バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

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第42話「芽座葉月……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

これはこの物語が始まる約5年前、芽座椎名がまだ界放市に現れていない頃、故郷であるとある離島にいる時のお話。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「…………じっちゃぁん!」

 

 

1人の少女が大きくも元気な声で誰かを呼んだ。すると、大きな木の家から1人の初老の男性が勢いよく飛び出して来る。

 

 

「おおっ!!【しぃ】!!帰ったか!!!偉いぞぉ!!」

「魚釣ってきたよ〜〜!!」

 

 

【しぃ】こと、当時11歳の芽座椎名が、【じっちゃん】こと、芽座六月に大量の魚が注ぎ込まれたバケツを元気よく笑いながら見せた。

 

 

「おおっ!!偉いぞぉ!!しぃ!!」

 

 

魚を釣って帰って来ただけで偉いとは何事か、だが、このやり取りはこの2人の間ではごくごく普通のことである。六月はとにかく椎名にはデレデレである。そんな椎名もじっちゃんこと、この芽座六月が大好きだ。

 

ここ、この自然豊かな離島、そこにある大きな山、さらにそこに聳え立つ大きな木の家。「ハウス」と呼ばれるそこには大勢の身寄りのない子供達がいた。

 

その子達のほとんどは【芽座六月】が旅の途中で見つけ、哀れんで拾ってきた子達ばかりだ。【芽座椎名】もその1人。

 

 

「…………あ」

 

 

椎名は何かを思い出したかのように声を発する。

 

 

「む?どうした、しぃよ」

「みんな広場でバトルしてるから私もそっちに行くね〜…………じっちゃん!魚適当に捌いてて!後で私がご飯作るから〜〜」

 

 

そう言って椎名は釣竿とバケツを六月に押し付け、1人、家の前の大きな草原こと、広場に急行した。六月もそれに対し文句を言うこともなく、「いってらっしゃい」と、言葉だけで、その小さくも細い背中を優しく押した。

 

 

「お〜〜い!!みんなぁ!!!」

「あ!しぃ来た!」

「遅いぞぉ!」

「ごめんごめん!魚釣ってててさ〜〜」

 

 

ざっと見て20人くらいはいるか。椎名より歳上はいない。それ以下の年齢か、同じ年齢の者が全体を占める。

 

ー共通しているのは皆、身寄りのいない子供達であると言うことだ。

 

 

「早速誰か私とやろうよ!」

「よし!じゃあ私とやろうか!!」

 

 

椎名とのバトルに名乗りを上げたのは同年代の女の子。2人はバトル台でデッキを並べてバトルする。

 

ここの子供達は【Bパッド】をあまり知らない。田舎すぎるからだ。なので、バトルするならスピリットも現れることもないこの普通のテーブルでのバトルとなる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

これが当時の椎名の暮らしだった。自然豊かなところでよく動き、よく学び、そしてバトルの腕を磨いていった。

 

 

 

******

 

 

 

「フレイドラモンでアタックッ!!……渾身の爆炎!!ファイアァァアロケットッ!!」

「…………あ〜〜だめだ!ライフで受ける!」

 

 

椎名がラストアタックを決め、相手側の最後のライフを減らした。相手側も指でなでおろすようにそのコアをリザーブに置く。

 

 

「やっぱしぃは強いなぁ〜〜」

「えっへん!!こう見えてもバトラー最強を目指してますから!!」

 

 

椎名はかっこよくガッツポーズを構えた。

 

この当時から椎名のバトスピセンスは冴え渡っていた。その引きの強さと勘の良さは、5年後から始まる界放市でのバトルでも余すとこなく活かされている。

 

 

「それはそうと、なんでフレイドラモンとかライドラモンのアタック時とかに、なんか必殺技みたいなセリフ言うんだ?」

「そっちの方がかっこいいじゃん!!なんかそんなのが出てきそうな気がするんだよね!!」

 

 

同年代の男の子がそう椎名に言った。

 

当時、椎名は既に一般化していたBパッドにまだ触れたこともなかった。故にフレイドラモン、ライドラモンと言った自身のエース達を実際に見たことがなかったが、自分の勝手な想像で、この当時から椎名はスピリット達の技名を叫んでいた。

 

ーそんな時だった、

 

 

「…………あ、葉月……」

 

 

さっき椎名とバトルした同年代の女の子がそう呟いた。

 

そこにいたのは芽座六月の実の孫、【芽座葉月】当時は15歳だ。そのまま広場の子供達のバトル場を通り過ぎようとする。

 

 

「むっ!!帰って来たなぁ!!葉月!!…………よぉし!!……」

 

 

が、椎名はそれを良しとはせず、秋に唐突に吹き荒れる竜巻のような俊敏さで、颯爽と葉月に話しかけに行く。

 

 

「おい!!葉月!!今日こそはどっちが強いか決着をつけるよ!!」

 

 

椎名がそう言うと、葉月は椎名の方に顔を向ける。だが、それは家族を見るような目ではなく、まるで汚物でも見ているかのようである。

 

 

「…………お前じゃ何度俺に挑もうと勝てん……去れ、雑魚」

 

 

葉月は鋭くも冷たい言葉で椎名を突き放そうとする。が、椎名もなかなか下がろうとせず、

 

 

「何を〜〜!!こちとらどんどん強くなってんだぞ〜〜!!!!」

「うるさい角虫」

「誰が角虫だ!!」

「…………うるさいって言ったんだ。俺はお前と違って忙しいんだよ」

「………………」

 

 

そう言って葉月は椎名をまた冷たく引き離し、椎名達が住むハウスの横に有る大きな洞穴の中へと入り、その姿をくらました。この洞穴にはちょっとした秘密があって、

 

 

「あんにゃろ〜〜!!次こそは絶対バトルさせてやる〜〜!!そして勝つ!!」

「しぃ、もう葉月に絡みに行くのはやめとけよ………」

「なんで?」

「なんか最近………っていうかずっと前からなんかおかしいよあいつ。近寄りづらいって言うかさ、」

「ほとんど洞穴の先にしか行かないしね」

 

 

【芽座葉月】はここの子供達の中では1番歳上である。が、5年くらい前からか、その時から他の子供達と遊ぶようなことはほとんどしなくなり、あぁやって直ぐに洞穴の先に赴くようになっていた。

 

【謎の洞穴】これは六月曰く、昔からあるようなのだが、危ないと言う理由でか、【六月は子供達にその中へは立ち入り禁止】としている。そんな中、何故か葉月だけが赴くことが許可されている。

 

葉月にはそこに「入る権利がある」それだけが子供達の頭に刷り込まれていた。

 

故にあの洞穴の中は葉月以外の他の子供達では入ることはできない。それがこのハウスの絶対的ルールであった。

 

 

「あの洞穴、なんなんだろうね」

「んんんーーーーー」

 

 

1人の子供が呟くと、椎名が頭をフル回転させて考えた。

 

そうすると、その中である1つの仮説が浮かんできた。

 

 

「………あっ!わかった!!動物園があるんだよ!!!葉月はそこで飼育さんをしてるんだ!!」

「……………うわ〜〜頭悪いのが丸わかり………」

 

 

椎名の頭の悪い発言に若干ひく子供達。

 

 

「……って言うか葉月めぇ!!強くなった私ととことんバトルしないつもりだなぁ?…………ふふ、ならこっちにも奥の手があるぞ〜〜!」

「何かやるの?椎名?」

 

 

どうしても葉月を振り向かせたい椎名。そんな椎名にはある作戦が1つあった。これならば絶対葉月が自分とバトルしてくれるだろうと思える完璧な作戦が、

 

 

「それってどんな手?」

 

 

他の子供達も少しだけそれが気になっている様子。

 

 

「ふっふっふ!!その名も、【葉月の誕生日にプレゼントを渡してバトルしてもらおう作戦!!】だぁ!!」

「……………は?」

 

 

1人だけでない。他のどの子供達も椎名の発言にそう思った。「何を言ってるんだ?」と。

 

 

「………もしかして、それって明日葉月の誕生日だからプレゼント渡して、喜んだ葉月が椎名に同情してバトルしてくれる。……………って寸法じゃないよね?」

「その通り!!」

「馬鹿!!そんなのであの葉月がバトルに応じるわけないでしょ!?」

「大丈夫大丈夫!!私の気持ちは絶対届く!!!なんてったって、血は繋がってないけど、家族だからね!!日付が変わった瞬間に叩き起こしにいくぞぉ!!!」

 

 

椎名はなぜか自信に満ち溢れていた。たしかに同年代の女の子が言うように、あの仏頂面で、冷たくて、本当に自分達のことを家族だとも考えていなさそうな葉月が、その程度で喜ぶとは思えないだろう。

 

 

「よし!!今日は早めに寝なきゃ!!」

 

 

が、この本気でやる気になっている椎名を止められる者はいない。

 

 

 

******

 

 

ーそしてその日の真夜中の時間帯の出来事、

 

 

「…………俺は強くならねばならん………あのカードに認められるために…………」

 

 

ここは洞穴の中。ひんやりとしていて、なかなかに広い空間が広がっている、そんな中、葉月はたった1人、バトルの修行を積んでいた。ある【スピリット】に選ばれるために。

 

バトルの台でデッキを並べ、戦略を考え、ドローの鍛錬をし、己を鍛え上げていた。その横にある大きめの石板に、【あるスピリット】が見えるように埋め込まれていた。

 

その【スピリット】はとても強力な力を持っていた。が、それ故か、ある特徴があった。

 

ーそれは時代によって人を選ぶこと、【そのカードと同じ類の力を持つのは全部で13枚】存在しているのだが、

 

ーそのカード達には意思があり、自分で主人と認めた者しか使われようとしない。

 

ー葉月はそんなカード達に魅了され、日々の鍛錬を重ねているであった。

 

ーだが、ほとんどここに入り浸るようになってから5年。それほどの歳月が流れても、一向に彼はそれに選ばれたりはしなかった。

 

そんな彼を見かねてか、ある人物が、その修行を制止させるかのように声をかける。それは葉月にとっては嫌という程に聞き慣れた声であって、

 

 

「…………もうやめとけ、葉月。お前みたいな奴じゃあ、【マグナモン】には………いや、崇高なる【ロイヤルナイツ】には選ばれんよ」

「………っ!?!」

 

 

葉月は声のする方へと振り向いた。そこにいたのは彼の実の祖父。【芽座六月】

 

 

「…………どういうことだ、ジジイ!!………こいつは俺達【芽座一族】のカードのはずだろ!!」

 

 

そう、【13枚のスピリット】とは、【ロイヤルナイツ】。そしてその所有する【バトスピ一族】こそ、椎名の名字であり、葉月、六月が血縁的にそれに属する【芽座一族】であった。

 

 

「………そんな一族の誰が目覚めさせたかもしれないカードだ。無理に使う必要もない」

「何言ってやがる!!これがあれば俺は最強のバトラーになれる!!これがあれば俺の実力を示すことができる!!」

 

 

【ロイヤルナイツ】の正体。それは【芽座一族のオーバーエヴォリューションによって生まれたカード】である。

 

一族の誰かが、創世したかは知られてはいないが。大昔にそれらは創られ、今の【芽座一族】へと引き継がれたのだ。つまりは六月や葉月の祖先が、【ロイヤルナイツ】を生んだとも言えるか。

 

ーだが、今は色々な場所に飛び散ってしまい、この祠に眠っているのは【マグナモン】だけとなった。

 

 

「…………そんな気持ちのありようで、お前が崇高なる【ロイヤルナイツ】に選ばれるものか………」

「………な、なんだと…………俺は今!お前より遥かに強い!!【ロイヤルナイツ】などなくてもなぁ!!」

 

 

葉月はとにかく強さを求める者であった。何を切り捨ててもいい。何をなくしてもいい。どうでも良いからただがむしゃらに力を欲していた。それが自分にとって、何よりも生きていると実感させてくれると思っているから。

 

ただ、それは六月の志向とはほぼ真逆の方向性であって、

 

そしてそんな六月はここで葉月にある提案を寄越した。それは【バトスピ一族】であるならば、誰もが納得する理由であって、

 

 

「………なら示せ、バトルでな……」

「…………」

 

 

そう、この世界においては何よりもバトルの結果が優先される。自分の意見を通したいのならば、自分のバトルの腕で示すしか他はない。

 

 

「…………いいだろう……俺の強さを証明してやる」

 

 

当然、引くわけもなく、葉月はこのバトルに乗っかった。

 

 

******

 

 

ージリリリリリリリリ!!!!!

 

 

そんな目覚まし時計の音が1つの部屋を音で埋め尽くすように鳴り響く。今の時間は真夜中だと言うのに。窓から覗ける暗がりの夜空がなんともミスマッチだ。

 

そしてそれをベッドで寝ていた1人の少女が手で叩き止め、毛布を吹き飛ばす勢いで体を起こす。

 

ー芽座椎名だ。

 

 

「ふっふっふ!!作戦決行!!」

 

 

時刻は午後23時50分。赤毛の少女、椎名は葉月への誕生日プレゼントが入った紙袋を手に持ち、いざ、彼の部屋へと向かった。

 

 

******

 

 

「…………ほれ」

「…………??」

 

 

一方、洞穴の中では、六月が葉月にある物を投げつけた。【Bパッド】だ。物語が始まる5年前だが、当時から既にこの科学の結晶とも言える機械は世に出回っていた。

 

が、田舎者である葉月は当然それの形を知るわけもなく、

 

 

「………なんだこれは」

「これは【Bパッド】………名前くらいは知っとるじゃろ、都会にあるバトルするための道具じゃよ」

 

 

そう言いながら、六月は葉月に見本を見せるかのように自分の分のBパッドを展開し、デッキをセットした。

 

が、葉月は六月がもうひとつのBパッドを持って来ていた事に反応を見せ、

 

 

「…………ふんっ!2つ持ってきたってことは最初っからバトルする気だったってか………なめたクソジジイだぜ」

「念のためじゃよ………強さを証明するんじゃろ?じゃあかかってこんかい」

「……………上等………っ!!」

 

 

葉月も六月の見様見真似でBパッドを展開し、デッキをセット。

 

ーそして孫と祖父。それぞれの想いが募る中、そんな2人のバトルが始まる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

******

 

 

ーそして、時刻は深夜0時。ハウスでは椎名がいもしない葉月の部屋へと侵入しようとしていて、

 

 

「…………そーーーーーーっと、………………そーーーーーーーーっとだよ………………よし!着いた……」

 

 

気分はまるで忍者。椎名は片手にあるカンテラの灯りを頼りに暗がりの廊下を抜き足、差し足、忍び足で進んでいく。

 

ーそしてようやく到着。椎名は勢いよくドアの取っ手を掴み、………

 

 

「はぁぁづきぃぃい!!!誕生日おめでとう!!」

 

 

葉月の部屋のドアを開けた。そして陽気な声を飛ばしながら中に飛び込む。

 

ーが、

 

 

「…………あ、あれーーーい、いない?」

 

 

当然、洞穴の中にいる葉月にそこで会えるはずもない。既にもぬけの殻だったことを、椎名は悟る。そして推理していく。今、葉月がどこにいるのかを……………

 

そうしたら椎名の頭の中で1つの仮説が浮かんできた。

 

 

「…………あ!!もしかしてまだ洞穴にいるんじゃ…………」

 

 

間違いない。その推理は正しい。だが、それとは別に新たな問題が生じてくる。

 

 

「んーーー…………でも洞穴入ったらじっちゃんに叱られるんだよなーーーーーー」

 

 

そう、普段は入ることを禁じられている洞穴の中に行くのは至難である。大好きな六月に叱られるのも何か嫌なものがある。

 

が、思い切りの良いのが椎名のいいところであり、

 

 

「ま、いっか!!叱られたらそれはそれで良いや!!」

 

 

叱られないことよりも、葉月にプレゼントを渡すことと、バトルをすることを何よりも優先した椎名。

 

結局洞穴の中へと向かうことにした。

 

 

******

 

 

舞台は戻り、洞穴の中。六月と葉月はバトルをしていた。状況は圧倒的に祖父である六月が優勢であって、

 

そんな彼の場には洞穴の大きな空間を埋め尽くすほどに巨大なアルティメットの龍が存在しており、

 

 

「…………ぐっ!」

「…………行け………アルティメット・リーフ・シードラ」

 

 

六月の物静かな言い方に対し、そこにいた巨大なアルティメットの龍は特大級の咆哮を上げる。そして体中にある珊瑚や海藻の様なところからどんどん内側へとエネルギーを溜めていき、破壊光線として胸部から放射した。

 

 

「…………ぐ、ぐおぉっ!!」

 

 

それは瞬く間に葉月のライフをいとも容易く破壊した。

 

葉月のライフは残り1で、場のカードはゼロ。誰がどう見ても絶体絶命の状況であるのは確かなことであって、

 

 

「…………どうした?実力を見せるんじゃないのか?葉月よ」

「……………この……ジジイ……っ!!」

 

 

芽座六月と言う男のあまりの圧倒的な強さに手も足も出ない葉月。

 

そんな葉月を哀れんでか、六月は彼に助言とも取れる口出しをして行く。

 

 

「お前に足りないものはただひとつだ。葉月。………それは【バトルを楽しむ心】お前からはその感情が微塵も感じられない」

 

 

六月は葉月にそう言った。【バトルを楽しむ】それこそが彼の、六月の心情であり、志しである。楽しむことが何よりもバトルにおいては重要であり、勝ち負けの喜びや悔やみなどの感情はその後についてくるもの。彼はそう考えており、また、それを信じている。

 

葉月のバトルからはその感情が全くと言っていいほどなかった。とにかく勝つことだけを考え、常に行動していた。

 

正反対だ。反対すぎる。2人の趣向は全く別の方向にあった。実の家族であると言うのに。

 

 

「…………何言ってやがる………バトルはそもそも楽しむためのものじゃねぇだろ…………」

「……………?」

「バトルは、カードは己の力を示す道具!!!それ以外は何でもない!!俺は必ずそれを証明し、いつか必ずお前のその皺の寄った口を黙らせてやるっ!!……………必ずだ!!!……………必ずだぁぁぁぁ!!!!!」

「……………葉月………」

 

 

葉月の心からの全力の言葉。又はその想い。

 

ーそしてその想いは、世界のどこかに散っていたある1枚のカードを震撼させ、顕現させる。それは強大で、凶悪で、尚且つ、何よりも神聖なものであって、

 

 

「………………う、うおぉぉぉぉぉおお!!!!!」

 

 

何を感じたのか、大きな声で叫けぶ葉月。すると、それに呼応し、共鳴するかのように、何かが世界の果てより、この洞穴に引き込まれる様に飛び向かう。

 

 

******

 

 

「…………ん?…………なんだろ?さっきの?」

 

 

ここは洞穴の外だ。お気に入りのブーツに履き替え、ハウスの外に出た椎名は、洞穴の中に入ろうとした直後にその飛び行くカードを見た。暗くてそれがカードであるのかも定かではなかったが、たしかに何か飛んでいるのが見えた。

 

ーそれは何よりも悍ましく、禍々しいものであり、

 

 

 

******

 

 

 

「…………うおぉぉぉぉぉおお!!!!!」

「……………な、なんだ!?何が起ころうとしている??」

 

 

洞穴の中だ。

 

六月も流石にその異変を感じていた。何かが近づいてくる。何かとてつもない何かが、凄まじい何かが、悍ましく禍々しい何かが……………

 

確かにこの洞穴に迫ってきていた。

 

ーそして、

 

 

「………………」

 

 

1枚のバトスピカードが、葉月の手に吸い込まれる様に飛び向かってきた。

 

 

「…………??な、なんだ、そのカードは…………」

「………俺が求めていた力と言う名のカードだ!!!」

 

 

葉月はなんの躊躇もなく、そのカードをかざした。大きく。はっきりと、祖父である六月に見せる様に、

 

そしてそのカードを見た六月は気づいた。そのカードの正体に…………

 

 

「…………ま、まさか!?!……そのカードは…………【ロイヤルナイツ】の………」

 

 

【ロイヤルナイツ】だ。この場にあったマグナモンの他に2枚目の【ロイヤルナイツ】が世界のどこかから葉月を守るかの様に姿を現したのだ。

 

ーそしてそれが呼び出される。

 

 

「……………………召喚っ!!!」

 

 

葉月がそう呟いただけだ。それだけで、

 

 

「……………っ!?!アルティメット・リーフ・シードラ!?!」

 

 

アルティメット・リーフ・シードラの背後に突如、ワームホールが出現、そしてそこから黒い手だけが姿を見せる。それはアルティメット・リーフ・シードラを鷲掴みにし、そのままそのワームホールへとそれを無理矢理引きずり込んだ。

 

 

「…………そして現れる………」

「……………っ!?!」

 

 

葉月の目の前に、既に何か巨大なスピリットが聳え立っていた。その姿はシルエットのように影が薄っすらとかかっていて見えずらいが、その佇まいと体格、風貌から、【ロイヤルナイツ】だと思われる。

 

 

「……………な、なぜ葉月が選ばれた?!……いや、なぜこの時代に葉月を選んだ、黒鎧のロイヤルナイツよ!!」

 

 

葉月側になぜついたのか、理由がさっぱりわからない六月。

 

それもそのはずだろう。なにせ、【ロイヤルナイツ】は人を選ぶが、あのような不届き者が選ばれるなど前例がない。

 

 

「……………これが、俺の…………力だぁぁぁぁ!!!!!………くたばれぇぇ!!!」

「…………っ!?!」

 

 

その【ロイヤルナイツ】は手に持っている身の丈ほどの巨大な大剣を、六月のライフに向けて勢いよく振り下ろす。

 

ーそして、

 

 

「……………ぐっ!!!ぐおぉぉぉぉぉお!?!」

 

 

六月のライフを全て砕いた。一欠片さえも残さず、一瞬にしてまとめて葬り去った…………

 

これにより、このバトルの勝者は、実の祖父、六月を降した芽座葉月だ。

 

 

「……………ふ、……………はっはっはっは!!!!どうだ!!俺の力だぁ!俺が選ばれ、得た力なんだぁ!!!………………決めた、決めたぞぉ!!俺は世界中に散らばった全ての【ロイヤルナイツ】を手に入れ、最高の強さを手に入れる!!!…………誰も到達し得ない、高見へと、俺は行く!!!」

 

 

葉月はこの目の前の【黒鎧のロイヤルナイツ】を見て、使って、それらの強さを再認識する。やはり強力すぎる。自分のために存在するものだと認知してしまったのだ。

 

 

「…………あばよジジイ!!どうやら俺の考えの方が正しかったみたいだな………っ!!」

「……………………勝手にしろ…………お前のような屑は孫でもなんでもない……………」

 

 

六月は疲れ切ったような震える声で、葉月を突き放す。

 

 

「…………はん!……そうかよ」

 

 

そう言って葉月はこのハウスを、島を出て行くことにした。1枚1枚が奇跡の塊で、強烈なパワーを持つ【ロイヤルナイツ】のカードを探しに。

 

六月はそれを止めようとはしなかった。負けた自分がとやかく言うことはできないだろうと思ったからだ。

 

葉月は最後にその言葉だけを言い残し、洞穴の出口へと向かった。

 

 

******

 

 

 

「………さっきのなんだったんだろ?……………ん?」

 

 

洞穴の最奥部への道中、椎名はさっきの妙なカードのことが気になっていた。そんな時だ。彼女の目の前に六月を降してきた葉月が現れたのは、

 

椎名はそれが見えた途端、テンションが上がり、

 

 

「おぉ!!葉月ぃ!なんだやっぱりこんなところに来いたんだ!!…………実は渡した………」

「俺は今日、ここを出て行く…………」

「……………え?」

 

 

渡したい物がある。そう椎名が歓喜しながら言う前に、葉月から放たれた言葉が椎名の身体を硬直させた。

 

 

「で、出て行くってなんで急に………」

「俺の勝手だろ………」

「勝手じゃない!何時に出て行くの?」

「今すぐだ」

「早っ!!」

 

 

別に出て行くのはかまいやしない。彼も今年で16だ。むしろそういうものなのだろう。だが、椎名はせめて朝まで待って、他の子供達にお別れを言って欲しかった。

 

 

「…………まぁ、いいか………じゃあ私のプレゼント受け取ってよ………誕生日でしょ?」

 

 

心の広すぎる椎名は、それでもまぁ良いかと思い、葉月にプレゼントとして買った、ある物が入っている紙袋を手渡した。

 

ーが、葉月はそれを受け取るなり、地面に叩きつけるように捨て、足で踏みつけにした。せっかくの上等な紙袋に泥がつき、破けた。

 

 

「………え?」

「……………お前は勘違いしてるぞ…………俺はお前の家族じゃない…………ましてや兄でもない…………真なる家族は血で結ばれているもんだ……………つまり、お前の本当の家族など、ここには【いない】」

 

 

葉月はそれだけを、椎名に冷たい言葉だけを言い残して、その場を去って行く。ハウスにも戻らず、そのまま山を降りていった。

 

椎名はこの瞬間。何もかもを悟った。葉月は最初から自分を、自分達の事を家族とは思っていなかったことに。

 

 

「…………本気なのかよ…………今までずっとそんなこと思ってたのかよ………私はずっとあなたのことを家族だと思ってたのに…………………葉月ぃぃぃいいい!!!!」

 

 

椎名のどうしようもない感情から流れ出た全力の叫びが、ハウスや洞窟だけでない、この付近の山々全体にこだました。

 

これが椎名に起きた過去。そして芽座葉月が家を出た理由であった。当然、洞穴に入っていなかった椎名にはその理由など知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

「………………………ぐへっ!」

 

 

時は戻り、【現在】。真夜中に、17歳の椎名は寝相の悪さにより、ベッドから寝ぼけて落っこちてしまった。その衝撃で目がバッチリ覚める。

 

 

「………………葉月の奴………今頃何してんだろ?」

 

 

椎名は起き上がることはせず、床でゴロゴロと転がりながら、葉月のことを頭に思い描いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、早朝、バトスピ学園ジークフリード校にての出来事であった。

 

いつも通りの朝。ホームルーム。いつも通りの席に座り、いつも通りの席に友達が座っている。この時間帯にそれは起こった。

 

 

「えーーー皆に紹介したい人がいます!」

 

 

ホームルーム中、担任の【空野晴太】が力強い声でそう言った。紹介したい人。そうなると、転校生と言う考え方が妥当だ。誰だろう、いったい誰だろう、と、クラスの皆は盛り上がる。

 

ーが、晴太が呼び出したのは、皆の予想とは裏腹に、全く別の人物であって、

 

 

「…………入ってきていいぞー」

「…………………はい」

 

 

ーその人物が教室のドアを開け、入室してくる。その人物はまさしく大人だ。案外高校生であると言われてもおかしくないくらいには若いが、どこかやはり大人びている部分を感じる。

 

そのモデルのような体型や、端正な顔立ちに皆、ほとんどが、「おおっ」と眉間にしわを寄せる。

 

全然、全く知らない人であるのは間違いないことであって、

 

ーだが、このクラスの中にたった1人だけ、その人物を昔から知る者がいた。

 

 

「………………え?」

 

 

椎名は驚いた。それもそのはず、なにせ、その人物は…………………

 

その顔を忘れる訳がない。忘れられる訳がない。子供の頃の楽しい記憶、思い出。

 

そんな記憶の中を共に過ごして来た兄弟のことを、

 

 

「今日から少しだけ、このクラスで【教育実習生】として勤めることになった……………………」

「【芽座葉月】だ。…………よろしく」

 

 

葉月は自分の名を黒板にチョークで綺麗に書き留めた。

 

そう、間違いない。あれは本当に、本当にあの時、自分に理由を話さないまま島を飛び出していった、義理の兄。

 

ー芽座葉月だ。

 

この再開が、椎名にどう影響を与えて行くのだろうか……………………

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

雅治「今日のカードは【フレイドラモン】」

雅治「フレイドラモンと言えば、もう椎名のお馴染みのエーススピリット、技名である「ファイアロケット」はこの6年前の当時から考えられていたんだね」



******


〈次回予告!!〉

真夏「まっさか、ここに来て、椎名の義理の兄登場!?そして狙いはロイヤルナイツのマグナモン!?面ろくなって来たでぇ!……っと言いたいとこやけど、正直私は椎名が心配やわ………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「ロイヤルナイツ激突!!」……今、バトスピが進化を超えるでぇ!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次あたりから有名なデジモンラッシュ、及びそれらが使用されるバトルが続くと思いますので、何卒応援の方をよろしくお願いします!

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