「真夏ぁ!早く見ようよ!始まっちゃうよ〜〜〜!!」
「待ちぃや!そんな慌てんくても試合は逃げんよ」
教室で椎名と真夏がそんな感じで楽しげな会話をしていた。2人が見ようと言っている「試合」と言うのはバトルのことだ。それも普通の人達のバトルではない。プロのバトラーのものだ。そのライブ中継が本日行われるのだ。
ー今日、バトルするのは特に2人にゆかりのある人物であって、
「ほな、つけるでぇ!」
そう言って真夏がBパッドのチャンネルをテレビ中継に繋げた。
真夏のBパッドにテレビと全く同じ画面が映し出される。
******
ここは日本のどこかの大きなスタジアム。多くの席があるが、大勢の人達により、それは埋め尽くされている。今か今かと楽しみに待っている彼らにより、会場は冷房が効かない程の熱気に包まれている。
《これより、緑坂冬真と一木花火のバトルを始めます》
そんな機械音の混じったアナウンス音が聞こえて来る。
そうだ。今日、この日は昨年、界放市のバトスピ学園、キングタウロス校を卒業した真夏の実兄、【緑坂冬真】ことヘラクレスのバトルだったのだ。彼は卒業後、プロとなり、その実力と堂々とした態度で人気を集めていた。
そして、そんな彼の相手が…………
《緑坂冬真………入場》
そのアナウンスが流れると、スタジアムの右側のゲートが開き、白い煙がプシューっと飛び出してくる。そしてそれを物ともせずに姿を見せるのは、背の高い褐色の男性。ヘラクレスだ。
「ヘラクレスッ!」
「ヘラクレスッ!」
「ヘラクレスッ!」
彼が登場するなり、鳴り止まなくなるヘラクレスコール。彼がプロになってからまだ半年もたたないと言うのに、彼には多くのファンがいた。ある意味流石と言える。
ーそして次に現れるのは…………
《一木花火………入場》
今度は左側のゲートが開き、ヘラクレスと同様の登場をする人物が1人。
その人物は椎名と同じように首から大きめなゴーグルをかけている。髪は茶髪。背丈は司くらいだろうか。
彼の名は【一木花火(いちきはなび)】椎名が最も憧れるカードバトラーだ。
椎名達の担任である空野晴太とは義兄弟の関係である。というのも、晴太の姉が彼と結婚したため、結果的にそうなっただけであるのだが、
「は・な・び!」
「は・な・び!」
「は・な・び!」
左側から鳴り止まないはなびコール。彼のファンは皆彼と同じようにゴーグルをかける。そのため、彼の応援サイドとなる左側はほぼ9割の人々がゴーグルをかけていた。
「…………あっはは、いや〜〜〜こんな大勢に応援されるの久しぶりだわ〜〜」
右手で頭の後ろをかきながら、そんな能天気な声を上げたのは、一木花火だ。彼はここ最近までは数々の外国のプロリーグに挑戦していた。結果、どうしても日本人ということがあって、ややアウェイの試合を多くしていた。
そのため、日本での大勢の応援に若干の気恥ずかしさを感じたのだろう。
「…………はじめまして!一木花火プロ!……私は緑坂冬真というものです!今日は私めの挑戦をお受けしていただき、誠にありがとうございます!」
いつもの関西弁はどこに行ったか、ヘラクレスは何故か標準語で、そして尊敬語で話していた。いや、たしかに花火の方が年齢がかなり上であるため、当たり前なのかもしれないが………
「おいおい、お前小次郎の甥っ子だろ?いいのいいの、俺には別にタメ口でいいぞ」
「む?……はっは!そうかい!わあったで!」
緑坂冬真と緑坂真夏の叔父は、一木花火の友にしてライバルの1人、【緑坂小次郎】なのだ。そんな奴の甥ならば、別に堅っ苦しいことはしなくて良いだろうと花火は考えたのだ。
「花火さん!俺はあんたとやれるんを心から楽しみにしとった!……この勝負、受けるよな!」
花火がそう言うならばと言わんばかりに、ヘラクレスは元の口調に戻し、そう、宣言した。花火の答えはもちろん………
「あぁ、じゃなかったらここにはいないぜ!!」
当然オーケーだ。
2人は自分のBパッドを展開し、バトルの準備を完了させる。
そして幕を開ける。日本中、いや、世界中が注目するこの試合が、
「「ゲートオープン、界放!!」」
バトルが始まった。
ー先行はヘラクレスだ。
[ターン01]ヘラクレス
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップっ!……先ずは小手調べと行こかぁ!テントモンを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨3
ヘラクレスがそう言いながら呼び出したのは緑の成長期スピリット、てんとう虫型のテントモンだ。
「召喚時効果でコア増やすで!」
テントモン(1⇨2)
「はは、テントモンねぇ、結構懐かしいな」
彼らの叔父である小次郎も使っていたテントモン。それを見て思わず花火は嬉しそうに薄ら笑いを浮かべた。
「ターンエンドや!あんたの番やでぇ!」
テントモンLV1(1)BP2000(回復)
バースト【無】
先行の第1ターン目などやらることが最低限度に限られてくる。ヘラクレスはそれだけを終えて、ターンをエンドとした。
ーそして次は一木花火のターンだ。
[ターン02]花火
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「………メインステップ………小手調べと言われたらこれだろう!!俺はネクサス、勇気の紋章をLV2で配置するっ!!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨4
「………っ!!」
花火が初手で配置したのはネクサス。彼の背後に太陽を模したかのような紋章が浮き出てくる。
このネクサスは彼のデッキにとって成長期スピリットと同じくらい重要な役割を担っており………
「俺もこれでエンドだ!……さぁ、どっからでもかかってきな!!」
勇気の紋章LV2(1)
バースト【無】
花火もここでターンをエンドとした。
次はヘラクレスのターン。
デジタルスピリットデッキ同士のバトルスピードは比較的速い。この第3ターン目から大きくバトルはいろんな方向へと転がっていく。
[ターン03]ヘラクレス
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨4
トラッシュ3⇨0
「メインステップ…………知っとるでぇ、勇気の紋章!…自分のライフが減ったらBP5000以下のスピリットを破壊する効果と、ドローステップ時の枚数を増やすんやったなぁ!」
「おっ!詳しいな〜〜」
勇気の紋章の効果は、ヘラクレスの言った通り。序盤を凌ぎやすくする迎撃効果と、ドロー枚数を増やす効果だ。
ヘラクレスとして一番厄介なのがやはり迎撃効果。BP6000以上と言うのは意外にもこの序盤で並べるのは難しい。
ーだが、それを逆手に取ることはできる。
「俺はテントモンのLVを2に上げ、さらにトゲアントを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨1
トラッシュ0⇨1
ヘラクレスが召喚したのは、まるで緑色の蟻のようなスピリット、トゲアントだ。その上にはソウルコアが乗せられており………
「さらにバーストをセットし、アタックステップっ!!テントモンの【進化:緑】を発揮!!成熟期のカブテリモンに進化や!!」
手札4⇨3
カブテリモンLV2(3)BP8000
ヘラクレスの場にバーストが伏せられると共に、テントモンはデジタルコードに巻かれて進化する。その姿を大きく変えていき、現れたのは硬い甲殻と角をもつスピリット、カブテリモンだ。
「へへっ!早速お出ましだな!」
その顔に薄ら笑いを浮かべる花火。嬉しいのだ。強敵が目の前にいることに。そしてそれと対面できていることに。
「アタックステップは継続しまっせ!トゲアント!」
カサカサっと走り出すトゲアント。目指すはもちろん花火のライフ。前のターンで殆どのコアを使ったがために、今はライフで受ける他なく、
「オッケー、来いよライフだ!」
ライフ5⇨4
トゲアントの体当たりが、花火のライフを1つ砕いた。
ーが、ここで花火の配置したネクサス、勇気の紋章が光を放ち………
「勇気の紋章の効果!!トゲアントを破壊するっ!」
勇気の紋章の中心から放たれる豪炎の球。それは瞬く間にトゲアントに命中し、それを燃やし尽くした。
しかし、トゲアントもただでは破壊されず……
「トゲアントの破壊時効果発揮や!ソウルコアが置かれとったら、コアを2つ追加するっ!」
リザーブ2⇨4
「…………っ!!」
ヘラクレスのリザーブにコアが溜められた。逆手に取られたか、勇気の紋章は強制効果。ライフが減ったら強制的に発揮され、その対象となるスピリットがいたら、それを無理矢理破壊してしまう。
ヘラクレスは破壊できる対象がトゲアントだけの状況を敢えて作り出し、自爆させ、自分のコアを増やしたのだ。
「なるほど、やるなっ!」
「せやろ?……そしてまだ続くでぇ!カブテリモン!!」
羽根を広げ、飛翔し、飛び立つカブテリモン。BPは8000。勇気の紋章での迎撃は不可能だ。
「そいつもライフだ!」
ライフ4⇨3
カブテリモンが4本の腕で花火のライフを勢いよく砕いた。これで花火は1ターンで2つのライフを失ったことになる。
「………ターンエンドやで」
カブテリモンLV2(3)BP8000(疲労)
バースト【有】
できることを全て終え、ヘラクレスはそのターンをエンドとした。次は花火のターンだ。反撃なるか………
[ターン04]花火
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
「ドローステップ時!!勇気の紋章LV2効果で、ドロー枚数を1枚増やし、その後1枚破棄する!」
手札4⇨6⇨5
破棄カード↓
【グレイモン[2]】
花火はこのドローステップで、デッキから2枚引き、2枚捨てた。結果的に手札の枚数は変わらないものの、デッキの回転率は大きく上がったと言える。
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨7
トラッシュ4⇨0
「メインステップ!先ずはロクケラトプス〈R〉をLV2で召喚!」
手札5⇨4
リザーブ7⇨5
このバトル、花火が初めて呼び出したスピリットは三本角で四足歩行の恐竜、ロクケラトプス。
ーそして、
「…………さぁ……行くか……」
花火は改めて意気込み、手札から1枚のスピリットカードを引き抜いた。それは彼のデッキのエンジン的な役割を担う成長期スピリットだ。
「……アグモンをLV3で召喚!!」
手札4⇨3
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨1
「……っ!!」
花火が召喚したのは黄色い身体のデジタルスピリット。肉食恐竜をこれでもかとデフォルメしたような赤の成長期、アグモンだ。
たったこれだけで観客が沸き、各放送局の実況にも熱が篭る。この花火の使うアグモンというデジタルスピリットの高い人気が伺える。
ーそしてもちろん成長期スピリットらしく、召喚時効果があり、
「召喚時でカードをオープンっ!!」
オープンカード↓
【グレイモン】◯
【ダイナパワー】×
その効果は成功。花火はこの効果でグレイモンを手札に加えた。そして残ったダイナパワーは破棄。
「俺もバーストを伏せ、アタックステップっ!!その開始時にアグモンの【進化:赤】発揮!!グレイモンに進化っ!!」
手札3⇨4⇨3
グレイモンLV3(4)BP7000
花火もバーストを伏せる。そして進化だ。アグモンはテントモンと同様のデジタルコードに巻き付けられ、その肉体を変化させていく。新たに現れるのは立派な頭角を持つ巨大な肉食恐竜のような赤の成熟期スピリット、グレイモンだ。
その咆哮と共に観客、そして彼のファンがまた大きな歓声を上げる。
だがこんなものまだまだ序の口だ。花火のグレイモンデッキの力はこんなものでは済まされない。
「アタックステップは当然継続だぜ!!グレイモンでアタック!さらに効果!!【超進化:赤】発揮!!」
「っ!!……この段階で完全体まで行く気か!?」
花火はここでグレイモンに更なる進化を求める。
グレイモンが再びデジタルコードに巻き付けられ、そしてその中で姿を変える。紫のボロボロの羽が生え、その左半身がサイボーグのような機械となっていく。
「メタルグレイモンを召喚!!」
メタルグレイモンLV3(4)BP11000
現れたのは完全体になったグレイモン。メタルグレイモンだ。このメタルグレイモンの時点で既に強力な効果を備えており……
「メタルグレイモンの召喚時!!BP12000以下のスピリット1体を破壊するっ!!」
「……っ!?!」
「破壊するのはカブテリモン!!……くらえっ!ギガデストロイヤー!!!」
メタルグレイモンは胸部のハッチを開き、そこから咆哮と共にミサイルを発射する。それはカブテリモンに命中し、それを粉々に粉砕した。
「………カブテリモンがこうもあっさりと………やっぱ凄いで、あんたは………」
「おいおい、この程度で凄いとか言うなって!!面白いのはここからなんだからよ〜〜…………メタルグレイモンっ!!」
左手のアームを伸ばすメタルグレイモン。それでヘラクレスのライフを破壊する気だ。ヘラクレスはさっきのメタルグレイモンの攻撃で場のスピリットが壊滅していた。
そのため、このアタックはライフで受ける他なく……
「ライフや!!持ってきな!!」
ライフ5⇨4
メタルグレイモンがアームにしなりをつけ、ヘラクレスのライフを叩きつける。それを1つ破壊した。
まだ続く。今度はロクケラトプスの突進が待っている。
「ロクケラトプスっ!!」
「それもやで!」
ライフ4⇨3
ロクケラトプスの強烈な頭角による激突が、ヘラクレスのライフをさらに奪っていく。
ーだが、これがヘラクレスのバースト発動条件であって、
ーそれが勢いよく反転する。
「ライフ減少により、バースト発動!!…………【始甲帝】!!」
「…………っ!!」
「ライフ3以下の時、これを召喚するっ!」
リザーブ9⇨5
始甲帝LV2(4)BP15000
地中が割れていく。その狭間から現れる人型の巨大な虫は、まさしく甲虫の皇と言ったところか、悍ましくも禍々しいそれが、花火の優位性を断ち切るかのように場へと姿を現した。
「……へ〜〜始甲帝か、小次郎と違ってがっつり殼人に寄せてんだな」
花火はその姿を見て感心するように頷いた。実際は感心してる場合ではないのだが、
どちらにせよこのターンは何もできない。一旦終わらざるを得ないだろう。
「………エンドステップ……トラッシュのダイナパワーの効果、トラッシュにある時、俺の場に地竜スピリットがいれば手札に帰ってくる………ターンエンドだ」
手札4⇨5
ロクケラトプス〈R〉LV2(2)BP5000(疲労)
メタルグレイモンLV3(4)BP11000(疲労)
勇気の紋章LV2(1)
バースト【有】
花火はトラッシュに落ちたダイナパワーを手札に回収しつつ、そのターンをエンドとした。次は見事に始甲帝の召喚に成功したヘラクレスだ。
[ターン05]ヘラクレス
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ5⇨6
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ6⇨7
トラッシュ1⇨0
「メインステップっ!!…………は、要らんやろそんままアタックステップや!」
ヘラクレスはメインを飛ばしそのままアタックステップへと移行する。十分なのだ。このターンで花火を倒すには、この始甲帝だけで、
「始甲帝でアタック!!そしてその効果!!手札にある殼人スピリットをノーコスト召喚する事で、始甲帝は回復するっ!!」
「……っ!!」
「俺は手札から殼人スピリット……アトラーカブテリモンをLV2で召喚する事で、始甲帝を回復させるでぇ!!」
手札4⇨3
リザーブ7⇨0
アトラーカブテリモンLV2(7)BP13000
始甲帝(疲労⇨回復)
羽根を細かく揺らし、甲高い音を立てる始甲帝。そしてその音に共鳴し、空から現れるの虫が一体。赤き甲虫、アトラーカブテリモンだ。
「………アトラー………」
花火はそのアトラーカブテリモンを見て何を思ったか、少しだけ微笑んだ。その赤い甲虫にどこか懐かしみを感じていた。
それはもちろん、ヘラクレスの叔父、小次郎がそれを使っていたからと言うのが理由であって、
「アトラーの召喚時及びアタック時効果!!分かりよるよな?……」
「あぁ、疲労状態のスピリットのバウンス……だろ?」
アトラーカブテリモンの四本の手から、赤い雷が放たれる。それは場に迸り、花火の疲労しているロクケラトプスとメタルグレイモンを狙う。
ロクケラトプスはそのまま打ちのめされて力尽き、デジタルの粒子となって花火の手札に帰っていった。
ーが、メタルグレイモンはそれを物ともせずに気合だけで弾き飛ばしてしまう。
「残念だけど、メタルグレイモンにその効果は効かないぜ!!こいつは疲労してたらスピリットとブレイブの効果を受けない!」
メタルグレイモンにはタイミングが限定的ではあるものの、赤属性にはらしからぬ強力な耐性効果を所有している。
だがヘラクレスはそんなことはお見通しだと言わんばかりに更なる一手を繰り出していく。
「煌臨!!発揮!!対象はアトラーカブテリモン!!」
アトラーカブテリモン(7s⇨6)
トラッシュ0⇨1s
「っ!!」
アトラーカブテリモンが金色の光に包まれていく。それはまさしく進化の兆し。アトラーカブテリモンはその光の中、どんどんその姿を変えていく。
「…………来るか……」
花火もそれが何か理解したか、笑みを浮かべ、それが来るのを楽しみに待った。
そう。これはヘラクレスのエーススピリット。去年の界放リーグでは決勝戦まで使うことはなく、赤羽司や芽座椎名をも全く寄せ付けない強さを見せつけた究極体のスピリットだ。
「赤き甲虫よ!!今こそ甲虫王者となりて敵を捻り潰せ!!究極進化ぁぁあ!!!」
手札3⇨2
アトラーカブテリモンのツノの形が変わっていく。それだけではない、甲殻の色合いまでも変化していく。
その姿はまさしく究極の甲虫王者。
ー名は………
「ヘラクルカブテリモン!!!」
ヘラクルカブテリモンLV2(6)BP18000
現れたのは黄金の甲殻と三本の立派な頭角を持つ究極体のデジタルスピリット、ヘラクルカブテリモン。その威圧感は始甲帝以上にこの場を支配していく。
「おおっ!カッコいいじゃねぇか!!」
花火は何故かその姿を見て感動を覚えていた。今まで他のプロ達はヘラクレスのこのヘラクルカブテリモンが出された瞬間に絶望していたと言うのに。彼がプロとしての仕事としてバトルしているのではなく、心の底からこのバトルを楽しんでいるのが見て取れる。
「煌臨時効果!!煌臨元となったスピリット1枚を手札に戻し、コアを3つ増やすでぇ!!」
手札2⇨3
ヘラクルカブテリモン(6⇨9)
ヘラクルカブテリモンの煌臨時効果だ。カードの上に3つ新たにコアが追加される。
そしてヘラクルカブテリモンには自分の上に乗っているコアを3つ払うことで回復する効果がある。現在は9つ乗っているため、2回までの回復が行える。
そして、回復状態でアタックしている始甲帝はダブルシンボルのスピリット。
よって、このターン、ヘラクレスがフルアタックで減らせる花火のライフの最大数は7。とてもではないがオーバーキルと言わざるを得ない。
この圧倒的な攻撃力が今のヘラクレスの戦法だ。あの学生の時以上に彼自身が進化しているのが伺える。
「まだダブルシンボルの始甲帝のアタックや!!受けてみ!!」
ゆっくりと歩みを進める始甲帝。目指しているのは花火のライフ。
メタルグレイモンが疲労状態の今、花火にはそれを防ぐ手立てがない。
「…………ライフだ!」
ライフ3⇨1
始甲帝の鋭く鋭利な鉤爪が花火のライフをこれでもかと言わんばかりに切り裂いた。減った数は2つ。そして残りは1。追い詰められた。
ーだが、流石にこの程度では終わらないか、伏せていたバーストが反転し、ヘラクレスの攻撃を止めに行く。
「…………ライフの減少でバースト発動!!絶甲氷盾!!効果でライフを1つ回復!さらにコストを払い、このターンのアタックステップを終わらせるぜ!!」
ライフ1⇨2
リザーブ4⇨0
トラッシュ1⇨5
「っ!!!」
花火のライフが1つ復活するとともに吹き荒れる猛吹雪。この中では流石の始甲帝やヘラクルカブテリモンも身動きが取れない。
ヘラクレスはこのターンのエンドを迫られた。
「…………仕方あらへんなぁ、ターンエンドや」
始甲帝LV2(4)BP15000(回復)
ヘラクルカブテリモンLV2(9)BP18000(回復)
バースト【無】
これには流石に掌を上げるか、ヘラクレスは仕方なくそのターンをエンドとした。2体の強力なブロッカーを残して、
[ターン06]花火
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
「ドローステップ時、勇気の紋章の効果でドロー数を1枚増やす、この時、場にグレイモンスピリットがいるなら、カードを捨てなくて良い」
手札5⇨7
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨8
トラッシュ5⇨0
メタルグレイモン(疲労⇨回復)
「……メインステップ………ロクケラトプスとアグモンを再召喚」
手札7⇨6⇨5
リザーブ8⇨2
トラッシュ0⇨1
花火は進化の効果によって手札に戻っていたアグモンと、アトラーカブテリモンの効果で手札に戻っていたロクケラトプスを再び場へと召喚する。
「さらにメインマジック、ダイナパワー!!このターンの間、全ての地竜スピリットのBPを3000上げ、指定アタックの効果を与える!」
手札5⇨4
リザーブ2⇨1
トラッシュ1⇨2
地竜スピリット専用のマジック、ダイナパワー。その効果はとても赤らしく便利なもの。メタルグレイモンとロクケラトプス、アグモンが一瞬赤く発光し、パワーアップしたことを示した。
ーそしてこのターン。あれがようやく登場する。
「アタックステップ……行くぜメタルグレイモン!!ヘラクルカブテリモンに指定アタックっ!!」
「っ!?……BPの劣るメタルグレイモンでヘラクルに指定アタックやと!?」
走り出すメタルグレイモン。与えられた指定アタックで指定したのはヘラクルカブテリモン。メタルグレイモンはダイナパワー込みでもBP14000。対するヘラクルカブテリモンはBP18000。まるで相手にはなれない。
左手のアームで畳み掛けるメタルグレイモン。だが、ヘラクルカブテリモンはそれを物ともせず、アームを掴み、メタルグレイモンの身体ごと振り回し、それを地面に叩きつける。
このBP差なら当然だ。万事休すか…………………………………と思いきや……
「フラッシュ!!煌臨発揮!!対象はメタルグレイモン!!」
リザーブ1s⇨0
トラッシュ2⇨3s
「…………っ!!」
メタルグレイモンが強い咆哮を上げる。それはまさしく進化の兆し。みるみるうちにオレンジの炎に包まれていく。
ヘラクレスはこの瞬間に理解した。何が来るのか、いや、ヘラクレスだけではないか、周りの観客、ファン、実況者、そして中継を見ている誰もが何が来るか理解している。そしてそれが出るのを何よりも楽しみにしていた。
「鋼鉄の竜よ!!今こそ最強の竜戦士となりて敵を討て!!……………究極進化ぁぁあ!!!」
手札4⇨3
メタルグレイモンはそのオレンジの炎の中でみるみるうちに姿形を変化させていく。それはもはや恐竜ではなく、竜人。無敵の武装と共に敵を穿つ最強の竜戦士だ。
「……………ウォーッ!!グレイモンッ!!!」
ウォーグレイモンLV3(4)BP19000
その炎を腕の鉤爪の武器で切り裂きながら姿を見せたのは、一木花火の長年のエーススピリットにしてフェイバリットカード、【ウォーグレイモン】これまで数々のドラマと奇跡を生んできた、まさにヒーローオブヒーローとでも言うべきスピリットである。
「………こ、これが花火さんのウォーグレイモン……っ!!!」
「おう!!かっこいいだろ?」
ヘラクレスは目の前の竜戦士に心を躍らせていた。胸が高鳴っていた。自分はこんなにすごい相手と戦っているんだと今更ながらに理解した。
ーそして自分がこのターンで負けると言うことも……
「ウォーグレイモンの煌臨時効果!!BP15000までスピリットを好きなだけ破壊するっ!!」
「……っ!!」
「……ちょうど15000の始甲帝を破壊させてもらうぜ!!!……超大玉!!!ガイアフォース!!!」
ウォーグレイモンは掌を合わせ、徐々にその間隔を広げると共に巨大な火の玉を形成していく。それは大気の空気を凝縮して作り出したものだ。そしてそれを始甲帝に向けて全力で投げつける。
巨大な始甲帝とほぼ同じ大きさの火の玉は、始甲帝をまるごと包みあげ、一瞬にしてそれを燃やし尽くしてしまった。
ーそして次はヘラクルカブテリモンだ。
「煌臨スピリットは煌臨元となったスピリット全ての情報を引き継ぐ!!よってヘラクルカブテリモンとのバトルも続く!!いけぇ!ウォーグレイモンッ!!」
背にあるブースターで低空飛行し、ヘラクルカブテリモンに急接近するウォーグレイモン。そして目にも留まらぬ格闘術の連撃でヘラクルカブテリモンを吹き飛ばす。
ーそして、
「打ち上げろぉぉお!!!!螺旋槍!!!ブレイブトルネードォォオ!!!!」
一木花火の決め台詞【打ち上げろ】自身の名前とかけられたこの言葉はこの世界においてはかなり有名である。
ウォーグレイモンはそのセリフを聞くと、腕に装着されたドラモンキラーと呼ばれる武器を天に掲げ、そのまま自身の身体をドリルのように高速回転させながらヘラクルカブテリモンへと突っ込んでいく。
ヘラクルカブテリモンは四本の強靭な腕でそれを抑えるが、長くは持たず、そのまま土手っ腹に風穴を開けられた。
それを貫いたウォーグレイモンはドラモンキラーから摩擦で出た火花を散らしながら、見事にヘラクルカブテリモンの背後で着地する。
流石に耐えられなかったか、ヘラクルカブテリモンは力尽き、倒れ、大爆発を起こした。
「ぐっ!!……ヘラクルっ!!」
ヘラクレスはヘラクルが巻き起こした爆風を肌で感じながらそう言った。
あの赤羽司、芽座椎名さえも倒すことができなかったヘラクルカブテリモンが破壊された。それほどまでにこの一木花火が強いのかが伺える。
ーそしてまだウォーグレイモンには効果が残っており、
「ウォーグレイモンのアタック時効果!!アタックの終わりにトラッシュのソウルコアをウォーグレイモンに置き、相手のライフ1つをボイドに置く!!」
トラッシュ3s⇨2
ウォーグレイモン(4⇨5s)
「………っ!!」
「豪火球!!ガイアフォース!!!」
始甲帝を倒した時以上の巨大なガイアフォースを形成するウォーグレイモン。そしてそれを今度はヘラクレスのライフへと全力で投げつける。
「……ぐっ!!」
ライフ3⇨2
命中したそれでヘラクレスのライフは溶けるように1つ消滅した。
「これで終わりだな、アグモン、ロクケラトプス!!」
花火のトドメと言わんばかりのセリフと共に走り出す2体の恐竜たち。目指すはもちろんヘラクレスのライフ。
「………はっは、あんなに場を固めても1ターンで突破してくるんかい………こりゃ参ったで、…………ライフで受けたる」
ライフ2⇨1⇨0
ロクケラトプスの頭角を活かした体当たり。そして、アグモンの鋭い鉤爪が、ヘラクレスの残った2つのライフを一気に葬り去った。
ーこれにより、勝者は一木花火。チャレンジャー相手に見事に勝利を収めてみせた。
沸き上がる観戦と共に3体のスピリットが咆哮を上げ、ゆっくりとその姿を消滅させていく。
「へへっ!いいバトルだったぜ!!またやろうな!」
「あぁ、胸を借りれて光栄やったで!!次こそは勝ったるからなぁ!!」
ヘラクレスは地味ながら今回の敗北がプロ入り後の初めての敗北であった。が、彼はそれに対し悔しそうな顔は一切見せず、笑ってみせた。
ー次こそは勝つ。と心に誓って……
そして、2人は握手を交わし、この中継は終わった。
******
バトルが終わり、一木花火は会場にある自分の控え室まで歩いていた。
ーそんな中で懐かしい人物と遭遇し………
「よぉ!!一木花火ぃぃい!!」
オールバックの青年が元気よく花火に声をかけてきた。花火もそれが誰だかわかったみたいで………
「あっ!!お前小次郎か!!」
「小次郎か!!じゃねぇよ、全くお前って奴はよぉ、日本に帰ってきたら連絡くらいしろっての!!」
その人物とは【緑坂小次郎】。何度も言うが、緑坂冬真と緑坂真夏の叔父だ。彼は花火と中学からの昔馴染みでもあって、
「いや〜〜この後直ぐに出るし、別にいいかな〜〜って!」
「また!?今度はどこの国だよ!!」
「オーストラリア」
「オーストラリア!?」
一木花火は各国のプロリーグに参加し、尚且つ総ナメにしていた。これまで行った国は中国、イタリア、ブラジル……そして次に選んだのがオーストラリアだ。
「すっごいぜ!!世界はよ!見たこともないスピリットがわんさか出てきやがる!!……お前も来いよ!!」
「俺はお前と同じ道は通らん!!俺は俺で強くなっていつかお前を抜く!!」
小次郎はほぼ一方的に花火をライバルだと言っていた。昔から、とは言っても一度も彼に勝てたことはないのだが、
「にしてもよ〜〜お前の甥、結構強えじゃねぇか!」
「ん?あぁ、冬真ね、昔から確かにセンスはズバ抜けてたよなぁ、まさかあんなに強くなるなんて………」
話がヘラクレスの方へと傾く。ヘラクレスの話を聞いて、小次郎は何かを思い出したか、自分のBパッドを開いて写真のアルバムのアプリを開く。花火に何か見せたいものでもあるのか、
「そういえばよ、真夏が………あぁ、真夏って言うのは姪ね、冬真の妹、そいつからこんなメールと写真が送られてきたんだよ」
「写真?」
真夏から小次郎へのメール。その内容は「一木プロにあったらこの写真の娘を見せたげて」と言う内容だ。
ーそして一緒に送られてきたその写真に写っているのは……【芽座椎名】だ。カメラ目線ではないことから、真夏がこっそりと撮ったことがわかる。
花火は写真越しで、今の椎名の顔を視認した。
「………すごい奇抜な髪型だな………」
「いいよなぁ!!モテる男はよぉ!【椎名ちゃん】って言うんだと!!こんな可愛い娘がファンって羨ましすぎるだろぉ!!」
小次郎は椎名の写真を見たとき、真夏の友達で、絶対に花火のことが好きなファンだと思っていた。それもそのはず、何せ、一木花火のファンは皆、彼と同じようにゴーグルをかけるのだから、当然椎名も例外ではないだろう。と思われるのが一般的だ。
「…………ん?…このゴーグル………どっかで………………っ!!」
ーだが、花火は見抜いた。椎名の正体を、いったい彼女が誰なのかを、
ーそうだ。だいぶ昔の話だが、知っている。この娘は確実にあの時の女の子だ……と。
「違うぜ、小次郎……この娘はただのファンじゃねぇ」
「?」
決め手となったのは椎名の首にかけたゴーグル。これは間違いなく自分の特注品のゴーグルだ。普通のファンが持っているわけがない。
ー昔、11年前になるだろうか、自分のそれをあげた小さな女の子がいた。間違いない。この娘はあの時の子だと確信した。
「【椎名ちゃん】………ねぇ……覚えとこう……っ!」
花火は嬉しそうに小さく微笑んだ。
一木花火が芽座椎名を認識した一日となった。
この2人が巡り会う時は果たしてやってくるのだろうか。
〈本日のハイライトカード!!〉
椎名「今回はこいつ!!【ウォーグレイモン】!!」
椎名「ウォーグレイモンはあの花火さんのエーススピリット!!攻防一体の効果はまさしく最強のグレイモン!!」
******
〈次回予告!!〉
雅治「夏休み、僕は椎名と2人っきりで旅行することになった。旅行と言っても椎名の帰省に付き合うだけなんだけど、でも正直言って、凄い嬉しい、僕のキャラが壊れるほどに……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「じっちゃん暴走?鎮めよシャッコウモン!」……今、バトスピが進化を……超える?」
******
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
やっと出せましたよ〜〜前作主人公、一木花火!そしてそのエース、ウォーグレイモン!!
椎名がなんで花火に憧れているのかは【バトルスピリッツ オメガワールド】の【特別編】を参考に……
そして、【オーバーエヴォリューションズ】の【第8話】である程度の説明があります。
いつか椎名と花火がバトルできればいいなと思ってこの小説を書いております!
ちなみに今回でアニメが終わるくらいの話数まで来ましたが、現予定ではこの作品は平気な顔で100は超えます笑。
いつか名称【グレイモン】で新規が来たら、また花火が主役の【オメガワールド】を更新したいなと思う今日この頃です。