バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

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第74話「大海をも焦がす爆炎」

 

 

 

 

 

 

 

エグゼシード・ノヴァの超新星にも勝にも劣らない激突が、爆風と爆煙を生み、それが夜中を迎えた路地裏に散りばめられる。

 

晴太は命を賭けたバトルスピリッツに見事勝利を収めた。自身のオーバーエヴォリューションによって得た新たな力、エグゼシードによって………

 

 

「………どこだ?……どこに行きやがった!?」

 

 

しかし、爆風と爆煙が完全に消え去る時、そこにはもうDr.Aの姿はなく、ただそこには1つのBパッドが置かれていた。その盤面には兎姫のデッキも確認できる。

 

そして、彼が消えたことによる影響なのか、兎姫を縛っていた闇も徐々に徐々にと薄まっていき、

 

 

「晴君!!大丈夫!!?」

「おぉ、兎姫ちゃん!!……よかったよかった!!無事で何より」

「私なんかどうでもいいわよ!!あんたはどうなのよ?」

 

 

自分の命がかかっていたと言うのにもかかわらず、兎姫は晴太の心配をする。晴太はその兎姫の様子に、「肝が座ってるなぁ」と感じつつも、口角を上げ………

 

 

「あぁ!!全然大丈夫よ!!ほらほら、このとお…………り?」

「晴君!?!」

 

 

命を賭けたバトルスピリッツ。それは晴太を極限の緊張状態にしてしまっていたのか、糸が切れたかのように晴太は気を失った。

 

 

******

 

 

「晴太、君は選ばれた……」

「?」

 

 

晴太の前には真っ暗な世界が広がっていた。どこまで続いているのかもわからない。ここが果てしなく広いのか、はたまた狭いのかも知れない。そんな認識もできない空間。

 

そんな中、ただ1つの声が聞こえてきた。

 

その声は晴太に選ばれた………そう告げた。

 

 

「君はやがて訪れるであろう災いを止めるために生まれてきた」

「………何言ってんだ?……お前は誰だ?」

「そうだな、私は君の遺伝子……とでも言っておこうか……」

「遺伝子?」

 

 

話の内容がいやに中途半端というか、抽象的というか、俄かには信じられない言葉を送ってくるその謎の声。

 

 

「とにかく、君は今、強くなれ、もっともっと……強くなることだけを考えるんだ」

「………強く」

 

 

その声はやがて晴太のかすれていく意識の中へと消え去っていった。

 

皆まで言わなくてもいい、わかっている。もっと強くなる。強くならなければならない。

 

強くなくては、この先、大事な人たちや、これから大事な人たちになるであろう人たちを守ることなど、できやしないのだから…………

 

 

******

 

 

「………っ!」

 

 

晴太は目を覚ました。

 

その目線は見慣れた風景。いつも見ている。ここは自分の部屋のベッド、目線は天井だ。そして腰をあげ、横の窓を見てみれば、その色でもう夜の時を迎えているのが十分に理解できる。

 

 

「あぁ、そっか、俺、あの後倒れたんだ…………でも、夢の中、何か誰かに言われたような………」

 

 

何か、何かを忘れてる気がする。夢で見た、聞いたあの言葉。なんだったか………いまいち思い出せない。

 

と、そんな時だ。扉の開く音がする。

 

 

「……晴君?」

「ん?」

 

 

その人物は兎姫。晴太をここまで頑張って運んできたのももちろん彼女だ。兎姫は晴太の様子を見るやいなや、思わず駆け出し、晴太を抱きしめる。

 

 

「兎姫ちゃん………」

「良かった………本当に、良かった……!!」

 

 

今にも泣き崩れそうな声でそう告げる兎姫。

 

そして、今はなんというか、

 

簡単な言葉で表すならば、良いムード。異性に抱きしめられたのなら、そう考える人も多いかも知れない。

 

しかし、晴太はすっごく……すっごく残念な男。そのムードさえをも気づかず………

 

 

「いや〜〜兎姫ちゃんって、いい匂いするよね〜〜制服のままなのにさ!!洗剤何使ってんの?」

「っ!?」

 

 

晴太の空気の読めない発言で我に帰ったか、兎姫は自分のしたことに理解を覚え、急激に顔を赤くする。

 

そして………

 

 

「私に近づくなぁぁぁあ!!このボンクラァァァァア!!!!」

「何故ぇぇ!?ぶぉっ!?」

 

 

思いっきり顔をビンタされた。

 

晴太にとっては本当に理不尽にしか思えないことだろう。何せ、近づいて来たのは兎姫の方なのだから……

 

その頬には赤い手形が刻まれた。ヒリヒリする。さっきまで気絶していたのにこの仕打ちはなんだ………と、晴太は考えた。

 

 

「フンッ!!……目が覚めたなら私は帰るわよ!!じゃあね!!」

「なんで怒ったんだよ………あ、そうだ兎姫ちゃんっ!」

「な、何よ………」

「デッキ無事だった?」

「え?あ、あぁ、デッキならあの場所に残ってたわよ、1枚足りとも抜けてなかったわ」

「ニッヒヒ!!そうか!!良かったな!!」

「な、何よ……晴君のくせに、じゃあ帰るからね……明日はちゃんと授業受けなさいよ!!机にプリントも置いておいたから!!」

「おう!!」

 

 

そう言って、兎姫は晴太の部屋を出て行った。その表情にはどこか嬉しそうにしており………

 

そんな兎姫が出て行った晴太は………

 

 

「さてさて、じゃあ、兎姫ちゃんがいなくなったところで、デッキを確認しますかな〜〜」

 

 

晴太は自分の机の上にあったデッキを確認する。もちろん兎姫の持ってきたプリントなど見向きもせず………

 

 

「へ〜〜結構いろんなの混ざっちゃったな〜〜みんなエグゼシードの名前が刻まれてる。まっさかあのオーバーエヴォリューションの力を俺が発現させちゃうなんてなぁ〜〜やっぱ俺ってば天才だな!!」

 

 

その中には、新たなスピリットカードが3種類投入されていた。しかも、どのカードもかなりのハイスペック。今や殆どの人たちが所持している強カード群、デジタルスピリットにも負けないだろう。

 

寧ろそれ以上にも思えてくる。

 

 

「よぉ〜し!!早速朝までデッキを調整すっぞ!!……うぉぉお!!」

 

 

晴太がここまでバトスピにやる気を示したのは何年振りだろうか。そのデッキも何年も変わっていなかったというのに、

 

余程このエグゼシード達を気に入ったと見れる。そして時刻は進み…………早朝へ………

 

 

******

 

 

「お〜〜い!!晴君!!起きなさ〜〜い!!」

「ん?んん、姉ちゃん………もうちょっと……」

「だーめッ!!今日ばかりは絶対に学校に行ってもらうんだから!!」

「………んーー、なんで姉ちゃんまで怒ってるんだよ」

 

 

晴太は結局夜遅くまでデッキを新たに構築してしまっていた。が故に、眠気がなかなか取れない。

 

姉の菜々子も今日ばかりはどうしても晴太を起こしたいのか、えらくしつこい。いつもならこんなことはしないのに…………

 

 

「今日は学園の購買に【奇跡のたこ焼きパン】が並ぶそうじゃない〜〜!!お願い晴君!!私の分も買って来て!!」

「………き、奇跡のたこ焼きパン…………だと!?」

 

 

【奇跡のたこ焼きパン】………

 

……その言葉を耳に入れた瞬間、晴太は嘘のように眠気が覚めた。

 

奇跡のたこ焼きパンとは……この界放市を転々と回る出店、奇跡のたこ焼き店から作られる最強のたこ焼き。それに遭遇する確率はかなり低い。

 

だが、今日は何故かその奇跡のたこ焼きをパンで挟んだ究極の一品が、このバトスピ学園 ジークフリード校に並ぶのだと言う。

 

こんな奇跡、2度とないだろう………

 

 

「姉ちゃん………俺、行くよ、学園!!」

「おっしゃあ!!頑張ってね!!御武運を!!」

 

 

菜々子は晴太に向かって敬礼する。独特だが、これが晴太の姉、空野菜々子なのだ。その言動や行動は天然度マックスと言える。

 

これが後に、晴太の師とも呼べる存在、一木花火と結婚するのだから、人とはわからないものである。

 

晴太は学園に行くべく、急いで支度する………もちろん、昨日作成したデッキも忘れない。

 

 

「………あ、それはそうと昨日、兎姫ちゃんと何があったの?」

「兎姫ちゃんと………あぁ、まぁ、色々とね」

 

 

唐突に昨日のことを聞いてくる菜々子。

 

晴太は言えなかった。昨日、命を賭けてバトルスピリッツをしたことなど、しかもそれで負けかけたなど言えるわけがない。いくら天然な姉でもそればかりは流石に気にしてしまうだろう………

 

だが、菜々子が聞きたいのはそこではなく…………

 

 

「まぁ、色々って何!?どこまで行ったの!?」

「あぁ?どこまでって…………姉ちゃん……なんか勘違いしてる?」

 

 

空野菜々子………今年で22歳。弟、晴太の恋が気になるお年頃………だが、晴太は兎姫に全く気がないし、気づかない。果てしなく鈍感なのだ。

 

晴太はその後恋愛脳の姉を置いて、学園へと向かった。

 

 

******

 

 

ここはバトスピ 学園 ジークフリード校。創設3年目の新設校でもある。ここでは高校の単位ももらえる上に、プロバトラーの資格まで取ることができる。

 

そんな素晴らしい学園に、晴太達は通っている。

 

 

「おっす!!兎姫ちゃん!!おっはよう!!」

「……むっ、おはよう」

 

 

教室に入った晴太は兎姫に元気よく挨拶するが、兎姫はどこかまだ不機嫌。さっきのことを気にしてるのだろうか。

 

 

「も、もしかしてまだ昨日のこと気にしてらっしゃる?」

「……フンッ、別にーーー」

 

 

晴太は気にかけるようになんとか和ませようとするが、兎姫はやはりどこか素っ気ない。

 

しかし、心の中では…………

 

 

(くっ、なんで普通に話せないのよ!!……別に昨日の事はもう怒ってないし!!……なんでいつもこんなんなの私は!!………え?待ってこれなんか私があいつのこと意識してるみたいじゃない!!!違う違うそんなんじゃないし!!)

 

 

果てしなく、ぐるぐるとその乙女の頭の思考は循環していた。

 

晴太を意識する。次はそれを否定する。落ち着いたところで晴太の事を考え、また意識する。これの繰り返しだ。ずっと。

 

そんな兎姫の様子に晴太は未だに気づかない。

 

 

「……あっはは、まぁ、昨日は俺を家まで送ってくれたしさ、奇跡のたこ焼きパンでも奢ろうか?」

「っ!!」

 

 

晴太の思いがけない言葉に、目の色を変える兎姫。

 

晴太が兎姫に何かを奢るというのは、取り立て珍しいわけではない。問題はその奢る対象物。あの奇跡のたこ焼きだ。

 

 

「晴君、奇跡のたこ焼きパンって………限定20個しか売られないのよ?………昼の授業が終わってから購買に行っても間に合うわけないでしょ?売り切れ確定よ?」

「…………なんかやけに詳しいな?」

「え?……あ、いや!!べ、別に好きで知ってるわけじゃないんだからね!!私たこ焼き嫌いだし!!」

「ん?あ、そう?…確かにたこ焼きは兎姫ちゃんのイメージには合わないかもなーーー」

 

 

兎姫が情報に詳しい事に若干驚く晴太。

 

まぁ、自分と違って優等生だし、当たり前だろうと思っていたが。

 

 

「限定20個………まぁ、そんだけあれば十分だよ!!前半の授業が終わるのは12時30分。でも購買が開くのは12時ジャストなんだ。途中で授業抜けて購買行けたら変えるって!!」

「またあんたそんなくだらない理由で学校サボって!!」

「こちとら姉ちゃんの分まで買わなきゃならないんだよ、兎姫ちゃんがなんと言おうと俺は奇跡のたこ焼きパンを買ってみせるぜ!!」

「………カッコつけて言うことじゃないし………」

 

 

晴太の言う通り、購買が開く時間は12時ジャスト。前半の授業が終わるのはその30分後だ。つまりその30分の間に購買に行けばほぼ安心して買うことができる。

 

晴太は燃えていた。いつになく、男のプライドさえをも賭けて奇跡のたこ焼きパンを欲していた。その様子は昨日命懸けでバトルした人物とは思えない。

 

 

******

 

 

………そして時は経ち、正午。

 

 

「………ふっふっふ、天才の俺にかかれば授業抜けだすなんて朝飯前ならぬ昼飯前だな!!」

 

 

そうあまり上手い事を言ってるわけでもない晴太は廊下を歩いていた。目指すは当然学園の購買。人気が少ないこともあって晴太は購入できるのを確信していた。

 

だが、それ以上に今気になることがあって………

 

 

「………で、なんで兎姫ちゃんまでついてきてんの?」

 

 

兎姫が晴太の横を歩いていたことだ。あの優等生の兎姫が授業中に抜けて来るなど信じがたいことである。

 

 

「べ、別に好きで来てるわけじゃないわよ!!勘違いしないでよね!!」

「………じゃあ来るなよ……」

 

 

と、雑談を交えながらも晴太と兎姫はようやく購買のある場所まで辿り着いた。人も並んでいない。男子生徒が【たったの1人だけだ】

 

1人だけなら売り切れることはない。買って2つか3つだ。晴太は購入できるのを今一度確信し、その男子生徒の後ろに並んだ。

 

しかし…………

 

………その男子生徒が購買のおばちゃんに言い放った言葉は晴太にとって想像を絶するものであって………

 

 

「おばさん、【奇跡のたこ焼きパン20個くれ】……」

「あいよ〜〜」

「??????!?」

 

 

その言葉に晴太は耳を疑った。こんなに早く来たのだ、奇跡のたこ焼きパンが狙い目だったのは理解できるが、まさかのフルスロットル。

 

これに黙ってるわけにはいかない………

 

 

「おいおいおいおい!!!待て待てぇぇっ!!」

「ん?なんだ、お前は……」

「なんだはこっちのセリフじゃぁ!!!お前1人で何個パン食うつもりだ!!」

「………20個だ」

「知ってるわぁ!!」

 

 

軽くあしらわれる晴太。急に始まった喧嘩に、購買のおばちゃんもおろおろする。

 

 

「俺が先に並んでたんだ。いくつ買おうが俺の勝手だろ?」

「1人でそんなに食わなくったっていいだろう!?一個くらい分けやがれ!!」

 

 

その男子生徒は晴太よりも背が高い。上からの物言いは圧力が凄まじい。だが、晴太も負けず劣らず反発する。

 

このまま言い争っていては拉致があかないと見たか、男子生徒の方が提案をする。

 

 

「ならばバトルで決めるぞ………」

「っ!?」

「ここはバトスピ学園、バトルで決めるのが筋ってもんだろう?………お前が勝てばたこ焼きパンはくれてやる。が、俺が勝てば俺がたこ焼きパンを食う………どうだ?」

 

 

突然のバトルの提案。

 

バトスピ学園だけではない。この世界において、バトルスピリッツでこの程度の賭けをするなど珍しいことではない。晴太もそれを知っているからこそ、あまり驚くそぶりは見せず…………

 

 

「へっ!!いいぜ!!受けてやる!!」

「フッ、そうでなくてはな……!!スタジアムに行くぞ!!」

「おう!!」

「ちょっと待って晴君」

 

 

学園内のスタジアムに行こうとする両者2名。だが、その前に晴太を兎姫は少し呼び止める。

 

別に晴太を叱ろうとは考えてはいない。理由はどうあれバトルを止める理由にはならない。自分が教師の立場だったら変わってたのだろうが………

 

理由は、今から晴太がバトルする男子生徒にあった。その男子生徒はこの学園でもかなり有名なバトラーであって………

 

 

「あの人は多分、私達より1個上の先輩、【海皇 静怒(かいおう せいど)】よ………その使うデッキから、だいたい上の名前で呼ばれてる………去年の界放リーグでも2位になった強者よ」

「ふ〜〜ん…………へっ、じゃあ、俺の新しいデッキを試すには十分過ぎる相手だぜ!!おめでとう!!海皇!!お前は俺の新しいデッキの餌食第1号に選ばれた!!」

「フンッ、無名のバトラー如きが、図にのるなよ……!!」

 

 

晴太は海皇の素性を知るや否や、指を彼に刺し向け、強く言い放った。余程自信がある事が伺える。

 

そんな海皇も鋭い目つきで生意気な歳下である晴太を睨みつける。

 

そうだ。自分は去年ジークフリード校の代表に選ばれ、界放リーグで2位の称号を勝ち攫った強者。こんな名も知れない後輩に負けるわけがない。

 

そして2人は改めて向かった。バトルができる第3スタジアムへ…………

 

 

******

 

 

Bパッドを構える両者。準備は万端。いつでも行ける状態だ。

 

 

「よっしゃぁっ!!始めようぜ海皇!!」

「……最初に言っておく、俺はお前より1個上の学年だ……言葉は慎め……」

「あぁ?んな事どうだっていいだろ?かってーこと気にすんなよ」

「馴れ馴れしい奴だ………時間が惜しい、早く始めるぞ」

「………自分から止めたくせに……」

 

 

自分を呼び捨てする晴太の言葉を訂正しようとする海皇。だが、それもすぐに諦める。

 

この時、この時代。晴太はバトスピのモチベーション自体がなかったために、1年次やジュニア時代、界放リーグをはじめとする大きな大会に参加はしてはいない。

 

が故に実力があっても名前が知られていない。例え彼が若きプロバトラー、一木花火の一番弟子であってもだ。

 

………そして始まる。奇跡のたこ焼きにパンを挟んだ究極の一品、奇跡のたこ焼きパンを賭けて………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが幕を開ける。

 

先行は海皇………

 

 

[ターン01]海皇

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺は成長期スピリット、ゴマモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

「っ!!青のデジタルスピリットか!!」

 

 

海皇が初手で召喚したのは、その名前の通りゴマフアザラシのような見た目の青属性の成長期スピリット、ゴマモン。

 

 

「いちいちリアクションのデカイ奴だ……召喚時、カードをオープン!!」

オープンカード↓

【ダゴモン】◯

【ストロングドロー】×

 

 

その召喚時も成功、海皇はその手札に新たなカードを手札に加え、残りをトラッシュへと破棄した。

 

 

「さらにバーストをセットし、ターンエンド」

手札4⇨5⇨4

【ゴマモン】LV1(1)BP3000(回復)

 

バースト【有】

 

 

先行の第1ターン目としては動けていた方か、しかしそれもここまでが限界。海皇はそのターンをエンドとした。

 

次は晴太のターン。ついに新しいデッキを回す時が来た。

 

 

[ターン02]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!っしぁっ!!行くぜ!!先ずはコレオンを召喚!!さらにネクサスカード、情熱サーキットを配置してターンエンド!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

【コレオン】LV2(2)BP3000(回復)

 

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【無】

 

 

ライオンをこれでもかとデフォルメした赤の小型スピリット、コレオン。そしてこのバトル場の外縁部に火の玉をが走るサーキットが出現した。

 

直ぐにエンドとなってしまうが、幸先の良いスタート言える。何せこのサーキットは…………

 

 

「ほらほら、お前のターンだぜ!!海皇!!」

「フンッ、この程度の火に怯む俺じゃないぞ」

 

 

互いの様子見はここまでか、ここからバトルの流れが急速に加速する。

 

 

[ターン03]海皇

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!!俺もネクサスカード、N o.2ブルーフォレストを配置!!さらに2体目のゴマモンを召喚!!効果も発揮させる!!」

手札5⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【マントラドロー】×

【イッカクモン】◯

 

 

海皇は背後に吸い込まれるような深い青色に染まった森を配置すると共に、2体目のゴマモンを召喚。そしてその効果も成功、海皇は新たにカードを加えた。

 

 

「……出し惜しみはしない、アタックステップ!!やれ!ゴマモン!!」

手札3⇨4

 

「っ!!ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

ゴマモンが晴太のライフへと飛び出して行き、そのライフを鋭い鉤爪で1つ引き裂いた。Dr.Aの時と違って当然実際に痛みは感じない。

 

 

「ネクサスカード、情熱サーキットの効果!!相手のアタックステップ中、俺のライフが減った時、カードを1枚オープンし、それが神皇、又は十冠スピリットならノーコスト召喚する!!」

「……っ!!運試しか……」

 

 

情熱サーキットの火の玉が加速し、外縁に広がるサーキットをぐるぐると駆け回る。そして、その火の玉の1つは晴太のデッキへと衝突し、晴太にオープンさせる権利を与えた。

 

 

「さぁ行くぜ!!カード………オープン!!」

オープンカード↓

【廣獣竜ドラリオン】◯

 

「……っ!?」

 

 

効果は成功。十冠スピリット、ドラリオンだ。

 

晴太はこのカードを見るやいなや口角を上げ、召喚する。

 

 

「よっし!!来い!!廣獣竜ドラリオン!!」

リザーブ1⇨0

【廣獣竜ドラリオン】LV1(1)BP5000

 

 

晴太の場へと現れたのは顔が竜、胴体が猛獣のスピリット、ドラリオンだ。このスピリットは晴太の以前のデッキからの重要な役回りを担う存在。その立ち位置はこのデッキでも変わらず…………

 

 

「召喚時効果!!BP5000以下のスピリット2体を破壊する!!対象は2体のゴマモン!!」

「………っ!?」

 

 

ドラリオンの口内から放たれる渦巻く炎。それが2体のゴマモンを巻き込んで行き、終いには焼き尽くしてみせた。

 

これで大きく流れを持っていける。そう思う晴太だが、海皇はなおもその冷静な表情を変えることはなく、静かにその伏せていたバーストを反転させる。

 

 

「バースト発動!!ダゴモン!!効果によりノーコスト召喚する!!」

【ダゴモン】LV1(1)BP7000

 

「……なにっ!?」

 

 

バーストが反転すると共に場へと広がる黒い海。そこから浮かび上がってくるのはタコのような謎の完全体スピリット、ダゴモン。

 

 

「ダゴモンの召喚時効果、召喚時効果を持つスピリット1体を破壊!!」

「っ!?」

「………当然、ドラリオンだ」

 

 

ダゴモンはその触手のような腕を晴太の場にいるドラリオンの方へと伸ばし、それを縛り付け、自分の足元にある黒い海へと引きずり込んだ。

 

そしてドラリオンがそこから這い上がってくることは決してなく………

 

 

「効果によって加えたカードを確認もしないとは、バカな奴め……アタックステップは継続、ダゴモンでアタックする!」

 

「くっ!!ライフで受ける!!」

ライフ4⇨3

 

 

ダゴモンの口内から放たれる黒い塊が晴太のライフをまた1つ粉々に粉砕した。

 

 

「もう一度情熱サーキット!!…………あれ?」

オープンカード↓

【ダイナバースト】×

 

 

ライフの減少により、再び情熱サーキットの効果を発揮させるが、次に捲られたのはスピリットではなくマジックカード、当然何事もなかったかのようにトラッシュへと破棄された。

 

 

「……そんなものに一喜一憂するか……くだらん、ターンエンドだ」

【ダゴモン】LV1(1)BP7000(疲労)

 

【No.2ブルーフォレスト】LV1

 

バースト【無】

 

 

海皇はそのターンをエンドとした。

 

彼はこのターン、晴太の行き当たりばったりなバトルに呆れてた。この程度の実力で自分とのバトルを承諾したかと思うと愚かだとしか思えて来ない。

 

だが、当然、晴太とてこのままで終わるはずがなく………

 

 

「なるほどな〜〜界放リーグ2位ってのは嘘じゃないらしい…………だけど俺の新しいデッキはこんなもんじゃないぜ〜〜!!」

 

 

晴太の反撃が幕を開ける。

 

 

[ターン04]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!!行くぜ海皇!!こっからが勝負だ!!」

(……なんだ?…奴の波が変わった……ここで何か来るのか?……)

 

 

波が変わった。

 

これは海皇の独特な言い回し。彼はその場の雰囲気や空気などを波。と呼ぶ。

 

たった今、晴太にとって良い、高い波が来た。そう感じたのだ。それはつまりここで必ずエースを召喚する事を直観的に理解したという事であって………

 

 

「先ずはバーストを伏せ、召喚!!エグゼシード・ビレフト!!LV3だ!!」

手札4⇨2

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

晴太の背後から何かが走ってくる。それは晴太の頭を飛び越え、場へと着地する。

 

かの有名なスピリット、エグゼシードの名を冠したスピリット、エグゼシード・ビレフトが晴太の場へと姿を見せた。

 

 

「……エグゼシード?……十二神皇スピリットの?………しかしサイズが違う………」

「へっ!!そりゃ知らねぇよなぁ!!これは俺だけのカードなんだからよ!!」

 

 

ビレフトをはじめとするエグゼシード達は晴太のオーバーエヴォリューションによって新たに現れたカード。しかもそれはつい昨日の話。

 

この時点でそれを認知していたのはほんの僅かな者達しかいない。

 

 

「アタックステップッ!!今度はこっちから行くぜ!!ビレフトでアタック!!効果で1枚ドロー!!」

手札2⇨3

 

 

走り出すビレフト。そのアタック時効果は4コストの赤スピリットとしてはありふれている効果。決して弱くはない、便利な効果だ。

 

そして、それだけではなく…………

 

 

「もう1つのアタック時効果!!【輝石封印】!!ビレフトのソウルコアを俺のライフに!!……そしてビレフトはこのターン、そのコストを6にする!!」

ライフ3⇨4s

【エグゼシード・ビレフト】(4s⇨3)LV3⇨2(コスト4⇨6)

 

 

Bパッド上のビレフトのソウルコアが晴太のライフへと移動する。そしてビレフトは赤い光を一瞬纏い、そのコストを上昇させる。

 

基本的にコストを上げる行為は意味がないが、ここでは大いに意味があるものであって………

 

 

「さらに【煌臨】発揮!!対象はビレフト!!」

手札3⇨2

ライフ4s⇨3

 

「………さらに大きな波が……!!」

 

 

晴太のソウルコアは今度はトラッシュへと移動する。

 

そして地を駆けていたビレフトは宙をを駆け上がり、さらには神々しい赤き光をその身に纏い姿形を大きく変えていく。

 

 

「救世の力よ!!今こそ駿馬に宿て全てを照らせ!!煌臨!!超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ!!」

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】LV2(3)BP20000

 

 

その赤き光を解き放ち、新たに現れたのはビレフトが進化した姿。ノヴァだ。その翼を広げ、今もなお、上空を駆ける。

 

 

「……なんだこいつは………お前はいったい?」

 

 

見たこともないスピリット。そのスピリットから放たれる圧力というのは計り知れないものがある。

 

海皇は当然その存在に驚愕したことだろう。

 

 

「へっ!!……俺はただの天才だ!!それ以上でも以下でもねぇ!!……ノヴァの煌臨時!!俺のライフを5にする!!」

ライフ3⇨5

 

「なにっ!?」

 

 

ノヴァから放たれる神秘の光。それが晴太のライフへと直撃し、癒しの力を与える。そのライフは全回となり、初期の状態に戻った。

 

この強力な煌臨時効果に、海皇は驚かないわけがなく……これにより有利なはずだったダメージレースが覆ってしまう。

 

 

「煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!故にアタックは継続!!ノヴァでアタックだ!!」

「くっ……ライフで………」

「超新星天撃……ノヴァ・ゲイザー!!!」

 

「ぐっ、くうっ!!」

ライフ5⇨3

 

 

上空から海皇のライフへと狙いを定め、急降下するノヴァ。そして目にも留まらぬ速さで一瞬のうちにそこを通り過ぎ、海皇のライフ2つを一気に砕いた。

 

 

「お前も行け!!コレオン!!」

 

「っ!!それもだ」

ライフ3⇨2

 

 

コレオンも海皇のライフを破壊すべく走り出す。そして見事に飛び蹴りでそのライフを1つ砕いた。

 

 

「よっしゃ!!これで一気に大逆転だな!!これで奇跡のたこ焼きパンはいただきだぜぇ!!……エンドだ!!」

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】LV2(3)BP20000(疲労)

【コレオン】LV2(2)BP3000(疲労)

 

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【有】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとした晴太。

 

ノヴァの効果も相まって、ダメージレースはひっくり返り、完全に有利な状況を作り出した。しかもその相手は去年の界放リーグ2位の海皇静怒にだ。いくら知らない強力なカードで初見殺ししたと言ってもこれほど彼を追い詰める事ができるバトラーなど、おそらくジークフリード校にはそういないことだろう。

 

次は追い詰められた海皇のターン。さっきまでは見たこともない晴太のスピリットに驚愕していたが、慣れてきたのか、既に冷静さを取り戻しており………

 

 

「この学園にここまでの奴が埋もれていたとはな………だが1つだけ教えてやる………」

「?」

「……火はどう足掻こうとも水には勝てん……!!」

「あぁ?」

「それを今、お前に叩き込んでやる……!!」

 

 

これは海皇の例え。バトルにおいて、火が水に勝てないなどの原理は通用しない。当然である。テキストに書かれていることが全てなのだから………

 

だが、これは彼の必ず勝利するという溢れんばかりの自信を表しているのであって………

 

 

[ターン05]海皇

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨8

トラッシュ3⇨0

【ダゴモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺は3体目のゴマモンを召喚し、効果を発揮!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨1

トラッシュ0⇨1

オープンカード↓

【スプラッシュザッパー】×

【ズドモン】◯

 

 

海皇は3体目となるゴマモンを召喚。そしてこの効果も成功、彼はまた新たなカードを手札へと加えた。

 

そして、時は迎えたか、海皇ははらにアタックステップでゴマモンのもう1つの効果を発揮させる。

 

 

「俺に波が流れてきた、アタックステップ!!ゴマモンの【進化:青】を発揮!!成熟期スピリット、イッカクモンへ進化させる!!」

手札4⇨5

【イッカクモン】LV3(6)BP8000

 

「っ!!…やっと進化しやがったか」

 

 

ゴマモンが0と1のデジタルコードに巻き付けられ、その中で姿形を大きく変えていく。

 

やがてそれは破裂し、中から現れたのは、白き体毛に包まれた大きな体格に加え、長い1本のツノを携えた青の成熟期スピリット、イッカクモンだ。

 

 

「アタックステップは継続!!やれ!!イッカクモン!!」

「はん!!俺のライフはノヴァの効果で5!!そんくらい受けてやるぜ!!」

 

 

晴太はこの時余裕を持っていた。エグゼシード達と出会って間もないからと言っても、その様子は調子に乗っていると言わざるを得ない。

 

ライフは初期と同じ5。しかもセットしてあるバーストカードは相手のアタックステップを止める効果を持つ絶甲氷盾。この時、晴太は完全に自分の勝利を確信していた。

 

確かに全くもって動きに無駄がなくて、それでいて強く、隙がない。

 

だが、海皇が狙っているのは晴太のライフなどではなく………

 

 

「……そいつが出た時からライフのダメージレースで勝とうなんざ思ってはいない!!……イッカクモンの効果!!相手のデッキを3枚破棄する!!」

 

「っ!?なにっ!?」

デッキ31⇨28

 

 

イッカクモンの名前の通り存在する一角から放たれる稲妻に、晴太のデッキが直撃、そのデッキが3枚めくれ、破棄される。

 

そしてその中にはマジックカードの【ダイナバースト】が確認でき………

 

 

「さらにマジックカードの破棄により、コスト5以下のスピリット、コレオンを破壊!!」

「っ!!」

 

 

今度はその一角をミサイルのように射出するイッカクモン。それは晴太の場に存在するコレオンに直撃、小さなコレオンがこれ耐えられるわけがなく、難なく爆発し、破壊されてしまった。

 

 

「お、お前………」

「あぁ、そうだ。このままただ殴り合うだけでは勝てないからな、作戦を切り替えさせてもらった……」

 

 

海皇は晴太とのデッキとの相性が悪いと見るやいなや、戦術をデッキ破壊に颯爽と切り替えてきた。そんな頭の起点の速さが、去年の界放リーグで彼を決勝の舞台へと導いたのだ。

 

晴太は今その強者の洗礼を受けている。

 

そして、海皇はその手を緩めることなく、イッカクモンをさらに進化させるべく、効果を発揮させる。

 

 

「さらにイッカクモンのもう1つのアタック時効果、【超進化】を発揮!!青の完全体スピリット、ズドモンをLV3で召喚!!」

【ズドモン】LV3(6)BP14000

 

「っ!!」

 

 

イッカクモンが先ほどのゴマモン同様、0と1のデジタルコードに包まれ、進化する。

 

新たに現れたのは二足歩行の海洋生物のような見た目に加え、背部を強固な甲羅で包み、その手にはハンマーを携えた青の完全体スピリット、ズドモン。

 

海皇のデッキにおいて、相手をデッキ破壊で倒す時のみ使用するエーススピリットだ。

 

 

「……アタックステップは当然継続!!ズドモンでアタックする!!………そしてその効果、【大粉砕】!!」

「っ!?」

「ズドモンのLV掛ける5の枚数分、お前のデッキを破壊する!!……そして今のズドモンのLVは3だ!!」

「………てことは15枚!?」

「その通り!!これが俺の波だ!!」

 

「くっ!!」

デッキ28⇨13

 

 

ズドモンが晴太を鋭い眼光で睨みつけると、ただそれだけで晴太のデッキの上からカードが次々と破棄されていく。これが大粉砕の効果だ。一度のアタックだけで相手のデッキに大きな影響を及ぼすことができる。

 

しかも、その中にはバーストカードの爆烈十紋刃のカードも確認でき…………

 

 

「破棄した中にバーストのカードがあるため、【大粉砕】の追加効果で、お前のスピリットを1体破壊する!!対象はお前のエグゼシード・ノヴァ!!」

「っ!?」

「……雷神の裁き……ハンマースパークッ!!」

 

 

ズドモンがその手に持つハンマーを地面に力強く打ち付けると、雷がこの場に迸り、晴太のノヴァまで走り出す。その速さはノヴァを上回っているのか、ノヴァは逃げる事も出来ず直撃、その身に電撃が走り、大爆発を起こしてしまった。

 

 

「くっ!!ノヴァッ!!」

 

「さらにネクサスカード、ブルーフォレストの効果でコアを2つズドモンに追加」

【ズドモン】(6⇨8)

 

 

あれだけ有利だった盤面が一変。イッカクモンとズドモンによって殆どひっくり返されてしまった。晴太はノヴァの破壊による爆風を肌で感じながらそう自覚した。

 

そしてまだだ。まだ海皇は止まらない。このターンで決着をつけるべく、さらに1枚のカードを手札から切り………

 

 

「フラッシュマジック!!爆砕轟神掌!!アタック中のズドモンを回復!!」

手札5⇨4

リザーブ1⇨0

【ズドモン】(8⇨6)(疲労⇨回復)

トラッシュ1⇨4

 

「っ!?」

 

 

青き光を一瞬だけその身に纏い、疲労状態から回復状態となったズドモン。これでこのターン、2度目のアタック権利を得た。

 

しかもそれだけではない。【大粉砕】を持つズドモンの2度目のアタック。それはつまり晴太のデッキアウトを意味する。

 

 

(幸い、絶甲氷盾があるからこのターンの負けはない………けど、問題は次のターンだ。なんか良い手は………)

 

 

バーストにより、ズドモンのアタックは止めれるため、少なくともこのターンの負けはないのだが、次に決めなくてはそれも意味がない。

 

晴太は考える。次をどうするか………何を召喚したら海皇に勝つことができるか………

 

 

(俺のデッキでまだ破棄されていないカード……………っ!!そうかあいつだ!!まだあいつがいるぞ!!)

 

 

破棄されたカード達を予め把握していた晴太は、あるスピリットがまだ破棄されていないことに気づく。それは来さえすれば晴太を勝利へと導くであろうエーススピリット。後は残り13枚のデッキの中からそれを引き当てるだけだ………

 

 

(確率は13分の1……いや、普通のドローも合わせると…………だめだ、考えるな……引くことだけを頭に入れろ!!)

 

 

ゆっくりと迫ってくるズドモン。そう時間はない。だが、あれを召喚しなくては、絶対に勝つことはできない。

 

ならば乗っかるしかあるまい、その大きな賭に………

 

 

「ズドモンのアタックはライフで受ける!!……くっ!」

ライフ5⇨4

 

 

晴太の眼前まで迫って来たズドモンが、そのハンマーをライフへと強く打ち付け、1つ砕いた。

 

晴太は先ず、このアタックを止めるべくバーストを発動させる。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!絶甲氷盾!!ライフを1つ回復し、コストを払うことで、アタックステップを終わらせる!!」

ライフ4⇨5

リザーブ6⇨2

トラッシュ3⇨7

 

 

砕かれた晴太のライフが瞬時に回復する。そしてそのすぐ後に、海皇の場に猛吹雪が発生。ズドモン達の視界が阻まれ、身動きできない状態となってしまった。

 

 

「ほお、苦し紛れのバーストだな、その程度で俺の波は緩やかにはならんぞ!!」

 

 

しかし、それでもなお、海皇は落ち着きを見せており………

 

 

「おいおい!!なんか忘れてねぇか?」

「?」

 

 

すると、晴太は情熱サーキットの存在を知らしめるかのように右手を天高く上げてみせる。海皇はその存在を忘れていたわけではないが………

 

 

「この期に及んでさらにデッキを減らす気か?……愚かな、それで外れたらお前の負けだぞ」

「へ!!言ったろ!!俺のデッキにはまだいるんだよ!!ここから逆転できる奴がな!!」

「………引けるわけ……」

「行くぜ!!情熱サーキットの効果!!ライフの減少により、カードをオープンし、神皇、十冠スピリットならノーコスト召喚できる!!」

 

 

ここまで来たらもはや13も12も関係ない。

 

博打だ。晴太は勢いよくその薄くなったデッキの一番上のカードをオープンする。

 

………それは……

 

 

「カード……オープンッ!!!」

オープンカード↓

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】◯

 

「っ!!なに!?」

 

 

……来た……

 

……引いた……本当に引いてみせた。

 

晴太は口角を上げ、そのカードの召喚を猛々しく宣言する。

 

 

「効果は成功!!行くぜ!!爆炎と覇!!2つの力が融合する!!来い!!エグゼシード・バゼル!!」

リザーブ2⇨1

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV1(1)BP10000

 

 

晴太の場に噴き上がる一本の巨大な火柱。それはいとも容易く絶甲氷盾の吹雪を吹き飛ばす。そしてその中で静かに眼光を輝かせるスピリットが1体、それはその火柱を振り払い、姿を見せる。

 

その名は爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル。晴太が自分のオーバーエヴォリューションによって獲得したエグゼシードの1体である。

 

 

「バゼル………やっぱお前かっこいいぜ!!」

「…………波が………変わっただと!?」

 

 

その底が知れない存在に対し、やはり独特なリアクションで答える海皇。

 

だが、強者故にわかってしまうのだ。今、自分の目の前にいるスピリットがどれだけ強力なのかが………直感的に。

 

そしてこれで決着がつくことも………

 

 

「さぁ、アタックステップはとっくに終わったんだ、エンドにしてもらうぜ……!!」

 

「………ターンエンド……っ!!」

【ズドモン】LV3(6)BP14000(回復)

【ダゴモン】LV1(1)BP7000(回復)

 

【No.ブルーフォレスト】LV1

 

バースト【無】

 

 

流石に致し方無しと言ったところか、海皇はそのターンをエンドとしてしまう。

 

次は見事に海皇の攻撃を止めてみせた晴太のターン。召喚されたエグゼシード・バゼルが今こそ動き出す。

 

 

[ターン06]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!!バゼルのLVを上げて、そんままアタックステップッ!!駆けろバゼルッ!!」

リザーブ9⇨6

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】(1⇨4)LV1⇨3

 

 

LVが上昇したバゼルが地を駆ける。目指すは当然………

 

 

「ズドモンだっ!!指定アタックしろ!!」

「なにっ!?」

 

 

火柱が次々と立ち上がり、バゼルとズドモンを繋ぐ炎の道が出来上がる。バゼルはそこを突っ切る。

 

 

「海皇!!お前はさっき火じゃ水には勝てないとか言ってたよな?」

「ッ!!だったらなんだ!!」

「へへ!!知ってるか?強すぎる炎は水を蒸発させるんだぜ!!……バゼルッ!!」

「っ!?」

 

 

晴太がそう言うと、バゼルは腰にある2本の刀を口に咥え、そこに爆炎の炎を灯した。

 

そして、今から放たれる剣撃は、回避不可能な爆炎の一閃………

 

 

「爆炎十文字切りぃぃい!!!」

 

 

バゼルがズドモンを一瞬にして通過したかと思えば、ズドモンの腹部にはすでに十字の後が刻まれており………

 

そこから爆炎の炎が噴き上がり、ズドモンを爆発させた。

 

そして仕上げはバトル終了時の効果………

 

 

「この効果でブロックされたバトルの終わり、相手のライフ2つを破壊するっ!!」

「っ!?」

 

 

ズドモンの破壊による爆煙と爆風の中、海皇がその破壊を肌で感じる前に、バゼルは彼の目の前に佇んでおり………

 

海皇のライフは2つ。終わりだ………

 

 

「………まさかこれほどの奴が…今まで埋もれていたと言うのか!?…お前は本当に何者………」

「ただの天才だ!!」

 

 

次の瞬間、バゼルが口内から力強い爆炎の炎を放ち………

 

 

「くっ!!…うわぁぁぁ!!!」

ライフ2⇨0

 

 

海皇の残りのライフを全て焼き払った。

 

これにより、勝者は晴太。見事、界放リーグの強者を倒して見せた。

 

 

「空は……快晴なり!!」

 

 

晴太がそう言うと、場に残ったバゼルも前脚を上げ、高らかに吠えた。まるで晴太の勝利を祝うかのように。

 

 

 

 

 

「お前、名はなんと言う?………」

「あぁ?」

 

 

Bパッドを折り畳み、晴太に詰め寄る海皇。

 

単純に気になったのだ。この目の前の男が。

 

学年が2年だと言うことは制服を見ればわかる。しかし、そうなればそこまでの実力がありながら去年の界放リーグに参加しなかったことになる。

 

晴太は気に食わなかった海皇にそう言われ、少しだけ怪訝そうな顔をするが、いつまでも小さな事で引きずるのは性に合わないか、口角を上げ……

 

 

「晴太……空野晴太だ!!」

 

 

そう自分の名前を海皇に言い放った。

 

 

「空野か………覚えておこう……」

「ってかさ、海皇……」

「?」

 

 

晴太はそんなことよりかもずっと気になってる事があった。それはこのバトルが始まった理由であり………

 

 

「奇跡のたこ焼きパンは買っても良いよな?」

 

 

海皇は正直、たこ焼きのことなどすっかり頭の中から忘れ去っていた。それほどまでに、晴太とのバトルが衝撃的だったからである。

 

 

「…………好きにしろ、全部くれてやる」

「いや〜〜いいよいいよ!!2つで!!俺と姉ちゃんの分だけで!!残りの18個くらい持ってけよ!!」

 

 

そんな、話がようやく終わりを迎えようとしたその直後だ。

 

 

♪キーン、コーン、カーン、コーン………

 

 

「…………あ」

 

 

午前の授業の終わりを告げる悪夢の鐘が鳴り響いた。それはこの第3スタジアムであっても同様に聞こえる。

 

それが鳴り終わると共に凄まじい足音が轟音のように強く耳に入ってくる。ここは別館だと言うのに………それはたった20個しかない奇跡のたこ焼きパンを得るための戦争。

 

晴太と海皇は完全に出遅れた…………

 

 

「これもまた波か……」

「かっこつけてんじゃねぇ!!」

 

 

晴太はここ1番のツッコミを海皇に放った………

 

 

******

 

 

ここはジークフリード校の校舎屋上………

 

そこに1人の女子生徒がベンチに座って静かに奇跡のたこ焼きパンが入っている袋を開けた。その香ばしい匂いが鼻をかすめる。それだけでこれがどれだけ美味しい一品かが理解できた。

 

 

「まったく……バトルなんかしてたら授業の終わりに間に合うわけないでしょ………あ、やっぱり美味しい……」

 

 

それは鳥山兎姫。

 

彼女が結局一番賢かったか、晴太達がバトルするためにスタジアムに向かった後、こっそり購入していた。

 

晴太が勝つことは確信していたため、晴太と姉の菜々子の分、2個と………後自分の分1個、計3個を買った。

 

言えない。華の女子高生がたこ焼きとか、焼き芋とか、そう言う類のものが好きで好きで堪らないなど……特に好きな男子の前では………

 

兎姫はたこ焼パンの感想を述べながら、静かにその昼休みが終わるのを待った。

 

 

 

******

 

 

 

その日の夜の事だった。そこは1つの一軒家。寺のような見た目、その庭には石垣が積まれており、どこか古参な家の印象を色濃く残している、そんな家の中。

 

ボリュームのある長い赤髪に加え、首に大きめのゴーグルを掛けた少女と、その父らしき厳つい男性が会話していた。

 

 

「明日から学園か………楽しみだ!!」

「茜……大丈夫か?体の弱いお前が一人暮らしとか、パパ心配なんだけど………」

「大丈夫さ親父!!私は【界放市の一番】になって帰ってくる!!」

 

 

茜という少女は父に向かってそう強く宣言した。

 

 

「……そして、花火さまの一番弟子にも会って来るぞぉぉ!!くぅぅ!!楽しみだなぁ!!」

 

 

この赤髪の少女………

 

名は【赤羽 茜(あかばね あかね)】

 

少数派だが、赤属性最強と謳われるバトスピ一族、【赤羽一族】の末裔。その者達は皆独特なバトルセンスを持ち合わせているという。茜はその中でも特に天賦の才能を秘めている。

 

この少女は後に空野晴太の最大のライバルとなる者であって………

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


晴太「本日のハイライトカードは【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】!!」

晴太「エグゼシード・バゼルはバーストの効果を持つスピリット!!指定アタックして、ライフを減らした後に、バーストまで発動できる凄い奴だ!!」


******


〈次回予告!!〉


晴太達のクラスに転校生が現れた。その名は【赤羽茜(あかばねあかね)】……茜はなぜか晴太が花火の弟子である事を知っており、……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ外伝【エグゼシード伝説】…「赤羽茜のウォーグレイモン!!」……今、伝説が進化する!!



******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

赤羽茜につきましては、本編の第6話等に名前だけ登場してますので、そちらも是非ご確認ください!!

海皇のキャラはテレビでサーフィンがやってる時になんか思いつきました笑

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