バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ   作:バナナ 

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第8話「英雄を継ぐ者VS英雄の弟子!炎と炎!」

 

 

 

 

 

「いけぇ!フレイドラモン!……渾身の爆炎!ファイアァァ!ロケット!!」

 

 

第3スタジアムのバトル場で椎名のフレイドラモンが炎を纏い、赤き駿馬、【エグゼシード・ビレフト】に飛び向かっていく。そのエグゼシード・ビレフトを扱っているのは、晴太だ。つまり今は椎名と晴太がバトルしている。

 

この2人がなぜバトルをしているのか、それはほんの30分前に遡る。

 

 

******

 

 

ここは椎名達の教室。授業は終わり、今は放課後。ここからは学生達の自由時間だ。勉強するのも、普通に帰宅するのもあり、スタジアムに向かってバトルをするのも学生の自由だ。

 

そんななか、椎名と真夏はいつものように残ってお喋り。まぁ、普通の女子高生らしいと言えば、らしいが。

 

その内容はこの間の、模手最輝夫の違法薬使用の事件。

 

 

「あぁ!もう!思い出しただけでも腹立つわぁ!ほんまに!!……なんで、あんなのに惚れとったん!?私は!」

「まぁまぁ、薬も抜けたんだし、逮捕されたんだし、もういいじゃん!」

 

 

あのちょっとした事件以後、真夏は模手最に対して怒り狂っていた。薬のせいとは言え、まさかあんなのに惚れていたのは彼女にとって一生の恥だったのだろう。

 

それでも一木聖子のお陰で、ようやく不正がバレ、模手最を現行犯として逮捕できたのだ。椎名の言う通り、水に流しても大丈夫だろう。

 

 

「いやぁ、でも、卒業生ってあんなに強いんだね〜今回は流石に負けたかと思ったよ!」

「あんたはどこまでもどこまでもそれなんやね……………………そう言えば、椎名。あんた、好きな男の子とかおらへんの?」

 

 

真夏が咄嗟に思いついた質問。普通の女子高生なら当たり前にする恋バナだが、椎名がなにぶん普通ではなかったので、そんな話に発展する機会など全くなかった。今回の件でようやくそれっぽい言葉が言えた。

 

 

「ん?好きな男の子?」

「せやせや!なんかこう、メッチャ好き!って感じの奴おらんか?」

「んーーーー、えーーーっと。雅治」

「……………な、なんやとぉぉぉお!?」

 

 

椎名は思い出すように深く考えて答える。意外だった。まさかこの話の内容で雅治が出てくるとは、真夏は思ってもいなかった。雅治の椎名に対する気持ちはとてもわかりやすいため、当然真夏も理解していた。当の本人は全く気づいていないが、……これは雅治にとっても朗報。

 

ーのはずだったが、やはり、椎名は椎名であって、

 

 

「あと、は〜、司、…………くらい?後は兄弟とかか、……意外と少ないなぁ男の子って」

「ん?司?【朱雀】も好きなん?」

「うん!友達だし!」

 

 

真夏は驚いた。椎名は好きの意味を全く理解していなかった。簡単に説明するならば、ライクとラブの違いがわからないと言うことだ。まぁ、椎名自身、本気で恋なんてしたことないのだが。

 

 

「いや、ちゃうちゃう!ちゃうよ!そう言う意味じゃなくてな!……なんか、こう、憧れって言うか、尊敬?みたいな?、…むずいわぁ」

「…憧れ、尊敬、…………あっ!だったら1人いるかも!」

「おっ!誰や!言うて………み?」

 

 

真夏は椎名の幼さからして、本気で恋なんてしたことないと確信していた。そんな椎名が、憧れと、尊敬というワードで導き出した答えは本当に憧れていて、尚且つ尊敬している人物に違いない。そう、真夏は考えた。それならもしかしたらあの人ではないかと、真夏は椎名より先に口を開いてその人物の名を口にする。

 

 

「それって、ひょっとして【一木花火(いちきはなび)】プロのこと?」

 

 

一木花火。現役のプロバトラー。赤属性の使い手で、そのセンスの良さと、実力から、バトルの申し子と呼ばれることもある。もう彼は30近いから、子ではない気もするが。……だが、その若さで【伝説バトラー】に近づきつつあるのは確かなことであった。

 

真夏がそう推理した理由は、椎名がいつもゴーグルを首から提げているから。一木花火のファンは皆、彼の応援をする際は、彼と同じようなゴーグルを首から提げるのだ。

 

ーだが、椎名は、

 

 

「………誰?」

「えぇ!!じゃあ誰やねん!!?」

 

 

思わずずっこける真夏。だけれども、その推理は本当は的中していて、

 

 

「名前は知らないって言うか忘れたんだけど、昔さ、私に生きる力と勇気を与えてくれた人がいてねぇ、その人のかっこいいバトルに憧れて、私は今ここにいるんだ」

 

 

椎名は胸側にあるゴーグルに思いを募らせるようにギュッと握りしめてそう答えた。

 

 

「ふーーーん、てっきり一木プロかと思うたんやけどなぁ……………ちなみにこの人が一木プロやで、ファンの子はみんなあんたみたいにゴーグルつけとる」

「ヘェ〜〜〜これが………………ん?」

 

 

真夏がカバンから取り出したのはバトスピニュースがまとめてある週間冊子。そこには一木花火の活躍している瞬間の写真が一面に大きく載っていた。すぐ横には、彼の長年のエース、かつ、マイフェイバリットのウォーグレイモンも確認できる。

 

椎名はその写真を見て、思わず目を丸くした。そして、思い出した。この顔、ゴーグル、スピリット、…………そしてあの時のうろ覚えになっていた出来事も全て。そうか、この人が一木花火だったのか、と。

 

 

「結構、かっこええやろ!………あっ!そうそう!聞いて驚くなよぉ!なんとな!この人、晴太先生のお義兄さんなんやで!」

 

 

自分の推理が当たっていたことを知らずに椎名にその事実を言ってしまう真夏。それがしばらく続く椎名の暴走の事の発端となることは想像してすらいなかっただろう。

 

 

「………えぇ!!?…………てことは、晴太先生に言えば、この人に会えるの!?!」

「お、おお、どないしたん、急に興奮して………て、おぉぉぉおい!」

 

 

椎名は聞く耳を持たずにすぐさま走り出した。目指すは晴太がいるであろう。職員室だ。

 

 

******

 

 

「晴太先生!!!!」

「うおっ!」

 

 

椎名は勢いよく職員室の扉を開けた。思わず晴太や、作業中の他の先生達は背筋を動かしてしまう。

 

 

「おい、椎名ぁ、職員室はゆっくり開けろよなぁ」

「先生!私、一木花火さんって人に会いたいんです!」

 

 

落ち着きがない椎名は晴太に詰め寄り、目を輝かせながらそう言った。

 

 

「あぁ?花に、…いや、一木プロに会いたい?またなんで急に、……………(そういや、こいつのゴーグル、)」

 

 

思わずハッとなって言葉を詰まらせてしまう晴太。理由は椎名のかけているゴーグルにあった。そのゴーグルは椎名を最初見た時から見覚えがあった。あれは間違いなく一木花火の物だ。幼い頃から彼を見ていた晴太にはわかる。あれは彼の両親が誕生日プレゼントとして渡した一点もののゴーグルだ。今までは単なる偶然だと思っていたが、晴太はこれで確信した。間違いなく花火と椎名には関係性があると。

 

だが、一木プロは今、【イタリアリーグ】に挑戦しているため、呼ぶことは不可能だ。

 

 

「先生、その人の弟なんでしょ!!合わせてよ!」

「ん?弟?………あぁ、義理のな」

「………義理?」

 

 

椎名は義理と聞いて思わずキョトンとしてしまう。そこに真夏が息を切らしながら現れる。ようやく猛ダッシュでかけて行った椎名に追いついた。

 

 

「はぁ、はぁ…………せやで、絶対勘違いしたやろ椎名、晴太先生のお姉さんが、一木プロと結婚したから、先生と一木プロは義理の兄弟なんや、本当の兄弟やないでぇ、て言うか、苗字で別れや」

「あぁ、なるほど、そうだったの、…………いやでも仲良いんでしょ!?合わせてよ!!」

「ちょっ、ちょっ!!止めろ椎名!脳味噌が揺れるぅ!」

 

 

血が繋がってないと理解しても気持ちが収まらない椎名。椅子に腰掛けている晴太の肩を両手で掴み、全力で揺らし、駄々をこねる。晴太はこの暴走列車を止めるために最後の手段に出る。それはいかにもバトスピ学園らしいといった方法であって、

 

 

「わかった、わかったよ!……合わせてやる!」

「本当に!やったぁ!」

「えっ!?先生、今、一木プロって、イタリアリーグに挑戦中なんじゃないんか?」

「その点は俺に任せろ……………ただし、俺にバトルで勝ったらだ!それでいいだろ?」

 

 

そう、それはバトルスピリッツによる勝負だ。『その点は俺に任せろ』と言っているが、無理だ。呼ぶことはできない。つまり、晴太は絶対に負けられない賭けを椎名に持ちかけたのだ。

 

 

「おっ!ちょろいちょろい!望むところだよ!」

 

 

椎名は一度晴太に勝っているためか、自信満々で応答する。そして3人はフリーで対戦できる第3スタジアムへと足を運んだ。

 

 

 

******

 

 

 

早速、椎名と晴太はBパッドを展開させて、バトルの準備を始める。真夏は上の観客席でその光景を眺めていた。

 

 

「……はぁ…なんで、こうなったんやろ」

「…………やぁ、緑坂さん」

「ん?……長峰と、【朱雀】やないか」

 

 

ため息をつく真夏の横に現れたのは雅治と【朱雀】こと、赤羽司。真夏は2人にこの状況をざっくりと説明した。

 

 

「………なるほど、でも、これはなかなか面白いカードだね、入試以来じゃないかな?」

「まぁ、どちらにせよめざしに感謝だな、あの【一木花火の唯一の弟子】と名高い空野晴太の本気をこの目で拝めるんだからな」

 

 

一木花火は教え子などつくらない性分なのだが、晴太だけは彼の弟子だったと言う。その実態は昔から遊んでもらっていただけなのだが、

 

そんなこんなで、全ての準備を完了した2人のバトルが幕を開けようとしていた。

 

 

「いくよ!先生!」

「あぁ、どっからでもかかってこい!」

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

ーバトル場が光の筋で満たされて、バトルが始まる。先行は晴太だ。

 

 

[ターン01]晴太

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、……来い!コレオン!ハクビシンドローン!」

手札5⇨3

リザーブ4⇨2

 

 

晴太が颯爽と召喚させたのはライオンをこれでもかとデフォルメした可愛らしいスピリット、コレオンと、ドローンに乗り、飛行する白鼻芯のスピリット、ハクビシンドローン。

 

この2体のスピリットは椎名には見覚えがなくて、

 

 

「あ、あれ!?先生のスピリットにそんなのいたっけ?」

「ん?……あぁ、あれは入試用のデッキだったからな、今回は本気のデッキだ」

 

 

入試試験の時に行った椎名とのバトルで、晴太は学園側から支給されたカードのみでバトルしていた。だが、今回はフリー、自分の本当のデッキでバトルしている。

 

 

「おぉ!!本気のデッキ!楽しみ!!」

 

 

椎名は【本気のデッキ】と言う言葉に格好良さを覚え、目を光らせる。だが、それと同時にこのバトルが賭けごとのバトルであったことを忘れていた。

 

 

「あれは、もう、約束を忘れた顔やな」

「椎名らしいね〜(かわいい)」

 

 

そう思う真夏に納得する雅治。その顔はこの約2ヶ月間彼女を見てきた真夏からしてみればあっさりとわかることであった。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ」

コレオンLV1(1)BP1000(回復)

ハクビシンドローンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

晴太はこれ以上何もせずにそのターンを終える。

 

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!風盾の守護者トビマルをLV1で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が最初に呼び出したのは強力な耐性効果がある守護者のスピリット、風盾の守護者トビマル。大きな翼に盾を構えて椎名の場に舞い降りた。

 

 

「アタックステップ!いけぇ!トビマル!」

 

「ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

早速トビマルでアタックを仕掛ける椎名。晴太のライフが1つ、大きな盾の一撃に潰されて破壊された。

 

ー先制点は椎名がもぎ取った。

 

 

「ターンエンド!」

風盾の守護者トビマルLV1(1)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

やることを全て失い、椎名はそのターンを終えた。

 

 

 

[ターン03]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

 

 

「メインステップ!いくぞ椎名!俺はエグゼシード・ビレフトをLV2で召喚!不足コストはコレオンから確保!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨0

コレオン(1⇨0)消滅

トラッシュ0⇨2

 

 

晴太の背後より炎を灯しながら駆け巡る一頭の駿馬。高く飛び上がり、晴太の頭上を高く飛び越えて場に現れた。それは伝説のスピリットが大昔に力を奪われた姿。だが、その身体には無限の可能性を秘めている。

 

そのエグゼシード・ビレフトと入れ替わるように、コレオンはコアの損失により、消滅する。

 

 

「エグゼシード・ビレフト!?…………カッコイイ!」

 

 

馬と言うよりかは、ユニコーンに近いエグゼシード・ビレフトの姿を見て、興奮する椎名。このスピリットは言わば、晴太を代表とするスピリットの1体。特にエグゼシード・ビレフトはコストの軽さと扱いやすさから、彼のバトルではほとんど召喚されている。

 

椎名は当然そのことを知らないのだが、他の人達はその効果を知り尽くしている。それは彼がひと昔前に世間から注目を浴びていたことが理由である。

 

 

「さぁ、アタックステップだ!いけぇ!ビレフト!アタック!……その効果でデッキから1枚ドローし、トビマルに指定アタックだ!」

手札3⇨4

 

「……!?」

 

 

炎のロードに逃げ道を阻まれ、そのまま物凄い勢いで突進してきたエグゼシード・ビレフトの一本の頭角に串刺しにされる。トビマルは当然耐えられるわけもなく、爆発してしまった。

 

トビマルは効果破壊には耐性があるが、バトルによる破壊には対応しきれないのだ。指定アタックは効果破壊でなく、バトル破壊。間違えやすいルールだ。

 

そして、ビレフトの効果はまだ終わってはいない。

 

 

「さらに、このバトル終了時、お前のライフを1つ破壊する」

 

「な!?」

ライフ5⇨4

 

 

炎のロードから飛び出してきたエグゼシード・ビレフトがそのまま椎名のライフを体当たりで1つ破壊した。

 

エグゼシード・ビレフトはコスト4のスピリットにして、ドロー、指定アタック、ライフ貫通、と、一体でかなりの役を熟せるハイスペックなスピリットだ。

 

 

「ぐっ!……すごい!」

 

 

椎名は今、晴太の本当の実力とデッキに感動している。入試試験の時と比べたら大違いだ。椎名は今まで、そこらへんの教師などよりかは強いと思っていた。実際そうなのだが、

 

だが、晴太の実力がここまでとは、椎名自身も思ってもいなかったことだろう。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ」

ハクビシンドローンLV1(1)BP2000(回復)

エグゼシード・ビレフトLV2(3)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!ガンナー・ハスキー1体と、猪人ボアボア2体を連続召喚!」

手札5⇨2

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

椎名が更地になってしまった場に新たに呼び出したのは、犬型だが、拳銃を所持するために、背中に青い腕を生やしたスピリット、ガンナー・ハスキーと、顔が猪で、鎖付きの鉄球を振り回すボアボア、それが2体、計3体が召喚された。

 

そして、仕返しと言わんばかりにアタックステップに入る。

 

 

「反撃だ!アタックステップ!ボアボア2体でアタック!【連鎖:緑】でコアブースト!」

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

 

「……反撃と言っても苦し紛れって感じだな、ライフで受ける」

ライフ4⇨2

 

 

2体のボアボアが放り込む鉄球が、晴太のライフを粉々に粉砕する。

 

 

「……ターンエンド」

ガンナー・ハスキー(1)BP2000(回復)

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

深追いは禁物か、椎名はこれ以上のアタックは仕掛けずにそのターンを終える。

 

やはりエグゼシード・ビレフトの存在が大き過ぎるか、現在、椎名の場をあのスピリット1体でほとんどコントロールされてると言っても過言ではない状況だった。椎名もいつものように果敢に攻めることがし辛くなってきている。晴太が言っていた、『苦し紛れ』とはそういう事だ。

 

ーフレイドラモンが来てくれていたら話は変わっていただろうが、

 

 

[ターン05]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

エグゼシード・ビレフト(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!俺はさらに2体のビレフトを召喚だ!……今度はハクビシンドローンより不足コストを確保!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

ハクビシンドローン(1⇨0)消滅

トラッシュ0⇨4

 

「なにぃ!?」

 

 

ハクビシンドローンは先のコレオン同様消滅してしまうが、新たに2体のエグゼシード・ビレフトが彼の場に姿を現した。これで一気に3体のエグゼシード・ビレフトが揃った。その姿は椎名の視線から見ると、圧巻の一言である。

 

 

「すごいわぁ、先生、同じスピリットを一度のバトルに3体も、……なかなかみれへんでぇ」

「ちっ!……所詮はビレフト止まりかよ」

「空野先生はまだまだ奥の手がいっぱいあるだろうね」

 

 

そう、観客側にいる3人の会話の通り、晴太のデッキはエグゼシード・ビレフトで始まるが、飽くまでそれはテンポを、試合の流れを掴むためのカードであって、エーススピリットではないのだ。

 

椎名はただそれだけのスピリットに圧倒されていた。おそらくデッキの相性も関係しているだろうが、

 

 

「アタックステップ!先ずは最初に召喚したLV2のビレフトでアタック!ボアボア1体に指定アタック!」

手札3⇨4

 

「くそっ!ボアボアでブロック」

 

 

ボアボアもトビマル同様、炎のロードに逃げ道を阻まれてしまい、あえなくエグゼシード・ビレフトの強烈な頭角の一撃で貫かれて、大爆発を起こした。

 

 

「さらに、ライフを破壊」

 

「ぐっ!」

ライフ4⇨3

 

 

ボアボアも貫いてもまだ気持ちが収まらないエグゼシード・ビレフトはその勢いを殺さずに椎名のライフをも貫いてみせた。

 

晴太の攻撃はまだ終わらない。次はLV1のエグゼシード・ビレフト達のアタックだ。

 

 

「LV1のビレフト2体でアタックだ!」

手札4⇨6

 

 

アタックするたびに手札が増えているためか、椎名よりも圧倒的に手札が多い晴太。これは赤属性の得意の戦法である。

 

さらに2体のエグゼシード・ビレフトが椎名に圧力をかけて来る。

 

 

「……1体はガンナー・ハスキーで、もう1体はライフだ」

ライフ3⇨2

 

 

2体のエグゼシード・ビレフトはそれぞれ、椎名とガンナー・ハスキーに狙いを定め、それぞれの方向へと走り行く。瞬く間にガンナー・ハスキーを吹き飛ばし、爆発させ、瞬く間に椎名のライフを1つ破壊した。

 

 

「ターンエンドだ………どうした?そんな調子じゃあ、一木プロには会えないぞ」

エグゼシード・ビレフトLV2(3)BP5000(疲労)

エグゼシード・ビレフトLV1(1)BP3000(疲労)

エグゼシード・ビレフトLV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト無

 

 

「……!!…忘れてた……」

「おい!!」

「やっぱり」

 

 

椎名はすっかり約束を忘れていた。それほどまでにこのバトルが楽しかったからだ。予想できていた真夏は呆れた口調で思わず『やっぱり』と一言言葉をもらした。

 

だが、ここで思い出せたことが幸いしたのか、椎名にようやくスイッチが入ってきた。

 

 

(そうだ、会って、バトルしないと、強くなった私を見てもらいたいんだ。あの時のお礼も言いたい…………よぉ〜し!はりきっていくぞ!!)

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

 

 

「ドローステップ!!……………よし!」

手札2⇨3

 

 

勢いよくドローしたカードを見て、椎名の目と顔つきが変わる。それを察知した晴太はより一層警戒心を強くする。油断など絶対にしない。それが一流のバトラーというものだ。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨10

トラッシュ4⇨0

猪人ボアボア(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ブイモンを召喚!」

手札3⇨2

リザーブ10⇨7

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名はドローしたブイモンを即座に召喚させる。額に金色のブイの字が刻まれた小さな青き竜のスピリット、ブイモンが椎名の場に現れた。

 

 

「召喚時効果で2枚オープン!」

オープンカード

【フレイドラモン】○

【No.26キャピタルキャピタル】×

 

 

効果は成功、アーマー体スピリットのフレイドラモンが椎名の手札に加えられた。このフレイドラモンが椎名に反撃の狼煙を上げさせる。

 

 

「よし!フレイドラモンを手札に加える!」

手札2⇨3

 

「……ようやくご登場か」

 

「さらに!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!リザーブから1コストを支払い、ブイモンを手札に戻して、フレイドラモンを召喚!」

リザーブ7⇨4

トラッシュ2⇨3

 

 

ブイモンの頭上に独特な形をした赤い卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化を果たす。現れたのは、燃え盛る赤き竜人のアーマー体スピリット、フレイドラモン。

 

 

「フレイドラモンの召喚時か、アタック時の効果で、LV1のビレフトを1体破壊!……爆炎の拳!ナックルファイア!」

 

 

フレイドラモンが自身の拳を炎の塊として、殴りつけるように発射させる。それに当たった3体のうちの1体のビレフトは瞬く間に燃え上がり、灰になった。

 

 

「そして、カードをドロー」

手札3⇨4

 

 

追加効果により、椎名はカードを1枚ドローした。

 

 

「……バーストを伏せて、もう一度ブイモンを召喚!」

手札4⇨2

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨5

 

 

バーストが伏せられると同時に、ブイモンが今一度椎名の元へと駆けつける。

 

 

「アタックステップ!………フレイドラモンでアタック!アタック時効果で、2体目のビレフトを破壊!……ナックルファイア!」

「ぐっ!」

 

「……カードをドロー」

手札2⇨3

 

 

フレイドラモンはもう一度同じ要領で、エグゼシード・ビレフトを破壊する。ドロー効果を相まって、椎名が逆転してきているのがはっきりとわかる。

 

そして、椎名は3体目のエグゼシード・ビレフトの破壊も狙う。

 

 

「フレイドラモンのLV2の効果で、残ったLV2のビレフトに指定アタック!………いけぇ!フレイドラモン!……渾身の爆炎!ファイアァァ!ロケット!」

 

 

フレイドラモン自身が炎の弾丸となり、エグゼシード・ビレフトへと飛び向かって行く。そして、そのまま2体は衝突し、大爆発。

 

 

「……すご、椎名のやつ、晴太先生のビレフト軍団を物ともせずに、打ち破りよった……!」

「……………いや、まだだ」

 

 

『まだだ』と言ったのは、司だった。それは爆発の爆煙が晴れると直ぐにわかることであって、

 

通り抜けるように破壊したはずのエグゼシード・ビレフトが、フレイドラモンの背後で前脚をあげ、高鳴るように鳴いていた。

 

 

「な!?」

 

「残念だったな、椎名。俺はフラッシュでマジックカード、鉄壁ウォールを使ってたんだよ」

手札6⇨5

リザーブ2s⇨0

エグゼシード・ビレフト(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ4⇨8s

 

 

エグゼシード・ビレフトを守っていたのは、純白な壁、それが爆発の衝撃からエグゼシード・ビレフトを守ったのだ。

 

鉄壁ウォールは使用コアをソウルコアと一緒に払うことによって、アタックステップ終了の効果と、このバトル中は、自分のスピリットは一切破壊されない効果を発揮できる。

 

 

「鉄壁ウォールの効果で、このターンのお前のアタックステップは終わりだ」

 

「ぐっ!………ターンエンドだ」

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(回復)

フレイドラモンLV2(3)BP9000(疲労)

ブイモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト有

 

 

椎名は強制的にターンを終了させられた。危機的な状況だが、次のターンを凌げればまだチャンスはある。

 

 

(私が伏せたバーストは、【風刃結界】、これで先生のビレフトを返り討ちにできれば、まだチャンスはある)

 

 

【風刃結界】。緑のバーストマジック、相手のアタックに反応し、自分のスピリット1体のBP10000上げ、回復させる効果を持つ、強力なカウンターバーストだ。

 

晴太とて、椎名がこのまま引き下がるとは思えないと予想しているため、当然あのバーストには目を光らせていた。

 

 

[ターン07]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨9

トラッシュ8⇨0

 

 

「メインステップ!………よくここまで頑張ったな、椎名………だけど、ここまでだ」

「………!!」

 

 

遠回しに勝利宣言をする晴太。観客席の真夏達も晴太に注目して行く。晴太は確実にこのターンで勝利できるカードをドローしたのだ。それは自分の尊敬する人の大事なカードであって、

 

 

「行くぞ!……先ずは、庚獣竜ドラリオンをLV3で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ9⇨1

トラッシュ0⇨4

 

 

顔がドラゴン、体が猛獣のようなスピリット、庚獣竜ドラリオンが召喚された。これは晴太が受け継いだカードを召喚するためのカードだ。相性も抜群であって、

 

 

「ドラリオンの召喚時効果!……BP5000以下の相手のスピリット2体を破壊!ブイモンと、ボアボアだ!焼き払え!」

「ぐっ!」

 

 

ドラリオンの口内から放たれる渦を巻く炎に、ブイモンと、ボアボアは焼き尽くされた。さらに、ドラリオンの召喚時効果は、これだけではなくて、

 

 

「この効果で、破壊に成功した時、手札にあるブレイブカードをコストを支払わずに召喚する!」

「……ブレイブを……!!」

 

「行くぜ!……燃え盛る異魔神ブレイブ!…炎魔神を召喚!」

手札5⇨4

 

 

回りながら燃え盛る歯車の中から鈍い機械音を鳴らし、巨大なロボットのような異魔神ブレイブ、炎魔神が晴太のフィールドへと降り立った。

 

 

「い、異魔神ブレイブ、炎魔神!……かっこいい!」

 

 

異魔神ブレイブ、通常のブレイブとは違い、2体のスピリットと合体できる異質なブレイブ。炎魔神は特にその中でもレア中のレアカードとして数えられてきた。

 

これは一木プロが、妻に譲渡し、その妻が自分の弟の晴太に託したカードだ。今では晴太の一部、大事なキーカードの1つだ。

 

 

「そんなこと言ってる場合じゃいぞ!椎名!……俺はビレフトのLVを3に上げ、炎魔神の左にビレフトを右にドラリオンを合体だ!」

リザーブ1⇨0

エグゼシード・ビレフト(3⇨4)LV2⇨3

 

 

炎魔神の両手から光線が放たれる。それが、ビレフトとドラリオンにそれぞれ繋がり、合体した。より一層力が増した2体は気合を入れているかのように雄叫びをあげる。

 

 

「アタックステップ!……ドラリオンのLV2、3の効果で、合体スピリット全てにBP+5000!」

ドラリオン+炎魔神BP15000⇨20000

エグゼシード・ビレフト+炎魔神BP11000⇨16000

 

 

ドラリオンの咆哮が、エグゼシード・ビレフトと自身の士気を高めて行く。

 

 

「いけ!エグゼシード・ビレフトでアタック!…この瞬間!炎魔神の左合体時効果で、お前のバーストを破棄して、このターンの間、スピリット全てをBP+5000する!」

 

「なにぃ!?………うわぁ!」

破棄バーストカード【風刃結界】

 

 

エグゼシード・ビレフトが走り出すと同時に、炎魔神がロケットパンチの要領で左手を飛ばす。火花を散らしながらも回転し、飛んで行く先は、椎名の伏せられているバースト。瞬く間にそのカードは吹き飛ばされた。左手は場をそのまま一周して、再び炎魔神に装着される。

 

 

「くっそぉぉ!せっかくのバーストが!」

(風刃結界なんて伏せてやがったのか、………しかもおそらくタイミングはフレイドラモンの効果で最初にドローした時。……)

 

 

風刃結界を最初から手札に持っていたら、前々のターンから伏せられていたことだろう。つまり椎名がこのカードをドローしたタイミングはフレイドラモンの召喚時効果を発揮した時しかないのだ。

 

晴太は椎名のここぞという時のドロー運はまだまだ伸びる。と感心していた。教師としてここまで才能あるバトラーを育てることができるということはどれほど嬉しいことかは計り知れない。

 

 

「さらにビレフトの効果で1枚ドローし、フレイドラモンに指定アタックだ!」

手札4⇨5

 

 

エグゼシード・ビレフトのBPは炎魔神との合体、その効果、ドラリオンの効果により、合計21000。もはやフレイドラモンなどでは太刀打ちできないほどに強化されていた。

 

フレイドラモンはエグゼシード・ビレフトの炎のロードに囚われ、逃げ場を失う。そのまま凄まじい勢いで突進してくるエグゼシード・ビレフトの頭角に胸部を貫かれ、爆発してしまう。

 

 

「ぐっぅ!フレイドラモン……ッ!」

 

 

フレイドラモンの破壊による爆風を肌で感じる椎名。制服と長い髪が靡く。

 

そして、エグゼシード・ビレフトの最後の効果が発揮される。

 

 

「バトル終了時、ライフを1つ破壊する」

 

「くっ!」

ライフ2⇨1

 

 

エグゼシード・ビレフトは、フレイドラモンを突き抜けた勢いで、そのまま椎名のライフをも破壊して行く。

 

 

「椎名ぁぁぁぁあ!!踏ん張らんかい!!このバトルに勝ったら一木プロに会えるんやでぇぇえ!!」

 

 

真夏が力いっぱい椎名に声援を送る。だが、その心意気はありがたいが、もう椎名は何も抵抗することができない。

 

 

「……………」

「終わりだ、ドラリオン!」

 

 

BP25000のフルパワーで、ドラリオンが口を開き、炎の渦の発射をスタンバイする。椎名はゆっくりとラストコールを宣言する。

 

 

「………ライフで、受ける」

ライフ1⇨0

 

 

ドラリオンの巨大な炎の渦が、椎名を包み込む。そして、最後のライフを焼き切った。

 

この物語において、椎名は初めて敗北した。だが、その顔は決して悔しさに紛れた顔ではなく、とても潔い表情をしていた。もちろん悔しさはある。ただ、椎名は今日、自分の弱さを知ったのだ。

 

 

「椎名が、………負けた」

「相手が相手だ、当然だろ」

 

 

椎名が負けたことに一番驚いたのは雅治だった。これは椎名のことを好いているが故の感情だと思われる。一方で司は、驚きはしなかった。確かに今回の椎名の相手は仮にも天才と謳われた存在、学生の身分では、普通は勝てない。

 

 

「ちぇ!負けたか……………でも、楽しかったよ!晴太先生!!」

「あぁ、俺もだ………お前が一木プロに会いたい理由はわからんが、まぁ、お前が卒業するまでに俺に勝てたら、合わせてやるよ」

「……!!……本当!!?……やったぁぁぁぁあ!!」

 

 

朗報に諸手を上げて喜ぶ椎名。だが、この晴太に勝つと言うのは簡単なことではない。それでも何もない根拠でただただ諸手をあげることができる椎名はある意味で、人間として大物と言える。

 

 

 

******

 

 

 

その日の翌日の出来事だ。昨日のちょっとしたハプニングから、晴太はことなきをえ、職員室の自分の机でゆっくりとコーヒーを啜ろうとしていた。それは心安らぐひと時の時間。だが、

 

 

「晴太先生!バトルだぁぁぁぁあ!!」

「ぶっーーーーー!!!!」

 

 

思わずコーヒーを霧状にして吹き出す晴太。椎名がまた職員室のドアを勢いよく開けて入ってきたのだ。まさか昨日の今日でこんなことになるとは思えなかった。

 

 

「椎名、お前何しに来たの」

「何って、勝ったら花火さんに合わせてくれるって言うから……あれから結構デッキいじってみたよ!」

「いやいや、昨日の今日で俺に勝てるわけないだろ!?」

「やってみなきゃわかんないじゃん!!……さぁ!いざ勝負ぅ!!!」

「勘弁してくれぇぇえ!!!」

 

 

なかなか引き下がらない椎名。よほど花火に会いたかったことがわかる。晴太とて、本当は合わせてやりたいが、合わせられないのが現実。それで昨日、あんな約束をしたのだ。少なくとも、椎名が自分よりかは強くなる頃にはイタリアのリーグは終わっているだろうと思い。だが、昨日の今日ではあまりにもペースが早すぎる。この学園にいれば、いろんなところでバトルする機会があるに違いないのにだ。

 

逃げ出す晴太を追いかける椎名。当然、職員室は走ってはいけないところだ。

 

 

「はぁ、全く、女に難儀な男ね〜〜昔も今も」

 

 

そんな晴太と椎名を眺めながら言うのは鳥山兎姫、椎名が彼の姉と似ていることから、この発言に繋がったのだろう。少し懐かしい気分になりながら、兎姫は自分のぶんのコーヒーをゆっくりと啜った。

 

このようなやり取りが一週間続いた。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【炎魔神】!!」

「炎魔神は、左右にそれぞれ合体できる特別なブレイブ、異魔神ブレイブの一種!炎魔神は左で相手のバーストを破棄、右では相手のスピリットを破壊できるよ!」





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