バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

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第5話「絶対零度に抗え!ラストワンに賭けろ!」

 

 

 

 

 

椎名は今、自身が住まう住宅の屋上で昼寝している。日当たりの良いこの場所は、椎名にとって心安らぐ場所。この寒くも暑くもない気候の時期にはもってこいの場所だ。

 

椎名は暇な休日は、いつも日が暮れるまでそこで寝ていた。

 

 

「……司の奴、最近見かけないなぁ」

 

 

司は代表バトルで椎名に負けた日以来、一向に学校に姿を見せなくなっていた。椎名は何が問題で司が不登校気味になったのかを考えてみる。だが、椎名の頭ではそんなものいくら考えても出てくるわけがなかった。

 

雅治は何かを知っているようだったが、全然教えてくれなかった。

 

司の不登校のことなど考えても仕方ない。少し心配ではあるが、あの軽い性格なのだ。いずれひょっこりとまた現れることだろう。今椎名はそう考えてゆっくりと瞼を閉じ、夢の世界へと誘われていった。

 

 

******

 

 

「ん?……わぁああっ」

 

 

椎名はようやく夢の世界から解放される。仰向けになった姿勢を起こし、寝ぼけながら大きな欠伸をする。空には綺麗な星空が出ていることから既に日は沈んでいるようだ。昼過ぎから寝ていたことを考えると、かなりの時間熟睡していたことがわかる。

 

 

「お!ようやくお目覚めだね!」

「ん?……うわっ!あなた誰!?」

 

 

眠っていた椎名の側で座っていたのは、長い青髪を携えた、容姿端麗な女性。その見た目と声色から椎名より年上の大人であることが示唆される。

 

椎名は眠気を一瞬で覚醒させ、反射的に飛び上がる。

 

 

「ははっ!いい反応するねぇ!……私の事は、……そうだなぁ、王女さんとでも呼んでくれよ」

「王女さん?」

 

 

王女。女の子なら誰もが一回は憧れそうなネーミングではあるが、その女性の格好を見ると本当にどこかの王女様のような服装であるため、案外しっくりくる渾名でもあって、

 

本名を教えてはくれなさそうなので、椎名はこの名前で呼ぶことにする。

 

 

「あっ!私は芽座椎名って言います!よろしく!王女さん!」

「椎名だね…よろしく!」

「ねぇ、王女さん、王女さんはどこの人?この辺の人じゃないよね?」

 

 

呼び方が決まったとこで、早速椎名は王女さんが何しに来たのかを質問する。海のように綺麗な青い髪色で、目立つ格好をして、おまけに顔も美人なのだ。仮にこのマンションの住人だったら、椎名が見覚えがないわけがない。

 

 

「んーー、それもちょっと言えないかな、どこかの国の王女さんってだけ覚えておいて」

「ひ、秘密が多い……でもどこかの国の王女って、…そんなすごい人がここにいていいの?……なんかこう、屈強な執事的な人が追いかけて来るんじゃ……」

「ははっ!私のお目つきにはそんな物騒な連中はいないよ!……それに今はちょっとした息抜きの時間だからね〜大丈夫さ!」

 

 

なかなか自分のことを話そうとしない王女さん。このままの情報だと本当にただの痛い人だ。だが、椎名は島育ち故なのか、とても純粋。王女さんの普通では信じ難く、身もふたもない嘘のような話を全て彼女は真に受けていた。普通は王女さんがこんなところには来ない。

 

 

「な〜んだ息抜きかぁ、王女さんも大変だねぇ」

「それでさ、息抜きって言ったら何かわかるよね?」

 

 

住んでいる環境が違いそうな2人であったが、息抜きと言えばこれしかない、と満場一致で2人はあのカードゲームの名を阿吽の呼吸で声を重ね合わさる。

 

 

「「バトルスピリッツ!!」」

「そう!私、遥々遠くからあんたとバトルしに来たんだよ……!」

「……そ、そうだったのか、一国の王女さんがわざわざ遠くから私なんかとバトルしに………くぅ〜〜っ光栄だよ!」

 

 

そんなわけないだろう。普通はいろんな意味でおかしいと気づくはずだが、なにぶん椎名の頭の中は、良くも悪くもバトルスピリッツでいっぱいいっぱい。どこの誰かもわからないとは言え、バトルすると言われれば即OKしてしまう。しかもそれが一国の王女だと言うのだから、より感銘を受けたことだろう。

 

ー如何にも椎名らしいと言えば、らしいか。

 

マンションの屋上はある程度の幅がある。1つのバトルスペースは余裕で確保できる。

 

2人はそこでBパッドを展開してバトルの準備を行った。

 

 

「……なんか、懐かしいな」

「ん?なにが?」

「……いや、何も、……ただ、椎名は私の古い友達によく似てるって思ってね」

「王女さんの古い友達?」

「そう、正確にはあいつとあいつを足して2で割った感じかな?……まさかあいつらの子供?……いや、年齢的にも合わないか……名字も違うし」

 

 

王女さんは椎名が手札を持つ姿を見て、自分の古い友と重ねていた。

 

腰まで伸びた長い髪、首に下げたゴーグル。どれも椎名に当てはまる2つのキーワードが、王女さんの頭から離れなかった。

 

 

「ごめん、ちょっとばかりそれてしまったね、……じゃあ始めようか」

「うん!」

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

満天の星空の下、星々の光と街中のライトの明かりを頼りに、2人のバトルが幕を開ける。今回の先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!ブイモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名の足元からブイモンが飛び出して来た。

 

 

「へぇ〜〜青を使うんだ」

 

「へへっ、まぁね。召喚時効果!」

オープンカード

【猪人ボアボア】×

【ライドラモン】○

 

 

ブイモンの召喚時効果は成功、椎名は緑のアーマー体、ライドラモンのカードを手札に加えた。

 

 

「よし!当たりだ!……緑のデジタルスピリット、ライドラモンを手札に加える!」

手札4⇨5

 

「青に加えて緑も、……ふーん、これは面白くなりそうだね」

 

「ターンエンド!……さぁ!次は王女さんの番だよ!」

ブイモンLV1(1)BP2000

 

バースト無

 

 

アタックができない先行1ターン目として、この椎名の動きはかなりいいと言える。

 

椎名は次の王女さんのターンに期待の眼差しを向けていた。一国の国の王女様は一体どんなカードを使うのか、と。そう考えるだけでワクワクしてしまう。

 

 

[ターン02]王女さん

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「よし、メインステップ!私は2枚のネクサスカード!…No.2 ブルーフォレストを配置!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨3

 

 

王女さんが初めて呼び出したのはネクサスカード。それは、とてもとても青く澄んだ深い森。ずっと直視していたらどこか違う世界へ誘われそうだ。

 

 

「王女さんも……青…!」

 

「ふふ、あんたのとはちょっとばかしベクトルが違うけどね……さらに、バーストをセットしてターンエンドだ」

手札4⇨3

 

No.2ブルーフォレストLV1

 

バースト有

 

 

王女さんはさらに1枚のバーストカードを伏せてターンを終了した。それがどこで発揮されるか見ものである。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!緑のスピリット!ガンナー・ハスキーをLV2で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨1

 

 

椎名の場に現れたのは犬型だが、2丁の拳銃を手に持つために青い筋肉質な腕を背に生やしたスピリット、ガンナー・ハスキー。

 

特にやることのない椎名はこのままアタックステップを仕掛ける。

 

 

「よし!アタックステップ!やっちゃえ!ブイモン!!」

 

「……そいつはライフかな」

ライフ5⇨4

 

 

ブイモンの強力な頭突きが王女さんのライフを1つ破壊した。だが、これは王女さんのバーストの条件でもあった。

 

 

「…ライフの減少により、バースト発動!No.26キャピタルキャピタル!効果によりこれを配置する!」

「……!…バースト持ちのネクサスカード!?」

 

 

王女さんのバーストが勢いよくひっくり返る。すると、背後から空中都市が出現。それがキャピタルキャピタルだ。

 

 

「キャピタルキャピタルは相手のソウルコアが置かれていないスピリットがアタックするなら、リザーブから1コストを支払わないとアタックができなくなる効果がある」

「……ソウルコアが……あ」

 

 

椎名は気づいた。今自分のソウルコアはブイモンのカードに乗せていることに。リザーブはゼロ。これでは残ったガンナー・ハスキーはアタックができない。

 

 

「……ターンエンド」

ブイモンLV1(1s)BP2000(疲労)

ガンナー・ハスキーLV1(3)BP4000(回復)

 

バースト無

 

 

ここはしょうがない。椎名はそのターンを終了した。

 

 

[ターン04]王女さん

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、……ん〜〜そうだなぁ、バーストをセットして……海傭師団スナ・メリーをLV1で召喚!」

手札4⇨2

リザーブ7⇨6

 

 

王女さんは再びバーストを伏せる。そしてその後に呼び出したのは甲冑を着ている太ったイルカのようなスピリット、スナ・メリー。

 

 

「スナ・メリーは破壊時に相手のコスト3以下のスピリット1体を破壊するから気をつけなぁ」

「……コスト3以下か」

 

 

コスト3以下と言えば椎名のデッキでは大抵のスピリットが該当してしまう。そもそも椎名のデッキにはコストが6より上のスピリットが入っていない。意外にも地味な効果で攻撃を牽制されることとなった。

 

 

「さらにリザーブのソウルコアをキャピタルキャピタルに追加する。キャピタルキャピタルはソウルコアが置かれていたらその効力を倍増させる」

リザーブ6s⇨5

No.26キャピタルキャピタル(0⇨1s)

 

 

つまりは2つだ。椎名はソウルコアが置かれていないスピリットでアタックするなら、リザーブのコアを2つ払わなければアタックができなくなった。

 

 

「最後にブルーフォレストのLVも上げとこうかな」

リザーブ5⇨2

No.2ブルーフォレスト(0⇨3)LV1⇨2

 

 

LVの上昇に伴い、ブルーフォレストはより怪しげに光りだす。まるで椎名をどこかえと誘おうとしているようだ。

 

 

「ターンエンドだ」

海傭師団スナ・メリーLV1(1)BP1000(回復)

 

No.2ブルーフォレストLV2(3)

No.26キャピタルキャピタルLV1(1s)

 

バースト有

 

 

王女さんはこのターンも特に攻めることなくターンを終了した。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨2

トラッシュ1⇨0

ブイモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップは何もしない!そのままアタックステップだ!」

「……!!…何もしないか」

「ブイモンでアタック!」

 

 

ブイモンが元気よく走りだす。ブイモンにはソウルコアが置かれているため、キャピタルキャピタルの効果は受け付けない。だからと言ってもこのアタックは一見無謀にも見える。王女さんの場にスナ・メリーがいるからだ。

 

 

(スナ・メリーがいるのにも関わらずコスト3以下のスピリットでアタックして来たか、何かあるんだろうけど……まぁ、真っ向から受けてやるか)

 

 

王女さんは椎名のアタックの意図を考えた。だが、その答えは一向に見えない。それだったら真っ向から受けてやる。という考えに至った。

 

 

「スナ・メリーでブロック!!」

 

 

スナ・メリーがブイモンの目の前に立ちはだかる。BP差はブイモンの方が若干上。このままではスナ・メリーが破壊され、その効果を十二分に発揮することだろう。だが、椎名はここで1枚のカードを引き抜く。それはブイモンの効果で事前に加えていたあのカード。

 

 

「よし!ここだ!!…フラッシュタイミング!ライドラモンの【アーマー進化】を発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、雷轟かすライドラモンをLV3で召喚!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ0⇨1

 

「……!?…【アーマー進化】!?」

 

 

王女さんが驚く目の前でブイモンはスナ・メリーを踏み台にして飛び上がると、上空に用意されていた黒い独特な形をした卵と衝突し、混ざり合い、進化を遂げる。青い電気を走らせる黒き獣、ライドラモンが召喚された。

 

 

「これが私の【アーマー進化】だ!……召喚時効果でボイドからコア2つをトラッシュに追加!!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ1⇨3

ガンナー・ハスキー(3⇨1)LV2⇨1

ライドラモンLV3(4s)BP10000

 

 

ライドラモンが上空から雷を椎名のBパッドに落とし、コアの恵みを与えた。

 

 

「……なるほど、1コスト支払うことでフラッシュなら、どのタイミングでも召喚ができる【進化】か、これは上手くやられたなぁ」

「そのままいけぇ!ライドラモン!」

 

「仕方ない、そこはライフで受けようか」

ライフ4⇨3

 

 

天高く飛び上がっていたライドラモンがそのまま落下するように王女さんのライフを1つ減らした。

 

そしてこの瞬間にライドラモンのLV2、3の効果も起動する。

 

 

「さらに!ライドラモンのLV2、3の効果!相手のライフを減らした時、追加でもう1つ破壊する!!」

「……!!…」

「轟の雷!ブルーサンダー!!」

 

「ぐぅ!」

ライフ3⇨2

 

 

地に足をつけたライドラモンが避雷針となり瞬時に落雷を引き起こす。それは瞬く間に王女さんのライフを砕いた。だが、ここで再び王女さんの伏せられたバーストがオープンする。

 

 

「バースト!2枚目のキャピタルキャピタル!!……これを効果でまたノーコストで配置!」

「……また!?」

 

 

王女さんの背後に2つ目のキャピタルキャピタルが姿を見せる。これで椎名はさらにアタックがし辛くなった。

 

 

「……仕方ない、私はこれでターンエン………」

「エンドの前に私のネクサスカード、ブルーフォレストのLV2の効果を発揮させてもらうよ!」

「……!?」

 

 

王女さんがそう宣言すると、椎名の6枚の手札が森に誘われるように宙を舞っていく。椎名はこの光景に目を見開き、驚く。

 

 

「……!?…なに?」

「ブルーフォレストはLVが2の時、相手のエンドステップ時に自分のフィールドにソウルコアがあるなら相手は手札を3枚以下になるように破棄しなければならない」

「……!!…手札破棄効果」

 

 

こうなっては仕方がない。椎名はブルーフォレストの効果に従い、自分の手札の6枚の内、3枚を破棄する。ゆっくりとこのバトルでは使わなさそうなカードを選別していく。

 

 

「これと、これと、……これだ」

破棄カード

【ワームモン】

【スティングモン】

【エクスブイモン】

 

 

椎名のトラッシュに3枚のがが送られた。椎名はようやくこのターンを終える。

 

一見して盤面を見てみると、椎名がずっと攻めて、王女さんを防戦一方にしているように見えなくもないが、王女さんが本当に狙っているのは椎名のライフではなくて……

 

 

[ターン06]王女さん

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

海傭師団スナ・メリー(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、……さて、そろそろ頃合いかな?」

「……!?」

 

 

今までとはまた違う、独特で異彩なオーラを放ち出す王女さんに、椎名はこれまで以上に警戒し出す。こんなに長い間、何もせずに引っ張ってきたのだ、ここで動かないわけがない。

 

 

「いくよ!青のデジタルスピリット!ゴマモンをLV3で召喚!」

手札3⇨2

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨1

 

 

王女さんの場に飛び出してきたのは、白い毛皮に覆われた怪獣型の可愛らしい成長期のスピリット、ゴマモン。どうやらあのスピリットが、王女さんの軸となるスピリットのようだ。

 

 

「青のデジタルスピリット……!!」

 

「そう、そしてこの子の召喚時効果で2枚のカードをオープンするよ」

オープンカード

【五行寺院】×

【イッカクモン】○

 

 

ゴマモンの召喚効果は、2枚オープンし、その中の成熟期か、完全体を加える効果。この中では成熟期スピリットのイッカクモンが該当する。王女さんはそれを手札に加えた。

 

 

「よしよし、いい子だ!!」

手札2⇨3

 

 

ゴマモンは成長期のスピリット、当然【進化】の効果を持っている。

 

 

「さぁ!アタックステップだ!ゴマモンの【進化:青】を発揮!ゴマモンを同じ色のイッカクモンへと進化!!」

 

 

ゴマモンが0と1のデータが返還される。そしてより巨大な怪獣型の成熟期デジタルスピリット、イッカクモンへと進化を遂げた。その大きさは椎名のライドラモンをはるかに凌ぐ。

 

 

「……すご」

「驚くのはまだ早いよ!…アタックステップを継続させて、イッカクモンでアタック!」

 

 

王女さんの指示でゆっくりと前に出るイッカクモン。そして青く体を発光させると、椎名のデッキの上から3枚のカードが明るみになる。

 

 

「……!?…なんだ?」

「イッカクモンはアタック時に相手のデッキを上から3枚破棄する………そしてその中にマジックカードか、アクセルの効果を持つスピリットカードがあるなら、相手のコスト5以下のスピリット1体を破壊できる……けど」

 

 

椎名のデッキの上から3枚のカードが破棄される。これはイッカクモンの効果だが、その中にはマジックカードは愚か、アクセルの効果を持つスピリットカードすらない。追加効果は使用されずに終わってしまった。

 

この動きで、椎名は王女さんの本当の狙いに気づいた。

 

 

「……王女さんの本当の狙いって、」

「ふふ、ようやく気づいたね、……そう、私のデッキコンセプトは、…【デッキアウト】」

 

 

デッキアウト、それは相手のデッキが先にゼロになったら勝利すると言う、バトルスピリッツにおいてはライフをゼロにする以外での唯一の勝利方法だが、普通は意図的に狙って行うものではない。それに特化させたデッキが好ましい。王女さんは本格的にそれに特化させたデッキだったのだ。

 

 

「でも、3枚じゃあ、まだまだ遠いよ!私のデッキはまだまだ残ってるよ!!!なくなる前に決着をつけてやる!」

 

 

現時点で、椎名のデッキはあと28枚、デッキアウトのデッキにとってはまだまだ遠い枚数に入るが、王女さんのデッキであればこの程度の枚数では安心できない。

 

王女さんはイッカクモンのもう1つの効果を発揮させる。それは成熟期スピリットなら誰もが所持している有名な効果だ。

 

 

「りょーかい!できるもんならやって見な!……イッカクモンのもう1つのアタック時効果!【超進化:青】!!イッカクモンを同じ色のデジタルスピリットへと進化させる!」

「……!!……また進化を!」

 

 

イッカクモンが再び0と1のデータに返還されていく。瞬く間に姿形を変え、硬い甲羅とハンマーを所持した青の完全体スピリット、ズドモンが現れた。

 

 

「……完全体……!!」

 

 

椎名は驚いた。それもそのはず、完全体スピリットはデジタルスピリットの中でもかなりのレアもの、椎名も未だに所持できていないし、見たこともあまりない。おまけにこのズドモンはXレアカード。まさしくレア中のレアなのだ。

 

 

「さぁ、こいつの威力を味わってもらおうかな?…………いけ!ズドモン!アタック!」

ブルーフォレスト(3⇨1)LV2⇨1

ズドモンLV3(6)BP14000

 

 

王女さんの指示とともにズドモンがハンマーを振り回し、上から地面へと叩きつける。その衝撃は電流となり、椎名のデッキへと迸っていく。

 

 

「ぐっ!!……」

デッキ28⇨13

 

 

椎名のデッキがその電流に当てられて15枚バッサリとトラッシュに送られた。そしてその中にはバースト効果を持つカード、【グリードサンダー】が確認できる。

 

 

「……?…なんだこの効果」

「これは【大粉砕】、ズドモンのLVの数値×5の数だけ、相手のデッキを破棄できる。今のズドモンのLVは3だから3×5で合計15枚破棄したのさ」

 

 

ズドモンの持つキーワード効果、【大粉砕】。はまってしまえばたった一度のアタックで15枚ものカードを破棄できる強力な効果だ。そしてこの効果はこれだけでは終わらないのが、厄介であって、

 

 

「そして、その中にバースト効果を持つカードがあれば、相手のスピリット1体を破壊できる。……さっきバースト効果を待つグリードサンダーが破棄されたよね?………じゃああんたのスピリット、ライドラモンを破壊だ!」

「……なに!?……ライドラモン!!」

 

 

ズドモンは再びハンマーを振り回し、叩きつけ、その衝撃の電流は今度はライドラモンを捉える。自身より強い電流だったのか、ライドラモンはその電流をまともに受けて大爆発を起こした。

 

 

「ブルーフォレストのLV1からの効果でブルーフォレスト自身にコアを2つ追加し、LVを2に戻すよ」

No.2ブルーフォレスト(1⇨3)LV1⇨2

 

 

ブルーフォレストは系統に獣頭を持つスピリットの効果で相手のスピリットを破壊した時、ボイドからコアを2つ自身のフィールドに追加させる効果がある。王女さんは無理矢理その効果でブルーフォレストを再びLVを2に戻した。

 

 

「ぐぅ!……でもまだデッキは残る」

「それはどうかな?」

「……!?」

 

 

王女さんはまだ何か隠し持っているのか、さらに1枚のカードを引き抜く。それは椎名をさらに驚かせるものであり、

 

 

「煌臨発揮!対象はズドモン!」

No.26キャピタルキャピタル(1s⇨0)

トラッシュ1⇨2s

 

「……!!…煌臨だって!?」

 

 

煌臨とは、指定されたタイミングでソウルコアをトラッシュに置くことで、対象になるスピリットを煌臨元として重ね、新たなるスピリットへと変化させる効果のこと。デジタルスピリットにもこの効果を有しているカードも存在する。それは完全体を超えた究極の者達。

 

王女さんが今から煌臨させるのはその中の1種。

 

 

「凍てつく極寒の地の王者よ!今こそこの場に顕現せよ!……究極進化!!ヴァイクモン!!」

手札3⇨2

ヴァイクモンLV3(6)BP15000

 

 

ズドモンが青き光に包まれていく。そして現れたのは白き勇猛な姿をした獣人型、完全体を超えた究極体のデジタルスピリット。ヴァイクモンが煌臨した。

 

 

「す、凄い!!!究極体だぁ!!!」

 

 

椎名が驚くのも無理はない。さっきの完全体はただの高価なだけのレアカードのレベルだが、この完全体を超えた究極体は最早伝説。この地球の市場に何枚出回っているかもわからない。その効果はどれもバトル状況を一気に傾かせる者ばかりだ。

 

そして、王女さんのヴァイクモンが効果を発揮させる。

 

 

「ヴァイクモンの煌臨時効果!!煌臨元の青の完全体を手札に戻すことで、相手のデッキを上から5枚破棄!」

手札2⇨3

 

「……またデッキを……!」

デッキ13⇨8

 

 

ヴァイクモンが吠える。その爆発的な音は椎名のデッキを吹き飛ばす。そして、その中にはマジックカードの【ワイルドライド】が確認される。

 

 

「マジックカードがあるね、……ならヴァイクモンの追加効果でこいつ自身を回復させる!」

ヴァイクモン(疲労⇨回復)

 

「……回復!?」

 

 

破棄されたワイルドライドのカードが光りだすと、それに共鳴するようにヴァイクモンが青く光りだす。

 

 

「煌臨スピリットは煌臨元としたスピリット全ての情報を引き継ぐ。よって、今のヴァイクモンはアタック状態だ!……言ってみたかったんだよね〜〜この台詞!」

 

 

ヴァイクモンはズドモンのアタック時に煌臨したので、ヴァイクモンは現在進行形でアタックしていることになる。

 

 

「ちなみに、こいつはアタックしたバトルの終了時にデッキをさらに7枚破棄する」

「……!!」

 

 

ヴァイクモンは現在回復状態であり、2回攻撃が可能。つまりこの後、王女さんは椎名のデッキを最大14枚破棄できることになる。

 

椎名のデッキは残り8枚。これがフルで通ってしまえばジ・エンドだ。

 

 

「くそ!それは止めなきゃ!……フラッシュタイミング!マジック!チェイスライド!効果でヴァイクモンを疲労させる!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨2

トラッシュ3⇨5

 

「……!!…緑の疲労マジック……!」

ヴァイクモン(回復⇨疲労)

 

 

ヴァイクモンは緑の風で疲労状態となり、進んでいた足が止まる。

 

 

「だけどその程度じゃあ、最初のアタックは止まらないよ!」

 

「……そこはライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ヴァイクモンは両手に持つ鎖付きの巨大鉄球を振り回して椎名に投げつける。それは瞬時に椎名のライフを1つ砕いてみせた。

 

ようやく1つ減る椎名のライフ。だが、もうこのバトルにおいては自分のライフなどほとんど関係なかった。なにせ、いくらライフが残ろうともデッキがなくなってしまえば終わりなのだから。

 

 

「ヴァイクモンのアタック時効果!バトルの終了時に相手のデッキを7枚破棄する!」

 

「ぐっう!」

デッキ8⇨1

 

 

ヴァイクモンの鎖付きの巨大鉄球が再び椎名に投げられる。今度は椎名のデッキを襲い、その風圧だけで計7枚ものカードが破棄された。椎名のデッキはいよいよ後1枚。

 

 

「あぁ、1枚残ったか、……まぁ、いいや、次で終わりだね……ターンエンド」

ヴァイクモンLV3(6)BP15000

海傭師団スナ・メリーLV1(1)BP1000

 

No.2ブルーフォレストLV2(3)

No.26キャピタルキャピタルLV1

No.26キャピタルキャピタルLV1

 

バースト無

 

 

「へへっ!」

「……!?…どうしたの?急に笑って」

「いや何、凄い楽しいと思ってね、私の残りデッキは1枚、次のターンで決められなかったら終わる。そう考えただけでメッチャワクワクする!!……これを乗り越えたいって思うとドキドキする!」

 

 

何故だろうか、王女さんはこの時の椎名をまた誰かに重ねてしまう。やはり、椎名は自分の知っているあいつにそっくりだ。外見と中身はどちらかといえば別のあいつに近いが、バトルの腕や考え方はあいつそのものとも思えるほど同じものであった。そう思うと、王女さんはついつい頬の力を緩めてしまう。

 

 

「ふふ、そう。楽しい…ドキドキする……か、だけど、この盤面は流石に私の勝ちじゃない?……」

 

 

確かに椎名が逆転するには掻い潜らなければならないものが多すぎる。先ずは2枚のキャピタルキャピタル。破壊時にコスト3以下のスピリットを1体破壊するスナ・メリー。王女さんのライフは2。椎名の手札は次のドローを合わせても3枚。スピリットはガンナー・ハスキーのみ。ライフがほとんど減っていないため、コアも少ない。確かに1ターンで克服するにはいささか厳しいものがある。

 

 

「いや、最後に残ったのが本当にあのカードだったら私の勝ちだ!!」

「なに?」

 

 

椎名は自分の作ったデッキを当然把握している。残った1枚はあのカードだと、密かに自信を持っていた。

 

そして椎名のターン。デッキがゼロになってもその時点でスタートステップでなければ、そのターンは行動できる。だが、次はない。正真正銘のラストターンだ。

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

 

 

「ドローステップ!!……よし!やっぱりこいつだった!」

手札2⇨3

デッキ1⇨0

 

(なんだ、何を引いた?)

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!!この瞬間、ガンナー・ハスキーの効果発揮!青のシンボルを1つ追加!」

 

 

ガンナー・ハスキーの頭上に青のシンボルが1つ出現する。これで椎名はある程度の軽減を確保できるようになる。

 

 

「いくよ!王女さん!先ずはブイモンと、風盾の守護者トビマルを召喚!」

手札3⇨1

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名の場に呼び出されたのは【アーマー進化】の効果で手札に戻っていたブイモンと、巨大な盾を所持した緑の鳥型のスピリット、トビマル。

 

そして椎名が予測していたカードが召喚される。

 

 

「そして!最後のラスト1枚で引き当てた、奇跡のブレイブカード!鎧殻竜グラウン・ギラスを召喚!」

手札1⇨0

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨5

 

 

地中より、赤属性のブレイブ、鎧殻竜グラウン・ギラスが飛び出してきた。それは逞しい4足歩行で、表皮には岩のようにゴツゴツとした外骨格を持っている。

 

 

「ここに来て赤のブレイブ!?」

「そう、……そしてこいつの召喚時効果で相手のネクサス1つを破壊する」

「……!?」

「いけぇ!グラウン・ギラス!キャピタルキャピタルを1つ破壊だ!」

 

 

グラウン・ギラスが地面を踏みしめて、盤面全体に振動を起こすと、宙に浮いているキャピタルキャピタルは何故か地に沈められていった。

 

 

「へぇ、やるじゃない、でもその程度じゃあ、」

 

「いや行ける!グラウン・ギラスをトビマルに合体!そしてトビマルを2に上げる!」

リザーブ1⇨0

風盾の守護者トビマル+鎧殻竜グラウン・ギラスLV1⇨2(1⇨3s)BP3000⇨6000

 

 

トビマルとグラウン・ギラスが合体……と言うよりかは、トビマルがグラウン・ギラスの背中に止まり木のように止まっただけである。椎名はトビマルがキャピタルキャピタルの効果に引っかからないようにソウルコアを置いた。

 

これで椎名の逆転への布石が全て整った。

 

 

「アタックステップ!トビマルでアタック!この瞬間!グラウン・ギラスの合体アタック時効果でネクサスをさらに破壊!2枚目のキャピタルキャピタルを撃ち落とせ!」

「またネクサスを!?」

 

 

グラウン・ギラスは同じ要領で再びキャピタルキャピタルを地に沈めた。これで椎名のスピリット達にアタックの制限が課されることはない。

 

 

「だけどスナ・メリーを破壊させてしまえば、頭数は足りなくなる!」

 

 

そうだ。まだ王女さんの場にはスナ・メリーが存在する。このアタックに対してスナ・メリーを差し出されて破壊時を発揮させてしまえば、ブイモンか、ガンナー・ハスキーが破壊されて、椎名の負け。だが、そんなこと椎名もお見通しであって、

 

 

「トビマルのアタックか、ブロック時の効果。相手は相手のスピリット1体を疲労させる!」

「なに!?…今の私のスピリットは、スナ・メリー1体……」

「そうだ!スナ・メリーには疲労しててもらう!」

 

 

グラウン・ギラスの背中に止まっているトビマルが起こす風に、スナ・メリーは耐えられず、その場で腹を空に向け、横たわってしまう。

 

これで王女さんのブロッカーはゼロだ。

 

 

「さぁ!アタックは継続中!」

 

「くっ!仕方ない!ライフで受ける!」

ライフ2⇨1

 

 

猛ダッシュするグラウン・ギラスの体当たりが、王女さんのライフにクリーンヒットして、それを1つ破壊した。

 

 

「これで最後だ!いけぇ!ブイモン!」

 

 

ブイモンは待ってましたと言わんばかりに走り出す。もうすでにキャピタルキャピタルの効力が失われているため、リザーブからコアを払う必要もない。

 

 

「……ふふ、参ったねぇ、本気で勝つ気でいたんだけどなぁ」

ライフ1⇨0

 

 

王女さんは受け入れるように笑ってみせる。ブイモンの強烈な頭突きがその最後のライフを破壊した。王女さんのライフがゼロになったことでこのバトルの勝者は椎名に終わる。

 

王女さんの場に残ったヴァイクモンやブルーフォレストは役目を終えたかのように、ゆっくりと消滅していく。椎名のスピリット達も勝利したことを喜びながらも消滅していった。

 

 

「王女さん!私すっごい楽しかった!またバトルしよう!」

「あぁ、私もだよ、久しぶりにドキドキしたよ、またやろうな!」

 

 

互いに死力を尽くしたバトルが楽しくないはずがなく、どちらもその健闘を称え合う。

 

 

「て言うか、私、そろそろ元の場所に帰らないと……」

「えぇ!もっとバトルしたかったのに〜」

 

 

やはりもっと王女さんとバトルがしたかったのか、その言葉に対し、椎名は若干のショックを受けた。だが、直ぐに王女さんは忙しいから、と言う理由で納得してしまう。

 

 

「そうそう、最後にこれを渡しとくね!」

「ん?………え!?もらっていいの!?」

 

 

王女さんから渡されたカード。国の王女からもらったなど。椎名にとってはこれ以上にない自慢になることだろう。自慢話しを信じてもらえるかは怪しいところだが、

 

 

「じゃあ、今日はありがとう……これからも頑張ってね」

「うん!……頑……張る、………よ?」

 

 

何故か急に椎名の目の前がぐねりとひん曲がり、その後、真っ暗になる。そんなことに気付く前に椎名は倒れてしまった。

 

 

 

******

 

 

 

「う、……うーーんっ!………ん、あれ!?王女さんは!?」

 

 

椎名は目を覚ました。仰向けになった体を半分起こしながら考えた。あれはなんだったのだと。時は今、鮮やかな橙色の夕焼けが差し込んでいる夕方だ。王女さんと対談したのは星空輝く夜の出来事。こう言った矛盾から、きっとあれは夢だったのだと、椎名がそう思った次の瞬間だった。

 

 

「……夢…か、…あれ?これって、」

 

 

椎名は右手に違和感を感じた。まるで何かを握っていたような。そしてふとその手を見てみると、そこには【No.26キャピタルキャピタル】のカードがあった。これは確かに王女さんから貰ったものだ。

 

椎名は一瞬驚くと、頬の力を緩めてにこりと笑う。そして勢いよく立ち上がり、橙色から墨色に変わろうとしている街並みに向かって叫んだ。

 

 

「王女さぁぁん!!またバトルしようねぇぇえ!!」

 

 

一期一会。椎名は1つの出会いに感謝しながら自分の部屋へと戻っていくのだった。




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【ヴァイクモン】!!」

「ヴァイクモンはデッキ破壊に特化した青の究極体!煌臨元になった完全体を手札に戻すことで、相手のデッキを破棄させつつ、回復することができるよ!私も完全体とか、究極体、欲しいなぁ!!」





最後までお読みいただきありがとうございました!
*タイトルは最初『歯向かえ』にしてましたが、日本語的にどうかと思い、『抗え』に変更しました。
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