第7話─軍祭─
─中央暦1939年9月2日─
フェン王国
この国には魔法がない。
国民全員が、必修教育として剣を学ぶ。
剣に生き、剣に死ぬ。どんなに見下されるような出生でも、強い剣士は尊敬され、どんなに見た目が良くても、剣が使えない者、弱い者はバカにされる。
その国の首都アマノキに大日本帝国の使節団は訪れていた。外交官の島田は、いつも以上に落ち着いた態度を心がける。
「なんというか…身が引き締まるな」
国中の空気が張りつめているような、厳格な雰囲気が漂っている。まるで『武士の治める国』、というのが使節団職員の持った感想だった。生活水準は低く、国民は貧しい。しかし精神の発達は高く、誰もが礼儀正しい。日本の武士道のようなものが、そこにはあった。
大日本帝国の使節団は、王城の一室に案内される。
「剣王が入られます」
側近が声をあげ、襖を開いた。使節団の職員は立ち上がって礼をする。
飾らない王、それが剣王シハンに対する最初の印象だった。
(ほぅ…)
陸軍から派遣された護衛の小林は、剣王の身のこなしから、おそらく第1空挺団の大隊長クラスの実力者であることを見抜いた。
「そなた達が、日本国の使節か」
「はい…貴国と国交を締結したく、参りました。ご挨拶として、我が国の品をご覧下さい」
剣王と側近達の前には、様々な日本の物が並ぶ。
日本刀、着物、お椀、扇、運動靴…。
シハンは日本刀を手に取り、鞘から抜いた。
「ほぅ…見事な剣だ。貴国にも優秀な職人がおられるようですな」
気をよくしたシハンは、大陸共通語で書かれた文書を確認し、日本からの通商条約締結における提示条件と、書類に間違いがないか、口頭でも確認していった。
「失礼ながら、私はあなた方の国、日本をよく知らない。しかも、国ごとの転移などは、とても信じられない気分だ」
「そ…それは我が国に使者を派遣していただければ」
「いや、我が目で確かめたいのだ。貴国には水軍があると聞いた」
「海軍でしたらありますが…」
「その中から艦隊をつくって親善訪問として我が国に派遣してくれぬか?今年は我が国の水軍から廃船が8隻出る。それを敵に見立てて攻撃してみてほしい。要は力が見たいのだ」
このことは直ぐに本国外務省にありのままを報告し、近日中に訓練を兼ねて、艦隊を派遣することが決定した。
─中央暦1639年9月25日午前─
フェン王国首都アマノキ
あれから時が経ち、軍祭の日がやって来た。
剣王シハンは、王城から軍祭の会場を見下ろして呟く。
「あれが日本の戦船か…まるで城だな」
剣王シハンの視線の先には大日本帝国海軍の艦隊6隻が浮かんでいた。
大日本帝国海軍フェン王国親善訪問艦隊
伊勢型戦艦:扶桑/旗艦
村雨型巡洋艦:村雨
磯風型駆逐艦:山風、海風、空風、森風
剣王シハンから見て、鋼鉄の船が浮かんでいるだけでも驚きなのに、伊勢型戦艦に関しては、その巨砲から目が離せない。
「剣王、そろそろ我が国の廃船に対して、日本の艦から攻撃をはじめてもらいます」
剣王シハンが直々に日本の使節団に頼んだ『日本の力を見せてほしい』という依頼。その回答が今、示される。
訪問艦隊のさらに沖合いに、フェン王国の廃船が8隻、標的船として浮かんでいた。
距離は艦隊から4km離れている。剣王シハンは望遠鏡を覗きこむ。今回はフソウ、ムラサメと呼ばれる船が、半分に分けて4隻に攻撃を行うらしい。
日本海軍の巡洋艦村雨の前部甲板に搭載された、15.5cm単装速射砲が旋回を始める。
レーダーで標的との距離を正確に計測し、砲の初速、弾道をコンピューターが正確に割り出す。砲安定システムにより、揺れる海上においても砲身を安定させ、主砲が寸分違わず標的をとらえる。
ダンッ…ダンッ…ダンッ…ダンッ…。
4回、振り分けられた目標の数と同じ数の音だけが鳴る。
直後、標的船は木っ端微塵になり、海面から水しぶきを上げ、船の残骸が空を舞った。
標的船4隻は原型を留めないほど爆散し、わずかな時間で轟沈した。
次は戦艦扶桑の番である。
戦艦扶桑の前部甲板に搭載された40.6cm連装砲が1基、ゆっくりと旋回し目標を捉える。
そして…。
ドオォォォンッッ!!!
村雨の砲撃とは比べ物にならないほどの轟音とともに対空主砲弾が発射され、砲弾は標的船の上空で爆発し、無数の子弾がその威力を発揮する。
標的船4隻は船体が跡形もなくなり、こちらもすぐに轟沈した。
「…凄まじいな、これは」
「そんなバカな!!」
「信じられん!!」
剣王シハン以下フェン王国の中枢は、自分達の攻撃概念とかけ離れた威力を目の当たりにして、唖然としていた。
「如何でしたでしょうか。我が日本海軍の実力は」
「島田殿…すぐにでも貴国と国交を開設する準備に取りかかろう。不可侵条約はもちろん、安全保障条約も結ばせてもらいたい」
「わかりました。後日詳細をお伝えします」
「感謝する…因みに聞いてみるが、あの戦船の技術を、一部でもよいから我が国に輸出してもらうのは、無理だろうか」
剣王シハンは訪問艦隊の方に目をやり、尋ねた。
流石に無理だあろうとフェン王国の中枢達は考え、剣王シハン自身も、いい答えは聞けないと思っていた。
「中核的技術に関しましては、新世界技術流出防止法によって不可能ですが、一部の武器、兵器に限定しては輸出可能です。今はロデニウス大陸に殆どを輸出しているため、暫く時間は掛かってしまいますが」
「なんと!それはまことか!!?」
剣王シハンは断られると思っていたため、素直に驚いた。日本の武器があれば、例えパーパルディア皇国に攻められたとしても、少なくとも負けることはなくなるだろう。日本と安全保障条約が結ばれれば、勝つことだってあり得る。
「…おや?あれは…」
ふと島田が上空を見上げて呟いた。
剣王シハンもつられて上空を見上げると、こちら…王城に向かって急降下を開始するワイバーンロードが目に入った。
「い、いかん!!」
隣国ガハラ神国に風竜が住み着いているため、この付近にワイバーンは寄り付かない。軍祭に参加している各国がワイバーンを連れてきたと言う報告はない。
間違いなく、パーパルディア皇国のものだ。
次の瞬間、10騎のワイバーンロードが放った火球が王城の天守に着弾し、木造の王城が炎上する。
「…ッ!!本艦に向かいワイバーン10騎、急速接近中!!!」
戦艦扶桑のCICで悲鳴に似た報告が上がった。
「なんだとっ!?正当防衛射撃!!対空戦闘、撃ち方始めっっ!!!」
戦艦扶桑に搭載された127mm単装速射砲2基が、ワイバーンロード目掛けて発射する。
ダダンッ…ダダンッ…ダダンッ…ダダンッ…ダダンッ…。
戦艦扶桑を襲ったワイバーンロード10騎は全て、瞬く間に撃ち落とされていった。
王城を狙ったワイバーンロードが仇と言わんばかりに戦艦扶桑へと突撃するが、この世界では有効とされ、新たに搭載された40mm4連装機関砲+同単装機関砲が対空戦闘に加わり、全滅した。
竜騎士レクマイアは、相棒が身を呈して守ってくれたために命あって着水し、海を漂っていたところを駆逐艦山風に救助されるのだった。