右往左往としながらもようやく災害地と化した界放市に到着した椎名。だが、港で彼女を待ち構えていたのは他でもない、Dr.Aの手に落ちた赤羽司だった。
「………司……!!」
「相変わらずのアホ面だな……」
「ぶ、無事だったのか!!心配してたんだよ!!特に夜宵ちゃんなんて……!!」
「そんな事はどうでもいい、先ずは俺の話を聞け」
「……!!」
これまで行方不明という扱いだった赤羽司。その彼が今椎名の目の前で囁いている。どんなに嬉しい事だっただろうか。それは計り知れないものだろう。
ただ、司の物言い、立ち振舞いから、不思議と椎名は今の司が味方だとは思えていなくて……
「1つ目、Dr.Aの正体は界放市市長、【木戸相落】だった」
「……っ!?」
「奴は18年前、本物の木戸相落と入れ替わっていた。死んだのは本物の木戸相落で、生き残っていたのは徳川暗利…………Dr.AのAは暗利のAだけでなく、相落のAも含んでたってこった」
椎名を黙らせたと思うと、1つ目からさらっととんでもない事実を彼女に叩きつける司。
椎名としては信じられなかった事だろう。何せあの趣のあって優しかった市長が最低最悪のマッドサイエンティスト、Dr.Aだったのだから。本当は自分を監視するために界放市の市長になって六月まで欺いていたと思うととても心が苦しかった。
「そして2つ目、今のこの界放市は進化の力で若返ったDr.Aの作り上げたデ・リーパー……お前の姿に酷似した化け物が支配した。その際に立ち上がった奴らも今やほとんどが全滅し、あの空の壁の一部にされた………こんな奴らによってな!!」
「……っ!?」
司はそう言いながら懐から自身のBパッドを取り出して翳すと、そこから椎名に見せつけるかのようにデ・リーパーの顔のない分身体が3体程出現した。椎名はその不気味な姿に僅かながらにたじろぐ、それが自分と似たり寄ったりな存在だと思いもしないだろう。
「こいつらはその分身体だ………俺が指示を出せばこいつらはこの街の人間どもを襲う。襲われた、又はバトルで負けた人間どもを元に戻すためにはデ・リーパー本体を倒すしかない………そして、何故今、この俺がこいつらを使役しているか……わかるよな?」
「…………」
「エニーズ、街の人間がこれ以上消されたくなければ、今から俺の言うことを聞け………」
「………!」
司は……敵になったとでも言うのか?
椎名は瞬時にそう思考を過ぎらせていた。そう確信するには十分すぎるほどの言動と行動だ。何せ、敵の分身体を所有しているのだから………
今の司の口から発せられる言葉には椎名をプレッシャーにかけるにはあまりにも十分過ぎる。椎名は異端な存在になりつつある彼に対して不思議と反論の口が開けなかった。
ただ、その要件を聞くことしかできず………
だが、その要件は………
「……今からお前は俺と共にDr.Aの本拠地を襲撃し、奴をぶっ倒す……!!」
「……………は?」
司の口から発せられた言葉はこれまでとは打って変わってなんとも意外な要件だった。椎名は驚きのあまり思わず呆気に捉われる。が、司は引っ張り出したデ・リーパーの分身体を自身のBパッドに戻しながら、その理由や道筋を偉そうに、それでいて上から目線で椎名に説明していく。
「俺は奴に捕まった時、奴の限りない力を見た。無限に繰り返すオーバーエヴォリューションの力をな…………そこで、俺は一度奴の手に落ちたと見せかけ、密かにこのチャンスを伺った。」
「………はぁ」
「一時的に奴らの味方に加わった俺はお前の出世やDr.Aの計画を調べ上げた」
「………ふぅ〜〜ん」
「そして色々とわかった……奴、Dr.Aを倒せるのは同じく進化を繰り返す鬼の力を手にしているエニーズであるお前だけだ……!!」
「………ん?」
司はずっとこの時を待っていた。若返り、進化を繰り返す力を得たDr.Aに勝つには、同じく進化を繰り返すエニーズ、めざししかいない。
一度Dr.A達の味方に加わったと見せかけて彼を倒す機会を伺っていたのだ。そのためにデ・リーパーの分身体を操る権利を得、被害を最小限にしていた。椎名が来るのを待っていたのだ。
彼女が来るときに直ぐDr.Aのところへ行けるよう道を作るために………
だが、そんなものは司にとってただの通過儀礼に過ぎない。本当の目的は邪魔者であるDr.Aを倒し、椎名と決着をつけることだ。それ以外の理由などどこにもありはしなし、本質は変わらない。
「フッ……そうと決まればさっさと行くぞ、奴らの本拠地は【界放市中央スタジアムの地下】だ……!!」
司は椎名に一方的に説明して納得させた気でいる。振り返り、Dr.Aのいる場所へと向かおうとするが………
「んーーーー……ねぇ司………」
「あぁん?」
椎名が司を呼び止める。その声色には若干ながら不安めいたものが混じっており………
椎名はこの時必死に考えた。小さい脳味噌をフル回転させて司の言った事やった事を全て理解しようとした。が、やはり椎名の頭では演算処理が追いつかない。
「……え?……司は結局のところ……味方?……それとも敵になったのどっち?」
「…………」
その場が「シーン」となって白けた。
アホ面を曝け出しながら司にそう言った椎名。当然だ。椎名にそんな一度の情報量を入れる事など不可能なのだ。司はそんな椎名に対し、イライラし、有りっ丈の滾る血を沸騰させ………
「……ッだからぁ!!味方だっつってんだろォォガァぁぁぁ!!!」
「えぇぇぇ!?なんで切れてんのぉ!!?」
怒った。
とんでもないほど大袈裟に、信じられないほど急に………椎名に対して激怒し始めた。
「ここまで説明してもまだわかってねぇのかテメエは!!…どんだけアホなんだ!!『共に襲撃しに行く』っつった時点でなんとなく察しやがれぇっ!!」
どれだけ溜まっていたのか、司は事の理解をほとんどわかっていない椎名に対し怒りをぶつける。
だが、それはいつもの調子とも呼べる光景。いつもの司。いつもの椎名なのだ。椎名に至ってはただの天然だが………
「まぁまぁ落ち着けって〜〜」
「落ち着いてられるかぁ!!時間がねぇんだよぉ!!!」
「……そもそもさ〜私どこから理解すれば良いの?Dr.Aが市長で、若返って、私そっくりの怪物が暴れて…………で、司は敵なの?味方なの?」
「だから味方だっつってんだろ!!」
もはやわざとかのようにボケ倒す椎名。緊張のネジが弾け飛んでしまった司はツッコミの嵐がやまない。振り回すはずだった対象の人物に逆に振り回されてしまっている。
そんな司の様子を見て、椎名は………
「ぷっ!!……あっはははは!!!」
「あぁ?」
思いっきり吹き出して、笑い出した。全力で腹の底から大笑いした。空はデ・リーパーの作る壁により日光は遮られ、暗がりだというのに、太陽のように明るく、元気よく、
まるで世界が危険な状態になっていないかのような………平和な空間だった。
「んだよ、何がおかしい?」
「あっはは、いやだってさーー…司最近変だったじゃん?そのせいでなんかギクシャクしてたのに、今ではまたそれが嘘のように仲良くなれた!!」
「仲良くはない!!」
「いいんじゃんいいじゃん!!」
そう言いながら椎名は能天気に司の肩を軽く叩く。界放市どころか世界が終わるかもしれないこの状況で、この少女は何をこんなに楽しんでいるのか。
椎名は嬉しかったのだ。なんとなくの感じではあるが、司が自分の知る司に戻っているのが………
「ちぃっ、ったく、テメェといると自分がよくわからんくなる……早く行くぞ、テメェんとこのジジイもおそらくそこにいる」
「オッケー!!………あ、ちょっと待って…」
「んだよ!!まだあんのか!?」
「いや、ちょっとね〜〜知らせないと……海原じゃ電波通じなかったんだよね〜」
今から敵の親玉がいるところへと襲撃しようとする司と椎名。だが、椎名は先ず司の無事を報告したい人物がいた。椎名はBパッドの通話機能を使い………
******
ここは界放市離れの避難所、デ・リーパーの分身体による襲撃により避難を余儀なくされたもの、体が傷ついたものが大きな体育館のようなところに集まっていた。
ほとんどがブルーシートを敷き、家族ごとに座り込んでいる。怯えているのだ。あの人類ではない驚異的な存在に……植えつけられた恐怖が疼いていたのだ。
そんな場所に紫治夜宵はいた。司のことを考えながら、ただ1人、壁にもたれ、体育座りでその時が過ぎるのを待ち惚けていた。
「どうしたの?元気ないわね?」
だが、束の間、彼女に声をかける人物が1人………大人の女性のような声色、鳥山兎姫だ。落ち込んでいる様子の夜宵を偶然見かけていてもたってもいられなくなったのだろう。
「………」
「ほおら、黙っててもしょうがないわよ!!」
寡黙を貫く夜宵。司との不憫な別れが彼女を人間不信にさせているのかもしれない。それは副担任である兎姫とて同じか……
椎名に頼んだ。必死こいて、
椎名は必ず司を連れ戻すと約束した。なのに……なのに司は帰ってこない…………
「ま、どうせ紫治さんの事だから、赤羽君の事でも考えてたんでしょ?」
「っ!?」
「うっふふ、わかりやすいわね!!」
司の事を急にズバリ言われた事で、過敏な反応を見せる夜宵。その予想通りな様子に、教師である兎姫は夜宵に優しく微笑んだ。
そしてその横に揃うように座り込んで……
「私もね、分かるよ……男っていっつも勝手!!勝手に飛び出して勝手に心配させて……そして、勝手に変な顔して帰ってくる……」
「………!!」
「だから大丈夫よ!!…赤羽くんも必ずあなたのところに帰ってくるわ!!」
「兎姫先生……!!」
夜宵の表情は兎姫の言葉もあってすっかりと正気を取り戻しつつあった。これが教師たる力か……兎姫のこういった説得力は教師としての才能と言えるだろう。
そしてそんな時だ。夜宵の元にBパッドの着信音と共にとんでもない朗報が飛んでくる。
「?……椎名ちゃん?」
椎名からの着信だ。夜宵は恐る恐るその電話に応答すると………
〈おぉ〜〜い!!夜宵ちゃん!!おっひさ〜〜!!〉
「……椎名ちゃん…!!」
椎名からの開口一番の元気な挨拶に、夜宵は驚きながらも無事だったことに安堵を覚えた。さらにそれだけでは終わらない。
椎名は………
〈いや〜〜なんか今界放市に帰ってきたけどさぁ!!やばそうだね!!…でも私が今からサクッと【司】と救ってくるから待っててね!!〉
「………え?…今なんて……?」
夜宵は思わず椎名がサラッと言ったワードに反応した。確かに今【司】と言った。しかもまるで今現在一緒にいるかのような口ぶりで……
〈そう!!今いるんだ!!私の横に!!いつも通りのクールぶってる司が!!〉
〈………クールぶってねぇ!!めざしぃ!!さっさとその通話切りやがれ!!〉
「!?」
〈あわわわ!!わかったよ!!じゃ、夜宵ちゃん!!そういうことだから!!…必ず司と一緒に帰えって来るよ!〉
そこで椎名との通話は途絶えた。嵐のように慌ただしく通り過ぎていった椎名との通話だったが、確かにいた。
そこには確かにいつもの司がいた。自分が待ち望んでいた存在がいたのだ。司の事をよく知る彼女にとって、これほどの朗報はなく………
自然と頬を伝う涙が止まらなかった。
「………」
「よかったじゃない!!これで一安心ね!!…しっかし世界を救うなんて、大きく出たものね〜〜まぁ、あの子達はあの人が守ってくれるでしょ!!」
涙が止まらなくて震える夜宵の肩を流されるように手を置く兎姫。教師としてはそれを止めなければならないのだろう。しかし、おそらくそれは自分の役目ではなく、【空野晴太】の役目。
現場にいない自分ではない。彼ならば、信頼を寄せる彼ならば椎名達を守ってくれる。そう思っていた。
しかし、皮肉な事に、晴太ではどうしようもできないところまで来ているのは今の兎姫にはわからぬ事であって………
******
「ちょっとぉぉお!!無理矢理通話切らせなくてもいいでしょぉぉが!!」
「るっせぇ!!余計なお世話だってんだよ!!」
「はぁ、全く、夜宵ちゃんに後で謝りなよ〜〜……んじゃ、次は真夏に連絡するか………」
さっきは司が無理矢理椎名に電話を切らせた。これが単なる司の照れ隠しなのを椎名は理解している。
そんな椎名が次に電話をかけたのは真夏だったが、夜宵の時とは違い、彼女からは一向に連絡が取れない。椎名は少しだけ不思議に思うが………
「あれ?繋がらないや、真夏どうしたんだろう?」
「…………行くぞ………」
「え?何なに?急にどうしたの!!走って行かなくてもいいじゃん!?」
「急ぎなんだよ!!さっさとあの野郎をぶっ倒して、全てを元どおりにするぞ!!」
急に椎名を急かすように走りだした司。椎名はその様子を見て、違和感を感じるが、それが本当は不器用な司なりの気遣いであり………
………椎名はまだわからなかった。
自分のいない間に、晴太を始めとした仲間達のほとんどがあの界放市の上空を覆うデ・リーパーの壁になってしまっていることが…………
今起こっている事の大きさを含めた残忍さ残酷さがどれだけものなのか、歳不相応に内心が未だに子供で、幼い椎名にはイマイチわかっていない事であって………
******
人々は皆いなくなり、殺風景な雰囲気となってしまった界放市の街並み。椎名と司はそんな街を歩いていた。新鮮な気持ちにはなれるが、今は到底そんな事は考えつかなくて………
そして、とうとう、界放市の中央部に存在する名前もそのままのスタジアム、中央スタジアムが見えてきた。椎名がここに来たのは1年と半年程前に開催された界放リーグの時だっただろうか。
まさかずっとここの地下がDr.A達の隠れ家だったなどと考えもしなかった。
胸の鼓動が強く、それでいて高鳴り響く。いよいよ最終決戦と言わんばかりの気持ちが椎名と司、2人の心を満たしていた。
「着いた……うっひゃー…やっぱデッカいな〜〜中央スタジアムは……」
中央スタジアムの周囲のビルの前に到着した2人。椎名が広大な土地を占拠している中央スタジアムを久しぶりに見た感想を雑に述べる。
この地下。この地下にDr.Aや銃魔が拠点としている場所があるのだ。
だが、そこへ行くためには………
「てか、めっちゃさっきのうようよいるじゃん!!どうすんのさ?」
「るっせぇ!!一々感想を口にすんなっ!!」
「え〜〜私のアイデンティティ!!」
椎名の言うさっきの。と言うのはデ・リーパーの分身体達の事。それらはまるで銅像のように微動だにせずただただ立ち尽くしていた。
これは警備用だ。まるでこちらに本拠地であると分からせるためのようにも見える。
デ・リーパーのデッキにはデジタルスピリットに対する特効効果を持つものが多く含まれている。椎名と司がどんなに凄腕のバトラーでも、この数の分身体を一々相手にしていてはキリがないだろう。
しかし………
「この日のために俺は自分から進んで悪役になってたんだ……まぁ見てな…」
「?」
司はクールぶった顔でそう言うと、自身のBパッドから預かっていた総合数の約5割の数の分身体を呼び出した。これは司が雅治を倒し、その報酬で得た権利だ。
司が何故欲を言わず全部ではなく半分と言ったのか、その理由がこれだ。
「やれっ!!分身ども!!」
司が大勢の分身体に指示を出すと、その分身体は警備する分身体達めがけて一斉に走り出した。そして警備用の分身体達もそれに気づき、入れ乱れる乱闘が幕を開ける。
殴り殴られ、蹴り蹴られ、同じ力を持つ者達だからこその格好した戦闘がスタジアムの周囲で所狭しと展開されていく。
「今だ走るぞ!!」
「お?…おうよ!!」
全部の分身体を寄越せは流石に図々し過ぎてDr.Aに怪しまれる。そのため司は半分と言い、この時を計った。デ・リーパーの分身体達が味方同士で殺し合うことができるこの瞬間を。
椎名は特に意味がわかっているわけもなく、きょとんとした顔つきのまま、ただただ司の後ろを、デ・リーパー達の乱闘の中を全力で走った。
そんな時だ。
「「っ!?」」
3体の分身体が椎名と司の行く手を阻むように前方に現れる。本体とは違って顔がないため、喋る事は出来ないが、まるでここは通さないとでも言っているかのように思えてくる。
「ちぃ、なんとなくわかってたが、やはり半分ももらえてなかったか……!!」
「ん?ドユコト?」
半分の数対半分の数だったら当然力の同じ分身体達は引き分けで誰もこの道には現れなかった事だろう。
だとしたら考えられることはただ一つ、Dr.Aは、デ・リーパーの本体は司に半分の数をあげなかった事になる。ちょうど3体分超過するように司に配ったに違いない。
「ま、いいだろう、これも計算の内だ。めざし!!ここは俺が相手してやる!!お前は先に行け!!スタジアムのバトル場の中に隠し通路がある!!」
「っ!?大丈夫なの!?」
「俺を誰だと思ってる……こんな雑魚共に遅れを取るおれじゃない!!さっさと行け……!!」
司は既にBパッドまで展開して準備万端、戦闘態勢に入り、やる気満々だ。司はDr.Aに限って言えば倒せるのは椎名だけだと推測している。彼女を先に行かせるのは賢明な判断か………
椎名も司の確固たる決意が伝わってきたか、それを感覚で理解した。
「………わかった……」
椎名は静かにそう言って再び走り出し、分身体達を突っ切って中央スタジアムの中へと入っていった。司はそれを見届けると………
「テメェらの相手はこの俺だ………覚悟しろよ……っと言ってもテメェらは本体以外感情がないんだったな………」
3体の分身体達も司同様、自身のBパッドを展開。バトルの準備を完了させた。司と3体の分身体達によるバトルが今始まる。
「ゲートオープン、界放!!」
このコールは最終決戦の始まりのバトル。
椎名達とDr.A達による最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
******
一方椎名。中央スタジアムのバトル場へと足を踏み入れる。1年と半年前では大いに賑わっていたこのスタジアムだが、時期も時期、今も今であって人は1人も存在せずガラガラ。
椎名は同じ場所だと言うのに前に見た光景とは全く違う風景に新鮮さを感じながらも、司の言っていたそこの隠し通路を手当たり次第に探していく。
「んーーー……隠し通路ってどんなだよ……もっとわかりやすく作ってくれよ〜〜」
椎名は呆れていた。界放市どころか世界が危険なこの状況で、面倒くさがっていた。
司からはバトル場にあるとしか言われていない。つまり、バトル場の床にあると言う事だが、こんな広大なバトル場でそんなものを探すのはとても時間と労力がかかる。
が、そんな時だ。
ーガコッ!!
「っ!?」
椎名の少し離れたところの床が勝手に動き、開いた。おそらくはそれが隠し通路だ。
「おぉ、なんか……すごいかも……!」
カラクリのような感じで勝手に開いた床に、椎名はなんとなく心をくすぐられていた。その様子はあまりにも緊張感と緊迫感に欠けている。本当に今から世界を救いにいくのかと思えるほどだ。
だが、突如としてそれは終わりを迎える。
……その開いた床から上がってくる人物を見て………
そう、その床は決して椎名を導くために勝手に開いたわけではない。誰かが地下から普通に上がってきたのだ。椎名を倒すために…………
「…………え?」
自分の眼前に突如として現れた人物を見て、椎名は度肝を抜かれた。
その相手は…………
「……真夏……!?」
緑坂真夏。芽座椎名の親友とも呼べる存在。いつも一緒にいて、いつも一緒に笑っていた。しかし、今の真夏の表情は信じられないほどに冷たかった。まるで自分を敵として見ているような………そんな冷たい表情だった。
そんな真夏の様子に、椎名も今の状況ではとてもではないが笑えなかった。
「……エニーズ……戦え……戦え……」
「…ま、真夏!!どうしたんだよ!?しっかりしてよ!!」
壊れたレコーダーのように言葉を並べる真夏。能天気な椎名もただ事ではないと思い、ようやくこの事態に焦りを覚えていく。
だが、今更警戒しても時既に遅し………
……既に椎名は敵の罠に落ちている。真夏が自身のBパッドをこの場に瞬時に展開すると……
「っ!?」
なぜかそれに連動するかのように椎名のBパッドも勝手に展開し、バトルモードに移行してしまった。
「えぇ!?ちょっとちょっと!!どうなってんの!?」
いくら椎名がBパッドを元に戻そうとしても何故かそれはうんともすんとも言わず、バトルモード以外は一切の反応を示さない。
ここに来てBパッドが故障?
そんな馬鹿な……椎名とて手入れはしっかりしている。だとすると、理由はやはり真夏にある。
「デ・リーパー……意志、従う、エニーズ、倒す、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え…………」
「デ・リーパーって…あの化け物の……どう言う……」
もう何がなんだかさっぱりわからない椎名。困惑するが、その時、さらに追い討ちをかけるかのようにまた不思議な事起こる。
「うっふふふ!!…楽しみね〜〜!!」
「っ!?」
謎の囁きが椎名の耳の中に入って来る。しかし、椎名の周りには真夏以外は誰もいない。いったいこの謎の声主はいったい………
いや、謎ではない。聞き覚えがある。とても、とても聞き慣れた声だ。ずっと聞いている。
当然だ。何せ、この声は………
「……私の……声だ……」
紛う事なき椎名の声。喋り方や言動は全く別人だが、明らかにその声色は椎名と全く同じだった。
「うっふふふ!!ようやく気づいたね〜!!私はデ・リーパー!!その本体!!……よろしく、エニーズ!!」
「誰がエニーズだ!!…あなたが私そっくりの化け物だなぁ!!どこだ!どこにいる!!」
その声はデ・リーパー。姿はどこにも見せないが、確かに今、椎名と会話している。
「うっふふふ、私はここの地下にいるわ!!……でも、先ずはエニーズに準備運動をしてもらわないとね〜〜!」
「じゅ、準備運動?………っ!!」
この状況、準備運動と言う言葉のフレーズ、
頭の悪い椎名でもようやく察しがついた。
そう、これは椎名にとって決して避ける事のできない…………哀しき脅威のデスマッチだ。
「うっふふふ!!私に会いたかったらそこの緑坂真夏を倒してから来てね〜〜!!」
「戦え、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え………エニーズ………」
「…う、嘘でしょ?……ま、真夏………!!」
椎名の頭の血がサァーっと降って行く。今、この時、この瞬間、彼女に人生最大の難関が訪れていた。
友を倒し、先を急ぐか……
はたまたここで躊躇してわざと敗北し、デ・リーパーやDr.Aを倒せないままここで朽ち果てるか……
答えは2つに1つ……
しかし、その問いの答えは内心が幼い椎名にとってはあまりにも過酷で、惨たらしくて、更にそれでいて残酷なものだ。
〈次回予告!!〉
次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「死闘デスマッチ、椎名VS真夏!!」バトスピが今、進化を超える!!
******
※サブタイトルは変更の可能性があります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
バトル無し回ですみません。しかし、ようやく事態が一本の場所に絞られつつあります。というか絞られました。