バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

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第38話「真夏と夜宵!友達の……友達は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

今は朝のホームルーム前、椎名、真夏、夜宵の女子3人組はいつものように教室までの廊下を歩いていた。

 

丁度学園の予定などを掲載する掲示板を通り過ぎる時だ。そこには大きな人だかりができていた。椎名たちは少し気になり、それをみることにした。

 

椎名が1人でその人だかりを翳り抜けていき、その掲示板に書かれていることをその目で確認して来た。そして真夏と夜宵のいる場所へと戻る。

 

 

「…………今月の代表バトル……真夏と夜宵ちゃんだってさー!」

 

 

椎名が掲示板に書かれていたことを元気な声で読み上げた。

 

【代表バトル】バトスピ学園ジークフリード校では毎月当然のように行われるこの行事。丁度1年前では椎名と司がバトルをした。バトルの成績が良い上位2名が基本選ばれるのだが、そうと言うわけでもない。実際には学園の教師達がそれにふさわしいか否かを決めて判断し、決定されている。そんな中、今回は夜宵と真夏が選ばれた。と言うことだ。

 

ちなみに試合は明日だ。

 

 

「へ、へ〜〜…………そなんや」

「が、頑張るね…………」

「………………?」

 

 

そんな真夏と夜宵の反応は意外にも少々ぎこちなかった。代表バトルに選ばれるのは凄いことで、選ばれて素直に喜ばない人はいないはずなのに。

 

なんというか、椎名から見てみれば、顔の表情が固い、何かあったのだろうかと勘ぐってしまうほどに。

 

だが、別に椎名が気にすることではない。そう思っていた。

 

ーしかし、その理由はどちらにせよ放課後に知ることになる。

 

 

******

 

 

 

「…………で、話ってなに?」

「…………」

 

 

ここは喫茶店。学生が放課後に至福のひとときを過ごす場所といっても過言ではない。

 

放課後、なぜか椎名は真夏に話があると言われ、この喫茶店に足を運んだのだ。

 

あの真夏が場所を変えてまで自分に話したいことがあると言うのは椎名としても少々気になっていた。

 

 

「………え、え〜〜っとな、夜宵のことやねん」

「?……夜宵ちゃん?」

 

 

真夏は夜宵のことを話題にあげた。意味のわからない椎名は首を傾ける。

 

 

「なんていうか………あの娘、ちょっと分からん言うか、気まずい、ちゅうか、どう接していいか分からんねん…………いつもはあんたを経由してどうとでもなっとったけど、バトルとなるとな〜〜、なにを話してええか…………」

「……………?」

 

 

たしかに椎名、司、雅治は以前の出来事などで夜宵とより多く関わって来たが、真夏はあまり夜宵自体と関わってはいなかった。どう話していいかわからないと言う感情はよく考えたら当たり前のことだった。

 

真夏とて夜宵と仲良くしたくないわけではない。半年前の事件の真相もその時の彼女が何を思っていたのかも椎名から聞いて知っているし、同情もしている。寧ろ仲良くなりたいのだ。

 

だが、初対面の相手でもなんの隔たりもなく話してくる椎名にはその真夏の気持ちに一切の理解ができなかった。なにも考えずに生きているがゆえなのか、器が大きすぎるゆえなのかは定かではないが、

 

 

「……え〜〜……そんなのバトルしてればそのうちどうとでもなるんじゃない?」

「適当なこと言うなや!」

「……えぇ!?なんで怒るのぉ!?」

「…………はぁ、バトルしてればて、アホすぎるやろ。あんたに聞いた私が馬鹿やったわ、……もうええ、どうにでもしたるわ」

「え?……あれ?真夏ぁ?」

 

 

そう言って、真夏は適当な椎名に呆れてその店の喫茶店から出ていってしまった。

 

椎名とて適当ではない。数少ない友達がここまで真剣に相談してくれたのだ。自分なりに真摯に受け止め、接したつもりだった。

 

いったい何が気に障ったのか椎名には分からなかった。

 

 

「?……なんか悪いこと言ったかな?………………ん?」

 

 

そんな時だった。真夏が出ていった途端、椎名の鞄から自分のBパッドの着信音が鳴り響いた。

 

ー夜宵からだ。椎名は何事かと思い、それに応じた。

 

 

「夜宵ちゃん?……………はいもしもし?」

〈あ!椎名ちゃん!?今、時間いいかな?話したいことがあるんだけど、……学園近くの喫茶店に来れる?………〉

「ん?…………まぁ、いいけど……………」

 

 

学園近くの喫茶店は2つある。ここに夜宵がいないと言うことは夜宵は残った喫茶店にいると言うことになる。

 

椎名はそこへと足を運んだ。

 

 

******

 

 

「………で、話ってなに?」

「……………」

 

 

デジャヴだ。間違いなく。しかもさっきとほとんど変わらない絵面で、夜宵はその口を開いて椎名に相談した。

 

 

「…………その、真夏ちゃんって、どんな娘かな?って思って………ほら、明日私達で代表バトルするじゃない?でもなんか未だに気まずいと言うか、なんというか、仲良くはなりたいんだけどね、」

(……………ま、またっすか……)

 

 

椎名は思わず心の中でそう考えてしまった。

 

まさか真夏だけにあらず、夜宵までそんなこと気にしていたとは、椎名とて思ってもなかったことだろう。

 

 

「…………いや、そうだね、真夏はなんかこう、………「なんでやねん!」って感じ?かな?」

「…………すごい雑だね………」

 

 

椎名は頭が悪い。がゆえに急に真夏がどんな娘かと聞かれても自分の言葉にすることができないのだ。結果、支離滅裂な発言につながる。

 

それでも椎名はなんとか真夏に言った同じ言葉で励ましていく。

 

 

「……………夜宵ちゃん、そんな気にすることないって!明日バトルするんでしょ?バトルしていくうちにそんなの慣れてくるって!」

「……………はぁ、そうかな?椎名ちゃんはいいよね、…………単純だから」

「………………ぐっ!?」

 

 

個人的に頑張って励ましたつもりだったが、夜宵から帰ってきた言葉は予想以上に棘があるものであった。

 

そしてこの瞬間、椎名は今までのことを振り返った。

 

今まで椎名は、自分と真夏、夜宵のことを仲良し3人組だと思っていた。が、それは飛んだ思い違い、実際のところは全て自分がその間に入って話していただけだ。

 

 

(こ、この2人………そんなに仲良くなかったのか〜〜!?)

 

 

だが、それでもやっぱり、椎名は「バトルすればそのうち仲良くなれる」そう考えていた。

 

ーそして翌日、ジークフリード校で今年は初の代表バトルが始まる。

 

 

******

 

 

「………………」

「……………」

 

 

第3スタジアム。ここのバトル場で今回は行われるのだが、真夏と夜宵はバトル場で向かい合ってもなにも話さない。お互いだんまりとした状態が続いていた。

 

 

「な、なんであの2人なにも喋らないの?」

「……………ま、まぁ色々あってね」

「…………?」

 

 

観客席にいるのは椎名と雅治だ。ちなみに司はサボり。雅治は椎名の言葉とこの今の妙な空気に困惑していた。椎名も額と頬から流れ出てくる冷や汗が止まらない。

 

 

「あ、あの〜〜真夏ちゃん、今日はよろしくね!」

「お、おお、そやね、よろしゅうな」

 

 

夜宵がなんとかその均衡を破るが、その程度のことで仲が親交するわけでもなく、ただBパッドが展開され、バトルの準備が進んだだけだった。

 

夜宵はその頭をフルで回転させ、なんとか話題を考える。こんな状況でバトルするのは流石に嫌なのだろう。

 

ーそして1つあった、話せる話題が、しかもかなり良さげな、

 

ーだが、それは、

 

 

「…………あ、……そう、光栄です!あの【ヘラクレスの妹さん】とバトルできるなんて!」

「………………あぁん?」

「…………あ、あれ?」

 

 

夜宵はしくじった。そう思えるくらいの雷が頭に落ちてきた。さっきまで苦笑いだった真夏の顔が鬼のように急変する。確実に地雷を踏んづけた。夜宵は真夏の怒りを買ってしまった。

 

真夏の前で【ヘラクレスの妹】とは禁忌の言葉である。

 

真夏は実の兄であるヘラクレス、緑坂冬真と比較されるのを毛嫌いしているのだから。あの椎名とて、真夏の前でそれを言ったりはしなかった。

 

しかもよりにもよって夜宵にそんな言葉をかけられたことが彼女の気により触ったのか、その怒りのボルテージは最高潮に達していた。

 

 

「……………上等や………私に喧嘩売ったんや、後悔させてやるで!」

「な、なんで!?」

「ほら、さっさとかまえんかい!!」

「は、はいぃぃい!!!!」

 

 

圧倒的な圧力だ。夜宵は真夏の言う通りにせざるを得ない。いや、どちらにせよバトルはしないといけなかったのだが、

 

そして始まる。この2人のバトルが、

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まる。

 

ー先行は真夏だ。

 

 

[ターン01]真夏

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、パルモンを召喚して、カードをオープン!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【トゲモン】◯

【ロードバシリー】×

 

 

真夏が初手で召喚したのはトロピカルな花を頭の上に咲かせた緑の成長期スピリット、パルモン。

 

そしてその召喚時効果も成功、真夏はこの効果でトゲモンを手札へと加えた。

 

 

「…………ターンエンドや」

手札4⇨5

 

パルモンLV1(1)BP2000

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目など、やれることが限られてくる。

 

真夏はそれだけを終えるとそのターン自体を終わらせた。次は夜宵の番だ。

 

 

(お兄様の話そんなに嫌なのかな?悪いことしちゃったな……………)

 

 

夜宵はそんなことを考えていた。実際はそんなに大袈裟に考えて謝罪する必要もない。

 

真夏も自分の兄に対するコンプレックスというのはしょうがないものだ。だからと言って、それで怒ってしまうのはまた別の話である。どちらかといえば真夏の自己責任としか言えないのだ。

 

 

[ターン02]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、デビドラモンをLV1で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

夜宵が最初に召喚したのは、まるで悪魔の竜と言ったところか、紫の成熟期スピリット、デビドラモン。

 

夜宵が最近デッキに投入した、新たなアタッカーでもある。

 

 

「アタックステップ!デビドラモンでアタック!………そのアタック時効果で、パルモンのコアを1つリザーブへ置き、カードをドロー!」

手札4⇨5

 

「……………!!」

パルモン(1⇨0)消滅

 

 

デビドラモンが口内から吐きつけた黒い煙が、真夏のパルモンを包み込んだ。パルモンはその中で自身のコアを1つ取り除かれ、消滅してしまった。

 

 

「さぁ!アタックはどうします?」

 

「当然!ライフや!」

ライフ5⇨4

 

 

羽を器用に使いこなし、真夏の元へと飛翔するデビドラモン。そしてそのまま真夏のライフ1つを叩きつけて破壊した。

 

 

「なんや、えらいしょっぱい攻撃やなぁ!?」

 

「………はっは……ターンエンド」

デビドラモンLV1(1)BP4000(疲労)

 

バースト無

 

 

腹わたひっくり返っている真夏に対し、椎名と雅治は「チンピラみたいだ」と思わず思った。そこまでヘラクレスと比べられるのが嫌だったのか、

 

やはり、ヘラクレスが去年の【界放リーグ】で三連覇を成してしまったのも理由の1つか、より自分と兄の差を意識してしまっているのだろう。

 

そして次はそんな真夏のターン。先行の第1ターン目は当然あまり動けなかったが、このターンから緑らしく怒涛の展開が幕をあげるのは目に見えていることであって、

 

 

[ターン03]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!……今度はフローラモンをLV2で召喚や!そしてその召喚時でカードをオープン!!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【リリモン】◯

【緑魔神】×

【緑魔神】×

 

 

真夏が次に召喚したのは、パルモンとらまた違った形でトロピカルなスピリット、成長期のフローラモンだ。

 

そしてその召喚時の効果も成功、樹魔スピリットでもある完全体のスピリット、リリモンが真夏の手札へと加えられた。

 

 

「さらにアタックステップ!その開始時!フローラモンの【進化:緑】を発揮!手札に戻し、成熟期のトゲモンに進化や!」

トゲモンLV2(3)BP6000

 

 

フローラモンに0と1のデジタルコードが巻きつけられる。それは卵の形状を帯び、徐々に徐々にと膨らんでいき、やがて破裂。新たに現れたのはまるでサボテン人間とでも言うべきか、成熟期スピリットのトゲモンであった。

 

 

「っ!……成熟期………」

「こんなんまだまだ序の口や!アタックステップを継続させて、トゲモンでアタック!効果でコアを1つトゲモンに!」

トゲモン(3⇨4)

 

 

動き出すトゲモン。

 

そしてこの瞬間にも、効果が発揮される。それはトゲモンを開花させる強力な効果であって、

 

 

「トゲモンの【超進化:緑】を発揮!トゲモンを完全体のリリモンに進化や!!」

リリモンLV1(1)BP7000

 

 

トゲモンがさっきのフローラモンど同様に、0と1のコードに巻き付けられ、姿形を変えていく。

 

やがて膨らんだそれは花びらのように開花し、中から妖精のようなスピリットが飛び出してきた。その見た目に騙されてはいけない。トゲモンを超える緑の完全体のデジタルスピリット、リリモンなのだから。

 

 

「…………リリモン……」

「こいつが私のエースや!」

 

 

そう、この妖精のようなリリモンこそ、真夏のデッキのエーススピリットである。その使いやすいかつ強い効果で、幾度となく真夏のバトルをサポートしてきた。

 

ーそしてこれからも。

 

 

「いけぇ!リリモン!その効果!【旋風:1】!デビドラモンを重疲労!」

 

「……………!!」

デビドラモン(疲労⇨重疲労)

 

 

リリモンの両手に握られたキャノン砲から放たれた緑のエネルギー弾が、夜宵のデビドラモンを撃ち抜いた。デビドラモンは疲労を飛び越えて重疲労状態となり、その場でぐったりと横たわってしまった。

 

リリモンの効果はまだまだこんなものではない。扱いやすい効果をいくつもこのタイミングで発揮できる。

 

 

「そして、コアを2つ置き、ターン1で回復する!」

リリモン(1⇨3)LV1⇨2(疲労⇨回復)

 

 

リリモンにコアが置かれ、疲労状態から行動可能な回復状態となった。

 

 

「相変わらずえっぐいなぁ!あの効果………」

「いやいや、パイルドラモンも似たようなものじゃない?」

 

 

リリモンの効果のすごさに改めて驚く椎名。それに対し雅治は冷静に、かつ的確にツッコミを入れた。たしかにあの2体の性能はある程度被っているところがある。

 

 

「さぁ!このアタックはどうすんのや?」

 

「当然!ライフです!」

ライフ5⇨4

 

 

宙を舞うリリモンの細足から放たれるキックが、夜宵のライフを破壊した。

 

そしてもう一撃、

 

 

「二撃目ぇ!」

リリモン(3⇨5)LV2⇨3

 

「っ!?……それもライフっ!」

ライフ4⇨3

 

 

リリモンがまたコアを増やしながら、夜宵のライフを蹴り上げた。

 

これにより、場は圧倒的に真夏が支配したと言っても過言ではないだろう。

 

 

「よっし!どんなもんや!ターンエンド!」

リリモンLV3(8)BP12000(疲労)

 

バースト無

 

 

勢いづいた真夏はできる限りのことを尽くし、このターンを終えた。

 

夜宵の場にいるデビドラモンは一度の回復でもやっと普通の疲労状態となる重疲労状態。つまり、次のターンは行動できない。

 

だが、次のターン、夜宵は意外な一手でそれを超えてくる。

 

 

[ターン04]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

デビドラモン(重疲労⇨疲労)

 

 

力尽きたように横たわっていたデビドラモンはようやく少しだけ力を取り戻せたか、腕と脚で少し起き上がり、膝をついた。

 

 

「メインステップ!先ずはピコデビモン!召喚時で1枚ドロー!」

手札6⇨5⇨6

リザーブ7⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

夜宵が召喚したのはコウモリのような小さい小悪魔スピリット、ピコデビモン。その召喚時効果で手札の消費を抑えた。

 

 

「さらにゴブリモンをLV1で召喚!」

手札6⇨5.

リザーブ2⇨0

トラッシュ2⇨3

 

 

次に召喚したのはゴブリンのような見た目の成長期スピリット、ゴブリモン。

 

そして夜宵はアタックステップに入る前に………

 

 

「デビドラモンのコアを全て取り除き、消滅!」

デビドラモン(1⇨0)消滅

リザーブ0⇨1

 

「…………っ!?」

 

 

疲労していたからか、いや、そうでなくとも自ら自分のスピリットを消すことができるだろうか。

 

真夏はそう思った。だが、これは夜宵の作戦であって、

 

 

「アタックステップ!そしてその開始時に、ピコデビモンの【進化:紫】を発揮!ピコデビモンを成熟期のデビモンに進化!」

デビモンLV2(3)BP7000

 

 

ピコデビモンに0と1のコードが巻きつけられる。ピコデビモンはその中で姿形を大きく変えていき、新たなデジタルスピリットとなる。

 

現れたのは紫の成熟期スピリット、悪魔のような見た目のデビモン。

 

 

「…………アタックステップは継続!デビモンでアタック!その効果でトラッシュにある成熟期スピリットをノーコスト召喚!デビドラモンを復活!……もちろん、回復状態でね!」

リザーブ1⇨0

デビドラモンLV1(1)BP4000

 

「っ!?……そういうことかいな!」

 

 

デビモンの両手から放たれた闇の瘴気が、地面へと覆い被さり、そこからデビドラモンが羽を器用に使い、地上へと再び姿を現れした。

 

これは新たなる召喚扱い。当然疲労はしていない。夜宵は事前にデビドラモンを消滅させることによって、デビモンの効果で再び回復状態として蘇えらせたのだ。

 

おそらく夜宵のデッキに重疲労という戦法はなかなか通じないだろう。

 

 

「……へへ、まっさかあんな無理やりな方法で重疲労が破れるなんてなぁ〜〜結構やるやんけ!」

「え!?……………いや〜はっは、ありがとう!」

 

 

意外な方法で重疲労を突破してきた夜宵に、真夏は驚きつつも思わず感激してしまった。さっきまで怒っていたにもかかわらず。

 

夜宵も怒っていると思っていた人から唐突にそんなことを言われたことに驚いたが、直ぐに素直な真夏の感情を感じ取ったのか、照れくさそうな仕草を見せた。

 

 

「……………なんかあの2人…………」

「うん!やっぱバトルしていけばどうとでもなるよね!」

 

 

知らぬ間に徐々に徐々にと打ち解けてきている真夏と夜宵。お互いの実力を知っていくうちにバトラーとは仲良くなるものだ。

 

だが、バトルは当然まだ続いている。夜宵は次なる一手でさらに真夏を追い込んでいく。

 

 

「でも驚くのはまだ早いかも!……デビモンの【超進化:紫】を発揮!デビモンを完全体のレディーデビモンへ!」

レディーデビモンLV2(2)BP7000

 

 

デビモンにも0と1のコードが巻き付けられ、その姿形を変えていく。そして新たに現れたのは紫の完全体スピリット、悪魔の女性型、レディーデビモンだ。

 

 

「くっ!?そっちも完全体かいな…………」

 

「ふふ、レディーデビモンの召喚時効果!疲労状態の相手スピリット1体を破壊して、カードをドロー!リリモンを破壊!」

手札5⇨6

 

「…………っ!?」

 

 

レディーデビモンが登場してくるなり、闇のエネルギー弾をリリモンに向けて放つ。リリモンは捕らえられるようにそのエネルギーに取り込まれ、すぐさま消滅してしまった。

 

 

「………そしてレディーデビモンでアタック!さぁ!どう受けます?」

 

 

リリモンの次は真夏のライフだと言わんばかりに飛翔するレディーデビモン。

 

このターンに夜宵の3体のスピリット達によるフルアタックを受けて仕舞えば間違いなく真夏は不利になってくることだろう。

 

だが、真夏とてこの程度ではやられたりはしない。手札から1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュアクセル!ロードバシリーや!」

手札6⇨5

リザーブ8⇨5

トラッシュ3⇨5

 

「っ!?アクセルカード!?」

「この効果でデビドラモンを疲労や!」

 

「……………!?」

デビドラモン(回復⇨疲労)

 

 

真夏の手元に緑のアクセルカード、ロードバシリーのカードが置かれる。それと同時に夜宵のデビドラモンが吹き荒れる風を受け、再び疲労した。

 

これだけではない。真夏はさらにフラッシュで効果を使う。

 

 

「さらに手元に置かれたロードバシリーの効果で自身を召喚!」

リザーブ5⇨0

トラッシュ5⇨7

ロードバシリーLV2(3)BP3000

 

 

これは数あるアクセルカードの中でもロードバシリーの固有効果とも言えるだろう。手元にあれば、【神速】のようにフラッシュタイミングで場に現れることができるのだ。

 

 

「でもアタックはライフで受けたるわ………」

ライフ4⇨3

 

 

ロードバシリーを破壊されたくはなかったか、真夏はそのレディーデビモンのエネルギー弾を放つ攻撃を受け入れ、その身で受けた。

 

 

「…………ターンエンドです」

レディーデビモンLV2(2)BP7000

ゴブリモンLV1(1)BP3000

デビドラモンLV1(1)BP4000

 

バースト無

 

 

「はっはっは!あんたおもろい奴やな!」

「そっちこそ!このターン、ロードバシリーでブロックせずにライフで受けたってことは…………当然、何か狙ってるよね?」

「せや、………いくでぇ!」

 

 

最初にあった気まずさはどこへ行ったのか、2人は全くもってそんな感情を捨て去って、ただただその目の前のバトルを楽しんでいた。

 

現在の場は圧倒的に夜宵が優勢である。だが、真夏とて、前のターンでトゲモンとリリモンにより、コアは大量に増えている。

 

そして意図的に場に残されたロードバシリー。次の真夏のターンでスピリットが多量展開されるのは目に見えていることであって、

 

 

[ターン05]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!フローラモンとトゲモンを連続召喚し、フローラモンの効果でカードをオープン!」

手札6⇨4

リザーブ9⇨3

トラッシュ0⇨4

オープンカード↓

【リリモン】◯

【フローラモン】◯

【パルモン】◯

 

 

【進化】及び【超進化】により真夏の手札に戻っていたフローラモンとトゲモンが再召喚される。

 

そしてフローラモンの召喚時効果も成功、この場合はどちらか1枚が手札へと加わるが、

 

 

「よっし!この効果で2枚目のリリモンを手札に加えるでぇ!」

手札4⇨5

 

 

当然だと言わんばかりに、真夏は2枚目となるリリモンを手札に加えた。

 

そしてまだだ。まだ展開する。次は生い茂るあのスピリットだ。

 

 

「そして次!老賢樹トレントンをLV1で召喚や!」

手札5⇨4

リザーブ3⇨0

ロードバシリー(3⇨2)LV2⇨1

トラッシュ4⇨7

 

 

真夏の背後からゆっくりとその場に現れてきたのは言わゆる人型の太樹と言ったところか、他のスピリットと比べてもそのサイズの大きさは桁違いだ。

 

そしてこのトレントンは真夏のエースを呼び寄せる起因となる。

 

 

「トレントンの召喚時!手札にある緑のスピリットをノーコスト召喚!今一度来いや!リリモン!!」

手札4⇨3

ロードバシリー(2⇨1)

リリモンLV1(1)BP7000

 

 

トレントンの生い茂る頭部から抜け出してくるように飛び出してきたのは真夏が先ほど手札に加えた2枚目のリリモン。

 

これで5体だ。真夏の場には合計で5体のスピリットが並んだ。リリモンの回復効果なども相まって、夜宵の残った3つのライフなど破壊するのは容易なことだろう。

 

 

「す、すごい………1ターンでこれほどのスピリット達を…………」

「ふふせやろせやろ〜〜!………ほな、いくでぇ!アタックステップ!リリモン!」

 

 

開始された真夏のアタックステップ。その先陣を切るのはもちろんリリモンだ。妖精のような羽を広げて飛び立つ。

 

 

「アタック時効果!コアを2つ置き、回復し、ゴブリモンを重疲労!」

リリモン(1⇨3)LV1⇨2(疲労⇨回復)

 

「………っ!?」

ゴブリモン(回復⇨重疲労)

 

 

リリモンの放った砲撃はゴブリモンに一直線に飛んで行った。そしてそのままそれと衝突し、元気だったゴブリモンはぐったりとその場で横たわってしまった。

 

重疲労自体はデビモンなどである程度軽減できるものの、この相手のアタックステップという場においてはなかなかに面倒な効果であるというのに変わりはない。単純にブロッカーが減るだけできついのだから。

 

真夏の重疲労は夜宵には効かないと言ったが、逆に言ってしまえば重疲労したスピリットを削除し、次のスピリットを展開するということは、夜宵に無駄な労力を課しているとも言えるのだ。

 

 

「よし!行けやリリモン!」

 

 

これで終わり。真夏はそう思っただろう。

 

ーだが、夜宵がこの程度でくたばるわけもなく、

 

 

「相手がコアステップ以外でコアを増やした時、手札にある龍面鬼ビランバの効果!……コストを支払わずに召喚!……LVは2、維持コアはレディーデビモンとゴブリモンから使います!」

手札6⇨5

レディーデビモン(2⇨1)LV2⇨1

ゴブリモン(1⇨0)消滅

龍面鬼ビランバLV2(3)BP15000

 

「……………っ!?び、ビランバ!?」

 

 

ゴブリモンとレディーデビモンのコアが抜き取られるものの、深淵の闇より龍の面を被った鬼が夜宵の場へと顕現する。それはコアブーストキラーとも言えるスピリットであって、

 

 

「ビランバの効果!この効果で増えていたコア1つにつき2つ!コアを取り除きます!」

 

 

つまりは4つだ。4つ真夏の場からコアを取り除くことが可能だ。

 

ーただしリリモンがいなければの話だが、

 

 

「リリモンがLV2以上でいる時、緑のスピリットは相手からコアを取り除かれない!」

「…………っ!?」

 

 

ビランバが放った闇のエネルギーをリリモンが両手から展開させたバリアで弾き返す。

 

リリモンがいる時、如何なるコアシュート効果も寄せ付けない。

 

 

「なるほど〜〜、だけどリリモンは破壊させてもらうよ!そのためにLV2で出したんだから!ビランバでブロック!」

 

 

ビランバは空中にいるリリモンに狙いを定め、先ほどより強く、その闇のエネルギー弾を放つ。リリモンはそれを器用に避け続けるが、被弾するのも時間の問題である。

 

 

「ふっ!……やらせへんでぇ!……」

「っ!?今度は何を………」

「これや!煌臨発揮!対象はリリモン!」

リリモンLV2(3s⇨2)LV2⇨1

トラッシュ7⇨8s

 

「っ!?!……煌臨っ!?ってことは…………」

「そうやで、私が今から呼ぶのは…………究極体や!」

 

 

リリモンが浅い緑色の光に包まれていく。ビランバがいくら闇のエネルギー弾を放とうと、それはいくらでも吸収してしまう。

 

そう、真夏が呼び出すのは究極体スピリット、それも緑の。

 

ーリリモンがその光の中で姿形を変えていく。

 

 

「来い!究極進化ぁぁぁあ!!」

手札3⇨2

 

 

その光が解き放たれ、中から現れたのは赤い薔薇のような妖精。リリモンと比べて、やや大人びている。

 

それは手に荊の鞭を持ち、優雅に舞う。

 

 

「……………ロゼモン!!」

ロゼモンLV1(1)BP9000

 

 

その名はロゼモン。リリモンが究極進化した姿だ。

 

 

「…………綺麗……」

 

 

夜宵は真夏のロゼモンのその優雅な姿を見て、思わずそう呟いてしまった。

 

だが、どんなことがあろうと、どんなにそれが綺麗で美しくても、薔薇には棘があると言うことはどこでも共通であって、

 

 

「ロゼモンの煌臨時効果!煌臨元になった緑の完全体スピリットを手札に戻すことで…………………疲労している相手のスピリット2体をデッキの上に戻す!……リリモンを手札へ戻し、レディーデビモンとビランバを戻す!」

手札2⇨3

 

「…………っ!?!」

「…………ゾーンウィップ!!!」

 

 

ロゼモンがその荊の鞭をしなりつけ、レディーデビモンとビランバを叩きつける。

 

傷ついた2体は力尽き、デジタルの粒子となって夜宵のデッキへと戻っていった。上はビランバ。下はレディーデビモンの順だ。

 

ロゼモンよ煌臨元だったリリモンがビランバとバトル状態であったため、ロゼモンのアタックは有効にはならなかったものの、これで夜宵のスピリットはゼロ。

 

真夏はそのがら空きとなった場に、一気に攻め込む。

 

 

「これで終わりやで!ロゼモン!」

 

 

煌臨元のリリモンが回復状態であったため、2度目のアタックが可能だったロゼモン。再び空中を舞い、駆け上がる。

 

 

「…………ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

ロゼモンの荊の鞭が、夜宵のライフを打ち付け、粉々に粉砕した。

 

 

「次や!トゲモン!効果でコアを増やすで!」

トゲモン(1⇨2)

 

 

次に走り行くのはトゲモン。その効果でコアを増やす。

 

だが、それが仇となった。

 

 

「コアが増えたことにより、手札の龍面鬼ビランバ…………2枚分発揮!」

「………………え」

 

 

真夏は1つだけ思い違いをしていた。

 

夜宵がさっき使った龍面鬼ビランバ。あれは同じタイミングで発揮できる。

 

通常、このタイミングで複数枚それを手札に持っていたのなら、連続で召喚するはず。だが、夜宵はそれをしなかった。だから真夏も安心してトゲモンでアタックし、コアを増やしに行った。

 

だが、夜宵が本当にやりたかったことは【先ず邪魔なリリモン】を場から離すことだった。結果、今の真夏の場はリリモンはいなく、代わりにロゼモンがいる。

 

ーつまり、今の真夏のスピリット達はコア除去効果を受けてしまう。

 

再び深淵の闇が現れ、その中から今度は2体のビランバが現れる。

 

 

「ビランバの効果で、1つ増えたから2つ、それが2枚分、よって4つのコアをコアを取り除きます!」

リザーブ4⇨0

龍面鬼ビランバLV2(3)BP13000

龍面鬼ビランバLV1(1)BP8000

 

「っ!?」

ロードバシリー(1⇨0)消滅

フローラモン(1⇨0)消滅

老賢樹トレントン(1⇨0)消滅

トゲモン(2⇨1)

 

 

ビランバの効果によって置かれる場所はボイドだ。ビランバ2体が放つ闇は、多くのスピリット達が次々とその闇に飲まれていき、真夏の場から姿を消していく。

 

そしてコアが置かれる場所がボイドなら総コア数も減る。

 

 

「……………最初からそれが狙いやったんか………私がトゲモンでアタックしてなかったら終わっとったで!?」

 

 

いや、無意識のうちにそう仕向けられていたのだ。

 

1度目のビランバで真夏は知らずのうちに2、3枚目のビランバはないと考えるのが普通なのだから。

 

そうなるとどうしてもアタックするだけでアドバンテージを取れるトゲモンでアタックしてしまうだろう。

 

 

「そしてそのアタックはビランバでブロック!」

 

 

突っ込んでくるトゲモンを片手で受け止める。そのままトゲモンを持ち上げ、振り回し、地面へ叩きつける。

 

トゲモンは力尽き、その場で爆発してしまった。

 

 

「……………ターンエンドや」

ロゼモンLV1(2)BP9000(疲労)

 

バースト無

 

 

流石にロゼモンだけではどうにもできない。

 

真夏はそのままターンを終えた。

 

 

[ターン06]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

デビドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……………はいらないかな」

 

 

夜宵はアタックステップに入った。真夏の顔を見て、なんとなく察したのだ。もう彼女に打つ手はないと。

 

 

「アタックステップ……………3体のスピリットでアタック!」

 

 

夜宵のスピリット、2体のビランバとデビドラモンが走り出す。目指すは真夏のライフ。

 

 

「………………ふ、……楽しかったで、…………夜宵」

「私もだよ!」

 

「……………ライフで受ける!」

ライフ3⇨0

 

 

真夏はラストコールと共に、その流れるようなアタックを全て受け入れる。全てのライフは3体のスピリットに粉々に粉砕され、ゼロとなる。

 

ー勝者は夜宵だ。

 

夜宵の勝利を讃えるかのように、周りの生徒たちが歓声を送る。

 

 

「……………あっはっはっは!!」

 

 

真夏は負けたにもかかわらず笑っていた。バトル前はあんなに怒っていたはずなのに。

 

 

「私は考えすぎてたんかもなぁ〜〜……………友達の友達はやっぱ友達やな!………改めてよろしゅうな!夜宵!」

「うん!私こそ!」

 

 

真夏は夜宵のとこまで歩み寄り、握手を求めた。夜宵もそれに応じてすぐさま真夏の手を握った。

 

 

(…………でも結局あいつの言う通りやったのが少々気に触るけどなぁ)

(結局椎名ちゃんの言う通りだったなぁ)

 

 

2人は心の中でそう思った。確かに結果的には椎名が言ってたことが本当になってしまった。バトルしただけで誰とでも仲良くなれてしまうのは、正直椎名だけかと思っていた。だが、自分たちもそれにあてられたか、そう勘ぐった。

 

 

「仲良くなれたみたいで、よかったね、」

「………うん!」

 

 

雅治が椎名にそう言った。椎名もそれに応えるように可愛らしい笑顔を雅治に向けて元気にそう言った。

 

「バトルは楽しむもの」。それは椎名が六月に教わったことであり、どこに行こうが、どんなに人が変わろうが何も変わらずそこにあるもの。それを通じて誰とでも仲良くなれるもの。それだけは決して折れるものではない。

 

ーと、椎名はこの時、思っていた。

 




〈次回予告!!〉

「はい!椎名です!真夏と夜宵ちゃん!仲良くなれてよかったね!私も嬉しいよ!……………えっ!?今度はバイト!?………夜宵ちゃん家のメイドの仕事って………あのでっかい屋敷に行くのぉ!?でも界放市の市長さんの頼みだったら聞くしかないよね!……次回、「妖の誘い、サクヤモン舞い降りる!」………今、バトスピが進化を超える!!………てか、またメイドの服着るのか……」











最後までお読みくださり、ありがとうございました!
最近召喚口上がなかなか思いつかない。今回のロゼモンの口上あたりをまた入れ直すかもしれません。または感想等でなにかいい案があったらお教えいただけると私としてもとてもありがたいです!

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