大日本帝国 帝都東京都 首相官邸
「まさか、これ程とはなぁ」
今村総理の言葉は、会議に参加している全員の思いを表していた。
新たな転移国家の存在、その転移国家による奇襲攻撃、落ちたマイカル、派遣艦隊の想定外の被害。
事前に情報を得ていたにも関わらず、これ程の被害が出たのだ。
「総理、確かに今回の被害を無視することはできませんが、それ以上に問題なのが、敵対的な転移国家についてです」
「…
今村総理は複雑そうな表情で窓から空を眺め、先日のことを思い返していた。
事の始まりは、フォーク海峡海戦後のことだった。
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港町カルトアルパスを守るべく出港した世界連合艦隊の帰投の報を受け、カルトアルパスにいた人々は港へと詰め寄っていた。そして、国民や商人は帰投した艦隊を見て、絶句した。
各国の送り込んだ最新鋭艦艇や、極めて練度の高い精鋭艦隊、そして神聖ミリシアル帝国海軍第7魔導艦隊を含めた世界連合艦隊の全艦艇が、大小様々な傷を負って帰投してきたのだ。
100隻を優に超え、堂々たる姿を見せていた世界連合艦隊は、今では僅か14隻にまで減っていた。
大日本帝国派遣艦隊旗艦、戦艦陸奥の艦橋…いや、
撤退時に殿を務めた戦艦陸奥の艦橋に敵戦艦の主砲弾が命中。CICで指示を出していた海馬は被害を免れたのだが、艦橋にいた大崎司令以下艦長を含めた主要幹部が戦死、臨時の指揮官として艦隊を動かしていた。
「…酷いものだ」
海馬は自艦隊の被害状況を見て、ひとり呟いた。
【被害状況】
〈轟沈〉
戦闘巡洋艦青葉
巡洋艦村雨
駆逐艦旗風
駆逐艦綾風(傾向が激しく自沈処分)
〈大破〉
戦艦陸奥
巡洋艦最上(駆逐艦浜風が曳航)
〈小破〉
戦闘巡洋艦那智
駆逐艦山風
駆逐艦浜風
圧倒的技術優勢にあったにも関わらずこれ程の被害、敵は強大な軍事力を誇る覇権国家である可能性が極めて高い。
艦隊がカルトアルパス港に停泊(一部は帰国)してから1時間が経過した頃、警戒のためフォーク海峡上空を監視していた、アルタラス王国に駐留している大日本帝国空軍所属の早期警戒機から情報が入った。
敵戦艦1隻確認、白旗を掲げカルトアルパスへ向かう。
この報はすぐに近藤外交官に、そして先進11ヵ国会議参加国に伝えられた。
「即刻沈めるべきだ!!宣戦布告もなしに攻め込んできた蛮族に会う必要などない!!」
やはりというか、こういった過激な発言も少なくはなかったが、大日本帝国とグラ・バルカス帝国、そして列強ムー国もが会うべきだと反対し、結果敵と対峙することとなった。
それから30分後、カルトアルパス港に敵戦艦が到着した。
敵戦艦は先の海戦で大日本帝国前衛分艦隊と激しい砲撃戦を繰り広げた戦艦と同型で、38cm4連装砲を3基12門搭載した超弩級戦艦。こいつの砲撃で、戦闘巡洋艦青葉は沈み、戦艦陸奥も大破まで追い込まれたのだ。
港湾管理局の職員や残存艦隊の艦艇、軍人が警戒する中、敵戦艦は港に接岸した。
そして彼らは、戦艦から降りてきた相手を見て、絶句した。
緑色なのだ、肌の色が。
この世界にも人間限定で言えば、黒人や白人、そして黄色人種等が存在するが、緑色の人種など見たことも聞いたこともない。
困惑する彼らを他所に、外交官と思われるスーツを着た男達は神聖ミリシアル帝国の用意した魔導車に乗り込み、帝国文化館国際会議場へと向かっていくのだった。
「…相手側の代表が到着しました」
職員が報告と同時に、国際会議場の扉が開かれ、相手側の代表が入室する。
各国の外交官は、初めて見る緑色の肌を持つ異様な人種に目が釘付けとなった…ただ1国を除いて。
「なっ…バカな…そんな事が……」
ムー国外交官が消えそうな声量で呟く。すると相手側の代表も気が付いたのか、ムー国の外交官を見てニイッと表情を歪ませた。
「ようやく見つけたぞ、ムーよ」
「アトランティス…ッ!」
ムー国外交官の吐き捨てるように言い放った言葉、アトランティス。その言葉の意味を理解できたのは、近藤外交官等大日本帝国のみであった。
(アトランティス…確か地軸がずれて南極となって滅んだはずでは…)
「我は運がいい。今日は宣告だけの予定であったが、良い収穫も得られた」
「宣告だと?何をするつもりだ」
議長のリアージュが訪ねるが、男は無視して宣告する。
「我がアトランティス大帝国大帝グォーダー様に代わり、下等民族統括局局長バルが告げる。下等民族よ、我が軍門に下り国を明け渡せ。断るのも良いがその場合、世界に平等な死を与えよう」
その日、新たな転移国家アトランティス大帝国は世界に対し、宣戦を布告した。
時は戻り、首相官邸。
「先進11ヵ国会議の様子は?」
「最後の連絡では、各国が一丸となってアトランティス大帝国に立ち向かう方針のようです」
外務副大臣の報告を聞き、今村は背もたれにもたれ掛かった。
異世界転移後3度目の戦争、それもロウリア王国やパーパルディア皇国のようなレベルではない、グラ・バルカス帝国並みの技術力と圧倒的物量。これを退けるのは非常に困難だ。
だから今回の先進11ヵ国会議の方針は願ってもないものだ。
「それで、会議参加国で戦力になりそうなのはどこだ」
今村総理の問いに、防衛省の職員が発言する。
「我が国を除きますと、やはりと言うべきか、グラ・バルカス帝国が最高戦力となります。また、ムー国も我が国の技術提供により近代化が進んでおり、報告によりますと先日単翼機の量産を開始したとのことです…まぁこの2国くらいですかね」
「神聖ミリシアル帝国はどうなんだ?世界最強を名乗っているが」
「調査結果を見る限り、彼の国は古の魔法帝国の遺跡から発掘された魔法技術に依存しすぎている傾向があります。ジェットエンジンに似た技術があるのにバイパス比がメチャクチャでレシプロ戦闘機以下の性能しか出せず、先の海戦時の対空戦闘では近接信管も対魚雷防御もない…ハッキリ言って戦力外です」
「世界最強が戦力外とは…皮肉だねぇ」
会議室内の空気が重くなるのを感じる。
何気に一番期待していた国がダメとなると、やはり期待できるのはグラ・バルカス帝国とムー国のみとなるからだ。
圧倒的物量を誇る的に対し、3ヵ国のみで相手取れるかどうか。
「確かに神聖ミリシアル帝国はダメでしたが、そこはあまり問題ないかと」
「何故だ?3ヵ国だけでは厳しいだろう?」
「別に先進11ヵ国会議参加国に限る必要はありません。神聖ミリシアル帝国以上の国なら、第三文明圏に沢山ありますから」
その言葉に、その場にいた者はハッとなり思い出す。グラ・バルカス帝国やムー国並みの技術力を持つ友好国の存在を。
「大東亜共栄圏か!」
「はい。我が国の技術共有により近代化が大幅に進み、それに伴い軍事力も文句なしです。アトランティスは世界に対して宣戦を布告していますので、彼らが参戦する理由には困りません」
「そうだな…わかった。私から加盟国に具申しておこう」
会議の内容が纏まり、解散しようとして今村等が席を立とうとしたその時、扉をぶち抜いて一人の職員が飛び込んできた…とびっきりの悲報を持って。
「近藤大使から非常通信…先進11ヵ国会議とはもう、共に戦う道は無くなったそうです」
この日、会議は深夜まで続くこととなった。