキーに直撃する。ガンナー・ハスキーが耐えられるわけもなく、あっさりと消滅してしまった。
「くっ!…………でもまだ数は足りてる!残ったガンナー・ハスキーでアタック!」
消滅していない方のガンナー・ハスキーでアタックを仕掛ける椎名。だが、夜宵に抜かりはない。手札のカードを引き抜き、反撃に出る。
「フラッシュマジック!抜魂幻糸!この効果で相手のスピリットのコアを1つリザーブへ!残ったガンナー・ハスキーのコアをリザーブへ置き、消滅っ!」
手札7⇨6
リザーブ5⇨3
トラッシュ2⇨4
「!!」
ガンナー・ハスキー(1⇨0)消滅
天空から光を放つ糸がガンナー・ハスキーの背に突き刺さる。そのままその生命力を奪い取り、それを消滅させた。
「さらにこの効果でスピリットが消滅したならカードを1枚ドロー!」
手札6⇨7
次々と椎名のスピリットがやられたいく。少なくともこのターンで勝利は無くなってしまった。だが、諦めない。椎名はマグナモンで果敢にアタックを仕掛ける。
「まだまだぁ!マグナモン!!」
肩のブースターで空を飛ぶマグナモン。狙うは当然夜宵のライフだ。その強固な装甲はスピリットとブレイブのこれ一切の効果を通さない。
飽くまでもそれだけではの話だが、
「フラッシュマジック!ソウルコアを使って、封臨禍斬を使用!」
手札7⇨6
リザーブ3s⇨0
トラッシュ4⇨7s
「!!」
「この効果で疲労状態になった相手のスピリット、マグナモンを破壊する!」
地面に広がる闇の瘴気。それは瞬く間にマグナモンを引きずり込み、飲み込んでしまった。
マグナモンでさえもこの状況は突破できない。
「……………ま、マグナモン………」
「ふふ、耐性に過信しすぎじゃない?」
マグナモンはたしかに強力な耐性効果を所持しているものの、それが完全であるわけではない。マジックなどのカードで簡単に対処される可能性もある。
椎名は焦りからか、それが身にしみているのをすっかり忘れ去っていた。
「……………ターンエンド」
バースト有
バーストだけを残し、椎名はそのターンを終えた。次は夜宵のターンだ。
[ターン06]夜宵
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
「ドローステップ時、No.3ロックハンドの効果で手札の2枚目のオーガモンを破棄し、ドロー枚数を2枚増やす」
手札6⇨5⇨8
破棄カード
【オーガモン】
またオーガモンだ。2枚目のそれを破棄して、夜宵は手札を増やした。そしてスピリットを展開する。椎名の丸腰のライフを破壊するためだ。
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨8
トラッシュ7⇨0
レディーデビモン(疲労⇨回復)
「メインステップ、ピコデビモンを召喚!……さらに召喚時効果でカードをドロー」
手札8⇨7⇨8
リザーブ8⇨5
トラッシュ0⇨2
【進化】の効果により手札へと戻っていたピコデビモンが再度召喚された。その効果により夜宵は手札枚数を維持するが、それが仇となり、椎名のバーストが炸裂する。
「ここだ!相手の手札増加でバースト発動!グリードサンダー!!」
「!!」
「この効果で相手は手札を全て捨て、新たに2枚ドローしなければならない」
「………………」
手札8⇨0⇨2
青い稲妻が走る。それは瞬く間に夜宵の手札を捉え、大量のカードをまるごと破棄させた。手札とは可能性。それが少ないのは致命的だが、夜宵はもう手札などいらないと考えていた。それはこのメインステップ中で理由がわかることだろう。
「…………もう手札などいらないわ…………No.3ロックハンドのLVを2に上げる!」
リザーブ5⇨4
No.3ロックハンド(0⇨1)LV1⇨2
夜宵のロックハンドのLVが上昇する。そしてその効果も発揮させる。
「ロックハンドLV2の効果!ソウルコアを使用することでトラッシュから呪鬼スピリットを召喚する!…………この効果でデビモンを再召喚!」
リザーブ4s⇨0
トラッシュ2⇨4s
デビモンLV2(2)BP7000
「!!」
動き出すロックハンドの岩達、手の形をしたそれは地面をすくい上げる。そしてその手のひらにいたのはグリードサンダーによって手札から破棄されたスピリット、デビモンだ。再びそれがこの場に降り立った。
そして脅威のアタックステップが幕をあげる。
「アタックステップ!行きなさい!デビモン!そのアタック時効果でトラッシュのオーガモンを復活!」
No.3ロックハンド(1⇨0)LV2⇨1
オーガモンLV1(1)BP8000
再びデビモンはその闇の力を使用し、トラッシュからオーガモンを蘇生させた。
そしてそのまま椎名のライフを討つべく飛び立った。
「…………ライフで受ける!……………っ!」
ライフ4⇨3
デビモンの長い鉤爪の一撃が椎名のライフを1つ引き裂いた。
この時点で夜宵の合計スピリット数は4体。フルアタックで椎名のライフを全て破壊することが可能なのだ。
そのこともあってか、夜宵は何の躊躇もなく椎名のライフを破壊しに行く。
「次!オーガモン!!」
鬼型のオーガモンがその棍棒を振り回しながら椎名に迫ってくる。
だが、椎名とてただで負けるわけにはいかない。手札のカードを1枚引き抜きそのアタックを止めるべく使用する。
「フラッシュマジック!リアクティブバリア!!」
手札3⇨2
リザーブ6⇨2
トラッシュ3⇨7
「!!」
「この効果でこのアタックでアタックステップを終了させる!………オーガモンのアタックはライフだ!」
ライフ3⇨2
オーガモンの棍棒の一撃が椎名のライフに直撃し、それを1つ破壊するが、直前に椎名の放ったマジック、リアクティブバリアにより、その終わりに突如猛吹雪が立ち込める。夜宵の場のスピリットはこの吹雪の中ではアタックができない。
「くっ!しぶとい…………ターンエンド」
レディーデビモンLV2(2)BP7000(回復)
デビモンLV2(2)BP7000(疲労)
ピコデビモンLV1(1)BP1000(回復)
オーガモンLV1(1)BP8000(疲労)
No.3ロックハンドLV1
バースト無
夜宵は仕方なくそのターンを終えた。次は椎名のターンだ。
だが、椎名はその前に手ではなく口を動かした。
「……………やっぱ強いよ、夜宵ちゃんは…………スピリットを何度も倒しても直ぐに蘇らせちゃうし……………」
「……?………急に何を…………」
「でも人の命は紫のスピリット達みたいにポンポン蘇らせて良いものじゃないよ………………わかるでしょ?」
「!!」
椎名が夜宵に向けて話していることは紛れもない正論だ。それが全て正しい。いくら大切な人がいなくなったことが辛いとはいえ、人の蘇生など簡単にやってはならない。椎名の言う通り、紫のスピリットみたいに何度も復活したりはできないのだ。
ー受け入れるしかない。そんなことは初めからわかっている。だが、その思いを椎名に告げるのはまだ早い。夜宵はそう思った。
「私は夜宵ちゃんが好きだよ、…………私だけじゃない、司も雅治も、…………もう夜宵ちゃんには他にも大切にしてくれる人達がこんなにいっぱいいるんだ……………」
「………………」
もうやめてくれ、頭が痛い、泣きそうになる。夜宵はただただそれだけを考え、堪えた。わかっている。わかっているのだ。自分もこれまでの人生で出会ったみんなが大好きだ。それも紛うことなき本心だ。それがなければあんなアイドルじみた活動など続けたりしない。
「このバトル、私が勝ったら一緒にお父さんに言いに行こう…………もうこんなことやめようって…………きっと心の底からそれを伝えれば通じるよ」
椎名と司はもうとっくに気づいている。夜宵が本当はこんなことはしたくないことに。本当の脅威はおそらくその夜宵の心を縛り付けにしているであろう紫治城門だ。
だが、それでも必ず通じ合える。わかってくれる。椎名はただただそれだけを考えた。
ーそして、
「……………私のターン」
椎名が自分のターン宣言をすると同時にそのデッキが蒼い光で灯される。その光は今までのどの光よりも優しく澄んでいて、それでいて暖かい。その光を見て、椎名は驚きもせず、確信した。これは自分の【オーバーエヴォリューション】であると、
「…………めざしの【オーバーエヴォリューション】」
「…………本当に目覚めたのね」
「……………いくよ」
ー椎名はターンシークエンスを進めていく。
[ターン07]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
「ドローステップ………………」
手札2⇨3
椎名はゆっくりとその【オーバーエヴォリューション】で創生されたカードをドローした。
それはこれからの芽座椎名の生涯において、欠かせない存在となる新たなエーススピリットであって、
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨11
トラッシュ7⇨0
「メインステップ、エクスブイモンを召喚っ!」
手札3⇨2
リザーブ11⇨6
トラッシュ0⇨4
椎名がこのターン初召喚したのはブイモンの進化した姿である青き竜の成熟期スピリット、エクスブイモン。腹部のエックスの文字が特徴的。
さらにそのエクスブイモンが持つ手札の入れ替え効果で手札を整える。
「召喚時効果………デッキからカードを2枚ドローして、その後2枚捨てる」
手札2⇨4⇨2
破棄カード
【ブイモン】
【ガンナー・ハスキー】
手札を2枚引き、2枚捨てた。そしてそこには来ていた。この状況を一発逆転できるスピリットを出すためのカードが、
「さらにスティングモンを召喚っ!………召喚時効果でコアを1つブースト!」
手札2⇨1
リザーブ6⇨1
トラッシュ4⇨8
スティングモン(1⇨2)
「…………成熟期が2体……………まさか」
次に召喚したのは緑の成熟期スピリット、昆虫戦士のスティングモンだ。そのコアブースト効果は幾度となく椎名を手助けして来た。
そしてこの瞬間に司は気づく。椎名が何をしようとしているのか、察した。【オーバーエヴォリューション】によって創生されたのは間違いなく自分のシルフィーモンと同じ力を持つものであるということに。
椎名の新たなエーススピリットの誕生だ。
「このカードの【ジョグレス進化】を発揮!対象はエクスブイモンとスティングモン!2体を合体させ、新たなデジタルスピリットへと昇華させる!」
手札1⇨2
「……………来た……【オーバーエヴォリューション】のカード」
エクスブイモンとスティングモンは飛び上がり、衝突、混ざり合う。その互いのデジタルコードを合わせ、新たなるデジタルスピリットへと進化する。
「蒼き闘竜、勇猛な昆虫戦士が1つになる時、至高の竜戦士が姿を現わす!…………ジョグレス進化ぁぁぁあ!!」
その竜戦士の全長はエクスブイモンとスティングモンより頭1つ分は大きい。赤い仮面に一本ツノ、青と白の4枚の竜の翼、両腰に備え付けられた細長い2つの機関銃、そしてその身に甲虫の黒い甲殻を纏っている。
ーそう、それこそが至高の竜戦士。その名も………
「……………パイルドラモン!!」
パイルドラモンLV2(3)BP10000
パイルドラモンが椎名の場に君臨する。その存在感は他のどのデジタルスピリットよりも強い。圧倒的な強者のオーラが流れている。
「……………パイルドラモン……………これがお前の新しい力なのか…………めざし」
司は静かにそう呟いた。
そしてパイルドラモンの力が今、解き放たれる。
「パイルドラモンの召喚時効果!……コスト7以下のスピリット1体を破壊する!」
「……それだけ!?……ふふ、たかが1体失ったくらいで……………」
たしかに夜宵の言う通りこの局面では意味がないのかもしれない。しかもこの蘇生が得意な紫なら、
だが、それはパイルドラモンの効果テキストの一端に過ぎない。シルフィーモン同様【ジョグレス進化】時での召喚はまた別の効果だ。
「…………この時、【ジョグレス進化】によって召喚されていたらこの効果を全域に拡大させるっ!」
「っ!?…な、なんですって!?」
「……いっけぇ!!パイルドラモンッ!」
つまりは全てだ。コスト7以下のスピリット全てを破壊する。パイルドラモンはその両腰に備え付けられた機関銃を手に持ち…………
「殲滅の……デスペラードブラスター!!!!」
撃ちまくった。とにかくぶっ放した。その乱射の威力は凄まじい。レディーデビモン、ピコデビモン、デビモン、オーガモンを目にも止まらぬ速さで蹴散らし、爆発させてしまった。
「…………なんて破壊力……………」
そして椎名はアタックステップに移行した。バトルを終わらせるため、夜宵のため、自分のこの想いを全てパイルドラモンに乗せてアタックする。
「アタックステップ!パイルドラモンでアタックだ!」
走り出すパイルドラモン。
だが、
「無駄よ!私のライフは残り2つ!シンボルが1つしかないそいつのアタックではライフはゼロにされない!」
そうだ、この一撃では夜宵のライフを全て破壊することはできない。
飽くまで一撃だけではの話だが、
椎名はパイルドラモンの第2の効果を発揮させる。
「………パイルドラモンの効果!コアを2つパイルドラモンに追加し、ターンに1回だけ……………回復する!」
パイルドラモン(3⇨5)LV2⇨3(疲労⇨回復)
「………………っ!?」
パイルドラモンの効果だ。これで2度のアタックを可能にした。そして先ずは一撃目から
「……………ライフで受ける」
ライフ2⇨1
パイルドラモンのブラスターが今度は夜宵のライフを1つ粉々に粉砕した。
後1つ。これで終わりだ。夜宵ももはや抵抗するすべはない。椎名の勝ちだ。これで全てが終わる。
「これで最後だ!夜宵ちゃん!パイルドラモンでアタック!」
パイルドラモン(5⇨7)
パイルドラモンから再び放たれる銃撃。勝った。そう思った矢先だった。椎名の後方から聞き馴染みのある声が聞こえて来たのは……………
「椎名ぁあ!!やめろぉぉお!!このバトルを終わらせちゃダメだぁあ!!!!」
「………………え!?」
「…………雅治っ!」
その声の主は雅治。息を切らしながらも汗だくになりながらも、その喉を枯らすほどの声量を放った。
その背中におぶられているのは、気絶しているのか、そんな感じの女性がいた。それは夜宵の姉、紫治明日香だ。夜宵はそんな姉の姿を見て、彼女が役目を終えたことを察した。
必死にそのバトルを終わらせないようにしろと叫ぶ雅治。だがもう遅い、既にアタック宣言をしてしまったパイルドラモンの銃撃が、夜宵のライフにまっすぐ飛んでいく。
ーそして、
「……………ありがとう、椎名ちゃん………みんな……………ライフで…………受ける」
ライフ1⇨0
夜宵の最後のライフを撃ち貫いた。
ー椎名の勝ちだ。そして椎名達の目の前で信じられないことが突然起きる。
夜宵がその場で倒れてしまったのだ。Bパッドでのバトルでダメージなど発生しないのに、
椎名と司はそれを見るなり、思わずそこまで駆け寄った。
雅治はそれを見て「遅かった」と言って悔しむ顔を見せる。
椎名と司、雅治はこの後直ぐに紫治一族の野望の全貌を知ることになる。
3人だけかと思われた生贄。だがそれは少し違う。正確にはオーバーエヴォリューションに目覚めた者3人と蘇らせる人間の肉親が2人、計5人が必要なのだ。
紫治姉妹が口にした「全てはお父様のため」という言葉はそういうことだ。自分達を犠牲にしても父を幸せにしたいと言う意味合いが含まれていた。
ーそしてその光景を物陰に隠れ、密かに目を向けているものがいた。その者は不気味な笑みを浮かべている。
それはこの事件の全ての元凶…………紫治城門だ。
〈本日のハイライトカード!!〉
「はい!椎名です!今回はこいつ!【レディーデビモン】!」
「レディーデビモンは紫の完全体スピリット、召喚時に疲労しているスピリットを問答無用で破壊するよ!」
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
パイルドラモンはこれからフレイドラモンと共に椎名のデッキのエースを担うことになるので必然的に登場が増えます。