元全世界の敵のなんだかんだ奮闘記   作:天然黒酢

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女子キャラの喋り方が似ちゃってごっちゃになる問題。

感想、コメントはとても嬉しく拝見させて頂いています。
ありがとうございます。



ナード

 

コンコンーー

 

「誰だ?こんな時間に…」

 

 グリムについて独自に調べものをしていたラグナは、そのノックの音で思考の世界から引き戻された。ドアを開けると、 ピュラの姿があり、無言のまま、ラグナの顔を見つめた。

 

「ピュラ?」

 

 その悲哀に満ちた表情に、ただならぬ雰囲気を感じたラグナは、何も言わずに中に招き入れる。ピュラは口を開かぬまま、目を伏せてベッドに腰掛け、何かを思い悩むように俯いていた。

 

「どうしたんだ?」

 

 ラグナの問いにピュラは少し肩を震わせる。その後、あからさまに無理矢理な笑顔を作りながらポツポツと語り出した。

 

「あはは…ちょっと…失敗しちゃって…

ラグナなら…聞いてくれるかなって…」

「…ああ、まぁ、『愚痴の吐き場所として使え』って言ったしな。勿論、聞いた内容なら他には喋らねえし」

「…ありがとう。

……ジョーンの事よ」

 

 ピュラは1つずつラグナへ順を追って語り出す。ジョーンがビーコンに入学してから、カーディンからいじめを受けている事、授業や訓練での事で周りとの差に悩んでいる事、特訓を申し出たが拒絶されてしまった事を少しずつ、言葉を選びながら紡いだ。

 ラグナは何も言わず、ピュラが話し終えるまでじっと黙って聞いていた。

 

「私…どうすれば良かったのかな…?」

「…お前は何も間違った事はしてねぇよ」

「え?」

「お前なりに、ジョーンの事を考えての行動だったんだろ?

お前が気に病む必要はねえ。ジョーンも今は自分じゃ前にも後ろにも進めなくなって、状況を変える事が怖くなってるだけだ。あいつも男だからな、それを誰かに憐れんで欲しくなくて、意地を張ってんだろ。

少し時間を置いてみろ。俺もジョーンの事を気にかけておくからよ」

 

 まるで昔の自分の話を聞いているようだと、ラグナは思った。己の力を過信して、打ちのめされて。でも、それを認めたくなくて、自分の限界はこんなもんじゃないと、意固地になってしまっていたあの頃の話を。

 今となってはそれを心配する立場の気持ちも理解出来る。獣兵衛やレイチェルはこんな気持ちで自分を宥めてくれていたのかと、胸が少し締め付けられる感覚を感じた。同時に、ジョーンの気持ちもわかってしまうラグナは少し時間を置くことで、頭を落ち着かせる期間を設けるべきだと提案した。自分がイザナミの場の影響で暴走してしまった時も、カグラに捕らえられ、檻の中で頭を冷やす事で戦況を改めて見させられた経験からだ。

 

「あなたがそう言うなら…

分かったわ。ジョーンの事、お願いね」

「おう」

「こんな時間にごめんなさい。ありがとう、話せて楽になったわ」

「気にすんな。俺で良けりゃいつでも聞くからよ」

「じゃあ、また明日ね、おやすみなさい」

 

 ピュラは少しスッキリしたようにベッドから立ち上がると、ラグナへの礼を述べ、自室へと帰っていった。ふと、時計を見ると、時刻は既に日を跨いでおり、グリムについてのファイルを閉じ、ラグナも眠るべく、ベッドに体を沈めた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 次の日から、ジョーンの行動が変わり始めた。しかし、それはラグナの思いもしなかった方向にだった。

 ジョーンはカーディン達と共に行動するようになったのである。それは表面上は友人としてのようであったが、カーディンの浮かべる笑みとジョーンのそれが、あまりにも差があることで、ラグナにはまるで付き従う事を余儀なくされているように見えた。ジョーンは授業も昼食も、放課後でさえもカーディン達と共に過ごすようになり、それまで一緒にいたチームメイトや仲間達との時間はめっきりと減ってしまった。

 そんな日々が続き、1つの事件が起こる。それはまたもウーブレックの授業の中での出来事だった。ウーブレックの歴史の授業は前回と同じように、ファウナスと人間との抗争についてを題材に行なっている。あいも変わらずファウナスを蔑むカーディンに対し、ブレイクが苦言を呈したのだ。

 

「カーディン、いい加減その態度やめてくれないかしら。とても不愉快だわ」

「あぁん?お前の機嫌なんか知ったことか」

 

 そこに、こちらも我慢の限界だったのか、ピュラもカーディンに対して言葉を放つ。

 

「カーディン、私から見ても貴方の態度には目が余るわ」

「だからよ、お前らの事になんで俺が気を使わなきゃなんねぇんだって話をしてんのよ。

それに、俺と同じように考えてる奴だって大勢居るんだぜ?

なぁ、『ジョーン』」

「「っ…」」

 

 カーディンが肩を組み、同意を求めたのは、その脇に控え、背を小さく丸めたジョーンだった。

 

「え、あ、ははは…」

 

 ジョーンは拒否するでもなく、ただただ引きつった笑みから乾いた声を漏らすのみ。その事に、ブレイクとピュラはショックを受け、カーディンはニヤニヤと下衆な笑みを浮かべながら勝ち誇るようにどかっと椅子に腰掛けた。ジョーンの肩を抱いたままにして。

 その光景をただ黙って見つめていたラグナは、スクロールを取り出し、最近やっと人並みに操作出来るようになった手捌きでメッセージを飛ばした。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

コンコンーー

 

「おう、来たか、入れよ」

「ラグナ、どうしたんだ?

急に話があるなんて…」

 

 ラグナがメッセージを送った相手はジョーン本人である。メッセージには、カーディン達には何も言わずに1人で来るようにと記していた。

 

「どうしたはこっちの台詞だぜ、ジョーン。急にカーディン達とつるむようになってよ、俺たちに内緒で秘密の特訓でもしてんのか?」

 

 ラグナはジョーンに顔を向けずに言う。その返答は無言だった。纏う雰囲気からジョーンが俯いている事は分かる。

 

「………」

「ま、そんなふうでもねーか…

ピュラに聞いたぜ、特訓の申し出を断られたってな」

「っ……」

 

 ジョーンの体が一度ビクッと震えた後、伏せていた目を上げ、ラグナを睨んだ。

 

「そっか…ピュラにね…

それで、不正で入った俺を軽蔑する為に呼んだって訳か…」

「あ?何を言ってやがる…?」

「惚けるなよ!どうせ、嘘の成績表を提出した俺を、そんな卑怯な手でビーコンに入った俺を笑うために呼んだんだろ!俺にビーコンにいる資格はないって言うために!」

「………」

 

(成る程、そういうことか…)

 

 ラグナはピュラに「ジョーンを気に掛けておく」と約束した時からというもの、ジョーンを注意深く見ていた。しかしながら、ジョーンがカーディン達とつるむ理由が、全く分からなかったのである。ジョーンの言葉を聞いて、ラグナの頭の中でカチッと辻褄の歯車が噛み合った。何か弱みを握られているのではという予測は当たっていたようだった。

 

「ピュラの名誉の為にこれだけは言っておくが、ピュラが俺に話したのはお前が授業や訓練の事で悩んでいる事と、特訓の申し出を断られたって部分だけだ。お前のその話は、今初めて聞いた」

「え?…

あ!いや…ラグナ、お願いだ。誰にも言わないで…

この事がバレたら俺はビーコンに居られなくなる…」

 

 ラグナの言葉で急激に冷静になったのか、ハッとなって怯えるジョーンに対して、ラグナは睨みつけていた目を閉じ、はぁ…と息を吐いた。

 

「まさかここまでとはな…でもこれで遠慮なく言えるぜ。

『テメェ、馬鹿か?』」

「自分がバカな事ぐらいわかってる!でも、嫌なんだよ!『愛すべきバカ』を演じるのは!俺は『ヒーロー』になりたいんだ!

そのためには俺はこれに縋るしかないんだ。あんなに強い君には分からないだろうけどさ!」

「今のお前は『愛すべきバカ』でもなんでもねぇよ、ただの『馬鹿』だ。大方、カーディンにその秘密を知られたんだろうが…

考えても見ろ、なんの後ろ盾も持たないガキが1人で仕込んだ不正にオズピンが気づかねぇわけねぇだろうが。もし、オズピンですら気付かないような不正を単独で行えるような技術がお前にあるなら、ハンターじゃなくて、その才能を活かせる道に進んだ方がいいぜ。

それに、推薦ってのはただ成績表出して、それだけで合格が決まるわけじゃねぇだろ。少なくとも面接やら、何かしらの試験はあった筈だ。だから本来ビーコンにいる資格のない人間がおいそれと入学出来るほど甘くはねえ。少なくとも、お前はビーコンに入学する事が出来た、っつう事はオズピンから見て、その資格があったって事だ。

だが、今のテメェはどうだ?カーディンに握られた秘密に怯え、ビクビクしながらコキ使われる。こんな生活をお前は望んだのか?

この状況の先に、お前が憧れたその『ヒーロー』がいんのか?

何が正しい事なのか、もう一度考えてみろ。お前はピュラに言ったんだろ?

『これを自分でなんとかしなくちゃ、ダメになる』ってな。わかってるじゃねえか。いくら周りが協力を申し出たとして、結局、動き始めるかどうかはそいつ次第だ」

「……………」

「すぐに動き出せなんざ言わねぇ。よく考えて、自分が思う『正しい』行動をしろ」

 

 ジョーンは終始俯いたまま、黙ってラグナの言葉を聞いていた。ジョーンの背中をバンと叩いて立たせ、部屋の扉の方へ押す。ジョーンが部屋から出るとラグナはもう何も言わず、扉を閉めた。

 

 廊下へと放り出させたジョーンはトボトボと当てもなく彷徨う。ラグナの言葉を思い返しながら…

 

 しかし、今のジョーンは自分に自信を持つ事が出来なかった。この1ヵ月の生活の中で、周りとの差をまざまざと見せつけられる毎日、そんな中であまりにも場違いな自分が恨めしかった。そして、ラグナが言った、オズピンがジョーンの不正を知りながら入学を認めたという話もジョーンにとってはおよそ信じられる話ではない。

 そんなことを思いながら彷徨い、ふと気がつくと、ジョーンは自身の部屋の前まで帰って来ていた。後ろめたい気持ちが勝り、ドアを少しだけ開け、ちらりと中の様子を伺う。

 

「彼は何が正しい事なのか、わかってるはずよ」

「……うん、そうだよね…」

 

 ラグナと同じ一言が聞こえる。その言葉にどうしても、部屋の中へ入る事が出来なかった。

 

「こんばんは、ジョーン」

「ひゃぁ!?」

 

 高い悲鳴をあげ、後ろからかけられた声に振り向くと、そこにはルビーの姿があった。

 

「久しぶり。どうしたの?

また締め出された?」

「あ、あぁ…いや、大丈夫!」

 

 ポケットから取り出した部屋のキーを掲げ、精一杯の笑みを浮かべてみせるが、その笑みは硬く、強張っていた。それをルビーは感じ取ったのか、怪訝そうに眉をひそめた。

 

「最近どこ行ってるの?

ブレイク達はカーディン達とよく一緒にいるのを見るって言ってたけど…」

「えーと…ははは…」

 

 その渇いた笑いを更に訝しげに見るルビー。それに観念したのか、ジョーンは1つ溜め息をついた。

 

「…はぁ…俺が間違ってたんだ…

実は少しやらかしちゃって、カーディンに捕まっちゃったんだ。ピュラは口も聞いてくれないし、今もラグナに怒られてきたところ…

この頃こう思うんだ、俺はビーコンに来るべきじゃなかったって…」

 

 ジョーンは扉を背にし、項垂れるように廊下に座り込んだ。

 

「俺は、落ちこぼれだから…」

「ダメだよ」

「ダメって…」

「そうよ。ジョーンはもうリーダーなんだよ、落ちこぼれだなんて許されないの」

「い、いや、でも俺は戦っても強くないし、頭悪いし…

もし俺がリーダー失格だったら?」

「うーん…それでもダメ」

「ははっ…

君はこの手の話になると譲ってくれないよね…でも…俺なんて…」

 

 ルビーはジョーンの隣に腰掛け、もう一度念を押すように「ダメだよ」と言った。

 

「ジョーン、子供の頃も落ちこぼれだったでしょ?

初めて会った時も落ちこぼれだったかもしれない。でもね、今は1人で悩んでる暇なんて無いの。何でか分かる?」

「うーん…何でかな…?」

「何故ならもう自分だけの問題じゃないから。チームを率いてるんだよ?

貴方も、私もね」

 

 ジョーンはルビーの言葉に耳を傾け、徐々に顔を見あげた。ルビーは続ける。

 

「実力試験が終わったばかりの頃、私がワイスが怒らせちゃった事があったでしょ?」

「うん、でも、次の日には元通りになってたよね」

「あの時、まだ私はリーダーになったっていう実感もなくて、どう振る舞えばいいのかも分からなかった。そんな時にね、ラグナに言われたの」

「ラグナに?」

「リーダーっていうのは『戦場でも、それ以外でも1番長く、仲間の為、守るべき人の為に戦える奴の事だ』って」

「1番長く…戦える奴…」

「そう、ジョーンは今リーダーとして戦えてる?」

「…………そうとは言えないかな」

「だよね。ジョーンも今、ラグナに怒られてきたって言ってたもんね。

ラグナって口は悪いけどその分、私達に遠慮なんかしないで真っ直ぐに言ってくれる。まるで私達の弱い心の部分を教えてくれてるみたいにさ。

そう思わない?もう一回、ラグナから言われた事を思い返してみて」

「……………」

 

 ジョーンは先のラグナの言葉をもう一度噛み締めながら思い返した。自分のするべき「正しい行動」、それがどんなものなのかは、もうジョーンにも分かっている。しかし、自分を信じられないが故に、自分が動いたら事態がより悪い方向へと転がってしまわないか、怖いのだ。

 隣に座り込んでいたルビーは立ち上がり、自室のドアノブに手をかける。

 

「まずはチームメイトを大事にするところからだよ、ジョーン。リーダー同士、一緒に戦おうね。きっとなれるよ、最高のリーダーにさ。

じゃあ、おやすみ」

 

 パタンとドアが閉まり、残されたジョーンも立ち上がる。ルビーと同じように、自室のドアノブへ手を掛けようとすると、スクロールが鳴った。

 メッセージの主はカーディン。いつものようにジョーンをこき使う為のメッセージであり、まだ答えが出ないジョーンはそれに逆らう事が出来ず、トボトボと寮を出た。

 

 




あっちの学校は9月開始だった事に気付いた事で一回テコ入れを行いました。

では、恒例の謝辞を
今回も読んで頂き、ありがとうございました。
また次回。
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