椎名がいなくなってから3日の時が経った。椎名が学園側に何も連絡を寄こさずに故郷へと帰郷してしまったため、他の生徒達はおろか、教師陣も椎名の行方を知らない。不登校という扱いで処理されている。
「先生!!なんであの実習生に目を瞑ってはるんですか??」
ここは職員室。関西弁訛りの女の子、真夏は担任の晴太に問いただしていた。椎名のマグナモンを奪った葉月についてだ。
「……おいおい真夏、この間話しただろ?普通に奪ったならまだしも、マグナモンのカードから勝手に彼の元に行ったんだ。政府に訴えてもいい返事は返って来なかったって………証拠がないしね」
「せやけど!!」
通常。アンティルールは法律で固く禁じられている。が、今回の件については、マグナモンのカードから勝手に葉月の手元に行くという摩訶不思議な異例な事件であるため、政府に訴えても対していい返事はもらえず、この件自体が保留となっていた。
「まぁ、いざとなったら俺がなんとかしてやるから」
「じゃあ今すぐせんかい!!」
担任である晴太はこの件を対して重く見てないかのような表情、及び口ぶりであった。椎名の友人である真夏がここまで真剣に相談に来ているというのに。
本当は晴太だって何度も政府にこの事を告訴したのだ。だが、政府から返ってきた返答はマグナモン、ロイヤルナイツのあの謎めいた現象の証明をしてくれの一言のみ。理事長と市長もその威光には抗えないため、ここまできてしまった。
晴太も椎名のマグナモンを取り戻したくて精一杯なのだ。
「………はぁ、もうええわ、あたしらだけで何とかしてみせます、失礼しました………」
真夏はそう呆れながら言って職員室を出た。
その職員室の扉の前には雅治がいた。
「どうだった?」
「もう先生とかもお手上げみたいや、あてにならん」
「じゃあ、やっぱり僕らがどうにかするしかないね……」
とは言ったものの、実際、どうにもならなかった。彼ら、今の2年生は彼とバトルできる授業がないからだ。
もちろん普通に話せばバトルはしてくれるはずなのだが、葉月に限ってはそれを良しとはしなかった。椎名のようにロイヤルナイツを所持していないからだ。
夜宵は仕事が忙しいし、司は完全に椎名のことを見限ったため、助けようともしない。
唯一頼りになったのは…………
******
「芽座先生………僕とバトルしたください……っ!!」
「………」
椎名の1つ下の後輩、九白英次が、芽座葉月にバトルを申し出た。
ここは学園の第2スタジアム。今は1年生が実技の授業を受けていた。そして偶然にもそれは英次のクラスで、そして教える側の教師も芽座葉月だった。
葉月は知っている。英次が椎名側の人間であることを、
「他の生徒とバトルしなくていいのか?」
葉月が英次に聞いた。
基本的にこの授業はクラスの生徒とバトルするのが普通だ。だが、そんな中、英次は葉月にバトルを申し出た。要件はもちろん………
「いいんです!僕が勝ったらマグナモンを返してください!あれは椎名さんのカードです!」
……ロイヤルナイツのマグナモンだ。
「………はぁ……お前で何人目だ?」
葉月は呆れたように溜息をついた。
散々だった。椎名からマグナモンを奪ってからというもの、今回の英次のような生徒と何人もあってきた。
その時は授業中でもなかったため、断ることができたが、今回は違う。教育実習ということもあって、他の教師も葉月に点をつけるべく授業を見ている。
別に葉月は教師にもなりたくはないが、ここでもし何かあったらおしまいだ。このバトルは引き受けなければならなかった。
ちなみに、バトルを挑んできたのは真夏、雅治、夜宵の3人だ。
「…………良いだろう、相手になってやる」
「よし!」
スタジアムの中にいる2人は目の前のバトル場へと足を運び、Bパッドを展開した。そして、
「「ゲートオープン、界放!!」」
ーバトルが始まった。
ー先行は、葉月だ。
[ターン01]葉月
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、ネクサスカード、No.1ノースシーロードを配置し、さらにソードールを召喚。ノースシーロードの効果でコアを追加……」
手札5⇨4⇨3
リザーブ4⇨0
ソードール(1⇨2)
流れるような葉月の展開。背後に白い街が出現したかと思えば、その直後に白と紫としても扱う小型で、腕が剣のようなスピリット、ソードールが召喚される。
葉月の配置したネクサス、No.1ノースシーロードはターンに1度、自分の白のスピリットが召喚されたら、そのスピリットにボイドからコアを1つ追加することができる。ソードールは紫だが、白でもあるため、この効果の恩恵を受けることができたのだ。
「……ターンエンド」
ソードールLV1(2)BP1000(回復)
No.1ノースシーロードLV1
バースト【無】
先行の第1ターン目などやれることが最低限に限られてくる。葉月はそれだけでこのターンを終えた。
次は果敢に葉月に挑んだ英次の番だ。
[ターン02]英次
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、僕はゲッコ・ゴレムを召喚します!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨2
トラッシュ0⇨1
英次が呼び出したのは水晶が所々に付いているトカゲのようなスピリット、ゲッコ・ゴレム。このスピリットは白と青のカードで構成されている英次のデッキを万全にサポートする効果の持ち主であって、
「ゲッコ・ゴレムはメインステップ時のみ、白のシンボルを2つ追加します!そのシンボルを使って、ネクサスカード、甲竜の狩り場を配置します!」
手札4⇨3
リザーブ2⇨1
トラッシュ1⇨2
ゲッコ・ゴレムの頭上に白のシンボルが2つ浮き出てくる。これはそれで軽減できる何よりの証拠だ。英次はさらに白と青のネクサスカードである甲竜の狩り場を配置した。背後に倒壊した街並みが現れる。
「さらにストロングドロー!!手札を入れ替えます!!」
手札3⇨2⇨5⇨3
破棄カード↓
【甲竜の狩り場】
【甲竜の狩り場】
青属性のデッキでは鉄板と言える手札入れ替えカード、その中でも特に扱いやすいストロングドロー。合計の手札の枚数は変わらないが、英次は手札の質を高めた。
「………アタックステップ!!お願いします!ゲッコ・ゴレム!!」
勢いよくアタックステップに入る英次。ゲッコ・ゴレムがサササッと地を這って進んでいく。
「……ライフだ」
ライフ5⇨4
ゲッコ・ゴレムはそのまま葉月のライフに体当たり。そのライフを1つ砕いた。
「よし!先制点は頂きました!!ターンエンドです!」
ゲッコ・ゴレムLV2(2)BP2000(疲労)
甲竜の狩り場LV1
バースト【無】
英次はそのターンを終えた。次は葉月のターンだ。
[ターン03]葉月
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨5
トラッシュ3⇨0
「メインステップ……俺は白の成長期、ハックモンを召喚!」
手札4⇨3
リザーブ5⇨3
トラッシュ0⇨1
「っ!!……出た、ハックモンっっ!!」
葉月は召喚した。ロイヤルナイツに成る可能性を秘めた白き竜を。その背には赤いマント、額にはゴーグルがあり、他の成長期スピリットとは一風変わった印象を与える。
「……ノースシーロードの効果でハックモンにコアを1つ置き、召喚時効果でカードをオープン!」
ハックモン(1⇨2)LV1⇨2
オープンカード↓
【リカバードコア】×
【ポーン・ダイル】×
【アルファモン】◯
【水銀海に浮かぶ工場島】×
【ハックモン】×
ハックモンの召喚時、通常の成長期より遥かに枚数が多い。今回も成功、究極体であるアルファモンが葉月の手札に加えられた。
「………俺はアルファモンを手札に加え、残りをデッキの下に戻す」
手札3⇨4
「…………アルファモン………」
椎名と葉月のバトルは全校生徒が観ていた。当然英次もロイヤルナイツの一柱であるアルファモンの実力は理解している。
このアルファモンをどうにかするかが、勝利への鍵となるだろう。
「………さらに俺はバーストを伏せる」
手札4⇨3
葉月が場にバーストを伏せる。
そして次だ。この次に葉月が呼び出すデジタルスピリットは、英次が何よりも驚くものであって、
「………俺はさらにマグナモンの【アーマー進化】を発揮、対象はハックモン…………っ!!」
リザーブ3⇨2
トラッシュ1⇨2
「……………ま、まさか…っ!!」
そのまさかだ。葉月はデッキに加わった新たなデジタルスピリットを召喚する。椎名から強奪に近い形で奪い取ったロイヤルナイツの一柱を、
葉月の場にいるハックモンがデジタルの粒子となって彼の手札へと帰っていく。そして代わりに現れるのはまさしく黄金の守護竜。
「…………マグナモンを召喚!!」
リザーブ2⇨0
マグナモンLV3(4)BP10000
「……………っ!!」
マグナモンが英次の目の前に現れた。
英次はこれがどれだけ嫌だっただろうか、憧れの椎名が使っていた大事なカードの1枚があんな者の手で召喚されたことが、どれだけ苦しかっただろうか。
「そ、それは椎名さんのカードです!!返してあげてください!!」
英次の必死の叫び。喉が小さいためか、あまり張っても大きな声は出ない。しかし、その必死さは嫌という程伝わったくる。
だが、葉月がこの程度の事に了承するわけもなく。
「何を言ってる?これは俺の力だ……取り返したくば己の力を証明して見せるんだな……」
「………っ!!」
そう冷たく、それでいて冷酷に英次を突き放す葉月。
そして、このタイミングでマグナモンの召喚時効果を発揮させる。
「マグナモンの召喚時効果!!相手の最もコストの低いスピリット1体を破壊するっ!!……ゲッコ・ゴレム、お前だ!!」
「……………くっ!!」
黄金のエネルギーを全域に拡大させるマグナモンの必殺技。エクストリームジハードが英次のゲッコ・ゴレムを包み込んでいく。ゲッコ・ゴレムがそれに耐えられるはずもなく、無残にもあっさり消滅してしまった。
「……そしてアタックステップ……マグナモン!!ソードール!!」
流れるようにターンシークエンスを進める葉月。次はアタックステップ。場にいる2体のスピリットが英次のライフめがけて走り出す。
「…………ライフで受けます!!」
ライフ5⇨4⇨3
マグナモンの拳が、そしてソードールの鋭く鋭利な腕の一撃が、英次のライフを一気に合計2つも破壊した。
「…………ターンエンド」
マグナモンLV3(4)BP10000(疲労)
ソードールLV1(2)BP1000(疲労)
No.1ノースシーロードLV1
バースト【有】
できることを全て終え、そのターンをエンドとした葉月。次は英次のターンだ。葉月のバーストに気をつけながらのターンとなるだろう。
[ターン04]英次
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ5⇨8
トラッシュ3⇨0
「メインステップっ!!………」
英次は考えた。今のこの現状、状況を、勝つためにはどうしたらいいかを、
葉月の場にはマグナモンがいる。マグナモンは疲労状態でもブロックができるため、生半可なアタックは通らない。仮にアタックが通せたとしても、今度はバーストがある。おそらくはアルファモン。下手にアタックすれば間違いなく発動され、一気に不利になる。
つまり、英次は先ずアタックする前に、バーストをどうにかしないといけないのだ。
「………モノドラモンをLV2で召喚!!」
手札4⇨3
リザーブ8⇨3
トラッシュ0⇨1
英次が召喚したのは、自分のデッキの軸となる成長期スピリット、モノドラモン。その青紫の体色が特徴的な竜型だ。
そしてその召喚時効果も一風変わった効果だ。
「モノドラモンの召喚時!!トラッシュにあるネクサスカードを1枚手札に戻します!甲竜の狩り場を手札に戻して、そのまま配置!」
手札3⇨4⇨3
リザーブ3⇨2
トラッシュ1⇨2
ヒラヒラとトラッシュから英次の手札へと舞い戻ってくる2枚目の甲竜の狩り場。英次はすぐさまそれをも配置した。
「…………ターンエンドです」
モノドラモンLV2(4)BP6000(回復)
甲竜の狩り場LV1
甲竜の狩り場LV1
バースト【無】
英次はそれだけでそのターンを終えた。甲竜の狩り場2枚分の力により、アタックステップ中なら、モノドラモンのBPを4000上げ、マグナモンに並ぶ10000になれたと言うのに。
やはり、あのバーストを警戒しているがゆえか、
次は葉月のターンだ。
[ターン05]葉月
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨3
トラッシュ2⇨0
マグナモン(疲労⇨回復)
ソードール(疲労⇨回復)
「メインステップ、2体目のソードールを召喚し、ノースシーロードの効果でコアを増やす」
手札4⇨3
リザーブ3⇨1
ソードール(2⇨3)LV2⇨3
葉月は2体目のソードールを召喚。再びノースシーロードの効果でコアを増やし、英次とその差を広げていく。
「アタックステップ………やれ、マグナモン」
マグナモンが肩のブースターを巧みに使い、飛翔する。目指すは英次のライフだ。
甲竜の狩り場の効果でマグナモンと同等のBPを得ているモノドラモンだが、英次とて、攻めてとなるデジタルスピリットに進化できるモノドラモンをこの大事な場面で失うわけにもいかない。
ーよって、
「………ライフで受けます!!」
ライフ3⇨2
マグナモンがその拳で勢いよく英次のライフを殴りつける。英次のライフはまた1つ砕かれ、残り2つとなった。
「……………エンドだ」
マグナモンLV3(4)BP10000(疲労)
ソードールLV2(3)BP3000(回復)
ソードールLV2(3)BP3000(回復)
No.1ノースシーロードLV1
バースト【有】
葉月はこのターン。様子見だけか、特に大きく動き出すことなく、ただ1度のアタックだけでターンを終了させた。
次は英次のターンだ。ここあたりでどうにかしないとジリ貧になりかねないが………
[ターン06]英次
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨6
トラッシュ2⇨0
「メインステップは行わず、そのままアタックステップに移行します!!」
「………………そうか」
英次の意気込みが伝わって来たか、葉月はこのターンで彼が何かしらを仕掛けることを見抜く。
それは的中している。英次はこのターンで一気に勝負を決める気でいた。
「モノドラモンでアタック!!そしてアタック時効果の【超進化:白/青】を発揮!!完全体のデジタルスピリット、サイバードラモンに進化!!」
サイバードラモンLV2(4)BP16000
モノドラモンにデジタルコードが巻き付けられ、その中で進化を果たしていく。新たに現れたのは黒いボディの竜型スピリット、サイバードラモンだ。
このスピリットは完全体。是が非でもアタックせねばならなくなる。
「アタックステップは継続!!サイバードラモンでアタックです!!」
走り出すサイバードラモン。そしてこのタイミングで、英次はあるカードを手札から引き抜く。
ーそれは自分のオーバーエヴォリューションによって手に入れた奇跡の1枚であって、
「さらにフラッシュアクセル!!ジャスティモン!!」
手札4⇨3
リザーブ6⇨4
トラッシュ0⇨2
「……………っ!!」
流石の葉月も少々驚きを見せる。それもそのはず、そんな名前のスピリットなど聞いたことがないからだ。
場に現れる謎の人影。それは葉月のソードールの前に立ち、その強靭な装備が施された腕で、それを叩き潰した。
「ジャスティモンの効果で相手のスピリット1体をデッキの下に送ります!さらにこの効果で送った相手のスピリットのコスト分だけデッキを破棄!!」
「……………」
破棄カード↓
【ジャコウ・キャット】
葉月に向けて放たれる青い衝撃波。それはソードールのコスト分。すなわちデッキから1枚のカードを破棄させた。
実際はそんなものなんの痛手にもなりはしない。
この後だ。この後がジャスティモンの真骨頂であると言える効果だ。
「さらにこの効果発揮後、1コストを支払って召喚できる……………正義の名の下に僕は君を呼ぶ!!究極体、ジャスティモンをLV3で召喚!!」
リザーブ4⇨0
サイバードラモン(4⇨3)
トラッシュ2⇨3
ジャスティモンLV3(4)BP16000
英次の場に現れるのはまさしく正義のヒーロー。赤いマフラーを靡かせ、今地上に降り立った。
「…………俺も知らないカード………お前もオーバーエヴォリューションを行えた者だったか………」
「そうです!!そしてこのターンで一気に決めます!!」
そう強く宣言しながら、英次はまた手札のカードを1枚引き抜いた。それは【アルファモン】を抹消するためのカードだ。
「フラッシュマジック!!アビスブレイク!!」
手札3⇨2
サイバードラモン(3⇨2)LV2⇨1
トラッシュ3⇨4
「……………っ!?!」
英次の放ったそのマジック。それは白と青のデッキなら強力な効果を2つ発揮できる強カードだ。
「この効果で、先ずはコスト4以下のスピリット、ソードールを破壊!!」
「……………ぐっ!」
鋭い水の斬撃が葉月の2体目のソードールを襲う。逃げる間も無く切り裂かれてしまい、1体目同様、なす術なく消えてしまった。
ーそして当然これだけでなく、
「さらにアビスブレイクの追加効果!【連鎖:白】!!この効果で、相手のバーストを1枚破棄します!!」
「……………っ!?!」
2度目の水の斬撃が狙うのはスピリットではなく、裏側のバーストカード。無敵のアルファモンと言えど、この状態では流石に効果を受けてしまう。
そしてそれは綺麗に葉月の場にあるそれに突き刺さり、消滅していく。
ーだが、葉月のそれを破棄するには、まだまだ詰めが甘かった。
「………………え?」
「……………俺のアルファモンを狙ったつもりだったのか?……」
バースト破棄カード↓
【絶甲氷盾】
英次は破棄されたカードを見て焦りを覚えた。
ーそれは【アルファモン】ではなく、白のマジックカード、【絶甲氷盾】全く別のカードであった。
「………な、なんで……っ!?」
「お前のデッキは白と青。それは最初のゲッコ・ゴレムを召喚した時点で理解していた、つまり、アビスブレイクが入ってる事も分かっていた。お前が勝負を決めるターンで使ってくる事もな!!」
「……………っ!!?!」
葉月は最初からこうなる事を予測していた。だから無闇にハックモンの効果で公開情報となったアルファモンを伏せる事をせずに、敢えてフェイクとして別のバーストをセットしたのだ。
ーだが、
「で、ですがどちらにせよこのターン中にバーストを伏せる事は不可能です!!その前にこのサイバードラモンとジャスティモンの連続アタックで一気に決めます!!」
そうだ。バーストは基本、メインステップ中しか伏せることができない。そのため、このアタックステップではどうしてもアルファモンをバースト召喚する事はできないのだ。
英次の手札にはさらに回復系のマジックがあるため、マグナモンよりBPの上な2体を使い、それを無理矢理突破する気でいる。
が、あの芽座葉月には一切の隙がなく。
「………バーストカードをエースとする俺が、バースト破棄対策のカードを入れていないとでも思ったか?」
「………え?」
そう言って葉月は手札からまた1枚のカードを引き抜いた。
「フラッシュマジック!!救世神撃破!!」
手札3⇨2
リザーブ6⇨2
トラッシュ0⇨4
「っ!?!……赤のカード!?」
葉月が発揮させたのは赤のマジック。それはバーストを多く扱うデッキならば、とても使い勝手の良い効果であって、
「その効果で俺はカードを1枚ドローし、その後俺は新たなるバーストカードをセットする!!………よってこのカードを伏せる!!」
手札2⇨3⇨2
葉月の場に再びバーストが裏向きでセットされる。
ーそれはもう紛うことなき、あの伝説のデジタルスピリットであって、
「………そ、そんな………」
「お前のサイバードラモンのアタック中だったな!!…………ならライフで受けてやろう!!」
ライフ4⇨3
もはや英次にそれを止める選択肢はない。サイバードラモンの鋭く鋭利な鉤爪が、勢いよく葉月のライフを引き裂いた。
ーそしてようやくここで発動される。
「…………俺のライフの減少により、バースト発動!!【アルファモン】!!」
「……………ぐっ!!」
阻止できなかった。その黒いロイヤルナイツの発動を…………
その1つ1つが洗礼された効果が、英次の場を襲う。
「先ずはこの効果で相手のスピリット1体をデッキの下に送る!!ジャスティモン!!俺の眼前から失せろ!!」
「っ!??!ジャスティモン!?!」
ジャスティモンの背後に突如として現れるデジタルゲート、そこから現れる黒い拳。それは瞬く間にジャスティモンを鷲掴みにし、それをデジタルゲートへと引きずり込んで行った。
「さらに俺は手札4枚になるまでドロー!!」
手札2⇨4
葉月はさらにその効果で手札を初期の枚数へと戻す。
ーそして次はようやくそれの召喚だ………
「この効果発揮後、これを召喚するっ!!…………来い!漆黒のロイヤルナイツっ!!アルファモン!!」
リザーブ3⇨0
アルファモンLV2(3)BP14000
葉月の場に現れるデジタルゲート。そこからその黒い拳の正体が現れる。召喚されたのは漆黒のロイヤルナイツ、アルファモンだ。椎名のエーススピリット達を次々と倒していったその強さは英次の記憶にも新しい。
「………そ、そんな………ここまでやってアルファモンの召喚を許すなんて…………」
完璧な戦法のはずだった。アルファモンを破棄しつつ、マグナモンを破壊した挙句、ライフを残り1まで追い込めたはずだった。
だが、結果は見ての通り、もはやフラッシュを打つ間も無く、アルファモンの召喚を許してしまった。
ー最悪の結果だ。
「……エンドステップにサイバードラモンは自身の効果で回復…………た、ターンエンド………」
サイバードラモンLV1(2)BP7000(疲労⇨回復)
甲竜の狩り場LV1
甲竜の狩り場LV1
バースト【無】
自身の効果により再び起き上がるサイバードラモン。だが、タイミングが遅い。
英次は結局サイバードラモンでアタックしただけでこのターンを終える運びとなった。
[ターン07]葉月
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨5
トラッシュ4⇨0
マグナモン(疲労⇨回復)
「メインステップ………俺は再びハックモンを召喚!!ノースシーロードの効果でコアを置き、そしてその召喚時効果でカードをオープンするっ!!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨2
トラッシュ0⇨2
ハックモン(1⇨2)LV1⇨2
オープンカード↓
【ポーン・ダイル】×
【ドリームリベンジ】×
【ジャコウ・キャット】×
【水銀海に浮かぶ工場島】×
【ジエスモン】◯
葉月はここでまた残していたハックモンを展開する。
そしてその召喚時効果も成功。3枚目のロイヤルナイツ、ジエスモンが彼の手札に加えられる。
「俺はこのカード、ジエスモンを手札に加え、残りをデッキの下に送る………そしてこいつの煌臨を発揮!!対象はハックモン!!その効果でコアを3つ追加!!」
手札4⇨5
リザーブ2s⇨1
トラッシュ2⇨3s
ハックモン(2⇨5)LV2⇨3
「……………っ!?!」
ハックモンが聖なる光を纏う。それはまさしく究極進化の光。そして進化する先はこれまた伝説のデジタルスピリット…………
「究極進化ぁぁあ!!………ジエスモンッ!!」
ジエスモンLV3(5)BP14000
聖なる光が晴れるとそこには全てが劔になったかのような聖騎士型のデジタルスピリット、ロイヤルナイツのジエスモンがいた。
これで葉月の持つ3体のロイヤルナイツが場に出揃った。
「………ろ、ロイヤルナイツが3体………っ!?!」
「あぁ、そしてこれで終わりだ……」
容赦がない。葉月はジエスモンの煌臨時効果をも使用し、英次をさらに絶望の淵まで追い込む。
「ジエスモンの煌臨時効果!!お前のスピリット、ネクサスを合計3つまで手札に戻す!!……サイバードラモンと甲竜の狩り場2枚を手札に戻す!!」
「えっ!?!ネクサスも!?」
ジエスモンの周りを自由に浮遊する3つのオーラ。それらが英次の場に飛び交っていく。それに貫かれたサイバードラモンと2枚のネクサスはデジタルの粒子となって英次の手札へと帰っていった。
「…………っ!?!」
手札2⇨5
「アタックステップ…………やれ、アルファモン」
そしてすぐさまアタックステップへと移行する葉月。アルファモンが再びデジタルゲートを使い、その場で姿を消し、そして英次の目の前に現れる。
「………ら、ライフで受けるっ!!」
ライフ2⇨1
アルファモンはその漆黒の拳で英次のライフを殴りつけた。英次のライフは1つを残し、粉々に砕けた。
ーそして次のアタックで終わりだ。
英次は直前に椎名と葉月を比べていた。
同じ時間を過ごした義理の兄妹であるはずなのに、なぜこうも違うのかと。椎名を明るい太陽とするならば、彼はまるで暗がりの月。凍てつくような夜にしか現れない、冷酷で残酷な月だ。
「終わりだ………やれ、ジエスモン……」
最後のアタックはジエスモンに決めた葉月。そのジエスモンが3つのオーラと共に宙を舞う。目指すはもちろん英次のライフだ。
ーもはや英次にそれを止める術はなかった。
「…………くっ!!ごめんなさい………椎名さん………っ!!!…」
ライフ1⇨0
1回だけでない。英次は心の中で何度も椎名に謝った。不甲斐ない自分が情けなく思えて仕方なかった。
ジエスモンの高速の剣技が英次の残った1つのライフを切り刻んだ。
これにより、英次のライフはゼロ。よって勝者は芽座葉月だ。
3体のロイヤルナイツがバトルの終わりに伴い消滅していく。まるでそれを知らせるためかのように、
英次は力が抜け、腰が抜けたように膝をついた。そしてその授業の終わりを告げる優雅な音色のチャイムが鳴り響く。葉月は資料をまとめ、颯爽とスタジアムを出ようとする。
「…………あんな奴に憧れたお前が、俺に勝てるわけがないだろう………」
「…………っ!!」
英次にはこの別れ際に放った葉月のセリフが理解できた。【あんな奴】とはおそらく椎名のこと。その冷たく、冷酷な言葉は、英次を怒りの感情へと沈めていく。
「ふ、ふざけるなぁ!!!椎名さんはあなたよりずっと強い!!強いんだぁ!!」
思わず心から溢れ出てしまった言葉。その場にいた同じクラスの者達や他の教師も何事かと思い、そちらに目を向けていく。
その言葉を聞いて、葉月は一瞬だけ立ち止まるが、すぐさままた歩みを進め、この第2スタジアムを出て行った。
心の中で英次の言葉を何よりも否定しながら…………
ーそんなことあるものか、一度も自分に勝てたこともないあの泣き虫が自分よりも強いなど、おかしな話だ。と思いながら…………
ーそしてその後は誰も葉月とはバトルも出来ず、マグナモンも彼の手にあるまま、とうとう彼の研修期間が終わりを告げてしまった。
******
今日は土曜日。その昼過ぎのことであった。葉月は空港にいた。また別の場所でロイヤルナイツを探そうと、旅を続けるつもりだ。
この界放市での成果は得られた。そしてもう用済みだ。
ーだが、終わってなかった。まだまだ彼に挑むものがいる。
「……………おい、あんたちょっとええか?」
「話があります………」
「…………?」
そう言いながら葉月の後ろから声をかけたのは、
真夏と雅治。
「…………なぜお前ら俺がここを出て行く時間帯と場所がわかった………?」
葉月は不思議に思った。
真夏と雅治は夜宵の得意な占いの力に賭けた。そして夜宵は見事に葉月の場所を特定し、現在に至る。ちなみに夜宵も付いて行きたかったが、仕事のため来ることは叶わなかった。
「もう研修生じゃないやろ?そして時間もある」
「さぁ、椎名のマグナモンを賭けて僕たちとバトルしてください……っ!!」
2人は葉月にそう強く宣言した。
ーだが葉月は……
「お前らとバトルする理由などない……去れ」
冷たく引き離そうとする。今の葉月にとって、ロイヤルナイツを持たない人間。又は弱い人間とのバトルはほとんど価値がない。この間の英次とのバトルも時間の無駄だと思っていたほどだ。
「またそうやって私らから逃げるんか?そんなにロイヤルナイツが奪われんのが辛いか?」
真夏も雅治も引き下がろうとはしない。葉月を煽り出す。
が、葉月はそんな安い挑発に乗るタイプではない。そのまま彼らを通り過ぎようとした。
ーその時だった。
「おいおい…………ここにいたのかよ……芽座先生……」
「………?」
「え?」
「空野先生………」
そこにいたのは椎名達のクラス担任、空野晴太。
彼はこっそりと真夏と雅治の後をついてきていたのだ。
ー葉月に会うために。そして、椎名のマグナモンを取り返すために………
「空野晴太……なぜあんたまでここにいる?」
「ダメか?君の担当は俺だぜ?…………どうだ、そのバトル、俺だったら受けてもいいんじゃないか?」
「「………っ!?」」
晴太は葉月に唐突に宣言してきた。ここでの意味合いは、真夏と雅治に変わって、晴太がアンティルールでバトルしようということになる。
晴太は仮にも教師だ。法で禁止されているアンティルールをやるなど、普通ならその口から出るわけがない。
「……せ、先生……」
「………あんた程の教師がアンティルールをやってもいいのか?下手すれば退職させられるぞ?」
「君も教師志望だろ?じゃあやったら不味かったんじゃないか?」
「ふん……既に分かっているだろう?俺はもともと教師など目指してはいない……」
そうだ。晴太とて当然理解している。これがどんなに危ないことか、だが、それでもやらねばならかった。理不尽にカードを奪われた椎名のためにも………
ひとりの教師として、それを最後まで見過ごすことができなかったのだ。
「ふっ!……まぁ、いいだろう、その伝説バトラーに勝も劣らない力、俺に見せてみろ!」
「よし、じゃあ場所は屋上でな、人少ないし……」
葉月は強い者とのバトルを求めていた。今の自分の限界を知りたいのだ。つまりこのバトルは引き受ける。空野晴太という強靭なバトラーが相手であるからだ。
「は、晴太先生………なんで?」
屋上に向かう途中、真夏が晴太に聞いてきた。
「はは、悪かったなぁ真夏、でも安心しろ、ここからは大人の仕事だ………」
「空野先生も芽座先生の研修期間が終わるのを狙ってたんですね?」
「あぁ、そういう事、研修中は俺も芽座葉月も忙しいから、やるならこのタイミングしかなかったんだ………」
今度は雅治が聞いた。真夏と雅治はその晴太の溜まっていた苦しい想いがようやく理解できた。
晴太の教師人生のかかった一戦が幕を開けようとしていた。
ーそして4人とも屋上に到着。6月という微妙な季節のこの頃は、屋上に人は滅多に集まらない。広い空間もあって、バトルするには打って付けの場所であった。ただ少しばかり気になるのは航空機の影響で他より風が強く吹いている事くらいか。
「さぁ、始めようか………」
「いいだろう……俺の力をとくと味わうがいいっ!!」
真夏と雅治が見守る中、空野晴太と芽座葉月が自分のBパッドを展開し、バトルを始めようとした。
ーその時だった。屋上の扉の方から声が聞こえてきた。
ーそれはそれはとても大きい声。うるさいが、元気で、明るくて、優しい。そんな透き通るような甲高い声。
「そのバトル、ちょぉぉぉぉぉぉっと、待ったぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「「「「!?!」」」」
その場にいた一同は全員が驚愕した。
ー何せ、その声主は、
他でもない、行方知らずの【芽座椎名】であったからだ。
〈本日のハイライトカード!!〉
英次「今日のカードは【ジエスモン】です!!」
英次「ジエスモンは白属性のロイヤルナイツ!手札に戻す効果に加えて、バースト破棄や、アンブロッカブル効果など、有用なものをいっぱい持ってます!流石は伝説のロイヤルナイツの一柱ですね!」
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〈次回予告!!〉
椎名「みんなお待たせ!!やっと帰って来れたよ〜〜……さぁ、葉月!リベンジマッチだ!!私の新しいデッキの強さ、思い知らせてやるっ!!次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ…「新エース! デュークモン!!」……今、私が進化を超えるっ!!」
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最後までお読みくださり、ありがとうございました!
さて、次回はタイトル通り、いよいよデュークモンの登場となります!お楽しみに!!