バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

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第6話「悪霊退散!? 照らし出せネフェルティモン!」

 

 

 

 

 

 

ここはとあるお墓。まだ日が差し込んでくる昼間の時間だというのに、学校の制服を着用して、数多の種類が確認できる花束を手に持ち、ある墓石の前に立つ1人の少年がいた。それは赤羽司だ。墓石に刻まれている名前は【赤羽茜(あかばねあかね)】。

 

ー彼の7つ年上の姉だ。

 

司はその花束を墓石の前にゆっくりと供えた。

 

 

「久しぶりだな、姉さん」

 

 

墓石の前でそう呟く司。いくら話しても返事が返ってくるわけがないと理解していても、その墓石を前にすると口を開かずにはいられなかった。

 

だが、開くと言っても、出てくる言葉は『久しぶり』のみ。それ以外のことなど、話す気にもなれなかった。

 

司がこの墓石に来たのは2回目。最初の葬式の時以外、ここに立ち寄ったことがなかった。あの時はただ、姉が死んだことを認めたくなかった。

 

茜が亡くなったのは5年前の出来事。元々病弱だった彼女は重たい病気でその命を落としてしまった。

 

その才能は司以上だと言われてきた。その病弱な面がなければ今頃はプロのバトラーとなり、世界を股にかける凄腕として注目を浴びていたことだろう。

 

そんな姉が病室で死ぬ間際に自分に残してくれた最後の言葉がずっと頭に引っかかっていた。それは、

 

 

 

ー『強くなれ!天国で待ってる!……誰にも負けないくらい強くなれ!……そしたらいつか、司も登ってきたら、……またバトルしよう!』

 

 

 

この言葉の意味を、司はとても深く捉えていた。考えれば考えるほどわかりづらくなってくる。

 

単に病弱だった姉が自分と最後にバトルをできなかったことを惜しんだ言葉だったのか。はたまた本当に2度と負けるなと言う意味だったのかは、彼女が死んだ今、最早わからぬことであって、

 

司はこの言葉をこう捉えていた。自分はもう2度姉以外のバトラーには負けない。いつか天国で姉と再戦するまでは、絶対に負けることが許されない。それが彼女に対する一番の供養になる。そう考えていた。

 

だが、負けてしまった。【芽座椎名】に。5年前から負け知らずで、ジュニア大会にも積極的に参加し、それら全てを勝ち取り、【朱雀】と言う異名の名の下に優勝したにもかかわらず。どこぞの馬の骨かもわからない相手に大逆転を喫して敗北してしまった。

 

負けた瞬間はあまりの悔しさに敗北を認めたくなかった。だけれども、同時に感じ取ってしまった。芽座椎名のバトルスピリッツに対する思いを。それがまた自分自信をおかしくしていた。

 

それはとてもおおらかだった自分の姉にそっくりであって、雅治が椎名に惹かれているはなんとなくわかる気がしていた。雅治は自分の姉が、茜が心の底から好きだった。5年前の葬式では自分以上に涙を流し、悲しんでいた。姉もまた、雅治を可愛がっていた。

 

椎名は姉によく似ている。声のトーンだったり、髪の長さだったり、その色だったり、妹だと言われてもあながち一瞬は騙されるかもしれない。だが、血筋の違う別の人間なのは確かなこと。飽くまで重なる部分が多いだけだ。

 

その後、司は夜を迎えるまで茜の墓石の前で黄昏ていた。茜の言葉の意味を考えながら。そして空はすっかり墨色に染まる頃。

 

 

「馬鹿だな、俺は、こんなとこでいくら頭捻っても答えなんて出やしねぇのに」

 

 

空はもう真っ暗、墓の外れの道のライトだけが、唯一の明かりだ。そんな中で、司に声をかける人物が1人。

 

 

「……お主、もしや、その墓石の者の、肉親か何かかの?」

「あぁ?」

 

 

現れたのは隻眼の初老の男性、髭を生やしていて、背筋が真っ直ぐなのが印象的、いや、それ以上に目立つのが、白い装束か、この時間帯にこんな服を着ていると、これくらいの歳の男性は幽霊にも見えてしまう。

 

司は生憎、幽霊などと言う非科学的な物は一切信じていない。

 

 

「肉親だけど、なんか文句あんのか?」

「ほっほ!最近の若者は威勢がいいのぉ!」

 

 

自分の事を聞かれるのが嫌なのか、やや突き放した態度をとる司に対し、幽霊のような男性は懐が広いのか、それを見て大きな声で笑い飛ばしていた。

 

 

「ほっほ!いや何、その墓石、あんまり人が来ないから……ちょっと気になってたんじゃよ」

「あぁそ、悪いが俺はもう帰る」

 

 

聞く耳をほとんど持たず、司はその場を離れようとする。が、次の瞬間に男性が放った一言が司の足を止める。

 

 

「……お主、悩んでおるな、バトルに勝てなくて」

「……!?!…」

 

 

男性は司が悩んでいた事の核心を突いてきた。司はほとんどそんな言葉を発していなかったはずなのにだ。司は血相を変えてその男性を問い正そうとする。

 

 

「なんでそんな事わかるんだよ、ジジイ」

「おっ!ようやく儂と話す気になったか…………いや何、儂は生前からバトルを教える側の人間での?…伸び悩む者の気持ちがわかるんじゃ」

「はぁ?生前?何言ってんだお前」

 

 

普通は生きている人間から自分の生前のことなど語られるわけがない。司が不思議そうに返事を返すと、男性は全面のドヤ顔でこう言った。

 

 

「いや〜儂、幽霊なんじゃよね〜」

「……はぁ?」

 

 

男性は自分のことを幽霊だと言った。そんな身もふたもない嘘を信じられるわけがないだろう。と言わんばかりに司は首を傾ける。男性は証拠を見せつけるように赤羽家の墓石に近づき、それを手で触ろうとした。本当に幽霊だったのか、その手はするりとすり抜けてしまった。

 

 

「な!?」

「じゃろ?凄いじゃろ?もうかれこれ10年以上もこんな感じなんじゃよ」

 

 

司は珍しく驚きの声を上げる。普通の人なら恐怖にまみれてその場をトンズラしてしまうだろうが、この男性は幽霊的に驚かせようとはしていなかった点を見ると、悪い幽霊ではないことが示唆される。呪われるなんて物騒なことはされないだろう。司はそう考えて、この場に一応止まることにした。

 

 

「いやぁ、申し遅れたな、儂は【武魂影技(ぶこんかげわざ)】。武魂家の将軍だった男じゃ」

「武魂家?聞いたことねぇ一族だな」

「むぅ、やはり知らぬか、まぁ良い、それよりお主、儂とバトルをしないか?…お主を強くするため、みっちりしごいてやるぞい!」

「はぁ?なんで、俺は暇じゃねぇんだよ。何が好きで幽霊なんかとバトルしなくちゃいけねぇんだ」

 

 

武魂影技と名乗る男性。バトスピ一族は多数いるが、武魂などと言う一族は司の頭の中にはインプットされていなかった。影技は怪訝そうな顔をする。

 

そんな幽霊が司にバトスピを挑んできた。幽霊とバトルするなど気味が悪いだろうと思い、司は断りの言葉を並べるが、

 

 

「負けるのがそんなに怖いか、少年」

「あぁ?」

「そんなにこの老いぼれに負けるのが怖いのかと言っているんじゃ」

 

 

安い挑発だ。だが、プライドが高い司はこんな挑発でも、易々と乗ってしまう。

 

それは少々子供っぽく見えるが、それだけ自分に自信がある証拠でもあって、

 

 

「んだとてめぇ!上等だ!ぶこんだか、うこんだが知らねぇが、格の違いを見せてやる!」

「はっは!やはり威勢がいいのぉ!」

 

 

2人のバトルが結託される。2人はお墓の空き地の広いスペースまで赴いた。司は懐からBパッド取り出し、直ぐにセッティングするが、1つだけ、幽霊の影技に対して疑問が浮かんできた。

 

 

「そういや、ジジイ、お前物に触れられないのにどうやってバトルするんだ?」

「ん?あ〜〜心配ご無用じゃ、………おぉ〜〜い、ミッケやぁ〜〜〜!!」

 

 

率直な疑問だった。何も触れることができないから、カードは愚か、Bパッドすらセットできないのではないかと、そうなればバトルをするなんて不可能ではないのか、と。

 

影技が「ミッケ」、と呼ぶと。そこに現れたのはただの三毛猫。だが、その口にはBパッドが加えられていて、

 

 

「よぉし、偉いぞ!組み立ててくれ!」

 

 

すると、ミッケは手慣れた手つきでBパッドを変形させた。まぁ、ボタン1つで変形するから猫でもできないことはないか。

 

 

「なんだ、この猫」

「儂と仲良くなった『ミッケ』じゃ、可愛いじゃろ?…………それでデッキは儂の懐にある物を使えばと……よし!」

 

 

影技の火葬の時に一緒に燃やされた魂のデッキがある。それなら幽霊でも触れるのか、影技はBパッドにそれをセッティングした。幽霊の私物にもかかわらず何故反応するのかと、司は聞きたかったが、直ぐにそんなことはどうでもよくなり、聞くのをやめた。彼には色々な常識が通用しない。

 

ーそしていよいよ2人のバトルが幕を開ける。

 

 

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

今回の先行は影技だ。ターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン01]影技

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

「よし、メインステップじゃ、先ずはネクサスカード、故郷の山に似た山を配置じゃ」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「……赤のネクサスか」

 

 

影技が配置したネクサスは赤のカード。これで彼は赤属性の使い手であることが判明する。同じ赤として、司はより負けられないバトルとなった。

 

影技の配置した赤のネクサスは、まるで富士の山を連想させるような山岳だ。

 

 

「ターンエンドじゃ」

故郷の山に似た山LV1

 

バースト無

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺もネクサスカード、朱に染まる薔薇園を配置」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

墓場を彩るのはとても鮮やかな赤い薔薇園。だが、その薔薇園の薔薇には一本一本鋭い棘が存在する。

 

朱に染まる薔薇園の配置で、司の盤面には赤と黄色のシンボルが1つずつ並んだことになる。

 

 

「ほほぉ、これはなんとも見事な」

 

「何感心してんだ、俺はこれでターンを終了する」

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

司もネクサスカードを配置しただけでそのターンを終えてしまう。

 

お互い静かな滑り出しとなった。が、仮にも赤属性同士のバトル。この後の展開が凄まじくなるは目に見えている。

 

 

[ターン03]影技

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップじゃ、ドラマルを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨4

 

 

影技が最初に呼び出したのは甲冑を着た小さなドラゴン。身の丈と同じくらいの声を張り上げながら場に現れた。

 

 

「武竜デッキか」

「ほっほ、儂らの一族の習わしでな、昔から武竜一筋じゃよ」

 

 

『武竜スピリット』、主に赤属性が持つ系統で、バトルによる破壊を得意としている。ソウルコアの扱いにも長けており、他の系統を見てもそれは随一であると言える。影技の生まれ育った武魂家では、何故かこの武竜を使わなければいけなかったらしい。

 

 

「さらに、もう1枚、ネクサス、故郷の山に似た山を配置しようかの」

手札4⇨3

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

影技の背後にもう1つ大きな富士の山が聳え立つ。

 

 

「そして、こいつを、サムライ・ドラゴンを召喚じゃ!そのコストは2枚の故郷の山に似た山の効果により、マイナス2となり、3、3つの軽減と合わせて、ノーコスト召喚じゃ!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨1

 

「なに!?」

 

 

故郷の山に似た山の効果は武竜スピリットのコストを1つ下げるというもの。それが2枚あることにより、本来コスト5のスピリットであるサムライ・ドラゴンが、コスト3として召喚されたのだ。

 

舞い上がる桜吹雪の中で、青く勇ましい侍の竜、サムライ・ドラゴンが召喚された。

 

 

「ドラマルに残ったソウルコアを追加じゃ……そしてアタックステップに入るかの」

リザーブ1s⇨0

ドラマル(1⇨2s)

 

 

ドラマルにソウルコアが追加されるが、特に変化はない。だが、意味がないと言うわけでもない。

 

それはこのアタックステップで直ぐに分かることであって、

 

 

「さぁ、先ずはドラマルじゃ、」

 

 

ドラマルが小さなおかっぺきを掲げながら走り出す。前のターンでコアを全て使い果たした司はこの攻撃を防ぐ術はなかった。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ドラマルの身の丈ほどの小さなおかっぺきの一撃が、司のライフを1つ破壊した。

 

 

「次じゃの、行け!サムライ・ドラゴン!」

「そいつもライフで受け……」

「おお、おお、ちょっと待つんじゃ、フラッシュタイミングで、サムライ・ドラゴンの【覚醒】を発揮じゃ」

「!?」

 

 

【覚醒】とは、赤属性特有のキーワード効果であり、フラッシュタイミングで他のスピリットのコアを取り除き、自身に置くことができる。バトル時のBP上げにはもってこいの効果だ。だが、このサムライ・ドラゴンは他の【覚醒】スピリットとは少々使い方が変わっていて、

 

 

「ドラマルのソウルコアをサムライ・ドラゴンに………そして、サムライ・ドラゴンの効果発揮じゃ、【覚醒】により、ソウルコアがサムライ・ドラゴンに置かれた場合、サムライ・ドラゴンは回復し、そのBPを5000上昇させる」

ドラマル(2s⇨1)

サムライ・ドラゴンLV1⇨2(1⇨2s)BP3000⇨6000⇨11000(疲労⇨回復)

 

 

「なんだと!?」

 

 

効果により回復したサムライ・ドラゴン。これで2回攻撃が可能となった。使えるコアが少ない司はこの攻撃をライフで受けるしかなくて、

 

 

「サムライ・ドラゴンの2連撃、受けてみよ!」

 

「くっ!ライフで受ける」

ライフ4⇨3⇨2

 

 

サムライ・ドラゴンが刀を抜刀すると、見事な剣術で、司のライフを一瞬のうちに2つも削り取ってしまう。

 

 

「ほっほ、なんか若い頃を思い出すのぉ、……あの頃はまだ娘も小さくって」

「御託はいいから、早くエンドしろよ」

 

「むぅ、せっかちな男よ………まぁいい、ターンエンドじゃ」

ドラマルLV1(1)BP1000(疲労)

サムライ・ドラゴンLV2(2s)BP6000(疲労)

 

故郷の山に似た山LV1

故郷の山に似た山LV1

 

バースト無

 

 

おそらくは椎名以上の速攻であっただろうこのターン。影技が自分の予想していた以上に強敵だと思い知る司。だが、椎名にも負けて、こんな得体の知れない幽霊に負けられない。負けたらおそらく自分の一生の恥だとも考えていた。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!朱に染まる薔薇園をLV2へ上げる!……これで俺の赤のスピリットとブレイブの赤軽減シンボルは黄色としても扱えるようになる」

リザーブ9⇨8

朱に染まる薔薇園(0⇨1)LV1⇨2

 

 

「ほほぉ、赤が黄色にのぉ」

 

 

朱に染まる薔薇園のLV2効果は赤のスピリットとブレイブのカードを黄色にすると言っても過言ではない効果である。これを活用し、司はスピリット達を展開して行く。

 

 

「いくぜ、ホークモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨6

トラッシュ0⇨1

 

 

司が呼び出したのは赤き羽を羽ばたかせる鳥型の成長期スピリット、ホークモン。

 

 

「デジタルスピリットか、奴らも安くなったもんじゃのぉ」

 

「一々うるせぇ、ホークモンの召喚時効果!」

オープンカード

【イーズナ】×

【イーズナ】×

【シュリモン】○

 

 

ホークモンの召喚時効果が起動され、その中の対象内のスピリットカードであるシュリモンが、司の手札へと加わった。

 

 

「さらに、俺はハーピーガールをLV3で召喚する!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ6⇨1

トラッシュ1⇨3

 

「ぉぉぉお!ええのぉ!可愛いぞ!ありじゃよ!」

「うるせぇっつってんだろ!ジジイ!」

 

 

司が呼び出したもう一体のスピリットは、美しい少女の顔をしたスピリットだが、その手足は強靭な巨鳥のような黄色のスピリット、ハーピーガール。

 

大の女好きである影技は、目をハートにしてハーピーガールを見つめる。ハーピーガールはそんな影技に対して、少し引き気味。

 

 

「アタックステップ、……ハーピーガールでアタック!アタック時の【連鎖:赤】!BP3000以下のスピリットを1体破壊!ドラマルだ!」

「ぐっ!ドラマル……寂しいのぉ」

 

 

ハーピーガールの翼の攻撃により、ドラマルが呆気なく敗れ去ってしまう。ハーピーガールの効果はライフを奪ってからが本領発揮なのだが、司はその前にここで別の一手を繰り出す。

 

 

「フラッシュタイミング!マジック!レッドライトニング!……この効果でBP6000以下のスピリット1体を破壊!…くたばれ!サムライ・ドラゴン!」

手札4⇨3

リザーブ1⇨0

朱に染まる薔薇園(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ3⇨5

 

「むっ!」

 

 

赤き稲妻が迸る。それは瞬く間にサムライ・ドラゴンを貫く。サムライ・ドラゴンは耐えることができずに、その場で大爆発を起こした。

 

 

「さぁ!ハーピーガールのアタックが継続中だぜ!」

 

「……これは仕方ないな、ライフで受けるかの」

ライフ5⇨4

 

 

ハーピーガールの強烈な足技が影技のライフを粉砕した。ハーピーガールの効果がこの瞬間に発揮される。

 

 

「ハーピーガールの効果!【聖命】!ライフを1つ回復する!………さらに、朱に染まる薔薇園の効果で自分のアタックステップ時に自分のライフが回復した時、デッキからカードを1枚ドローする」

ライフ2⇨3

手札3⇨4

 

 

黄色と赤が織りなすコンボにより、司はライフと手札を潤していく。

 

 

「ほっほ、今時の若い者は贅沢好きじゃのぉ」

「続け!ホークモン!」

 

 

影技の言っていることを全て無視して、司はホークモンにアタックの指示を送った。

 

 

「それもライフじゃ」

ライフ4⇨3

 

 

ホークモンの赤い翼の一撃でついにライフ差が同じとなった。手札の差も考えると、現在は司が若干巻き返したと言えるだろう。

 

 

「ターンエンド」

ホークモンLV1(1)BP3000(疲労)

ハーピーガールLV3(3)BP5000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

[ターン05]影技

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨8

トラッシュ2⇨0

 

 

「なかなかやる見たいじゃの〜、じゃが、お主はまだまだ爪が甘い」

「なんだと!!」

 

 

なかなかやる。爪が甘い。それらの自分を軽く見ている言葉だけで、【朱雀】と呼ばれている司にとっては侮辱の極みのような言葉であって、

 

だが、本当に影技からしてみれば爪が甘かったのだ。それは彼のこのターンですぐにわかることだ。

 

 

「まぁ、まだ若いしのぉ、これからじゃよ………メインステップ!ヒエンドラゴンをLV2で召喚じゃ!……2枚ぶんの故郷の山に似た山の効果でコストを2下げ、ノーコスト!」

手札3⇨2

リザーブ8⇨6

 

 

影技の場に現れたのは、燕のような翼を翻している。武竜のスピリット、ヒエンドラゴン。元々のコストが3であるため、2枚の故郷の山に似た山の効果と軽減により、ノーコストで召喚された。

 

 

「さらに、剣豪龍サムライ・ドラゴン・天をLV2で召喚じゃ!……故郷の山に似た山の効果でコストは4じゃ」

手札2⇨1

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

暗がりの街を明るく照らし出すほどの火柱の中で、眼光を放ちながら待機する武竜のスピリット。それはすぐさま自身の両手に持つ2本の刀で火柱を断ち切り、その姿を見せる。

 

その正体はサムライ・ドラゴンの息子。サムライ・ドラゴン・天。その派手な登場の仕方に思わず司もたじろいだ。

 

 

「な、に?サムライ・ドラゴン………天!?」

「ほっほ、ではいくかのぉ、アタックステップじゃ」

 

 

この瞬間、天の背中に『天』の字の炎が浮かび上がる。これは天のド派手な効果の始まりのサインでもあって、

 

 

「天の効果、【無限刃】、ソウルコアの置かれている天は指定アタックが可能となるんじゃ」

(……!?……それだけか?)

「ほれ、まぁ、手始めにハーピーガールから叩くかの?可愛い子じゃったが、バトルならば仕方あるまい」

 

 

天が走り出す。その2本の刀でハーピーガールをあっという間に引き裂いてみせた。天の猛攻に耐えられるわけなく、ハーピーガールはその場で大爆発してしまう。

 

ーそして天の【無限刃】のおそるべき能力が語られる。

 

 

「そして、天はこの時、疲労はせん」

「なに!?」

 

 

そう、天は【無限刃】の状態でいるならば、疲労せずに、指定アタックができる。アタックするスピリットは基本的に回復状態のスピリットのみが宣言できる。つまり今の天は相手のスピリットがいる限りは文字どうり無限にアタックを繰り返すことができるのだ。

 

 

「さぁ、次はホークモンじゃ!」

(くそ!疲労しないんじゃあ、シュリモンの召喚字効果は使えない………でもBPは勝てるか)

 

 

天がホークモンを襲う直後に、司の手札のカードが光を放つ。それはさっき手札に加えていたスピリットカード。シュリモンのカードだ。

 

 

「フラッシュタイミング!【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!……緑のアーマー体、シュリモンをLV2で召喚!」

リザーブ3⇨0

トラッシュ5⇨6

 

 

ホークモンの頭上に独特な形をした卵が投下され、衝突し、混ざり合う。新たに現れたのは緑の忍者のような外見をしたスピリット、シュリモン。

 

シュリモンは召喚時に疲労状態の相手のスピリット1体を手札に戻す効果があるのだが、そもそも疲労しない天にはほとんど無効。それでも司が召喚した理由はただ1つ。

 

 

「シュリモンのLV2BPは9000、それに対し、天のBPは7000!これで【無限刃】はできねぇ」

 

 

そう、天の弱点の1つとして、LV2までのBPがそのコスト帯としてはかなり低めであるということ。BPで勝てなければ、当然影技はアタックはできなくなる。だが、彼はそのくらいで止まるような男ではなかった。

 

 

「なるほど、まぁ、構わんよ、いけ!天!【無限刃】じゃ!」

「なに!?!」

 

 

BPが低いにもかかわらず、止まることなくシュリモンに勝負を挑む天。だが、それには当然訳があるわけで、

 

天の2本の刀とシュリモンの巨大な手裏剣がぶつかり合う。その光景はまるで時代劇さながら、力差はほぼ拮抗していたが、若干、シュリモンが押しているように見える。

 

 

「フラッシュタイミング!ヒエンドラゴンの【覚醒】を発揮!天のソウルコアをヒエンドラゴンに追加する!」

剣豪龍サムライ・ドラゴン・天(4s⇨3)

ヒエンドラゴン(2⇨3s)

 

 

天のソウルコアがヒエンドラゴンに移される。だが、司には疑問が残った。

 

 

「おい!待て!ヒエンドラゴンには【覚醒】の効果はないはずだ!」

「ほっほ、学業を疎かにしておるな、剣豪龍サムライ・ドラゴン・天は系統「家臣」「主君」を持つスピリットに【覚醒】を与えるんじゃよ」

「な!?」

 

 

【無限刃】に隠れがちだが、剣豪龍サムライ・ドラゴン・天のもう1つの効果は、前述された系統に【覚醒】を追加する効果。これにより、LVは特に変化はないが、ヒエンドラゴンにソウルコアが置かれた。だが、そこが重要である。

 

 

「さらにヒエンドラゴンはソウルコアが置かれている時、武竜スピリット全てをBP+4000するんじゃ」

「!!!!」

 

 

ヒエンドラゴンがソウルコアの力を受けて、赤く光り出す。この影響力は強く、天のBPは7000から11000に膨れ上がった。

 

拮抗していた勝負は一転して、天の独壇場となり、シュリモンの巨大な手裏剣を砕き、そのまま彼の身体をも貫き、爆発させた。

 

 

「くっ!……」

 

 

司はシュリモンの爆発による爆風を肌で感じると同時に、影技の実力も感じていた。基本はおちゃらけているように見えるが、彼の実力は本物だ。

 

 

「………むぅ、ここはブロッカーを残した方が得策か、………ならターンエンドとしようかのぉ……ほっほ」

ヒエンドラゴンLV2(3s)BP8000(回復)

剣豪龍サムライ・ドラゴン・天LV2(3)BP11000(回復)

 

故郷の山に似た山LV1

故郷の山に似た山LV1

 

バースト無

 

 

スピリットを全て破壊できても、残った2体では司の残り3つのライフを破壊することはできないからか、影技はここでターンを終える。

 

天がいる限り、並みのスピリットでは、その場にとどまることは難しいだろう。

 

 

(………俺はまた負けるのか?)

 

 

司は自身のBパッドを見つめながら、盤面を見ながら、負けを悟っていた。スピリットを維持し辛い状況なのだ。無理もない。それでも勝つ方法がないわけではないのだが、それにはまだパーツが足りていない。

 

だが、その負の気持ちと同時に溢れかえってくるのは雅治の言葉。その意味を今になって理解してしまう。しかもそれだけではない、5年前の茜の言葉さえをも同時に飲み込んだ。

 

いや、本当は、椎名に負けた時から理解していたのだ。ただあの時は心の整理がつかなかっただけ、影技とのバトルで今一度ピンチになることで、ようやく司は整理することができたのだ。

 

 

ー『茜さんが言いたかったことは絶対にそういうことじゃないはずだよ』

 

 

「………そうか、1回、1回負ければ本当はすぐにわかることだったんだな、なのに俺は昔の事ばかり引きずっちまって、………悪いな雅治……なんかやっと戻ってこれた気がするぜ」

 

 

司は思い悩んでいた心の鎖を断ち切る。姉が亡くなったあの日から、自分は止まっていたのだ。それを雅治はずっと気づかせるために行動していた。そしてようやく思い出せた。姉との色んな思い出。そこには毎日のように楽しいバトルが繰り広げられていた。そうだ。自分が楽しまなくては、天国に行った姉が報われないだろう。死ぬまでには強くなれば良いのだ、誰にも負けないくらい。それが真に姉の供養となる行いだ。

 

ようやくデコボコの幼馴染2人の意見が合致した。

 

 

(目つきが変わりおった……ようやく何かに気づいたようじゃな、………いや、あの目は気づいたと言うよりかは、思い出したって感じじゃな)

 

 

影技は心の中でそう考える。司の目は確かにさっきまでと全く違う。まるで全ての重荷を外した後のような感じだ。

 

 

「そうだよ、そうだよなぁ、俺がバトルを楽しめなくなってちゃ、姉さんも喜ばねぇ…………死ぬまでに強なりゃいいじゃねえか!…ありがとよ、ジジイ!おかげで吹っ切れたぜ!」

「ほっほ、わしは何もしとらんよ……お主が勝手に1人でテンション上がっとるだけじゃ………それはさておき、この状況からの逆転は厳しそうじゃな」

「いや、できる。勝利への道筋はすでに見えている」

「……!?!」

 

 

そう言いながら司は自分のターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨10

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ、朱に染まる薔薇園を再びLV2に上げて、もう一度ホークモンをフル軽減で召喚!」

朱に染まる薔薇園(0⇨1)LV1⇨2

手札4⇨3

リザーブ10⇨7

トラッシュ0⇨1

 

 

司の場に再びホークモンが姿を見せる。その召喚時効果も今一度発揮される。勝てるかはこの効果にかかっている。

 

 

「召喚時効果!」

オープンカード

【フレイムブロウ】×

【一角魔神】×

【テイルモン】○

 

 

効果は成功。成熟期のスピリット、テイルモンが司の手札に新たに加わった。このテイルモンこそが、逆転へのキーパーソンだ。

 

 

「……ふっ!……よし」

手札3⇨4

 

「ほっほ、成熟期など加えても無駄じゃよ、天の【無限刃】の前では塵にも等しい」

「まぁ、落ち着けよ、腰が曲がるぜ……ホークモンのさらなる効果!2コストを支払うことで黄色の成熟期スピリットを召喚!……来い!テイルモン!LV1だ!」

リザーブ7⇨4

手札4⇨3

 

 

ホークモンの召喚時の追加効果。2コストを支払えば成熟期の黄色のスピリットを召喚できるというもの。この効果で司はさっき手札に加えたばかりのテイルモンを即召喚した。

 

彼の場に、猫のような姿をしている鼠型で、黄色の成熟期スピリット、テイルモンが召喚された。このスピリットは時代や住む世界が違ければ、他のデジタルスピリットとは別格の存在となっていたことだろう。普通に買って手に入れた司にはわからないことではあるが。

 

 

「まだだ!手札のホルスモンの【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!……1コストを支払い、羽ばたく愛情、ホルスモンを召喚!LV1!」

リザーブ4⇨3

トラッシュ3⇨4

 

 

ホークモンの頭上に銀色で翼のようなものがある卵が落下してくる。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たに進化を遂げる。現れたのは強かに風を運ぶアーマー体スピリットのホルスモンだ。

 

 

「ホルスモンの召喚時効果!相手のネクサスを1つ破壊!……故郷の山に似た山を1つ破壊だ!」

「ほほぉ、」

 

「そしてその後、デッキからカードを1枚ドローする」

手札3⇨4

 

 

ホルスモンは召喚されるなり、鋭い眼光で、故郷の山に似た山を睨み付けると、そのうちの1つが、地面へと沈んでいった。

 

 

「そして、赤のブレイブ、砲竜バル・ガンナー〈R〉を召喚し、ホルスモンと直接合体!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨1

トラッシュ4⇨6

 

 

「椎名とのバトルの時にも使用した赤のブレイブカード。バル・ガンナーが司の場に現れ、一瞬のうちに合体形態となり、ホルスモンの背中にドッキングした。

 

ここで司はようやくアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!ホルスモンでアタック!砲竜バル・ガンナーの効果でデッキから1枚ドローし、BP6000以下の相手のスピリット1体を破壊!」

手札3⇨4

 

「ほっほ、BP6000なんて言う貧弱なスピリットは今の儂の場にはおらんぞい」

 

 

ヒエンドラゴンの効果でBPが増強されているのだ、BP破壊効果そのものが効きづらくなっている。だが、別に破壊はしなくても良い。司が欲しいのはフラッシュタイミングだ。

 

 

「お前のフラッシュがなさそうだから俺が使うぜ、……フラッシュタイミング!【アーマー進化】!対象はテイルモン!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ6⇨7

 

「……!!……ここでまたその進化か!」

 

「あぁ、その通りだ!来い!光育む神の使い!ネフェルティモン!LV2だ!」

朱に染まる薔薇園(1⇨0)LV2⇨1

 

 

テイルモンに不思議な形をした卵が投下され、衝突。混ざり合うと、新たに姿を見せたのは、まるでスフィンクスに近い外見のアーマー体スピリット。ネフェルティモンだ。

 

 

「ネフェルティモンの召喚時効果!トラッシュのコアを1つ俺のライフに!」

トラッシュ7⇨6

ライフ3⇨4

 

 

ネフェルティモンの放つ聖なる光が、司のライフに再び光を灯した。さらに灯されるのはその光だけではなくて、

 

 

「俺のライフが増えたことにより、朱に染まる薔薇園の効果でカードを1枚ドローする」

手札4⇨5

 

 

今度は朱に染まる薔薇園が光輝き、司の手札を潤していく。本当はもう手札もライフも増やす必要もないのだが、

 

 

「だが、たった1体進化態が出たところで、天とヒエンドラゴンの敵ではない」

 

 

そうだ、いずれもBPはどれも下回っている。だが、忘れてはいけないのがネフェルティモン。このスピリットの色は黄色。その効果も黄色らしい効果だった。

 

 

「ネフェルティモンは「アーマー体」のスピリット全てにLV1と2のスピリットにブロックされない効果を与える」

「なんじゃと!?」

「やっと驚きやがったな……ホルスモンはバル・ガンナーとの合体でダブルシンボルになっている」

「ぐつ!」

 

 

天とヒエンドラゴンがネフェルティモンの放つ異彩なオーラにより、身動きを封じられる。まるで金縛りにでもあっているかのようだった。

 

これで影技はブロックが不可。ホルスモンは体を竜巻のように回転させ、バル・ガンナーの砲撃と共に、影技のライフへと向かう。

 

 

「くらえ!……砲撃の嵐!ランパードストーム!」

 

「くっ!ライフじゃ」

ライフ3⇨1

 

 

ホルスモンは、そのまま重たくて鈍い音を立てながら、影技のライフを同時に2つ破壊して見せた。

 

そして最後を締めるのは、同じくアーマー体で自身の効果も対象圏内となるネフェルティモンだ。

 

 

「終わりだ!………いけ!ネフェルティモン!」

 

 

ネフェルティモンが空を飛ぶ。光の波動を頭部に集中させて、一気に放つつもりだ。影技はもう反撃のすべはなかった。

 

 

「………見事じゃ……ライフで受ける」

ライフ1⇨0

 

 

ネフェルティモンは光の波動を放ち、負けを認めた影技の最後のライフを破壊した。影技のライフがゼロになったので、勝者は司となる。圧倒的に不利な状況から大逆転して見せた。

 

周りのスピリット達も同時に消滅していくが、天とヒエンドラゴンはまるで年寄りの自分たちの主人を心配して気づかっているようにも見える顔で消えていった。

 

そして影技自体にも変化が訪れる。

 

 

「どうだ!ジジイ!俺の勝ちだ!………!!!?」

「ほっほ!やはりお主は強いのぉ、儂の娘にも引きを取らぬ天才じゃ」

「いや、おい!ジジイ!身体が!」

 

 

司は驚いた。それもそのはず、影技の身体がどんどん光の粒子となって、足元から天へと消え去ろうとしているのだから、

 

 

「ほっほ、最後にようやく納得のいく楽しいバトルができたからかの、未練もなくなり、こうやって成仏できるようじゃ」

 

 

そう、これは成仏。この世に未練をなくした影技は10年以上の時を経て、ようやくあの世へと行こうとしていた。猫のミッケもそれを察したのか、悲しそうな顔で影技を見つめていた。そう、影技は最初から成仏がしたかったから、司に近づいた。司に霊感があることを知っていたから。

 

司はこれが最後だと理解し、意外な気遣いを見せる。

 

 

「あんたは強かったよ……この俺が認めてやる」

「ほっほ!そりゃどうも!」

「最後にあんたの言葉を1つ聞いてやらぁ、歴史の偉人としてなんかいい言葉を残せよ」

 

 

上から目線には変わらないが、これは司が珍しく見せた他人への気遣い。影技は少し考えるとその口を開いた。

 

 

「そうじゃのぉ…………強いて言うなら、…まだ女子風呂を覗きたかったのぉ〜〜〜」

「……………はぁ!?」

「最近のお気に入りは、あのオレンジの頭の子じゃったな、顔も可愛い系じゃし、足は細くて、強かで綺麗じゃったし、最高じゃった。もう儂の好みドンピシャ」

 

 

影技が最後にとんでもないことを暴露した。霊感がない者には見えないのをいいことに、覗き行為を繰り返していたのだ。司も呆気に囚われて、開けた口がなかなか閉じない。最後に遺言をと思って気遣ったのに、まさかこんな返信が返って来ようとは、今までの影技のイメージがすごい下がっていく。

 

いや元々結構低かったから、あまり関係なかった気もするが、最後の最後までおちゃらけるとは思っていなかった。

 

 

「そうそう、スタイルも抜群でのぉ!着痩せするタイプじゃったのかのぉ、ほっほ…………じゃあの、ミッケ!少年!お前さんもあの世に来ることがあったらまた今日のような楽しいバトルでもしようじゃないか!…………」

 

 

それだけを言い残し、影技は天へと姿を消した。司の隣にいた猫のミッケが毛を逆立てて、悲しそうに鳴き声をあげる。

 

 

「悪いなぁ、ジジイ。あの世には先約がいるんだ」

 

 

司は影技の最後を見届けると軽く口角を上げて、そう呟いた。おそらくこの出会いがなければ自分は一生、雅治と茜の言葉の意味には気づかなかっただろう。少なからず感謝していた。

 

それと同時にあることに気づく。

 

 

「ん?まてよ、『オレンジの頭の子』?………」

 

 

オレンジの頭。いや、髪はあんまりいない部類の人間だろう。だが、司は1人知っていた。その不思議な髪色と形をした女子を。

 

 

******

 

 

その翌日の学園での出来事である。椎名は休み時間中に、いつものように、真夏とおしゃべりをしていた。

 

 

「最近身体が、だる〜いんだよねぇ」

「バトルしすぎちゃう?」

「いや、なんだろう。なんか、お風呂入ってる時とか、すごい視線を感じるんだよね」

「………いやいや、それ絶対あかん奴やん!ストーカーにでもひっつかれたんとちゃうんか!?」

「………むーーー別に人の気配は感じないんだけどなぁ、」

 

 

その直後、司が椎名達の教室へと入ってきた。大体1週間ぶりくらいだったろうか。椎名も司に気づく。

 

 

「あっ!司!久しぶり〜〜!この間急にいなくなったから心配したんだよ!?」

 

 

司は黙って椎名の前に立つと影技の言葉を思い出しながら彼女の着ている制服を、いや、彼女の全身をジロジロと見渡す。

 

 

(…着痩せするタイプ。ねぇ………)

「?」

 

 

不思議そうな顔をされながら観察される椎名は頭にはてなの字を浮かべる。そして司はようやく口を開く。たが、それは椎名や真夏にとっては全く通じない言葉であって、

 

 

「……めざし、お前、俺に感謝しろよ」

「はぁ!?」

「じゃあな」

「おいおいおい!どう言うこと!?」

「………あいつも結構謎い奴やな」

 

 

司はそれだけ言い残して、その場を離れて言った。椎名は何が何だかわからなかった。一体何を感謝すればいいのだと。

 

 

「やぁ、司、どう?頭は冷えたかい?」

 

 

渡り廊下でばったり会うのは幼馴染の雅治。司がここに再び帰ってきたということは、5年ぶりに悩みが消えたということだ。雅治は当然それを理解していた。幼馴染だから。

 

 

「……まぁな」

 

 

自分に足りなかったのは、いや、忘れていたものは、バトルを楽しむ心意気。姉がいなくなった事により損失していたこの感情は、今回の件を機に、その本心を5年ぶりに取り戻したのだった。

 

それと同時に椎名のことも認めた。あいつは強い。と。だが、次に戦う時は必ず負けない。【朱雀】と【赤羽】の名にかけて次は必ず倒すと心に決めた。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【ネフェルティモン】!!」


「ネフェルティモンはアーマー体にしては珍しく、成熟期から進化できるよ!ライフを回復したり、相手のブロックを通り抜ける効果を持ってる強力なアーマー体!!……そう言えば。司のやつ、一体何が言いたかったんだろう?」




最後までお読みくださり、ありがとうございます!
今日出てきた影技が誰かわかった人はすごいです!

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