ここは椎名達が通うジークフリード校の1年生担当の先生達が集まる職員室、現在ここでは今の1年生についての大事な会議をしていた。その中には当然晴太の姿も確認できる。
「さぁ、先生諸君、今日はいよいよ1年生の子達にとって初めて、それぞれの強さの優劣がハッキリと分かる日と言っても過言ではありませんが、今まで話していた通り、【今月の代表バトル】は【芽座椎名】と【赤羽司】で問題ありませんね?」
学年主任の先生が他の1年生担当の先生に大きな声で聞こえるように、そう言う。【代表バトル】とは、学年毎に月1回、その1ヶ月の間での実技授業のバトルにおいての成績上位者2名をバトルさせること、
当然強いものだけが選ばれることになるので、学年主任の言っている『優劣がハッキリと分かる日』と言うのはそう言うことだ。生徒達は日々この場に立つために精一杯バトルに明け暮れている。
この学校行事は元々、選ばれなかった悔しさを糧に、他の生徒達全員の士気や向上心を上げるためにある。こういった学校行事が日本の名門バトスピ学園の1つ、ジークフリード校が毎年プロバトラーを輩出できる秘訣の1つである。
「ちょっと待ってください、【芽座椎名】と【赤羽司】はいずれも実技での成績は認めますが、【芽座椎名】は以前、校舎をよじ登る等の問題を多々起こしてますし、【赤羽司】はよく授業をサボります。……【代表バトル】はまだ1回目ですし、今回は生徒達の見本となるような優等生を推すべきでは?」
今回の選出生徒に対し、異論を唱えるのは司と雅治のクラス担任の女教師、名前は【鳥山兎姫(とりやまとき)】、彼女も晴太同様の今年からの新人教師だ。腕も晴太に負けず劣らずで、昔馴染みでもある。この異論に対して、学年主任が逆に問う。
「じゃあ、鳥山先生、あなたは誰を推薦しますか?」
「私は【長峰雅治】と【緑坂真夏】を推薦します、彼らは共に文武両道です。きっと生徒達の士気を上げてくれることでしょう」
兎姫の口から出たのは雅治と真夏の名前。この2人は確かに椎名と司にも負けず劣らずの成績だった。代わりとしては無難なところであろう。
ーだが、これにも異論を唱える者がいた。
「いや、鳥山先生、最初だからこそ、問題児を上げるのも一つの手じゃないか?」
また手が上がり、発言する者が現れる。その真っ直ぐ伸びた手の人物は椎名と真夏の担任、空野晴太。
「あら、空野先生、それはどう言うことかしら?」
「……つまりは、問題を起こしてばかりの彼らに、【代表バトル】と言う栄誉あるバトルをさせることで、生徒達はあんな奴らでも出れるなら俺らでもいける。そう思うんじゃないかな?ってこと」
「「「「「………!!!」」」」」
「寧ろそれがこの行事の本来の本質でしょ」
晴太の謎の説得力で納得してしまう教師陣達、確かに下手な優等生を出させるよりも先ずは問題児を立たせる方が生徒達は躍起になってくれるのではないかと思えてしまう。
これには同期の兎姫も納得せざるを得なかった。そしてこれは決まったと思ったのか、学年主任が最後を締める。
「よし!それじゃあ、今月の【代表バトル】は【芽座椎名】と【赤羽司】の2名で行います!」
******
そして場所は変わり、椎名と真夏がいつものように教室までの渡り廊下を歩いていると、何やらざわついている場所が目立っていた。そこは学園の情報が提示される掲示板があるところである。
いつも以上に釘付けになる生徒達、椎名と真夏は何だろうと思い、自分達もそこへと向かう。
「ん?なに?」
椎名がその掲示板の目の前に来ると、何故か他の生徒達の目線が一斉に椎名に集まった。さっきまでは掲示板に釘付けになっていたにも関わらず。その目は尊敬を抱くような目を向ける者もいれば、悔しそうな目を向ける者など、様々だった。
不信に思った真夏は掲示板を見て理解した。
「……!!……なるほどなぁ、そう言うこっちゃ」
「え!?何がそう言うこと!?」
「掲示板見てみ?」
「……えーっと、第9期生、第1回代表バトル【芽座椎名】VS【赤羽司】!?……どう言うこと!?」
「あんたなぁ、この学園に来たならそんくらい理解しとかんかい!!【代表バトル】っちゅうのはなぁ、月1回に実技の授業トップだった生徒2名をバトルさせる行事のことや!」
理解できなかった椎名に真夏が理解させるような説明を入れる。わかりやすい解説に椎名も納得。
「……!!じゃあ!私は今日、司と再戦できるってことか!!」
「………ふふ、これは面白いことになりそうだね〜」
「わっ!!雅治!!びっくりした〜〜!」
喜ぶ椎名の横に突如現れたのは雅治。あのバトル以降、すっかり椎名と気が合い、直ぐに仲良くなっていた。
「僕は2人のバトルを楽しみにしてるよ」
「うん!ありがと!」
「ふっ!やっと決着だな、【めざし】」
「……司!!」
雅治の次には司が割って入って来た。この2人が揃った瞬間、その場の空気は鋭く張り詰め、周りの他の生徒達はお通夜にでもなったかのように急に黙り込んだ。
「へへ、やるからには楽しいバトルにしよう」
「前も言ったが、俺とお前との格の違いってやつを見せつけてやる」
まさに一触即発、司はそれだけ言い残すと通りすぎるようにその場を離れていった。
「燃えて来た!!絶対勝ってやる!」
椎名の燃えたぎる熱いバトスピ魂に火がつく。【代表バトル】は昼過ぎの授業からだ。
******
そして時間となり、多くの生徒達がこの第5スタジアムの観客席に集まった。普通なら眠たくなるこの時間だが、生徒達は眠ったりはしない。このバトルは現在のジークフリード校の1年生の頂点を決めるバトルと言っても過言ではないからだ。眠気など来るわけもない。
行われるのは第5スタジアム、第3スタジアムより大きなドーム型が特徴だ。椎名と司は今ここで向かい合っている。既にBパッドは展開完了。いつでもバトルが始められる。
「横いい?、空野先生、」
「おぉ、兎姫ちゃんか」
「……!名前で呼ぶのはやめろって言ったでしょう!!……//」
「いや、今2人だし、別にいいだろ。苗字呼びは正直かたっ苦しい、お前も2人の時くらいは名前でいいんだぞ?」
生徒達とは離れたところで観戦しようとしていた晴太の横に兎姫が現れる。不意に名前を呼ばれた兎姫は顔を桜色に染めながらもその横に座った。
「て言うか、甘いってなんだよ、俺はちゃんと生徒には平等だぞ」
「いや、芽座さんって、私達がよく知っているあの2人にそっくりじゃない」
「あぁ、…まぁね、……どっちかって言うと足して2で割った感じかな」
「2人の間から産まれた子どもって言われても信じれるわよ、私は」
兎姫の言うあの2人とは誰かは定かではないが、その2人とは兎姫と晴太にとってはとても大事な存在であるようだ。
「確かに似てるとは思ってるけど、その程度で俺は贔屓なんてしないよ、……俺はこの間、あの2人の真剣勝負に水を差してしまったからな、今度は誰にも邪魔されずに決着をつけて欲しいのさ」
「『今度は』って、この学園にいればそんな決着なんていつでもできるでしょうに」
晴太はこの間の椎名と司のバトルに職の関係上、仕方ないとは言え、2人の真剣勝負に横入れしてしまった。そのことに対して、少なからず罪悪感を覚えていたからこそ、無理にでも2人にバトルして欲しかったのだ。
「ねぇ、緑坂さん、どっちが勝つと思う?」
「う〜ん、椎名を応援したいけど、あの【朱雀】が負けるなんて想像つかへんもんな〜〜」
「はは、確かにね、でも、僕は椎名に1票を入れるかな」
「え!?」
雅治と真夏も他の生徒達に紛れて2人のバトルを観戦しようとしていた。雅治は意外にも【朱雀】である司ではなく、椎名が勝つと予想を立てる。いや、正確には勝って欲しいと願っているのか、
真夏は少しその言葉を不審に思う。確かに椎名の対戦相手はあの【朱雀】なのだ。大多数の人が予想を立てるとするならば、必ず司に1票を投じることであろう。
ーそしていよいよ1年生代表の【芽座椎名】と【朱雀】こと、【赤羽司】の再戦が始まる。
「いくよ!」
「おう、」
「「ゲートオープン!界放!!」」
多くの生徒や、教師に見守られながら椎名と司のバトルが幕を開ける。
ー先行は司。
[ターン01]司
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、先ずはホークモンを召喚」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨3
今回司が初めて召喚したのは、デッキの中軸とも言える赤き羽を持つ鳥型の成長期デジタルスピリット、ホークモン。
「おっ!ホークモン!…今日は最初っから召喚か!」
「まぁな、…召喚時効果」
オープンカード
【ハーピーガール】×
【ライフドリーム】×
【ホルスモン】○
成長期スピリットではお馴染みの進化系をデッキの上から回収する効果、司はこの効果で巻かれたホルスモンのカードを手札に加えて、残りを破棄した。
コア不足のため、進化することはできないが、アーマー体のホルスモンが加えられたことで椎名に若干のプレッシャーがのしかかっていた。
「ターンエンドだ」
手札4⇨5
ホークモンLV1(1)BP3000
バースト無
[ターン02]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ!私も最初っから飛ばしていくよ!…ブイモンを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨1
トラッシュ0⇨3
椎名も自分のデッキの中軸となる成長期デジタルスピリット青き小竜型のスピリット、ブイモンを召喚する。
「召喚時効果!」
オープンカード
【ライドラモン】○
【猪人ボアボア】×
効果は成功、アーマー体のスピリットカード、ライドラモンが椎名の手札に加わった。そして椎名は何も考えずにそのカードを引き抜く。
「ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コスト支払って、青き稲妻、ライドラモンを召喚!!」
手札4⇨5
リザーブ1⇨0
トラッシュ3⇨4
ライドラモンLV1(1)BP5000
ブイモンの頭上に独特な形をした黒い卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化。黒き体に青き稲妻を纏い、ライドラモンへと進化を果たした。
「早速来たか、」
「召喚時効果!トラッシュに2コアを追加!!」
トラッシュ4⇨6
ライドラモンは登場するなり大きな雄叫びをあげると、椎名のBパッドに雷が落雷して、トラッシュに2コアを追加した。
「なるほどね、なるべく序盤でライドラモンを出すことによって、コアブースト効果のタイムラグのデメリットをある程度軽減したんだね」
「一気にコアの総数に差が開きよったな」
バトルの考察をする雅治と真夏。2人だけではない。多くの生徒がまた違った形で2人のバトルを研究していることだろう。
「アタックステップ!いけ!ライドラモン!」
「そいつはライフだ」
ライフ5⇨4
ライドラモンの瞬発的な体当たりが直撃、司のライフを1つ破壊した。この前の雅治とのバトルの時とは違い、ライドラモンはまだLV1、追加でライフを破壊する効果はまだ持っていなかった。
「ターンエンド」
ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)
バースト無
やることを全て終えた椎名がターンを終える。まだ序盤の中の序盤だが、ライドラモンの登場で既にバトルは熱い展開となっていた。
[ターン03]司
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨5
トラッシュ3⇨0
「メインステップ、イーズナを2体召喚」
手札6⇨4
リザーブ5⇨3
コスト1で、赤のスピリット且つ黄のスピリットでもあるハイブリットスピリットのイーズナが2体、司のフィールドに召喚される。その2体は囀るように小さく鳴く。
「さらに、ネクサスカード!朱に染まる薔薇園を配置!」
手札4⇨3
リザーブ3⇨1
トラッシュ0⇨2
「……!!またあのネクサスか!」
さらに司が配置したネクサスはこの間も使用した朱に染まる薔薇園。
フィールド全体が美しき赤き薔薇に囲まれた。だが椎名は知っている。それらにはどれも鋭利な棘があることを。
「さらに、イーズナ1体から不足コストを確保してハーピーガールを召喚!」
手札3⇨2
リザーブ1⇨0
イーズナ(1⇨0)消滅
トラッシュ2⇨3
イーズナ1体はコアの損失により消滅してしまうが、新たに現れたのは可愛らしい少女の顔に加えて、強靭な鳥のような翼と足を持つスピリット、ハーピーガール。その効果の凶悪さは既に椎名の頭にもインプットされている。
「やっぱり来るか〜〜」
「アタックステップ!やれ!ハーピーガール!」
ハーピーガールがその腕の代わりに生えている翼で飛翔する。ブロッカーが0で、コアも十分には使えない椎名は、このアタックは、ほぼ無条件でライフの減少を選ばなければならなかった。
「ライフで受ける!」
ライフ5⇨4
強烈な翼撃が椎名のライフを1つ破壊した。たが、ハーピーガールの恐ろしいことはこれからであって、
「アタックが通ったことにより、ハーピーガールの【聖命】でライフを1つ回復する。さらに、俺のアタックステップ中にライフが回復したことにより、朱に染まる薔薇園、LV1、2の効果でデッキから1枚ドローする」
ライフ4⇨5
手札2⇨3
司はライフを回復しつつ、カードをドローした。
「相変わらずえぐいなぁ」
「お前のフレイドラモン程じゃねぇよ、俺はこれでターンエンドだ」
ホークモンLV1(1)BP3000(回復)
イーズナLV1(1)BP1000(回復)
ハーピーガールLV1(1)BP3000(疲労)
朱に染まる薔薇園LV1
バースト無
意外にもこれ以上のアタックは仕掛けず、2体のブロッカーを残し、このままターンを終える司。次は椎名の反撃だ。
[ターン04]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨8
トラッシュ6⇨0
ライドラモン(疲労⇨回復)
「メインステップ!ガンナー・ハスキーをLV1で、風盾の守護者トビマルをLV2で召喚!」
手札6⇨4
リザーブ8⇨2
トラッシュ0⇨2
椎名のフィールドに現れたのは、犬型だが、拳銃を所持するために背中に腕を生やしたスピリット、ガンナー・ハスキーと、大きな盾を持つ鳥型のスピリット、トビマルが現れた。
「ライドラモンをLV2にアップ、さらにバーストを伏せて、アタックステップだ!」
手札4⇨3
椎名の場にバーストが伏せられると同時にライドラモンのLVが上昇した。これでLV2・3のライフを追撃する効果が新たに加えられた。
「……あれ?ブイモンは出さないんやな」
「下手に出して破壊されたら巻き返しがしづらくなるからね」
司は破壊効果を多く有する赤属性のカードを得意としている。中軸となるブイモンを下手に展開して、破壊されたら、逆に不利となってしまう。
どちらにしてもいつもの椎名と比べたらやや大人しいプレイングと言える。
「いけ!ライドラモン!!」
椎名の命令で駆け出すライドラモン。目指すは司のライフ。ブロッカーが2体いる司の選択は、
「それもライフで受けてやろう」
ライフ5⇨4
ライフの減少を選択。ライドラモンの勢い余る体当たりが司のライフを破壊した。そしてライドラモンにはこの瞬間にも発揮できる効果がある。
「ライドラモンが相手のライフを減らした時!もう1つ相手のライフを破壊する!」
「……!!」
「轟の雷!ブルーサンダー!!!」
「ぐっ!!!」
ライフ4⇨3
立ち止まったライドラモンがそのツノを避雷針とし、雷を溜め込む。そしてそのまま司のライフにそれを叩きつけた。司はまたライフをひとつ失った。
「ターンエンド!」
ライドラモンLV2(3)BP7000(疲労)
ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(回復)
風盾の守護者トビマルLV2(3)BP3000(回復)
バースト有
椎名はブロッカーを2体残して、そのターンを終える。
[ターン05]司
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨6
トラッシュ3⇨0
ハーピーガール(疲労⇨回復)
「メインステップ、俺はホルスモンの【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!」
リザーブ6⇨5
トラッシュ0⇨1
「……!!来るか!」
「羽ばたく愛情!ホルスモンを召喚!!」
リザーブ5⇨3
ホルスモンLV2(3)BP6000
ホークモンに白銀の色をした謎の卵が投下される。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして、風を育む赤き獣のアーマー体、ホルスモンへと進化を果たす。
「もう一度ホークモンを召喚!」
手札4⇨3
リザーブ3⇨1
トラッシュ1⇨2
司は瞬時に【アーマー進化】の効果で手札に戻ってきたホークモンを再び召喚した。ホークモンは今一度その召喚時効果を使用する。
「ホークモンの召喚時効果!」
オープンカード
【イーズナ】×
【シャイニングバースト】×
【シュリモン】◯
召喚時は成功、アーマー体のスピリット、シュリモンが手札に加わった。残ったカードは先と同様トラッシュへと破棄された。
「俺はアーマー体のシュリモンを手札に加える」
手札3⇨4
「………!?…またアーマー体?でもバーストはもらった!召喚時発揮後のバースト!」
ホークモンの召喚時の効果に反応して、椎名の伏せられたバーストカードが勢いよくオープンされる。
「双翼乱舞!カードを2枚ドロー!」
手札3⇨5
「ほぉ、……双翼乱舞か、」
シュリモンのカードのことを椎名は知らなかったが、アーマー体だと分かればある程度は対処できる。アーマー体という情報だけで【アーマー進化】の効果を持っていることがわかるからだ。椎名はバーストの双翼乱舞でカードを増やし、態勢を立て直す。
だが、司はその加えたアーマー体を直ぐに召喚はせず、そのままアタックステップに入る。
「ハーピーガールのLVを2に上げ、アタックステップ!」
ハーピーガール(1⇨2)LV1⇨2
知らないうちに司のフィールドのスピリット総数は4、椎名より1枚上手だった。
「ハーピーガールでアタック!アタック時効果!LV2・3のスピリットにブロックされない!……さらに【連鎖:赤】の効果でお前のBP3000以下のスピリットを破壊!消えろ!ガンナー・ハスキー!!」
ハーピーガールの強力な翼撃がガンナー・ハスキーに命中。破壊されるかと思いきや、
「……風盾の守護者がいる限り、ガンナー・ハスキーは消えない!」
その命中した翼撃は間一髪でトビマルの大きな盾が守っていた。ハーピーガールは破壊に失敗し、一旦空中に離脱し、距離を取る。
風盾の守護者トビマルはコスト3以下のスピリットが破壊される時、それらを疲労状態で残す効果がある。
「ふん、そんなのお見通しだ、これでお前をブロックできるスピリットは消えた……今度こそやれ!ハーピーガール!」
今度は椎名のライフをめがけて、ハーピーガールは急降下して、椎名のライフを狙いに行く。椎名のフィールドはハーピーガールの効果でブロック不可状態のトビマルのみ、
「ライフで受ける!」
ライフ4⇨3
そのままその翼撃が炸裂。また椎名のライフをひとつ破壊した。そしてあのコンボも再び発動する。
「ハーピーガールの【聖命】で俺のライフを1つ回復して、朱に染まる薔薇園のLV1・2の効果でデッキからカードを1枚ドローする」
ライフ3⇨4
手札4⇨5
再び司のライフが回復し、カードも増える。椎名とのアドバンテージ差をどんどん広げて行く。
「次だ!ホルスモン!!……アタック!ホルスモンは自身の効果でBPが3000上がっているぞ!」
ホルスモンBP6000⇨9000
ホルスモンは身体を竜巻のように回転させて突っ込んでくる。椎名のライフを破壊するためだ。
「それもライフだ!……ぐう!!」
ライフ3⇨2
そのままホルスモンは通過するように椎名のライフを破壊した。
「ターンエンド」
ホルスモンLV2(3)BP6000(疲労)
ホークモンLV1(1)BP3000(回復)
イーズナLV1(1)BP1000(回復)
ハーピーガールLV2(2)BP4000(疲労)
朱に染まる薔薇園LV1
バースト無
またブロッカーを2体残し、そのターンを終える司、毎ターンずつではあるが、少しずつ椎名と差をつけてきている。逆に椎名はこのターンで挽回しなければ勝機を見出すのは厳しくなることだろう。
[ターン06]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨5
トラッシュ2⇨0
ライドラモン(疲労⇨回復)
「メインステップ、ガンナー・ハスキーをLV2に、ライドラモンをLV3にアップ!」
リザーブ5⇨2
ガンナー・ハスキー(1⇨3)LV1⇨2
ライドラモン(3⇨4)LV2⇨3
2体のLVが上がる。ライドラモン達は力が上がったことをアピールするかのように雄叫びを上げた。
「さらに、バーストをセット!」
手札5⇨4
椎名のフィールドに裏向きで再びバーストが伏せられた。司は全力で警戒する。だが、さっきホークモンの効果によって手札に加えたスピリットを出すことができればそのバーストへの警戒心を半減にできる。
司がそんなことを考えていることはつゆ知らず、椎名はアタックステップへと移行しようとしていた。
「アタックステップ!トビマルでアタック!その効果で相手は相手のスピリット1体を疲労!」
「ホークモンを疲労させる」
ホークモン(回復⇨疲労)
風盾の守護者トビマルが飛び立つ。トビマルはアタック時かブロック時に相手自身が1対選び、疲労させる効果がある。
巻き起こる向かい風がホークモンを疲労させる。だが、ホークモンはまたアーマー体に進化すればこの効果を無効にできると言っても過言ではないのだが、司はまだ少し様子を見る。
「イーズナでブロック!」
指示に従い、イーズナが果敢にトビマルに挑むが、トビマルの大きな盾で簡単に薙ぎ倒されてしまった。イーズナは転げ落ち、破裂するように爆発した。
「よし!次!ライドラモンでアタック!」
三たびライドラモンが駆け出す。だが、あの【朱雀】と呼ばれている男にこんな単調な同じ攻撃がそう何度も通用するわけはなくて、
ー司はこの時を待ち望んでいたかのように手札のカードを引き抜いた。
「フラッシュ!シュリモンの【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!1コスト支払い、シュリモンを召喚!」
リザーブ1⇨0
トラッシュ2⇨3
ホークモンの頭上から、これまた独特な卵が落下し、衝突、混ざり合って、ホークモンは緑のアーマー体、鳥の姿とは打って変わって忍者のような姿をしたスピリット、シュリモンが召喚された。
椎名はまさか赤と黄色のデッキを使っている司が緑のアーマー体を使ってくるなんて思ってもいなかった。自分も青と緑に赤のフレイドラモンを入れているのであまり驚くようなことではないが、
「すごい!今度はライドラモンと同じ緑のスピリットかぁ!」
「あぁ、お前への対策だ……召喚時効果!疲労状態のスピリット1体を手札に戻す!消えろ!ライドラモン!」
シュリモンLV1(1)BP4000
「………!!」
手札4⇨5
シュリモンは登場するなり、その手足の蔓を伸ばし、それに付随している巨大手裏剣を走ってくるライドラモンにぶち当てる。ライドラモンはそれには敵わずに吹き飛ばされ、デジタルの粒子となり、椎名の手札に戻った。
「……まじか、ライドラモンが……ターンエンド」
ガンナー・ハスキーLV2(3)BP4000(回復)
風盾の守護者トビマルLV2(3)BP3000(疲労)
バースト有
ライドラモンの損失で攻め手を完全に失った椎名はターンを終了せざるを得なくなり、そのままターンを司に渡す。
[ターン07]司
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨4
トラッシュ3⇨0
ホルスモン(疲労⇨回復)
ハーピーガール(疲労⇨回復)
「メインステップ!ここで!ブレイブカード!砲竜バルガンナー〈R〉を召喚!」
手札6⇨5
リザーブ4⇨2
トラッシュ0⇨2
「……!!……ブレイブカード!」
この局面で司が呼び出したのは赤のブレイブカード、砲竜バルガンナー〈R〉、2丁の砲撃を携えた赤いドラゴンだ。ブレイブとは、スピリットと合体することで真の力を発揮できるカード達のことだ。
「行くぞ、めざし!俺はホルスモンに砲竜バルガンナー〈R〉を合体!」
ホルスモン+砲竜バルガンナー〈R〉BP6000⇨10000
ホルスモンの背中に砲台のみと化したバルガンナーが装着される。ホルスモンは合体スピリットとなり、パワーアップした。
「シュリモンをLV2へ!」
リザーブ2⇨0
シュリモン(1⇨3)LV1⇨2
さらに司は残ったコアを使い、シュリモンをパワーアップさせた。
「アタックステップ!ホルスモンの効果!「アーマー体」のスピリット全てにBP+3000!」
ホルスモン+砲竜バルガンナー〈R〉BP10000⇨13000
シュリモンBP9000⇨12000
ホルスモンの効果は自分のアーマー体のスピリット全域に対応する。当然、同じアーマー体のシュリモンもこの効果の影響を受けて、パワーアップした。
「ホルスモンで合体アタック!」
砲台を背中に乗せたホルスモンが飛び立つ。そしてその上に乗せた砲台の効果が同時に起動する。
「砲竜バルガンナー〈R〉の合体アタック時効果、カードを1枚ドローし、BP6000以下の相手のスピリットを破壊、……くたばれ!風盾の守護者トビマル!」
手札5⇨6
ホルスモンの砲台がトビマルに向けられ射出、咄嗟にトビマルは盾を前に出すが、その弾丸は瞬く間にトビマルの盾ごと貫き、粉々に玉砕した。この時、トビマルは自身の効果で場に残ることが可能であったのだが、何故かトビマルはその場から姿を消していた。椎名はそれを見て驚く。
「……破壊された!?なんで」
「砲竜バルガンナー〈R〉の効果で破壊されたスピリットの効果は発揮されない。こいつの前では守護者特有の効果は通用しねぇぞ」
砲竜バルガンナー〈R〉の合体アタック時効果は1枚ドローし、BP6000以下の相手のスピリット1体を破壊する効果。この時、その破壊したスピリットの効果は適応されない。つまりトビマルの効果は無効となり、フィールドに残ることはできなかったのだ。
ーだが、手札が効果によって増えた。椎名にとって今はそこが最重要であって、
「……だったらこれならどうだ!!!……相手の効果によって手札が増えたことにより、バースト発動!グリードサンダー!!………あれ!?」
この前も司のデッキに刺さった青のバーストマジック、グリードサンダーの効果を発揮させようとした椎名だったが、なぜかバーストが開かない。その答えはシュリモンにあった。
「シュリモンが俺のフィールドにいる時、お前は俺の「アーマー体」を持つスピリットのアタック中はバーストを発動できない」
「……なにぃ!?」
「お前がこの場面でグリードサンダーをセットするなんてお見通しなんだよ……さぉ!このアタックはどうする?」
これはシュリモンの影響で発揮を封じられていたのだ。シュリモンは「アーマー体」のスピリットがアタックしている時に相手のバーストを封じ込めることができる。
合体により、ダブルシンボルと化しているホルスモンのアタックがまだ終わっていない。残り2つしかない椎名のライフ、この攻撃は意地になっても守るしかない。
椎名は使いたくなかった必殺のカードを引き抜くことになる。
「……ガンナー・ハスキーでブロック!!……そしてフラッシュタイミング!マジック、ストームアタックを使用!ハーピーガールを疲労させて、ガンナー・ハスキーを回復!」
手札5⇨4
リザーブ9⇨6
トラッシュ0⇨3
ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)
ハーピーガールが向かい風に押されて疲労状態となり、逆に追い風のガンナー・ハスキーは回復状態となった。
「……!!…究極カードでしのぎに来るか、だが、そいつが回復しても意味はねぇ!いけ!ホルスモン!……砲撃の嵐!!ランパードストーム!!」
ハーピーガール(回復⇨疲労)
まるで嵐のような砲撃にガンナー・ハスキーが太刀打ちできるわけなく、あっさり吹き飛ばされて破壊されてしまった。
「くっ!……だけどガンナー・ハスキーのLV2の破壊時効果でボイドからコアを2つリザーブに!」
リザーブ9⇨11
砲竜バル・ガンナー〈R〉による破壊時無効効果はあくまで自身の効果のみ、その他のタイミングでは発揮が可能。椎名はガンナー・ハスキーの最後の恩恵で、おこぼれのようにコアを2つリザーブに送る。
ストームアタックの効果で、疲労させられたことにより、司の残ったスピリット対数では椎名のライフをギリギリ0にすることはできない。司はターンを終了することになる。
「……ターンエンド」
シュリモンLV2(3)9000(回復)
ハーピーガールLV2(2)BP4000(疲労)
ホルスモン+砲竜バルガンナー〈R〉LV2(3)10000(疲労)
朱に染まる薔薇園LV1
バースト無
ギリギリで踏み止められてしまった司だったが、その顔にはいつもの余裕そうな表情が伺える。確かに彼はライフ差、手札差、そして盤面差、明らかに優位に立っている。椎名が巻き返すには少々厳しい状況に仕上がっていると言えるだろう。
「ふっ!どうやら勝負あったようだな」
「へへっ!……なに言ってるの、私のライフはまだ尽きていないよ!」
「………強がりを」
「私は自分のデッキを最後まで信じ抜くだけだ!」
司はこの時点で自分の勝利を確信していた。司だけではない。他のほとんどの生徒達や、教師陣までもが、椎名の勝利などすでに確率の蚊帳から捨ててしまっていた。
「流石【朱雀】と呼ばれるだけはあるわね、赤羽君。……これはもう完全に終わったかしら、」
「あぁ、確かに【あいつの弟】なだけはある。……だけど兎姫ちゃん、俺ら教師が生徒の可能性を捨てるのはダメだろう。………見せてみろ椎名、お前のバトラーとしてのセンスを……!」
兎姫と晴太がそう言う。確かに兎姫の言う通り、はなから見ればこの状況は完全に積みに見える。だが、この程度で諦めるバトラーなどこの学園で育成するに値しない。そして晴太は入学試験の時から知っている。椎名には他の誰もが欲するであろう、バトラーとしての天賦の才能を持っているということを。
椎名も当然諦めていない。寧ろここからが本当のバトルだと思わせるような表情だ。
[ターン08]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ11⇨12
「ドローステップ、……ドロー!!………!!よし!」
手札4⇨5
ドローしたカードに思わず口角を上げる椎名。引いたカードを見て、一気に作戦を思いつく。それはこの状況を一変させるどころか、このバトルに決着をもたらす程の爆発力を秘めた作戦。だが、この作戦において必要な駒があと1つ足りない。ここで椎名は取っておいたブイモンを活用する。
《リフレッシュステップ》
リザーブ12⇨15
トラッシュ3⇨0
「メインステップ!!ブイモンを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ15⇨11
トラッシュ0⇨3
椎名のフィールドにここまで抱え込んできたブイモンが再び召喚される。椎名はブイモンの召喚時を使用し、逆転のキーカードを狙う。
「召喚時効果発揮!デッキから2枚オープンして、対象のスピリットカードを手札に加える!」
オープンカード
【風盾の守護者トビマル】×
【フレイドラモン】○
効果は成功、アーマー体スピリットのフレイドラモンが椎名の手札に加わった。これこそが椎名が待ち望んだ逆転への最後の素材。
「よし!フレイドラモンを手札に加える!」
手札4⇨5
「フレイドラモンか、…今更そいつを出したところで戦況は変わりはせん」
司の言う通り、フレイドラモンの効果でで対処できる今の司の場のスピリットはハーピーガール程度。他のホルスモンもシュリモンもBP7000を上回っている。それでも椎名はこのフレイドラモンに賭けている。
「フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払って、アーマー進化!」
リザーブ11⇨8
トラッシュ3⇨4
ブイモンに赤き卵が落下していき、衝突、そして混ざり合う。燃え上がる竜人型のアーマー体、フレイドラモンが召喚された。
「燃え上がれ!!フレイドラモン!!」
フレイドラモンLV2(3)BP9000
「だからそれがどうした、たかがBP9000……」
「先ずは召喚時効果及びアタック時効果!ハーピーガールを破壊!……ナックルファイア!!」
手札5⇨6
「ぐっ!!」
フレイドラモンの燃え盛る炎の拳がハーピーガールを貫く。ハーピーガールは翼ごと燃え上がり、爆発した。椎名は破壊に成功したため、デッキからカードを1枚ドローした。
だが、この召喚時とアタック時効果が通用するのはここまで、単体ではシュリモンと互角、合体スピリットと化したホルスモンはフレイドラモンを僅かながら超えている。
飽くまで単体ではの話だが、
「いくよ!私がドローした奇跡の一枚!!青のブレイブ、潮より来たれ!双牙皇オルト・ロードを召喚!」
手札6⇨5
リザーブ8⇨4
トラッシュ4⇨8
椎名の背後に波が打ち寄せる。その中から飛び立ち、椎名の目の前に現れたのは、鎧を身に着け、2つの顔を持つ犬のような姿をした青のブレイブ、双牙皇オルト・ロード。
「なに!?お前もブレイブを!?」
「へへ、…いくよ、フレイドラモンに双牙皇オルト・ロードを合体!!」
フレイドラモン+双牙皇オルト・ロードLV2(3)BP9000⇨14000
フレイドラモンとオルト・ロードは互いに空中でぶつかり合い、混ざり合っていく。そして新たに現れたのは言わば青いフレイドラモン。オルト・ロードの装備が身体中に施されており、新たに生えた黒き巨翼を広げている。そして光り輝く眼光を放ちながら椎名の場に降り立った。
「す、すご!こんな大技を残しとったんかい、椎名は」
「ふふ、やっぱり面白いね、椎名は」
椎名の進化した新たなフレイドラモンに会場が大いに盛り上がる。
「だが、こんなのただのこけ脅しだ!!……このターンを凌げば問題ない」
「じゃあ、凌いでみなよ、アタックステップ!!フレイドラモンはLV2の時、相手のスピリットに指定してアタックができる!!……ホルスモンに指定アタック!!」
椎名の指示で飛び出す合体スピリットと化したフレイドラモン。その黒き翼を翻し、宙に舞う。さらに椎名は畳み掛けるようにフラッシュタイミングでマジックカードを使用する。
「フラッシュタイミング!!!マジック、ワイルドライドを使用する!!フレイドラモンのBPをさらに3000上げて、このターンの間、BPを比べて相手のスピリットを破壊したらフレイドラモンは回復する!!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨1
トラッシュ8⇨11
フレイドラモン+双牙皇オルト・ロードBP14000⇨17000
「なに!?」
「いけ!フレイドラモン!蒼炎の拳!!ブレイズナックル!!」
空中から放たれる蒼き炎の鉄拳がホルスモンを襲う。その炎には耐えることができず、ホルスモンは破壊されてしまった。
「くっ!砲竜バルガンナー〈R〉は残さねぇ」
バルガンナーはホルスモン共に消滅。ブレイブのルール効果により、残すこともできたが、回復するフレイドラモンのアタック時効果でどちらにせよ破壊され、挙げ句の果てにはドローまでされるのを防ぐためだろう。
「ワイルドライドの効果でフレイドラモンは回復!」
フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード(疲労⇨回復)
緑の光を浴びて、フレイドラモンは回復状態になる。上空に舞うフレイドラモンが次に狙いを定めるのは忍者のような姿をしたシュリモン。
「次はシュリモンに指定アタック!!…………いけ!フレイドラモン!!……渾身の蒼炎!!バーニングインフォース!!!!」
「ぐぅ!!」
フレイドラモンは燃え滾る蒼き炎をその身に纏いシュリモンのいる地上まで急降下。シュリモン共々大爆発を起こす。だが、フレイドラモンは爆煙が晴れると司の目の前で眼光を放ちながら再び姿を見せる。破壊されたのはシュリモンだけだった。
「ワイルドライドの効果で回復」
フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード(疲労⇨回復)
ワイルドライドの影響で再び回復状態になるフレイドラモン。目の前のスピリットがいなくなったら、次は司のライフを根こそぎ奪うのみ。
「だが!いくら合体しているとはいえ、そいつは所詮ダブルシンボル!残り4つの俺のライフを減らすことは………」
「できるんだなぁ、これが……!」
「なに!?」
「フレイドラモンでアタック!!」
司の目の前にいるフレイドラモンがその拳に蒼き炎を纏わせてライフに叩きつける。そしてここでフレイドラモンと合体してきるブレイブ、双牙皇オルト・ロードの合体時効果が発動する。
「双牙皇オルト・ロードの合体アタック時効果、私の手札を3枚破棄することで、このスピリットを回復させる!」
「……な、なんだと!?」
「カードを3枚破棄!再び起き上がれ!!フレイドラモン!!!」
手札4⇨1
破棄カード
【ブイモン】
【ライドラモン】
【スティングモン】
椎名は手札のある適当なカードを3枚捨てる。フレイドラモンは蒼き光を浴びて三たび回復した。ダブルシンボルの2回のアタックで減らせる最大数は4だ。
「フレイドラモンで2回攻撃!!これで終わりだぁぁぁぁあ!!」
「こ、この俺が……負けるだと!?…………う、うぉぉぉお!!」
ライフ4⇨2⇨0
フレイドラモンの蒼き炎を纏う両拳が司の残りの4つのライフを一気に全て粉々に粉砕した。
これにより司のライフはゼロ、勝者は椎名だ。椎名はガッツポーズを掲げる。フレイドラモンがゆっくりと消えていく。会場は椎名を讃え、大いに盛り上がった。
まさかの大金星だ。あの【朱雀】が、同期の女の子に負けるなど一体誰が予想できただろうか。
「すごい……!…椎名の奴ほんまに勝ちよった!」
予想の斜め上をいく結果に、真夏も含めた会場の誰もが驚く。だが、その盛り上がる中で、雅治だけはどこかへ消えていた。
「よっしゃ!!………いいバトルだったよ!司!またやろう!!………て、あれ!?」
椎名がそう言って司の方を見ても、もう既にそこには誰もいなかった。
******
そしてここはスタジアム裏。そこは暗くて表からは到底見えることはない場所。壁を拳で叩きつけて負けた悔しさを前面に露わにする司の姿がそこにあった。
「くそっ!!くそっ!!……負けた、二度と負けないと誓ったのに、ちくしょうっ!!」
一度、たった一度負けただけでそこまで悔しいのか、司はいつもの余裕を完全に失い、手の痛みなども忘れて何度も何回も拳を壁に向かって叩きつける。その手には、ほのかに血が滲んでいた。
「悔しいのかい?司」
「……!!…雅治、なにしに来やがった」
その向こう側には負けてしまった司の様子を見に来た雅治の姿があった。
「いい加減に思い出そうよ、いくらあんなことがあったからと言って、1回も負けてはならないなんて、どうかしてる。椎名を見たかい?あの子は君とのバトルをずっと楽しそうにしていた。………でも司、君は……」
「黙れよ、雅治。一々それを言うな」
「茜さんが言いたかったことは絶対にそう言うことじゃないはずだよ」
「………!!」
なかなかつかみ所のない会話。この2人の間に何かあったことはまだここでは語ることはできない。
司は雅治の言葉に思わず黙り込んでしまう。
「……少し、考えさせてくれ」
それだけ言い残して司は雅治の後ろを通り過ぎて行った。司と雅治の過去に何があったかはわからないが、それはきっと2人にとって重要なことなのであろう。
雅治が椎名の勝利に1票を入れたのは、司に昔のような楽しいバトルを思い出して欲しかったから。司が椎名と関われば必ず椎名が司の心にある何かを変えてくれる。そう信じたのだ。
結果、司はその椎名の影響力で何かしらの心が揺さぶられ、崩壊した。この心が完全に回復するには、また少し時間がかかることだろう。
〈本日のハイライトカード!!〉
「はい!椎名です!今回はこいつ!【シュリモン】!」
「シュリモンは緑のアーマー体!召喚時に相手の疲労状態になっているスピリットを手札に戻したり、アーマー体のアタック時には相手のバーストを使えなくしたりできるよ!」
最後までお読みいただきありがとうございました!