とある日の平日。椎名はいつものように真夏とおしゃべりをして楽しんでいた。だが、今日の真夏は少し様子がおかしくて、
「なぁ!椎名!今度の休日、暇やったら輝夫様のライブ観に行かへん?」
「てる、らい、………なに?」
訳のわからないワードに頭を抱える椎名。それを見越したように真夏が説明を入れていく。
「輝夫様って言ったら【模手最 輝夫(もても てるお)】様に決まってるやないかぁ!………あのミカファール校卒のアイドルバトラー、歌って踊れて、バトルも超一流の最近話題の時の人や!」
「へ、へー、アイドルバトラー………ね」
「チケット買ったから一緒に行こうや!」
アイドルバトラーとは、真夏の言う通り、歌って踊れて、バトルも超一流のカードバトラーのこと。模手最輝夫はついこの間ブレイクしたてだが、その中でもトップに君臨する存在だった。
ちなみに、彼の母校であるミカファール校とは、界放市にある6つのバトスピ学園の1つで、プロのバトラーは当然のこと、アイドルバトラーまで目指せる珍しい学園だった。
椎名は田舎出身ということもあって、なかなか異性に対する考え方が歳相応にできていない。そもそもライブがなにをするのかもわからないのだ。
だが、親友が折角自分のためにチケットと言うものを買って着てくれたのだ。椎名としてもいかないという手はなかった。
******
そして時は経ち、一番近い休日。椎名と真夏は界放市にある大きなスタジアムの観客席に腰掛け、その模手最輝夫の登場を待っていた。余程人気があるのか、観客席はほぼ満員だった。
「お、おお、……広い…!」
「せやろせやろ!ここで輝夫様が歌うんよ〜!」
ここまで広い建物に入ったのは初めてだった椎名は妙に興奮が収まらなかった。こんな広い場所でたった一人で歌うのも結構きついだろうとも考えていたが、
(………なんだろうこの臭い、ちょっと嫌かも)
椎名はこの広いスタジアムに入ってから妙な臭いを嗅ぎ付けていた。それは少し鼻を刺すような嫌な臭いだった。真夏はこの臭いを嗅いでも平気なのだろうか。いつもなら「なんなん?この臭い!?臭いわぁ!」とか言いそうなのに。
「てか、なんや、あれ!?」
「ん?……わ!すごい!……悪の組織?」
「な訳あるか!」
2人が見つけたのは、会場中に充満している臭いを嗅ぎたくないからか、ガスマスクを着用している女性。地味な茶色いコートも着ている。雰囲気や佇まいで椎名や真夏よりかはずっと歳上の女性である事が示唆される。椎名が悪の組織と例えるのも無理ないだろう。
ただ、やはりそのガスマスクのせいで悪目立ちしているのは確かな事であって、
「世の中いろんな人がいるんやな」
「不思議だね」
少々気になるが、あまり話しかけれるような雰囲気をなるわけもなく、2人はその怪しげな女性を見なかった事にするように目を背けた。
ーそんな時、嵐が巻き起こる。それはこのスタジアムを訪れたほとんどの観客たちが待ち望んでいる事であって、
「え!?なに?……真っ暗!」
「……くるでぇ!」
突如ほとんどの照明が消え、ステージの一点だけとなる。そして、そこに照らし出されていたのは、絶世の美男子、模手最輝夫だった。
「はーーあぁい!レディ達!待っててくれてセンキュー!」
ただその一言だけで騒音に近い黄色い声がスタジアムを駆け巡る。真夏も同様にその声を送るが、椎名だけはうるさ過ぎて思わず耳を手で覆いかぶせていた。
模手最輝夫は確かに誰が見ても美男子と言える容姿だった。ファンが多い訳だろう。
「あれが、アイドルバトラー?」
「せやせや!かっこええやろ?」
「ははっ、そだね」
苦笑いする椎名。何故だか、今日は、いや、この間から真夏の様子がおかしい気もしていた。この模手最輝夫と言う男にハマってからか、このスタジアムの異臭からかは定かではないが、いつもの真夏ではない。椎名はそんな気がしていたのだ。
模手最輝夫はその後も、アイドルらしくファンサービスを続け、歌って踊った。正直歌はあんまりうまいとは言えないが。アイドルバトラーで、イケメンだったらなんでもセーフなのだろう。
(ん?あの娘、……あれが効いていないのか?)
模手最輝夫は歌って踊りながら、スタジアムの観客席で自分に興味なさそうな目をしている椎名を目撃してしまう。他の女性はほとんど目をハートのようにしてこちらを見ていると言うのに。
椎名自身も最初こそ広いスタジアムで、妙に興奮していたものの、正直そこまでアイドルというものに興味がなかったため、内心早く帰りたかった。
そして、歌や、ダンスを全部やりきった模手最は、マイクを手に持ち、本日のスペシャルなイベントのことを語らい出す。本当はそんなものはないのだが、
「よし!レディ達!今日のメインイベントだ!…………今からこのスタジアムで選ばれたレディが、この俺とバトルすることができるぜぇ!!」
模手最がマイクを使って、テンションを上げらがらそう言うと、観客席の方達も、また熱が入ったように盛り上がりを見せる。あのアイドルバトラーの模手最輝夫とバトルスピリッツができるのだ。ファンは涎ものだろう。
椎名もバトルができると聞いて少し反応するが、この人数だ。まさか選ばれるとは思えなかった。だが、奇跡は起こる。
「俺とバトルするのは…………君だ!」
模手最が何処かへ指を刺すと同時に、天空から差し込んでくる一筋の光は瞬く間に椎名を照らし出した。椎名は最初何が起こったのか全くわからなかった。ただ、急に眩しくなって、周りの視線が一気に集まったのを感じた。
「ん?なにこれ」
「あんた選ばれたんよ!凄いやん!羨ましいわ〜!」
「ええ!?なに、バトルできるの?」
そう言うと椎名は広いスタジアムを素早く降りて、模手最と同じステージに立った。まさかこの人数で選ばれるとは思ってもいなかったが、実はこれはランダムではなく、模手最が選んだことであり、
「さぁ!レディ!いや、キュートガール!俺とバトルだ!」
「きゅっ?…なに?………まぁいいや、芽座椎名って言います!歌と踊りは苦手だけど、バトルは得意だよ!」
(ふふ、これで君も僕の虜になるのさ)
周りには爽やかな笑顔を見せつつ、心の中で本性を現す模手最。
模手最は学生の頃から、地球上の全ての女性をものにすると言う目標があった。椎名が観客席で全く興味がなさそうな顔をしていたため、無理にでも自分に目を向けさせたかったのだ。つまりは自分のバトルの腕を見せつけ椎名を惚れさせようと言う魂胆だ。
椎名はそんなことはつゆ知らず、Bパッドを展開し、バトルの準備を進めていた。椎名にとってはつまらないイベントから急に楽しいイベントに早変わりしたのだ。しかも相手はバトスピ学園の卒業者。真夏も超一流と言っていたし、強者だろうと容易に推測ができた。より楽しみになる。「キュートガール」とまた妙な渾名を付けられたのは少々気になったが、
「よし!行くぜ!キュートガール!」
「はい!よろしくお願いします!」
「「ゲートオープン界放!!」」
ステージでのバトルは華やかだ。界放の宣言をすると、まるで花火がその場で散るようにフィールドを形成していく。流石はアイドルバトラーと言ったところか、何をやらせるにしても派手だ。
ーバトルの先行は椎名だ。
[ターン01]椎名
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ!ブイモンを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨3
椎名の第一手、彼女の足元から額にブイの字が刻まれている青き竜、ブイモンが元気に盤面へと飛び出してくる。
「召喚時効果発揮!……カードをオープン!」
オープンカード
【ライドラモン】○
【風盾の守護者トビマル】×
効果は成功。アーマー体のライドラモンのカードが椎名の手札に加わった。
「よし!ライドラモンを手札に加えて、ターンエンド!」
手札4⇨5
ブイモンLV1(1)BP2000(回復)
バースト無
先行の第1ターンなどやれる事は限られる。椎名はターンを終えた。
[ターン02]模手最
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ!俺はミノタコルスをLV1で召喚するよ!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨1
トラッシュ0⇨3
模手最が初めて場に呼び出したのは、牛頭で槍を携えた青のスピリット、ミノタコルス。低コストのスピリットだが、たったこれだけの行いで、黄色い声援が送られる。これもトップアイドルバトラー故か。
「アタックステップ、ミノタコルスでアタック!」
「ライフで受ける!…………痛っ!!」
ライフ5⇨4
早速ミノタコルスに指示を送り、アタックさせる模手最。BPが低いブイモンをブロックさせるわけもなく、椎名は自分のライフを差し出す。ミノタコルスはその槍で椎名のライフを一突きで1つ貫いてみせた。
椎名はいつもよりバトルでの痛みを強く感じる。
「いった〜〜〜、なんだ!?」
「それは愛の痛み!……君が俺に心を奪われている証拠さ!」
「愛?」
手持ち無沙汰な右手をスナップさせながら、キザな言い回しをする模手最。椎名にはまるで意味が伝わらずその顔をキョトンとさせていた。
「ターンエンド……さぁ!キュートガールのターンだ!」
ミノタコルスLV1(1)BP3000(疲労)
バースト無
別に気にするほどの痛みでもないため、椎名はそのままバトルを続行する。
[ターン03]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨5
トラッシュ3⇨0
「よし!メインステップ!ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払って、青き稲妻!ライドラモンを召喚!」
リザーブ5⇨4
トラッシュ0⇨1
ブイモンの頭上に投下されるのは、黒くて独特な形をした卵。それはブイモンと衝突し、混ざり合い、進化する。青き稲妻を迸らせるアーマー体スピリット、ライドラモンが召喚された。
「召喚時にコアを2つトラッシュへ!」
トラッシュ1⇨3
ライドラモンが放つ雷が、椎名のトラッシュへと落ち、ボイドからの恵みを与えた。
「そして、ブイモンを再び召喚!」
手札6⇨5
リザーブ4⇨1
トラッシュ3⇨5
椎名の場に、【アーマー進化】の効果で手札に戻っていったブイモンが再び姿を見せた。
「ブイモンの召喚時!…カードオープン!」
オープンカード
【風盾の守護者トビマル】×
【フレイドラモン】○
効果の発揮は成功。椎名はフレイドラモンのカードを手札に加える。
「よし!アタックステップだ!ブイモンと、ライドラモンでアタック!」
手札5⇨6
「どっちもライフで受けるよ!」
ライフ5⇨4⇨3
ブイモンと、ライドラモンによる高速の体当たりが、模手最のライフを1つずつ破壊した。ライフを割った瞬間にとても濃度の高い黄色い声援が、椎名に対するブーイングへと様変わりする。完全に椎名はアウェイだった。
「ターンエンド!」
ブイモンLV1(1)BP2000(疲労)
ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)
バースト無
だが、椎名は特にアウェイになっているのを気にしたりはしない。いや、目の前のバトルに夢中になりすぎて、それを感じていないだけか、
[ターン04]模手最
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨7
トラッシュ3⇨0
ミノタコルス(疲労⇨回復)
「メインステップ!……バーストを伏せて、ミノタコルスをLV2へアップ!」
手札5⇨4
リザーブ7⇨5
ミノタコルスLV1⇨2
模手最の場にバーストが伏せられると同時に、ミノタコルスの力が上昇する。
「アタックステップ!いけ!ミノタコルス!」
再びミノタコルスでアタックさせる模手最。この行為は一見無駄に見える。何故なら椎名の手札には今、フレイドラモンのカードがあるからだ。
「フラッシュタイミング!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払って、炎燃ゆるスピリット、フレイドラモンを召喚!」
リザーブ1⇨0
トラッシュ5⇨6
ブイモンに炎の文様が刻まれた卵が頭上に投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化する。熱き炎の竜人スピリット、フレイドラモンが召喚された。これで椎名のデッキの2大エースが揃う。
「フレイドラモンの召喚時!相手のBP7000以下の相手のスピリット1体を破壊!ミノタコルスだ!……爆炎の拳!ナックルファイア!」
「……!!……ミノタコルス!」
フレイドラモンの炎の鉄拳が、BP5000のミノタコルスを襲う。ミノタコルスはなすすべなくそのまま破壊されてしまう。
「そして、カードを1枚ドロー!」
手札6⇨7
「………なかなかやるね、キュートガール、俺はこれでターンエンドさ!」
バースト有
盤面のカードをバースト以外空にされてしまう模手最。だが、これは作戦のうち、フレイドラモンが見えた時点でそうする予定だった。他のスピリットをまともに召喚してしまえば、間違いなくフレイドラモンの餌食になるため、あえて召喚はせずに、ミノタコルスを犠牲にしたのだ。
[ターン05]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札7⇨8
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨7
トラッシュ6⇨0
ライドラモン(疲労⇨回復)
「メインステップ!ガンナー・ハスキーを3体と、猪人ボアボア!ブイモンを召喚!」
手札8⇨3
リザーブ7⇨0
トラッシュ0⇨3
椎名はトドメを刺すべく、手札に溜めていたスピリット達を一気に展開。見た目は犬だが、拳銃を持つために青い腕を背中に生やしたスピリット、ガンナー・ハスキーが3体と、鎖付き鉄球を振り回す猪頭のスピリット、ボアボア。そして、ブイモンが召喚された。
「さらに、バーストをセット!」
手札3⇨2
最後に椎名はバーストを念入りに伏せて、アタックステップへと移行していく。
「アタックステップ!……これで決まりだ!ボアボアでアタック!効果でLVを上げつつ、コアブースト!」
猪人ボアボアLV1⇨2(1⇨2)
猪人ボアボアが手持ちの鎖付き鉄球を振り回す。ボアボアだけでない、他の7体のスピリット達も今にも模手最を攻撃しようと戦闘態勢に入っていた。
だが、やはり学園の卒業生か、一筋縄ではいかない。模手最はこのタイミングであるカードを手札から引き抜く。
「フラッシュタイミング!マジック!スプラッシュザッパーを使用!この効果でコスト7以下のスピリット3体を破壊!……俺が選ぶのはブイモン、ライドラモン、フレイドラモンの3体だ!」
手札4⇨3
リザーブ8⇨2
トラッシュ0⇨6
「なにぃ!?」
鋭い水の斬撃が指定された3体を襲う。ブイモン、ライドラモン、フレイドラモンは耐えきれずに爆発してしまう。
スプラッシュザッパーは、大きなコストのマジックだが、決まれば最大で3体のスピリットを破壊できる強力なマジックだ。椎名のデッキはコスト7以上のスピリットが存在しないため、このカードの影響はどうしてももろに受けてしまう。
「くっ!…だけど、ボアボアのアタックは継続だよ!いけ!ボアボア!」
「ライフで受けよう!」
ライフ3⇨2
ボアボアの鉄球が模手最のライフを砕く。だが、これも模手最の計算通り、伏せられているバーストが勢いよく開かれていく。
「ライフの減少でバースト発動!雷神轟招来!4以下の数字を指定し、指定された相手のコストのスピリットを全て破壊する!……俺は2を指定!」
「2!?てことは……ガンナー・ハスキー達か!?」
ガンナー・ハスキー達に、落雷が落とされる。指定されたコストの対象内の彼らは当然耐えられずに破壊されてしまった。
この2大マジックで、椎名の場に残ったのは猪人ボアボアだけとなってしまう。椎名は攻め手どころか守り手すら失ってしまった。
「くっそ〜、このターンで決めれると思ったのに、…ターンエンド」
猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)
バースト有
[ターン06]模手最
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨10
トラッシュ6⇨0
「さぁ!このターンがショウタイムだ!」
「……!!」
さっきまでとは何か違う雰囲気を漂わせる模手最。椎名はより一層警戒心を強くする。ファンの人達はまるでこの時を待っていたかのように拍手や、光る棒みたいな物や、団扇を振っていた。
「先ずは下準備!チャコペッカと獣士オセロットを召喚!」
手札4⇨2
リザーブ10⇨8
先ず模手最が召喚したのは猪のようなスピリット、チャコペッカと、巨大な斧を振りかざす虎のようなスピリット、獣士オセロット。
「さらに、マジック!湧力招海をソウルコアを使って使用する!手札を2枚ドローし、1枚捨て、【連鎖】の効果を持つスピリット、猪人ボアボアを破壊する!」
手札2⇨1⇨3⇨2
リザーブ8s⇨7
トラッシュ0⇨1s
「…!!……ボアボアまで、」
模手最は手札を入れ替えると同時に、ボアボアまで破壊してくる。ボアボアは地面から現れる謎の青き力によって沈められてしまう。これで椎名の場にはバーストのみとなった。
しかも、ここで模手最に狙い通りのカードを引かれた。
「ハッハッハ!やはり来てくれたね!……次に俺はアルティメットカード、アルティメット・エルギニアスをLV3召喚!」
手札2⇨1
リザーブ7⇨5
トラッシュ1s⇨2s
模手最は勢いよくBパッドにカードを叩きつける。そして金色の鱗粉を振り払い、青の牛型のアルティメット。アルティメット・エルギニアスが召喚される。
「……!!…アルティメット!……すごい!」
アルティメットとは、スピリットとはまた違う別次元の存在。それらは完全にスピリットを超越しており、LVも3からスタートし、スピリットのみを対象とした効果は一切受け付けない。ただし、召喚条件などのデメリットも多数存在する。
「そう、アルティメットだ。だけど、これだけじゃない!エルギニアスなど、ただのバックダンサーさ!……さらに召喚する!来い!流星の如く!アルティメット・ドライアンをLV4で召喚!獣士オセロットの【スピリットソウル:青】により、最大軽減して、支払うコストは3!」
手札1⇨0
リザーブ5⇨0
トラッシュ2s⇨4s
【スピリットソウル】はアルティメットの召喚を手助けするスピリットの効果。アルティメットを召喚する際に指定された色のシンボルを1つ増やす効果を持っている。
流星の如く降り注いでくるのは金色の鱗粉を纏った青き竜。その勇ましい4本足で着地し、その鱗粉を咆哮と共に弾け飛ばす。
アルティメット・ドライアンはアルティメットの中でもかなり強力な部類のカードだ。このアルティメットの登場で、観客のファン達はより一層盛り上がる。そして、椎名もまた、
「すごい!かっこいい!!」
「だろ?俺の美貌……は」
「アルティメット・ドライアン!」
(そっちか………何故だ、何故、この娘は俺の美貌の虜にならない!?…薬は効いてないのか!?)
模手最は悔しさを表すかのように歯をを噛み締めながらアタックステップへと移行する。
「アタックステップだ!いけ!アルティメット・ドライアン!アタック時の【WU(ダブルアルティメット)トリガー】ロックオン!」
アルティメット・ドライアンが走り出すと同時に、模手最は、自分の手を指鉄砲のように曲げ、それを椎名のデッキに向ける。すると、椎名のデッキから2枚のカードが弾け飛んだ。
「……アルティメットトリガーの効果か!」
アルティメットトリガーとは、アルティメットだけが持つ特有の効果。相手のデッキをトラッシュに送り、そのコストが発揮したアルティメットより下の場合はヒットし、その強力な効果を使用できるのだ。アルティメット・ドライアンはその中でも特に特別なダブルアルティメットトリガー。つまり2枚のカードをめくれる効果を持っていた。
「さぁ!コストはなんだい?」
「コスト4の鎧殼竜グラウン・ギラスと、コスト3の風盾の守護者トビマル」
「ダブルヒット!……効果により、アルティメット・ドライアンはLVが2つ上がり、6になる。さらに、ダブルヒットならば、アルティメット・ドライアンは回復する!」
アルティメット・ドライアンLV4⇨6(疲労⇨回復)
「え!?…回復!?」
アルティメット・ドライアンは最大LVの6になると同時に、疲労状態から回復状態となる。アルティメット・ドライアンのBPはこれで28000。椎名のデッキのスピリット達では到底追いつけないものとなってしまう。
(あれ、あいつのコスト7だよね?……これってやばいかも)
椎名は気づいてしまう。アルティメット・ドライアンと、自分のデッキの相性の悪さを。それは言ってしまあば、アルティメット・ドライアンは椎名が相手だと、ずっとアタックができてしまうのだ。
何故なら椎名のデッキにはコストが7以上のカードはないからだ。アルティメットトリガーはガードするためにはコストがそれより同じ以上でなければならない。
だけれども、まだ椎名にも対策はある。
「アタックはライフで受ける!……うわぁ!」
ライフ4⇨3
アルティメット・ドライアンの高速の爪撃が、椎名のライフを砕いた。椎名はまたいつも以上の痛みを感じる。そもそもこれは立体映像だ。普通は痛みなどはない。あまりのリアルさに、脳が錯覚して思わず叫びたくなる時はあるが、普通の痛みなどは来ないはずだ。
だが、椎名は全くそんなことは気にしていない。それは彼女が無頼のバトスピ馬鹿であるからと言う以外の理由はありえない。椎名はそれすらも錯覚だと認識していた。
ー条件が整ったバーストが勢いよく開かれる。
「ライフの減少により、バースト発動!No.26キャピタルキャピタル!効果によりこれを配置!」
「………!!」
椎名の場に、空中に浮かぶ都市が出現する。それは模手最のフィールド全体に影響を及ぼすものであって、
「キャピタルキャピタルがあるとき、相手はソウルコアが置かれていないスピリット、又はアルティメットでアタックする時は、リザーブのコアを1つ支払わないといけない!」
「ぐっ!………今の俺のリザーブはゼロ。ソウルコアはトラッシュにある」
模手最のソウルコアはさっきのメインステップ時に使用した青のマジック、湧力招海のコストに使われたため、このターンは使えない。
つまり、模手最はこのターン、これ以上のアタックはできなくなってしまった。決めるターンに決めることができなかった悔しさを感じながら彼はそのターンを終了させた。
「……ターンエンド」
チャコペッカLV1(1)BP1000(回復)
獣士オセロットLV1(1)BP1000(回復)
アルティメット・エルギニアスLV3(1)BP5000(回復)
アルティメット・ドライアンLV4(2)BP17000(回復)
バースト無
奇跡的に凌ぐ椎名。だが、次でなんとかしなければ、負けるのは必至だ。たった1枚のキャピタルキャピタルなど、一回きりの噛ませに過ぎない。
「ふぅっーー!!……助かったよ!王女さん!」
椎名はキャピタルキャピタルの元々の主に感謝する。割とノーガードになりがちな自分のデッキとは意外と相性が良かった。
[ターン07]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ10⇨11
《ドローステップ》手札2⇨3
《リフレッシュステップ》
リザーブ11⇨14
トラッシュ3⇨0
「メインステップ!いいの引いたよ!先ずは、キャピタルキャピタルにソウルコアを置いて、よし!……頼むよ!ワームモンをLV3で召喚!」
手札3⇨2
リザーブ14s⇨6
No.キャピタルキャピタル(0⇨1s)
トラッシュ0⇨2
キャピタルキャピタルにソウルコアが置かれる。これで効果が倍増するようになる。そして、椎名が呼び出したのは新たなるスピリット、芋虫のような外見だが、とても可愛らしい、緑の成長期スピリット、ワームモン。
だが、その姿を目にした途端、模手最は背筋が凍りつくように震え上がる。とても体が痒くなってくる。彼は虫が大の苦手なのだ。
「な!?……虫!?……キモっ!!」
「キモいとか言うな!ワームモンをなめたら痛い目にあうよ!」
「そんなのにこの俺様がやられるわけないだろ!!」
模手最は椎名が思ったよりも強かった事や、苦手な虫の登場により、いつものペースを崩されつつあった。口調も心の中に潜むものへと変わってきている。
椎名はここで、ワームモンの召喚時の効果を使用する。これは運命の分かれ道。これでいいものが引けるかに全てが決まる。
「ワームモンの召喚時効果!デッキから2枚のカードをオープンし、その中の「完全体」、「究極体」を手札に加える!……お願い私のデッキ!!」
オープンカード
【ニードルライド】×
【チェイスライド】×
勢いよく捲るが、これらはスピリットですらない。当然トラッシュへと破棄される。だが、この2枚はこの状況では最強にして最高のカード達であって、
「ハッハッハ!残念だったな!次で俺の勝ちだ!」
「いや、これでいい。そもそも私のデッキに完全体も究極体も入ってはいない」
「なに!?」
それならば単純にデッキを削っただけだ。もっと言えば、ワームモンなんていうカード自体、入れる価値がないようにも思える。だが、それはこのターンのエンドステップにわかることであって、
椎名はさらにターンシークエンスを進めてアタックステップへと移行する。この時にワームモンの第2の効果が発揮される。
「アタックステップ!その開始時にワームモンの【進化:緑】を発揮!ワームモンは幼虫から蛹となり、成虫へと進化を果たす!成熟期のスピリット、スティングモンを召喚!LVは3だ!」
ワームモンにデジタルのベルトが巻かれていき、姿形を変えていく。そして、新たに現れたのは、スマートな人のような姿をした昆虫型スピリット、成熟期のスティングモンが召喚された。
「い、芋虫が、成虫に!?」
「スティングモンの召喚時、及びアタック時の効果で、ボイドからコアを1つスティングモンの上に置く!」
スティングモン(5⇨6)
スティングモンにコアの恵みが送られる。だが、いくら頑張ったところで、スティングモンのBPは10000。模手最のアルティメット・ドライアンには勝てない。椎名はアタックステップをそのまま終了させてエンドステップへと移行する。
「エンドステップ!トラッシュに送られた、ニードルライドと、チェイスライドの効果を発揮!この2枚はエンドステップ時にトラッシュから私の手札へと舞い戻ってくる!」
手札2⇨4
「なに!?……そういうことだったのかっ!」
椎名の手札にトラッシュから新たに2枚のカードが追加される。椎名の狙いはこの効果を使うことであった。それでも2枚中2枚を当てるのは流石と言ったとこか。
「これで正真正銘!ターンエンドだよ!」
スティングモンLV3(6)BP10000(回復)
No.26キャピタルキャピタルLV1(1s)
バースト無
「くっ!だが、所詮はBP10000の雑魚だ!アルティメット・ドライアンで討ち取ってやる!」
[ターン08]模手最
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札0⇨1
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨6
トラッシュ5⇨0
「メインステップ!アルティメット・ドライアンにソウルコアを追加し、アルティメット・エルギニアスをLV4にアップさせる!」
リザーブ6s⇨3
アルティメット・ドライアン(2⇨3s)
アルティメット・エルギニアス(1⇨3)LV3⇨4
アルティメット・ドライアンにソウルコアが置かれる。これでこのアルティメットだけは椎名のキャピタルキャピタルの効果を受け付けなくなる。
「アタックステップ!アルティメット・ドライアンでアタック!【WUトリガー】ロックオン!」
「………コストは3と、4……ブイモンと、エクスブイモンのカードだ」
「なら、ダブルヒット!ドライアンは回復しつつ、LVを6、BP28000へとアップさせる!」
アルティメット・ドライアンLV4⇨6(疲労⇨回復)
どうやってもヒットは防げない。椎名のデッキではアルティメット・ドライアンは必ず回復してしまう。だが、ここで椎名が呼び起こした奇跡のカードが光輝く。
「フラッシュタイミング!マジック!ニードルライド!系統に殼人を持つスピリット1体をBP+3000、それをスティングモンに与える!さらに、アルティメットとバトルするならBP+7000を追加で加える!…………そして、スティングモンでブロック!」
手札4⇨3
リザーブ6⇨4
トラッシュ2⇨4
スティングモンBP10000⇨13000⇨20000
緑のマジック、ニードルライドは、椎名のデッキにとっては殼人を持つスティングモン専用のマジック。アルティメットとバトルするならBPを合計10000上昇させる効果を発揮する。だが、
「足りないな!BP28000だと聞こえなかったのか!!!やれ!ドライアン!」
流星の如くの高速移動で、スティングモンを捉え、一気に爪や牙の一撃でそれを破壊しようとするアルティメット・ドライアン。そして、それは一瞬のうちに通り過ぎるかのようにスティングモンを砕き、破壊。…………したかに思われた。
「な、なに!?」
なんと、砕けていたのはスティングモンではなく、ドライアンの爪や牙。スティングモンはかすり傷1つとしてついてはいなかった。アルティメット・ドライアンは地面へと落ちていく自分の牙を目で追いつつ、とても驚いていた。
「なぜだ!BPはこっちの方が8000も上なんだぞ!」
訴えるように怒鳴る模手最。だが、スティングモンはちゃんと正当な理由でアルティメット・ドライアンを超えていた。
「私はもう一枚のニードルライドを発揮してたんだ、これで、スティングモンのBPはさらに10000上昇して、」
手札3⇨2
リザーブ4⇨2
トラッシュ4⇨6
スティングモンBP20000⇨23000⇨30000
「び、BP、……30000だとぉ!?」
椎名は咄嗟に、元々持っていたもう一枚のニードルライドを使ったのだ。これでスティングモンはBP30000となり、逆にアルティメット・ドライアンを砕いてみせたのだ。
「そこだ!スティングモン!………スパァァイキィィング、フィニィッシュ!!」
スティングモンは自分の背後に回ってきたアルティメット・ドライアンを捉えて、自身の拳を叩き込む。するとそれには猛毒が仕込まれていたのか、アルティメット・ドライアンは破裂するように爆発した。
「う、嘘だ、この俺のアルティメットが、………いや、まだだ。破壊された時に置かれるコアを使えば……よぉし、」
アルティメット・ドライアンの破壊によって増えたリザーブのコア。模手最はこれを使って、椎名のキャピタルキャピタルをすり抜ける作戦へと切り替えてきた。
「アルティメット・エルギニアスでアタック!【Uトリガー】ロックオン!」
リザーブ6⇨4
トラッシュ0⇨2
「…………私にも運のツキが回ってきたね!コストは3。ワームモンだ!!」
エルギニアスのコストは僅か3。あまり当たるようなコストではない。だが、既に頭数は十分椎名の残りのライフを破壊するには十分であって、
「これで終わりだぁぁぁあ!!!美しい俺に見惚れろぉぉぉお!!」
なかなか自分に見惚れない椎名に、徐々に自分のペースを崩されてきた模手最はとうとう心の奥底から自分の欲を出していく。その顔はアイドルとは思えないほど狂気に満ちている。だが、椎名はその言葉をスルーするように、手札のカードを引き抜いていく。
「フラッシュタイミング!マジック!チェイスライド!この効果で相手のスピリット1体を疲労させる!獣士オセロットを疲労!」
手札2⇨1
リザーブ2⇨1
トラッシュ6⇨7
「なっ!?」
獣士オセロット(回復⇨疲労)
また回収されたカード。今度はチェイスライドが発揮される。この効果によって、オセロットが疲労。これで、頭数が足りなくなる。
「アタックはライフで受ける!………ぐぅ!……やっぱり痛い」
ライフ3⇨2
アルティメット・エルギニアスの猪突猛進なアタックが椎名のライフを1つ砕いた。
「た、ターンエンド……だ」
チャコペッカLV1(1)BP1000(回復)
獣士オセロットLV1(1)BP1000(疲労)
アルティメット・エルギニアスLV4(3)BP7000(疲労)
バースト無
現在。模手最の残った手札1枚は防御札ではない。ライフは残り2つ。椎名の残った手札にはワームモンが必ずあるため、次のターンで椎名がドローステップでスピリットを引けば、このバトルの勝者は椎名となるのだ。
[ターン09]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札1⇨2
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨10
トラッシュ7⇨0
「メインステップ!ワームモンをLV3で召喚して、アタックステップだ!」
手札2⇨1
リザーブ10⇨4
トラッシュ0⇨1
椎名のフィールドに、ワームモンが再び現れるが、それ以上のスピリットは出ることはなかった。
(……!!……スピリットを引けなかったか!)
模手最は内心で大喜びする。椎名はここで決められなかったら、流石に負けるだろう。
「スティングモンでアタック!」
スティングモン(6⇨7)
「ライフで受ける!」
ライフ2⇨1
スティングモンの拳が、模手最のライフを1つ砕いた。後1つだが、模手最の場にはまだ回復状態のチャコペッカが残っており、
「ワームモン!アタックだ!」
「無駄だ!チャコペッカでブロック!」
BPではワームモンが上。だが、ブロックされてはライフを減らすことはできない。模手最が勝利を確信したその時だった。
「フラッシュタイミング!マジック!ワイルドライド!効果の対象はワームモンだ!」
手札1⇨0
リザーブ4⇨3
トラッシュ1⇨2
ワームモンBP6000⇨9000
「!?!!」
「ワイルドライドは、このターンの間、指定したスピリットがBPを比べて相手のスピリットだけを破壊した時、そのスピリットを回復させる効果も与える!!」
「な!?!!」
ワームモンの体当たりがチャコペッカを吹き飛ばす。チャコペッカはあえなく破壊されてしまった。そして、ワイルドライドに与えられた効果が発揮される。
「バトルに勝利したワームモンを回復!」
ワームモン(疲労⇨回復)
ワームモンが緑の風を受け、疲労から起き上がる。そして、
「最後のアタックだ!いけ!ワームモン!!……その名を指し示せ!!!」
ワームモンが体当たりするように飛び込んでいく。模手最は苦手な虫が飛び込んでくることに恐怖を覚える。人型に近いスティングモンはまだしも、ほぼ芋虫に近いワームモンは嫌だったのだろう。
「う、うわぁぁぁあ!!虫は無理なんだってばぁぁぁあ!!」
ライフ1⇨0
そのまま直撃し、最後のライフを砕いてみせた。これでこのバトルの勝者は椎名。見事バトスピ学園の卒業生を討ち取ってみせた。
「よし!私の勝ち!!」
ガッツポーズで勝利を噛みしめる椎名。スティングモンとワームモンも勝鬨をあげる。模手最はまさかの敗北にショックを受け、肩から崩れ落ちていく。
「くそっ!なぜだ!なぜあのキュートガールはこの俺に惚れないんだ!…………なぜ、薬が効かない!?!」
「さっきからその惚れるとか惚れないとか、なに?」
「………そこまでよ!模手最輝夫!!」
「「!!」」
椎名と模手最は声のする方へと目を向ける。声の主は、ガスマスクを着用していたあの謎の女性だ。
「あ、さっきの」
「なんだあんたは!」
「あら、『そこまでよ』と言ったはずよ」
女性がそう言い終わると、スタジアムの端から端までの隅々から厳つい警官達がわらわらと何人も飛び出してくる。それは瞬く間に模手最を持ち上げ、連れ去ろうとする。ファンのブーイングなど、誰もまるで気にするそぶりすら見せずに。
「おい!なにすんだ!むさ苦しいオス共め!この俺を誰だと思っている!!世界の美男子、模手最輝夫様だぞ!!」
そう言いながらも、模手最は大勢の警官達に上に持ち上げられながら、このスタジアムを去っていった。椎名は顔をキョトンとさせていた。一瞬すぎて一体何が起こったのかさっぱりわからなかったのだ。
「ありがとう!お嬢さん、お陰さまで、模手最を逮捕できたわ!」
舞台に立っている椎名のところまで赴き、ガスマスクを外しながらそう言う女性。声から予測できた通り、見た目はだいぶ若く見えるものの、アラフォーと言った感じの女性だ。
「はぁ、……模手最って人、何か悪いことでもやったんですか?」
「奴は、女性の人気を確保したいがために、薬に手を出したのよ、貴女は効いてなかったみたいだからわかるでしょう?あの変な臭い」
「あぁ、あれ、薬だったんだ」
「あれは模手最に釘付けにされてしまう不思議な薬だったのよ」
模手最は落ちこぼれだった。バトルの腕前は卒業生の中でもそこそこはあったものの、アイドルバトラーとしては顔が整っているだけの半人前だった。
そこでその女性が言っていた薬に手を出した。それは自分に少しでもかっこいいと感じれば即ファンとなってしまう。変だが、危ない薬。顔は整っている模手最にとっては相性が抜群であると言えた。
ただ、椎名には一切効き目がなかった。それは彼女が全く彼のことをかっこいいと思わなかったから、椎名は遠い島出身であることや、天真爛漫な性格ゆえに、そう言った感情はあまり、と言うか、全く持ち合わせてはいなかったのだ。
そして、それのおかげで、模手最はボロをだし、自分で薬を使っていることを示唆するような台詞を言ってしまっていたのだ。それが証拠となり、結果的に彼の逮捕に繋がった。マスクの女性、いや女警察官や他の警察官はこのように彼がボロを出すのをずっと首を長くして待っていたのだ。
「申し遅れたわね、私は警視よ!【一木聖子(いちきせいこ)】。よろしくね!ピュアホワイトちゃん」
聖子は手帳を見せながら、右目だけウィンクし、椎名に名前を名乗った。それとまた妙な渾名もつける。おそらく椎名が純粋な子だと思ってのネーミングだろう。
「……か、カッコいい!!………私!芽座椎名って言います!よろしく!聖子さん!」
「えぇ、また何かあったらお願いねぇ」
そう柔らかい声で言い。かっこよく、逞しい背を向けて、無敵の女警察官はこの場を後にした。椎名はまだ知らない。これからもこの女性と関わりを持つことに。正確にはこの女性が追いかけているある事件に関わることになるか、
一方で、真夏は薬の効果が切れるのに一週間かかった。
〈本日のハイライトカード!!〉
「はい!椎名です!今回はこいつ!【スティングモン】!!」
「スティングモンは、緑の成熟期スピリット。召喚時とアタック時にコアを1つ置くことができるよ!」
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