椎名達とオーズ一族を巻き込んだ一連の事件は幕を閉じた。
だが、その全てが解決したわけではない。未だに数多くの謎を残したままである。
例えば、人という概念を超越した、【椎名の鬼化】
例えば、本来ならば不可能である【複数回のオーバーエヴォリューション】
例えば、名前だけが知られている超s級犯罪者、【Dr.A】
………そして、この衝撃の事実を唯一知っている人物はただ1人………【朱雀】こと、【赤羽司】だけなのだ………
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「んん、…………う〜〜む………む?」
「おっ!やっと起きよったな!!椎名っ!」
「ん?真夏?おはよう………ん?おはよう!?」
シーンとした静かな空気、場所、ベッドの上で、椎名は寝ていた。そして、起きると共に話しかけてきたのは親友。緑坂真夏。
「あんた、丸一日この王宮内の寝室で寝とったんよ?」
「え?一日!?………あぁ、そうか、あの後ずっと寝てたんだ私……………」
「………ほんま、ご苦労さん、大変やったな」
【おはよう】という言葉に違和感を感じた椎名。そうだ、あの時、銃魔とのバトルで疲れ果てた椎名は、この王宮内の寝室まで運ばれ、眠りについていた。
………そしてそれだけではない。椎名はあることを思い出す。
「はっ!!……他のみんなは!?………」
そう、剣総や銃魔と戦い、敗れ去った者達はどうなったのか気になった。一見命に別状はなさそうではあったものの、司などは特に骨折などで危険な状態であった筈だ。
だが、そんな心配はする必要もなく……
「………やぁ、椎名………僕は大丈夫だよ〜〜」
「っ!?……雅治っ!!良かったぁぁあ!!」
横のベッドから優しい声で話しかけてきたのは雅治。左手に包帯が巻かれているものの、無事のようだ。
そして、椎名の安堵に満ちた声が病室に木霊した直後………
「ガハハハハ!!俺に感謝しておくんだなぁ!!芽座椎名ぁ!!」
「毒島先輩ぃ!!あざぁっしたっ!!」
「やっ!!椎名ちゃん!!事件もひと段落したし、俺とデートでも行かない?」
「マーズッ!!……そんな約束はした覚えはないんだけどな〜〜」
静かだった病室が一気に賑わう。次から次へと違うベッドから話しかけられる。毒島とマーズも雅治同様、包帯でぐるぐる巻きにされているが、この通り、元気に喋っていることから、心配することは特になさそうだ。
「あっ!!そうだ、マーズ、借りたカード返しとくよ……」
「ん?借りたカード?」
そう言って、何かを思い出したかのように、椎名はベットの側に置かれていた自分の荷物の中からデッキとカードを取り出した。それは銃魔とのバトル中で進化した【仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ】のカード。
「はい」
「っ!?タジャドルっ!!1枚見当たらないとは思ってたけど…………え?てかこれ本当に俺のタジャドル?」
「そうそう、なんかバトル中に私のとこに来て姿が変わってさ〜〜」
「…………はっ!!つまりこれは俺と椎名ちゃんの愛の結晶!?!」
「いや、発想がキモいっちゅうねん」
真夏のツッコミで話が途切れると共に、笑いの声で包まれた。これでいつもの平和な日常に戻ってこれたと言えるだろう。
……しかし、忘れてはならない。今回の事件で、まだ負傷者がいるということを………椎名はそれを順に思い出して行く。
「……後は………司と王様!!」
「プルート王は以外と軽傷だったらしくてなぁ……もう元気に仕事しとるよ………」
【司】と【プルート】だ。
プルートは、真夏の言う通り、意外にも一番早く回復し、もう既に王としての仕事をしている。今回の件を踏まえて、セキュリティの強化を図っているのだとか………
………そして司は………
「司ちゃぁん!……大丈夫?私が松葉杖にならなくて良い?」
「ならなくて良いに決まってんだろっ!!鬱陶しいからどっか行ってろおっ!!」
松葉杖をつきながら、付き添う夜宵を怒鳴りつけながら椎名達の病室に足を運んだ。他の3人以上に包帯が分厚い。やはり一番の被害を受けたのだろうと、椎名は勘ぐる。
「椎名ちゃん!!起きたの?大丈夫?」
「夜宵ちゃん!!なんか久しぶり〜〜大丈夫だよ〜〜この通りっ!!いつも通りの逞しい椎名ですっ!!」
夜宵にそう言われ、椎名は怪我1つない事を夜宵に証明させるかのように、腕を曲げ、マッシブなポージングを取る。それはボディビルダーさながら、夜宵もその様子を見て、いつもの椎名だと認識する。元気そうで何よりだ。
「よっ!!司ぁ!!お互い元気で何よりだね!!」
「…………めざし………っ!!」
「…………?」
今度は司に目を向ける椎名。だが、司は血相を変え、椎名に歩み寄り………
…………そして、
「あいたたたたたた!!!!」
「お前………この髪はなんなんだ!!?!」
椎名の髪を、骨折してない方の手で、貪りつくように、無我夢中で一本の角のようなアホ毛を引っ張り出した。本人はあることを確かめるつもりで引っ張っていたが………
「ちょ、ちょちょ、何やっとんの朱雀!!アホちゃう?」
真夏が司を椎名から引き剥がす。当然だ。
「さいてーーー司ちゃん!!女の子の髪の毛引っ張るなんて!!」
立て続けに夜宵がそう言った。もっともな意見である。
「…………お前らは黙ってろ……答えろめざし、お前のその角みたいな髪はなんだ!!!」
だが、司も一歩も引かず、堂々と椎名に問うた。その髪の毛の事…………
………重力を無視して立ち上がっているその髪型は、今思えば、驚くほどに不思議な髪型だ。
…………今までだったら、こんな馬鹿げた質問などしてはいなかった事だろう。この程度、気にも留めなかっただろう。
だが、司は知ってしまった。あの日、あの時、芽座椎名が狂ったあの日、地獄の魔竜を呼び出したあの日、1日に2度のオーバーエヴォリューションを繰り返したあの恐々とした一日。
確かにあの時の椎名のアホ毛は本物の角になっていた。骨になり、硬質化し、明らかに角が生えていた。あの時は…………絶対、勘違いではない、見間違いでもない。確信している。
「え?この髪?あ〜〜なんか生まれた時からこうなってるみたいだけど〜〜縁起が良いから切るなって【じっちゃん】が良く言ってたな〜〜〜………で、これがどしたの?」
「…………そうか」
「って!!おいおい!!それだけぇぇ!?」
それだけを聞くと、司は怪訝そうな表情をしながらも、ようやく落ち着きを取り戻したのか、黙ってこの場から立ち去ってしまった。彼としては奇怪な行動に、雅治を含めた他のメンバーも少しだけ首を傾けた。
………特に雅治は………
「何かあったのではないか?」そう勘ぐっていた。これは、彼が、赤羽司が冗談半分で意味のない行動をするわけがないという信頼からによるものだった。
だが、これは、この行動は、やがて始まる司の孤立の………ある意味の始まりでもあったのかもしれない。
それはこの場で、【唯一本当の真実を知ってしまった】からである。椎名でさえも【自分が暴走していたこと】【自分が狙われていたこと】【オーバーエヴォリューションを繰り返したことを】認知していない。
椎名が狙われていたことに関しては、司を含めても、【プルート】【雅治】【毒島】は知っているが、そんなことは椎名の前では到底言えず…………結局彼らが何のために椎名を狙っていたのかもわからずじまいだった。【ただの人攫い】【拉致】程度の認識しかないだろう。
しかし、司だけはこれらのことを全て見、知り、そして身をもって体験した。剣総と銃魔、いや、今思えば剣総は何も知らずに椎名を狙っていた。銃魔は椎名のオーバーエヴォリューションを繰り返したあの【鬼化】と呼ばれる現象を観察し、またそれを得るためにバトルしているように見えた。
そしてなにより【Dr.A】が絡んでいた。司は心の中に何か引っかかるものを感じている。それはもどかしいが、今の段階ではどう足掻こうともはずすことは出来ないもやもやであり…………
「……………気にするな………奴は友でもなんでもないはずだろう…………昨日の事は忘れろ………」
廊下を歩く道中、司は誰にも聞こえないほどの声量でそう呟いた。
そうだ。いくら【めざし】の過去に何があったとしても、自分には関係のないこと…………次、また同じようなことがあっても関わらない…………司はそう思ってた…………
…………芽座椎名はライバル
少なくとも1年前まではそういう認識だった。あの【界放リーグの準決勝】の時までは…………
………だが、司は認めたくないだけだ。【芽座椎名】という存在が自分の中でより大きな存在になってきているという事に…………
自分と【めざし】の間に友情などというものはない。この時はそういう考えが捨てられなかった…………
そう、きっとこのざわめくような、苛立ったような、訳の分からない感情もきっと………急速に強くなっていく【めざし】に嫉妬しているから………ライバルとして………
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生涯、決して忘れる事のないであろう修学旅行が幕を下ろしてから2日が過ぎた。椎名達はバトスピが最も盛んな都市、界放市で変わらず平和の日々を過ごしていた。
「おぉ〜〜い!!司ぁ!!」
「…………」
靴箱の前、学園を出ようとしていた【朱雀】こと赤羽司の前に現れたのは、そのライバル、【蒼龍の舞姫】こと、芽座椎名。
「今日さ!!みんなで一緒にたこ焼きでも食いいかない?……奇跡のたこ焼きの屋台が今ここらへんにあるんだってさぁ!!」
いつどこに出没するかわからない伝説のたこ焼き屋、奇跡のたこ焼き屋台がいるという。以前、副担任の教師、鳥山兎姫と、そのたこ焼きの壮絶な取り合いになったことは、まだ記憶に新しい。
「………黙れ……」
「えぇ!?……あっ!!おいっ!!」
司はそんな椎名を辛辣な言葉で一蹴し、彼女の横を通り過ぎ、歩みを進めて行った。
司は………
あの事件の以降、椎名達との付き合いが悪くなっていた。いや、付き合いが悪いのは前々からではあるが、それでいて、どこか棘が出てきた。昔の司に戻った感じだった。あの夜宵ですら彼に近寄り難い存在となってしまっている。
「むむむぅ……奇跡のたこ焼き作戦もダメだったかぁ………」
司のことだ。きっと何かのことで機嫌を損ねたに違いない。だから何かを司に労えば、必ず元の司に戻るはず。椎名はそう考えていた。
が、彼女の思っていたよりも、司の考えは1人では抱え込むには余りにも深く、重たいものであった。椎名がそれに気づくのはいったいいつの日になるやら………
******
ここは、薄暗い1つの部屋。そこには分厚い資料が束になって散らかっており、足の踏み場も少ない。
そんな中、確かに存在していた3人の人間。
いや、ひょっとしたら、彼らはもう人とは呼べない領域まで足を踏み込んでいるのかもしれない。
その3人とは、【剣総】、【銃魔】
そして、覆面を被った老人、【Dr.A】だ。
「おいぃぃいっ!!Dr.A!!!!」
何かに怒り心頭し、気が狂ったように発言するのは、今回、黄色の仮面スピリット、ブレイドを駆り、多くの人達を負傷させた荒くれ者、剣総だ。
剣総が怒り狂う理由は当然1つしかなく………
「俺にあの女を殺させろっ!!!今度こそこの俺がぶっ殺してやるっ!!」
「…………ほお?」
【鬼化】した椎名に敗北したことを根に持っていた。いや、正確には痛みを与えられたことを憎み、腹ただしく思っているのだろう。
「我儘を言ってはいけませんねーー剣総君。私は君にあの子を連れて欲しかったから頼んだんですよ?当初の目的を忘れてもらっては困りますね〜〜」
穏やかながらも何かを隠していると勘ぐってしまう。そんな声色で剣総と会話するDr.A。
そうだ。【自分のため、世界のため】あの女の子は【芽座椎名】は必要なのだ。
「知るかっ!!良いからさっさともっと強い力を俺によこしやがれっ!!」
強さという名の欲望を兎に角欲する剣総。そんな彼を見て、Dr.Aは呆れたように…………
「はっはは!!全く、君のその捻くれた根性もここまで来ると見上げたものだよ!!………仕方ない……」
笑ってみせた。覆面越しでも口角が上がっているのがわかってしまうほどに……
………「力を与えよう」
そういう返事を、彼は剣総は期待していた。なによりも、誰よりも、
しかし、そこから発言された言葉は、俄かには信じられないものであって…………
「……………消しときますか〜〜」
「………へ?」
と言った瞬間だった。
刹那。一瞬のうちに、彼の額に自身の持つBパッドを当てるDr.A。その表情は不気味な笑みに包まれており、それでいて、冷酷で、残酷なものだ。
そしてその束の間、剣総の肉体がみるみるうちに0と1のデジタルコードに書き換えられて行く。それは、生物が生物ではなくなる瞬間。
「ひぃ………か、身体がぁ!!身体がぁ!!」
「残念だよ、君には本当はもっと働いてもらいたかったのにね〜〜【エニーズ】を殺すと言ったのがダメだった…………」
「ぎゃ、ぎゃあぁぁぁぁあ!!!!」
やがて剣総はその無残な悲鳴が混ざった断末魔と、血肉がなくなっていく恐怖と共に、この地を去った。0と1のデジタルとなり、地上から完全に消え去ってしまった。
全ての一族に執念を燃やしていた剣総は…………もういない。この世をどこを探そうと、もう彼は存在しない。
この時ばかりは銃魔は眼鏡を定位置に戻しながらも、その目を閉じていた。いくら面識が浅いとは言え、命令に背いたからとは言え、やはり、人の死は辛いものか、彼なりの優しさもあってのことだろう。
「………ところで銃魔………」
「はい、なんでしょう……」
「【エニーズ】の初めての【鬼化】はめでたいねぇ〜〜!!」
「そうですね、私もそう思います」
人とは、こんなにも切り替われるものなのか、それも人を殺めた直後に、何かを祝うなど、一見すれば非情である。だが、それはこの男、【Dr.A】にとっては当たり前、使えないものは捨てる。それだけなのだ。
銃魔は今まで何人もの人々が彼に、Dr.Aに消される瞬間を目の当たりにしてきた。慣れたとは言えないが、Dr.Aの崇高なる目的のため、仕方のない事………それが彼の認識であった。
「待ち詫びたよ………17年!!いや、もうすぐ18年かぁ!!………ここまで、【鬼化】までくればもう少しだぁ!!!頑張れ!!【エニーズ】!!!」
【エニーズ】とは、一緒に出てくるワード、【鬼化】を含めて、状況的に椎名の事だろうか………
それだけでは全貌は見えてこない。椎名はいったい何だというのか…………
Dr.Aの言葉はどんどんエスカレートするように高ぶっていき、
「あぁ!!【六月】!!【哀楽】!!やはり私の考えは正しかった!!!あの時ぃ!!あの時ぃ!!貴様らが邪魔さえしなければぁ!!私はぁ!!私はぁ!!今頃この世界をより大きく進化させていたというのにぃ!!」
その口から強く言い放たれた名前は、捨て子の椎名の育て親【芽座六月】と界放市の現市長【木戸哀楽】彼らも何かこの一連の何かに関わっているというのか…………
「だがぁ!!もう少しで会えるっ!!【エニーズ】!!君のデータが取れる時!!それは真に世界が進化する時と言えようっ!!!!」
内容の意味がいまいち掴めないこのDr.Aの言葉。
しかし、後にこれはこの長い長い物語の道中で全貌を見せることとなるだろう………そう遠くない未来。間違いなく椎名の目の前に、彼は、【Dr.A】は現れるのだから…………
「………はぁ、はぁ、………柄にもなく騒いでしまいましたね〜〜………ところで銃魔」
「…………はい」
「これで、またこちら側の戦力が1つ消えたことになりますが、新たな雇いた手はありますか?」
一瞬のほとぼりも冷め、落ち着いた口調へと元に戻り、息を切らしながらも、Dr.Aは改めて銃魔に問うた。剣総の代わりに、自分の野望のために、力になれそうな人材はいないのか…………と、
「…………1人います………」
「ほお」
「そいつは、俺から見れば、誰よりも力を欲しているように見えました…………そうですね、言うなれば、【良心を捨てきれていない芽座葉月】と言ったところでしょうか」
【芽座葉月】
椎名の育て親、六月の実の孫。ロイヤルナイツを求めて、この世界を彷徨っている。Dr.Aはどういうわけだか、彼に協力していた。ロイヤルナイツを求める彼に………葉月もまた、ロイヤルナイツの場所を教える彼を利用していた。
その性格は冷酷非情であると言ってもいい、血は繋がってなくとも、家族同然で暮らした椎名や、祖父である六月の事など、家族とさえ認識してはいない。
兎に角力が欲しい。その欲望を満たすため、世界に散らばった伝説のロイヤルナイツのカード達を探し求めている。
銃魔が見つけた人材とは、そんな葉月が優しいままのような人物であると言う。
…………その名は………
「あなたも名前くらいは知ってるはずです………赤羽一族の次期頭領、【朱雀】こと…………【赤羽司】です………」
「ほお?………あの銀髪の少年が、私の新たな力になるのだね?……」
「えぇ、俺がなんとかしてみせます………奴は優しい………が故に、徐々に強くなるライバルまでも心配し、救いたいと考えているはずです…………」
銃魔が口に出したのは、【赤羽司】だった。
【良心を捨てきれていない芽座葉月】
確かに、今の司は感じていた。ライバル、芽座椎名との実力差を………しかし、それ以上に、あの奇怪な【鬼化】から救いたいとも考えている。無自覚ではあるが、友として、親友として…………
「………俺がその優しさ……捨てさせます……っ!!」
《本日のハイライトカード!!》
椎名「本日のハイライトカードは…………特にないだなぁ!!これがっ!!次回はちゃんとしま〜〜す!!」
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《次回予告!!》
次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「スピリットアイランド」……今、バトスピが進化を超える!!
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最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
既に前の話を読み返されると伏線がバレそうな勢いですが、それでも楽しんでいただけるのなら幸いです!
※次回のサブタイはひょっとしたら変更するかもしれません。