バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

74 / 129
【外伝】エグゼシード伝説
第73話「伝説の始まり、エグゼシード・ノヴァ」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から始まり、少しだけ続くこの物語は芽座椎名のものではない。

 

これから幕を開けるのは椎名の若き担任の教師、空野晴太。彼の学生時代の物語。

 

 

 

******

 

 

 

ここは芽座椎名の物語が始まる約6年前………

 

バトスピ学園 ジークフリード校にて……

 

 

「な、なんなんだ!!なんなんだよお前はぁぁあ!!」

 

 

いくつかあるスタジアム。その中の第3スタジアムのバトル場にて、

 

1人の男子生徒が、自分とバトルしている相手に向かってそう強く言い放った。

 

彼は3年。この界放市で毎年行われる【界放リーグ】にも予選で勝ち残れる程度の実力がある。しかし、そんな彼などよりも遥かに上回るカードバトラーが目の前には存在しており…………

 

それは真っ黒な髪に短ランを着こなしている男子生徒。

 

 

「………なんなんだって……俺はただの【天才】だよ」

 

 

口角を上げ、自分の事を【天才】と自称しているのは、【空野晴太】現在17歳。この学園の2年生だ。

 

そんな晴太はこのバトルに終止符を打つべく、最後のアタック宣言を行う。

 

 

「んじゃ、ささっと終わらせるか〜〜……やれっ!!ドラリオン!!炎魔神とアタックッ!!」

 

 

走り出したのは頭が竜になっている獣型のスピリット、ドラリオン。そしてそれと合体している強力な異魔神ブレイヴ、炎魔神。

 

目指しているのは当然、バトルしている男子生徒のライフであり……

 

 

「ら、ライフで……う、うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

ライフ2⇨0

 

 

ドラリオンの口内から放たれる渦巻く炎と、炎魔神の回転する右拳の重たい一撃が連続でヒットし、男子生徒のライフはその悲鳴と共に全て粉々に砕け散った。

 

これでライフはゼロ。勝利したのは晴太だ。そのバトルは終始いったい彼のペースであって、結果的に彼の圧勝で終わった。

 

 

「んーーーまぁまぁなバトルだったかな」

「くっ!?……お前何もんだ!!」

「だからただの天才だって、同じ事言わせんなよ」

 

 

晴太はBパッドをしまい、バトルの感想を口にしながら敗北した男子生徒に近づく。

 

そして、

 

 

「んじゃ、約束通りこのカードは返してもらうぜ」

「ッ!!……勝手にしろ」

 

 

晴太はその男子生徒の懐から1枚のカードをくすね、取り出した。

 

その後晴太はバトル場の外側にいるまた別の男子生徒の方へと向かい歩き出す。その男子生徒は逆に1年生なのか、いやに後輩感がある。

 

 

「ほれ、お前のだろ?」

「あ、ありがとうございます」

 

 

晴太はそのカードを1年生の男子生徒に渡した。

 

さっきまでのルールはアンティルール。賭けバトルをしていたのだ。3年の男子生徒は1年生の男子生徒からカードを奪い、晴太はそれを良しとせず、割り込み、バトルを挑んだ。

 

そして結果はこの通りだ。

 

 

「おぉ、んじゃ、行きな、もう取られるんじゃねーぞ」

「は、はい」

 

 

晴太の放つ独特なオーラからあまり上手く喋れないのか、1年生の男子生徒はその場を逃げるように立ち去った。

 

3年の男子生徒も「痛い目にあった」といいながらこの場を去っていく。

 

晴太は1人、バトル場に取り残されることになるが………

 

 

「やっぱ俺天才だわ」

 

 

と、自分の魅力に浸っていた。

 

自分はなんと強いのだろう。なんと強いカードを扱えるのだろう。なんと才能に恵まれているのだろうか。と。

 

しかし、そんな時間は長くはなく………

 

 

「調子に乗んなぁぁッ!!」

「いたぁぁい!!!?」

 

 

晴太は急に目の前に現れた女子生徒に頬を叩かれてど突かれた。その少女は晴太もよく知る人物。

 

 

「た、叩くことないだろ!!兎姫ちゃぁぁん!!」

「ふんっ!!バカじゃないの!!」

 

 

茶髪のツインテールを静かに靡かせ、晴太に強く物言う女の子は【鳥山兎姫】……晴太の幼馴染の女の子だ。3歳くらいから知っている。

 

 

「午前中の授業サボって何してるのかと思えば、あんたねぇ!!」

「いいだろ?天才の俺が結果的に下級生を救ったんだからさ〜〜」

「英雄にでもなったつもり?そんなものになっても落第したら意味ないんだからねっ!!」

「この学園はバトルに勝ち続ければ落第なんてしねぇよ」

「今の晴君の成績だったら少し負け続けただけで落第確定なのよ!!」

 

 

当時の空野晴太はバトルの才能こそあれど、なにぶん学業は疎かであり、筆記の授業はサボり続ける一方であった。

 

バトルの実力は高いのだが、競争心がほとんどと言っていいほどになく、去年の【界放リーグ】の予選にすら彼は参加していない。それ故に実力に反して知名度は低い。

 

 

「ん、じゃあ、午後もサボるんでよろしく〜〜」

「あ!!待ちなさいっ!!」

 

 

晴太は兎姫の隙を見て走り出し、逃げるようにバトル場を去る。その様子に、兎姫は大きくため息をついた。

 

 

******

 

 

学園を抜け出し、サボった晴太は颯爽と自分の家への帰路に着いていた。そしてようやくそこに到着し、家のドアをゆっくりと開ける。

 

 

「ただいま姉ちゃん」

「あら、晴君またサボり?」

「まあね」

 

 

家に入ってからすぐ目に映ったのは彼の姉だ。名を【空野菜々子】……晴太とは5つ上だ。今現在、晴太はこの姉と2人で生活している。

 

菜々子は弟のサボりに対して特に怒りを見せることはなく、さぞかし当たり前であるかのように会話した。晴太が学校をサボる事など日常茶飯事であることがこの時点で伺える。

 

 

「ま、晴君は強いもんね〜〜」

「天才だからな」

 

 

菜々子は天然な性格もあってなのか、弟である晴太にはとことん甘かった。バトルで勝てば落第は無いとは言え、兎姫が言うように、負け始めれば即刻落第なのだ。

 

晴太は自分をまた天才といいながら、二階の自分の部屋へと繋がる階段を上った。そして部屋に入ると、速攻で鞄を投げ、ベッドにダイブした。

 

 

「あーーーつまんねぇ、なんか面白い事でも起きねぇかなぁ」

 

 

晴太はこのバトスピ学園 ジークフリード校に入学してからというもの、退屈していた。毎日毎日授業だの勉強だの、面白くない。そして周りも対して強くもない。

 

【界放リーグ】にでも出れば強い相手もいるのだろうが、それに出る事自体がまず面倒だ。

 

そんな事を頭で僅かながらに思考しながら、晴太は眠気に誘われ、軽い眠りについた。

 

 

******

 

 

そして時刻は少しだけ時を刻み、夕刻の時、晴太以外の学生達はぞろぞろと学園から帰宅する時間となった。兎姫も例に溺れず、帰路についていたのだが、その途中でやらねばやらない事があり………

 

 

「はぁ、授業のプリント、晴君にも渡さないとなーーー………って、私はあんな奴の事なんてぇ!!」

 

 

兎姫は筆記の授業のプリントを晴太の分まで貰っていた。単純に渡したかったのと、絡みたかったから。昔から晴太には気があるのだが、素直じゃ無い性格もあってなかなか踏み切れないでいる。それは今も昔も、これから先も………

 

晴太も晴太で全く気づかないのがまたネックだ。

 

そんな時だ。兎姫はショートカットしようと人気の少ない路地裏に足を踏み入れる。夕方の橙色の日光さえをも通さない暗がりのその道には、彼女を狙うかのようにある人物が待ち構えており…………

 

 

「ヌフフフフ、やぁ、お嬢さん」

「っ!?……だ、誰よ!!」

 

 

兎姫の目の前に現れたのは覆面を被った謎の男。声色や腰の曲がり具合から、老人であることはわかるが、それ以外は一切分からず………

 

その異様な見た目やオーラから、兎姫は思わず攻撃的な口調になる。

 

 

「いや、何、ちょっとだけ実験したいから付き合ってくれないかな?」

「ッ!!」

 

 

この界放市で、鳥山兎姫の身に何かが起ころうとしていた。

 

 

 

******

 

 

晴太は寝ていた。昼間学園から帰宅した直後に。短ランを着たまま、枕を抱きしめ、鼾をかき、それはそれはぐっすりと。

 

しかし、その眠気は唐突に消し去ることとなる。

 

晴太のBパッドから着信音が鳴り響く。部屋の隙間を埋めるかのように。あまりの音の大きさに、晴太は寝ぼけながらもBパッドをカバンから取り出し、確認する。

 

その相手は兎姫だ。

 

この時、晴太は「まぁた兎姫ちゃん口うるさく言われる」……と、そんな事を考えていた。これから起こる災難など、全く予想などしていなくて…………

 

 

「ほーい、晴君ですよーー」

〈やぁ、空野晴太君……だね?〉

「っ!?誰だ!?」

 

 

いつものようにだるそうに電話に出る晴太。しかし、そこから発せられた声は聞き慣れた幼馴染の声では無い。湿ったような濁った声。その時点で年老いた男性であることがわかる。

 

晴太はこの一瞬のやりとりで完全に目が覚めてしまった。兎姫は真面目だ。いかに親しい自分であっても、電話を貸す時は先ず自分から電話し、その後その人物に渡すのだ。

 

故に、一言目が兎姫の声じゃ無いのはあからさまにおかしいことなのだ。

 

 

〈………ヌフフフフ、鳥山兎姫は預かった。返して欲しければ指定された場所に来なさい………1人でね〉

「な、なんだって!?」

 

 

兎姫はこの老人に誘拐された。確かにそうであれば辻褄は合うが、

 

晴太は事態が自分が考えてるよりも大きく進展してしまっていることを咄嗟に理解した。

 

 

「目的はなんだ!?俺を呼び出したいなら直接…………」

〈……ピー〉

「っ!!くそっ!!」

 

 

通話が途切れ、晴太のBパッドにはアドレスに送られた指定場所だけが残る。

 

晴太は慌てて部屋から飛び出す。兎姫を助けに行くのだ。

 

そして、勢いよく階段を下りて、靴を履き、ドアを蹴破るように走り去ってしまう。

 

 

「あれ〜〜?晴君今からお出かけ?………もういない、せっかくおつかい頼もうと思ったのにな〜〜」

 

 

台所のある部屋の入り口から顔を出したのは姉の菜々子。だが、一足遅かったか、晴太はとっくに家を嵐のような速さで出て行ってしまった。

 

 

******

 

 

 

「……確か、ここら辺だよな」

 

 

晴太は学園付近の路地裏を歩いていた。そこが男から指定された場所だからである。

 

勢いで来てしまったが、相手はその声色から、おそらく相当の手練れ、とてつもなく黒い人物に違いない。晴太は緊張で胸の心音が聞こえてくるのを感じた。

 

そしてその時は急に訪れる。

 

 

「やぁ、空野晴太君………あれ、これは2回目だね?」

「っ!!な、なんだお前!!もしかしてさっきの野郎か!!」

 

 

今度は直でその声色を耳に入れる晴太。その男の異様な雰囲気と青と紫の奇妙なマスクに驚くが、それでも気を引き締めて前に立つ。

 

 

「兎姫ちゃんはどこだ!!」

「ん?あぁ、そうだったね、ここだよ」

 

 

男はそう言い、手をかざすと、闇の瘴気のようなものがそこから飛び出てくる。それだけでこの男が異端な存在であることが理解できる。

 

晴太が驚いたのはそれだけでは無い。その闇の瘴気がまとわりついたのは、他でも無い、鳥山兎姫だった。まるで逃げられないようにそれは兎姫の周りをぐるぐると回っており、

 

兎姫も気を失っていて、晴太が助けに来たことに気づいていない。

 

 

「兎姫ちゃんっ!!」

「この可愛らしいお嬢さんを返して欲しければ、私とバトルしなさい、空野君」

「っ!?バトルだと!?

「あぁ、無論、この子を賭けてね、君が勝てば返す。けど負ければ………そうだなー……殺そうかな」

「っ!!ざけんなよっ!!」

 

 

男が持ちかけてきたのは命を賭けたバトルスピリッツ。晴太はその男の言葉に寒気を覚える。

 

信じられるものか、そんなもの。ありえない。しかし、今のこの異質な現象を目の当たりにした今ではそれを信じざるをえないのがまた晴太にとって癪であって………

 

 

「それ以外は返さないよ、君に拒否権はない……それとも何か?君はこんな老いぼれが怖いと?」

「っ!!な訳ねぇだろ!!!」

 

 

いや、正直怖い。目の前であんな理解の範疇を超えた物を見せられては当然だ。

 

しかし、晴太も兎姫を守るためにはこれしかないと悟ったのか、決意を固める。

 

 

「上等だ!!女の子を盾にしてからじゃなきゃバトルできないような奴!!天才の俺の敵じゃねぇ!!」

「ヌフフフフ、それは了承する……って事でいいんだよね?」

 

 

晴太と男は勢いよくBパッドを展開する。デッキをセットし、デジタルコアを発現させ、バトルの準備を行った。

 

そして始まる。晴太にとって負けられない戦いが、この平和な界放市の裏側で……静かに行われる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが幕を開ける。先行は晴太だ。

 

……だがその前に、

 

 

「一応、自己紹介がまだだったね、私の名は【Dr.A】……いずれこの世界を進化させるものだ」

「あぁ!?知るかんなもん!!とっとと始めっぞ!」

「あら知らないのか、私の知名度もまだまだだね〜〜」

 

 

この男はいずれこの界放市に災難を呼び寄せる者。ただ、その当初は有名ではなかった。晴太もこの時はまだ気づく余地もなかっただろう。

 

 

[ターン01]晴太

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップッ!!俺はコレオンをLV2で召喚して、ターンエンドッ!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨2

【コレオン】LV2(2)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

晴太が颯爽と呼び出したのは猛々しいライオンをこれでもかとデフォルメした赤の小型スピリット、コレオン。晴太のデッキにおいては欠かせない序盤の様子見用スピリットだ。

 

 

「ヌフフフフ、コレオンか、随分かわいいのを使うじゃないか」

「うっさい!!スピリットは見た目じゃないだろ!!!早くターンを進めやがれ!!」

「ヌフフフフ、はいはい」

 

 

Dr.Aは不気味で湿った笑い声を上げながら、自分の最初のターンを行う。

 

 

[ターン02]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「ヌフフフフ、メインステップ……私はチキンナイトを召喚し、ネクサスカード、白雲に茂る天翼樹を配置!!その効果でコアを2つ増やす!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨3

トラッシュ0⇨3

 

「な!?チキンナイトに白雲に茂る天翼樹!?……お前、そのデッキ………」

 

 

メインステップが始まった直後、Dr.Aが前線に召喚、及び、背後に配置した鶏の騎士と白雲に茂る葉の形をした大樹を見て、晴太は思わず驚きの声を上げた。

 

これは系統爪鳥を持つスピリットで固められたデッキであることがわかるのだが、晴太が驚いているのは断じてそんなところではない。

 

別に爪鳥のデッキを使うのは珍しい事でもない。しかし、晴太の目の前でそれを召喚するということは、どう考えても彼に対する挑発としか思えない。

 

何せ、そのカードは他でもない。兎姫の使用するカードなのだから。

 

 

「………お前、兎姫ちゃんのデッキを………ふざけやがって………」

 

「ヌフフフフ、まぁそう怒るなよ、返すよ………君が勝てばね………私はさらにバーストを伏せて、乙騎士エウロス・ファルコンを召喚」

手札3⇨1

リザーブ3⇨0

トラッシュ3⇨5

 

 

Dr.Aはバーストを場に伏せると共に、鎧を着こなす鳥型スピリット、エウロス・ファルコンを召喚。

 

 

「そしてアタックステップだ………行きなさい、エウロス・ファルコン!!…効果でコアを増やし、コレオンを疲労!!」

【乙騎士エウロス・ファルコン】(1⇨2)LV1⇨2

 

「……ッ!!」

【コレオン】(回復⇨疲労)

 

 

翼を羽ばたかせ、突風を起こすエウロス・ファルコン。コレオンはその風で足を挫き、疲労してしまう。

 

 

「アタックは継続中!!」

「っ!!……ライフで受ける」

 

 

ブロックできるスピリットはいない。当然のことながら、晴太はバトルスピリッツのルールに従い、ライフで受ける宣言をした。

 

……が、これは文字通りライフ…即ち命で受ける事を意味しており………

 

 

「……ぐっ!!……がっ!!……な、なんだ!?」

ライフ5⇨4

 

 

エウロス・ファルコンが翼撃で晴太のライフを1つ砕く。そしてその瞬間、晴太自身に激痛が走る。歯を食いしばった勢いでその口元に血が滲み出す。

 

突然のことに晴太は戸惑う。

 

 

「な、なんだ……この、痛みは!?」

「ヌフフフフ、私とのバトルは痛いですよ〜〜覚悟しておいて下さいね〜〜!!」

 

 

今までの異端な出来事を含めて、まだ驚くことではないものの、このダメージは流石に受け続けたらまずい。

 

 

「続きなさい、チキンナイト」

 

「っ!!……くそ、ライフだ……ぐぅっ!!」

ライフ4⇨3

 

 

チキンナイトが飛びかかり晴太のライフを1つ小さな剣で串刺しにし、破壊した。晴太にはまた多大なバトルダメージが入る。

 

 

「ヌフフフフ、ターンエンド」

【チキンナイト】LV1(1)BP1000(疲労)

【乙騎士エウロス・ファルコン】LV2(2)BP6000(疲労)

 

【白雲に茂る天翼樹】LV1

 

バースト【有】

 

 

Dr.Aはできる事を全て終え、そのターンをエンドとした。次は晴太のターン。こんな危険なバトル早く終わらさなくては……晴太はそう思いながらターンを進めていく。

 

 

[ターン03]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

【コレオン】(疲労⇨疲労)

 

 

リフレッシュステップ時、本来はルールにより、コレオンは疲労から起き上がるはずだった。しかし、Dr.Aが場に出しているエウロス・ファルコンの効果で起き上がれないでいた。

 

エウロス・ファルコンがLV2で場にいる限り、相手のコスト2以下のスピリットは回復できないという効果が永続で発揮されているからだ。

 

 

 

 

晴太は考える。

 

今、相手にとっているのはDr.Aと名乗る謎めいた老人だが、あのデッキ自体は散々見慣れた兎姫のデッキ。晴太が対策を練れないわけがない。

 

あのバーストも自ずと何かが絞れてくる。

 

 

(……なら先ずはあのバーストを剥がしに行くか……)

 

 

そう思い、メインステップを開始する。

 

……晴太の反撃開始だ。

 

 

「メインステップッ!!俺は庚獣竜ドラリオンをLV2で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

【コレオン】(2⇨1)LV2⇨1

 

 

コレオンのLVが低下することも気にせず、晴太は頭部が竜となっている猛獣のスピリット、ドラリオンを召喚した。このドラリオンは晴太のデッキにとってはかなり重要な役回りを担う。

 

 

「ドラリオンの効果!!召喚時、相手のBP5000以下のスピリット2体を破壊する!!……俺はチキンナイトを破壊!!」

「……ッ!!」

 

 

ドラリオンは登場するなり、口内から渦巻く炎を放ち、チキンナイトを一瞬にして焼き尽くした。そして重要視されるのは破壊効果ではなく、それに成功した時に発揮される追加効果だ。

 

 

「この効果で破壊に成功した時、手札からブレイヴカード1枚をノーコスト召喚!!…来いっ!!異魔神ブレイヴ、炎魔神!!」

手札4⇨3

 

 

場に現れる炎を纏った歯車。それが鈍い音を鳴らしながら回転し、中心から姿を見せる者が1人。それは異魔神ブレイヴ、炎魔神。

 

炎魔神はそこから飛び立ち、晴太の場へと足を踏み入れた。

 

異魔神ブレイヴとは、左右にスピリットを合体できる特別なブレイヴの総称。特に晴太の持つ炎魔神は他をも寄せ付けない強力な効果を有している。

 

 

「……ヌフフフフ、なるほど〜〜炎魔神。君の切り札でしたね〜〜……ですが、破壊後のバーストはもらいます……【天空戦艦ピラミッドウィング】!!効果によってデッキから2枚オープンし、その中の爪鳥スピリットを好きなだけノーコスト召喚する!!……」

オープンカード↓

【ミストラルフィニッシュ】×

【コンパス・ミンゴ〈R〉】◯

 

「………っ!!そっちか!!」

 

 

エースである炎魔神を出した束の間、Dr.Aは伏せていたバーストを勢いよく反転させる。それは晴太も見慣れたカードである。

 

効果自体は半分成功。半分失敗と言ったところであり、上振れでもなければ下振れでもない。普通と言えば妥当か………

 

 

「コンパス・ミンゴ〈R〉を召喚!!効果でコアを増やし、バースト効果の終了したピラミッドウィングを召喚しましょう!!LV1!!」

【コンパス・ミンゴ〈R〉】LV1(1)BP2000

【天空戦艦ピラミッドウィング】LV1(1)BP6000

 

 

上空から翼を羽ばたかせ、降りてくるのは、赤き鳥型のスピリット、コンパス・ミンゴ。

 

そしてそれを上から見下ろしに来たかのように、上空に聳え立つピラミッドを象った巨鳥、ピラミッドウィング。この両名が一挙に召喚された。

 

 

「ほほう、これはなかなかに見事!!」

「へっ!!兎姫ちゃんならもっとお強いのを引いただろうよ!!」

 

 

並び立ってきた鳥型のスピリット達。その無意識のうちにやっているであろう優雅な佇まいは誰もを虜にしてしまう。

 

しかし、晴太は思う。このデッキは兎姫ちゃんだからこそ強いのだと、

 

彼女とはよくバトルをするが、いつもなら、もっと早く、もっと強い。やはりデッキはその作成したカードバトラーでしか扱えないと改めて考えた。

 

そして、ここらでいよいよ大きく動き出す。

 

 

「バーストを伏せ、炎魔神をドラリオンに右合体!!」

手札3⇨2

【ドラリオン+炎魔神】LV2(2)BP13000

 

 

晴太の場にバーストが伏せられると共に、炎魔神が右手から光線を放ち、ドラリオンと自身を繋ぐ。それは2体が合体スピリットとなった明らかな証拠。ドラリオンは炎魔神のサポートを受けられるようになったのだ。

 

 

「アタックステップッ!!ドラリオンの効果でBP+5000!!!ぶちかませぇ!!アタックだドラリオンッ!!」

【ドラリオン+炎魔神】BP13000⇨18000

 

 

ドラリオンにアタックの指示を送る晴太。そしてこの瞬間に、効果を発揮できるものがあって………

 

 

「炎魔神の右効果!!このスピリットのBP以下のスピリット1体を破壊っ!!ピラミッドウィングを破壊する!!」

「っ!!」

 

 

炎魔神の追撃。ロケットパンチの容量で右拳を放つ炎魔神。そしてそれを上空に佇んでいるピラミッドウィングへと直撃、ピラミッド部分を貫通させ、爆発四散させた。

 

その後、その手は放物線を描きながらも炎魔神の元へと戻り、再び装着された。

 

 

「アタックは継続中!!!」

 

「………ライフで受けよう」

ライフ5⇨3

 

 

ドラリオンと炎魔神がDr.Aのライフへと突撃していく。ドラリオンはその鋭い鉤爪で、炎魔神は強固にして強靭たる拳で、それぞれ1つずつそのライフを破壊した。

 

 

「っしゃぁっ!!どうだクソ野郎!!ターンエンドだ!!」

【コレオン】LV1(1)BP1000(疲労)

【ドラリオン+炎魔神】LV2(2)BP13000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

緊迫のために一手一手が難しい中、晴太はなんとか最善の手を尽くし、優位性を上げたこのターン。

 

特に存在が大きいのはやはり異魔神ブレイヴの炎魔神であろう。場にキープされれば間違いなくDr.Aの場のスピリットでは太刀打ちできない。

 

 

[ターン04]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

【乙騎士エウロス・ファルコン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、私は………魔界竜鬼ダークヴルムをLV1で召喚!!」

手札2⇨1

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨4

 

「………え?」

 

 

しかし、Dr.Aのターンが始まってすぐに呼び出されたスピリットは、兎姫が入れるわけがない紫のスピリット。

 

ヴルムの名を冠した紫のドラゴンが彼の場へと足を踏み入れた。周りの鳥型のスピリット達とは、見た目が違いすぎて明らかにミスマッチしている。

 

 

「な、なんで兎姫ちゃんのデッキに紫のカードが…………」

「ヌフフフフ、私が入れたんですよ……私はこう見えてカードコレクターの一面もありましてね〜〜」

 

 

そう。これは兎姫のカードではない。Dr.Aが勝手に投入したもの。その理由としては、晴太を極限まで追い詰めるためであって………

 

 

「魔界竜鬼ダークヴルムの効果!!私のライフを1つトラッシュへと送り、カードを2枚ドロー!!」

ライフ3⇨2

手札1⇨3

 

 

ダークヴルムは登場するなり、敵である晴太の方を向かず、何故か主人であるDr.Aの方を振り向く。そして、Dr.Aのライフに齧り付き、襲いかかる。

 

Dr.Aのライフは1つ砕け散るも、その代償として、彼は新たに2枚のカードを引いた。

 

そして、その中に強力なカードがあったのか、思わず口角が緩む。

 

 

「ヌフフフフ、これはこれは、また良きものを引いてしまった………行きますよ!!【滅神星龍ダークヴルム・ノヴァ〈R〉】!!コンパス・ミンゴとエウロス・ファルコンのコアを取り除き、LV2で召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨0

【コンパス・ミンゴ】(1⇨0)消滅

【乙騎士エウロス・ファルコン】(2⇨1)LV2⇨1

 

「っ!!なぁ!?……ダークヴルム・ノヴァだって!?」

 

 

コンパス・ミンゴが消滅してしまうも、Dr.Aの場に、上空から闇の塊が降下してくる。そしてそれは地面へと直撃、泡のように弾け飛ぶと、中から最強のダークヴルム。ダークヴルム・ノヴァが大きく翼を広げ、姿を見せた。

 

驚愕する晴太。

 

当然だ。何せこのスピリットは………

 

 

「ダークヴルム・ノヴァの永続効果!!相手は合体を解き、さらにブレイヴはスピリット状態では存在できない!!………消えなさい炎魔神!!」

「くっ!!」

 

 

ダークヴルム・ノヴァが登場するなり吐きつけた闇のエネルギー。それは瞬く間に晴太の場へと侵食していき、その中のブレイヴ、炎魔神のみを引きずりこむように消し去ってしまった。

 

【滅神星龍ダークヴルム・ノヴァ】………このスピリットはいわゆる【ブレイヴキラー】と呼ばれるスピリットだ。炎魔神という強力なブレイヴをエースとする晴太のデッキとは相性最悪である。

 

しかし、今のこの世界のバトスピ環境は間違いなくデジタルスピリットと呼ばれるスピリット達の一強なのだ。晴太のデッキにここまでメタを入れてくるプレイヤーは初めてのことであっただろう。

 

 

「……さぁ、お待ちかね………アタックステップだ!!翔けろブレイヴキラー!!ダークヴルム・ノヴァ!!……アタック時効果で疲労状態のスピリット…君のドラリオンを破壊するよ!!」

「っ!!」

 

 

飛翔を始めるダークヴルム・ノヴァ。そしてその手のひらから闇のエネルギー弾を放ち、晴太の場で疲労しているドラリオンに直撃。ドラリオンは炎魔神同様、それに吸い込まれるように消し去られた。

 

 

「そしてダークヴルム・ノヴァはダブルシンボル!!ヌフフフフ、どう受ける?」

「っ!!……ライフしかねぇ………」

 

 

晴太の唯一のスピリットであるコレオンもエウロス・ファルコンのせいで疲労状態。ここはライフで受ける他なかった。しかし、シンボル1つのアタックであそこまでダメージがあるのだ。2倍の2などいったいどれほどダメージが入るかは想像もつかない。

 

だが、兎姫を助けるため………晴太には逃げるの選択肢はなく………

 

 

「……ライフで受ける!!…………ぐ、ぐぁぁぁ!!」

ライフ3⇨1

 

 

ダークヴルム・ノヴァが闇の力を纏った拳で、晴太のライフを粉々に粉砕する。さっきのダメージとは比にもならない程のバトルダメージが晴太を襲う。

 

あまりのダメージ量に、頭の中が痛くなり、足がふらつく。しかし、それでもまだなおも真っ直ぐと場を見ており………

 

 

「く、まだだ………ライフ減少により、バースト発動……絶甲氷盾……ライフを1つ回復させ、コストを払い、このターンを終わらせる!!」

ライフ1⇨2

リザーブ4⇨0

トラッシュ4⇨8

 

「………っ!!」

 

 

晴太のライフが1つ回復し、幾分か体も回復する。そしてDr.Aの場に猛吹雪が発生、スピリット達はこのターン、身動きが取れなくなる。

 

 

「ほお、流石……と言っておきましょう………必死にしがみついてるだけにしか、見えませんがね……ヌフフフフ、ターンエンド」

【乙騎士エウロス・ファルコン】LV1(1)BP4000(回復)

【魔界竜鬼ダークヴルム】LV1(1)BP3000(回復)

【滅神星龍ダークヴルム・ノヴァ〈R〉】LV2(3)BP8000(疲労)

 

【白雲に茂る天翼樹】LV1

 

バースト【無】

 

 

これは致し方ないか、Dr.Aはこのターンをエンドとした。それに伴い、猛吹雪は去り、晴太のターンがやって来るが…………

 

 

(ま、まずい……炎魔神を倒された挙句防御札まで切らされた……ライフ的にも盤面的にも次のターンは無理だ……)

 

 

エースである炎魔神を破壊され、合体元のドラリオンも失った。場には小さなライオン、コレオンのみ。

 

さらに相手の場にはアタック時で疲労させて来るエウロス・ファルコンに加え、2体のダークヴルム。しかもいったいはノヴァ、ダブルシンボルだ。

 

次に奴のターンが回ってきたらあのアタックはいなしきれない。決めるならこのターンしかないのだ。

 

 

(考えろ……何を引けばいい?このターン、ダークヴルム・ノヴァを破壊しつつ、2体のブロッカーを排除し、2点分のダメージを与える方法…………)

 

 

晴太は自分のデッキを逆算し、考える。あの手この手を次々と考える。しかし、それはどれも没。どこをどう考えても無理だ。

 

晴太のデッキにとって2点分のダメージを与えるためにはブレイヴが必須。何せ、ブレイヴデッキなのだから………そのためには先ずダークヴルム・ノヴァをどかさなくてはならない。それでいて尚且つ2体のスピリットの排除…………

 

そんな方法…………

 

 

(……ない………嘘だろ!?ここまで来て………兎姫ちゃんの命がかかってるってぇぇのに!!)

 

 

頭の中では絶望的な確率が浮かんできてしまう。そう、ほぼ不可能に等しい。万に1つできたとして、どんな妨害札でも積みかねない。

 

 

「おいおい、長考はやめてくれよ〜〜ヌフフフフ」

 

 

こんな奴に……こんな奴に負けたくない。

 

そんな時だ。

 

 

「うっ……ここは………っ!!て、何これ!?」

「兎姫ちゃん……良かった……」

「晴君!!なんでここに……」

 

 

兎姫が目を覚ました。その途端に自分にまとわりついている闇の瘴気に驚愕した。

 

しかし、肝が座っているのか、兎姫は落ち着いてこの場全体を見渡し、晴太とバトルしているのが、先ほどの老人であることを知る……

 

 

「ちょっとあんたどう言うつもり!?なにしてんのよ!!」

「ヌフフフフ、何って、ただのバトルですよ」

「ただのバトルに見えないから聞いてんのよ!!」

「んーーまぁ、そうですね………今、私たち2人はあなたの命を賭けて戦っております……空野君が勝てば救え、逆に私が勝てばあなたは死にます…」

「っ!!バトルで命を!?」

 

 

一瞬頭の中の血がサァーっと流れるのを感じる兎姫。信じられるものか、確かに、大昔はバトルスピリッツで命を賭けたと言う歴史もあるが、それは昔も昔、【弥生時代】頃の話だ。しかし、今のこの状況がそれを証明するかのように物語っている。自分を取り巻く謎の闇。ボロボロの晴太。

 

この盤面を見渡してみれば、どれだけ今、晴太が自分のために頑張り、奮闘してきたか理解できる。

 

そして、敗北寸前であることも………

 

だったら、自分にできることは1つ。

 

 

「晴君………逃げて!!」

「っ!!」

「こいつやばい奴よ!!負けたらきっと晴君も死ぬ!!だから……」

「何言ってんだ!!兎姫ちゃんを置いていけるか!!」

 

 

兎姫の思いもよらない発言に、晴太は驚く。

 

晴太とて、ここまで来て今更逃げるわけにもいかないだろうに………兎姫を、幼馴染を助けるためにここまで頑張ってきたと言うのに………

 

何故自分の命をこうも簡単に投げ出すことができるのか………

 

だが、その言葉に苛立ちを覚えたDr.Aが……

 

 

「うるさいよ……人のバトル中に口出ししてはいけないと習わなかったかい?」

「……ぐっ、う、うわぁぁっ!!」

 

 

左手を握りしめると、兎姫の周りにいる闇が彼女を締め付ける。

 

 

「やめろぉぉぉぉっ!!」

「じゃあ早くターンシークエンスを進めなさい。このバトルが始まる前、私は言ったよね?君に拒否権はない……と」

「っ!!」

 

 

いったいどうすれば良い?

 

このままバトルを続けても負けるのは明白。

 

かと言って兎姫を見捨てるわけにはいかない。

 

どうしたらいい?

 

頭の中が混乱する晴太。ついさっきまで、ほんの少し前までは何気ない、いつも通りの生活だったと言うのに………

 

晴太は混乱しながらも、何度も自分の事を責めた。何故こうなった、何故助けられない。何故負けるのだ……と。

 

だが、そんな時だ………

 

 

「っ!!」

 

 

晴太のデッキが赤色に強く光出した。突然の事に晴太は驚く。そして、Dr.Aはそれが何なのか気づいたか、それを見、興奮する。

 

 

「おおっ!!これはまさしく【オーバーエヴォリューション】!!!」

「お、オーバーエヴォリューション………って、あの……」

 

 

興奮し、Dr.Aの手が緩くなったか、兎姫の拘束も同様に緩まり、晴太のデッキに起こった現象を凝視する。

 

この現象は………

 

この世界を生きるカードバトラーならば誰しもが知っており、誰もが発揮可能なもの。だが、それが起こるのは大変珍しく、起こっとしても一生涯にたった一度しかない。

 

そんな奇跡に現象が晴太の身にも起こった。

 

 

「こ、これは…………」

 

 

晴太は直感的に理解した。

 

負ける気が全くしない。そんな未来のヴィジョンなど見えやしない。

 

デッキは今、自分を励ましてくれている。そして、新たな力を託してくれた。奴を、Dr.Aを倒すべく………

 

迷いの無くなった晴太は勢いよくターンシークエンスを行う。

 

 

「行くぞ覆面ジジイ!!……俺のタァァァアン!!」

 

 

[ターン05]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨9

トラッシュ8⇨0

【コレオン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップッ!!マジック、ダイナバーストを使用、デッキからカードを2枚ドロー!!……よしっ!!そして俺はこのカード、【エグゼシード・ビレフト】をLV3で召喚!!不足コストはコレオンから確保っ!!」

手札3⇨2⇨4⇨3

リザーブ9⇨0

トラッシュ0⇨6

【コレオン】(1⇨0)消滅

 

 

効果により2枚ドローする晴太。その2枚は自分も知らないカード。不思議だ。そのカード達はテキストを読まなくてもこれからどう使えば良いか理解できる。直接頭の中に使い方が流れ込んでくる。

 

コレオンが不足コストで消滅する。その後直ぐに晴太の背後から何かが走ってくる音が聞こえてくる。そしてそれは晴太の頭上を飛び越え、この場に召喚される。そのスピリットの名はエグゼシード・ビレフト。装甲が施されたその駿馬は、この先、いかなる場合であっても晴太のデッキを支えることとなるスピリットだ。

 

 

「おぉ、それが君の新たな力かね?」

「エグゼシード?………十二神皇スピリットの?……でもちょっと小さい気がする………それに晴君あんなカード持ってた?」

 

 

十二神皇スピリットとは、歴史あるバトスピの中でもそう呼称されるスピリット達の総称。モチーフは干支の十二支の動物達。エグゼシードとは、その午に値する存在。

 

しかし、晴太のデッキにそのエグゼシードはおろか、十二神皇も入ってはいなかった。

 

考えられることはただ1つ、晴太のオーバーエヴォリューションによって新たに創生されたこと。

 

 

「アタックステップッ!!いけぇ!ビレフトッ!!アタック時効果でカードを1枚ドローし、LV3効果、【輝石封印】!!ビレフトのソウルコアを俺のライフにっ!!そして、このターン、ビレフトのコストを6にする!!」

ライフ2⇨3s

手札3⇨4

【エグゼシード・ビレフト】(4s⇨3)LV3⇨2(コスト4⇨6)

 

 

Bパッド上にあるビレフトのソウルコアがライフへと移動する。これにより、このターン、ビレフトのコストは6。

 

通常、コストを6に上げても対して利得はない。しかし、ここでは、この場では大いに意味があることであり………

 

 

「フラッシュ!!【煌臨】発揮!!対象はエグゼシード・ビレフト!!」

ライフ3s⇨2

トラッシュ6⇨7s

 

「っ!?」

 

 

ビレフトが地を駆ける。そしてそのまま空をも翔け上がり、赤き光を纏う。ビレフトはその中で姿形を変える。装甲は変化し、さらに背には大きな翼が2枚、新たに生えてくる。

 

 

「救世の力よ!!今こそ駿馬に宿れ!!煌臨!!【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】!!!」

手札4⇨3

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】LV2(3)BP20000

 

 

赤き光を弾き飛ばし、中からはダークヴルム・ノヴァと同じ、ノヴァの名を冠するスピリットが現れる。その名はエグゼシード・ノヴァ。ビレフトが進化した姿だ。これもまたオーバーエヴォリューションによって創生されたカードの1つのようである。

 

 

「煌臨時!!俺のライフを5に!!」

ライフ2⇨5

 

 

エグゼシード・ノヴァの救済の力が晴太のライフへと宿る。すると、そのライフは神々しい光を放ち、一気に初期の5まで回復する。この効果はまさしくかの有名なスピリット、ジークヴルム・ノヴァそのもの。

 

もう空は真っ黒の墨色だと言うのに、その神々しい光は月食でも起こったかのように辺りを明るく照らしてみせた。

 

 

「………す、凄い………」

「だが、私のブロッカーは2体……どう足掻いても突破はできませんよ〜〜!!」

 

 

抜かりはない。突破する。

 

 

「フラッシュマジック!!【エグゼフレイム】!!ノヴァのLVを下げて確保!!」

手札3⇨2

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ7s⇨9s

 

「っ!?」

「この効果でBP15000までスピリットを好きなだけ破壊できる!!お前のスピリットの合計はきっちり15000!!焼き払えっ!!」

「何!?」

 

 

上空から地上へと駆けるノヴァ。その身に蒼い炎を纏い、Dr.Aのスピリットへと突っ込んで行く。そのあまりの速さに、エウロス・ファルコン、ダークヴルムはおろか、ダークヴルム・ノヴァさえもついてこれず……

 

棒立ちのまま、そのノヴァの蒼い炎に包まれ、焼き尽くされた。

 

 

「これでブロッカーはいない!!ノヴァはダブルシンボル!!ライフを2つ破壊する!!」

 

 

【オーバーエヴォリューション】

 

世界中の人々の誰もが知るカードがバトル中に創生される謎の現象だが、本来、その創生されるカードはたった1枚が基本。

 

だが、稀にいるという。

 

オーバーエヴォリューションで創生されるカードが1枚ではなく、そのデッキまるごと新しく創生するカードバトラーが。

 

 

「………ヌフフフフ、ギ、ギッヒャヒャヒャ!!!……やはりそうか、やはり君は私の計画の最大の障害たりうる存在!!直に来て正解だったよ!!」

 

 

今度は逆に絶体絶命に立たされたと言うのにもかかわらず、Dr.Aはマスク越しからでもわかるように大きく口角を上げ、笑った。不気味に、それでいて不敵に。

 

彼の言っている意味は、後にわかる事。が、今、少なくともこの時は………晴太の勝ちだ。

 

 

「いけぇ!!ノヴァ!!………超新星天撃……ノヴァ・ゲイザァァァァァァア!!!!」

 

「……う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」

ライフ2⇨0

 

 

再び上空に飛び上がったノヴァ、もう一度急降下する。その先は当然Dr.Aのライフ。

 

そして、刹那のうちに、一瞬にして通り過ぎるかのようにDr.Aのライフを破壊、大爆発を起こした。

 

その多すぎる爆煙は晴太に自分の勝ちを確信させるにはあまりにも十分すぎるものであって…………

 

 

「空は……快晴なり!!」

 

 

晴太が口角を上げ、そう言うと、ノヴァも前脚を上げ、翼を広げ、高らかに気高く吠えて見せた。

 

……これが、空野晴太と後に【エグゼシード・フォース】と呼ばれるデッキとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本当のハイライトカードは…………」
晴太「【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】だ!!」
椎名「っ!!先生!?」
晴太「おうよ!!17歳の姿での登場だ!!」
椎名「おぉ、先生が私と同じ歳………じゃなくて!!これ私のコーナー!!」
晴太「まぁ、そうプンスカすんなって、しばらく俺が主役なんだから………んじゃ、でもって……エグゼシード・ノヴァはその名の通り、ジークヴルム・ノヴァの力を受け継いだエグゼシード!!ライフを回復できる効果は健在だ!!」
椎名「……全部言っちゃったよ」


******


〈次回予告!!〉


ひょんな事からエグゼシードのデッキを手に入れた晴太。そのデッキには4種のエグゼシードのカードが新たに加えられていた。デッキを調整し、久しぶりにバトルに対して強くやる気を出す晴太。そんな彼の新しいデッキの餌食になる第1号とは………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ外伝【エグゼシード伝説】……「大海をも焦がす爆炎」……今、伝説が進化する!!


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

今回から外伝に入りました!!今これをやった理由はいろいろありますが、一先ず、公式のコラボ待つためっていうのが大きいですかね、

エグゼシードはコラボのカードを除けば一番好きなバトスピのカードなので、外伝で大いに活躍させる事が出来ることを凄く嬉しく思っています!!

ちなみに、晴太先生の使用するエグゼシードは最強ジャンプにて付録となった4体のエグゼシードです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。