─中央暦1639年3月22日午前─
大日本帝国という国と国交を締結してから、1ヶ月が経とうとしていた。クワ・トイネ公国、そして同時に国交を結んだクイラ王国は、今までの歴史上最も変化した2ヶ月であった。
大日本帝国から食糧年間約7500万tというとてつもない規模の受注であったが、大地の神に祝福された土地を有するクワ・トイネ公国は、家畜にさえうまい食料を提供することが出来る程で、種類によっては無理な部分があるも、なんとか大日本帝国側の受注に応えることができた。
クイラ王国にあっても、作物が育たない不毛の土地だが、大日本帝国の調査によれば地下資源の宝庫であるようで、鉱物や原油といった大量の資源を、クワ・トイネ公国と結んだ通商条約とほぼ同じ条件で輸出することを決定し、更に日本の技術供与を受けて採掘を開始していた。
一方、大日本帝国側はインフラ設備を輸出していた。
大都市間を結ぶ道路や鉄道設備、これらによって各国の流通が活発となり、今までとは比喩にならないほどの発展を遂げるだろうとの報告も上がっていた。
各種技術の提供も求めたが、大日本帝国には新たに、『新世界技術流出防止法』と呼ばれる法律が出来たため、中核的技術は貰えなかった。
しかし、いつでも清潔な水が飲めるようになる水道技術(もともと水道技術はあったが、真水ではとても飲めたものではなかった)、夜でも昼のごとく明るくでき、更に各種動力となる電気技術、手元をひねるだけで火を起こせ、かつ一瞬で温かいお湯を出すことが出来るプロパンガス、これだけでも生活はとてつもなく楽になる。
まだ1ヶ月しか経っていないので普及はしていないが、それらのサンプルを見た経済部の担当者は驚愕で放心状態になったという。
国がとてつもなく豊かになる…と。
「すごいものだな、大日本帝国という国は…明らかに三大文明圏を超えている。もしかしたら我が国も生活水準において、三大文明圏を超えるやもしれぬぞ」
クワ・トイネ公国首相カナタは秘書に語りかける。まだ見ぬ国の劇的発展を、彼は見据えていた。
「生活水準のみでなく、恐らく国としても超えられるかも知れませんよ」
秘書はカナタの手元に1つの報告書を置いた。表紙には『大日本帝国軍によるクワ・トイネ公国軍育成計画経過報告書』と書かれていた。
大日本帝国政府はクワ・トイネ公国側の事情を汲み取り、日露戦争時の武器/兵器の輸出を行っていた。大日本帝国クワ・トイネ公国派遣隊指揮の下、クワ・トイネ公国軍は近代化を進めていた。
陸軍は新たに三七式半自動歩兵銃や六四式中戦車といった兵器を運用する歩兵銃連隊や戦車大隊を設立、弾薬等を製造するための工房の建設を急ピッチで進めていた。
海軍は旧式の帆船を順次標的船とし、大日本帝国側から青葉型重巡洋艦1隻、睦月型駆逐艦4隻、丁型海防艦6隻を輸出してもらい、艦を建造するための施設の建設も急ピッチで進められていた。
空の覇者とされていたワイバーンは今後は対地支援用に育成されることとなり、大日本帝国から輸出された一式戦闘機がクワ・トイネ公国空軍として運用されることとなった。
しかしこれらがすぐに戦力化できる訳ではない。輸出できているのはモスボール状態で保存されていたものであり、数が圧倒的に足りない。更に日本側も今では使わなくなった武器兵器の運用方法の教育に苦戦していたりする。
だがそれもあと数ヵ月もすれば軌道に乗ると予測される。クイラ王国も同様である。
「蛮地と蔑まれた辺境国家が文明圏内国、敷いては列強すら凌駕する国に生まれ変わる…なんとも面白いじゃないか。私は年甲斐もなくワクワクしてしまったよ」
「えぇ、それに彼らは平和を愛する民族のようですから助かります…彼らの技術、国力で覇を唱えられたらと思うと、ぞっとします。彼ら相手では神聖ミリシアル帝国でも相手になりませんから」
美しい夕日が、穀倉地帯の広がる地平線に落ちる。その向こうにはロウリア王国があった。
「公国の未来を守るためにも、速く公国軍の近代化を進めないとな…それまでロウリア王国が待ってくれるといいんだが」
カナタは夕日を見ながらそう嘆いた。
ロウリア王国 王都ジン・ハーク ハーク城
ロデニウス大陸の西側半分を占め、人口3800万人にも達する大国、ロウリア王国。
人間至上主義を唱え、純粋な人間種のみが住まうことを許されている。エルフやドワーフ、獣人族を亜人と蔑み、迫害してきた。
ロウリア王国の首都である王都ジン・ハークの、松明の焚かれる薄暗い城の一室、この部屋で国の行く末を決める重要な会議が行われていた。
王の御前会議である。
ロウリア王国国王ハーク・ロウリア34世を筆頭に、宰相のマオス、王国防衛騎士団将軍パタジン、三大将軍のパンドール、ミミネル、スマーク、そして王宮首席魔導師のヤミレイ。その他国の主要な幹部達も勢揃いしていた。
パタジンは自信に満ちた口調で作戦の説明を行う。
「説明致します。今回の作戦用総兵力は50万人、本作戦では、クワ・トイネ公国に差し向ける兵力は40万、残りは本土防衛用兵力となります。
クワ・トイネについては、国境から近い人口10万人の都市、ギムを強襲制圧します。兵站についてですが、あの国はどこもかしこも畑であり、家畜でさえ旨い飯をたべておりますので現地調達いたします。
ギム制圧後、その東方250kmの位置にある首都クワ・トイネを物量をもって一気に制圧します。
彼らの航空兵力は、我が方のワイバーンで数的にも十分対応可能です。
それと平行して、海からは艦船4400隻の大艦隊にてマイハーク港に強襲上陸し、経済都市マイハークを制圧します。
クイラ王国はクワ・トイネ公国を制圧してからでも遅くはありません」
パタジンの説明を聞いたロウリア王は満足そうにうなずく。
「その両国と関係を持った大日本帝国とやらはどうする」
「はっ!情報はあまりありませんが、ワイバーンのいない蛮国だと思われます。気が向いたときにでも攻め滅ぼしてやります」
「そうか…今宵は我が人生で一番良い日だ!世は、クワ・トイネ公国、クイラ王国に対する戦争を許可する!!亜人共とそれを匿う愚か者共を根絶やしにしてやれ!!!」
「オオォオオーーー!!!!」
クワ・トイネ公国日本大使館
「ほ、本当ですか!?」
クワ・トイネ公国側の外交官ヤゴウの喜びを含んだ声が響き渡った。
本来ヤゴウはロウリア王国が公国に侵略してくることがほぼ確実となり、食料の輸出が困難になることと、可能であれば援軍を送ってほしいことを伝えにやって来たのだが、田中大使の口から彼の望んだ答えが帰ってきたのだ。
「はい。我が大日本帝国政府は友好国であるクワ・トイネ公国とクイラ王国が侵略の危機に瀕していることを知り、友人を守るべく、クワ・トイネ公国派遣隊やクイラ王国派遣隊の他、陸軍から第7師団約7000人が、海軍から1個任務艦隊14隻が、空軍からも2個飛行隊16機が軍事支援のためにそちらに向かう予定です」
数だけ見れば少ないが、ヤゴウは大日本帝国に使節団として派遣されたときに日本軍の強さを見ているため、これ数でも公国は救われると安堵の笑みが零れる。
「その為にもクワ・トイネ公国派遣隊駐屯地の拡張工事を行いたいのです。お手数をお掛けしますが、お伝え願えますか?」
「勿論です!必ずお伝えします!!」
この事はすぐさま公国政府に伝えられ、首相カナタは拡張工事を許可し、クワ・トイネ公国軍全軍に大日本帝国軍を全力で支援するよう指示を出すのだった。