殺伐とした風景。人気も全くと言っていい程にない薄暗い裏路地にて、赤羽司は下校中、謎の男と対峙していた。黒髪で若くて、やや背丈の低い男性。だが、そんな肩書きなど決して似合わない程の憎悪を纏った黒いオーラ。
そんな彼は司のバロンのカードを欲していて………
「バロンを返せだと?…あれは俺のオーバーエヴォリューションで手に入れたカードだ、テメェのもんみたいに言うんじゃねぇ」
「貴様の物でも我の物でもない、バロンのカードは元々我の祖先、エニー・アゼム様の物だ」
この男の名はバーク・アゼム。彼は自分の事を2000年以上前に生きていた人物、エニー・アゼムの子孫だと言う。
「エニー・アゼムの祖先?…馬鹿かテメェは、エニー・アゼムがこんなカードを持っていたと言う記録はない」
そうだ。エニー・アゼムは何かしらのカードは持っていたらしいが、それがなんなのかは今の歴史学では到底わかり得ない。それ故に、この男の言っていることは余りにも不自然で信じ難く、怪しい。今自分の手の中にあるバロンのカードがその証拠だ。
バロンは紛れもなく自分のオーバーエヴォリューションで手に入れたカード。自分だけのカードのはずなのだ。
「違う、それは人間が奪ったんだ……人間がエニー様を殺し、進化の力を奪った……【バトスピ一族】は最も穢れし一族だ……!!」
「?」
バークの言っていることを理解できない司。
人間がエニー・アゼムの進化の力を奪った?
確かに人間のオーバーエヴォリューションの発展となったのはエニー・アゼムと言われているが、どんな諸説でもそんな人間の私利私欲のためにエニー・アゼムが消されたと言う歴史は聞いたことがない。
「何言ってんだテメェは…………まぁいい、そんなに俺のバロンが欲しかったら、やる事は1つだ」
司はそう言いながらデッキをバークに突きつける。まるで自分に強さを証明しろと言わんばかりに………
司はバトスピで勝負を着ける気だ。
この世界の何事においても優先されるカードゲーム、バトルスピリッツ。この場でもそれが起用されようとしていた。
「いいだろう、確かに貴様相手だとこっちの方が手っ取り早い……我は強いぞ」
「俺の経験上、そうやって強い強いと豪語する奴に限って対してそうでもないことが多いんだよな………」
「フッ、減らず口を……餓鬼が……」
2人はそう言い合いながらも、自身のBパッドを展開し、バトルの準備を行った。
そして始まる。司のバロンを賭けたバトルスピリッツが………
「「ゲートオープン、界放!!」」
コールと共にバトルスピリッツが開始される。
先行は司だ。
[ターン01]司
《スタートステップ》
《ドローステップ》手札4⇨5
「メインステップ、俺はネクサスカード、ヘルヘイムの産物を配置し、エンドだ」
手札5⇨4
リザーブ4⇨0
トラッシュ0⇨4
【ヘルヘイムの産物】LV1
バースト【無】
司が初手で配置したネクサスカードはヘルヘイムの産物と言うカード。彼の背後から不気味な樹が現れる。その周りには蔓が伸びており、そこからさらに紫色で不思議な形をした果実のようなものがいくつも存在している。
[ターン02]バーク
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ4⇨5
《ドローステップ》手札4⇨5
「我のメインステップ、我は……いや、我もヘルヘイムの産物を配置!!」
手札5⇨4
リザーブ5⇨1
トラッシュ0⇨4
「…!!」
バークの背後にも同様のものが配置される。
「ターンエンド、さぁ来い赤羽司、我の先祖代々、エニー様から受け継がれて来たこのデッキで、残ったバロンを回収してくれる……!!」
【ヘルヘイムの産物】LV1
バースト【無】
「受け継がれて来た?……俺の猿真似をしたの間違いだろ?」
「今にわかる、さぁ、早く手を進めろ……!!」
「っ……」
司は同じネクサスを配置された事を不自然に感じながらも、次なる自分のターンを進めていく。
[ターン03]司
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ0⇨1
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ1⇨5
トラッシュ4⇨0
「メインステップ、俺はイーズナを2体召喚!!」
手札5⇨3
リザーブ5⇨3
【イーズナ】LV1(1)BP1000
【イーズナ】LV1(1)BP1000
司がこのバトルにおいて初めて召喚したスピリットはイタチのような小さいスピリット、イーズナ。赤としても黄色としても扱える優秀なスピリットだ。
「そしてホークモンをLV1で召喚する!!……召喚時効果を発揮!!」
手札3⇨2
リザーブ3⇨1
トラッシュ0⇨1
【ホークモン】LV1(1)BP3000
オープンカード↓
【シルフィーモン】×
【イビルフレイム】×
【ウィザーモン】◯
その次に司が呼び出したのは赤い翼を持つ小さな鳥型の成長期スピリット、ホークモン。そしてその効果も成功。司は成熟期スピリットであるウィザーモンのカードを新たに手札へと加えた。
「さらにこの効果の追加効果で2コストを支払い、ウィザーモンを召喚!!…不足コストはイーズナから踏み倒す!!」
手札2⇨3⇨2
リザーブ1⇨0
【イーズナ】(1⇨0)消滅
【イーズナ】(1⇨0)消滅
【ウィザーモン】LV1(1)BP4000
イーズナ2体のコアが取り除かれ、消滅していく。そしてその代わりに現れたのは、まるで魔法使いのような姿をした成熟期のデジタルスピリット、ウィザーモン。
「召喚時効果により、カードを2枚ドロー!!……バーストをセットする!!」
手札2⇨4⇨3
3ターン目で異様な展開を見せつけていく司。
そして「ここからだ」と言わんばかりにアタックステップへと移行し………
「やれ、ホークモン、ウィザーモン!!」
走り出す司の場の2体のスピリット。目指すは当然、バークのライフ。バークはこのアタックを………
「我のライフ、くれてやろう……っ」
ライフ5⇨4⇨3
ホークモンの翼で打つ攻撃と、ウィザーモンの魔法の杖から放たれる魔力の一撃がバークのライフを一気に2つ破壊する。
「……ターンエンド」
【ホークモン】LV1(1)BP3000(疲労)
【ウィザーモン】LV1(1)BP4000(疲労)
【ヘルヘイムの産物】LV1
バースト【有】
できることを全て終え、そのターンをエンドとする司。次はバークのターン………
……このターン、いよいよ彼も自分の力の一端を曝け出して行く。
[ターン04]バーク
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ3⇨4
《ドローステップ》手札4⇨5
《リフレッシュステップ》
リザーブ4⇨8
トラッシュ4⇨0
「メインステップ……いくぞ、赤羽司……」
「!?」
バークがその手札の1枚に手を掛けた途端、司は重たいオーラと凄みを感じた。何か強い者がこの場に呼び出されることだけは瞬時に理解した。
そしてバークはそのスピリットの名を呼ぶ……
「仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ!!…LV2で召喚!!」
手札5⇨4
リザーブ8⇨4
トラッシュ0⇨2
【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ[2]】LV2(2)BP5000
「!!」
バークの場の上空からチャックが出現する。それは音を立てながら開くと、繋がっている別の空間から飛び降りてくる影が1つ。それは着地すると、剣を堂々と司に向け、構える。
その名は鎧武。仮面スピリットの1種。オレンジの名に恥じぬ橙色の鎧、その出で立ちと風貌は侍のよう。
「アームズ……俺のバロンと同じ………」
だが、司が気になったのは、その未知の仮面スピリットの事ではなく、その名前だ。
ー『アームズ』
この名前は自身が持つバロンにも付いている名称だ。登場の仕方などから含めても、明らかに鎧武とバロンは似たような存在であることが伺えたのだ。
「だから言っているだろう……貴様のバロンと、この鎧武は元々エニー様の物……そして、今はこの我がそのカード達を受け継いでいるのだ……それを貴様ら下等な生き物が……!!」
「言ってる意味がわかんねぇんだよ、奪いたきゃ口先じゃなくて力づくで奪い取れ……!!」
バークの言っている意味はなかなか理解できないものである。少なくとも今は余りにも情報量が不足している。
だが、司とて理解できることはある。
それはバロンのカードは渡さないという事……バークに己の力を証明しろと言わんばかりに煽りだす。彼もまたはなからそのつもりなのか、さらにメインステップを続けていき………
「最初からそのつもりだ!!…我はバーストを伏せ、さらにブレイヴカード大橙丸を召喚し、オレンジアームズと合体!!」
手札4⇨2
リザーブ4⇨2
トラッシュ2⇨4
【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ[2]+大橙丸】LV2(2)BP9000
オレンジアームズの左手にさらにもう一本の刀が握られる。その刀身は蜜柑の断面図をモチーフに作られており、それらしい見た目をしている。
バークは晴れて二刀流となったオレンジアームズで司に逆襲を仕掛ける。
「アタックステップ、オレンジアームズでアタック!!……大橙丸の効果でデッキ下から1枚ドローし、さらに鎧武と同じ黄色を持つスピリット、ウィザーモンをデッキの下へと戻す!!」
手札2⇨3
「!?」
オレンジアームズが左手に持つ大橙丸に力を込め、飛ぶ斬撃をウィザーモンに向けて放つ。ウィザーモンは避けきれず、それに直撃、引き裂かれ、デジタル粒子となった司のデッキの下へと送られてしまった。
さらにこれだけでは済まさないか、バークはさらに手札のカードを1枚引き抜いて……
「フラッシュマジック、無頼キック!!」
手札3⇨2
リザーブ2⇨0
トラッシュ4⇨6
「!」
「この効果により、鎧武のアタック中、相手スピリット1体のBPをマイナス15000、0になれば破壊する……消え去れホークモン!!」
「!?」
【ホークモン】BP3000⇨0(破壊)
上空へと飛び上がるオレンジアームズ。その右足に橙色の力を纏わせ、ホークモンへと急降下。それを力強く蹴り飛ばす。ホークモンは堪らず爆発を起こし、その場からはオレンジの果汁が飛び散って行った。
「フッ、デジタルスピリットなど恐るるにたらん……!!」
司にそう言い聞かせるように強気な発言をするバーク。しかし、司もこの程度の事でやられる程やわではない。
バーストを反転させ、反撃に転ずる。
「破壊後によりバースト発動!!シャイニングバースト!!」
「!」
「この効果によりBP10000以下のスピリット、貴様の鎧武を破壊する!!」
オレンジアームズに光が漂い、まとわりつく。その光は次々に爆発していき、オレンジアームズを破壊………
……したかに思われたが……
「オレンジアームズの効果、我のライフをオレンジアームズへと送る事で破壊を回避する……!!」
ライフ3⇨2
【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ[2]+大橙丸】(2⇨3)
「なに!?」
バークのライフが減少する。これにより、オレンジアームズは爆発による破壊を凌ぎ、爆煙の中、その場に健在していた。
「緩い、緩いバトルスピリッツだ……赤羽司……!!」
「くっ……!!」
バークはその効果によって増えたコアを使い、さらなるカードを手札から切る。
今度は鎧武のパワーアップだ。
「フラッシュ【チェンジ】発揮!!対象はオレンジアームズ!!」
【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ[2]+大橙丸】(3⇨1)LV2⇨1
トラッシュ6⇨8
「!」
【チェンジ】……それは仮面スピリットのデッキならばごく自然と存在するキーワード効果。鎧武にも当然それは存在しており………
「この【チェンジ】効果により、このバトルの間、バトルしているスピリットのシンボルを2にする!!」
そのカードの【チェンジ】の効果が発揮される。この場合だと、オレンジアームズ、又は道中で入れ替わったスピリットに適応される。
そして、その効果発揮後は、入れ替えの効果だ……
「我はオレンジアームズをジンバーレモンアームズにチェンジ!!」
【仮面ライダー鎧武 ジンバーレモンアームズ+大橙丸】LV1(1)BP10000
鎧武は腰のベルトに別の何かを付け足し、レバーを引き、その力を解放する。すると、オレンジの鎧がオレンジの形となって上空へと向かったかと思うと、今度は別の何かがそれと衝突し、合わさり、鎧武へと再び落下。
鎧武はその新しくなった鎧を身に纏う。その名はジンバーレモンアームズ。その鎧は鎧と言うよりかは陣羽織のような模様になっている。
「【チェンジ】の効果でアタックは継続中、さらにジンバーレモンの効果でそのシンボルは2つだ……!!」
「ちぃっ!!…ライフで受ける!!……っ」
ライフ5⇨3
ジンバーレモンが動きだす。その手に持つ刃のついたアーチェリーのような武器で司のライフを一気に2つを斬りつける。
さらに今のジンバーレモンはチェンジの効果で回復状態であり……
「今一度行け、ジンバーレモン!!…大橙丸の効果でドロー!!」
手札2⇨3
「……くっ、ライフだ………っ」
ライフ3⇨2
再び司のライフを斬りつけるジンバーレモン。今度は1つが破壊され、残りライフは2となる。
「フンッ、他愛もない、貴様は次のターンで終わりだ………ターンエンド」
【仮面ライダー鎧武 ジンバーレモンアームズ+大橙丸】LV1(1)BP10000(疲労)
バースト【有】
余裕のある表情を浮かべながら、バークはそのターンをエンドとする。
「……終わりだと?……ライフ2でブロッカーもいないテメェが言えた口かよ……見てな…テメェの愚弄するバトスピ一族の強さって奴をな……!!」
バークに対し、そう言い返す司。
彼は別に自分が一族であることには対して関心はないものの、今回ばかりはそう言い返した。自分の強さを見せつけるための言い回しのようなものだったのだろう。
理由はともあれ、司が本気になったのは確かなことであって………
赤羽司の反撃が幕を開ける………
[ターン05]司
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ5⇨6
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ6⇨9
トラッシュ3⇨0
「メインステップ、3体目のイーズナを召喚……さらに来い、仮面ライダーバロン バナナアームズ!!」
手札4⇨2
リザーブ9⇨4
トラッシュ0⇨1
【イーズナ】LV1(1)BP1000
【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV3(3)BP7000
「来たな……バロン……今こそ我の手中に収めてくれる……!!」
司の場に3体目のイーズナが姿を見せると共に、鎧武の時同様、上空の空間にチャックができ、開いたかと思えば、そこから槍を携えた赤い仮面スピリット、バロンが姿を現した。
それを視認したバークはやる気をより向上させ………
「馬鹿が、こいつは俺のカードだと何度言わせる気だ!!…【チェンジ】発揮!!対象はバナナアームズ!!」
リザーブ4⇨0
トラッシュ1⇨5
「!!」
「この効果によりBP12000以下のスピリット、鎧武 ジンバーレモンを破壊!!」
「っ……大橙丸は場に残す」
【大橙丸】LV1(1)BP4000
司がそう反論しながらも、手札のカードを1枚引き抜く。それはチェンジを持つ仮面スピリットのカード。彼の新たなエーススピリットのカードだ。
バークの場のジンバーレモンが赤いオーラに包まれたかと思うと、ジンバーレモンはそれに取り込まれるかのように消滅してしまう。残った大橙丸が虚しく地面に刃を向けて突き刺さる。
「そしてその後チェンジする……仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ!!」
【仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ】LV2(3)BP10000
バロンにも赤いオーラがまとわりつく。だがバロンは消滅せず、その力を取り込み、己の姿形を変えていく。
そしてそれを解き放ち、中からバロンの進化した携帯、レモンエナジーアームズが姿を見せた。赤いマントを羽織り、さらにはジンバーレモンと同様の武器を手に持っている。
「これで鎧武は消えた……テメェのライフは2……終わりだ!!……やれ、レモンエナジー!!」
アタックステップへと移行し、司はレモンエナジーアームズにアタックの指示を送る。レモンエナジーはそれを聞くなり、バークのライフめがけ走り出す。
「アタック時効果、最もBPの高いスピリットを1体破壊!!…残った大橙丸を破壊するっ!!」
「!」
レモンエナジーは走りながらも地面に突き刺さっている大橙丸を真っ二つに叩き切った。これで後はバークのライフを破壊するだけだ。
「……ライフで受ける」
ライフ2⇨1
レモンエナジーのアーチェリーのような武器の一閃がバークのライフを斬りつける。彼のライフはまた1つ失われた。後1点、司の場に残ったイーズナのアタックで彼の勝ちが確定するが……
……彼のバトルスピリッツは甘くはなく………
「……ライフ減少によりバースト発動!!…アルティメットウォール!!」
「なにっ!?」
「この効果によりアタックステップを終了させる!!」
バークのバーストが勢いよく反転したかと思うと、司の場が忽ち猛吹雪に襲われる。イーズナどころかレモンエナジーさえも身動きが取れない状態に陥り………
「くっ……ターンエンド」
【イーズナ】LV1(1)BP1000(回復)
【仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ】LV2(3)BP10000
【ヘルヘイムの産物】LV1
バースト【無】
司が致し方なくそのターンをエンドとすると、すぐさま猛吹雪も収まり、視界が確保された。
次はギリギリで踏みとどまったバークのターン。
[ターン06]バーク
《スタートステップ》
《コアステップ》リザーブ2⇨3
《ドローステップ》手札3⇨4
《リフレッシュステップ》
リザーブ3⇨11
トラッシュ8⇨0
「メインステップ……終わりだ、赤羽司」
「なに!?」
ターンシークエンスが進行され、メインステップ開始時直後、バークが言い放った言葉は司への唐突な勝利宣言。
そして、彼は自分の手札からあるカードを1枚引き抜く。
「ここからは、我の舞台だ……何人たりとも踊る事は許さん!!」
「!」
バークの背後で踊るように燃え上がる戦火。その炎の中には確かに何か仮面スピリットらしき影が見える。
それは未だに場に現れていないと言うのに司に圧倒的なプレッシャーを与えていて……
ーいざ、出陣……エイエイオー!!
「っ!?」
【イーズナ】BP1000⇨0(破壊)
【仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ】BP10000⇨0(破壊)
見た目の威圧感だけではない。その炎は謎の無機質な機械音の掛け声と共にイーズナとレモンエナジーの方まで伸びていき、それらを焼き尽くしていく。
「……なんだこの効果はっ!?」
「教えてやる必要はない……貴様はここで負けるのだからな!!」
司は優勢を保っていた場が一瞬にして崩壊していく様を、ただただ見届けることしかできず………
「戦火より現れ出でよ!!……召喚、仮面ライダー鎧武……」
その時……
バークがそのスピリットの名を叫び、場へと呼び出そうとした……その直後だ。
「待ちなさい、我が子孫よ」
「っ!?…エニー様!?」
バークの耳元から柔らかい声が聞こえてきた。その声主はフードを深くかぶった若い女性。椎名と晴太の前にも姿を現したあの女性だ。
どこからともなく、そして音もなくバークの側に現れていて……
「戦いは一時中断なさい」
「っ…なんでですか!!…もう少しでバロンは手に入ります!!」
「言いから、Bパッドを閉じなさい」
「っ………分かりました……」
その女性の言う通りにし、バークは渋々Bパッド上のデッキを取り上げ、それを閉じる。今召喚されようとしていた謎のスピリットもそのまま登場する事はなく、この場から燃え上がる戦火と共に消え去ってしまう。
切断された事で司のBパッドもバトルモードが強制的にオフになる。
「さぁ、一時帰還しましょう」
「………赤羽司、命拾いしたな……次こそは必ず我は貴様のバロンを手にする!!」
「っ……待ちやがれ!!」
女性が手のひらを地面にかざすと、そこから黒い靄が出現する。彼女が椎名の前に現れた時と同じだ。
司の聞く耳を持たず、バークはそう捨て言葉を吐きながら、女性が手のひらからだした黒い靄の中へと姿を消して行った。
「赤羽司………確かこの【肉体の弟】じゃったな……」
「っ!?」
バークの姿が消えた後、エニーと呼ばれる女性は司の方を向き、徐にその被っていたフードを外し、その素顔を司に晒す………
司はそれを視認するなり目を丸くした。
無理もない。何故ならそこにいたのは………
「……ね、姉さん!?……姉さんなのかっ!?!………いや……こいつは……」
司の姉である赤羽茜だった。
動いているこの顔を見るのは何年振りであろうか、司は驚愕のあまり体が硬直し動けなくなる。
だが、それでもわかる。この女性は自分の知る【赤羽茜ではない】
それは言動だったり、雰囲気だったり、目の前にいるそれから発せられる全てが、赤羽茜本人ではないと証明しているのが伝わったからだ。
「ハッハッハ!!姉の姿に動揺が隠せないようじゃな!!……わかっているとは思うが、妾は其方の姉、赤羽茜ではない!!」
「………」
そんな司の様子を見て、女性は高らかに嘲笑いだした。
そしてついに、彼女は自分の正体を司に明かす……
「妾の名は【エニー・アゼム】……!!」
「っ……エニー・アゼムだと!?」
エニー・アゼム。それは2000年前の日本にて、芽座一族と共に鬼を滅ぼした英雄の女性。何度もオーバーエヴォリューションを繰り返すことができる唯一無二の人間。
司の目の前にいる赤羽茜の姿を象ったこの女性は自分の事をその人物だと言う。こればかりは嘘だと信じたかったが、言動やそぶり、又、茜の身体から、彼女の言っていることが嘘だとは断言出来なかった。
「2000年の時を超え、妾はこの世界に新たな肉体を得て不完全ながら蘇った!!妾から進化の力を奪った愚かな人間共に復讐するために!!」
「っ……!!」
『復讐』すると口にするエニー・アゼム。彼女は鬼から人間達を救った英雄ではなかったのか?
その考えが司の脳裏に浮かんで来るが……
「楽しみにしているがいい……これから我が子孫が其方の持つバロンのカードを手にする時、そして妾が芽座椎名の持つパラディンモードを奪い返す時……この世界の人間は全て滅び去っていくだろう……!!」
「!?」
エニー・アゼムは司にそう言い残すと、また大きく高笑いしながら自ら生み出した黒い靄へと姿を眩ませて行った。司はただ1人、路地裏に取り残され………
「何だったんだ………この世界に何が起ころうとしている?」
そう呟いた。
オーラだけで伝わる驚異的な敵。深まるばかりの謎。余りにも情報量が不足している。
だが、司は1人だけ、エニー・アゼムや一族の歴史について詳しい人物を知っていた。それは彼の実の父である赤羽紅蓮。
彼は敵の確かな情報を得るため、今一度自分の生まれた故郷へと帰郷する事を密かにその心に固めていた。
〈本日のハイライトカード!!〉
バーク「本日のハイライトカードは我の【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ[2]】」
バーク「鎧武の原点の姿、オレンジアームズは効果で場から離れる時、我のライフを食らう事で場に残る事ができる。残った直後にそのコアを用い、チェンジで畳み掛ける事も可能だ」
******
〈次回予告!!〉
敵の正体がわかった。敵は2人、2000年の時を経て蘇ったエニー・アゼムとその子孫、バーク・アゼム。司は父である紅蓮から情報を得るため、椎名を誘い故郷へと向かう………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「敵はエニー・アゼム、獣王吠える!」…今、バトスピが進化を超える!!
※予定変更して、予告を少し変えました
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※次回サブタイトルは変更の可能性があります
最後までお読みくださり、ありがとうございました!!