界放市での戦いの場は遂に一点へと集中した。
Dr.Aの本拠地は界放リーグが開催される界放市中央スタジアムの地下に存在していた。そこへと乗り込む椎名と司。司はデ・リーパーの分身体を引きつけ、椎名を先へと急がせる。
先を急ぐ椎名だったが、そこで待ち構えていたのは、他でもない、緑坂真夏だった。椎名はデ・リーパーの策略に嵌り、真夏とのバトルを強いられてしまった。
「エニーズ、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え……」
「真夏!!やめてくれ!!目を覚ませ!!」
正気の目ではない真夏。明らかにデ・リーパーに操られている。
今のこの界放市の空間では、バトルの敗北者は上空のデ・リーパーの壁の糧となってしまう。司の話によれば、デ・リーパーの本体を倒すことができれば、すべて元通りになるのだが、
椎名に真夏を倒すことなどできない。いや、倒したくないと言うべきか。親友とも呼べる存在である真夏を犠牲にする勇気など、今の椎名には備わっていないのだ。
だが、そんな椎名の想いとは裏腹に、彼女のBパッドはコントロールを完全に掌握され、バトルモードに移行している。デッキからカードを引いたらバトルが始まってしまう状況だ。
「おいデ・リーパー!!早く真夏を元に戻せ!!…おい!!」
さっきまで頭の中に直接囁くかのように入って来ていたデ・リーパーの声はもう聞こえない。おそらくここよりさらに地下で待機しているのだろう。
「戦え、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え、エニーズっ!!」
「…真夏!!気を確かにしてくれ!!そんな言葉使いじゃないだろ!!」
「戦え、戦え、戦え、」
いくら椎名が呼びかけても今の真夏にそれは届かない。永遠と真夏は椎名にバトスピで戦えと連呼するのみ……
そして、とうとう痺れを切らしたのか、洗脳された真夏はゆっくりとBパッド上のデッキからカードを抜き取り…………
「パルモンを召喚!!」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨3
【パルモン】LV1(1)BP3000(回復)
バースト【無】
「っ!?…真夏っ!!」
勝手にバトルを開始させた。真夏は自分の場にトロピカルな花を咲かせる成長期スピリット、パルモンを召喚し、そのターンをエンドとした。
これにより、椎名がこのバトルを承諾しなければ、椎名は真夏のスピリットたちのアタックをただただのうのうと食らってしまうだけだ。そうなれば椎名は負け、晴太や雅治たち同様この場からデ・リーパーの壁の糧とされてしまうだろう。
つまり、是が非でもバトルをしなくてはならなくなってしまって………
「くっ……やるしかないのか……!!」
拳を強く固める椎名。
いくらデ・リーパーに勝てば良いからと、真夏に勝って彼女を消し去るなんてことはできない。「真夏を消した」と言う事実が心に残るからだ。
だが、このままただ突っ立っているわけにはいかない。だとしたらやれる事はただ一つ、このバトルを受けて、このバトル中に真夏を助けるだけだ。
椎名は拳と共にさらに決意を固めて、このバトルに臨む。
「待ってて真夏!!絶対元に戻すから!!……ゲートオープン、界放!!」
本来なら栄誉ある界放リーグでしか使用されないバトル場、そこで椎名と真夏の無益で無駄で、それでいて無謀なデスマッチが椎名のコールと共に幕を開けてしまう。
先行は真夏だったが、既にターンを終えたため、後攻の椎名のターンが今から始まる。
[ターン02]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ……ワームモンを召喚!!効果でカードをオープン!!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨1
トラッシュ0⇨3
【ワームモン】LV1(1)BP3000
オープンカード↓
【ライドラモン】×
【マグナモン】×
椎名が呼び出したのは芋虫のような緑の成長期スピリット、ワームモン。その効果を発揮させるものの、どれも対象内のカードではないため、いずれもトラッシュへと破棄された。
「アタックステップ!!目を覚まさせてやるっ!!アタックだワームモン!!」
ワームモンでアタックを仕掛ける椎名。ワームモンが体を丸めてゴムボールのようにはね飛ぶ。目指すは当然真夏のライフ。
「ライフで受ける……」
ライフ5⇨4
ワームモンの体当たりが真夏のライフを1つ破壊した。今のバトルはどれもライフが破壊されるたびに激痛が伴うはずだが、真夏は痛覚がないのか、平然とした顔でそれを難なく耐えた。
「どうだ真夏!!ターンエンド!!」
【ワームモン】LV1(1)BP3000(疲労)
バースト【無】
椎名は勢い良くそのターンを終える。
が、真夏は………
「……スタートステップ……」
「っ!?」
椎名の熱い想いが込められたアタックなど全く意に介さず、冷たい表情のままそのターンを再び進める真夏。これだけでは足りないとでも言うのだろうか………
[ターン03]真夏
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨5
トラッシュ3⇨0
「メインステップ……フローラモンをLV2で召喚…効果、カードをオープン」
手札5⇨4
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨2
【フローラモン】LV2(3)BP5000
オープンカード↓
【フローラモン】◯
【パルモン】◯
【トゲモン】◯
パルモンとはまた違った形でトロピカルな花を咲かせる緑の成長期スピリット、フローラモンを召喚する真夏。その効果で真夏は手札に新たなカード、【トゲモン】を手札に加え、残りを破棄した。
「アタックステップ開始時、フローラモンの効果、【進化:緑】を発揮、トゲモンに進化」
手札4⇨5
【トゲモン】LV2(3)BP6000
全く覇気のない声で進化を宣言する真夏。フローラモンにデジタルコードが巻きつけられ、その中で姿形を変えて、新たなスピリット、サボテンのような見た目のトゲモンとなって真夏の場に再び姿を見せる。
「トゲモン、パルモン、アタック……トゲモンの効果でコア一つをトゲモンに置く」
【トゲモン】(3⇨4)
走り出すパルモンとトゲモン。目指すは当然椎名のライフ。彼女の場は疲労しているワームモンのみ。このアタックはブロックできず………
「ライフで受けるっ!!……ッ、…ガッ!?」
ライフ5⇨4⇨3
パルモンの爪の一撃、トゲモンの強烈なパンチが椎名のライフを粉砕した。椎名にライフ破壊に伴う激痛が走る。
「…くっ……こんくらいの痛みなら屁でもないね!!」
「ターンエンド」
【パルモン】LV1(1)BP3000(疲労)
【トゲモン】LV2(4)BP6000(疲労)
バースト【無】
真夏はできることを全て終え、そのターンをエンドとした。次は椎名のターン。ここから反撃に転ずるべく、堂々動き出す。
[ターン04]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨7
トラッシュ3⇨0
【ワームモン】(疲労⇨回復)
「メインステップ!!……ワームモンのLVを2に上げ、グラウモンを召喚!!」
手札5⇨4
リザーブ7⇨0
トラッシュ0⇨4
【ワームモン】(1⇨3)LV1⇨2
【グラウモン】LV1(1)BP4000
椎名の場に飛び出してきたのは真紅の魔竜、その成熟期の姿、グラウモン。
「そしてバーストを伏せ、アタックステップ!!ワームモンの【進化:緑】を発揮!!成熟期スピリット、スティングモンを召喚!!さらに効果でコアを増やす!!」
手札4⇨3
【スティングモン】LV2(3⇨4)BP8000
今度は椎名の緑進化。場にバーストカードが伏せられると共にワームモンがデジタルコードに包まれ、進化する。そしてそれを突き破り、新たに現れたのはスマートな昆虫戦士、スティングモン。
ここまでは順調。手札にさらなる進化スピリットがあればさらに強力なスピリットを呼び出すことができるだろう。
……しかし、今回の真夏はひと味ちがう。
「相手がコストを払わずにスピリットを召喚した時、手札からこのカード、ソーンプリズン〈R〉の【ゼロカウンター】を発揮」
手札5⇨4
「なにっ!?【ゼロカウンター】だって!?」
真夏がそのカードの宣言を行うと、それだけで椎名の場、即ちスティングモンとグラウモンの眼前に木々の蔓のようなものが現れ、行く手を阻む。
「【ゼロカウンター】の効果、相手がバースト以外でコストを払わずに召喚した時、これをノーコストで発揮、発揮時の相手のステップを終わりにする」
「っ!?」
【ゼロカウンター】……それは相手がスピリット又はブレイヴを効果によってコストを支払わずに召喚した時のみ発揮可能な効果。ソーンプリズン〈R〉の効果はその発揮時点のステップを強制的に終了させるもの。
その効果でスティングモンとグラウモンの行く手を阻むように現れた蔓。【進化】はアタックステップ中に発揮される効果。つまり、椎名はアタックステップを止められたことになる。
「2コスト払い、追加効果、このカードを手札に戻す……トゲモンをLVダウン」
手札4⇨5
【トゲモン】(4⇨2)LV2⇨1
トラッシュ2⇨4
【ゼロカウンター】の厄介なところはそれだけではない。コストさえ払って仕舞えば手札に戻る事が可能。何度でも使用できるのだ。
このカードの存在のせいで、椎名は進化させづらくなったと言える。
「……くっ、ターンエンドだ」
【スティングモン】LV2(4)BP8000(回復)
【グラウモン】LV1(1)BP3000(疲労)
バースト【有】
アタックステップが終わって仕舞えば何もすることなどない。椎名はそのターンを終えてしまう。
強力な効果を持つ成熟期スピリット2体を並べて何もできないのはどうも歯痒い。真夏をどうにか助けないといけないと言う想いもあって、今の椎名は心のどこかに焦りを覚えている。
[ターン05]真夏
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札5⇨6
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨5
トラッシュ4⇨0
【トゲモン】(疲労⇨回復)
【パルモン】(疲労⇨回復)
「メインステップ……エニーズは敵、排除する……」
「私はエニーズじゃない!!思い出せ真夏!!」
「老賢樹トレントンを召喚……!」
手札6⇨5
リザーブ5⇨0
トラッシュ0⇨4
【老賢樹トレントン】LV1(1)BP5000
「っ!!」
真夏は椎名の事を椎名とは呼ばず、エニーズと呼称する。椎名の声は一切届かない。もはや1人の戦闘マシーンとなってしまった彼女は、自分の場に巨大な大木、老賢樹トレントンを呼び寄せた。
「召喚時効果、手札にあるリリモンを召喚……!」
手札5⇨4
【トゲモン】(2⇨1)
【リリモン】LV1(1)BP7000
さらにその生い茂る木々の中から姿を見せるスピリットが1体、それは真夏のエーススピリット、妖精型の完全体スピリット、リリモンが飛翔し、場へと降りてきた。
「くっ……リリモンまで……」
真夏だけでなく真夏のスピリットでさえも椎名を敵視した目で見つめる。
これはバトル。当然だ。あのスピリットたちは真夏に従う。だが、この真夏が洗脳されている状況では彼らもまた操られているように見えてしょうがなかった。
「アタックステップッ!…リリモンでアタック……」
「っ!!」
リリモンでアタック宣言を行う真夏。
椎名は今まで幾度となく受けてきたその強力なアタック時効果を今一度受けることになる。
「リリモンのアタック時効果、コアを2つ置き、ターンに一度回復!」
【リリモン】(1⇨3)LV1⇨2(疲労⇨回復)
リリモンはアタック時にコアを置きつつ、ターンに一度のみ回復。これだけでも強力だが、さらにまだ効果は続く。
「【旋風:1】の効果でグラウモンを重疲労!」
「っ!!…グラウモンッ!!」
【グラウモン】(回復⇨重疲労)
リリモンの両手に装備されるキャノン砲、そこから強烈な緑の光の弾丸が発射され、椎名の場のグラウモンを射抜く。グラウモンはあまりの疲労感により、その場でぐったりと地面に身体を伸ばししまう。
「アタックは継続中……死ね、エニーズ……」
「っ!!だから私はエニーズじゃないって!!……ライフで受ける………ッ!」
ライフ3⇨2
リリモンは椎名のライフめがけて掌から緑の光線を発射。椎名のライフに直撃し、それがまた一つ木っ端微塵に砕け散った。
「くっそぉ!!…まだやられる訳にはいかないッ!!……ライフ減少により、バースト発動!!…マリンエンジェモン!!」
「!!」
このままでは真夏を戻すこともできずにただただやられるだけだ。椎名は一先ずこのターンを凌ぐべく、伏せていたバーストを発動させる。
「マリンエンジェモンは効果により召喚!!」
リザーブ1⇨0
【マリンエンジェモン】LV1(1)BP3000
バーストが反転すると共に椎名の場へと現れ出たのは小さな桃色の究極体スピリット、マリンエンジェモン。
その効果は究極体らしく強力なものを有している。
「マリンエンジェモンの効果!!このターン、コスト9以下のスピリットのアタックじゃぁ、私のライフは減らないッ!!…オーシャンズラブ!!」
マリンエンジェモンは囀るように小さく歌うと、椎名の周りに水のバリアが展開。それはこのターンの間は解けることなく、一定のコスト体のスピリットのアタックを受け付けない。
「リリモンでアタック……コアを増やし、マリンエンジェモンを重疲労…!!」
【リリモン】(3⇨5)LV2⇨3
「っ!!」
【マリンエンジェモン】(回復⇨重疲労)
だが真夏はそれを見越してもまだアタックする事を止めず、リリモンでアタックを続行。リリモンの両腕から放たれるキャノン砲が椎名のマリンエンジェモンを撃ち抜いて地面へと這いつくばらせた。
「…くっ……アタックはライフで受ける」
ライフ2⇨2
リリモンが掌から光線を放ち、再び椎名のライフを砕こうとするも、椎名のライフはマリンエンジェモンの放ったオーシャンズラブの効果によって守られているため、それを全く寄せ付けない。
「………ターンエンド」
【トゲモン】LV1(1)BP4000(回復)
【パルモン】LV1(1s)BP3000(回復)
【老賢樹トレントン】LV1(1)BP5000(回復)
【リリモン】LV3(5)BP12000(疲労)
バースト【無】
これ以上はアタックする必要がないとみたか、真夏はそのターンを終える。これに伴い、マリンエンジェモンが椎名の周りに出現させた水のバリアは消滅した。
次は椎名のターンだ。ここらで一度劣勢を覆さねば大量に存在する真夏のスピリットにタコ殴りにされるのは目に見えているが………
[ターン06]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨5
トラッシュ4⇨0
【グラウモン】(重疲労⇨疲労)
【マリンエンジェモン】(重疲労⇨疲労)
「くっ…グラウモンとマリンエンジェモンは回復できない……」
地面にぐったり倒れる2体はこのリフレッシュステップでようやく通常の疲労状態となる。少なくともこのターンはアタックができない。
今現在、椎名の場でアタックできるのはスティングモンだけだ。しかし、そのスティングモンだけではこの場はどうしようもない。せめてグラウモンが回復状態だったら破壊効果でどうにかできただろうが………
おそらく真夏もそれを見越してグラウモンを疲労させたのだろう………
「……とにかくスピリットを並べないと……メインステップッ!!ワームモンとブイモンを召喚!!それぞれの召喚時効果を発揮!!カードをオープン!!」
手札4⇨2
リザーブ5⇨1
トラッシュ0⇨2
【ワームモン】LV1(1)BP3000
【ブイモン】LV1(1)BP2000
ワームモンオープンカード↓
【ディーアーク】×
【デジヴァイス】×
ブイモンオープンカード↓
【フレイドラモン】◯
【デュークモン】×
進化によって手札に戻っていたワームモンが再び椎名の場に垣間見える。さらに追加で青きドラゴンの成長期スピリット、ブイモンも召喚される。
その効果はブイモンのみ成功。椎名は新たにアーマー体であるフレイドラモンのカードを手札に加えた。
「アタックステップッ!!……もう一発!!これで目を覚まさせてやる!!スティングモンでアタック!!」
手札2⇨3
【スティングモン】(4⇨5)LV2⇨3
真夏の手札に【ゼロカウンター】がある限り椎名は進化ができない。ここは何もせず、スティングモンでのアタックを試みる。
が、このアタックによるフラッシュタイミングで、洗脳された真夏は椎名の目の前にとんでもないスピリットを呼び出す。
「フラッシュ…【煌臨】を発揮……対象はリリモン……ソウルコアの不足コストはパルモンから確保…よって消滅」
【パルモン】(1s⇨0)消滅
トラッシュ4⇨5s
「っ!!」
パルモンがソウルコアの確保のためにこの場から消滅させられる。しかし、その行いは決して無駄ではなく、新たなスピリットを呼び出すための礎………
リリモンが強烈な暴風、竜巻の中に閉じ込められて行き、新たなる進化を施される。それは究極体スピリットでなければ、デジタルスピリットでさえもない。
だがそれでも特別なスピリット。それはその竜巻を解き放ち、今この地上へと降り立つ。
「現れよ虚神!!天帝ホウオウガッ!!」
手札4⇨3
【天帝ホウオウガ〈R〉】LV3(5)BP22000(疲労)
「なにっ!?虚神だって!?」
荒れ狂う暴風と共にその姿を現したのは色鮮やかな翼を広げる巨大な彩鳥、天帝ホウオウガ。その貫禄はまさしく神にも等しいと言える。
だが、椎名は決してそんなところに驚いているわけではない。この程度のスピリットは今まで散々現れていたし、幾度となく乗り越えてきた。
問題なのは真夏が持ってもいないあのカードを使っていることだ。
「…真夏……どうしたんだよそのカード……!!」
真夏はデッキにそんなカードは入れていない。可能性があるとしたらDr.Aかデ・リーパーが真夏のデッキに投入した事になる。
さらにこの時、椎名はまた新たな事に気付き始める。それはホウオウガが雄々しく美しい翼を羽ばたかせながら、椎名を威嚇するかのように奇声を上げた時だ。
「っ!?…これは……!!」
椎名は不思議と感じ取ってしまった。ホウオウガの中にあり、僅かながらに漏れ出ている途方も無いエネルギーを……
「これは進化の力!?…あれが真夏をおかしくしているんだ……」
鬼化の力をコントロールした今の自分にはわかる。これは紛う事なき進化の力。真夏の力とは違う進化した力だ。
椎名は悟る。間違いない。真夏がおかしくなっているのはあのホウオウガのせいであると………
「じゃあ、あいつさえ倒せば真夏は……!!」
元に戻せる。あのホウオウガさえ倒せば……
そう確信した。
だが、これが一筋縄ではいかない事は確かな事。洗脳された真夏はそのホウオウガの効果を遺憾なく発揮させる。
「ホウオウガの煌臨時効果!!…【旋風:3】!!…ワームモン、ブイモン、スティングモンを重疲労……!!」
「なにっ!?」
【スティングモン】(疲労⇨重疲労)
【ワームモン】(回復⇨重疲労)
【ブイモン】(回復⇨重疲労)
ホウオウガの美しい翼から巻き起こる強風。それがブイモンとワームモンだけでなく、アタック中であるスティングモンさえも重疲労してしまう。
さらにこれだけでは終わらないか、真夏は追い討ちをかけるように手札のカードを引き抜いて………
「フラッシュマジック…ソーンプリズン〈R〉…相手は相手のスピリット2体を重疲労……!!」
手札3⇨2
【天帝ホウオウガ】(5⇨3)LV3⇨2
トラッシュ5s⇨7s
「っ!?…また重疲労……!!」
【グラウモン】(疲労⇨重疲労)
【マリンエンジェモン】(疲労⇨重疲労)
さっき使用した【ゼロカウンター】を持つマジックカードをこのタイミングで使用してきた真夏。ここで使ってきた椎名のターンでのアタックを封じるためか………
それともはたまた椎名のブロックできる確率を減らすためか………
「スティングモンのアタックはトゲモンでブロック……!!」
重疲労になってしまったとは言え、スティングモンのアタックは未だ継続中、その相手はトゲモンが務める。
トゲモンがヘビー級ボクサー並みのパンチをスティングモンに向けて放つが、スティングモンはそれをひらりと避け、逆にトゲモンの懐に強烈なカウンターの一撃をお見舞いする。
それを受けたトゲモンは吹き飛ばされ、爆発した。
「……くっ……ターンエンド」
【スティングモン】LV3(5)BP10000(重疲労)
【グラウモン】LV1(1)BP4000(重疲労)
【マリンエンジェモン】LV1(1)BP3000(重疲労)
【ワームモン】LV1(1)BP3000(重疲労)
【ブイモン】LV1(1)BP2000(重疲労)
バースト【無】
これだけ多量のスピリットを召喚していながら、アタックできたのは僅か一回、しかも全て重疲労状態にさせられてしまっている。
次はホウオウガで椎名の身動きを止めた真夏のターン。戦闘マシーンはトドメを刺すべく再びターンを開始する。
[ターン07]真夏
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札2⇨3
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨9
トラッシュ7⇨0
【天帝ホウオウガ〈R〉】(疲労⇨回復)
「メインステップ……フローラモンを召喚」
手札3⇨2
リザーブ9⇨6
トラッシュ0⇨2
【フローラモン】LV1(1)BP3000
真夏は進化の効果によって手札に戻っていたフローラモンを今一度召喚する。
下準備なこんなものか、真夏はアタックステップへと移行し、椎名へのアタックを決行する。
「アタックステップ!!ホウオウガでアタック……」
羽ばたき飛び立つホウオウガ。そしてさらにその瞬間、ホウオウガの第2の効果が発揮される。
「フラッシュ、ホウオウガの効果によりリザーブのコアをボイドに置き、回復する」
リザーブ6⇨5
【天帝ホウオウガ〈R〉】(疲労⇨回復)
「っ!?」
ホウオウガはLV3の時、フラッシュタイミングでリザーブのコアを1つボイドに置けばターンに何度でも回復する。この効果により、ホウオウガはより強く、優雅な雄叫びを上げ、回復状態となった。
椎名のスピリットは全て重疲労状態。ライフは2。絶対絶命の状況だ。反撃したいところだが、なにぶんホウオウガのBPと効果が強すぎる………
「ライフで受ける……ッ」
ライフ2⇨1
ホウオウガの巻き上げる暴風が椎名のライフをいとも容易く消しとばした。いよいよレッドゾーンに到達してしまう。
「二撃目……フラッシュの効果により回復」
リザーブ5⇨4
【天帝ホウオウガ〈R〉】(疲労⇨回復)
「っ!!」
椎名を倒す事になんの躊躇や戸惑い真夏。最後のアタック宣言を行う。
しかし、最後だと思っているのは真夏だけ、椎名は今一度この強烈なアタックステップを退けるべく手札からカードを抜き取る。
「フラッシュマジック!!…デルタバリア!!…不足コストはスティングモンのLVを1に下げて確保する!!」
手札3⇨2
【スティングモン】(5⇨1)LV3⇨1
トラッシュ2⇨6
「!!」
「このターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックじゃ私のライフは減らない!!……ホウオウガのアタックはライフで受ける!!」
ライフ1⇨1
スティングモンのLVが降下するものの、椎名の前方にライフバリアとはまた違った三角形のバリアが出現。
ホウオウガが翼を叩きつけたり、脚で蹴りつけたりするものの、前方のバリアのお陰で椎名のライフには傷一つつかない。
だが、これが発揮されるのはコスト4以上のスピリットのみ、ホウオウガはコスト10のスピリットであるため守れたものの、今の真夏の場にはコスト3のスピリット、フローラモンも存在しており………
「フローラモンでアタック………」
それでアタックを仕掛けてきた。だが、これを見越していた椎名の表情には緊張感は漂うも、まだ余裕の顔が浮かんでおり………
「そりゃ、そう来るよね……でも真夏!!…私の手札には前のターンで加えたこれがある!!…フラッシュ、フレイドラモンの【アーマー進化】を発揮!!対象はブイモンッ!!」
「!!」
重疲労状態により、地面にぐったりと倒れるブイモンの頭上に、赤いデジメンタルが投下される。それはブイモンに直撃し、それと混ざり合い、新たな姿へと昇華させる。
「燃え上がる勇気!!…現れよ、フレイドラモン!!」
リザーブ2⇨1
トラッシュ6⇨7
【フレイドラモン】LV1(1)BP6000(回復)
新たに現れたのは炎燃ゆるスマートな竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモン。【アーマー進化】の効果は【進化】とは違い、コストを支払う効果。仮に真夏が2枚目の【ゼロカウンター】を持っていても発揮できないし、新しい召喚扱いであるため、ブイモンの重疲労状態さえも解除し、回復状態となっている。
フレイドラモンの効果も相まって、今のこの状況にはこれ程までに適したスピリットは他にいないだろう。
「フレイドラモンの召喚時効果!!BP7000以下のスピリット、フローラモンを破壊!!」
「!」
「爆炎の拳…ナックルファイアァァァア!!」
手札2⇨3
フレイドラモンは登場するなり、拳から炎の鉄拳を放ち、迫ってくるフローラモンを迎撃、そして直撃。草花で身を包んでいるフローラモンがその炎の鉄拳に耐えられるわけもなく、あっさりと焼却されてしまった。
「………ターンエンド」
【老賢樹トレントン】LV1(1)BP5000(回復)
【天帝ホウオウガ〈R〉】LV3(5)BP22000(回復)
バースト【無】
完全に攻め手を奪われた真夏は致し方なくそのターンを終える。次は椎名のターン。もう後がない。ここでどうにかできないのであれば、自分も真夏も終わりだ。
そう思いながら、奇跡の大逆転を起こすべくターンを進めていく。
[ターン08]椎名
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ1⇨2
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ2⇨9
トラッシュ7⇨0
【スティングモン】(重疲労⇨疲労)
【ワームモン】(重疲労⇨疲労)
【グラウモン】(重疲労⇨疲労)
【マリンエンジェモン】(重疲労⇨疲労)
全てのスピリットが一段階回復するも、未だ疲労状態で動けないまま、今の椎名の場で動くことができるのはフレイドラモンだけだ。しかもこんな状態であのホウオウガを倒さなければならないのだ。
普通は不可能に近い。が、椎名はいつだってこんな状況を乗り越えてきた。どんなに劣勢に立たされても自分の引きの強さだけを信じて堂々としてきた。
……そして今回も………
「メインステップッ!!ブイモンを再召喚!!効果によりカードをオープン!!」
手札4⇨3
リザーブ9⇨7
トラッシュ0⇨1
【ブイモン】LV1(1)BP2000
オープンカード↓
【ギルモン】×
【パイルドラモン】◯
椎名の場に【アーマー進化】の効果で手札へ戻っていたブイモンが再び現れる。そしてその効果も成功、椎名は新たにパイルドラモンのカードを手札へと加えた。
「よし……いくぞ真夏!!…私は至高の竜戦士、パイルドラモンをLV2で召喚!!」
手札3⇨4⇨3
リザーブ7⇨1
トラッシュ1⇨4
【パイルドラモン】LV2(3)BP10000
至高の光を放つ青と緑の光。それは混ざり合い、新たなるスピリットを呼び覚ます。そして椎名の場へと新たに君臨して来たのは青と緑の完全体スピリット、竜人型のパイルドラモン。
「パイルドラモンの召喚時効果!!…コスト7以下のスピリット1体を破壊する!!」
「!!」
「コスト6のトレントンを破壊!!…デスペラードブラスター!!」
パイルドラモンは登場するなり、両腰に備え付けられた機関銃を真夏のトレントンに向け連射。木々や幹ごとぶち抜き破り、トレントンを爆破に追い込んだ。
「まだ行くぞ!!スティングモンを消滅させ、フレイドラモンのLVを2にアップ!!さらに青のブレイヴカード、双牙皇オルト・ロードを召喚!!」
手札3⇨2
リザーブ1⇨0
トラッシュ4⇨5
【スティングモン】(2⇨0)消滅
【フレイドラモン】(1⇨3)LV1⇨2
不足コストの確保により、スティングモンが消滅してしまうものの、フレイドラモンのLVが上昇し、さらに場には青のブレイヴ、二つの首を持つ獣、オルト・ロードが姿を見せる。
「パイルドラモンとオルト・ロードを合体!!」
【パイルドラモン+双牙皇オルト・ロード】LV2(3)BP15000
オルト・ロードがパイルドラモンと衝突し、混ざり合う。パイルドラモンはその蒼き力を受け、姿を変えていく。上半身にはオルト・ロードの武装が施され、青と白の4枚の翼は消滅し、新たに巨大な漆黒の翼が2枚生えてくる。
その眼光さえも鋭く蒼く染まり、真夏の場のホウオウガを一点に睨みつける。
「準備は万端だ!!アタックステップッ!!…いけぇ!パイルドラモン!!」
アタックステップに入り、パイルドラモンが漆黒の翼を翻し、勢いよく空を飛ぶ。
「パイルドラモンのアタック時効果!!コアを2つ追加し、ターンに一度回復!!…エレメンタルチャージ!!」
【パイルドラモン+双牙皇オルト・ロード】(3⇨5)LV2⇨3(疲労⇨回復)BP15000⇨18000
パイルドラモンにボイドからコアが追加され、身体が一瞬のみ虹色に光り輝く。これは同時に回復している証拠でもある。これにより、最低二度のアタックが可能となった。
だが、今回に限ってはまだ終わらない。今度はフレイドラモンの効果だ。
「フレイドラモンのLV2効果!!…効果名に【進化】を含むスピリット全ては相手のスピリットを指定してアタックができる!!」
「!!」
「パイルドラモンは効果に【ジョグレス進化】を持つ!!…ホウオウガに指定アタックッ!!勝負だ真夏!!」
フレイドラモンの燃え上がる炎が伝達するようにパイルドラモンへと流れて来る。パイルドラモンはその身をその炎で焦がし、地上に佇むホウオウガへと急降下する。
それを見たホウオウガは戦闘態勢に入る。その場で竜巻を発生させ、上空のパイルドラモンを孕ませると同時に自身もまた上空へと飛び上がった。
パイルドラモンも負けじと平行線に並び立ったホウオウガにデスペラードブラスターを放つが、ホウオウガはそれを難なく回避、そして目にも留まらぬスピードでパイルドラモンに次々と一撃を与えていく。
BPは圧倒的にホウオウガの方が上、パイルドラモンは防戦一方のまま何もできず、破壊されるだろう。
飽くまでもこのままではの話だが………
「……パイルドラモン、負け、エニーズ、負け……」
「真夏だったらわかるはずだ!!私がこんなところで諦めるわけがないって!!…最後の最後まで全力で私のバトルスピリッツを貫く!!」
そうだ。椎名が、あの芽座椎名がこんなところで諦めるわけがない。必ず最後にはホウオウガに勝ち、真夏を助ける。
「フラッシュマジック!!ストロングドロー!!…不足コストはグラウモンから確保!!…パイルドラモンのBPを3000アップ!!」
手札2⇨1
【グラウモン】(1⇨0)消滅
トラッシュ5⇨6
【パイルドラモン+双牙皇オルト・ロード】BP18000⇨21000
ホウオウガの攻撃をただひたすらに受け続けるパイルドラモン。グラウモンの犠牲により、そのBPが上昇するが、まだそれには敵わない。
だがまだだ。まだまだだ。これでも足りないならまだカードを使うまで………
「フラッシュマジック!!ワイルドライド!!不足コストはワームモンとマリンエンジェモンから確保!!…パイルドラモンのBPをさらに3000アップ!!」
手札1⇨0
【ワームモン】(1⇨0)消滅
【マリンエンジェモン】(1⇨0)消滅
トラッシュ6⇨7
【パイルドラモン+双牙皇オルト・ロード】BP21000⇨24000
「!!」
追加でワームモンとマリンエンジェモンが消滅し、パイルドラモンのBPが追加で3000アップ。ついにホウオウガのBPを凌駕した。
何度も槍のように突進してくるホウオウガに対し、パイルドラモンはとうとうその動きを完全に見切り、紙一重で躱すと、ホウオウガの首根っこを捕まえ、振り回し、さらに上空へと投げ飛ばした。
さらにパイルドラモンは腰に備え付けられた機関銃を体勢を崩したホウオウガへと向け………
「真夏にそんなスピリットは似合わない!!…そんなカード捨てちゃえぇぇぇぇえ真夏ぁ!!……蒼銃撃……デスペラードブレイズッ!!」
椎名がそう強く叫ぶと、パイルドラモンはそれに呼応するかのように機関銃から蒼きエネルギーを射出。それは一直線にホウオウガの方へと伸び、直撃。ホウオウガは両翼をもがれ、撃墜し、大爆発を起こした。
そしてその時、椎名の予想は正しかったか、ホウオウガの破壊直後に真夏に異変が起こる………
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「っ!!…真夏っ!!」
ホウオウガと真夏には何かしらの強いリンクがあったのか、ホウオウガ破壊直後に、真夏の体内からドス黒い靄が次々と飛び出していく。
それが進化の力とでも言うのか………その黒い靄は上空に伸び、ゆっくりとその姿を消滅させていった。
……そして、
「う、ぅぅっ!?……し、椎名?」
「っ!!真夏っ!!…良かった!!無事なんだね!!」
「あ、あたし、い、今まで何を……………ッ!?!」
ようやく本当の意識を取り戻した真夏。喋り方も言動もいつもの真夏へと元に戻る。
ただ、デ・リーパーに捕らえられていた時の記憶が残っているのか………その記憶を瞬時に取り戻していき………
……悟る。ここまでのバトル。今まで自分が何をしてきたのかを全て理解した上で……今自分が何をすべきなのかを………
「……椎名……あたしを倒せや……!!」
「………え?」
荒くなっていた呼吸が回復した真夏が開口一番に放った言葉はまさかの倒せという命令だった。椎名は一瞬わけがわからなくなった。
「な、何言って……」
「わかるんや、あたしには……このバトル、どっちかが朽ち果てるまで終わることはない。そして、負けたらあの壁の一部にされる……」
「………ッ」
「あたしとあんたやったら、どっちかっつーーと、あんたの方がまだ残った方がええやろ?」
一時デ・リーパーに身体を奪われていた真夏は今の界放市の仕組みをよく理解している。
その通りだ。負けた方は消える。そして、このバトルにおいては勝敗がつくまでBパッドはバトルモードを解除できない。罠に嵌った椎名のもそうだし、真夏のもそうなっている。
「だから椎名……早く倒しぃ」
「嫌だよ!!絶対に私はアタックしない!!……絶対に!!」
「アホ抜かせ、せやったらどないすんねん!!」
「……それは今から考える!!…だから自分から消えるなんて言わないでよ!!」
「ッ!!」
できるはずがない。デ・リーパーの本体を倒すことができればあの壁は消え、全てが元どおりになるとしても、
一度だって友達をそんな目に会わせるわけにはいかない。消えることがどんなに怖い事か計り知れない。況してやそれを自分のてで行うなど持っての他だ。
だが真夏は………
「はっはっは!!あんたは本当、マジモンのアホやな〜〜……でもあたしはそんなアホでバカみたいなあんたみたいに、かっこよぉ、なりたかったのかもしれへん………」
「……真夏…っ!?」
真夏はそう言い、右手をBパッド上にあるデッキの横へとゆっくり手を伸ばす。椎名は瞬時に理解した。その行いはまさしく【サレンダー】………
Bパッド上のデッキの直ぐ横にあるボタンをタップすれば、サレンダーが認められるのだ。
真夏は自ら身を引き、椎名に勝利を譲る気だ。
「じゃあな……足手まといで、ほんま、すまんなぁ………せやけど、あんたなら絶対……絶対みんなを救えるって信じとる!!」
「やめてくれよ……やめてくれ、そんな悲しい顔しないでくれよぉ!!………真夏ぁぁぁぁぁあ!!!」
真夏は椎名にそう言い残し、涙を流しながら止めようとする椎名の願いを聞かずに、そこにそっと右手を置いた。すると、彼女の身体がデジタル粒子に分解され……上空のデ・リーパーの壁に吸い付くされていった。
洗脳されていた椎名のBパッドがようやくバトルモードから解除され、元の形に戻る。それに伴い、場に残っていたブイモン、フレイドラモン、パイルドラモンが消滅していった………
………最も悲しきバトルは、こうして終わりを告げたのだった…………
ただ1人取り残された椎名は立つ気力さえをも失ったか、膝から崩れ落ちる。
「……う、ぅぅぅう!!!!」
自惚れていた。この【鬼】と呼ばれる力に……何でもできると思っていた。これさえあればみんなを必ず守れる思っていた。しかし、それはほんの思い違い……
………自分は決して、特別な存在ではなかった………
「なんでだよっ!?!…なんで私なんかのために命かけたんだ!?……くっそ……くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」
涙が止まらない。何もできなかった自分が憎い。存在が気に入らない。
友を倒してしまったという椎名の考えがその頭をおかしくしてしまう。体の中身を丸ごと抉り取られるような痛みに駆られる。全身が痒くて気持ち悪い。
椎名の嘆きとそこから発せられる後悔の叫びはしばらく収まる事はなかった………
******
一方ここは中央スタジアムの周囲。司が3体のデ・リーパーの分身体を引きつけ、バトルしていた。そしてその長いバトルもようやく終わりを迎えようとしていた………
「フッ、テメェらはやはり分身体だと弱くなるみたいだなぁ!!終わりだっ!!……やれ、ジョーカー!!」
黒き怪人、ジョーカーがデ・リーパーの分身体の最後のライフを腕に装着された鋭利な外骨格の一撃によって切り裂かれた。
これにより、バトルは司の勝利。見事、分身体の三連ちゃんでのバトルを制した。が、うかうかはしてられない。
「ちぃ、わざと俺のコントロールできる分身体を減らしやがったんだ。Dr.Aは俺の計画を計算に入れている可能性が高い……くっ、急ぐか……!!」
そうだ。本来ならば自分も芽座椎名と共にスタジアムの地下へと乗り込んでいたはずだ。自分のもらっていた分身体が半分ではなく、三体分超過されるように配られたのはこれを見越しての事だろう。
先を急ごうとする司………しかし、ここである異変が彼の体に起こる。
「ッ!?!…ぐ、ぐうっ!!」
唐突に身体に痛みが伴う。体中が蝕まれるような感覚が司を襲い始める。司はこの痛みの理由に当てがあったか、デッキからある1枚のカードを取り出す。
それは………Dr.Aから譲り受けたカード、ジョーカー……司の予想通り、そのジョーカーのカードは眩い光を発していた。その光がなくなると、司の痛みは和らいでいく………
このカードは彼らの目を欺くため、そして一時的なパワーアップのためにもらっていたカードだったが………
しかし、今はそんな事気にしてもいられない。司はカードとデッキを懐にしまい、その先を急ぐのだった。
《本日のハイライトカード!!》
真夏「本日のハイライトカードは【天帝ホウオウガ〈R〉】や!!」
真夏「ホウオウガは煌臨時、相手のスピリットを3体重疲労させて、フラッシュタイミングでリザーブのコアをボイドに置く事で回復できる効果も備えとるんや!!相手がどんなに強力なスピリットを並べていようと、一瞬やでっ!!」
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《次回予告!!》
椎名「真夏は消えた……私に望みを託しながら、私はそれに応えて、早く行かないといけない!!待っててくれ真夏!!みんな!!私が絶対に全部元に戻すから!!……ッ!?そこを退いてくれ銃魔!!あなたと戦う理由はないんだ!!」
椎名「次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「椎名決断の時、築き上げてきた絆!」…今、バトスピが進化を超える!!」
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※サブタイトルは変更する可能性があります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
予告のやり方は気分で変えました。
パイルドラモン久し振りの大活躍。デュークモンが出てからと言うもの、めちゃくちゃ影が薄くなってた気がするので、今回なんとか活躍できて何よりです。
こんなシリアス展開なんて終わらせて早く三期に突入したい。余ってるデジモンカードを早く出したいのです。
最近メッセージボックスに【椎名達の私服と制服はどんなですか?】と質問が来ました。そう言えば最初はそれぞれのキャラに一先ずモチーフにするキャラを考えていたなぁと、その御質問が私に思い出させてくれました。まぁ、私の場合、だいたいデジモンのキャラになるのですが………
学園の制服はデジモンのゲーム、サイバースルゥースと言うゲームに登場する制服です。ググってもらえれば出てきますね。これは界放市の学園生みんなほとんど同じ制服です。バッジの色と数字でどこの学園で何年生なのかわかるようになっています。
私服はあんまり考えた事なかったですね。ただ、後で【もっと詳しく芽座椎名】にも載せようと思っていましたが、椎名のモチーフキャラはデジモンゲームのキャラ【四ノ宮リナ】です。こちらも直ぐに検索で出ると思います。設定を書いていくうちに仕方なく、髪色とか髪型とかいろんなものが変わっていきましたが、顔の表情とかは私の中では似通っています。服装も露出が高くない事以外はだいたい同じです。強いて言うなら、リナはパーカーのフードを被ってますが、椎名は取ってます。
他のキャラについてもゆっくり明記できたらと思います。まぁ、この点については読者様のご想像にお任せしたいのが素直な気持ちですけどね………