第80話「Dr.Aの進化」
Dr.Aとの命を賭けたスピリットアイランドでの戦いは終わった。椎名達はスピリットアイランドで唯一飛行する航空機に乗り、界放市へと帰還していた。ただ1人、Dr.Aに連れ去られた赤羽司を除いては………
「夜宵の奴、ずっと寝とるな……」
「無理もないよ、司があんな目にあったんだから……」
そう会話しているのは関西弁訛りの少女、緑坂真夏と茶髪の中性な顔立ちの少年、長嶺雅治。司の安否を気にかけていた夜宵。司がDr.Aに連れ去られてから、ずっと涙を流していた。それで疲れ切ったのだろう。
「なぁ、長嶺?………私らいったい何に巻き込まれとるん?」
「……椎名のお爺さんとDr.Aの因縁………かな多分あの2人の間には何かがあった………今回の会話からわかることはざっくり言うとこのくらいだね…」
「椎名は……本当の姿はあんな化け物なん?……もう嫌や私、何が何だか……」
「…………僕たちもいずれ腹を括る時が来るかもね…もう、椎名や夜宵ちゃんにあんな辛い思いはさせない……!」
今までとは段違いに違うスケールだった今回の大きな事件で、真夏は気が動転していた。雅治は今回何もできなかった自分に嫌気がさしていた。そして次こそは絶対にみんなを護る。その気持ちが露わになっていた。
椎名は彼らの5つくらい前の席に六月と共に座っている。本当はいつものように会話を楽しみたいと言うのに。
司が連れ去られたこと。自分の正体がとんでもない力を持つ化け物だったこと。それを知らなかったとはいえ隠していたこと。巻き込んでしまったことに罪悪感と責任感を覚えていたのだ。
椎名がここまでこう言った感情を外に出すのは非常に珍しい事であった。それほどまでに今回の事件が大きかったと思われる。
「ねぇ、じっちゃん!いい加減教えてよ〜〜」
「ここでは言えん、島に戻ってからじゃの」
しかし、飽くまで友人間だけの事での話であり、六月には至って今まで通り、普通の明るい態度を取っていた。
椎名の教えてほしい事とは六月とDr.A。そして界放市市長、木戸相落との間からで昔起こった出来事や、自分がどういった経緯で生まれたのか、についてだ。
今まで椎名は自分の過去には一切の興味がなかったが、何故か今になってそれに対する興味が湧き出ていたのだ。それは自分の中にあるとんでもない力を知ってしまったことに由来する。
しかしながら、本当の親がいない事、鬼であること、Dr.Aに造られた事を知っても全く精神的ダメージは入っていないとこを見る限り、本当に興味があるのはそれだけのようである。
こうして時は流れ、真夏、雅治、夜宵の3人は界放市へ、椎名と六月は離島の方へと向かった。季節は春。桜ひらひら舞い上がる春休みの季節だ。この時期を超えると、椎名達もいよいよ3年生。
しかし、その前に彼らには大きな試練が訪れることになる。
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「……ん…」
赤羽司はゆっくりとその瞳を開けた。そこは目を閉じていても大して変わらない程に薄暗い。ぼんやりと何かの本や機器類が並んではいるものの、それがなんなのかは全く知れたものではない。
どんどん目が慣れていき、体の感覚が戻っていく。そしたら自然と自分が椅子に縛られているのがわかった。そして、目の前にいるのが誰なのかも視認できるようになった。
「………やぁ、お目覚めかい?……赤羽司君」
「………テメェ…Dr.A」
そこにいたのは顔に大火傷を負った老人、Dr.Aと、メガネをかけた青年、銃魔。それともう1人、なによりも驚くべき存在が司の目の前にあり………
「っ!?テメェは……芽座葉月!!?…なんでテメェがここにいる!?」
「赤羽のガキ、相変わらず口が悪いな…」
「……お互い様だろ」
中性的な顔立ちの青年、芽座葉月がそこにはいた。芽座葉月とは椎名の育て親である六月の実の孫であり、元々芽座一族が所有していると言われているロイヤルナイツを求めて旅をしている。
しかしながらその性格は非常に利己的であり、己の利益しか頭にはない。ロイヤルナイツを求めていると言うのも、一族のためではなく、実際は自分が最強のカードバトラーになるためだ。
「……テメェがDr.Aと繋がってたなんてな……」
「フンッ、ロイヤルナイツの情報が欲しいだけだ……おいDr.A!!俺はガキの相手はごめんだ、一旦お暇させてもらうぜ」
「ヌフフフフ、相変わらずだね、葉月。六月とは似て非なるよ……本当にね」
「クソジジイと比べんな」
そう言いながら、葉月はドアを蹴破り、乱暴に締めてこの謎めいた部屋を後にした。
「…………で?また俺をスカウトとか言いてぇのか?」
「ヌフフフフ、君は肝が座ってるねぇ…状況はわかってるのかい?」
司は今、机に手足ごと縛られている状況だ。こんな状態で巨悪と対峙してもなお冷静な口調で話すことができるのはさすがと言える。
「……いや何、君にはちょっとしたショーを見てもらいたくてね〜〜」
「ショー?」
そう言いながら、Dr.Aは懐からある試験管を取り出した。その中には【真紅の色をした液体】が入っていた。血には見えない。何かもっと特別な何かだと司は冷や汗をかきながらも考えた。
「ショーというのは、科学者における実験に等しい存在だ!!……これが成功するかしないかによって世界の運命は大きく変わることだろう!!」
「っ!?…何言ってんだ!?」
Dr.Aは試験管の栓を外し、その入り口に口を当て…………その謎めいた液体を勢いよく飲み始めた。これがいわゆる実験なのだろうか。
Dr.Aの奇行に驚く司。しかし、焦っていても手足が縛られていて、固唾を飲むことしかできない。銃魔はその真逆で、メガネを指先で定位置に戻しながら冷静な表情でそれを眺めていた。
そしてDr.Aはやがてその試験管に入っていた真紅の色をした液体を全て飲み干して…………
……試験管を木製の机に置いた…約数秒後………
「う、うぉぉお!!」
Dr.Aはもがき苦しみながらも体中から力が湧き上がってくるのを感じた。それは底が知れない進化の力。選ばれたものだけが行えるオーバーエヴォリューション。さらにそれを繰り返すことができる鬼の力を……
その影響なのか、Dr.Aの体中から熱が発せられ、温度差による湯気が立ち昇る。しわしわで弱々しかった肉体にははりが戻り、曲がっていた背骨は真っ直ぐに正されていく。
なによりも顔は………若く………凛々しく………変貌し………
「ハァッ…ハァッ………ふぅ、ふぅ……」
呼吸が荒れながらも司の目の前にいたのは紛れも無いDr.A本人だった。だがその肉体は謎めいた液体の力により若返っており………
あり得るのか……こんな事が………司は目の前のこの空前絶後な状況に対し、ただただ驚愕する事しか出来ず………
「……ハァッ……せ、成功だ!!……力を感じる!!そしてこの力が、全知の神が教えてくれている!!!!この力を持ち!!私がこの世界の新たな神になれとォォォォ!!……ヌフフフフ!!…ギ、ギヒヒヒヒヒ!!!」
「…おめでとうございます…Dr.A」
その力を示すかのように、高らかに拳を掲げ、そう強く言い放つDr.A。銃魔はそれに対し、いつもの静かで軽い口調で彼に祝いの言葉を送った。
「……だ、誰なんだテメェは!?」
「何を言ってる司君……Dr.Aさ……見てなかったのかい?」
信じられるかこんな状況。信じられるか、人間が若返るなど………
「ヌフフフフ、信じられないって感じの顔だね〜〜ですが、まだまだこんなもんじゃないよ司君……今から見せてあげよう……私の得た史上最強の進化した力を……さすれば君も嫌でも協力したくなる事だろう……」
「!!」
司はようやくわかった。理解した。
いや、本当はもっと早くでわかっていたのかもしれない。この男、Dr.Aはやばい。最初はただの戯言だと思っていたが、こいつは本当にこの世界ごと塗りつぶしてしまう程の………鬼を超えた……【悪魔】だ。
「今の私ならば造る事ができる!!……計画を果たすためには欠かせない【もう1人のエニーズ】を!!……消去する者と死神の意味を込めたその新たな名は………」
……【デ・リーパー】
椎名達の運命は今……大きく進化を超えようとしていた。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
本編までの時間がかなり空いていたので、今回は本編にスムーズに戻るために大事なこの場面をプロローグとして描かせてもらいました。まぁ、事実上の本編再スタートなのですが………
最近死ぬ程早く書いてますが、私の通ってる大学がそろそろ期末試験期間に突入するので、10日に1回の投稿は守ると思いますが、8月上旬くらいまではだいぶペースが鈍くなりそうです。
しかも次回もおそらくバトル無し回。読んでくださる方々にはたいへん嫌な気持ちにさせることとなるかも知れませんが、大事なシーンが多分に含まれているので避けようがありません。何卒ご了承ください。
ただ、今回の【ANYS編】は二期ラストとということもあって、凄いバトルがいくつも書けると思います。……というか、書いてみせます!!