「………緑坂真夏、……あいつが、なぜ……!!」
ジークフリード校の校門の前で、そう呟く男子生徒。全体的に緑の髪色に、ところどころ赤色が混じっているのが特徴的。その服装は学園の制服ではあるものの、バッジの色が違う。これは彼がジークフリード校以外の生徒であることを表している。
その男子生徒は、真夏を知っているかのような口調だ。だが、決していい印象を与える意味には聞こえない。怒りの感情を含んでいるからだ。彼はゆっくりと赤き学び舎へと足を踏み入れた。
******
「ちぇ、……晴太先生、結局今日も相手してくれなかったなぁ」
「まぁ、仕方ないでえ、先生も忙しいんや、………別に卒業まででええんやろ?じゃあ鍛え直してからでも遅くはないやないか、今のままでまた挑んでもボロ雑巾になって帰ってくるのが落ちやで」
どうしても一木プロに会いたい椎名。ようやく念願の尊敬する人物に会える方法が発覚したのだ。真夏としても椎名が焦ってしまうのは理解できるが、晴太と椎名の差は歴然。今の彼女では絶対に勝てない。
別にこの学園にいたら教師とバトルするチャンスなどいくらでもあるのだ。何度も果敢にチャレンジすることもない。
真夏の言葉の真意を理解したのか、椎名は焦っていた心を落ち着かせつつあった。この現状を加味すると、確かに果敢にチャレンジするよりかは卒業までに強くなった方が早い気がする。椎名はそう思いながら考えを改めた。
「………やぁ!椎名!」
「おっ!雅治!」
2人がそう話している時に現れたのは、司の親友の雅治。今では椎名とも大の仲良しになりつつあった。
だが、今日の雅治は少し様子がおかしくて、
「あの、椎名、………その………」
「?……なに?」
頰を赤らめ、もじもじしながらも、雅治は精一杯言葉を発しようとするが、なかなかでない。それもそうだろう。何せ雅治はこれから好きな女の子をデートに誘おうとしているのだから。
デートと言っても、「一緒にショッピングしない?」と言うだけだった。それでもやはり、それを言う相手が、椎名となるとどうも言い出しづらかった。
まぁ、仮にそれを言えたとして、椎名はそれをデートと認識することはないだろうが。
真夏も心の中で「頑張りやぁ〜〜」と声を上げて応援する。雅治にそうアドバイスしたのは彼女だからだ。
ーだが、しかし、これも運命か、それを邪魔するものが現れる。それはあまりにも突然であり、真夏と雅治にしては本当に空気が読めないと思われることであって、
「………やっと見つけた、やっと見つけたぞ!緑坂真夏!」
「………あぁ?」
怒りの感情を含んでいて、鈍く太い声が真夏を呼ぶ。3人はその声のする方を振り向くと、そこには妙な男子生徒がいた。
その男子生徒は真夏だけを凝視した目をギラつかせており、とてもじゃないが、好意的な印象はなかった。
「誰?」
「この制服は…………キングタウロス校の人だね」
「………あぁ、そうだ、俺はキングタウロス校1年の【炎林 頂(えんばやし いただき)】!【緑坂 冬真(みどりざか とうま)】先輩、【ヘラクレス】の一番弟子だ!」
【キングタウロス校】。それはこの界放市にあるバトスピ学園の6つのうちの1つである。学園によって、様々な教育方針が存在するが、ジークフリード校と、キングタウロス校はそれらが、若干被るものがあるからか、他の近所の学園よりかはやや親しい関係にある。
それよりも気になるキーワードは、【緑坂冬真】と【ヘラクレス】だ。
「ヘラ、なに?………緑坂冬真?………ん?緑坂?」
「そうや、緑坂冬真は私の兄や」
「……!!……真夏のお兄ちゃん!?」
【緑坂冬真】。真夏の実の兄であり、現在はキングタウロス校3年生だ。その実力は歴代最強と言われ、どの学園の卒業生と比べても、現役時代ではそのレベルには達していないと言う。毎年行われる6つの学園が競い合う祭り事、【界放リーグ】では、当時は1年生であるにもかかわらず、出場し、優勝。その次の2年次も優勝と、その実力は底が知れない。【ヘラクレス】とは、彼のエーススピリットからもじられた異名だ。1年次で活躍した時に名付けられ、それ以降は本名よりもこちらの方で呼ばれる事の方が多い。この傾向は司の【朱雀】に似ていると言える。
この男子生徒、炎林 頂は、その彼の弟子と言う。真夏は彼にめんどくさそうな態度で受け答えする。
「はぁ、それで、兄さんの弟子が、あたしに何の用や?」
「用もクソもない!お前!何であの方の実の妹だと言うのにジークフリード校などにいるんだ!今日はお前をキングタウロス校に引き摺り込みに来たのだ!」
「はぁ!?」
「お、おぉ、スカウトってやつ!?」
「うーん、ちょっと違うかも知れないね」
炎林はそこまで緑坂冬真を尊敬しているのか、横暴な意見を言ってくる頂。真夏は呆れると同時に腹が立った。
「あたしがどこに行こうが、あたしの勝手や、行く気はないでぇ………あと、一々兄さんのこと言うのやめてくれへんかなぁ?」
「……真夏?」
真夏は鋭い目つきになり、炎林を睨みつける。まるで突き放すかのように、椎名は普段おおらかで、誰とでも仲良く接する真夏がこんな感じになるのを見たことがなかった。
真夏は昔から兄と比べられるのが気に入らなかった。兄が有名になりすぎているため、仕方のないことではあるが、どうやっても、どんなに強くなっても、いつも目の前には兄の背中。周りからの評判もほとんど必ず兄を入れてくる。真夏が弱いわけではない。寧ろとても才能がある。ただ、それは【緑坂真夏】としてではなく、【ヘラクレスの妹】としてだった。それが彼女としては気に食わなかった。だから、兄のいるキングタウロス校ではなく、ジークフリード校へと入学したのだ。
「………嫌なら無理矢理にでも連れて行くぞ」
「えぇで、望むところや」
炎林も簡単には引き下がらない。今度は界放市の人間らしく、バトルスピリッツで有無を決める。真夏もそれに賛同し、ジークフリード校 第3スタジアムへと移動した。
******
「負けたら、お前はジークフリード校との縁を切り、キングタウロス校に行く。それでいいな」
「あぁ、構わへんでぇ」
まさに一触即発。今にも火花が飛び散りそうな空気の中。2人はBパッドを展開させて、バトルの準備をしていた。椎名と雅治も観客席でそれを見ていた。
「なんか大変なことになったね」
「そうだね」
「………意外と落ち着いてるね、負けたら緑坂さんは、ここをやめちゃうんだよ?」
「いや、流石に負けないでしょ、なんとなくだけど、」
椎名はさっきの真夏の鋭い目を見て、不思議なものを感じとっていた。それは真夏が負けないという。根拠のない自信だ。
真夏とは結構バトルしたことがあるからというのもあるだろう。
ーそして、2人の準備が終わり、バトルに入る。
「「ゲートオープン!界放!」」
ーバトルが開始される。先行は真夏だ。
[ターン01]真夏
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ!……先ずはパルモンを召喚や!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨3
真夏が呼び出したのは頭にトロピカルな花を咲かせた緑のスピリット、パルモン。これが真夏のデッキの軸となる成長期スピリットだ。
「召喚時効果で、2枚オープン」
オープンカード
【トゲモン】○
【トゲモン】○
パルモンの効果は成功。ただし、成熟期か、完全体をどちらか1枚であるため、トゲモンのカードは2枚とも手札に加えられず、1枚は破棄された。
「ターンエンドや、………」
手札4⇨5
パルモンLV1(1)BP2000(回復)
バースト無
先行の第1ターンなど、やることが限られている。真夏はそのままターンを終えた。初手にしてはなかなか上々な動きだろう。
[ターン02]炎林
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「いくぜ!俺のメインステップだ!俺はホムライタチを召喚!さらに、ホムライタチのメインステップ時の緑シンボルの追加効果と合わせて、もう1体のホムライタチをフル軽減で召喚!」
手札5⇨3
リザーブ5⇨1
トラッシュ0⇨2
炎林の場に燃えるような体毛を纏う鼬型のスピリット、ホムライタチが2体連続召喚された。
彼が使うデッキは赤と緑。いろんなタイプがあるが、彼のデッキは特に安定性が高いものだ。
「ターンエンドだ」
ホムライタチLV1(1)BP1000(回復)
ホムライタチLV1(1)BP1000(回復)
バースト無
このターンは様子を見るのか、特にアタックは行わず、そのままターンを終えた炎林。次は真夏の番だ。
[ターン03]真夏
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨4
トラッシュ3⇨0
「メインステップ!バーストを伏せて、パルモンのLVを上げる!」
手札6⇨5
リザーブ4⇨2
パルモン(1⇨3)LV1⇨2
バーストが伏せられると同時に、パルモンは真夏からコアを与えられて、喜ぶようにレベルを上げる。これで【進化】の条件は整った。
「アタックステップ!その開始時にパルモンの【進化:緑】を発揮や!パルモンを手札に戻し、成熟期のトゲモンをLV2で召喚!」
パルモンにデジタルのベルトが巻かれて、その姿形を変えていく。そして、新たに現れたのはまるでサボテンのような外見のスピリット、トゲモンだった。トゲモンはボクサーのようなグローブを叩きつけながらやる気を見せている。
「アタックステップは継続やでぇ!いけ!トゲモン!アタック!」
トゲモンにアタックの命令が下された瞬間、トゲモンは空中へとジャンプし、その場で高速回転する。その時に飛び散っていく針のような鋭い棘が、炎林のホムライタチ1体に命中し、それをダウンさせる。
「!?……なんだ?」
ホムライタチ(回復⇨疲労)
「アタック時効果や、トゲモンはアタック時にコアを増やしつつ、相手のスピリット1体を疲労させるんやで」
トゲモン(3⇨4)
「くっ!だが、どちらにせよそのアタックはライフで受けるつもりだった!……ライフでもらうぞ!」
ライフ5⇨4
空中から降りてきたトゲモンのプロボクサー並みのパンチが炎林を襲う。炎林のライフは1つ砕かれた。
「ターンエンドや」
トゲモンLV2(4)BP6000(疲労)
バースト有
やることを全て失った真夏はそのターンを終える。次は炎林の反撃だ。
[ターン04]炎林
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨5
トラッシュ2⇨0
ホムライタチ(疲労⇨回復)
「メインステップ!六分儀剣のルリ・オーサを召喚!ホムライタチのシンボル追加により、フル軽減で支払うコストは1だ!」
手札4⇨3
リザーブ5⇨3
トラッシュ0⇨1
炎林の場に剣を携えたスマートな緑の殻人スピリット、ルリ・オーサが召喚される。このデッキにおいては、アドバンテージの塊とも言える効果を持っており、
「ルリ・オーサの召喚時!ボイドから赤のスピリット2体にコアを1つず追加!俺は赤のホムライタチ2体に1つずつコアを追加させる!」
ホムライタチ(1⇨2)
ホムライタチ(1⇨2)
ルリ・オーサが自身の剣を天に掲げると、天からホムライタチ2体にコアの恵みが与えられた。
ーだが、彼のデッキにとって、こんなの始まりに過ぎないことであって、
「さらに!もう1体のルリ・オーサを召喚!召喚時でまたまたホムライタチ2体にコアを追加だ!」
手札3⇨2
リザーブ3⇨1
トラッシュ1⇨2
ホムライタチ(2⇨3)LV1⇨2
ホムライタチ(2⇨3)LV1⇨2
もう1体のルリ・オーサが召喚される。その効果で、再び天よりの恵みがホムライタチに与えられた。
目まぐるしい程にスピリットを展開し、コアを増やしていく炎林。だが、まだそれは終わることはなかった。
「さらにさらにさらに!おれは増えたコアを使い、こいつを、師匠から譲り受けたエースを召喚する!野望を抱き、顕れよ!金殻皇ローゼンベルグ!LV1!」
リザーブ1⇨0
ホムライタチ(3⇨1)LV2⇨1
ホムライタチ(3⇨1)LV2⇨1
トラッシュ2⇨3
金色の甲殻を輝かせながら現れるのは炎林のエーススピリット、金殻皇ローゼンベルグ。左手の人差し指を真夏に向け、打倒を目指す。全長4メートルくらいはありそうだ。
「でか!!!!」
「まさかここまで一気に展開してくるなんて、流石は【ヘラクレス】の弟子を名乗るだけはあるね」
観客席の2人もその巨躯の身体に驚愕する。ローゼンベルグは強力な効果をいくつも内蔵しているスピリットだ。先ずは召喚時から解決させていく。
「ローゼンベルグの召喚時!ボイドからコアを3つローゼンベルグに追加する!」
金殻皇ローゼンベルグ(2⇨5)LV1⇨3
ローゼンベルグにコアの恵みが与えられた。一気にそのLVをマックスにさせる。既に炎林はこのターンだけでコアを7つブーストしており、莫大なアドバンテージを有していた。その分手札が少なくなってしまったが、それもローゼンベルグがいれば問題ないことであって、
「アタックステップ!いけ!ローゼンベルグ!アタック時効果でBPを10000上昇させる!さらに、【連鎖:赤赤】を達成してる時、デッキからカードを2枚ドローする!」
ローゼンベルグBP11000⇨21000
手札1⇨3
「………!!」
「これだけ展開しつつ、ドローまで……」
そう言ったのは椎名だった。ローゼンベルグはコストが重いものの、決まってしまえば、バトスピにおいて必要な手札とコアを1体で補強してしまう恐ろしいスピリットだ。おまけにダブルシンボルと、隙がない。
両手で勢いよく自身の剣を地面に突き刺し、その衝撃波を真夏の方へと飛ばしていく。
「やばい!緑坂さんの場にはブロックできるスピリットがいない!……もし、全部のアタックが通って仕舞えば」
現在、炎林のスピリットのシンボル数の合計は6。このターンだけで真夏のライフを破壊できてしまう。
だが、真夏は当然ここで終わらない。1枚のカードを引き抜く。
「手札からアクセル発揮!ロードバシリー!効果により、あんたのルリ・オーサを1体疲労や!」
手札5⇨4
トゲモン(4⇨2)LV2⇨1
トラッシュ0⇨2
「なに!?アクセルっ!!」
六分儀剣のルリ・オーサ(回復⇨疲労)
アクセルとは、スピリットやブレイブが持つ効果。手札からアクセルとして使用することで、その後自分の場に手元のカードとして置くことができる。もちろん手元に置けば、自分のターンでは普通に召喚できる。使い方次第ではマジックをも超える恩恵をプレイヤーに与えることができる便利な効果だ。
緑色の小さな小鳥が、ルリ・オーサを貫く。それに力を奪われてしまったのか、ルリ・オーサは膝をつき、疲労状態となってしまった。その後、緑色の小鳥は、真夏の足元へと落ちるように飛んでいき、ロードバシリーのカードとしてそこに居座った。
だが、ローゼンベルグのアタックが無効になった訳ではない。炎林は追い討ちをかけるように自分のフラッシュを使う。
「それがどうした!!……俺はフラッシュマジック!バードウィンド!不足コストはローゼンベルグのLVを3から2に落として確保する!この効果で緑のスピリット、ローゼンベルグを回復させ、【連鎖:赤】で、お前のトゲモンを破壊だ!」
手札3⇨2
金殻皇ローゼンベルグ(5⇨3)LV3⇨2
トラッシュ5⇨7
「……!!」
炎林は見逃してはいなかった。真夏がロードバシリーのアクセル効果を発揮する時に必要とするコアをトゲモンから使っていたことを。バードウィンドは、緑のスピリット1体を回復させると同時に、【連鎖:赤】でBP4000以下の相手のスピリット1体を破壊できる効果がある。
ローゼンベルグが緑の風を纏い、回復状態になると同時に、真夏のトゲモンが下から湧き出てくる炎に飲まれ、爆発した。
「いけぇ!ローゼンベルグ!」
「ライフで受ける」
ライフ5⇨3
ローゼンベルグが放っていた衝撃波が、ようやく真夏のライフを砕いた。だが、それは真夏のバーストカードの条件でもあって、
「バーストくらい警戒せぇや、発動!ジャンピングバインド!」
「……!?」
真夏のバーストが勢いよくひっくり返る。すると、真夏のリザーブにコアが1つ追加された。
「ジャンピングバインドはライフ減少時のバーストで、ボイドからコアを1つあたしのリザーブに置くことができる。さらに、コストを支払うことで、フラッシュ効果、相手のスピリット1体を疲労や!寝ときぃ!ローゼンベルグ!」
リザーブ6⇨7⇨4
トラッシュ2⇨5
「なんだとぉ!?」
金殻皇ローゼンベルグ(回復⇨疲労)
真上から降り注いでくる強風が、ローゼンベルグを叩きつけるように膝をつかせる。これでローゼンベルグが再アタックすることはなくなった。だが、
「くっ!だが、俺のアタック可能なスピリットは合計3体!お前のライフを全て砕くには十分な数だ!やれぇ!ルリ・オーサ!」
「ライフで受けるで」
ライフ3⇨2
そう、まだ、危機が完全に去った訳ではない。ルリ・オーサが飛翔していき、その手に持つ剣で、真夏のライフを1つを一刀両断した。
「ハッハッハ!打つ手なしか!次だいけぇ!ホムライタチ!」
走っていくホムライタチ。この瞬間、真夏は悟った。デッキはおそらく兄が作ったもの。又はあげたもの。彼はそれを使って強くなった気でいる半人前だと言うことに。そんなただの雑魚相手に真夏が負けるわけがなかった。
なんとなく気付き始めたのは、彼がローゼンベルグを召喚する時、彼は『師匠から譲り受けたエーススピリット』と言っていた。【ヘラクレス】はそんなカードは使ったことはないが、真夏は彼が炎林にあげるために適当に作ったデッキだと理解した。
ーそして、リザーブからコアを移動させ、手元に置いたカードを場に移動させる。
「手元からロードバシリーの効果発揮!ロードバシリーはコストをリザーブから全て支払うことで、手元からフラッシュタイミングで召喚できる!出て来いや!ロードバシリー!」
リザーブ5⇨2
トラッシュ5⇨7
「はぁ!?」
真夏の足元にあったロードバシリーのカードが本物のスピリットとなって場に召喚された。小さな小鳥のスピリット、ロードバシリーは向かってくるホムライタチを迎撃すべく飛翔し、そのままの勢いで、ホムライタチと衝突し、競り勝ち、吹き飛ばした。ホムライタチは呆気なく爆発してしまった。
これで炎林のスピリットの総数では真夏の残ったライフは破壊できなくなってしまった。炎林はターンを終了することになった。
「ぐっ、……ターンエンドだ」
ホムライタチLV1(1)BP1000(回復)
六分儀剣のルリ・オーサLV1(1)BP3000(疲労)
六分儀剣のルリ・オーサLV1(1)BP3000(疲労)
金殻皇ローゼンベルグLV2(3)BP9000(疲労)
バースト無
「す、すごい、あの猛攻を凌いだ………っ!!」
「流石だよ真夏………っ!!」
[ターン05]真夏
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨10
トラッシュ7⇨0
ロードバシリー(疲労⇨回復)
「メインステップ………の前に、あんた、それ、兄さんに作ってもろたデッキやろ?」
「な!?……なんでそれを!?」
「はぁ、やっぱりな、人に作ってもろただけのデッキであたしに勝てる訳ないやろ?」
「な、なんだと!?……じゃあ勝ってみろよ!お前にこの俺の、【ヘラクレス】から授かったデッキが倒せる訳ねぇだろ!!」
バトスピを築き上げて来た偉人がこういう言葉を残している。【自分で作ったデッキには魂が宿る】と。魂が入っていないデッキなど、ただの紙束にも等しい。いくら強い人が作り上げたデッキでも、やはりそれを使いこなせるのはその本人だけだ。
緑坂冬真は、炎林を気に入っていた。だから、彼に自分が構築したそこそこの完成度のデッキを彼にあげたのだ。【これで強くなれ!】とそういう願いを込めて、だが、炎林はその言葉の意図をこの時は完全には理解していなかった。
やはり、自分のデッキは自分なりにカスタマイズしていかなければ、強くはなれない。何度も使用し、自分の魂をゆっくりと注いでいったデッキに、真の魂と強さが宿る。それが時折、極限の場面でデッキがバトラーに応えてくれる時もある。炎林はそういったことが疎かになっていたのだ。それほど緑坂冬真のデッキの完成度が高かったとも言えるが、
「じゃあ、やってみよか……メインステップ!フローラモンを召喚!」
手札5⇨4
リザーブ10⇨7
トラッシュ0⇨2
パルモンとはまた違った方向性でトロピカルな花を咲かせる成長期スピリット、フローラモンが真夏の場に現れる。
「召喚時効果!デッキから3枚オープンして、その中の系統「樹魔」を持つスピリット1枚を手札に加える!」
オープンカード
【ロードバシリー】×
【ロードバシリー】×
【リリモン】○
効果は成功、樹魔を持つスピリットカードのリリモンが手札に加えられた。これで準備は万端。真夏はこのバトルを決めにかかる。
「よし!リリモンを手札に加えるでぇ!……そして、老賢樹トレントンをLV1で召喚や!」
手札4⇨5⇨4
リザーブ7⇨2
トラッシュ2⇨6
緑の神々しい光が真夏の場に集まっていく、それはどんどん増えていき、やがて大きな樹木へと変化していく、そして、樹木を人型のようにした緑のスピリット。老賢樹トレントンが召喚された。そのサイズは炎林のローゼンベルグさえをも凌いでいる。
「な!?トレントン!?そいつは確か………」
トレントンはとてもとても昔からあるカード。大昔に人類がバトスピをやり始めた時から存在する化石のようなスピリットなのだ。炎林は戸惑う。その効果をゆっくりと思い出していく、だが、その頭から捻り出される前に、真夏がその効果を宣言する。
「トレントンの召喚時効果!手札にある緑のスピリットカード1枚をコストを支払わずに召喚する!あたしが呼ぶのはこいつや!リリモン!」
手札4⇨3
リザーブ2⇨1
トレントンの森のように茂っている背後から、まるで妖精のようなスピリットが顔を出す。それは意外にも完全体の緑のスピリット。真夏のエーススピリットでもある。超レアカード、リリモン。
「来た!真夏のエース!」
「緑の完全体!……しかもあれは緑坂さんの叔父にあたる【緑坂小次郎】さんが使うものと全く同じだ」
【緑坂小次郎】。真夏達の叔父にあたる人物。日本でも有名なプロバトラーであり、椎名の尊敬する一木花火をライバル視していることで有名。公式戦ではまだ一度も彼に勝ったことはないが、
そして知らない間に真夏は前のターンの炎林と全く変わらないくらいの展開を見せつけていた。
「さぁ!アタックステップや、」
「ぐっ!だが、お前の4体のスピリットで総攻撃しても俺のライフはゼロにはならない!」
「……はぁ!?あんた何言うとんのや!緑坂冬真の弟子のくせに、その叔父の緑坂小次郎の使うリリモンのことを知らんのかい!!!」
「………!!!!」
リリモンは非常に可愛らしい外見をしているが、やはりその強さは完全体であり、強力な効果をいくつも内蔵していた。炎林はその強さを思い知ることとなる。
「やったりやぁ!リリモン!アタック時効果の【旋風:1】で相手のスピリット1体を重疲労!対象は回復してるホムライタチ!あんたや!」
「なに!?【旋風】だと!?」
ホムライタチ(回復⇨重疲労)
リリモンが飛翔する。そして、その両手に花のような砲手を備え、そこから緑のエネルギー弾を放つ。それに直撃した唯一の回復状態だったホムライタチは他のスピリットよりも酷く疲れてしまう。まるでやる気を感じないほどに。
重疲労とは、一言で言えば疲労の第2段階。カードの向きは逆さまとなり、一度の回復で普通の疲労状態となる厄介なもの。リリモンの【旋風】の効果はそれをなんのデメリットもなく使える数少ない効果だ。
そして、リリモンにはまだ恐ろしい効果がある。
「さらにリリモンはアタック時に、ボイドからコア2つをリリモン自身に置くことで、ターンに一度回復する」
リリモン(1⇨3)LV1⇨2(疲労⇨回復)
「はぁ!?まだそんな効果が……っ!!?」
リリモンは緑の光を纏い、回復する。リリモンの恐ろしいところは、相手のスピリットを重疲労させつつ、コアを増やしながら回復し、連続でアタックできるとこだ。単純にこれだけでも十分なパワーカードであると言えるだろう。
「最初のアタックは継続中やで!!どう受ける?」
「くそ!ライフしかねぇ!」
ライフ4⇨3
リリモンの片手から放たれる緑のエネルギー弾が、炎林のライフを1つ破壊した。もう炎林になすすべはなかった。後は好きに殴られるだけ、
「もう一度!リリモン!」
リリモン(3⇨5)LV2⇨3
「そ、それもだ!」
ライフ3⇨2
リリモンは、次は違う手からの攻撃で、炎林のライフを破壊した。
「次はロードバシリーや!」
「ら、ライフで、……うお!?」
ライフ2⇨1
ロードバシリーは目にも留まらぬ速さで通り過ぎるように炎林のライフを破壊した。そして、ラストは、
「締めはあんたや!いけぇ!老賢樹トレントン!」
大きな木がゆっくりと動き出す。その振りかざされた右手はまるで神の天罰のように見える。炎林の手札には普通のスピリットカードしかなかった。これが【ヘラクレス】のではなく、【自分自信のデッキ】という認識があれば、このバトルの結果は違っていたかもしれない。
「う、うわぁぁぁぁぁあ!!!!」
ライフ1⇨0
金殻皇ローゼンベルグ、六分儀剣のルリ・オーサ、ホムライタチは彼の方など、見向きもしない。ただ炎林の目の前に巨大な右腕が、彼の最後のライフを押し潰したのだ。
これでこのバトルの勝者は真夏。見事キングタウロス校の生徒を討ち取って見せた。真夏は消えゆくスピリット達の間を通りながら、落ち込む炎林のところまで行く、
「兄さんがあんたのどういうとこが気に入ったのか知らへんけど、そのデッキ使いたいならもっと鍛錬せんかい!」
「ぐっ!………っ!」
言い返す言葉がない。自分がこのデッキに頼りきりになり、鍛錬を疎かにしていたのは事実なのだから、精錬されていないデッキを扱うバトラーほど弱いものはない。
「よかった、緑坂さんジークフリード校に残れるね」
「でしょ!?言った通り!真夏は強いもん!」
「せやろせやろ!何せ俺の妹なんやからな!」
「「!!」」
真夏の勝利を喜ぶ椎名と雅治の前に割って現れたのは謎の関西弁で話す褐色の肌色の男子生徒。その制服は炎林と同じキングタウロス校のものだ。
「誰?」
「あ、あなたは……っ!!」
流石にあまりニュース等を見ない椎名にはわからなかったが、それ以外の人間にはかなりの知名度の男であるようで、その顔を一目見た雅治は大きく口を開けて驚いた。
ーそして、その褐色の男子生徒は手摺に手をかけ、満面の笑みで、手を振り、
「おお〜〜〜〜〜い!!!真夏ちゅわぁぁん!!」
大きな声で真夏を呼ぶ。そう彼こそが、
「げっ!!?……兄さん!!」
「し、師匠!?」
「え!?この人が!?」
彼が真夏の実の兄、【ヘラクレス】こと、【緑坂冬真】だ。初めて知った椎名も声を荒げながらも驚いてみせる。まだまだジークフリード校とキングタウロス校の交流は続きそうだ。
〈本日のハイライトカード!!〉
「はい!椎名です!今回はこいつ!【リリモン】!!」
「リリモンは緑の完全体!アタック時に相手を重疲労させたり、コアを増やしたり、回復したり、もうやりたい放題!」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!