誤字報告も大変助かっております。
「うん、良い感じに風もあって日差しもあったかい雲1つない晴天!絶好のツーリング日和ね」
10月も中頃に差し掛かり、残暑の熱気もぱたりと影を潜めた空の下でヤンは高々と声をあげた。
「すまねぇな、休みの日なのに付き合わせて」
「そんな事ないよ。逆にあんたから声をかけられなかったら私から誘ってたわ。ツーリング仲間が増えるこの日をどれだけ待ち望んだ事か!」
ラグナはあの趣味探し以降、すっかり娯楽にハマってしまっていた。元々、楽しみと言えば食べる事ぐらいしかない生活を余儀なくされていたためか、今では読書、音楽はほぼラグナの日常に組み込まれており、生活を彩っていた。
そんな中、バイクの講習が先週で終了し、念願の徒歩以外の移動手段を手に入れたラグナ。講習を通して、バイク独特の風を肌で感じるあの感覚がクセになっていた事もあり、昨日、勧めた張本人であるヤンと共に、バイクと必要な用品を購入した帰りに、ラグナの方からツーリングに誘っていたのである。対するヤンも、自身の趣味仲間が生まれた事で、華やかな笑顔を浮かべていた。
「今日は風も穏やかだし、海岸線を走ると気持ちいいかもね」
「俺は初心者だからな、ルートは任せる」
「オッケー、それじゃあ行こっか」
一緒にツーリングをするならと、昨日買い揃えたインカムを耳に装着し、バイクに跨る。ヤンの先導で海岸沿いの道路に出ると、微かな潮の香りが鼻腔を擽り、切った風が肌を撫でる。
「どう?」
「あぁ、悪くねぇ」
「それはなにより」
インカムから聞こえてくるヤンの問いかけに短く返す。ぶっきらぼうだがハキハキとしているラグナの人柄を知っているヤンは、ラグナの言葉の中に高揚の気がある事を感じ取った。その後も、蒼い海を横目に眺めながら、時々の会話を交わし、緩やかなカーブを駆けていく。1時間と少し走っただろうかというところで、ヤンが休憩にと浜辺近くの駐車場に入り、バイクを止めた。
「やっぱり誰かと走ると違うね。1人も嫌いじゃないけど、友達がいるともっと楽しい」
自動販売機で買った飲み物に口を付けながら、ヤンは目を細めて言った。
「そうかもな」
「この歳でバイクの乗る人って多いわけじゃ無いから、周りに1人もいなかったんだよね。本当にあんたがハマってくれたのは素直に嬉しいよ」
「こっちから礼を言いたい気分だ。良いもんを教えてもらったよ。
それにしても、前から思ってたがお前は社交性の塊みたいな奴だよな。ルビーと違ってよ」
「あ〜、あの子は元々人見知りが激しいからね。あと、周りが歳上しかいないっていうのも大きいと思うよ。シグナルでは普通に友達も居たみたいだし、寂しいって言ってたから。
私は妹とビーコンに通える事になって嬉しかったけど」
「そうか。ま、今はそんな事はねえだろうよ」
「そうだね、あの子は人見知りするけど、一度好きになった人達には本当に懐くから。あんた達が居てくれて本当に助かったよ。この頃はルビーも生き生きしてる」
バイクに寄りかかりながら話を弾ませる2人。そんな中、1人の少年がパタパタと自動販売機まで走ってきているのが見えた。その少年は暫し自動販売機を見つめるとお金を入れ、買いたい物が上段にあるものだったのか、目一杯の背伸びをして、手を伸ばす。しかしながら、その手を伸ばした先へは残念ながら届きそうにない。
ラグナは自動販売機の近くに歩み寄り、少年の手の伸びる先を後ろから押した。ガコンと飲み物が落ちる音が聞こえ、少年はキョトンと後ろを振り返った。
「ほらよ」
「あ!ありがとう、お兄ちゃん!」
「お、ちゃんと礼が言えんのか、偉いじゃねえか」
ラグナが助けてくれた事を理解した少年はパァッと笑顔をラグナに向ける。ラグナは少年の頭をポンポンと撫で、嬉しそうに目的の飲み物を抱えて走り去っていく少年を見送った。
「あんたって妙に子供に好かれたり、年下の扱いが上手かったりするわね。きょうだいでもいるの?」
「……まあな。弟と妹が1人ずつ」
ヤンの言葉にラグナは短く返す。ヤンはその簡潔な言葉に含まれる暖かな慈愛を読み取った。
「……その子達がどうなったかって聞いても良い?」
「ん?」
ラグナはヤンの少し遠慮するような問いに違和感を覚えた。少し考えて、右腕の秘密とそれにまつわる話を知るヤンの気遣いだった事に気付く。
「ああ、あいつらはそれぞれ養子に取られていったよ。今は、幸せに暮らしてると思う」
「そっか…良かった…
それにしても、あんたの弟と妹か。あんたに似てるの?」
「似てはいねぇかなぁ…」
「まぁ、実のきょうだいだからって似るとは限らないか」
「そうだな、お前とルビーもあんまり似てはいねぇしな」
「あ〜、私達は母親が違うからね」
ヤンのカミングアウトにラグナは少しばかり驚いた。聞いてはいけない事を聞いてしまったかのような、気まずい空気が微かに流れたが、ヤンは気にせずに続けた。
「私のパパのタイヤンは私のママと私達のお母さんのサマー・ローズ、クロウおじさんの4人でチームを組んでたらしいの。
パパと最初の奥さんの子供が私。クロウおじさんは私のママの双子の弟だから叔父さん。
とはいっても、私のママは私を産んだ後すぐに姿を消したから何にも覚えてないし、お母さんっていうと私を育ててくれた人が浮かぶから、異母姉妹っていう感覚は全く無いよ。
サマーは凄いお母さんでね。料理も美味しいし、ハンターとして国の任務にもついて、モンスターと戦ってた。
そのお母さんも亡くなっちゃったんだけどね」
「そうか…
変な事言って悪かった」
「いーのいーの!友達には私の事を知って欲しいし、私も知りたいと思ってるから」
「…それで…お前の実の母親はなんで居なくなったんだ?」
「そこなんだよね。私のママが行方を眩ませてからっていうもの、その後誰1人、姿を見た人はいない。叔父さんにも知らないって言われちゃった。
だから知りたいの。ママの身に何があったのか、今どうしているのか。
だけど、それに囚われてる訳じゃないよ。一回痛い目を見たからね」
そう言って、ヤンは自虐気味に目尻を下げた。
「……お前は強いな…」
「それでも、あんたには勝てる気がしないけどね。
あ、今話してて思ったけど、あんた歳下だけじゃなくて、意外と
「…そんな事言われたのは初めてだよ」
その言葉に2人は笑い合う。笑いながら、ヤンの瞳に堅固な決意の炎を見たラグナはヤンへの興味をまた一段と強めたのだった。
ツーリングを再開し、海岸沿いを逸れて、街へと入っていく。昼近くだった事もあり、街をを走りながら見かけたレストランで座り、互いのきょうだいについての話に花を咲かせた。
「あははは!可愛いじゃない、弟くん。あんたが妹ちゃんばっかり構うからヤキモチ妬いちゃったのね」
「仕方ねぇだろう…
妹は元々体弱えんだからよ」
「そっかそっか、私はルビーと2人だからあんまり無かったけど、3人きょうだいだとそういう事もあるのね。
『お兄ちゃんを取るなー!』みたいな?」
「……かもな…」
ラグナはもう一度、泣き虫だった弟の姿と成長し、自分が世界を託した弟の姿を思い浮かべた。そんなラグナに対し、ヤンはルビーと父であるタイヤンの話を交えた。
「なるほどな、ヤンの師匠は親父さんなのか」
「ちょっと頼りないところもあるけど、強いのは間違いないかな。私はまだ勝てないし。
そういうあんたの師匠は?
その右腕くれた恩人さんがそうなの?」
「いや、俺の師匠はまた別の人だ」
「ふ〜ん、どんな人?」
「そうだな…
とにかく滅茶苦茶に速い。二刀を使う達人でな、アラマサの二刀は師匠のがモデルになってる。
あとは…猫のファウナス…なのか?」
「へぇ、ちょっと会ってみたいかも」
「……まぁ、いつか会えるかもな」
否定するわけにもいかず、ラグナは少しばかりぼかすように答える。レストランでの食事の後、もう2時間程のツーリングを行い、ヴェイルの街へと帰ってきた2人はビーコンに戻る。
「今日は楽しかったわ。ありがとね」
「礼を言うのはこっちだ。次も誘ってくれ」
「もちろん!
あ、メッセージが来た。みんなはJNPRの部屋に集まってるみたい」
「わかった、すぐにそっちに行く」
ヤンと1度別れ、着替えを行いに自室へと戻り、暖かい日差しによって滲んだ汗と潮風の臭いを流すためにシャワー室へと入った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シャワー室を出て、サッパリと汗を洗い流したラグナは、先程のヤンとの話の通り、JNPRの部屋へと向かう。部屋をノックすると、中から「はーい」というルビーの声とともにドアが開けられ、中に招き入れられる。
部屋の中ではレンが焼いたであろうパンケーキをみんなが頬張っていた。ノーラだけパンケーキがタワーのように積み重なっているのは言うまでもない。
「あ、ラグナ、おかえりなさい。もうすぐまたレンが持ってきてくれるから少し待ってて」
「おう」
ピュラの呼びかけからしばらくして、戻ってきたレンからパンケーキが渡された。
「ラグナ、明日提出の課題ってもう終わってますの?」
早速座って食べようと机に近づき、ワイスの声で机の上を見ると、どうやら明日提出になっていた、ポート教授から出された課題を皆でやっていたようだ。ラグナより一足先に部屋に着いていたヤンも同様の紙を広げている。
「ああ、終わってっけど…」
「じゃあ少し手伝ってくれませんこと?
私だけでは教えきれなくて…」
「ったく、仕方ねえな。何処だ?」
ラグナは悩んでいる様子のルビーの隣に座り、質問に答えていく。今回の課題の出来が芳しくない人が多いのか、ルビーの他にもヤン、ピュラがラグナの元へと近寄り、質問する形になっていた。同様に、ワイスはジョーンやブレイク、レンに教えを請われる形になっており、レンはワイスに教わりながら、まだパンケーキに夢中でかぶりつくノーラに懸命に課題をさせようと試みていた。
2時間後ーーー
「終わったぁぁぁ…」
課題が終わるや否や、ぐでーんと机に突っ伏すルビー達。比較的早くに課題をクリアしたピュラが気を利かし、全員分の紅茶を淹れてくれている。
「ラグナ、助かりましたわ。感謝いたします」
「ああ、ワイスもお疲れさん」
教師役の2名は互いを労いあう。その様子を見て、レンは顎に手を当て、しみじみとした表情で言う。
「やはり、座学トップ2が近くにいると心強い事この上ないですね」
「ワイスが頭良いのは分かるけど、やっぱりラグナは意外過ぎるよね」
「うるせぇよ」
中々失礼な物言いではあるが、それも心を許している証拠だと知っているラグナは、ニヤリと口元を綻ばせながら返す。
座学トップ2という話だが、ついこの前行われた前期の中間テストにおいて、1位と2位を飾ったのが、ワイス、ラグナだったのである。ちなみにその他のメンバーはというと、ピュラが比較的上位の成績であり、そこから下位に向かうにつれ、レン>ブレイク>>ヤン≒ルビー>ノーラ>ジョーンと続く。ウーブレックにより、ラグナの成績は周知されているが、やはり見た目というのは重要な判断材料のようで、コミュニケーションとして冗談めかして言うルビー達とは対照的に、ラグナを疑う者も他の生徒の中には少数だが存在していた。
勘違いによる被害を受ける事に慣れてしまっているラグナは、そんな事は気にも止めていないのだが…
「そろそろ夕食の時間ね」
「ご飯〜♪ご飯〜♪」
「さっきあんだけ食ってたじゃねぇか」
「ご飯とおやつは別腹なのよ!」
「ノーラが言うと本当にある気がしてくるから怖いよ…」
ピュラの言葉に途端に上機嫌になるノーラ、いつも変わらぬブレないノーラに全員が穏やかに微笑み、食堂へと向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とある倉庫の内部、埃が溜まっている窓からは月明かりが差し込んでいる。その下で赤毛の男、ローマン・トーチウィックは葉巻をふかし、煙を吐き出した。
ローマンは苛立ちから少し葉巻に歯を立てる。その苛立ちの原因は現在、協力者として指示に従っている女にあった。その指示で、ローマンはヴェイル国中のダストをひたすらに強奪する任に就いている。今も、「ホワイト・ファング」の構成員達がしきりに各地で奪ったダストを運び込んでいた。
しかし、こんなにも大量なダストを用いて何を成そうというのか、この行動にどんな意図があるのかを女は何もローマンには話さないのである。加えて、「ホワイト・ファング」のファウナス達と手を組まされており、以前顔を合わせたそのホワイト・ファングのリーダーの方が計画の概要を知らされている事、立場が優遇されているらしき事がローマンには気に食わなく思っているのだった。元々、ビジネスライクな関係ではあるが、軽視されているとなると話は別である。
思考を重ねれば重ねるほど、苛立ちは強くなる。葉巻を地面に落とし、踏み潰すが怒りは一向に収まる事はなかった。
「ニオ!」
短く叫ぶと、妖艶な笑みを浮かべた小柄の女性が現れた。ローマンに付き従う少女、ニオポリタンである。ローマンはニオポリタンを一瞥すると、自身の持つ杖を彼女へ向け振り抜いた。
ニオポリタンは笑みを崩す事なく、杖による打撃を受け止める。ローマンは手を休める事なく、杖を振り回し、彼女を
「はぁ…はぁ…はぁ…
ニオ」
もう一度、ローマンが名前を呼ぶと、先程砕けた筈のニオポリタンが変わらぬ笑顔を向けて、ローマンの前に再び姿を現した。
「ホワイト・ファングの獣どもに仕事のペースを上げさせろ。これ以上、俺のビジネスを遅れさせるなら、俺の気が済まないかもしれんぞ。
わかったな…」
ニオポリタンは笑顔のまま、コクリと頷くと倉庫の奥へと歩いていった。
「
…全く…どいつもこいつも…
俺の周りにまともなのはいないのか?」
部下の幻影を怒りの捌け口にする自分の事を棚に上げ、愚痴を溢すローマンは新しい葉巻を懐から取り出し、火を付けた。
書きながら思った。デートやんけ…ぐぎぎ…(血涙)
今現在、1番独自設定が入っているのがこのニオポリタンになります。
ニオはファンも多そうなので、どこまで魅力的に描けるか分かりませんが、努力致します。
では、恒例の謝辞を
今回も読んで頂き、有難うございました。
また次回…