バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

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第66話「飛翔するキバ!!ベルゼブモン来襲!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《アイランドリーグ1回戦第三試合もいよいよ大詰めぇ!!さぁ!!【朱雀】こと赤羽司選手のターンだぁ!!》

 

 

若き実況者が気合いを入れてそう叫ぶ。それに合わせるようにまた、観客達も轟音に近い歓声をあげる。椎名が聖子とバトルした後、第二試合が終わり、今は第三試合である。

 

そのプレイヤーのうち、1人は司だ。

 

ここまでの試合運びは完璧。攻めつつ、ライフを回復、及びドローし、対戦プレイヤーとのアドバンテージ差は目で見るより明らか………

 

別に対戦プレイヤーが弱すぎるわけではない。相手はプロだ。並大抵のカードバトラーでは歯が立たないはずだろう。しかし、司や椎名は学生でありながら、多大なる才能に恵まれ、尚且つ様々な経験、様々な修羅場を乗り越えてきた。

 

もはやそこら辺に転がっているプロバトラー程度では相手にはならないはずだろう。

 

そしてそんな司の圧倒的な実力を知らしめた1回戦第三試合も終わりを迎えることになる。

 

 

「行け………シルフィーモン!!」

 

 

静かに、それでいて熱のこもった熱い声色で聖なる獣人、シルフィーモンにアタックの指示を送る司。シルフィーモンはその手のひらにエネルギーを凝縮させ、弾丸のように投げ飛ばす。狙うは当然対戦プレイヤーのライフだ。

 

 

「ぐっ!!………ら、ライフだぁ!!」

ライフ1⇨0

 

 

シルフィーモンのトップガンと呼ばれるエネルギー弾は対戦プレイヤーが宣言する前にライフを貫き、打ち砕いた。これにより、ライフはゼロ。赤羽司の、いや、【朱雀】の圧勝だ。

 

 

《決まったぁ!!……勝者っ!!赤羽司ぁ!!学生ながらにしてプロバトラーを打ち破ってしまったぁ!!》

 

 

若い実況者を起爆剤にするように盛り上がる観客達。今年の注目は間違いなく【芽座椎名】と【赤羽司】の2人であった。

 

 

「………こんなもんか……」

 

 

司は最後にそう冷たく言い残し、バトル場を離れ、選手控え室へと足を戻していった。

 

この様子を控え室からモニター越しで見ていた椎名は、今一度司の様子がおかしい事を確認した。

 

バトル中も、やはり冷たかった。言葉では言い表しづらいが、まるで目の前の対戦相手を見ていないような、興味がないような、そんな感じだ。

 

椎名は知らない。司がああなったのは自分のせいだという事に、いや、これを椎名のせいと言ってはならない気もするが………

 

だが、あの時、あの瞬間。椎名が鬼になった時…………司は感じていた。【芽座椎名との劣等感を………】それと同時に【助けたい】という気持ちが渦巻いていて、もはや1つの言葉では言い表せないほどに絡まりつつあった…………

 

このまま仮に2人が勝ち進めば、2人は決勝で対戦することになる。

 

その時だ………

 

その時ではっきりする………

 

今、自分とめざし……どっちが強いのか………

 

司は今、有り余る感情の中、この一点のみを考えていた…………

 

 

 

******

 

 

《さぁ!!一回戦も残すところ後一試合となりました!!この四試合で次なる二回戦の対戦カードが決定します!!》

 

 

そう語る若い実況者。

 

トーナメント方式であるため、二回戦は第一試合で勝ったバトラーと第二試合で勝ったバトラーがバトルし、もう一試合は第三試合で勝ったバトラーと第四試合で勝ったバトラーがバトルすることとなるのだ。

 

つまり、次のバトルで勝ったバトラーが、二回戦で司とバトルする相手ということになる………

 

会場の観客達にそう考えさせながらも、若い実況者は1回戦最後のバトラーの名を叫ぶ…………

 

 

《先ずは!!今年期待の新人ルーキー!!予選のほとんどを5ターン内に決着をつけたそうだぁ!!そしてあの吸血一族の末裔!!【エンペラー】こと、【吸血堕天】!!!》

 

 

そう叫ばれ、吸血は威風堂々とした態度でバトル場へと足を踏み入れた。

 

そしてそれと共に観客達の轟音が鳴り響いてくる。それはとてもではないが、一介の新人ルーキーが叫ばれていいものではない。

 

彼がこの一年で何よりも凄まじい人気を集めた証拠であると言える。

 

そして、次に実況者の口から呼ばれる名は一介のプロバトラーの名前。ただ、一介と言っても数多くのタイトルを獲得したベテラン中のベテランである。

 

 

《さて!!次は説明など不要でしょう!!………ヨーロッパのベテランプロバトラー!!!………【ベレンヘーナ】選手!!》

 

 

【ベレンヘーナ】………その名を叫ばれ、バトル場へと足を踏み入れる人物が1人………

 

……だが、その男は【ベレンヘーナ】などではない。長身で四角い眼鏡をかけた青年…………

 

会場一同はまた聖子の時同様、唖然としていた。それもそのはずだろう。何せ、その名前とは全く別の人物がこの場に足を踏み入れたのだから…………

 

 

《………あ、あれ?またまたご親戚でしょうか?また別の人物が来ましたね………》

 

 

そうテンション下げて言葉を並べる若い実況者。

 

………だが、

 

 

………だが、この人物は…………

 

 

「あ、あいつっ!!……何故ここに!!?」

 

 

司が個人の控え室でそう叫んだ。

 

………そしてまた、椎名も自分の控え室で………

 

 

「…………じゅ、【銃魔】………なんで………」

 

 

……と、呟いた………

 

 

そう、この場に【ベレンヘーナ】の代わりに参加していたのは…………あの具利度王国を襲った銃魔であった…………切り札であるベルゼブモンを駆り、椎名をことごとく追い詰めていったのは記憶に新しい………

 

因みに、この時点で銃魔を知っているのは【芽座椎名】【赤羽司】【毒島富雄】のみ。会場内で数えると椎名と司の2人しか銃魔を知らないことになる。

 

………一体何をしに来たと言うのか……ここでも遭遇してしまうとは、偶然にしては出来過ぎている。また何か目論んでいるとしか考えられない。

 

椎名は知らないが、彼が一番危ないのはDr.Aと深く関わりがあるということ。司はそれを聞いてしまったことで、それが悩みの種の1つとなってしまっている。

 

 

******

 

 

「ぬぬぬ………あやつ……どっかで………」

「どしたん?おっちゃん?」

「いや〜〜あの眼鏡の男………前にもどこかで………あったような………」

 

 

熱気困る観客席の中、そう言葉を漏らしたのは椎名の育ての親、芽座六月。彼は何やら、銃魔の顔に見覚えがあるようで…………

 

しかし、どうにも思い出せない。これも歳のせいか………六月はにわかに感じ始めた衰えに若干萎える。

 

 

「……ふっ!!お前が僕の対戦相手か……よろしく……!!」

「………あぁ」

 

 

バトル場の中、銃魔、もといベレンヘーナに話しかけてきたのは対戦相手の吸血。だが彼は軽く冷たい声色で返事はしたものの、その差し出された右手は軽くスルーする。

 

【エンペラー】……【吸血堕天】………銃魔の知っていた彼の情報とは大きく異なっていた。彼は勝つことにのみバトルをこだわる筈だ。しかし、今の彼は………なんというか、礼儀正しくなった芽座椎名。と言ったところか………

 

銃魔にとって、別にどうでもよかったことではあるが、最初のイメージとあまりにもかけ離れすぎている。

 

 

「………では、始めよう!!僕達のバトルを!!」

「………あぁ」

 

 

彼らは一定の距離を取り、懐にしまっていたBパッドを取り出し、展開。バトルの準備を進めた。

 

そして始まる。第6回アイランドリーグ。その1回戦第四試合が…………

 

 

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

バトルが始まる。

 

……先行は【エンペラー】こと、吸血堕天だ。

 

 

[ターン01]吸血

 

 

「行くぞっ!!スタートステップ!!ドローステップ!!メインステップ!!僕はネクサスカード、【キャッスルドラン】を配置し、ターンを終えよう」

手札4⇨5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【キャッスルドラン】LV1

 

バースト【無】

 

 

吸血が早速背後に配置したのは巨大な要塞。かと思いきや、そこからまるで亀のように首や手足を伸ばし、羽を羽ばたかせる。その名はキャッスルドラン。キバが住まうとされる城である。その効果も当然キバ寄り、

 

【界放リーグ】にて椎名を苦戦させた1枚である。先行の第1ターン目でこれを配置できたのは相手にとってプレッシャーになることだろう。ただし、それが普通のバトラーならの話ではあるが………

 

 

[ターン02]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ………メインステップ、俺は【魂鬼】と【クリスタニードル】を連続召喚する……!!」

手札4⇨5⇨4⇨3

リザーブ5⇨3

 

 

ターンが周り、銃魔のターン。彼は早速紫の靄から顔のみをのぞかせる鬼、魂鬼と、小型の死竜スピリット、クリスタニードルを召喚。

 

彼のデッキに使われるカードは紫の汎用的なカードが多い。だからと言って強いわけではないが、彼の持つ切り札のためには必須と言っても過言ではないのだ。

 

 

「おおっ!!お前も紫なのか!!」

「………まぁな」

 

 

同じ紫属性の使い手である銃魔を見て、そう力強く言い放った吸血。銃魔は極力関わりたくないのか、彼の暑苦しい物言いを軽くいなし、次の一手を繰り出す。

 

 

「俺はさらに旅団の摩天楼を3枚配置!!……配置時効果で計3枚のカードをドロー!!」

手札3⇨2⇨1⇨0⇨1⇨2⇨3

リザーブ3⇨2⇨1⇨0

トラッシュ0⇨1⇨2⇨3

 

 

銃魔の背後に細長い摩天楼が聳え、連なる。旅団の摩天楼は紫のシンボルを場に残しつつ、カードをドローする、紫にとってはかなり強力な効果である。

 

………そして、銃魔はその引いたカードを見て、確認した………早速引き入れたのだ。具利度王国にて椎名を苦しめた自身のエーススピリット、【ベルゼブモン】のカードを………

 

これで吸血が銃魔の場にいるコスト3以下のスピリットを破壊すれば少ないコストでこれを召喚できる。

 

 

「……アタックステップだ……やれっ!!魂鬼!!クリスタニードル!!」

 

「………ライフで受けようっ!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

銃魔の指示で飛び出して行った魂鬼とクリスタニードル。それぞれが別々の方向から吸血のライフへと激突していき、それを1つずつ破壊した。

 

ただ、何故か具利度王国ではあったはずの多大なバトルダメージは発生していないのか、吸血は全く痛がる素振りすら見せなかった。

 

 

「ふっ!!なるほど、デッキは【紫速攻】と言ったところか……!!」

 

「ターンエンド」

【クリスタニードル】LV1(1)BP1000(疲労)

【魂鬼】LV1(1s)BP1000(疲労)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、銃魔はそのターンをエンドとした。速攻としては十分にライフを削ったと言える。次は吸血のターン………

 

因みに………吸血、彼が初ターンで【キャッスルドラン】を配置すると………次のターンでほぼ確実に勝利を収める………

 

 

[ターン03]吸血

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!………リフレッシュステップ…………さぁ、このターンで終わりだ………!!」

手札4⇨5

リザーブ2⇨3⇨7

トラッシュ4⇨0

 

 

眼前のキャッスルドランの圧が凄まじい。そんな中始まる吸血のターン。

 

彼は去年の【界放リーグ】が終わり、ブロとなり、バトルの楽しさを知った後は………数々の努力と苦労を重ねて行った。

 

今までにあった一族の概念を全て消し去り、新たにスタートさせた人生………その中で自分が確立した戦術………それは誰よりも早い……攻撃……

 

 

「メインステップ!!……僕は【仮面ライダーキバ キバフォーム】と【キバットバット三世】を合体状態で召喚!!効果でカードを1枚ドローし、3枚オープン!!」

手札5⇨3⇨4

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨4

オープンカード↓

【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム】◯

【ダークネスムーンブレイク】×

【ダークネスムーンブレイク】×

 

 

吸血が初めて召喚したのは吸血一族の象徴と呼べるスピリット、キバ。それに加えてブレイヴ、小さなコウモリ型の機械、キバットバット三世。キバットバットはキバフォームの腰にあるベルトに収まった。

 

その召喚時効果も成功、吸血は仮面ライダーキバ エンペラーフォームを新たに手札へと加えた。

 

 

「アタックステップ!!……キバットバット三世でアタックだっ!!」

手札4⇨5

 

 

吸血の名を受け、構えるキバフォーム。それを見るや否や、彼はさらに手札からカードを引き抜いて………

 

 

「フラッシュ!!【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム】の【チェンジ】を発揮!!対象はキバフォーム!!……そして、この瞬間、キャッスルドランのネクサス効果で、自身を疲労させることで、その支払うコストをゼロにするっ!!」

【キャッスルドラン】(回復⇨疲労)

 

「………!!」

 

 

吸血の背後に佇むキャッスルドランが唐突に大きな咆哮を上げた。それはキバを呼ぶための音と言ったところか、キバフォームはその瞬間、紫の靄にその身を包まれた。

 

………そして、

 

 

「エンペラーフォームの【チェンジ】効果っ!!相手の場にいる全てのスピリットのコアを全て2個ずつリザーブへ送るっ!!」

 

「……っ!!」

【クリスタニードル】(1⇨0)消滅

【魂鬼】(1s⇨0)消滅

 

 

その靄から放たれる紫の斬撃のような衝撃波。それは瞬く間に銃魔の場にいるクリスタニードルと魂鬼を引き裂き、消滅させた。

 

 

「………くっ!!」

 

 

それを見て苦い顔を見せる銃魔。

 

当然だ。エーススピリットであるベルゼブモンを召喚するためにはコスト3以下のスピリットの破壊が必要……消滅ではその条件は満たすことはできない。

 

 

「そして、その後回復状態で入れ替わる!!この時!!キバットバット三世の効果でそのままエンペラーフォームに合体!!…………来いっ!!仮面ライダーキバ エンペラーフォーム!!」

【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバット三世】LV2(3)BP12000

 

 

紫の靄が晴れ、そこに新たに現れていたのは、レイピアを武器に、そして黄金の鎧をその身にまとう仮面スピリットの一種、仮面ライダーキバ エンペラーフォーム。

 

キバフォームが自身の枷とも呼べる鎧を解除した真の姿にして吸血のエーススピリットだ。【界放リーグ】でも椎名を限界まで追い詰めた。

 

 

「………これが吸血一族のキバ……エンペラーフォームか………!!」

「あぁ!!そうだっ!!これが僕のデッキの象徴!!エンペラーフォーム!!」

 

 

ただでさえ世にも珍しい仮面スピリット。その中でもキバは吸血一族しか持たない希少種だ。滅多にお目にかかれるものではない。単純なバトラーならばその雅な姿に興奮を覚えることだろう。

 

ただ、この銃魔は例外ではあるが………

 

 

「クリスタニードルの消滅時効果で、貴様のキャッスルドランを破壊する」

 

 

クリスタニードルが消滅した跡地から紫のガスが発生。それは吸血の背後のキャッスルドランを包み込み、それを消滅させた。有名な効果であることもあってか、吸血はただそれを無言のまま見守った。

 

 

「………まだ何かあるんだろう?……俺のフラッシュは無い。思う存分打ちな」

 

 

冷静な口調で銃魔は吸血にそう言い放った。

 

………【まだ何かあるんだろう?】その言葉の意味は単純に推理である。このターンで終わりだと言っておきながら打点の足りないスピリットを用意するのは不自然極まりない。………そうなれば必然的に何かもう一手何か添える必要がある………つまり、吸血にはまだこのフラッシュタイミングで使えるカードを手札に有していることになる。

 

そして吸血は案の定、フラッシュタイミングで手札のカード1枚を引き抜いた。それはエンペラーの上を行く者。バトルを楽しめるようになった吸血が生み出した奇跡のカードであって…………

 

 

「感の良い奴だ!!フラッシュ!!【煌臨】発揮!!対象はエンペラーフォーム!!!」

【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバット三世】(3s⇨2)

トラッシュ4⇨5s

 

「………!!」

 

 

エンペラーフォームが紫の光に包まれていき、その中で姿形を大きく変化させていく。

 

【煌臨】………仮面スピリットのデッキにおいても、デジタルスピリットのデッキにおいても切り札的存在であるスピリットが持つことが多い効果。

 

今までのキバはエンペラーフォームこそが至高にして、切り札。だが、吸血にとってはそれが渾身の切り札であることは間違いの無い事であって………

 

 

「………キバが進化する……!!」

 

 

控え室に1人、その試合を観ていた椎名はそう呟いた。

 

………そう、今から行われるのは、まさしくキバの最強進化系………

 

 

「真なる姿!!真なる翼を翻し、真なる高みを目指すっ!!【仮面ライダーキバ 飛翔態】!!煌臨!!」

【仮面ライダーキバ 飛翔態+キバットバット三世】LV2(2)BP13000

 

 

エンペラーフォームだった光の靄が晴れ、何かが宙へと飛び出す。新たに現れていたのは仮面ライダーキバ 飛翔態。その姿は仮面スピリットとは思えないほどに異形である。腕の代わりに大きな翼が生え、その他の見た目も完全にモンスターと化している。

 

 

「………」

「これがキバの……いや!!僕が進化した姿だっ!!翔けろ!!飛翔態!!」

 

 

吸血の指示を聞き、銃魔のライフめがけて羽ばたく飛翔態。この飛翔態には吸血がこれまでのバトルのほとんどを速攻で倒してきた理由があって………

 

 

「飛翔態の効果っ!!全てのキバスピリットに紫のシンボルを1つ追加するっ!!よって、飛翔態の合計シンボルは…………3!!」

「………!!」

 

 

飛翔態の効果は単純明快。煌臨時のスピリット破壊とシンボルの増加だ。破壊効果はこの場では意味がなかったものの、シンボル追加効果はこの場では大きな意味を成している。

 

今、飛翔態は【チェンジ】の効果で回復状態で入れ替わったエンペラーフォームから【煌臨】した。つまり、今尚もこのスピリットは回復状態なのである………2度のアタックで銃魔のライフを合計6つ破壊できる。

 

これぞ、彼が、【エンペラー】、【吸血堕天】がプロの世界に入って磨き上げたキバデッキによる無敵の速攻戦術。

 

 

「受けてみるがいい!!仮面スピリットのみが行える【チェンジ】!!さらにそこから繰り出される強烈なコンボ!!そしてアタックを!!」

「…………仮面スピリットのみ………か」

 

 

【チェンジ】を繰り返し、そこから数多くのコンボを決める。仮面スピリットデッキの醍醐味とも言える………

 

………ただ、銃魔は引っかかっていた。吸血の仮面スピリットのみが行える【チェンジ】……という言葉に………

 

 

「………そのアタックはライフで受ける!!」

ライフ5⇨2

 

 

飛翔態の口内から放たれる極太の光線。それが銃魔のライフを一気に3つ貫いた。

 

 

「……これで終わりだっ!!再び翔けろ!!飛翔態!!」

 

 

今一度口内に極太の光線を放つ飛翔態。銃魔の残りライフは2つ。当然このアタックをまともに受ければ敗北となる…………

 

………そして、光線の直撃による爆音と爆煙が唸るように出来上がっていく。周りの観客はほぼ吸血の勝ちだと確信していた。

 

………だが、

 

 

「フラッシュマジック……式鬼神オブザデッド!!この効果により魂鬼を召喚し、ブロック………さらに破壊時ソウルコアを置いていたため、カードを1枚ドロー」

手札3⇨2⇨3

リザーブ5⇨4⇨3

トラッシュ3⇨4

【魂鬼】LV1(1s)破壊

 

「………おぉ!!まだ耐えるか!!」

 

 

咄嗟のことだった。銃魔は式鬼神オブザデッドを使用し、トラッシュから魂鬼を召喚。飛翔態のアタックからそれを盾に守っていた。吸血は飛翔態の強烈なアタックから身を守った事に何故か喜びの声を上げた。それは、彼が心の底からバトルを楽しむようになった証拠であると言える。

 

……そして、

 

 

「………やっと破壊してくれたな」

「……!?」

 

 

そう、やっと破壊された。紫のコスト3以下のスピリットが…………

 

ついにあのスピリットがやって来る………

 

 

「俺はこの瞬間!!手札にある【ベルゼブモン】の効果を発揮!!」

「っ!!……デジタルスピリットか!!?」

 

「この効果により、1コスト支払い、LV2で召喚するっ!!孤高の魔王よ!!今こそ百戦錬磨の力をこの世に知らしめよっ!!……ベルゼブモン!!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨3⇨0

【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000

 

 

銃魔の背後から前線へと降り立つ1体のデジタルスピリット………それはまさしく魔王に相応しい風貌と言える。

 

銃魔のエーススピリット、ベルゼブモンが場へと召喚された。

 

 

「………っ!?……なんだこのデジタルスピリットは…!?見たことがない!!……オーバーエヴォリューションで手に入れたカードか何かか?」

「………そうだな……ベルゼブモンの召喚、及びアタック時、相手スピリットのコア2つをリザーブに送る!!」

 

「………ぐっ!?」

【仮面ライダーキバ 飛翔態+キバットバット三世】(2⇨0)消滅

 

 

登場して早々、ベルゼブモンは2丁のショットガンを飛翔態に向けて連射。飛翔態を撃ち抜く。飛翔態は力尽き、敢え無く消滅してしまう。

 

 

「そして消滅成功時にカードを引く」

手札2⇨3

 

「………ほぉ、面白くなって来たじゃないか!!ターンを終えようっ!!」

【キバットバット三世】LV1(2)BP1000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

惜しくも銃魔のライフを全て破壊することはできなかった吸血。だが、ベルゼブモンの存在が気になるとはいえ、かなり追い詰めたとも取れる状況。

 

次は見事に消滅嵐の中、破壊を誘いベルゼブモンの召喚に成功した銃魔。彼はターンが始まる前から考えていた………

 

………このカードは使うべきなのかと……デジタルスピリットの一線を超えたこのカードをこの相手に使うべきなのかと………

 

 

[ターン04]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ……リフレッシュステップ」

手札3⇨4

リザーブ0⇨1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

ゆっくりとターンシークエンスを進めていく銃魔。そして次はメインステップ………

 

 

「メインステップ……」

 

 

そんな中、銃魔は決心を固めた。本当は今ここで司や椎名に見せたくはなかったものの、この男、吸血堕天にはこれを使わなければ勝てない。

 

……そう判断したのだ………

 

仕方ないのだ。【ここではまだ負けられない】

 

 

「ベルゼブモンのLVを3にアップ!!」

リザーブ6⇨2

【ベルゼブモン】(3⇨7)LV2⇨3

 

 

カードにコアが多量に追加され、その力を増幅させるベルゼブモン。BPが強烈に上昇して行く。

 

 

「アタックステップっ!!ベルゼブモンでアタック!!アタック時効果でキバットバットのコアを2つリザーブへ置き、消滅!!………ダブルインパクト!!」

手札4⇨5

 

「…アタック時でも発揮だと!?……くっ!?」

【キバットバット三世】(2⇨0)消滅

 

 

ベルゼブモンにアタックの指示を送る。2丁のショットガンを連射し、今度はキバットバット単体を撃ち抜く。キバットバットは墜落し、その場で静かに消滅する。

 

………そして、この瞬間のフラッシュタイミング………銃魔が使用するあるカードに、会場がどよめく事となる………

 

 

「………俺は…………俺は手札から【チェンジ】を発揮!!対象はベルゼブモン!!」

「……っ!?なに!?【チェンジ】だと!?」

 

 

【チェンジ】……もはや説明するまでもない仮面スピリットの十八番とも呼べる効果。

 

………他のデッキはおろか、仮面スピリットと並ぶ強さを誇るデジタルスピリット達のカードでさえもそれは存在しない………

 

……はずだった。

 

銃魔の使用するこのカードはその今までの常識や側から外れた、歴史に残る1枚と言える…………

 

 

「この効果で、俺はコストの支払いを貴様のリザーブからも支払う事が可能!!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ0⇨1

 

「……っ!?」

リザーブ2⇨0

トラッシュ5s⇨7s

 

 

吸血のBパッド上にあるリザーブのコアが移動する。これで吸血のこのターンで使用できる合計コア数がゼロに陥った。これでは思うようにカードを使用することはできないだろう。

 

 

「………【チェンジ】の効果っ!!対象となったベルゼブモンと回復状態で入れ替えるっ!!」

「………!!」

 

 

……今ここで、ベルゼブモンが………孤高の魔王が………進化を超える………

 

 

「ベルゼブモン……モードチェンジ!!………ブラストモード!!!」

【ベルゼブモン ブラストモード】LV3(7)BP20000

 

 

ベルゼブモンの背中に漆黒の4枚の翼が新たに生える。そして天よりの贈り物なのか、天空より巨大な機関銃が降り注ぎ、ベルゼブモンは右手を差し上げるかのように上に挙げ、それと合体。その機関銃は差し出されたベルゼブモンの右手と一体化した。

 

………その姿はまさしく究極体を超えた究極体………

 

 

「……なんなん!?あいつ!!デジタルスピリットで【チェンジ】て!!」

「………なんか凄く禍々しいね……」

「…………」

 

 

椎名や司、及び他の大会参加者。観客席にいた観客はもちろんのこと、真夏や雅治、夜宵もその驚異のチェンジに驚かされていた。そんな中、芽座六月はただ1人口元を一切開くことはなく、黙然としていた。

 

知っているからだ………自分も知っている。ベルゼブモンとは違うが【チェンジ】を持つデジタルスピリットを………

 

その【チェンジ】を持つデジタルスピリットはこの物語が進むにつれ、明らかとなっていくことだらう………

 

 

「おおっ!!デジタルスピリットで【チェンジ】!!………これまでの固定概念が覆される………なんて素晴らしいカードだっ!!」

「ふっ!!………使う予定などなかったんだがな……貴様にはこれを使わなければ勝てん……そう俺が判断した……」

「成る程、だから使ったと……はっはっは!!それは光栄だな!!」

 

 

強力なスピリットを目の前にしても全く怯みもしない吸血。彼は椎名同様、この瞬間を……強敵と対面できるこの瞬間を心から楽しんでいる。

 

 

「この俺にこのカードを抜かせたことを後悔するがいい!!ベルゼブモン ブラストモードのアタック時効果!!紫のシンボルを1つ追加!!」

「………!!」

 

 

ベルゼブモン ブラストモードのアタック時効果が起動される。これにより、ブラストモードは一度のアタックで2度のライフを破壊できる。

 

それだけではない。【チェンジ】の効果で場に呼び出されているため、今尚も回復状態であることから、その2度のアタックによって、合計4つのライフを破壊可能だ。

 

この時まで、吸血はずっと勘違いをしていた。銃魔のデッキのことを………彼のデッキは紫速攻などではない。……言うなれば紫カウンターとでも言うべきか。相手が強ければ強い攻撃をする程にさらに強い攻撃を返してくる………そんなデッキだと吸血は改めて考察し、悟った。

 

……そして、予想通り、キバのアタックなどよりもさらに強力な攻撃が一瞬にしてこのバトルの勝負を決める。

 

 

「お前のライフは3つ!!………終わりだっ!!………デススリンガー!!!」

 

「………はっはっは!!やはり世界は広いなっ!!……だからバトルは楽しい!!そうだろう?芽座椎名っ!!……ライフで受けるっ!!」

ライフ3⇨1⇨0

 

 

ブラストモードの右手と一体化した機関銃から放たれる強力な電子砲。バチバチと鈍い音を音を立てながら向かう先は当然吸血のライフ。

 

そして衝突し、一気に3つのライフを砕き、破壊した。

 

これにより、このバトルの勝者は銃魔となる。最初こそベレンヘーナというベテランプロの代役という形で登場していた銃魔だったが、ベルゼブモンとその【チェンジ】の存在が大きかったか、いざバトルが終わった仕舞えば怒号は大きな歓声に様変わりしていた。

 

 

「いいバトルだった!!またやろう!!」

「………」

 

 

銃魔に向けて握手を求めに行く吸血。その足をゆっくりと歩めて行く。

 

 

「芽座椎名とバトルできなかったのは少々心残りだが、致し方ない。僕は次なる高みに臨むとしよう!!………そういえば名前を聞いてなかったな、ベレンヘーナではないのだろう?……なんと言うのだ?」

 

 

そう言い、銃魔の前まで近づき、手を差し伸べる吸血。しかし銃魔は目も合わせずにその手を逆側の手でゆっくりと弾くと、背を向けてバトル場から去ろうとする………

 

だが………

 

 

「………銃魔だ……覚えたければ勝手に覚えているがいい」

 

 

瞳を閉じ、指の先で眼鏡を元の定位置に戻しながら………

 

銃魔は吸血に自分の本当の名を告げた………

 

 

「あぁ!!銃魔!!またどこかでバトルしよう!!」

 

 

吸血はそう、最後まで堂々と銃魔に言い放った。本当に吸血は変わった。彼ならさらなる高みへと上り詰める事だろう。

 

これにて、第6回アイランドリーグ。その1回戦の全ての試合が終了した。銃魔は1回戦第四試合の勝者。つまり、1回戦第三試合の勝者である司とバトルすることとなる。

 

【朱雀】こと、赤羽司は控え室で静かに銃魔に対する敵対心を燃やしていた。

 

 

******

 

 

ここはスピリットアイランド………

 

そこにある1つの家、1つの部屋。1つのテレビを観ている1人の少年がいた。10歳にも満たない程にその身体は小さい。

 

少年は今日行われている【アイランドリーグ】の試合を観ている。

 

その少年の名は【功 流異】………椎名とスピリットアイランドで共に遊んだ、バトスピが大好きな少年だ。ごく普通の………

 

 

「す、すごい!!デジタルスピリットで【チェンジ】の効果を持っているなんて!!僕初めて見た!!」

 

 

銃魔と吸血の対戦を観ていたのか、ブラストモードの存在に興奮が収まりきれない流異。この存在は彼にとってとても良い刺激を与えていた。

 

………不治の病に侵されている少年。他の人の前でも、自分に対しても気丈に振る舞ってはいるが、心のどこかでは寂しさや孤独さを感じている………本当は会場に行って直に観たいが、それのせいで叶わない………

 

………そんな時だ………

 

………足音もなく……

 

………突如として……

 

 

「………やぁ!!」

「っ!?!?!?!……わ、わぁぁ!!?!」

「あっはは!!ごめんごめん!!驚かせてしまったかね?」

「ど、泥棒!?……それとも怪盗!?」

 

 

唐突に現れた覆面の老人に思わず腰を抜かしてしまう流異。気が動転して口が早周りになる。だが、その人物は泥棒、ましてや怪盗でもなく……

 

 

「い〜〜〜や!!違うよ坊や〜〜私は君の病気を治しに来た……科学者………いや、神と言ったところかな?」

 

 

目の前に現れていたのは【Dr.A】………

 

また意味深な発言を残す。言葉の意味のわからなさや、その見た目の異形さに、流異は若干引く。

 

 

「………君のお父さんからの頼みだからね〜〜〜」

 

 

流異の父親はこのスピリットアイランドの最高責任者であり、科学者。【功 宗二】………彼とこのDr.A………

 

………やはり、ここでも何か1つ、大きな事件が幕を開けようとしていた………

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは、【ベルゼブモン ブラストモード】!!」

椎名「ベルゼブモン ブラストモードは、なななんと!!デジタルスピリットでありながら仮面スピリットみたいな【チェンジ】の効果を持っているよっ!!私も欲しいぃ!!」


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〈次回予告!!〉

第6回アイランドリーグ1回戦が全て終了し、2回戦に突入。1回戦第三試合を勝ち上がった司と1回戦第四試合を勝ち上がった銃魔は2回戦でバトルすることになる。当然銃魔の目的を聞き出そうとする司。だが、その時、銃魔はある提案を司に持ちかけるのだった………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「孤高の魔王と金色の鳳凰」……今、バトスピが進化を超える!!


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記念すべき第70話でした。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

今回のバトルは4ターンしかやってませんが、かなり濃ゆい内容になれたかな〜〜と個人的に思ってます。


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