「へ〜〜……スピリットアイランドは地下もこんなに広いんだなぁ〜〜」
時刻は早朝4時………
椎名は感銘を受けていた。この今いる場所、【アイランドリーグ会場の真下】にあるこの地下予選場に。
本戦に出場できるのは8人。A〜Hブロックからそれぞれ1人通過できる。椎名が今いるのはA〜Bブロックで行われるバトル場。学園のよりも遥かに大きい。これが後4つもあると考えるとスピリットアイランドの規模の大きさがどれだけ計り知れないことがわかる。
「………始まるんだ………よっしゃぁ!!頑張るぞっ!!」
大勢の人達がいる中で、やる気のある声を叫ぶ椎名。
そしていよいよ始まる地下予選。ざっと見て60人弱の参加者が一斉にバトルを始める。誰もかれもが招待状をもらった強者である。この中のたった2名のみが本戦へと勝ち上がれる。それは通常ならば難関を極める所業………
だが、椎名を肩書き通りのバトラーと思い込んではならない。【界放リーグ】が終わってからと言うもの、様々なバトルを経験し、新たなカードも得ている椎名がそんじょそこらのバトラーに敗北を喫するわけがなく…………
………あっという間に予選の決勝へと駒を進めた。
《これより、A、Bブロックの決勝戦を行います………選手の方は入場したください。》
無機質な声色のアナウンスが流れる。椎名はAブロック。Aのバトル場へと赴き、予選最後のバトルへと向かう。
………そんな椎名の対戦相手は………
「………よっシャァォァアオラァァ!!決勝だぁ!!」
やけにテンションがハイな男。上半身は裸でとても筋肉質な体型である。
「へへっ!!よろしくお願いします!!私芽座椎名って言います!!」
「おぉ!!おお!!礼儀はあるみてぇだな!!俺はキバーラ三世!!……オセアニアリーグ優勝者だ!!」
「おぉ!!オセアニアリーグ優勝者!!………ん?オセアニアってどこだ?」
「知らねぇのかよぉっ!!おもしれえ奴だなぁ!!」
意外と気の合う2人。ツッコミを入れてくる人物がいないため、好き放題のやりたい放題だ。
だが、今この場は仮にも予選の決勝。会話がそう長く続くわけがなく…………
「んじゃ、いっちょ揉んだやっか!!」
「よっしゃっ!!もんでやんよ〜〜!!」
ありったけのテンションのまま、2人のバトルが幕を開ける……………
「「ゲートオープン、界放!!」」
バトルが始まった。因みに、法律上、スピリットプロテクターを使っての、スピリットを実体化させてのバトルは行えない。そのため、このバトルはいつも通り3D映像のみでのバトルとなる。
先行は………キバーラ三世……
[ターン01]キバーラ三世
「俺のターン!!スタートステップ、ドローステップ!!メインステップ!!……ネクサスカード、【恐龍同盟本拠地】を配置し、ターンエンド!!」
手札4⇨5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨4
【恐龍同盟本拠地】LV1
バースト【無】
キバーラ三世が手始めと言わんばかりに配置したのは密林が生い茂る中に佇む遺跡のような場所。そこには血の気の盛んな恐竜達が住まうと言う………
次は椎名のターン。いつものように口角を上げながら意気揚々とターンシークエンス進めて行く。
[ターン02]椎名
「恐龍同盟本拠地……地竜スピリットのデッキか……よっし!!スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!メインステップ!!……【ブイモン】を召喚!!」
手札4⇨5⇨4
リザーブ4⇨5⇨1
トラッシュ0⇨3
椎名が初手で召喚したのはいつもの青い小竜、ブイモン。その召喚時も遺憾無く発揮させる。
「召喚時効果!!カードをオープン!!」
オープンカード↓
【ギルモン】×
【ライドラモン】◯
効果は成功、椎名はアーマー体スピリットであるライドラモンを手札へと新たに加えた。
………そしてそのまま……
「ライドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!」
手札4⇨5
リザーブ1⇨0
トラッシュ3⇨4
ブイモンの頭上に黒くてヒョウタンのような形をした何かが投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化する。
「来い!!轟く友情、【ライドラモン】!!」
【ライドラモン】LV1(1)BP5000
蒼き稲妻をその身に宿しながら、黒き獣型のアーマー体スピリット、ライドラモンが椎名の場へと姿を現した。
「召喚時効果でコアを2つトラッシュへ!!」
トラッシュ4⇨6
登場するなり気高く雄叫びを上げるライドラモン。すると、椎名のBパッドに新たにコアが追加される。トラッシュに置かれるため、タイムラグがあるのが咎めないものの、初手であればそれはあまり気にならない。
「アタックステップ!!ライドラモンでアタック!!」
「ライフだ!!持ってきな!!」
ライフ5⇨4
ライドラモンの俊足を生かした体当たりが炸裂。キバーラ三世のライフを1つ破壊した。この先制点は後に椎名にとってもキバーラ三世にとっても大きく響いてくる事だろう。
「ターンエンド!!」
【ライドラモン】LV1(1)BP5000(疲労)
バースト【無】
できることを全て終え、そのターンをエンドとした椎名。次は1周回ってキバーラ三世のターン。椎名のライドラモンに対してどう動きを見せてくるのか………
[ターン03]キバーラ三世
「俺のターン!!スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!リフレッシュステップ!!」
手札4⇨5
リザーブ1⇨2⇨6
トラッシュ4⇨0
勢いよくターンシークエンスを進めて行くキバーラ三世。次はメインステップに入る。
「メインステップ!!本拠地のLVを上げ、バーストをセットし、マジック、ジュライドローを使用!!カードを2枚ドローし、ターンエンド!!」
手札5⇨4⇨3⇨5
リザーブ6⇨5⇨2
トラッシュ0⇨3
【恐龍同盟本拠地】(0⇨1)LV1⇨2
バースト【有】
「………っ!!……」
その態度とは裏腹に消極的な戦法をとったキバーラ三世。そのターンをドローとバーストのセット、ネクサスのLVアップのみで、重要となるスピリットを1体も召喚せずにエンドとしてしまう。仮にもオセアニアリーグ優勝者なのだ。実力はあるはず…………
しかし、そんな彼の今わかっている情報は地竜スピリットを扱うデッキ……という点のみ………そんなこともあってか、バトルの空気にやや緊張感が走り出した。
「さぁさぁ!!かかって来やがれぇぇ!!」
「望むところだ!!何伏せたかは知らないけど全力で叩き込んでやる!!」
しかし、そんな緊張感などへでもないか、椎名は今まで以上に張り切ってバトルは臨む。余程場慣れしているのが伺えた瞬間であると言える。
そうだ、関係ない。相手がどんなバーストを伏せようと………おくしたら相手の思うがままだ。椎名はまたその口角を上げ、勢い良くターンを進めて行く。
[ターン04]椎名
「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!リフレッシュステップ……」
手札5⇨6
リザーブ0⇨1⇨7
トラッシュ6⇨0
【ライドラモン】(疲労⇨回復)
リフレッシュステップまで行い、疲労から回復するライドラモン。その証拠と言わんばかりにまた気高く吠える。
「メインステップ!!もういっちょブイモンを召喚!!効果でカードをオープン!!」
手札6⇨5
リザーブ7⇨4
トラッシュ0⇨2
オープンカード↓
【ディーアーク】×
【スティングモン】◯
再び召喚されるブイモン、そしてその召喚時効果も成功、成熟期スピリットであるスティングモンのカードが椎名の手札へと新たに加えられた。
「さらにブイモンの追加効果でこの【スティングモン】を2コスト支払い召喚する!!」
手札5⇨6⇨5
リザーブ4⇨1
トラッシュ2⇨4
【スティングモン】LV1(1⇨2)BP5000
ブイモンに続くように椎名の場に飛び出して来たのは緑のスマートな昆虫戦士、スティングモン。その召喚時効果でコアが増える。
しかし、迂闊だったか、このタイミングでキバーラ三世の伏せていたバーストカードが反応を示す。
キバーラ三世は口角を上げ、そのバーストカードを勢い良く反転させる。
「召喚時効果発揮後により、バースト発動!!」
「……っ!!」
「【恐龍同盟 刃雷のエレクトロサウルス】!!」
バーストが反転したかと思うと、そこから蒼き稲妻が迸り、椎名の場にいるライドラモンを感電させる。ライドラモンの電力をも上回る高圧だったか、ライドラモンは力尽き、その場で爆発してしまった。
「っ!!……ライドラモン!!」
「はっはっは!!エレクトロサウルスの効果だ!!BP10000以下のスピリットを破壊する!!……そしてその後、このスピリットを召喚だっ!!来い!!」
リザーブ2⇨0
【恐龍同盟 刃雷のエレクトロサウルス】LV2(2)BP7000
ライドラモンを破壊した稲妻がキバーラ三世の場へ集約して行く。やがてそれは1体の肉食恐竜のようなスピリットを形成した。その名はエレクトロサウルス。蒼き稲妻を模した鎧が特徴的である。
登場するなり大きな咆哮を上げるエレクトロサウルス。まるで椎名やそのスピリット達に威嚇しているかのよう…………
恐龍同盟スピリット………赤属性の地竜スピリット達の中でも特に強力な効果を多く有しているカテゴリである。
「召喚時効果発揮後のバーストスピリットだったのか………………くぅぅ〜〜〜っ!!!!燃えて来たぞっ!!」
しかし、そんなエレクトロサウルスの威嚇なぞ全くもって意に介さない椎名。肝が座っているのか、はたまたただのおバカなのか…………その両方か………
これもバトルが楽しいという感情から来ているのは間違いないことであって………
「真っ向勝負だ!!キバーラ三世!!……バーストを伏せ、アタックステップ!!スティングモンでアタック!!効果でコアブースト!!」
手札5⇨4
【スティングモン】(2⇨3)LV1⇨2
真っ向勝負と称してアタックステップへと移行し、スティングモンにアタックの指示を送る椎名。その効果でコアが増え、副次的にスティングモンのLVが上がった。
そして、この時に使えるようになる効果もある。椎名はそれの解禁と共に手札のカードを抜き、使用する。
「さらに!!スティングモンの【超進化:緑】の効果発揮!!」
「……!!」
「この効果で緑の完全体スピリットを召喚する………」
スティングモンに0と1の羅列が並んだデジタルコードが巻きつけられる。スティングモンはその中で姿形を大きく変え………
やがてそれは破裂し、中から全く別のスピリットが姿を見せる………
「至高の竜戦士!!……【パイルッドラモンッ】!!」
【パイルドラモン】LV2(4)BP10000
現れたのは椎名のエースの1体、パイルドラモンだ。青と白の4枚の羽に加え、その腰には2丁の機関銃が備え付けられている。正に至高の竜戦士。
「ほぉ、……これはたまげた………!!」
キバーラ三世はパイルドラモンを見て、驚愕ながらも笑っていた。強敵の出現に思わず笑みを浮かべる………カードバトラーの鑑とも取れる行動である。
「召喚時効果!!コスト7以下のスピリット、エレクトロサウルスを破壊!!」
「……!!」
「……デスペラードブラスタァァァァア!!!」
パイルドラモンは腰にある2丁の機関銃を両手で1つずつ持ち上げ、連射………有りっ丈を……ぶっ放す。
その無数の弾丸はエレクトロサウルスの装甲に次々と穴を開ける。そしてそのうち肉体を貫いていき………
最終的にエレクトロサウルスは力尽き、その場で爆発を起こしてしまった。
「アタックステップは続行!!パイルドラモンでアタックだっ!!……アタック時効果エレメンタルチャージでコア2つをパイルドラモンに置き、ターンに一度回復する!!」
【パイルドラモン】(4⇨6)LV2⇨3(疲労⇨回復)
パイルドラモンの身体が様々な色で彩られる。それはパイルドラモンが力を使用した何よりの証拠。これによりコアが増え、回復し、このターン、2度目の攻撃の権限を得た。
「行けっ!!パイルドラモンッ!!渾身の討撃……エスッグリーマ!!!」
「……っ!!……ライフだ!!……ぐおっ!!」
ライフ4⇨3
キバーラ三世に高速で接近するパイルドラモン。そのままガトリングのように拳でキバーラ三世のライフを打ち砕いた。
「もういっちょ!!パイルドラモン!!」
【パイルドラモン】(6⇨8)
「ちぃっ!!そいつもだ!!」
ライフ3⇨2
ついでと言わんばかりに右拳の一撃でキバーラ三世のライフをさらに追加で1つ砕いたパイルドラモン。アタック時効果もあって、コアの総数も急速に増えていく。
「よっしゃっ!!ターンエンドッ!!」
【パイルドラモン】LV3(8)BP13000(疲労)
【ブイモン】LV1(1)BP2000(回復)
バースト【有】
大きくコアの総数に差を広げつつ、キバーラ三世のライフを大きく削った椎名。なかなかに良いターンであったと言えるだろう。
次は絶賛劣勢を強いられているキバーラ三世。しかし、ライフの減少によりコア自体は増えている。反撃なるか…………
「はっはっは!!やるじゃないか!!正直お前を俺の妃として連れ帰りたいくらいだっ!!」
「……きさき?」
笑いながらさらっととんでもないことを言いあげるキバーラ三世。そんなことをすれば国際的な拉致問題になりかねない。椎名も椎名で妃の意味を全く理解していない。
[ターン05]キバーラ三世
「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!……リフレッシュステップ……」
手札5⇨6
リザーブ4⇨5⇨8
トラッシュ3⇨0
ゆっくりとターンシークエンスを進めて行くキバーラ三世。そんな中、ドローステップで引いたカードを見、また口角を上げた。そのカードは自分のデッキの切り札。そのカードの力を使いこなし、彼はオセアニアリーグの覇者となったのだ…………
「メインステップ!!俺は【ピストジャサウルス】、【恐龍同盟ステゴラール】をLV2で召喚!!」
手札6⇨5⇨4
リザーブ8⇨1
トラッシュ0⇨1
キバーラ三世が新たに召喚したのは0コストの地竜スピリット、泳ぐように地を這うピストジャサウルスと、恐龍同盟スピリットの1体、背中にある複数の板が特徴的な四足歩行のステゴラール。
力自体は対して強力ではないが、彼のデッキではこれを生かしたコンボが何よりも強力であり………
「アタックステップッ!!やれ!ステゴラール!!効果でBPプラス3000し、1枚ドロー!!」
手札4⇨5
【恐龍同盟ステゴラール】BP5000⇨8000
アタックステップに移行し、ステゴラールにアタックの指示を送るキバーラ三世。効果により、その手札を少しだけ潤した。
だが、目的はそんな生易しいものではない………もっと雄大で、大胆な戦術である。
「さらにフラッシュ!!【煌臨】!!対象はステゴラール!!……この時、ステゴラール自身の効果でソウルコアの代わりに手札1枚をコストとする!!」
手札5⇨4
破棄カード↓
【ピストジャサウルス】
「………!!」
キバーラ三世のフラッシュタイミング。ステゴラールのさらなる効果により、本来ならば払わなければならないソウルコアを手札1枚で補った。
ステゴラールが赤く光り輝く。
赤属性のスピリットに煌臨する証拠だ…ステゴラールはその中で姿形を大きく変えていく……
これから呼び出されるのは………まだ彼の切り札ではない。が、彼のデッキにおいては大事な役回りを担うスピリットであって……………
「煌臨!!【恐龍同盟アクロカントレックス】!!」
手札4⇨3
【恐龍同盟アクロカントレックス】LV2(3)BP10000
「…………!!」
新たにキバーラ三世の場に現れたのは二足歩行の肉食恐竜のような恐龍同盟スピリット、アクロカントレックス。背中に生えた複数の長い棘が特徴的だ。
その威圧感はその時点で椎名のスピリットをも圧倒していると言える。
「煌臨時効果!!BP10000以上のスピリット1体を破壊っ!!」
「なにぃっ!?」
「パイルドラモンを破壊っ!!」
アクロカントレックスが口内から放つ黒い炎。それは椎名の場に佇むパイルドラモンを襲う。パイルドラモンはそれをまともに受けてしまい、力尽き、倒れ、爆発してしまった。
「くっ!!パイルドラモンッ!!」
爆発による爆風を肌で感じながら反射的にパイルドラモンの名を叫ぶ椎名。
この手の効果は赤羽司、【朱雀】の持つ赤羽一族に伝わる伝説のデジタルスピリット、【ホウオウモン】と同等の効果だ。相手が強ければ強い程に破壊しやすい強力なものである。
しかし、ホウオウモンと比べると、煌臨元カードが手札に戻る点やアタック時効果の存在もあって、やはりホウオウモンの方が煌臨条件が厳しい分強い。
が、デッキによってはアクロカントレックスの方が使える場合もある。特にこのキバーラ三世のデッキだと…………
「さらに!!アクロカントレックスのさらなる効果っ!!手札のカード1枚を煌臨元に追加することで、再び煌臨時効果を発揮するっ!!俺はピストジャサウルスのカードを追加っ!!」
手札3⇨2
「っ!?」
魚のような見た目の地竜スピリット、ピストジャサウルスが追加で場に現れる。
しかし、アクロカントレックスはそれを見るなり近づき、捕食し始める。ピストジャサウルスのサイズでは丸呑みであった。
「た、食べてる………」
味方のスピリットを捕食するという異様な光景に、流石の椎名も引き気味。
しかもだ。煌臨時効果をもう一度発揮させると言っても、パイルドラモンがいなくなった今、椎名の場にはブイモンのみ。BPは僅か2000しかないのだ。アクロカントレックスの効果対象内ではない。
つまり、一見すると全く意味をなさない行為なのである…………
「はっはっは!!それで良い!!」
「………?」
ただのプレイングミスにしか見えないこの行い。
しかし、本当はキバーラ三世のデッキにとっては正しいプレイング。そのような常識を逸したプレイングがあってこそ、彼はオセアニアリーグを勝ち取ったのだ。
今こそ、彼の切り札が煌臨する。
「フラッシュ!!さらに煌臨を発揮!!対象はアクロカントレックス!!」
リザーブ1s⇨0
トラッシュ1⇨2s
「………っ!!」
今度はしっかりとソウルコアを支払っての煌臨だ。アクロカントレックスが赤く光り輝き、その中で姿形を大きく変えていく。
「古代の覇者よ……今こそ再び世界を蹂躙せよ!!……【恐龍覇者ダイノブライザー】!!煌臨!!」
手札2⇨1
【恐龍覇者ダイノブライザー】LV2(3)BP16000
……赤い光が火花のように弾け飛ぶ。
その中から新たに現れたのは恐龍同盟のリーダーにして覇者………ダイノブライザー。赤き装甲を見に纏い、その手には両刃を備えたジャベリンがある。その貫禄は正しく恐龍の覇者に相応しい。
「………す、すっご〜〜〜!!」
これを見てテンションが上がらない椎名ではない。早朝の時間帯にもかかわらず、その目はぱっちり冷め、開眼している。
「ダイノブライザーの煌臨時効果!!BP10000以下のスピリット全てを破壊するっ!!」
「っ!?」
ダイノブライザーはその手のジャベリンを勢いよく地面に突き刺す。すると火柱が様々な場所で立ち上り、椎名の場にいたブイモンがそれに巻き込まれ、あっさりと焼却されてしまった。
この時点で、ダイノブライザーはかなり強力なスピリットであることが伺える。しかし、真骨頂はここから…………キバーラ三世はそれを発揮させていく………
「そしてぇ!!ダイノブライザーのアタック時効果……【連覇】!!!」
「……れんぱ?」
「この効果で、俺は3枚の煌臨元カードを破棄!!」
破棄カード↓
【ピストジャサウルス】
【恐龍同盟ステゴラール】
【恐龍同盟アクロカントレックス】
ダイノブライザーには繰り返された煌臨等により、計3枚の煌臨元カードが存在していた。キバーラ三世はそのカード達を全て破棄し、トラッシュへと送った。
……しかし、
「………え?あれ?何も起きない………」
多大なコストを払ったものの、当の本人、ダイノブライザーには全く影響がない。椎名はその事に不自然さを感じる。
「さぁ!!アタック中だぜぇ!!」
「っ!!……ライフで受ける!!」
ライフ5⇨4
しのごと考えてはいられないか、ライフで受ける宣言をする椎名。ダイノブライザーのジャベリンの一振りが彼女のライフをいとも容易く薙ぎ払った。
「ライフ減少により、バースト発動!!【マリンエンジェモン】!!」
「………!!」
「効果により、召喚し、このターン、私のライフは相手のコスト9以下のスピリットから減らされない!!」
リザーブ12⇨9
【マリンエンジェモン】LV3(3)BP9000
勢い良く反転する椎名のバースト。そこから現れる小さな桃色の小動物は、意外にもデジタルスピリットの最高ランク、究極体の一種………
マリンエンジェモンは場に出るなり、歌うように囀り、水の力を呼び寄せる。それで椎名を囲い、このターン、条件を満たさないスピリットでは突破が不可となった………
「よしっ!!凌いだ!!」
いかにダイノブライザーの【連覇】が強力であろうと、マリンエンジェモンの力でアタックを通らなくして仕舞えば問題ない………キバーラ三世はターンエンドを迫られる………かと思えたが………
ダイノブライザーの持つ【連覇】の効果は椎名が想像していたものよりも遥かに上回る代物であって…………
「……成る程………なら、ターンエンド……」
【恐龍覇者ダイノブライザー】LV2(3)BP16000(疲労)
【ピストジャサウルス】LV2(3)BP3000(回復)
【恐龍同盟本拠地】LV2(1)
バースト【無】
潔くそのターンをエンドとしたキバーラ三世。
次は椎名のターンだ。勢い良くターンを始め、残ったライフを根こそぎ奪うつもりだ。
しかし………
「私のターン!!スタートステップッ!!…………あれ?スタートステップッ!!………え?あれれ?……」
Bパッドに宣言しても何故かそれは全く反応を示さない。椎名は今度は大きな声で問いかけるように………
「お〜〜い!!スタァァトステップ!!…………はい来たスタートステップ!!………こ、来ない……」
しかし、それでもやっぱりBパッドは反応を示さない。
通常、ターンの開始にスタートステップを宣言すれば、Bパッドは点滅し、ルール通り、その後のコアステップ等を行えるのだ。
だが、今回はなぜかそれが行えない。
まさかBパッドが壊れた?
そんな考えが椎名の頭をよぎる時だった。キバーラ三世が高らかに宣言を行い………
「ダイノブライザーの【連覇】の効果を適用ぉぉお!!」
「っ!?」
キバーラ三世の叫びとと共に大きな咆哮を上げるダイノブライザー。その様子はまるで新時代幕開けを伝える火山の噴火。空気が揺れ、地が震撼する。
そして語られる。ダイノブライザーの効果………その本筋が………
「【連覇】の効果はぁ!!煌臨元カードを3枚破棄する事で、このターンの終了時!!もう一度【自分のターン】を行う!!」
「………なにぃっ!?」
自分のターンをもう一度行う。そんな別次元で常識の外側にあるような効果内容に驚愕する椎名。Bパッドが反応しないわけだ。そもそも自分のターンなど回ってきていなかったのだから。
「もう一度………俺のターンだあ!!」
「………っ!!」
キバーラ三世のエクストラターンが幕を開ける。
[ターン06]キバーラ三世
「スタートステップ!!コアステップ!!ドローステップ!!リフレッシュステップ!!」
手札1⇨2
リザーブ0⇨1⇨3
トラッシュ2⇨0
【恐龍覇者ダイノブライザー】(疲労⇨回復)
リフレッシュステップ時、眼光を放ちながら、疲労から起き上がるダイノブライザー。また大きな咆哮を上げる。
「メインステップッ!!俺はダイノリボーンを使用し、トラッシュに眠るピストジャサウルスと恐龍同盟ステゴラールを手札に戻す!!んでもってそんまま召喚!!」
手札2⇨1⇨3⇨2⇨1
リザーブ3⇨1⇨0
【ピストジャサウルス】(3⇨1)LV2⇨1
【恐龍同盟本拠地】(1⇨0)LV2⇨1
トラッシュ0⇨2⇨3
キバーラ三世はマジックカードを使用し、トラッシュに眠る2枚の地竜スピリットを回収。そしてそれをそのまま召喚。これで彼の場に計4体のスピリットが揃った。
ダイノブライザー以外はLVが1だが、椎名を追い詰めるには十分すぎる数だ。
「アタックステップッ!!ステゴラールでアタック!!効果でBPを上げ、1枚ドロー!!」
手札1⇨2
【恐龍同盟ステゴラール】BP2000⇨5000
走り出すステゴラール。キバーラ三世の手札を僅かながらに潤す。だが、これは………
「マリンエンジェモンでブロック!!」
椎名の指示で向かってくるステゴラールに飛び立つマリンエンジェモン。小回りの効かない体型であるステゴラールにはできない動きで翻弄し、最後には上空から水の力で押し倒し、爆発させた。
「まだだぁ!!行きやがれぇ!!」
キバーラ三世はそう言いながら残ったアタック可能な3体のスピリットでも一斉に攻撃を始める。2体のピストジャサウルスが地を泳ぐように進み、ダイノブライザーがジャベリンを回転させる。
マリンエンジェモンでブロックしてしまった椎名はこれを防ぐ手段がなく…………
「ライフで受けるっ!!……ぐっ!!……ぐわっ!!」
ライフ4⇨3⇨2⇨1
その攻撃を3回連続で受けてしまった。流石に蹌踉めくが持ちこたえ、なんとか姿勢を戻した。
これでライフ差は一気に逆転され、風前の灯火となった。
「………はっはっは!!持ちこたえたか!!ターンエンドッ!!」
【ピストジャサウルス】LV1(1)BP1000
【ピストジャサウルス】LV1(1)BP1000
【恐龍覇者ダイノブライザー】LV2(3)BP16000
【恐龍同盟本拠地】LV1
バースト【無】
「……はは、流石にエクストラターンの攻撃はしんどいなぁ……ライフあんなにあったのに………」
……ようやく
長きに渡る第5、6ターンを終え……椎名のターンが巡ってくる。2ターン分、待ちに待ったことあって、いつも以上にターンを張り切って進めていく。
[ターン07]椎名
「私のターン!!スタートステップ!!コアステップ!!ドローステップ!!リフレッシュステップ!!」
手札4⇨5
リザーブ12⇨13⇨17
トラッシュ4⇨0
【マリンエンジェモン】(疲労⇨回復)
ターンシークエンスを勢い良く進めていく椎名。その過程のリフレッシュステップでマリンエンジェモンが疲労から起き上がる。
「メインステップッ!!【メガログラウモン】をLV3で召喚!!」
手札5⇨4
リザーブ17⇨4
トラッシュ0⇨7
地の底から地響きと共に推参するのは、真紅の魔竜、完全体の姿であるメガログラウモン。大きな体格に加え、上半身の武装が特徴的だ。
「アタックステップッ!!行って来い!!メガログラウモンッ!!」
勢いのままアタックステップへと移行する椎名。颯爽とメガログラウモンに指示を送る。
それを聞き、重たい体を揺らしながら走り出すメガログラウモン。この瞬間にメガログラウモンのアタック時効果も発揮される。
「メガログラウモンのアタック時効果!!カードを2枚ドローて、相手のシンボル1つのスピリット1体を破壊するっ!!」
手札4⇨6
「………!!」
「ダイノブライザーを破壊!!……原子の一撃…アトミックブラスタァァァァア!!!」
肩部の砲手にエネルギーを溜め、それを一気に一直線に放つメガログラウモン。狙うはダイノブライザー。避けるすべを持たないダイノブライザーはそれに直撃………
爆発し、破壊される………
かと思いきや……
「………!?」
「残念だったな!!ネクサスカード、恐龍同盟本拠地の効果で、俺の地竜スピリットは疲労状態の時相手のスピリット、ブレイヴの効果を受けない!!」
爆煙立ち上る中、その場に佇んでいたのは他でもない、ダイノブライザーだった。恐龍同盟本拠地が与える力は大きい。これにより、ダイノブライザーはおろか、ピストジャサウルスまでもがメガログラウモンの効果をシャットアウトできる。
しかし、アタック自体が無効になっているわけではない。そのため、メガログラウモンのアタック。マリンエンジェモンのアタックでキバーラ三世の残り2つのライフを破壊できれば椎名の勝利である。特に、恐龍同盟本拠地の恩恵を受けるために、キバーラ三世はすべてのスピリットでアタックしている、当然ながらブロックできない。
勝ちは濃厚か………
だが、やはり仮にもオセアニアを制した男か………残った手札でそれを凌ぐ一手を繰り出す………
「フラッシュマジック!!【光翼之太刀】!!……不足コストはピストジャサウルス2体から確保するぜっ!!」
手札2⇨1
リザーブ1⇨0
【ピストジャサウルス】(1⇨0)消滅
【ピストジャサウルス】(1⇨0)消滅
「………っ!!」
「これでダイノブライザーを指定し、このターンBPを3000上げ、疲労ブロックを可能にするっ!!……メガログラウモンをひねり潰せ!!ダイノブライザー!!」
【恐龍覇者ダイノブライザー】BP16000⇨19000
白いオーラを見にまとうダイノブライザー。このターン、疲労ブロッカーとなった証拠だ。これにより、場を離れない限りは何度でもブロックが可能。椎名のメガログラウモンを迎え撃つ。
メガログラウモンが装着された鉤爪の武装で、体型には見合わない程にアクロバティックに攻めるが、ダイノブライザーはこれをジャベリンで容易く防ぐと、一瞬の隙をついて、メガログラウモンを蹴り飛ばした。
吹き飛ばされるメガログラウモン。やはりBP差がありすぎるか…………
……だが……
「………そう来ると思ったよ………!!」
「……なにっ!?」
椎名はそう言い放ち、また、笑ってみせた。
当然だ。決められないとわかっていながら前のターンにフルアタックを仕掛けてきたのだ。何もないと思うのも不自然だ。椎名はこのタイミングでさらなる逆転の一手を繰り出す。
「フラッシュ!!【煌臨】発揮!!対象はメガログラウモン!!」
リザーブ4s⇨3
トラッシュ7⇨8s
「………!!」
椎名の持つ煌臨スピリットは1体のみ………
真紅の赤に光輝くメガログラウモン。その中で聖騎士へと大きく姿を変えていく。
「真紅の魔竜は今こそ聖騎士となりて敵を貫く!!………究極進化ぁぁあ!!」
手札6⇨5
真紅の赤の光が弾け飛ぶ…………
「………【デュークモンッ】!!!」
【デュークモン】LV3(6)BP18000
椎名の場に新たに現れたのは真紅のマントを靡かせる白い鎧の聖騎士。伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツの一柱、デュークモンだ。
「……おぉっ!!」
キバーラ三世もそう歓喜の声を上げる。単純に楽しいのだ。強敵に出会えたことに………
「デュークモンの効果!!トラッシュにある滅竜スピリットを手札に戻すことで、ターンに一度、回復するっ!!……私はギルモンのカードを回収し、回復するっ!!ネクスト・イストリア!!」
手札5⇨6
【デュークモン】(疲労⇨回復)
真紅の光を一瞬纏い、回復状態となるデュークモン。これにより、このターン、2度目のアタック権利を得た。
「煌臨スピリットはその煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!……ダイノブライザーとバトルだっ!!デュークモン!!」
煌臨元であったメガログラウモンがキバーラ三世のダイノブライザーとバトル中であったため、それに煌臨したデュークモンもダイノブライザーとバトルすることとなる。
2体の一騎打ちが幕を開ける。互いの武器であるジャベリンと聖槍が火花を散らしながらぶつかり合う。
………しかし、
僅かながらにダイノブライザーがデュークモンを押し始めた。ゆっくり、ゆっくりとデュークモンをその聖槍ごと押していく。
「はっはっは!!威勢がいいなぁっ!!だが、BPはこっちの方が上だっ!!」
白のマジック、光翼之太刀の効果を受け、その合計BPが19000となっているダイノブライザー。対するデュークモンのBPはLV3であるため、18000。僅かながらに劣っている…………
だが、キバーラ三世は笑いながらも……
本当は負けを悟っていた。意味も無しに煌臨するわけがないからだ。
案の定、椎名はさらなるカードを手札から切り……
「フラッシュマジック!!【レッドカード】!!」
手札6⇨5
リザーブ3⇨0
トラッシュ8s⇨11s
「………!!」
「これでこのターン、デュークモンもBPプラス3000!!……合計、21000だっ!!」
【デュークモン】BP18000⇨21000
真っ赤なカードがデュークモンを潜る。デュークモンはその力の恩恵を得、このターン、BPを上昇させた。
眼光を放ち、息を吹き返すデュークモン。ダイノブライザーのジャベリンを弾け飛ばし、瞬時にそれに向けて大きな聖盾を構える。
「いっけぇ!!デュークモン!!………聖盾の一撃……ファイナル・エリシオン!!」
エネルギーを盾に充填させたデュークモンはダイノブライザーへそれを射出。ダイノブライザーも流石に堪えたか、断末魔を上げながらそのエネルギーの中へと姿を消した。
これでもうキバーラ三世を守るスピリットなどいない。後は2体のスピリットでアタックするのみ………椎名は容赦なく畳み掛ける。
「デュークモンとマリンエンジェモンでアタック!!」
地を駆けるデュークモンとマリンエンジェモン。目指すは当然キバーラ三世の残り2つのライフ。
「はっはっは!!最高じゃねぇか!!芽座椎名っ!!その名前っ!!覚えといてやるぜぇ!!」
ライフ2⇨1⇨0
最後もまた、口角を上げ、大きく笑いながらそう強く言い残し、デュークモンとマリンエンジェモンのアタックを受け入れたキバーラ三世。
デュークモンの聖槍の一撃と、マリンエンジェモンのハート型の水の塊が、彼の残りライフを全て破壊した。
これにより、勝者は芽座椎名。見事に、地下予選を通過してみせた。
「よっしゃぁっ!!」
ガッツポーズを見せ、喜ぶ椎名。周りにいた参加者達もそれを盛大に拍手し、盛り上げた。彼女とのバトルに敗北したキバーラ三世でさえもそれを讃えている。
………そんな時、
………そんな時だった。
椎名の背後から彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。
「………ふっ!!相変わらず無茶苦茶な強さだな…………芽座椎名……」
「…………ん?」
椎名はその声のする方へと体ごと振り向く。
………するとそこにはとある人物が………
いたのだ。
そう、忘れるわけがない。あの界放市一を決める大きな祭典、【界放リーグ】で激戦を繰り広げた相手を………真夏の実兄、【ヘラクレス】や、【五の守護神】と並び、【界放三英雄】の1人を………椎名が忘れるわけがなかった…………
「あ………あぁ!!……あなは…【吸血先輩】!!」
「ふっ、久しいな……!!」
ゆっくりと口角を上げ、不敵に笑みを浮かべるのは、【エンペラー】の異名を持つ、【吸血堕天】………バトスピ一族である【吸血一族】の1人だ。
彼が今、約一年ぶりに椎名の目の前に………
立ち塞がった…………
〈本日のハイライトカード!!〉
椎名「本日のハイライトカードは【恐龍覇者ダイノブライザー】!!」
椎名「ダイノブライザーはその名の通り恐龍同盟の覇者!!煌臨元カードをためて、3枚一気に破棄することで自分のターンをもう一度行えるとんでもない効果を持っているよっ!!」
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〈次回予告!!〉
椎名「まさか、吸血先輩とまた会えるなんてなぁ〜〜〜……くぅぅ〜〜〜〜っ!!またバトルできるのかっ!!燃えてきたぞっ!!よっし!!アイランドリーグ、私の1回戦の相手は………と、………えぇ!?花火さん!?………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「椎名VS花火!?ブラックウォーグレイモンの脅威!!」………今、バトスピが進化を超える!!」
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最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
新元号令和になり、初めての投稿でした。読者の皆様、令和でも、私、バナナの木とその作品共々を宜しくお願いします!!私もどんどん精進して行きます!!
次回からはアイランドリーグ本戦ということで、怒涛のバトル連チャンの予定です!!
因みに、今回登場させたキバーラ三世、彼は前作、オメガワールドのあるキャラクターをモチーフにしてみました。
実は最後に久し振りに出てきた吸血堕天。前よりだいぶ性格が丸くなっております。詳しくは【第65話 怒涛闘魂!!破滅のイマーゴ!!】の前半を参照に……
※都合により、次回のサブタイトルを変更致しました。
最近の悩み………
椎名が無敵すぎる………全くピンチにならない。目を離すと手札が増えすぎている。………