その姿は………古来日本の伝承より伝わりし、怪物、【鬼】
長い一角が生え、牙があり、何より瞳が真紅の色に輝いている。その身に纏う赤黒いオーラはまるでこの世界の理をまるごと憎んでいるかのようにも見える。
だが、その正体は芽座椎名。元は人間なのだ。
「……グルルゥ…………ッガァァァァァァァァア!!!!!!!!」
「なんなんだ………なんなんだお前はぁぁあ!!?!」
「……あ、あれがめざし……なのか…っ!?」
理性と知性が無くなり、獣のような雄叫びを上げる椎名。剣総はこの場に来て、初めて恐怖というものを覚えていた。
ーそんな中、暴走した椎名は徐にターンを進めて行き、
「………」
[ターン11]椎名【鬼化】
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ7⇨8
「ガァァァァァァァァア!!!!」
ドローステップ時までシークエンスを進めた時だった。また妙な現象が起きる。
椎名のデッキが真紅の色に輝き、それが燃え上がるように噴き上がったのだ。
ただ、この現象自体なんなのかは、この場にいる司も、剣総も…………おそらくこの世界中の人々は皆、知っている。
だが、【それを椎名が行なっている】という点が大きな問題であって…………
「お、オーバーエヴォリューション………だとぉ!?」
「めざしは既にパイルドラモンのカードを創生しているはずだ…………2度目の……オーバーエヴォリューション!?」
【オーバーエヴォリューション】
地域によっては【超越進化】とも呼ばれている。
この世界では決して珍しくはないと言えないが、誰にでも起こり得る摩訶不思議な現象。
バトル中にカードを創生するというその摩訶不思議な現象は、これまで幾度となく、椎名や仲間達の窮地を救い出してきた。
だが、何度も名言されているが、その現象は、いかに強くて、素晴らしい素質のバトラーであっても、【一度きりしか起きない】
既にパイルドラモンというカードを創生している椎名に再びオーバーエヴォリューションなど本来ならできるわけない。不可能なのだ。
ーしかし、今のこの状況が物語っている。
椎名はこの鬼のような状態で、人生【2度目のオーバーエヴォリューション】を引き起こしたのだ。
「ガァァァァァァァァア!!!」
手札3⇨4
椎名は叫びながら、その光輝くデッキからカードを引き抜いた。それは、そのドローカードはやはり、さっきまで椎名のデッキの中には存在していなかったカード。
デッキへ新たに差し込まれたオーバーエヴォリューションのカード。
《リフレッシュステップ》
リザーブ8⇨16
トラッシュ8⇨0
「ガァァァァァァァァア!!!!」
手札4⇨3⇨2
リザーブ16⇨8
トラッシュ0⇨4
メインステップへと移行した椎名は勢いよくバーストカードを伏せると共に、誰もいなかった場へ、真紅の魔竜の1体、成熟期のグラウモンを召喚した。
椎名のこの状態に影響してか、グラウモンは瞳孔が開き、理性と知性を失ったかのように強く咆哮を上げた。その様子はまるで、何か別のものと共鳴しているかのよう………
「ガァァァァァァァァア!!!!」
椎名はアタックステップに入ったのか、雄叫びと共にグラウモンが走り出す。狙うは………剣総のライフだ。
「………んだよ、何も創生されてねぇんじゃねぇぇか!!!」
剣総もそう、叫び返した。事前に、【銃魔】から椎名のデッキのスピリット達はある程度聞かされていたため、このグラウモンの事を当然知っていた。オーバーエヴォリューションのカードなら、知らないカードが来るはず………
ーつまりははったり………確かにそう思ってもおかしくはない状況だった。
「ガァァァァァァァァア!!!」
椎名の雄叫びと共に、グラウモンが口内から螺旋状に渦巻く炎をブレイドへと放つ。ブレイドはそれに燃やし尽くされ、消え去ってしまう。
グラウモンのアタック時効果だ。BP7000以下のスピリット1体が破壊できる。これで剣総の場に残ったのは切り札である【ジョーカー】だけ………
「………この俺を一瞬でもビビらせた事を後悔させてやるっ!!……フラッシュ!!俺は手元にある仮面ライダーレンゲル[2]の効果を発揮!!トラッシュにある仮面ライダーブレイドを再召喚!!」
リザーブ3⇨0
ジョーカー(13⇨10)LV3⇨2
仮面ライダーブレイドLV3(3)BP5000
怒りに満ち溢れている剣総は、手元にあったレンゲル[2]の効果を発揮させる。その効果により、黒い靄が現れ、その中から、グラウモンによって破壊されたはずのブレイドが再び姿を見せた。
「召喚時効果ぁ!!!」
オープンカード↓
【仮面ライダーブレイド キングフォーム】◯
【仮面ライダーブレイド[2】◯
【仮面ライダーレンゲル】◯
ブレイドの召喚時効果だ。カードが捲られる。その中には最強のブレイドであるキングフォームの姿も確認でき………
「ぶわっはっはっはっは!!!来たぜ来たぜ〜!!俺はこの効果でキングフォームを手札に加えるっ!!これで次のターン、お前の負けは濃厚だぁ!!この化け物めぇぇえ!!!」
手札2⇨3
キングフォームとジョーカー………この2体が並び立ったのなら、どんなに強力だった事だろうか、攻略が難しくなっていた事だろう…………
ーしかし、この時の剣総は思ってもなかっただろうが、
ーこのバトルは間もなく終止符を打たれることとなる。
ー椎名の………鬼化した椎名のオーバーエヴォリューションによって現れたカードによって………
「ガァァァァァァァァア!!!」
「………っ!?」
「ば、バースト………ま、まさか……っ!?!」
椎名はBパッドを勢いよく叩きつけ、その衝撃で、バーストカードを反転させる。
そう、椎名の創生したカードとは、剣総のジョーカーと同じく、バーストの効果を持つカード。剣総もたった今それを悟った。
ーそして、
ーそれが今、発揮される。
ーそれはまさしく禁忌の力…………
地が揺れ、震撼する。
そして思わず耳を覆いかぶせてしまいたくなるほどの咆哮が突然放たれる。それはグラウモンのものではなく、ましてや椎名のものでもない。また別の何か…………
「………なぁっ!?ブレイドっ!?」
その咆哮だけで、ブレイドの装甲がひび割れ、砕け散り、身体が吹き飛ばされ、爆発した。これもあのバーストカードの効果なのか…………
そして、その咆哮の主は………
今、地獄の底から現れる。
「ガァァァァァァァァア!!!!」
リザーブ8⇨3
メギドラモンLV3(5)BP15000
マグマのように噴き上がる地底から飛び出してきた1体の紅い竜は、まるで【地獄そのもの】
名を【メギドラモン】。このスピリットもまた、真紅の魔竜と呼ぶに相応しい外見をしている。
「あ、あれもギルモン系の一種………なのか?」
「………な、なんだ、なんだ、………なんなんだよぉぉぉお!!!お前はぁぁあ!!!」
腰が抜け、悲鳴のような声を上げる剣総。
目の前の地獄の魔竜にただただ恐怖し、絶望していた。
ーそして、これは、このタイミングはまだグラウモンのアタック中であって…………
成熟期の真紅の魔竜が、腕に刃を生やし、剣総のライフへと斬りかかる。
「くっ、ライフだぁ!!」
抵抗するすべがなかった剣総は、そのアタックをいつものようにライフで受ける宣言をする。
それはバトルスピリッツと言うゲームにおいては当たり前の、世界中の誰もが知るものだ。
だが、剣総が受けるそれは、その代償は今までよりも遥かに大きく…………
「……がっ!!?!………ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
ライフ2⇨1
グラウモンがそのライフを切り裂くと同時に、剣総に文字通りライフと言う名の命で受けたかのような多大なバトルダメージが発生する。これまではなんともなかったというのに…………
椎名のあの状態が影響しているのは間違いないのだが、今の剣総にそんな余裕は無く………
「ぐっ!!……あ、あぁ!!!……い、痛いぃぃい!!痛いぃぃい!!!!………このクソ餓鬼ぃぃい!!……何しゃがんだぁあ!!!」
あまりの痛覚で地面に転がり込み、椎名に悪態を吐く剣総。自分も今まで同じような痛みを他人に与えてきたと言うのに、
「ッガァァァァァァァァア!!!」
椎名はそんな事に耳を傾けるまでも無く、間髪入れず、メギドラモンにアタックの指示を送った。メギドラモンはその口内に莫大で濃厚な炎を溜め込む。
「あぁぁあ!!!よくも俺に痛みを与えやがってぇえ!!殺してやるっ!!お前だけはぁ!!!俺の手でぇぇえ!!」
「ガァァァァァァァァア!!!!」
メギドラモンはその莫大な炎を一気に放出。そのあまりの威力と勢いに、地がめくれ上がり、切り札であるジョーカーが一瞬で灰となって消し飛ぶ。
ーそして、剣総も…………
「ぐ、ぐぁぁぁあぁぁぁぁぁぉあ!!!!!」
ライフ1⇨0
その地獄の業火で最後のライフを焼き尽くされた。
これにより、剣総のライフはゼロ。
勝者は芽座椎名だ。
「か、勝ったのか………!?」
司が信じ難いような声を上げる。それもそうだ。今まで散々トドメを刺そうとして、何度も失敗した剣総との長い長い戦い、疑うのも無理はない。
ーだが、今回ばかりは終わった。本当に終わった。芽座椎名が剣総に勝ったのだ。
バトルの終了直後、グラウモンとメギドラモンが咆哮を上げながら、この場から消滅して行くが、
「っ!?【メギドラモン】のカードが消えて行く!?」
司がそう言った。普通なら、バトルの終わりには場に現れていたスピリットだけが消滅するはずだが、メギドラモンだけは違った。
メギドラモンはそのカードごと消滅。まるで何かの証拠を隠滅するかのように、椎名のBパッド、及びデッキから姿を消した。
「…………っ!!?」
「めざしっ!!」
勝利した瞬間、椎名は力尽き、そして鎮静化すると共に気を失い、その場に倒れ込んだ。
姿は完全に元に戻っている。赤黒いオーラは無くなり、牙は短くなり、目の色も元の青色になる。
なにより、頭部の一角が、元のアホ毛に、サラサラの髪に戻った。
剣総もまた、力尽き、倒れ、動けない。…………
かと思われたが……………
「ぐ、………ぐぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「なっ!?……あいつまだ……」
立ち上がれるのか?
司はそう思った。あれほどのダメージを受けたのだ。ただで済む訳はない。だが、彼は、剣総は立ち上がった。目の前の奴を殺したいその一心で、その執念だけで起き上がって見せた。
「この…………クソ餓鬼ぃぃい!!!お前だけは、お前だけはぁぁぁぁあ!!!」
「くっ!!」
完全に余裕が無くなった剣総はまたBパッドでスピリットを召喚し、もはや何もできない椎名にトドメを刺すつもりだ。
司が椎名を避難させようとしても、彼の今の状態じゃ、到底運びきれるわけがない。
ー万事休すか…………
ーだが、そんな時、剣総を制止させるかのように1つの手が、彼の肩に置かれた。
「言ってなかったな………殺してから持ち帰るのは無しだ」
「………っ!?」
「だ、誰だ………!?」
そこに足音もなく現れた突然現れた新手は銃魔。剣総に椎名を連れて来るよう申し付けた張本人である。片方の手を眼鏡の向きを調整するかのように軽く当てながら、そしてもう片方は、剣総の肩に置く形で現れた。
「別に名乗るほどの者じゃない」
「おいぃぃい!!銃魔ぁぁぁぁあ!!どけぇ!!その女は俺が殺すっ!!」
「…………むっ、名乗られたか………」
極力自身の名前は伏せておきたかった銃魔。だが、それは叶わず、余裕が完全になくなった剣総によって暴露されてしまう。
「落ち着け、貴様の役目は終わった。初めて【鬼化】させただけで十分だ………とっとと帰れ……」
「あぁ!?んだとぉ!?」
そう言いながら、銃魔はBパッドを使い、人1人が入れる程度の大きさのワームホールを出現させる。
司はその様子に驚愕していた。話の次元が違う。科学的にもワームホールなどありえなさすぎる。
「いいから殺させろぉ!!」
「………よっと………」
「お、おいぃ!!やめろ、やめろぉぉお!!」
哀れに叫び続ける剣総を銃魔は無理矢理ワームホールに投げ入れ、強制送還させた。あんな体格の男を腕一本で投げ飛ばすとはいったいどんな鍛え方をしているのだろうか。
そして、銃魔はいったんそのワームホールを閉じ、気を失った椎名の方へとゆっくりと歩みを寄せる。
彼が剣総と同じ目的で来たのは間違いない。つまり、彼の目的は…………【椎名の拉致】だ。
「おい………」
「………!!」
「銃魔とか言ったな…………その女に何する気だ?」
言葉で銃魔の歩みを制止させたのは既に満身創痍の司だった。
「………剣総が言わなかったか?……我々はこの少女、芽座椎名を連れて行かねばならん」
「俺がそれをさせると思ってるのか?………そいつは俺が倒すべき存在だ。お前らなんぞにゃやらんぞ」
「ふんっ!!なら動けるものなら動いてみるがいい」
最早立ち上がる事すらできない司。実際は強がりである。どちらにせよ、芽座椎名は、自分にとっての最大の好敵手は連れて行かれる。少しでも時間が稼げればどうにかなるかもしれない。そんな考えが彼の頭の中にはあったのだ。
ーそして、今なら分かる。奴らが芽座椎名を連れて行こうとした理由が………
それは間違いなくさっきの【鬼化】と呼ばれていたもののせいだ。それがどう関わってくるかは知らないが、奴らは少なくとも芽座椎名のあの力が欲しいのだ。
「動く必要もねぇ、今ここで………俺とバトルしやがれ…………この堅物眼鏡野郎」
時間稼ぎが足りない。
そう感じた司は、銃魔を言葉で煽りつつ、Bパッドを展開させ、それをつたってよじ登るかのように立ち上がった。右腕右足が骨折しているのにもかかわらず、
「その状態でバトルすると言うのか?……俺は病人を虐める趣味はないぞ」
「俺の趣味だ……さぁ、やろうぜ………」
その様子を見た銃魔は呆れた。
左腕左足だけでなんとかBパッドに肩を借りるように立ち上がってはいるものの、こんな状態でバトルなどできるわけがない。
このまま芽座椎名を連れ帰るか、
実際、そうするのは簡単だ。赤羽司のあの状態では自分を追いかけることができない事は一目でわかる。
しかし、ここでそうすれば、間違いなく恥をかくのは自分自身だ。理由はどうあれ、プライドを持ったバトラーの挑戦を踏みにいじっているのだ。当たり前ではあるが……………
そんな時だった。
様々な考えが交差して行くこの場で、1人の男の声が聞こえて来た。その声は単純に太い。
「おいおいおい!!その女を拉致ようったってそうはいかねぇぜ!!!」
「「っ!?」」
そこに現れたのは……………
この場で最も頼りにならない男…………
「おいそこのクソ眼鏡!!この俺!!毒島富雄様が相手してやんよ〜〜!!!」
「………毒島……っ!!?」
「なんだ、こいつは?」
ジャングルの木々を掻き分けながら、勢いよくこの場に現れたのは、なんとなんと、毒島富雄だった。
「よぉし、【朱雀】!!よく戦った!!後はこの俺様に任せとけ!!」
と、言いつつも、毒島の膝だけは正直に恐怖で震え上がっている。
彼はこの戦いを見ていたのだ。ずっと、怯えながら、
椎名が鬼になる直前にはあまりの恐怖に目を閉じていたため、椎名のあの状態の事は全く知らないが…………
そして、この状況、とうとう彼は腹を括ってこの場に登場したのだ。
「バカか!!!なんでよりによってお前なんだ!!!お前で勝てるわけないだろう!!」
「バカってなんだ!!そしてよりによってとはなんだぁ!?俺様歳上よ!?」
あまり言及されてはいなかったが、
司の見立てでは、【少なくともこの銃魔はさっきの剣総よりも強い。】あの毒島富雄で勝てるわけがないと感じるのもおかしくはなかっただろう。
毒島とて、わかっている。この連中はやばい。自分ではどうにもできないことも知っている。だが、この国最強のプルートがやられたのだ。他の国のものでは敵うわけがない、ならば自分がやるしかない。
それがどんなに怖くても、痛くてもやるしかないのだ。
「どうでもいいけどよぉ!!怪我人は寝てろっ!!」
「っ!?……うわっ!!」
毒島は司のとこまで行くと、支えになっていたBパッドを取り上げる。司は当然、その場で転倒してしまう。
毒島はそのままその司のBパッドを怯えることなく銃魔に向け………
「さぁ、来いよ来いよ!!眼鏡野郎っ!!!」
「ちっ、覚えとけよてめぇ」
「…………仕方ないか……いいだろう、相手になってやる」
あまりにしつこいが、致し方なし。か、銃魔は根負けして、バトルに応じることにした。彼もまたBパッドを展開し、バトルの準備をした。
ーそして、始まる。毒島富雄と、銃魔のバトルが………
「「ゲートオープン、界放!!」」
開始のコールと共にバトルが始まった。
ー先行は………銃魔だ。
[ターン01]銃魔
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、俺はクリスタニードル…………そして、【インプモン】を召喚!!」
手札5⇨4⇨3
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨2
「なんだ?あのスピリットは……!?」
銃魔が呼び出したのは紫の中では汎用性に富んだ低コストスピリット、蛇のような竜のような見た目のクリスタニードルと、小悪魔のようなスピリット、インプモン。
このインプモン。名前からしてデジタルスピリットであることなのは確かではあるものの、司も毒島もそんな名前のスピリットは見たことも聞いたこともなかった。
「ガハハハハハ!!!!なんだなんだその弱そうなデジタルスピリットは!!!」
インプモンの見た目はお世辞でも強そうとは言えない。成長期スピリットらしいコミカルな見た目である。
だが、銃魔のデッキにとって、このインプモンとは、キーカード。デッキの潤滑油的存在なのだ。
「強いスピリットと弱いスピリットの区別もつかんか、愚かな男め…………召喚時効果、カードをオープン!!」
オープンカード↓
【旅団の摩天楼】×
【旅団の摩天楼】×
【魔界霧竜ミストヴルム】◯
召喚時効果は成功。インプモンは呪鬼スピリットを回収できるため、【魔界霧竜ミストヴルム】のカードが銃魔の手札へと新たに加えられた。
「ターンエンド……」
手札3⇨4
クリスタニードルLV1(1)BP1000(回復)
インプモンLV1(1)BP2000(回復)
バースト【無】
先行の第1ターン目ではこの程度の動きが限界だったか、銃魔はそれだけでこのターンをエンドとした。
次は毒島のターン。
[ターン02]毒島
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「ガハハハハ!!メインステップ!!俺様はバーストをセットし、ネクサスカード、旅団の摩天楼を2枚配置し、カードを2枚ドローしてターンエンドだぁ!!」
手札5⇨4⇨3⇨2⇨3⇨4
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨5
旅団の摩天楼LV1
旅団の摩天楼LV1
バースト【有】
毒島がバーストカードをセットすると共に、颯爽と背後に配置したのは紫の強効果ネクサス、旅団の摩天楼背の高い建物が毒島のデッキに力を与え、カードを引かせた。
後攻の第1ターン目にしてはなかなかに強い動きであったと言えるこの毒島のターン。
次は銃魔のターン。
[ターン03]銃魔
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨3
トラッシュ2⇨0
「メインステップ………俺はミストヴルムを召喚!!」
手札5⇨4
リザーブ1⇨0
銃魔が召喚したのは前のターン、インプモンの効果でデッキから手札に加えたカード、魔界霧竜ミストヴルム。竜の形をした霧のスピリットが召喚された。
そして、彼は、銃魔は、手始めと言わんばかりに毒島のガラ空きの場を攻め立てる。
「アタックステップ!!身の程を教えてやれ、クリスタニードル、インプモン!!」
クリスタニードルが泳ぐように地を駆ける。その下でインプモンも毒島のライフを破壊すべく走り出した。
前のターン、毒島はネクサスカードの配置に全力を注いだ。そのため、このアタックはライフで受ける他なく………
「こ、来いやぁ!!ライフで受けてやんよぉぉお!!…………………ぐ、ぐあぁぁぁぁああ!!!」
ライフ5⇨4⇨3
「毒島ぁ!!」
インプモンとクリスタニードルが体当たりで毒島のライフを一気に2つ破壊した。
そして、やはりと言うべきか、このバトルでも、剣総の時同様、多大なバトルダメージが発生した。毒島はそのあまりのダメージ量にその場でうずくまる。
「ぐ、ぐう……っ!!」
「もうやめとけ、貴様では到底、俺には勝てん…………無駄に身体を傷つけるだけだ………芽座椎名を置いて、さっさとこの場から立ち去れ………っ!!」
「………っ!?」
苦しむ毒島に銃魔は同情するように、眼鏡の位置を整えながら言った。
これは剣総とは違い、銃魔が非情になりきれていない証拠でもある。
だが、毒島は…………
「……………断る………っ!!」
「………!!」
ー断った。逃げずに真っ向から再び銃魔の前に立ちふさがってみせた。
「………お前にはわからんだろうがな……………この女はぁあ!!俺を変えてくれた奴なんだよぉぉお!!!心から汚かったこの俺をぉぉお!!俺も知らないうちになぁあ!!!」
毒島の心からの叫びが響き渡る。
毒島は根っからの不良だった。自分より格下のバトラー達からカードを奪うような………【屑】だった。
そんなある日、いつものように弱者狩りをしていた自分の目の前に現れ、バトルを挑んで来たのは、当時、まだ名が馳せていない時の、1年の時の【芽座椎名】
彼女は………強かった。毒島はあっという間に敗北した。
毒島は椎名に復讐を誓って、バトルの訓練をし、何度も何度も芽座椎名にバトルを挑んでは………負け続けた。
だが、彼は気づいた。自分が知らないうちに強くなっていた事に………バトスピ学園を卒業できる程にだ。それどころか、こんな自分が真っ当に働いて生きているでは無いか…………
芽座椎名には自覚はないだろうが、彼にとって、芽座椎名とは恩人のような存在でもあった……………
ーそして、その恩を返す時であると、毒島は考えているのだ。
ーこの程度の事で情けない背中を見せることはできない。
「…………なら、倒れるまで続けるがいい」
銃魔が呆れたような表情で毒島にそう言った。
「………あぁ、そうさせてもらうぜっ!!………バースト発動!!」
「………!!」
「大甲帝デスタウロス〈R〉!!バースト効果でミストヴルムを疲労させ、疲労状態のスピリットを全て破壊っ!!」
「…………っ!!」
一気に反転する毒島のバーストカード。その正体は【大甲帝デスタウロス〈R〉】効果により吹き上がる風が、銃魔の場にいるミストヴルムを疲労させ、
その後の効果により、疲労状態のスピリット、つまり、銃魔の今現在存在するスピリット全てが破壊される。3体のスピリットが闇と共に地面に引きずり込まれて行った。
「この効果で破壊したスピリットの数だけコアを増やし、その後召喚!!………来いっ!!」
リザーブ2⇨5⇨2
大甲帝デスタウロスLV2(3)BP12000
悍ましい程に大きな闇の中から甲殻を纏う紫と緑の複合スピリット、デスタウロスが姿を現した。
「………ふんっ!!………クリスタニードルの効果、貴様の旅団の摩天楼を1つ破壊するっ!!」
「………!!」
クリスタニードルが破壊された跡地から紫の靄が出現し、それは瞬く間に毒島の背後に聳え立つ旅団の摩天楼にかかり、消し去っていった。
しかし、スピリットを破壊し、コアブーストしつつ、強力なスピリットを召喚した自分にとってはこの程度の反撃など些細なもの。
「……………エンドだ」
バースト【無】
流石に何もできなかったか、銃魔はこのターンをエンドとしてしまう。場にはスピリットはおろか、バーストさえも存在しない。次の毒島のターンで大きくライフを削がれるのは明白である。
[ターン04]毒島
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨8
トラッシュ5⇨0
「ガハハハハ!!!俺様の時代到来だぁ!!メインステップゥゥウ!!!アルケニモンをLV2で召喚っ!!」
手札5⇨4
リザーブ8⇨3
トラッシュ0⇨2
毒島の背後に現れる白くて巨大な繭。それは少しずつ紐解かれて行き、中からある化け物が眼光を輝かせながら突き破り、飛び出して来た。
それは、その名はアルケニモン。長らく毒島のエースとして活躍するスピリットだ。
「アタックステップっ!!やっちまいなぁ!!アルケニモンっ!!」
戦闘態勢に入るアルケニモン。そしてこのスピリットには、この時、有用なアタック時効果が存在しており…………
「アタック時効果ぁぁあ!!デッキから2枚オープンし、その中の完全体スピリットを召喚するぅう!!」
オープンカード↓
【ドクグモン】×
【マミーモン】◯
効果は当たりだ。
「ガハハハハ!!!!当たりだ当たりだぁ!!俺様はこの中のマミーモンをノーコスト召喚してやるぜぇえ!!」
リザーブ3⇨0
マミーモンLV2(3)BP12000
アルケニモンが作り出した闇の空間。その中から現れるのは全身が包帯でグルグル巻きになっている完全体スピリット、マミーモンだ。
「アルケニモンのアタックは継続中だぜぇ!!」
「…………ライフだ」
ライフ5⇨4
継続中のアルケニモンのアタック。銃魔はそのアタックをライフで受ける。そのライフがアルケニモンの鋭い鉤爪により1つ引き裂かれた。
「次だぁ!!!デスタウロス!!」
今度はデスタウロスが行く。このスピリットは元々がダブルシンボルのスピリットであるため、一度にライフを削れる数は2つだ。
「………それもライフだ」
ライフ4⇨2
デスタウロスは鋭利な鎌のような腕で、何度も銃魔のライフを切り裂き、一気に2つ破壊した。
「これで終わりだぁ!!マミーモンでアタック!!マミーモンは場にアルケニモンがいる時、紫のシンボルを1つ加え、BPを5000上げる!!」
トドメと言わんばかりにマミーモンにアタックの指示を送る毒島。マミーモンは自身の効果により、強化され、強力なスピリットと化している。
ーこの一撃が通れば毒島の勝ちだ。
だが、銃魔も当然、この程度では終わらない。
手札のカードを1枚引き抜き、そのアタックを凌ぎに来る。
「………愚か者め………フラッシュマジックッ!!ネクロブライト!!」
手札4⇨3
リザーブ8⇨5
トラッシュ0⇨3
「…………っ!?」
「この効果でトラッシュにあるコスト3以下のスピリットカード、インプモンをノーコスト召喚っっ!!」
リザーブ5⇨4
光輝く紫の光。そこからデスタウロスに破壊されたはずの小悪魔、インプモンが飛び出して来た。
紫の究極カード、【ネクロブライト】。死した弱者を蘇らせるその力はまさしく禁忌の力と言えよう。
「召喚時っ!!」
オープンカード↓
【紫煙獅子】×
【式鬼神オブザデッド】 ×
【ベルゼブモン】◯
召喚時効果も当然発揮され、その中の対象となるカードが手札へと加えられる。
「俺はこの中のこのカードを手札に加える………!!」
手札3⇨4
「だがぁ!!そんな雑魚じゃ、壁にしかならんぜぇ!!マミーモン!!ぶっ潰せ!!」
「守れ、インプモン………」
インプモンとマミーモンのバトル。しかし、そのBP差は圧倒的にマミーモンの方が上、インプモンはマミーモンの手持ちの機関銃により、貫かれ、あっさりと爆発してしまった。
「ガハハハ!!他愛もない!!苦し紛れの一手だったなぁっ!!」
ここまでのバトル。内容的には毒島が銃魔を完全に圧倒しているように見える。
だが、本当は全て銃魔の掌で転がされているということに…………気づくこととなる。
司も………もちろん毒島も………
「俺のコスト3以下の紫スピリットが破壊された時、手札にある、この【ベルゼブモン】の効果を発揮!!」
「………っ!?手札からスピリット効果だと!?」
「効果により、1コスト支払い、召喚」
リザーブ5⇨4
トラッシュ3⇨4
【ベルゼブモン】。そのカードは、たった今、ネクロブライトにより召喚されたインプモンの召喚時効果で手札へと加えられたものだ。
そのカードは銃魔のエース。それを知る者は、彼を含めてもかなり少ない。
「…………孤高の魔王よ!!今こそその百戦錬磨の力を世に知らしめよっ!!………究極体、ベルゼブモンをLV2でここに呼ぶっ!!」
手札4⇨3
リザーブ4⇨1
ベルゼブモンLV2(3)BP11000
インプモンの爆発跡地から、悍ましく、それでいて禍々しい闇が浮き出てくる。そしてそれは新たなるスピリットの形を形成して行く……………
そのスピリットの名はベルゼブモン。インプモンの真の姿。その手には2丁のショットガンが握られている。
「…………っ!!……な、なんだ………こいつっ!?」
これもインプモン同様、当然知らないスピリットだ。
それもそのはず、何せこのインプモンとベルゼブモン。この2枚はこの銃魔の【オーバーエヴォリューション】によって覚醒したカードなのだから…………
毒島と司が認知していないのは当たり前なのである。
そして、この紫の魔王、ベルゼブモンが場を戦慄させる。
「ベルゼブモンの召喚、及びアタック時効果っ!!」
「っ!?」
「相手のスピリットのコア2つをリザーブに送るっ!!」
「………だ、だが、俺の場のスピリットは全てコア3つ……」
「甘い………この効果はトラッシュにあるデジタルスピリットの数だけ上限を上げる………っ!!」
「………なぁっ!?」
つまりは3つだ。今現在、銃魔のトラッシュにはデジタルスピリットであるインプモンのカードが1枚トラッシュへと送られているためだ。
「…デスタウロスを狙え……ダブルインパクト!!」
「くっ!?」
大甲帝デスタウロス(3⇨0)消滅
2丁のショットガンを連射し、デスタウロスを狙い撃つベルゼブモン。その弾丸はデスタウロスの強固な甲殻をいとも容易く貫いて行く。
最後には中核までもを貫かれ、弾丸と共にその場で大爆発を巻き起こした。
「この効果で消滅に成功したら、カードを1枚ドローする」
手札3⇨4
「…………た、ターンエンドだ……」
アルケニモンLV2(3)BP6000(疲労)
マミーモンLV2(3)BP12000(疲労)
旅団の摩天楼LV1
バースト【無】
もはや何もすることはなく、そのままターンをエンドとした毒島。
次は見事に強力な究極体スピリット、ベルゼブモンの召喚に成功した銃魔だ。
「…………終わりだな」
[ターン05]銃魔
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨6
トラッシュ2⇨0
「メインステップ………俺はクリスタニードルを2体召喚……」
手札5⇨4⇨3
リザーブ6⇨2
「………っ!?」
銃魔は追い討ちと言わんばかりに、一気に2体のクリスタニードルをこの場に呼び寄せた。
準備は整った。後はその無防備なライフを全て砕くだけ…………
「アタックステップ………クリスタニードル」
宙を泳ぐように舞う2体のクリスタニードル。目指すはガラ空きとなった毒島のライフ。
このアタック………毒島はもう止めるすべはない。
「ら、ライフだぁ!!………ぐっ!!………がぁっ!!」
ライフ3⇨2⇨1
「………毒島ぁっ!!」
多大なバトルダメージ、2体のクリスタニードルの勢いで、地面に転がり込んでしまう毒島。
もう限界だ。やはり彼ではあの男には勝てなかった。
「…………もう諦めろ………貴様では俺には勝てん………芽座椎名を置いて、去れ………っ!!」
最後の慈悲のつもりだった。銃魔はこれを断れば、自身の最強エーススピリットである、このベルゼブモンでトドメを刺すつもりだ。
毒島は掠れて行く意識の中、地面に這い蹲りながらも、顔を見上げ、銃魔を睨みつけ…………
「…………まだだぁ………っ!!」
そう叫んだ。
「………愚か者め………やれ、ベルゼブモン」
完全に毒島を見捨てた銃魔がベルゼブモンに最後のアタックの指示を送る。
「マミーモンを消せ………ダブルインパクトッ!!」
手札3⇨4
ベルゼブモンの召喚、アタック時効果だ。マミーモンがそのベルゼブモンのショットガンの連射で眉間を貫かれ、力尽き、儚くもその場で消滅して行く。
ーそして、毒島の場で唯一生き残ったアルケニモンも…………
「フラッシュマジック………デスクロウ……!!」
手札4⇨3
「…………っ!?」
「この効果により疲労状態のスピリットを破壊…………アルケニモンを切り裂け………デスクロウッ!!」
2丁のショットガンを懐にしまい、飛び出すベルゼブモン。そのままその鋭い鉤爪で毒島の場にいるアルケニモンを引き裂いてみせた。アルケニモンは耐えることができず、敢え無く大爆発を起こした。
「………これで終わりだ………芽座椎名は連れて行く………」
「…………」
アルケニモンの破壊された爆風の中、痛覚を麻痺させるほどのバトルダメージにより、毒島は既に気を失っていた。
気絶しながらも思った事だろう。
なぜ、自分はこんなに弱い。
なぜ、自分は恩1つ返すことができない。
なぜ、自分はここまで情けないのだろう。と、
そんな彼の前にゆっくりと歩み寄るベルゼブモン。懐からショットガン1つを取り出し、至近距離でその頭部を撃ち抜くつもりだ。
「………退屈なバトルだった………自分の弱さ、情けなさに後悔して、死に恥を晒すんだな…………やれ、ベルゼブモン……っ!!」
「………毒島ぁぁああ!!」
司の叫びも虚しく………
ベルゼブモンがショットガンの引き金に指をかけ、
それを引く、瞬間だった。
ー渾身の爆炎……………
ーファイアァァア!!!!ロケットッ!!!
そう叫ばれると共に、流星の如く、何かが炎を纏い、ベルゼブモンに向かって降り注ぐ。
いちはやく察知したベルゼブモンは引き金から指を離し、間一髪、後ろジャンプでそれを避けて見せた。
「…………この炎…………」
銃魔は知っている。
いや、司も知っている。その流星の如く降り注いだスピリットがなんなのかを…………
着地し、流星の炎を弾け飛ばし、現れたのは、アーマー体スピリット、【フレイドラモン】
誰もが知る………芽座椎名の最初のエーススピリットにして、最も愛用しているカード……【フレイドラモン】
「…………めざし……っ!!」
操っているのは、当然、【芽座椎名】だ。
立ち上がって見せた。一度力尽きたが、毒島と司が時間を稼いでくれたお陰で、万全とは言い難いが、辛うじて、復活した。
「…………意外と早いご帰還だな……芽座椎名」
「…………………いやっ!!あなた誰だよっ!!」
ボケたつもりは毛頭ないものの、自分が気絶している間に現れた銃魔に向けて人差し指を刺す椎名。
その様子はいつもと全く同じだ。目は赤くないし、視認できる赤黒いオーラもなければ、牙も角も無い。
今は鬼では無い。
普通の人間だ。どこにでもいる、平凡な…………
「人を傷つけるバトルなんか、もう終わりにしよう………私達が傷つけ合う理由なんてどこにも無いっ!!」
そう意気込み、叫ぶ椎名。
ー次回、いよいよ、オーズ編、ラストとなるバトルが幕を開ける。
〈本日のハイライトカード!!〉
椎名「本日のハイライトカードは【ベルゼブモン】!!」
椎名「究極体スピリットの1体、ベルゼブモンは、紫のコスト3以下のスピリットが破壊された時に召喚できる強力なスピリット!!相手の意表を突いて、驚かせようっ!!」
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〈次回予告!!〉
椎名「もう散々だっ!!こんなバトル、終わりにしよう!!私達が傷つけ合う理由なんて、どこにも無いっ!!………っ!?オーズ!?……力を貸してくれるの!?……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「VSベルゼブモン! オーズの力を解き放て!」………今、バトスピが進化を超えるっ!!」
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最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
久しぶりのタイマン(1対1のバトル)にホッとしております。描写とか、文字数とかがはっきり言ってしんどいので、しばらくはタッグや多対1はやらないかもです。
※次回と、その次くらいで【二期第2章】も終わりになります。次は【二期第3章 裏のジークフリード編】が始まります!!