第36話「春より来たれ!黄金のパイルドラモン!」
蕾だった花は開花し、バトスピ学園、ジークフリード校の桜並木は美しい花道と化した。
この界放市にもやっと本格的な春がやってきたのだ。
そんな中、男としてはだいぶ小柄な体格で、新品の制服を着用し、そこに足を踏み入れる者が1人。
いや、それは1人ではないか、大勢いた。それは今年の新1年生だ。彼らはこの狭い門をくぐり抜け、とうとうこの学園に入学したのだ。
「に、入学しちゃった…………会えるかな?……椎名さんに」
その小柄な新1年生は少し照れながらもそう呟いた。まるで椎名のことを初めから知っていたかのような口ぶりである。数多くいる1年生の中でも、今回はこの少年に焦点が当てられる。
******
場所は変わり、ここは新2年生の教室。クラス替えのすぐ後である。
そしてこの1つの教室では、椎名、真夏、雅治、司、夜宵の姿が確認できる。彼らは今年全員が同じクラスになったのだ。ちなみに担任の教師は空野晴太だ。現在は暇な休み時間であり、その教室でゆっくりと立ち話をしていた。
「はっはっは!いや〜〜よかったよみんな同じでさ〜〜!」
「お前と一緒じゃなければ俺はそれでよかった」
「なにを〜!?」
「ふふ、じゃあ私とはよかったの?司ちゃん?」
「……キモいからやめろ」
5人のうちでそう話したのは椎名、司、夜宵の3人。司は本当に椎名とは同じクラスにはなりたくはなかった。単純に彼女がうるさいからである。とは言ったものの、司は必要はないと思った大抵の授業はサボるのだが、
「2年生ともなると、勉強もやること増えるよね、修学旅行とかもあるし」
「せやな〜〜こりゃ忙しいで」
そう言ったのは大人しそうな印象のある雅治と関西出身の女の子、真夏。
雅治の言う通り、バトスピ学園は2年生になってからが本当に忙しい。参加しなければならない行事もたくさん増えるし、なにより勉強量が格段に増える。
「はぁ〜〜めんどくさ…………………ん?」
勉学が苦手な椎名はそのアホ毛ごとしおれるようにそう呟いた。
そしてそれと同時に椎名はあることに気がつく。椎名は雅治に詰め寄り、その目の前でぐるぐると回り、雅治を隅々まで見回った。
「…………え?」
「むむむむむむむむ…………むー?」
その距離感の近さに思わず雅治は顔を赤く染めた。いったい何事であるのか、と。言わんばかりに。
が、その理由はすぐにわかった。
「雅治さー………背……伸びてない?」
「………え?」
咄嗟のことに、期待してしまった自分は馬鹿だと何度も思ってしまった雅治。まぁ、別にやましいことなど何も考えてはいなかったのだが、
そう、椎名が気にしていたのは身長。入学当初、椎名と雅治はほぼ同じ身長であった。その分誰よりも気づくのが早かったのかもしれない。椎名の目線はもう雅治の口下あたりにまで下がっている。
「あ、……あーーまぁ、ちょっと伸びたかも、確か春休み前に測った時は【165】だったかな?」
「全然ちょっとじゃないよ!………いいなぁ!!どうやってそんな伸びたの!?私なんかほとんど伸びなかったんだよ〜〜!?」
「そりゃ、普通男と女じゃ伸び方が違うだろう、女は大抵ここら辺で止まるぞ」
雅治の身長を羨む椎名に、それに付け加えるように軽く説明した司。
椎名は入学した時は【156】。1年後となる現在は【157】。
ーその差、わずか1センチである。
そしてここで椎名はまたあることに気づいた。それはとても信じ難く、認めたくはない真実であって、
「っ!?あれ、ちょっと待って、真夏はどんくらい?」
「私は【162】くらいやで」
「夜宵ちゃんは?」
「【169】だけど………」
「つ、司は……?」
「【175】だ」
「………………わ、私が一番ちっちゃい…………」
椎名はその場で膝と掌をつき、項垂れた。些細な問題ではあるが、なんか嫌だった。この中で一番小さいのが、
彼女のいた故郷の孤児施設は自分より年齢が低く、身長も小さい子供達ばかりであったためか、今まではわりかし高い方であったが、同い年ばかりが集まる学園ではそうはいかなかった。
実際は背がそこまで低い方というわけではない。ほぼ成人女性の平均くらいである。だが、あまりにも周りの人間が大き過ぎる。
「ま、まぁ大丈夫よ!椎名ちゃんは…………………………………………ほら!器が大きいじゃない!体が小さいからって気にすることじゃないよ!」
「や、夜宵ちゃ〜〜ん」
「今結構間があったよな」
夜宵の助け舟に椎名は涙を流しながら振り向く。まるでこの場に女神でも目の前に降り立ったかのように。
司は結構考えてから物を言った夜宵に軽くそう呟いた。
******
そんな話はさて置きだ、ここは校内の桜並木道。ここでは無数の部活動が、新一年生を入れまいと押し寄せていた。
バトスピ学園の部活動というのは、他と比べると異様に数が多い。「野球」や「サッカー」「バスケットボール」など、メジャーなものも多いが、
「…………そこの少年!!!我らが部活動!【筋肉部】へと来ないかい?」
「……………へ?」
小柄な新1年生男子の目の前に現れたのはなんとも学生離れした筋肉の持主。
そう、彼こそは3年、筋肉部の部長【益 流央(ます るおう)】である。日々鍛え上げた筋骨隆々な肉体で、数々のボディビル大会で優勝している屈指のボディビルダーである。バトスピが全てのバトスピ学園の生徒であるのにもかかわらず、だ。
そして【筋肉部】はそんなマッシブな男達の集まりであって、
「あ、いや、僕あんまり筋肉は………」
「そんなの鍛えなければわからないさ!!頑張れば私みたいになるかもしれないぜ!!never give up!さ、少年!」
「え?え〜〜!?」
流央は無理矢理その男子生徒の手を掴み、部室へ連れて行こうとする。男子生徒も必死に取り払おうとするが、筋肉量が違いすぎる。その手は一向に離れない。
ーはずだった。1人の2年生がその場に現れるまでは……
「あのー、すみません……手、離してあげましょう」
「「!?」」
現れたのは椎名だ。椎名は静かにそう言いながらも、その手を軽い力で引き離した。
2人は驚いた。それもそのはず、何せ、流央の強靭なる肉体で掴んだものを軽々と、この椎名が引き離したのだから、あんな細腕にどれだけの力が宿ると言うのか。
「あ、あなたは!!!椎名さん!」
「……ん?どっかであった?」
小柄の男子生徒は椎名の顔を見るなり、それを喜んだ。椎名を知っているのは今となっては珍しいことではない。何せもう椎名は有名人なのであるから、だが、その男子生徒の言い草は、どこかで一度椎名とあったかのようなものであって、
「………あっ!君は…………」
「思い出してくれましたか!!」
と。男子生徒は思ったのだが、やはり椎名は椎名であって、
「……私より背が低いねぇ!!」
「ズコーーーーー………本当に忘れちゃったんですか!?」
「むむむむ」
思わずその場で大きくずっこけてしまった。普通今それを気にするかと思われたが、
椎名はさっき身長の話で自分が一番小さかったのが未だに頭に残っており、その直後に自分より小さいその生徒を見て、思わずそれが先に口走ったのだ。彼が誰なのかまだ思い出してはいない。
「なるほど………君があの【蒼龍の舞姫】の…………良い………」
「……え?」
椎名はやけに悪寒がした。背筋が凍りつくようなそんな感じだ。
そして流央は椎名に提案した。
「よし!こうしよう!椎名さん!君が勝ったらその少年をを諦めよう!だが、私が勝てば……………」
「か、勝てば……!?」
「君を筋肉部のマネージャーにする!」
「えーーー!?やだ〜〜!!」
すっかり椎名に惚れ込んだ流央は椎名までもを巻き込む。ほぼ無理やりに。だが、椎名もバトルを挑まれて黙っている腹ではない。申し出自体は承諾した。
「す、すみません、椎名さん、また僕のせいで巻き込んでしまって…………」
「いやいや、いいのいいの………あれ、なんか前もこんなのあったような……………」
まぁ、今はそんなこと気にしても居られないか、3人は第3スタジアムに移動し、椎名と流央はBパッドを展開した。
「よし!行こうか!」
「オッケーですよ!」
「「ゲートオープン!!界放!!」」
椎名と流央のバトルが始まる。
ー先行は流央だ。
[ターン01]流央
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「さぁ!メインステップ!ネクサス!百識の谷でも配置しましょうかね!」
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨4
流央が初ターンで配置したのは大きな谷。その中は暗く、光も届きそうにない。
赤属性のデッキでは割と定番のネクサスでもある。
「ターンエンド!」
百識の谷LV1
バースト無
流央はそれだけでこのターンを終えた。次は椎名の番だ。
[ターン02]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ!先ずはこれだ!ズバモンを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨4
「ッ!?……」
椎名が召喚したのは黄金に輝く鎧を着た成長期のスピリット、いや、ブレイブ。ズバモンだ。そのひらひらと靡くマントは他の成長期よりも一風変わった印象を与える。
「さらにアタックステップ!その開始時にズバモンの【進化:全色】を発揮!これを手札に戻し、緑の成熟期スピリット、スティングモンをLV1で召喚!」
スティングモンLV1(1)BP5000
ズバモンは登場してから早々にその身体をデジタルの粒子に変換させ、椎名の手札へと戻る。その代わりに椎名の手札から現れたのは緑の成熟期スピリット、スマートな昆虫戦士、スティングモンだ。
「スティングモンの効果でコアを1つブースト!」
スティングモン(1⇨2)
スティングモンにコアの恵みが与えられた。
「…………スティングモン………良い筋肉だが、太さが足りんな……」
流央はスティングモンが登場するなり、自分の筋肉とそれを比較した。椎名はそんなどうでも良い事は無視して先を行く。
「さらにアタックステップは継続!スティングモンでアタック!効果でまたコアを増やすよ!」
スティングモン(2⇨3)LV1⇨2
走り出すスティングモン。その効果でまたコアが増え、スティングモン自身のLVも上昇した。
「むむっ!そのアタックはライフで受けよう!……………ぐおっ!」
ライフ5⇨4
スティングモンの俊敏な動きから放たれる拳は、瞬く間に流央のライフを叩き壊した。
「よっし!ターンエンドッ!」
スティングモンLV2(3)BP8000(疲労)
バースト無
後攻の第1ターン目からスティングモンでコアを増やしつつ殴るのはなかなか良い動きと言える。
椎名はやれることを全て失い、そのターンを終えた。次は流央のターンだ。
[ターン03]流央
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
「ドローステップ時!…百識の谷の効果でドロー枚数を1枚増やし、1枚捨てる!」
手札4⇨6⇨5
破棄カード
【ソウルオーラ】
百識の谷の効果だ。この効果でより質の良い手札へと向かうことができる。
そして、このターン。流央は序盤では質の高いスピリットを召喚する。
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨6
トラッシュ4⇨0
「メインステップと行きますかな!……ダークティラノモンをLV2で召喚!」
手札5⇨4
リザーブ6⇨0
トラッシュ0⇨3
「!!」
百識の谷から飛び降りてくる謎の黒い恐竜のような影、その正体は黒い赤の成熟期スピリット、ダークティラノモン。それが彼の場に降り立った。その唸るような咆哮はその場を震撼させた。
「おおっ!黒い恐竜!」
「ふふ、マッシブな私らしいスピリットであろう!………アタックステップ!ダークティラノモンでアタック!」
ダークティラノモンBP6000⇨9000
ダークティラノモンの姿にはしゃぐ椎名。だが、バトルはその時間を長くは与えてはくれない。流央のダークティラノモンが走り出してくる。
「ライフで受ける!」
ライフ5⇨4
ダークティラノモンの鉄より硬そうな鉤爪が椎名のライフを1つだけ綺麗に切り裂いた。
これでライフの差は互角となる。
「ターンエンドッ!!まだまだこんなものじゃないぞ〜〜!!次のターンから私の怒涛の攻めが幕を開ける!」
ダークティラノモンLV2(3)BP6000(疲労)
百識の谷LV1
バースト無
ダークティラノモンを召喚してからと言うもの、えらく自身を上げてきた流央。だが、思い知ることになる。次の自分のターンが回ってくる前に。
自分がどれほどの相手に戦いを挑んだかということが、
「…………ふふ、次が来ればね〜〜」
「ッ!?」
流央は椎名のその発言には流石に驚きを隠せなかった。
まるで自分に次のターンを回ささせないかのような言い草であったからだ。まだライフ4つも残っている自分のライフを全て破壊しようと言うのか、そんなの信じがたい。今いるスティングモンの他に、次のターンで3体揃えるというのか、
だとしたらどちらにせよ自分のライフはゼロにされない。手札にはBP7000以下のスピリットを一層できる赤のマジックカード、【フレイムテンペスト〈R〉】があるからである。
しかし、椎名はそんな流央の予想を遥かに上回る。
[ターン04]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
「ドローステップッ!!…………よし!」
手札4⇨5
椎名はドローした。このタイミングで最高のカードを。このターンで流央のライフを全て破壊するカードを引き当てた。
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨6
トラッシュ4⇨0
スティングモン(疲労⇨回復)
「メインステップ!……先ずは手札に戻ったズバモンを召喚して、スティングモンと合体だ!」
手札5⇨4
リザーブ6⇨3
トラッシュ0⇨3
椎名は前のターンで【進化】の効果により手札に戻っていたズバモンを召喚し、スティングモンと合体。
ズバモンが生物としての機能を失い、そのアーマーだけが残る。それがそのままスティングに装着されて行った。スティングモンは黄金の鎧を身に纏う。
「……アタックステップ!スティングモンでアタック!」
スティングモン+ズバモン(3⇨4)
椎名はアタックステップに入り、ズバモンと合体したスティングモンでアタックする。そしてこの時、スティングモンのコアブースト以外の効果が発揮される。
それが今回の勝利への鍵の1つとなる。
「そしてこの瞬間!スティングモンの持つ【超進化:緑】を発揮!これを手札に戻し、緑の完全体スピリットを召喚するっ!」
「なぬ!?」
スティングモンのデジタルコードが変換されていく。その際に合体していたズバモンがそこから抜け出すかのように元に戻る。
そしてスティングモンのコードが変換され、新たに現れたのは…………
「至高の竜戦士、パイルドラモンをLV3で召喚っ!」
リザーブ3⇨2
パイルドラモンLV3(5)BP13000
「………す、すごい………」
椎名の場に登場したのは彼女のエース、パイルドラモン。青と白の羽を広げ、腰の装着された2つの機関銃を構えている。
新一年生の少年はただただその姿に感動していた。なんと優雅な姿なのだろうか、と。
「そして、この時、ズバモンの効果でパイルドラモンと直接合体!」
パイルドラモン+ズバモン
「…………!?」
ズバモンが再びその姿を変形させ、今度はパイルドラモンに装備されていく。パイルドラモンは先のスティングモン同様、黄金の鎧をその身に纏った。
そして、椎名は行く、このバトルのトドメをさしに。
「パイルドラモンの召喚時!……コスト7以下のスピリット1体を破壊する!…………対象は当然ダークティラノモン!……いけぇ!デスペラードブラスター!」
「!!ダークティラノモン!!」
パイルドラモンの腰に装備された機関銃の2つのうちの1つから発射されたビーム光線が、流央のダークティラノモンを貫いた。ダークティラノモンがそれに耐えられるはずもなく、呆気なく破壊されてしまった。
「次はアタックだ!パイルドラモンッ!!」
走り出す黄金のパイルドラモン。現在はズバモンとの合体している状態であるので、現在は青と赤のダブルシンボルである。この一撃で2つのライフを破壊することができる。のだが、
「ハッハッハ!このターンで倒す!?残念でしたなぁ!たかがシンボル2つではこの流央のライフを全て破壊することはできませんぞ!!」
それを咄嗟に理解した流央はついつい椎名に対してそういう言葉が出てきた。
ーだがしかし、椎名に抜かりはなかった。
「ふふ、……パイルドラモンのアタック時効果!…コアを2つ自身に置くことで、ターンに1回、回復する!……エレメンタルチャージ!!」
パイルドラモン+ズバモン(5⇨7)(疲労⇨回復)
「…………………あえ?」
パイルドラモンに光が集約して行く。やがてそれはパイルドラモンを回復させる力となる。
パイルドラモンは回復した。これで2度の攻撃を可能にした。計算は簡単である。2足す2は、4だ。
「…………う、嘘だ!」
「本当だ!いけぇ!パイルドラモン!!2連撃アタック!!」
「…………う、……うぉぉお!!」
ライフ4⇨2⇨0
一瞬のうちに流央との間合いを詰めたパイルドラモンが通り過ぎるようにライフを一気に4つも引き裂いた。
早業、神業とでも言うべきか、椎名はこのバトルを僅か4ターンと言う最速のスピードで、あっという間に終止符を打ってしまった。
ー【芽座椎名】
一年前、この界放市の街に突如として現れたこの少女は、その実力と才能を徐々に徐々にと伸ばしていっていた。
もはやこの界放市の生徒達の中で、彼女に勝てる可能性があるとすれば、赤羽一族の末裔で、10年に1人の天才的な赤バトラー【赤羽司】くらいであると言われていた。
そこまで言わしめるほどに、椎名はより強く、逞しく、大きく成長していた。身長以外。
「…………ば、バカなぁ、たった4ターンで…………ま、マッシブじゃない……」
流央はひどく落ち込んだ。たしかにいくら実力差があるとは言え、ここまでの格の違いがあるとまでは思わなかったことだろう。
「あ、あのう………す、すみませんでした!」
バトルが終わり、その小柄な新一年生は申し訳ないと感じていたのか、Bパッドをしまう椎名に向かってそう言いながらお辞儀をした。それには感謝と感激の念を含まれている。
「ん?あぁ、いやいやぁ、いいのいいの、この学校、結構変な人多いから気をつけてね〜〜」
そう言って椎名はスタジアムから去ろうとする。
だが、
「あ、えぇっと、僕のこと覚えてませんか!?」
少年は切羽詰まったような表情を見せながらそう椎名に言った。
椎名はその言葉に反応して、振り返り、その少年をジロジロと見つめた。だが、なかなか少年のことを思い出せない。
「むむ〜〜??」
「ぼ、僕のデッキ………悪そうな人から取り戻してくれましたよね?……」
「……デッキ…………悪そうな人?………………んーーーー…………あ」
「デッキ」「悪そうな人」「取り戻した」その単語が椎名の頭に入り込んだ時、その中で全てが繋がった。
そうだ。この少年は……………
「あ、あ〜〜!!!!君あの時のぉ!!?」
椎名はその口を大きく開けて驚いてみせた。
そう、その正体は【毒島富雄】にデッキを奪われかけて、椎名がそれを取り戻し、助けた人物。あの時の少年であった。先入観とは酷いもので、その時の少年の背の低さから、椎名は1つ違いであるとは思ってもいなかった。そのため、思い出すに至らない1つの要因となっていたかもしれない。
「や、やっと思い出してくれた!そうです!僕はあの時、あなたに助けてもらった………………名前は【英次(えいじ)】って言います!これからもよろしくお願いします!椎名さん!」
英次は椎名が自分のことを思い出してくれたのが嬉しかったのか、先ほどの弱気な感じとはうって変わって元気よくそう言った。
「春」とは出逢いと別れの季節。別れがあれば必ず新たな出会いがあるものだ。椎名はこの年、この春、この日、この時、大事な後輩となる英次と初めて互いに面識を得たのだった。
〈次回予告!!〉
「椎名です!新学期になって後輩もできて幸せ〜〜!!なんて考えてるのは私だけ?……意外と言うか、やっぱりと言うか、生意気な後輩もいるんだよね〜〜……司!そんな奴コテンパンにしちゃってよ!…次回、「司からの洗礼、唸るトップガン!」……今、バトスピが進化を超える!」
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
これから更新していく第2章の物語を存分にお楽しみくださると幸いです!
しばらくはまた平行線で日常回をお送りしていく予定です。