日本国首都 東京都
夏も終わり、少し肌寒くなり始めた頃、首相官邸には今村総理以下閣僚、政府関係者が集められていた。
そんな中にひっそりと紛れ込むかのように、考古学者である中村の姿があった。
「中村先生、お願いします」
今村総理がそう言うと、中村は手元の資料を捲りながら話し始める。
「クワ・トイネ公国にあるリーンの森に、過去に魔王を打倒したと言われる太陽神の使いの船が保管してありました。我々調査団はそこで、信じられない物を発見しました。それがこれです」
助手の寺坂はプロジェクターを操作し、1枚の写真を写し出した。
「な、なんだと!?」
「そんなことが!!」
参加している関係者は驚きの声をあげた。
写し出された写真は、70年以上前に日本海軍航空隊が運用していたレシプロ戦闘機、『零式艦上戦闘機21型』のそれに酷似していた。
今村も興奮した状態で尋ねる。
「まさか過去に我が国の軍が、この世界に来ていたと言うのですか?」
「私も初めはそう考えたのですが、実はそうではないようなのです」
中村の言葉に首を傾げる今村達に、調査団に同行した防衛省職員が説明する。
「この零式艦上戦闘機21型…これからは零戦と言いますが、調査の結果、我々が保有した零戦よりもかなり性能が悪いようで、最大速度も533と少しで、どちらかというと、第一次世界大戦時に我が国が保有した九七式艦上戦闘機と同レベルです」
「と、いいますと…」
「はい。この零戦は我々とは異なる日本、平行世界やパラレルワールド等と言われる日本の物ではないかと考えられます」
ザワザワ…。
会場がざわつきだす。
自分達以外の日本が存在し、その軍が過去のこの世界に来ていたことは、政府関係者や軍事関係者に衝撃を与えるには充分だった。
中村が話を続ける。
「他にも、この零戦のパイロットの所持品であろう物が、幾つか見つかっています」
操縦席から日誌が見つかり、様々な情報が手に入った。パイロットの名前は、佐々木 尚文1飛曹。正規空母赤城航空隊に所属。家族構成は妻と息子が1人等…。
そして中村は、驚くべき真実を告げる。
「こちらをご覧ください」
プロジェクターに別の映像が写し出される。それは白黒写真を撮ったものであり、その写真にはパイロット姿の男、この男が佐々木1飛曹なのだろう。隣には妻らしき女性も写っていた。
そして、その2人に挟まれるように立つ少年を見て、その場にいる全員は絶句した。
「こ…この子は…っ!?」
「はい、間違いないでしょう」
「そんな…バカな…っ!!」
何故、イズル君が写っているのだっ!!
日本国東京都 靖国神社
九段坂の坂上に東面して鎮座し、日本の軍人、軍属等が主な祭神として祀られている。境内は桜の名所として知られる他、大鳥居が東に向いている、数少ない神社の1つである。
その靖国神社の前に、イズルは立っていた。
イズルはただ目を閉じ、頬に当たる、優しく、そして力強い風を感じ取っていた。
(…もう二度と…失いたくない)
少年イズルは固く心に決意し、何時ものように光の粒子となって、姿を消したのだった。