元全世界の敵のなんだかんだ奮闘記   作:天然黒酢

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くそう…早めに投稿すると言ったのに…
これも古戦場やゲッテルデメルングの情報が出ちゃったのがいけない。

では、後編をどうぞ



心のゆとりに趣味を持て(後編)

 極上の昼食を食べ、大満足の一行は次なる目的地、ワイスが計画したCDショップへと訪れた。

 

「さて、貴方がジャズやクラシックの繊細な音楽が分かるとは思えませんが、取り敢えず、私のお気に入りから紹介致しますわ。

その他にも、ロック、ポップス、ヒップホップなど様々なものがありますので、お好きなのを選ぶのがよろしいかと」

「今はスクロールに音楽を入れて聴いたり、動画を見たりすることも出来るから、好みの音楽が見つかったら、オススメのアプリを教えてあげるね」

 

 散々な言われようのラグナだが、音楽に関しては本当に触れた事すらない事は事実なので、グッとおし黙る。ノーラの言葉から、つくづくスクロールのハイスペックな性能に舌を巻きながら、ワイスに薦められた音楽を物色し始めたショップ内には、いくつかのサンプルが置かれており、ラグナはそれを熱心に聞いている。その周りでは、ジョーンがギターを試し弾きしたり、ワイスがあまり音楽に触れたことの無いメンバーへ、音楽のトリビアを披露していた。

 そんなラグナだったが、やはり惹かれた音楽はロック調の曲が多く、それをワイスとノーラに伝え、スクロールに月額有料ではあるが、比較的安価なアプリをインストールしてもらい、CDショップを後にした。余談だが、CDショップでの1番高い買い物は、ジョーンのアコースティック・ギターであった。

 

「お昼から少し時間も経ったし、みんな少しずつ小腹が空いてくる頃なんじゃ無いかな?」

 

というピュラの言葉で、次はピュラの計画した洋菓子店に赴く事となった。

 その店は、イートインスペースとして、ちょっとしたカフェが併設されており、店で買った物を開け、お茶をしながら食べる事が可能であるようだった。ケーキやタルト、マカロン、シュークリームなどにより、店内に漂う甘い香りが一行の鼻孔をくすぐった。

 

「わぁ、お菓子も種類がいっぱいあるんだね〜。店員さん!このクッキーを頂戴!」

「私でも初めて見るものもありますわね。とても美味しそう」

「店員さん!私はこのケーキとこのマカロンの詰め合わせと、フルーツタルト下さい!」

「ノーラ…あんた、昼あれだけ食べておいてまだそんなに食べるの?

小腹が空いてるどころの話じゃないみたいね」

 

 全員が思い思いに、スイーツを頼み、コーヒーや紅茶を飲みながら談笑する。

 

「全くさ、ポート教授の授業は自分語りが多すぎて凄い長く感じるよ」

「それは言えてるわね。役にたつ話もあるけど、それにしても前振りが長過ぎるわ」

「私もいつも頑張ろうとしてるんだけど、いつの間にか寝ちゃってたりするんだよね〜」

「君は食べ物を食べてる夢を見てるのが寝言でバレバレですから、気をつけて下さいね」

「あとはウーブレック教授ね!あんなに動き回る必要ないんじゃない?首が痛くてかなわないわよ」

「シャオロン君、ウーブレック『博士』だ。間違えないでくれ給え」

「プッ、クスクス、ルビー!貴方、それウーブレック博士の真似ですの!?

フフフ…全く…完成度が低いにも…ほどがありますわ。アハハハハハ!!」

「あーあー、ワイスの笑いのツボにハマっちゃったわ。これはしばらくウーブレック博士がそれを言うたびに思い出し笑いが出ちゃうわね」

「ワイスの笑いのツボはよくわかんねえ所にあるよな」

 

 アカデミーでの生活について、お茶をしながらワイワイと賑やかな時間を過ごした一行は、洋菓子店を出た後、ヤンが世話になっているというバイク専門店に向かった。

 レムナントでは16歳から免許を取ることが可能なので、若人達が店を訪れた事に店主は浮かれ、あれよあれよとバイクについて、解説を行なっていた。その免許は、数日〜1週間程度で取ることが出来、費用も成人前の特別講習を受けたとしても30000リエン程度。

 ヤンは大型二輪を乗り回しており、大型は後ろにもう1人を乗せることが出来るという。徒歩での旅に慣れすぎたラグナにとって、乗り物を利用する事による行動範囲の拡大はまさに目から鱗であった。もっとも、以前はそんなことをする資金もなく、ましてや免許を取るなど、その免許を発行するはずの国家権力から追われていたので、土台無理な話ではあったのだが…

 そんなこんなで、バイクに対して魅力を感じたラグナは店主に免許を取る為の説明と申し込み用紙を受け取り、バイクの値段の相場を聞いて、免許を取ったら再度訪れる事を約束した。

 バイクの値段の相場を聞いた時、ヤンが店主に笑顔で「私の紹介なんだから、安くしなさいよね」と早速値切りにかかっていた。店主の額に冷や汗が伝っていたのは言うまでも無い。ラグナはアーガルムでの収入に加え、戸籍が出来たことにより、孤児である事に配慮した支給金が国から与えられているが、これまで使ったお金は食事や武器のメンテナンスのみであるため、バイクを買う事はそう難しい事ではなかった。

 

 太陽が影を潜め、空が燃えるようなオレンジ色から紺色に染まりだす。レンに連れられ、最後の目的地の前に着いた時、ラグナは顔を引きつらせた。レンの予定していた計画とは、銭湯だったのである。レンからすると、アカデミーの部屋にはシャワーがあるのみである為、普段はゆっくりと入浴する事は出来ないからといった理由なのだが、右腕に秘密を宿すラグナにとってこれは不味い。

 

「ここは食事をするところもありますから、入浴が終わったら食事処で待ち合わせしましょう」

「わかった!じゃあ、3人とも後でね!」

 

 女子陣は意気揚々と入っていき、レンとジョーンも男性更衣室へと入っていく、ラグナは目に見えて挙動不審になり、それに気付いたレンが語りかける。

 

「ラグナ、どうしましたか?」

「あぁ…いや…えっとだな…」

 

 ラグナはキョドりながらも、何か上手い理由を探す。せっかく友人が計画してくれた事を無下に出来るほど、ラグナは薄情者では無い。

 その時、焦りと動揺で泳がせた目が1人の入浴客を捉えた。その客は体に傷を刻んでいるようで、包帯で覆われたその傷を濡らさぬように、足だけを湯につけている状態だった。その姿を見たラグナは、レンの問いに答えた。

 

「あー、レン悪い、俺は右腕の方に傷痕が残っててな。あんまり見せて気持ちのいいもんじゃねぇから、ちょっと店の人に頼んで、服着たまま足だけ浸けさせてもらえねえか聞いてくるわ」

「そうでしたか…

それはとても悪い事をしました。ラグナに楽しんでもらうつもりが、気を遣わせてしまうなんて…」

「いや、お前が色々考えてくれたのはのはわかってるからよ。足湯ってのも嫌いじゃねえし」

「分かりました。ではジョーンと一緒に先に入ってます」

「ああ」

 

 ラグナは銭湯の店員、番台で座る女性に傷痕をあまり見せたくない旨を伝え、露天風呂に限り、着衣のまま足だけを浸ける許可を得て、レン達と合流した。

 その後、ラグナの為に露天風呂へと出てきてくれた2人と雑談を交わしながら時間は過ぎ、ふと、ジョーンを皮切りにこんな話題が飛び出した。

 

「2人とも、好きな人とか居ないの?」

 

 ジョーンが現在、ワイスに恋慕を抱いているのは周知の事実である。自分の思いを周りへ恥ずかしげもなく伝えられるところは長所ではあるのだが、しかしながら、あからさま過ぎる事と、それを伝える手段を冗談めかしているが故に、あまり真剣に捉えている人は少ない。

 

「んだよ、急に…」

「そうですよ、びっくりしました」

「いいじゃんか、こういう話をしたって!

やっぱりレンはノーラの事好きなの?」

「…僕達はまだあまりそういうのは分かりませんね。ずっと一緒にいて、大切ではありますし、放って置けない気持ちもありますが、これが家族の情のような思いなのか、恋慕なのか、判断出来ません」

「ふーん、じゃあラグナは?

気になる娘とかいないの?」

「いねぇよ。俺は育ててもらった親達とはだいぶ前に別れて、ずっと1人で生きてきたからな。友達が出来たのだって、アカデミーに来て初めてだ。それに…」

 

(俺には愛とか恋とかをする権利なんざねぇ…

大勢の人間を傷つけてきた俺にはな…)

 

 ラグナが「死神」として賞金首になっていた頃、ラグナは、大勢の人を傷付けた。その中には、一生治らぬ傷を負った人や亡くなった人達もいたはずだ。統制機構の一般衛士達は、ユウキ=テルミやレリウス=クローバー、イザナミなどに利用されていたに過ぎず、あの人達に罪なんてない。世界の秩序を守ろうと、正義を果たそうと信念を持っていた人達だったはずだ。そんな人達に対して、自分は復讐の為、憎しみを持って、統制機構、正確には支部の地下に秘匿された窯を破壊してまわった。統制機構がイザナミ、テルミ、レリウスの傀儡として利用されていると知るまで。

 更にラグナは黒き獣として、暗黒大戦時にも多くの人間の命を奪ってしまっている。それはラグナの意思の有無に関係なく、ただ自分という存在が引き起こした事象は現実として、ラグナの心に色濃く刻まれていた。故に、「大切な仲間」を作る事を拒絶しなくなったラグナであっても、「特別な誰か」を作る事は出来ないと考えていたのである。

 

「…いや、なんでもねえ」

「なんだよ!2人とも恋愛事に興味がないってのかい!?俺はワイスにぞっこんだけどね!」

 

 大声でそんな事を宣言し、どんと胸を張るジョーン。それに対して、ラグナとレンは2人して「ふぅ…」とため息をついたのであった。

 

 風呂場から出た3人は、併設された食事処へと向かう。結構長い事、時間が過ぎたためか、食事処には女子陣の姿が既にあった。

 全員の髪は少しまだ水気を帯び、体が温まったためか顔が上気し、艶やかな魅力を放っている。

 

「すまねぇ、待たせたか?」

「全然。私達も今出たところだし」

 

 9人は座敷に置かれたテーブルを囲みながら、夕食を摂る。昼のノーラの店もそうであったが、この銭湯の料理も絶品で、食通(しょくつう)の2人には頭が下がる。全員が料理に唸っている中、ジョーンは料理を食べながら、デートで使うオシャレで美味しい店を聞き出そうと密かに考えていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 存分にヴェイルの街での各々の趣味巡りを楽しんだ一向は、一旦ラグナの部屋へと戻っていた。

 

「あー、楽しかったね!」

「まぁ、中々悪くありませんでしたわね」

「たまには、こういうのもありかもね」

「そうだね〜」

「お前ら、今日は世話んなったな。ありがとよ」

「いいっていいって!私も一緒にツーリング行く相手とか欲しかったし」

「今度こそ、ラグナもしっかりと楽しめるように計画を立てます」

「いや、十分楽しめたぜ、レン」

 

 感想の言い合いも程々に、皆互いの趣味や好きなものを知る事が出来、絆がより一層深まった事を感じていた。

 昼食に訪れた、レンとノーラの顔馴染みのお店を全員が心を打たれた事はもちろん、ジョーンがワイスの音楽趣味の影響でアコースティック・ギターを買った事や、ノーラとワイスがピュラに連れられ訪れた洋菓子店を気に入った事、ルビーが書店で英雄譚や冒険譚の本を買い漁っていた事など、ラグナ以外のメンバーにとっても良いイベントだったようで、談笑は絶えなかった。

 

 しばらく話し込み、ラグナ以外の8人が、明日の授業に向けて、休むために部屋へと戻っていった。ラグナは今日買った本を棚に並べ、バイクのカタログ、免許取得の申し込み用紙を机に出すなどして整理をした後、銭湯で流せなかった汗を流すため、服を脱いだ。右腕の布も外し、異形の右腕が露わになる。

 一日中、街を歩いたラグナは晴天にも恵まれていた為、決して少なくはない量の汗をかいていた。その不愉快にベタついた汗を一刻も早く流したいと気が早ったのがいけなかった。

 

ガチャ

「っっ!!!」

 

 いつもはしっかりと閉めるはずの部屋の鍵を閉め忘れてしまっていたのである。

 

「あ、ラグナごめーん、私のスクロール忘れちゃった。あと、バイクの免許について話がーーー

え…なに…それ……」

 

 ドアの開く音にハッと振り返ると、そこには笑顔でドアを開け放ったヤンの姿があった。ヤンのラグナへの語りかけは、ラグナの蒼が蠢いているような右腕に奪われ、停止した。ラグナも完全に油断していた事で驚きが余計に大きく、数秒の間、体を固まらせた。

 しかし、そこからの動きは早かった。全身で威圧感を放ち、ヤンの動きを封じる。

 

「………早く中に入ってドアを閉めて鍵をかけろ、今すぐだ」

「は、はい」

 

 ラグナに睨まれたヤンは、そのあまりの衝撃と威圧に言葉を失い、素直に従った。

 

「とりあえず座れ」

「…………」コク

 

 ラグナの促しにヤンはラグナの顔色を伺いながらベッドへと腰掛ける。ラグナもそのすぐ横に腰掛け、両手を組んで膝に立て、そこに額を伏せた。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙が流れる。その途轍もなく長いような短い沈黙の中、ラグナは1度長く大きい息を吐いた。

 

「はぁぁぁぁぁ……

これは完全に俺の不注意だ…すまねぇ…

驚かせちまって」

「い、いやいや、私がしっかりとノックをするべきだったよ…

さっきまでこの部屋にいたって事と、今日の楽しい気分が残ってて勢いそのまま開けちゃって…

ごめん…」

「それでも、守りたい秘密があるなら万全を期すのが当然だ、俺はそれを怠った。本当にすまねぇ…」

「……その腕…どうなってるの?」

 

 ヤンは最も自身の気を引いている事柄について、問いを発する。ラグナは暫く口を噤んでいたが、ポツポツと話し始めた。

 

「この腕は義手なんだ。

昔、死にかけた事があってな。俺は腕を落とされ、何も出来ずにただ無力に倒されちまってな」

「っ!!」

 

 ヤンは驚愕する。エメラルド・フォレストでの戦いやグリンダの模擬戦訓練などで、ラグナの戦闘能力の高さは身に染みて知っていた。そんなラグナが何も出来ずにただただ殺されかけてしまうなど、今の姿からは想像し難い事だった。

 

「そんなに驚くんじゃねぇよ。誰だって最初から強え奴なんていねぇだろ?」

「……それは、グリムに…?」

「どうだったかな?

その時の事は良く覚えてねえんだ。グリムだったかもしれねえし、悪党だったかもしれねえ、もしかしたら悪い神様だったのかもな」

 

 冗談めかして言う。テルミは元々、「武速(たけはや)須佐之男命(すさのおのみこと)」という神そのものである為、嘘は言っていない。

 

「まぁ、なんにせよ、死にかけてた俺は結果的には救われた、ある人に助けられたんだ。その命の恩人からこの義手を貰ったが、こいつはただの義手じゃなかった。死にかけてた俺を救うにはこの義手(これ)しか無かったんだとよ。義手にしては普通の物とはあまりにもかけ離れてるし、どう見たって普通の腕じゃねえ。蒼く動いてるナニカが、腕の形をしてるまさに『異形の腕』だ。だからこそ、周りには決して見せないようにしてた。昨日の晩、お前に言った話はあながち嘘でもないが、真実でもない。悪かったな」

 

 ヤンは口を噤み、ラグナのあまりにもいたましい話をじっと聞いていた。そして、黙りこくったまま、ラグナの右腕にスッと手を当て、そのままさすり始めた。

 

「お、おい…」

 

 その行動にラグナは声をあげた。仲間の生命力を吸収しないように出力を調節しているため、害はないが、この腕を躊躇い無く、触ってくる人、ましてや女の子がいるとは思っていなかった為である。

 

「私がこんなの気にするように見える?

そりゃ、少しビックリしたし、ショックも受けたけどさ。あんたはあんたでしょ?

腕がちょっと変わってるからって、それは変わらないんじゃない?」

 

 唖然と、ヤンを見つめる。ヤンは「何かおかしな事でも言ったか」とでも言いたげに、ラグナへ穏やかに笑いかけていた。その笑顔につられ、笑みを浮かべた。

 

「…ありがとよ、そう言ってくれて。

だが、この事は極力みんなには秘密にしてくれ。あいつらの事を信じてないわけじゃないが、それでも、さっきのお前みたいに驚かせちまうし、少なからずショックを受けるだろうしな。それに、あまり話してて気持ちのいいもんじゃねぇから」

「わかった、約束する。今回のお詫びに、私も秘密を守るのに協力するわ」

「…そうだな、頼む」

「任せなさい」

 

 ラグナの返事を聞いて、ヤンは微笑みながら、ラグナの胸に拳をトンと当てた。その後、ヤンからの話であった、バイクの免許講習についての話を聞き、スクロールを返す。ヤンが部屋へと帰った後、ラグナは焦り、緊張、安堵など様々な感情が渦巻いた胸のヤンの拳が当てられた箇所をそっと撫でた。

 




とりあえず、オリジナル日常パートを3話投稿してきましたが、皆様の頭の中で和気藹々としたルビー達が思い浮かんでいたら嬉しいです。

では恒例の謝辞を
今回も読んで頂きありがとうございました。
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