「【エニー・アゼム】………?………誰?」
「だから前言ったやんけ!あんたに似とるっちゅう大昔の偉人や!」
教室でそんな会話が聞こえてきた。
ジークフリード校ももうすぐ定期試験。筆記試験が苦手な椎名に真夏が勉学を教えているのだ。
だが、椎名は全くやる気がない。
「………あ、それ知ってる、何千年も前にオーバーエヴォリューションを何度も行ったっていう人だよね!」
夜宵が2人の会話に割って入ってくるようにそう言った。
「せやで!絶対テスト出るっちゅうのにこいつはほんま………」
「いやいや、覚えたから………テリー・キセルね、」
「…………間違っとるやないかい!!!エニー・アゼムや…………ほら、この絵の顔の髪型見てみ?………あんたのその妙ちくりんな髪にそっくりやないかい………」
「…………そうかな?」
【エニー・アゼム】。遥か昔に日本に来た渡来人の女性と言われており、当時の日本人に作物の育て方などを教えたらしい。一応高校の歴史の授業で習うほどには有名な偉人ではある。何せ、飽くまで一説ではあるが、人類で初のオーバーエヴォリューションに目覚め、おまけにそれを何度も繰り返し行ったと言われているのだから。
オーバーエヴォリューションとは本来、人1人につきたった一度しか起きないものだ。だが、彼女はそれを何度も行い、新たなるカードを生み出していたという。
そしてそれが渡来先の日本で人々に伝承されて行き、今のオーバーエヴォリューションの元になっているのではないかとも言われている。
「あぁ、やだぁぁぁ!!勉強したくない!!!なんでバトスピ学園にまで来て勉強しないといけないの!?」
「何言うとんねん、バトスピ学園は他のとこと違うてがっつりはせんよ、あんたの頭が悪すぎるんや………」
「はは、………まぁ、あんまり詰めるのも良くないよね……………そんな椎名ちゃんにいいお知らせです!」
「?」
「あ、あと司ちゃんもね!」
勉強嫌いな椎名にそう言う夜宵。司は興味なさそうな顔でそれを見ていた。
何やら2人に何かしら起こるようだ。
******
ー今週末
「………急な申し出でごめんなさいね……市長様がどうしてもと言うものだから………」
「いやいや!良いんですよ!バイト代貰えるし!」
「………現金なやつだな」
ここは夜宵達紫治一族が住まう豪邸、【紫治屋敷】。そこに椎名と司はそれぞれその屋敷のメイドとウェイターが着用しそうな服を着て、夜宵の姉、紫治明日香と共にいた。
今日は明日香が紫治一族の頭領を正式に継ぐ日なのだ。そこに界放市の市長が祝うために、この紫治屋敷を訪れる。
2人は夜宵からその誘いを受けて今週の末にここまで赴いたのだった。ちなみに夜宵は仕事でいない。
バイトと言ってもそんなに働くわけではない。明日香の言うように、なぜかこの街を収める界放市の市長が是非ともと【2人を呼んでくれ】と言って、それが夜宵まで繋がり、今がある。
「……………」
「……………」
「……………」
「…………おい、めざし」
「ん?」
「……夜宵の姉となんか話せよ」
界放市の市長が来るまで、この頭領室と言う1人でいるにはいささか広すぎる部屋で待つことになっていた。
司は耐えられなかったのだろう。この近郊が。誰も喋らない静寂が保たれるのは好きだが、明日香の放つ独特な鋭いオーラもあってか、今日ばかりはうるさい方がいいと思っていた。
「…………なんかって、そうだなぁ…………ねぇ明日香さん……」
「……何かしら?」
「…………好きな食べ物何ですか?」
椎名がそう言うと、再びこの場がより一層、サイレントムーブになる。一瞬にして空気がひんやりと冷たくなった。
「………………………殺すぞてめぇ」
「なんで!?」
幼稚が過ぎると言わんばかりに物を言う司。たしかに何か話せと言ったのは自分だが、まだ何かそんなことではなくまともな質問があったはずだ。そんな気持ちがだだ漏れである。
ーだが、
「………りんご……かしらね」
「………………言うのかよ………」
明日香はそんな椎名の質問にもなぜかまともにも静かに、冷静に答えた。司的には偏見ではあるが絶対に怒ると思っていたのに。
「…………ふふ、ごめんなさいね……気を使わせて、………私はこう見えてあなた達には感謝してるのよ、この一族を救ってくれたことに……」
「あっはは!いや〜なんかそんな言われ方するとちょっと照れくさいなぁ〜〜」
ー笑うんだ。
返事をする椎名を他所に司はそう思った。
夜宵との付き合いは長いが、夜宵の姉、明日香とは全く面識がなかった。顔と存在は知っていたが、
昔のことだ。夜宵が一度自分に姉のことを教えてくれたことがある。その時夜宵は彼女のことを「暖かく笑わない人」であると言った。
今ほぼ初めて対面して、なぜか夜宵の言ってることとは真逆に、その目の前の女性はしっかりと暖かい笑みを浮かべている。
ー変わったんだ。変えたんだ。救ったんだ。一族を、家族を、本当の心を、
司は初めてそれらを実感し、理解した。
ーそんな時だった。ドアからノックの音が聞こえてくる。
明日香もそれを聞いて「どうぞ」と声を張り、その来客を頭領室へと招き入れた。
「………やぁ」
「いらっしゃいませ、市長様、……すみません、本当は私から行くべきでしたのに、………」
「いや、良いんだよ。君も忙しいだろうしね……まぁ、取り敢えずおめでとう、明日香ちゃん!城門があんなことになってしまっけど、それに負けずに誠心誠意努めてくれたまえ………」
「はい!!」
やって来たのは柔らかい声色と風貌の持ち主の男性。歳は70はありそうだ。SPのような黒服の取り巻きも4人いる。
(………あれが界放市の市長……いつもは長々とどうでもいいことを話す印象しかないが………)
司が心の中でそう思った。
界放市の市長は仮にもこのバトスピが最も栄えている街の市長。誰もが認知していることだが、この【界放市の中で誰よりもバトルが強いのだ】。あの学園の理事長達も、彼には頭が上がらないのだとか…………
「………そしてこっちの2人が芽座椎名ちゃんと赤羽司君か、…………」
「うっす」
「こんにちわ!!」
2人は軽くお辞儀をした。
市長が椎名と司に目線を向ける。凄まじいプレッシャーだ。明らかに今までとは、【界放リーグ】の時とは違う。いったいどんな言葉をかけてくるのだろうか?
2人はそう考えていた。
ーが、
「おぉ!去年の界放リーグ2、3位の2人!!………君達珍しいスピリットをいっぱい持っているんだよね!!!?是非、是非とも私に見せてはくれないかぁ!?」
「「……………はい?」」
市長は歳には似合わないくらいに目を輝かせ、子供のような笑顔を2人に見せつけ、近づいてきた。
司と椎名は珍しくこの瞬間だけは息があった。
「………珍しいスピリット?」
「ほら!【界放リーグ】でも使ってたじゃないか!ロイヤルパラディンとか、赤羽一族の伝説のスピリットとかさ!」
「…………あぁ、そう言うことですか、それなら…………」
******
「お、おおおおぉ!!!!なんと眩いのだぁぁあ!!あの世界に1枚ずつしかないと言う伝説のロイヤルナイツのマグナモンが今、今私の目の前にぃぃい!!ホウオウモンもなんて輝かなんだぁ!!!そして、そしてこれが竜ノ字からの報告書にあったパイルドラモン!!なんてかっこいいんだぁ!!私が今まで見てきたなかではかっこよさランキングの五本の指には入るよ!!」
界放市の市長こと、【木戸 相落(きど あいらく)】は椎名達に貸してもらったマグナモン達を見て、まるで子供のように、はしゃいでいた。
「はっ!……いやいや、これは失敬、つい取り乱してしまったよ〜、伝説のスピリットやオーバーエヴォリューションで手に入るカードとかは基本的にこの世にたったの1枚しか存在しないからね〜〜………カードマニアの私にとってこれを間近で見れると言うのはとても嬉しいことなんだよ!!!やはり今日君達も呼んでもらったのは正解だったね〜〜!」
「あっはは………市長さんってこんな感じの人なんだ………なんか拍子ぬけって感じ………」
「どうでも良いが早く返せ……」
「おぉ、これは失礼したね、」
市長はそれらのカードを椎名と司に返した。
木戸相落は、カードマニアであった。そんな彼が興味を注がれるのは、この世に1枚ずつしかないと言われているロイヤルナイツや、オーバーエヴォリューション産のカード達。特にロイヤルナイツなど、椎名がマグナモンを召喚するまでは前例もなく、誰も見たことがなかった。
マニアとして、ここまで嬉しいことはなかったことだろう。
「いやはや、それにしても青と緑のデジタルスピリットに目覚めるとは…………さすがは【六月の孫】だね、椎名ちゃん」
「ん?市長さんはじっちゃんを知ってるんですか?」
市長は唐突に椎名にそう言った。どうやら椎名の育て親、芽座六月のことを知っているようだ。
「そうとも!【君の祖父】、芽座六月と私は昔から親友の中の親友さ!」
市長と六月は昔馴染みの親友であった。若い頃はお互いを高め合い、バトルの腕を磨き、鍛え上げ、共に成長していった。
だが、椎名はこの言葉の中にある不信な単語に気づく。
「ん?祖父?………じっちゃんは私の祖父じゃないですよ??」
「っ!?………そ、そうか………すまなかったね………」
椎名の思わぬ言葉に市長の顔は一瞬だけ青ざめた。
だが、直ぐに振り切り、
「はは、そうだな、カードを見せてくれたお礼に、君ら2人に私ができる範囲でなんでもしよう」
市長は話をそらせるかのように違う話題を振った。
「なんでも…………あっ!じゃあ!私とバトルしてください!市長さんはこの街最強なんですよね!?」
椎名は当然のごとくバトルをしようと選択する。まぁ、この街の者だったら、椎名でなくとも大抵はこの願いを口にするだろう。あの界放市市長とバトルするなど普通の人なら間違いなく一生の思い出になるレベルで歓喜することだろう。
ーだが、
「おい、めざし、何勝手に決めてんだ………バトルするのは俺だ、どいてろ、」
「っ!?司?……」
「…………困ったねぇ、私は今日、これから【人と会う約束】があるんだ、精々一度しかバトルはできない……」
司がしゃしゃり出てくる。市長もやはり忙しいか、これから用事が山積みだ。
だがそこは流石市長と言ったところか、両手をグーとパーにしてポンっと叩き、閃いたようなそぶりを見せた。
「じゃあ、こうしよう!2人で私に挑むと言うのは!」
「おぉ!多対1ですね!面白そう!」
多対1ルール。以前紫治城門とのバトルでもやったものだ。たしかにそのルールなら手っ取り早く2人を相手にできるし、時間も短縮できる。
椎名はそれを聞いてやる気になるが、
逆に司は、
「………あぁ?……じゃあいいや、めざしだけにやらせる……」
やる気が失せた。あんなに高かったモチベーションが一気に地球の底まで沈んで行った。
「おい司!なんで!?なんかやる空気だったじゃん!!やろうよ〜〜!!」
「お前なんぞと協力すんのはあの時が最初で最後だ………勝手に1人でやってろ……」
そう言って、司はそのだだっ広い部屋の端によって2人のバトルスペースを確保した。そこには同時に明日香もおり、
「…………良かったの?バトルしなくて………」
「いいんすよ……」
いや、本当は良くない。この街で最強と言われているあの【木戸 相落】とバトルすることができるのだ。あの司とて願ってもないチャンスだったことだろう。
だが、司はそれ以上に椎名と協力するのが気に障るのだ。と言うか、椎名に限らず誰かと協力すること自体好きではなかった。
「………変な司……………まぁいいや!!私だけで楽しんじゃうもんね〜〜!!」
「はっは………じゃあバトルするのは椎名ちゃんだけでいいかな?」
「よし!じゃあ!行きましょう市長さん!」
2人は、椎名と市長は自身のBパッドを展開し、バトルの準備をした。
ーそして、
「「ゲートオープン、界放!!」」
バトルが始まった。
ー先行は椎名だ。
[ターン01]椎名
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ!ネクサスカード、D-3を配置して、ターンエンド!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨1
トラッシュ0⇨3
D-3LV1
バースト無
椎名が配置した、と言うよりかは腰に装着したと言うべきか、青い携帯電話くらいのサイズの機械が現れた。
このネクサスはデジタルスピリットの進化を万全にサポートできる便利なネクサスだ。
先行の第1ターン目など、やれることは限られる。椎名はこれだけでそのターンを終えた。次は市長のターンだ。
[ターン02]市長
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「……さぁ、メインステップだ……………」
(相手はあの界放市市長!……いったいどんなスピリット出すんだろう??……)
椎名はこのターン、市長が呼び出すスピリットに期待していた。仮にもあの界放市で一番強いのだ。それはそれは強力なスピリットが召喚される。
ーものだと思っていた。
「………私はこいつを、………フーリンをLV3で召喚!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨2
「………………え?」
市長が召喚したのは黄色のスピリット、それはまるで熊のようなぬいぐるみのような何か、
かの有名で人気なスピリット、フーリンである。
(………………よ、弱そ〜〜!?)
椎名は予想外なスピリットの登場にある意味で度肝を抜かれた。フーリンのコミカルな動きもあって、より集中力が削がれてしまう。
「はっはっは!!どうだい!?可愛いだろう?」
「はは、そうですね…………」
なぜか誇らしげな市長に、椎名は苦笑いで返した。
だが、スピリットは見た目だけで判断してはいけない。椎名はさっき以上に気を引き締めて、このバトルに臨んで行く。
「さらに、バーストをセットし、ターンエンドだよ」
手札4⇨3
フーリンLV3(3)BP4000(回復)
バースト有
市長の場の右端に裏側でバーストがセットされた。市長はこれだけでターンを終えるものの、フーリンの弱さも相まり、やはりそのバーストの存在は大きい。
次は椎名のターン。
[ターン03]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨5
トラッシュ3⇨0
「メインステップ!ブイモンを召喚!……さらに召喚時効果でカードオープン!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨2
トラッシュ0⇨2
オープンカード↓
【ライドラモン】◯
【ワームモン】×
「おぉ、これが君のデッキの軸となるデジタルスピリットか!」
椎名が召喚したのはいつもの小さき青き竜、ブイモン。その召喚時効果も成功し、アーマー体スピリットであるライドラモンが手札に加えられた。
「さらに、ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、青き稲妻、ライドラモンをLV1で召喚!」
手札4⇨5
リザーブ2⇨1
トラッシュ2⇨3
ライドラモンLV1(1)BP5000
ブイモンの頭上に黒くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンは飛び上がり、それと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは黒いボディの獣型アーマー体スピリット、ライドラモン。
「ライドラモンの召喚時!ボイドからコアをトラッシュに2つ追加!」
トラッシュ3⇨5
登場するなり、ライドラモンは大きく吠える。その雄叫びは天に届いたのか、椎名のトラッシュに新たな恵みが与えられた。
「アタックステップ!ライドラモンでアタック!」
「…………ライフで受けよう」
ライフ5⇨4
ライドラモンの俊敏で高速な体当たりが、市長のライフを1つ破壊した。これで先制点は椎名が制した。
ーかに思われたが、
「ライフ減少により、バースト発動!……フランケンマン!効果でライフを1つ回復し、召喚!」
ライフ4⇨5
フランケンマンLV1(1)BP7000
「!!」
市長のライフが黄色に包まれていき、1つ復活する。これでプラマイゼロ。元の状態に戻る。
そしてそれと同時に、市長の背後から現れるスピリットがいったい。それはフーリンと比べてかなり巨体である。
のっそのっそとゆっくり現れたのはフランケンがモチーフのフランケンマン。単純なバースト効果しか持たないが、その分BP効率などが優れているスピリットだ。
「………やっぱ一筋縄じゃあ行けないか〜〜〜〜ターンエンド!」
ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)
D-3LV1
バースト無
できることを全て終えた椎名はそのターンを終了させ、市長に譲る。
[ターン04]市長
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨3
トラッシュ2⇨0
「メインステップ、…………そうだね〜〜、じゃあ私もネクサスカード、マヨイ家を配置しようかな?」
手札4⇨3
リザーブ3⇨2
トラッシュ0⇨1
市長もネクサスカードを配置する。それはまるで妖怪でも潜んでいそうな古い家。その不気味な雰囲気が椎名にプレッシャーを与えていく。
「そして、フランケンマンのLV上昇して、アタックステップ……そんなフランケンマンでアタックしようか!…」
リザーブ2⇨0
フランケンマン(1⇨3)LV1⇨3
フランケンマンのLVを上げると同時に、命令を下す市長。フランケンマンが大きな身体を揺らしながら椎名の元へと走り行く。
「ライフで受ける!」
ライフ5⇨4
フランケンマンの重たく、強烈なパンチが、椎名のライフを1つ破壊する。
「……………ターンエンドかな……」
フランケンマンLV3(3)BP13000(疲労)
フーリンLV3(3)BP4000(回復)
マヨイ家LV1
バースト無
フーリンをブロッカーに残し、そのターンを終える市長。次は椎名のターンだ。
[ターン05]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨8
トラッシュ5⇨0
ライドラモン(疲労⇨回復)
「メインステップ!ブイモンを再び召喚!そして召喚時効果でカードをオープン!」
手札6⇨5
リザーブ8⇨6
トラッシュ0⇨1
オープンカード↓
【フレイドラモン】◯
【グリードサンダー】×
椎名はライドラモンの【アーマー進化】により手札に戻っていたブイモンを再度召喚する。そしてその召喚時効果も成功、椎名はアーマー体スピリットのフレイドラモンのカードを手札に加えた。
「さらにライドラモンとD-3のLVを2にアップして、アタックステップ!ブイモンでアタックだぁ!」
リザーブ6⇨2
ライドラモン(1⇨3)LV1⇨2
D-3(0⇨2)LV1⇨2
残ったコアで場を整え、すぐさまアタックステップへと走り出す椎名。ブイモンが意気揚々と飛び出していく。
(…………フーリンより弱いブイモンでのアタック…………何かあるね……)
市長はそうよんだ。間違いなく何かある。と、
当然その予想は的中し、椎名はさらなる一手をここで仕込んできた。
「フラッシュ!フレイドラモンの【アーマー進化】を発揮!対象はブイモン!…………って、言いたいところだけど、D-3のLV2効果!このネクサスを疲労させることで、対象のデジタルスピリットを戻したものとして扱う!!……今回はそれを使用!」
D-3(回復⇨疲労)
「っ!!………なるほど、そういうことかね〜〜」
D-3はデジタルスピリットの【進化】全般をサポートする。それは異質な進化である【アーマー進化】とて同じこと、
椎名が腰に装着しているD-3をタッチし、光らせる。それに伴い現れるデジタルゲート、その中から現れるのは椎名のエーススピリット。
「1コストを支払い、炎燃ゆるスピリット、フレイドラモンをLV2で召喚!」
手札6⇨5
D-3(2⇨0)LV2⇨1
リザーブ2⇨0
トラッシュ1⇨2
フレイドラモンLV2(3)BP9000
現れたのは炎を纏ったスマートな竜人、フレイドラモン。
「………おぉ!すごい!」
「フレイドラモンの召喚時効果!BP7000以下のスピリット1体を破壊!対象はもちろんフーリン!………爆炎の拳!ナックルファイア!!」
手札5⇨6
「………!!」
フレイドラモンは登場するなり、フーリンに向けて炎の鉄拳を飛ばす。それは瞬く間にフーリンを捉え、焼き尽くした。
そして忘れてはならない。これはまだ椎名のブイモンのアタックのタイミングだと言うことに。待ちくたびれていたようなそぶりを見せつつ、ブイモンは再び走り行く。
「いけぇ!ブイモン!」
「…………ライフで受けようか」
ライフ5⇨4
ブイモンの渾身の頭突きが、市長のライフを1つ粉々に粉砕する。
(なるほど、この後にライドラモンとフレイドラモンでアタック、ライドラモンの効果で一気に私のライフを破壊しようと…………だけど、甘いね〜〜)
このターン。そのまま椎名のスピリット達によるフルアタックが通って仕舞えば、ライドラモンのLV2、3の効果で、市長は全てのライフを破壊されてしまう。
だが、たったそれだけの戦法で倒れる市長ではない。事前に張り巡らせたネクサスカードの効果を使い、椎名を翻弄する。
「さらにライドラモンで…………」
「おおっと!!ちょっと待ってね!その前に私のネクサス、マヨイ家の効果が発揮されるよ!」
「………!?」
ネクサスと言う単語に反応して、椎名は思わずそっちの方へと視線を移した。すると、マヨイ家の襖が開き、中からスピリットが、いや、あれはただのスピリットではない、デジタルスピリットだ。
「な、なんかいる!?」
「ふふ、マヨイ家のLV1からの効果、私のライフが減るたびに、手札から妖戒スピリットをコストを払わずに召喚できるんだ〜〜、私はこの効果で、完全体スピリットのタオモンを召喚するよ!」
手札3⇨2
リザーブ4⇨1
タオモンLV3(3)BP10000
「っ!?……デジタルスピリット!?」
そこから飛び出してきたのは、まるで狐の陰陽師。その手には巨大な筆が握られている。世にも珍しい、系統、妖戒のデジタルスピリット、タオモンが市長の場に現れた。
そしてまだ終わらない。タオモンには強力な召喚時効果がある。
「タオモンの召喚時効果で相手スピリット全てのBPをマイナス8000!…0になったらデッキの下へと送られるよ」
「………なにぃ!?」
ブイモンBP2000⇨0(デッキ下)
ライドラモンBP7000⇨0(デッキ下)
フレイドラモンBP9000⇨1000
タオモンはその巨大な筆で空中に謎の文字を描いていく。一筆書きでそれを書き終えたかと思いきや、それらは椎名の場のスピリット達へと襲いかかる。直撃した瞬時に爆発するその文字はブイモン、ライドラモンを消滅させるだけにあらず、フレイドラモンも弱体化させた。
「くっ、……ターンエンド」
フレイドラモンLV2(3)BP1000⇨9000(回復)
D-3LV1
バースト無
弱体化してしまったフレイドラモンだけではどうしようもない。椎名は半ば強制的にそのターンを終えることになった。次は見事なカウンターを決めた市長のターンだ。
[ターン06]市長
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札2⇨3
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨3
トラッシュ1⇨0
フランケンマン(疲労⇨回復)
「メインステップ、2体目のフーリンを召喚!」
手札3⇨2
リザーブ3⇨0
市長は前のターンでフレイドラモンに破壊されたフーリンと同様のものを召喚する。
スピリットがあまり手札にないのか、それ以上の展開はせずに、アタックステップへと移行した。
「アタックステップ!行きなさい、タオモン!」
浮遊しながら、椎名の元まで飛び行くタオモン。狙うは彼女のライフだ。
「………フラッシュマジック!リアクティブバリア!!」
手札6⇨5
リザーブ6⇨2
トラッシュ2⇨6
「…………!?」
椎名が唐突に発揮させたリアクティブバリア。これにより、市長の場に猛吹雪が襲ってくる。これでは、彼のスピリット達はほとんど身動きができない。
「タオモンのアタックはライフだ!」
ライフ4⇨3
だがタオモンのアタックは有効である。タオモンは袖口から大量の札を射出し、椎名のライフに突き刺す。それは瞬時に爆発して、ライフを1つ破壊した。
「この時、タオモンの【聖命】の効果でライフ1つ回復する」
ライフ4⇨5
ここでは触れられていないが、タオモンは妖戒スピリット全てにこの黄色特有の効果【聖命】を与える。フレイドラモンを残すことも踏まえて、ここでリアクティブバリアを使ったのはある意味正解であると言える。
「………………んーー、これではアタックができないね〜〜、………ターンエンドだよ」
タオモンLV3(3)BP10000(疲労)
フランケンマンLV3(3)BP13000(回復)
フーリンLV3(3)BP4000(回復)
マヨイ家LV1
バースト無
リアクティブバリアの効果が有効であるのならば、ターンを終了せざるを得ない。市長はこのままそのターンを終え、椎名に渡した。
(つ、強〜〜〜い!!!!………流石は界放市で一番強い人!こんな二手三手読まれてる感じが続くのは真夏の兄ちゃんとバトルした時以来だ…………でも、負けない!バトルはこれからだ!)
そう心の中で大きく意気込む椎名。
椎名は始まる前より断然燃えていた。相手が強ければ強いほど熱くなり、燃え上がる。バトラーなら当然な現象であるとも言える。
[ターン07]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨10
トラッシュ6⇨0
D-3(疲労⇨回復)
「メインステップ!ワームモンをLV2で召喚!そして効果発揮!」
手札6⇨5
リザーブ10⇨5
トラッシュ0⇨2
オープンカード↓
【リアクティブバリア】×
【ブイモン】×
椎名が召喚したのは緑の成長期スピリット、芋虫をデフォルメしたようなワームモンだ。だが、その召喚時の効果は不発。どちらともトラッシュへと落ちていった。
「そして、追加効果で、手札にある青の成熟期スピリットを2コスト支払って召喚!…………来い!エクスブイモン!!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨2
トラッシュ2⇨4
さらに召喚されたのは蒼き闘竜、エクスブイモン。腹部のエックスの文字が印象的である。
「エクスブイモンの召喚時効果で、2枚引き、2枚捨てる!」
手札4⇨6⇨4
破棄カード↓
【ブイモン】
【ズバモン】
流れるようにデッキと手札を回転させていく椎名。そしてドローした。自分の第2のエーススピリットが、この状況を一転ゆさせるキーカードが、
「よっし!!アタックステップ!ワームモンの【進化:緑】を発揮!成熟期のデジタルスピリット、スティングモンに進化!」
スティングモンLV2(3⇨4)BP8000
アタックステップの開始時と共に、ワームモンに0と1のデジタルコードが巻き付けられる。ワームモンはその中で姿形を変えていき、新たなスピリットとなる。
そして現れたのは昆虫型だが、人型に近いスマートな体型の成熟期スピリット、スティングモン。その効果でコアも増えた。
「一気に行くよ!アタックステップは継続させ、スティングモンでアタック!効果でコアブースト&レベルアップ!」
スティングモン(4⇨5)LV2⇨3
走り出すスティングモン。そしてここだ。このタイミングで使用する。オーバーエヴォリューションで得た、無敵の力を……
「ここだぁ!フラッシュ!パイルドラモンの【ジョグレス進化】発揮!対象はエクスブイモンとスティングモン!……この2体を融合させ、新たな力へと導く!」
「………………おぉっ!来るのか、ここで!」
椎名のエクスブイモンとスティングモンが宙へと飛び立ち、そのデジタルコードを混じらせていく。それは新たな姿を形成していき、最強スピリットを出現させる。
その神秘的な光景に、思わず対戦している市長も感激する。
「……………パイルドラモン!!」
手札3⇨5⇨4
リザーブ8⇨3
パイルドラモンLV3(5)BP13000
完全に形が形成され、椎名の場に降り立って来たのは、竜のパワーと昆虫の俊敏さを合わせ持つ至高の竜戦士、パイルドラモン。
「おおぉ、生で見ると、より一層、カッコいいの!」
「でしょでしょ!!?……でも、浮かれてる場合じゃないよ!パイルドラモンのジョグレス進化での召喚時効果!……相手のコスト7以下のスピリット全てを破壊する!」
「……………っ!?」
「…………殲滅の………デスペラードブラスター!!!」
パイルドラモンは腰に備えたかられている機関銃を両手で持ち上げ、乱射する。それは流れるように、市長の場にいたフーリン、フランケンマン、タオモンをなぎ倒していった。
「よっし!!まだまだ行くよ!パイルドラモンでアタック!アタック時効果で、ボイドからコアを2つパイルドラモンに置き、ターンに1回だけ、パイルドラモンは回復する!……………エレメンタルチャージ!!!」
パイルドラモン(5⇨7)(疲労⇨回復)
パイルドラモンは眩しいほどに光輝き、エネルギーを溜めた。
これぞパイルドラモンのすごいところだ。相手を殲滅しつつ、コアを増やし、2度目の攻撃を可能にする。デジタルスピリットの中でもかなり纏まっていて、使いやすい効果であると言える。
「……………ライフで受ける」
ライフ5⇨4
飛び出して来たパイルドラモンの拳が、市長のライフを破壊した。行ける。この絶対的エーススピリット、パイルドラモンさえいればあの市長にも勝てる。椎名はそう考えをよぎらせた。
だが、忘れてはならない。市長にはライフの減少時に妖戒スピリットを召喚できるマヨイ家があると言うことを、
「はっはっは!!!流石は六月にバトルを教え込まれていただけのことはあるね!!だけど、僕のライフを大きく減らすにはまだ早いかな?」
「っ!!」
「マヨイ家の効果!!手札から2枚目のタオモンを召喚するよ!」
手札2⇨1
リザーブ10⇨7
タオモンLV3(3)BP10000
まただ。またマヨイ家の中からパイルドラモンが破壊したタオモンと全く同じ2体目のタオモンが飛び出してきた。
ーもちろん召喚時の効果が発揮される。
「タオモンの効果でBPを8000下がるよ〜〜〜」
「っ!!」
パイルドラモンBP13000⇨5000
フレイドラモンBP9000⇨1000
タオモンの一筆書きの文字を飛ばす攻撃が、今度はパイルドラモンとフレイドラモンの2体を襲う。2体とも辛うじて生き残るも、このターンのアタックはかなりキツイ状況にまで追い込まれた。
「くっそ〜〜流石にガードは固いか〜〜ターンエンド!!」
フレイドラモンLV2(3)BP9000(回復)
パイルドラモンLV3(9)BP13000(回復)
D-3LV1
バースト無
やれることを全て終え、椎名はそのターンを終了させた。決めてとはならなかったものの、手応えはあった。確実に効いてきている。このままいけば押し込んでいけるかもしれない。
次は再びタオモンとマヨイ家のコンボで椎名の猛攻を凌いだ市長のターン。
(流石はお前が仕込んだだけのことはあるよ、六月…………この娘は強い………底なしに……だけどまだ私には敵わないかな………)
ターンが始まる寸前。市長はそんなことを考えていた。友であり、好敵手であった芽座六月。彼と共にいた記憶が、思い出が、椎名とのバトル中に蘇って来たのだ。
そんな想いを胸に、市長は自分のターンを始めて行く。
[ターン08]市長
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ7⇨8
《ドローステップ》手札1⇨2
《リフレッシュステップ》
「メインステップ……………よく頑張ったね、椎名ちゃん……………だけど、これで終わりだよ…………!!」
「…………っ!?」
その市長の言葉に反応した椎名。市長は確かに終わりだと言った。それは紛うことなきこのバトルのことだ。このパイルドラモンとフレイドラモンがブロッカーとして立っていて、尚且つ3つもある自分のライフを減らせるとでも言うのか………
だが、本当に可能なのだ。市長が絶対的信頼を寄せる【エーススピリット】が存在すれば………
「さぁ、アタックステップだ、タオモンでアタックしよう!」
動揺と驚愕がが治らない椎名を他所に、市長は手を抜くことなくアタックステップへと移行した。タオモンが再び椎名のライフを砕こうと飛び立った。
ー椎名はこの瞬間直感で感じてしまった。
ーなにかとんでもないものが来る。
ーそれはフレイドラモンやパイルドラモンではどうしようもない存在。
「フラッシュ!煌臨発揮!対象はタオモン!」
フランケンマン(2s⇨1)LV2⇨1
トラッシュ6⇨7s
「っ!?………ここに来て煌臨!?」
パイルドラモンが今にもブロックしようとしていたこのタイミングで、市長は煌臨を、いや、究極進化させて来た。
タオモンが黄色の光で眩く輝きながら、その姿形を変えていく。
「…………来るか………」
「えぇ、そうね、市長様の最強のスピリットが………」
司と明日香がこの光景を目に入れながらそう呟いた。
そして市長は口上を述べ、それを呼び出す。
「神の代行者の巫女よ、今この戦いに終止符を……究極進化!」
手札2⇨1
現れるのは神の代行者。黒くてスマートな女性の身体をベースに黄色や紫の装甲がどんどん付け足されていく。
「……………サクヤモン!!!」
サクヤモンLV3(3)BP14000
サクヤモン。黄色の究極体のデジタルスピリットだ。その力はもはや椎名の持つカード達では追いつけないことだろう。
「やぁ、サクヤモン。久しぶり、やっぱり君は美しいね〜」
「……き、究極体…………カッコいいぃ!!!………」
絶対絶命のピンチだと言うのに、椎名はサクヤモンを視界に入れるなり大きくはしゃぎ出した。
市長はそんな椎名を微笑ましく見つめながら、優しい笑顔でサクヤモンの効果を発揮させる。
「………サクヤモンの煌臨時効果!……相手のスピリット4体を選択し、LV1とする、さらにそのターンの間、LV1のスピリット全てはアタックとブロック、効果の発揮ができなくなる」
「……………っ!?」
「私は君のパイルドラモンとフレイドラモンを選択………飯綱!!」
サクヤモンの腰に装着されている筒。そこには4匹の管狐が潜んでおり、そのうちの2匹が飛び出していく。それは瞬く間にフレイドラモンとパイルドラモンの2大エースを貫き、その力を奪い取った。
「フレイドラモンっ!……パイルドラモン!?」
フレイドラモンLV2⇨1
パイルドラモンLV3⇨1
その場で立てなくなるなるほどに力を奪われたか、膝をついてしまう2体のドラゴン。飯綱と呼ばれているその管狐は再びサクヤモンの腰に装着されている筒の中へと戻っていった。
これで2体はサクヤモンの効果の影響をもろに受けて、アタック、ブロック、そして効果の発揮が行えなくなった。
ーそしてまだだ。まだ終わらない。サクヤモンの真骨頂はここからである。
「さらにサクヤモンのLV3煌臨中の効果!手札のカードを破棄し、このバトルのみ、シンボルを1つ追加し、回復する!」
手札1⇨0
破棄カード↓
【雪ガール】
サクヤモン(疲労⇨回復)
「……っ!?!」
サクヤモンは懐から1枚の札を取り出し、呪文を詠唱し、それを溶かしていく。するとその札の効果か、サクヤモン自身に新たな力を与えた。
「さぁ、パイルドラモンとフレイドラモンでは、ブロックができない、どうする?」
「…………っ!?ライフで受ける!」
椎名がライフで受ける宣言をした瞬間。一瞬にしてフレイドラモンとパイルドラモンの後ろを通り過ぎるサクヤモン。その速さは目で追うどころの話ではなかった。手っ取り早く言えば瞬間移動のような、そんな感じであった。
そして、サクヤモンは地面に自身の持つ金剛錫杖と呼ばれる武器を思いっきり地面に突きつける。
「…………金剛界曼荼羅!!!」
「…………ぐっ!?………」
ライフ3⇨1
円形に放たれるその眩い光は、椎名のライフを一気に2つを一瞬にして浄化させた。
ーそして、残り1つも、
「…………これで終わりだね………サクヤモン…」
サクヤモンは金剛錫杖を椎名に突きつける。そして、そのままそれを振り下ろし、
「す、すごいや……これが界放市一のバトラー……………………」
ライフ1⇨0
ラストコールを宣言するまでもなく、ただそれに最後のライフを砕かれた。ガラス細工が割れたような音だけがその場で響き渡った。
椎名のライフは尽きた。よって勝者は界放市市長、木戸相落。圧倒的な強さと余裕を見せつけての大勝利であると言える。
******
「すっっご〜〜〜い楽しかったです!またバトルしてください!!」
「あぁ、いいともいいとも!」
椎名は目の輝きが落ちないくらい感激していた。楽しかったのだ。そして嬉しかった。界放市最強の男と戦えたのが、胸を借りられたのが、
そんな時だった。周りのSPのような屈強な男が市長に耳打ちした。どうやら時間が来たようである。
「あらあら………じゃあ私はこれでね、………また会おう、椎名ちゃん、司君、そして明日香ちゃん」
「はい、市長様」
「次は俺とバトルしろよ」
「バイバ〜〜イ!!」
そう言って、市長は紫治一族の館を去っていった。
「やっぱりあなた、すごいわね〜〜、」
明日香が椎名にそう言った。いったいなにがすごいのかわからない椎名はキョトンとしながら疑問を投げる。
「ん?私ですか?………何が?」
「市長様は基本的にあの妖戒のデジタルスピリットのデッキを使うのだけど、究極体のサクヤモンは滅多に使わないのよ……だいたいがタオモンで終わらせちゃうのよ」
市長がサクヤモンを使う時は勝てなくなると思った時のみ。つまり、椎名はそれを引き出させただけでもすごいということになる。
「へぇ〜〜!!じゃあ私って結構頑張ったじゃん!ねぇ司!」
「馬鹿野郎、俺がやったら勝ってた………」
「え〜〜!?ひっど〜〜い!!」
司にとってはやはりどうでもいいのか、相変わらずの澄まし顔で椎名をスルーした。
その後2人は普通にバイトして、その1日を終えた。
******
ーそしてここは界放市市長の部屋。市長室とでも言うべきか。市長は1人、その部屋で仕事をしていた。それはとても事務的なもの、始末書や、承認書など、様々である。
そんな中、その部屋のドアをノックする者が1人。市長はそれを聞くなり、「どうぞ」と、軽く口ずさんで、その者を自分の部屋へと入室させる。
ー現れたのは、
「やぁ、久しぶりだね…………六月」
「…………あぁ、そうじゃの……15年ぶりくらいか」
そこに来たのは、彼の古い友人であり、好敵手。椎名の育ての親でもある老人。芽座六月。
【人と会う約束】とは、彼のことであった。
「まさかお前がこの街の市長になるとはの、相落、…………で、わしを呼び出した理由はなんじゃ?」
「…………その前に1ついいか?」
「……………」
「今日、椎名ちゃんに会った…………」
どうやら呼び出したのは市長の方であるようだ。2人の強者のオーラか、それらがその部屋に充満していた。間違いなく普通の人ならば思わず気を失ってしまうほどの張り詰めた緊迫感である。
市長は六月に言った。今日、椎名達に会って、思った疑問。感じた怒りを、
「…………いつバレた?」
「……何が?」
「いつお前が【本当の祖父】でないことがバレたと言っているんだ!!!!」
市長は今までの彼とは思えないくらいの怒声を放った。あんなにおおらかな人からは到底出るとは思えないほどの声量である。
それだけそのことに対する怒りの感情が強いのが伺える。
「………そのことか、もう随分前の話じゃよ、椎名が6歳の頃、わしが客人の前で口を滑らせたのが原因。まさか裏で聞いてるとは思ってなかったんじゃ……………全てはわしの詰めの甘さが原因」
「なぜもっと早く私にそれを言わなかった!?……今はお前があげたカードでどうにかなっているが……そのうち、もしものことがあったら…………やはりあの娘はバトスピ学園に、この街に来ること自体ダメだったのではないのか!?………ずっとお前の手の中で生きていた方が幸せではなかったのか!?」
椎名は6歳まで、六月のことを本当の祖父だと思っていた。が、一木花火がそこを訪れた時にそれが嘘であるとバレてしまったのだ。当時は椎名とて、絶望したことだろう。
何せ、一瞬にして孤独になったのだから。それが6歳にして、椎名に訪れた最初の悲劇。
六月もそのことに責任感と罪悪感を覚え、それ以降は今まで以上に椎名を溺愛していた。可愛かった。本当の孫のように育てた。
「……………わしの手の中じゃ、ダメなんじゃよ相落。椎名にはもっと大きく、広い世界を見てもらいたい…………バトスピを楽しむだけの人生を歩んで欲しいのじゃよ」
「…………………」
「…………それに、あいつはもう死んだ。………椎名は安心じゃよ…………」
全くと言っていいほどにこの2人の話の内容が掴めない。椎名には何か隠された秘密でもあると言うのだろうか。
「用件はそれだけか?………なら帰らせてもらうぞ」
それだけを言い残し、六月はその部屋を、市長室を後にしようとする。
だが、市長はそれを止めるかのように………
「………話したかったのは今のことと……後、…君の孫についてだ」
「………………葉月のことか!?」
驚いた六月は戸を開けるのをやめ、再び市長の方へと目を向けた。
【葉月】とは、六月の実の孫である。
「…………………彼の居場所がわかった………」
相落はゆっくりと、物静かな口調で、六月にそう呟いた。
〈次回予告!!〉
「椎名です!市長さんやっぱ強かったなぁ〜〜次はいつ会えるんだろ?………そして次は界放リーグの代わり!!オーディーン校と交流バトルだってさ!!いろんな人とバトルできるね!!……え!?私だけタッグバトル??……組むのは英次?……よし英次!一緒に特訓しよう!……ってぇ、なんで逃げるの〜〜!!?……次回、「英次のサイバードラモン!」………今、バトスピが進化を超える!」
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最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!
【葉月】については【第21話の冒頭】で少しだけ触れられているので、良ければ参考程度に、
※ご指摘がありましたので、このお話の一部のバトル内容を変更させてもらいました。もちろん勝敗には影響していないのでご安心ください。大変ご迷惑をおかけしました。