ラグナがこの世界に来てから、約1年の時が流れた。最初に訪れた街で、自身の持っている通貨がかなりの額であると知り、この世界の事を調べながら、世界各地を回る旅をする事を決めたラグナは、その中で様々な事を知る事になる。
この世界はレムナントと呼ばれ、複雑な機器やロボットなどの高度に発達した科学技術とダストと呼ばれるエネルギー源を使用する技術が存在する事。ヴェイル、ミストラル、ヴァキュオ、アトラスといった4つの国が主な国家としてある事。「ファウナス」と呼ばれる、動物の特徴を持った亜人が普通の人間と共に暮らしている事。
そして、「グリム」と呼ばれる怪物が世界各地で闊歩し、人々の生活を脅かしている事。その「グリム」を討伐する事を生業とする「ハンター」と呼ばれる人々がいる事など、1年の時を経て、ある程度の情報を得ることが出来た。
ちなみに、ラグナが今いるのはヴェイルである。というのも、この世界で目覚めた森がヴェイル領地であり、ラグナは元来成長が早く青年といっても差し支えない容姿をしているとはいえ、身元が分からない人間は隣国へ出る事が出来なかった。一応、小さい頃親を亡くした孤児という、あながち嘘でもない事を話し、国家機関に厄介になる事はなかった。
そんな中でも、国内の様々な地を巡り、1年もするとラグナもこの世界に馴染んでいった。
「そろそろ、金も尽きてきたな」
この1年、のんびりと旅を続けてきたラグナであったが、資金の枯渇という重大な問題に直面していた。この世界にシフトした際は15歳という事になっており、1年経った今は16歳という事になる。この世界では17歳になると高等学校に通う者が多いらしいが、ラグナには学校に通う金もきっかけも無かった。
「どーすっかな…」
頭をガシガシと掻きながら、丘陵を歩く。
「ん?」
グォォオオ…
禍々しい気配を感じ振り返ると、闇のように真っ黒な体躯に赤い紋様入りの白い仮面、そして真紅の目をぎらつかせる熊のような怪物「アーサ」がラグナを目掛け、突貫していた。
「ったく…この頃はやけにグリムが荒っぽくなってやがるな。オラ!来るなら来やがれ!返り討ちにしてやるよ」
ラグナが今までたった1人で旅を続けて来られたのは、幾多の戦いを経た経験と自身の力がこの世界でも通用するものであった事。そして、右腕となっている「
「ふっ…おらよ!」
突進して来たアーサを引きつけて躱し、横腹に蹴りを放つ。ギャウ!と痛みを口から吐き出したアーサは、素早くラグナに向き直った。
「デッドスパイク!」
しかし、それを詠んでいたラグナは大剣を地面に這わせながら振り抜き、闇の獣を模した衝撃波を撃ち出す。向き直った途端に目の前に放たれた衝撃波に、アーサはなす術なく直撃、宙を舞い、地に叩き付けられた。ダメージで起き上がる事が出来ないアーサだが、ラグナに対しての敵意は失われておらず、前脚の爪をラグナへと伸ばしていた。
「終わりだ」
ラグナは首元に剣を突き立て、一思いに首を落とす。すると、アーサは黒い煙となって霧散した。消えたアーサを一瞥し、剣を納める。
またしばらく歩くと、大きな門に行き着いた。町の入り口である。
「これからは町で金を稼ぐ手段について考えなきゃいけねえな」
町に入り、とりあえず腹ごしらえのために食堂へと足を運んだ。食堂は酒場を兼ねている事が多く、情報が集まりやすいと旅の経験から学んでいたラグナは、町に着いたらまず食堂へ行き、情報を集めていた。
食堂へ入ると、多種多様な人々が雑多に集まっており、大いに賑わっている。適当な椅子へ座り、店員に注文を終えると、周りの声に耳を傾けた。様々な会話が飛び交う中で、自分にとって興味深い話に注意を向ける。
ラグナはこの世界に来てから、感覚が鋭くなっており、この程度の事は造作もなかった。
「しっかし、近頃はグリムの奴らが彼方此方で暴れてるって噂だな」
「ああ、俺の地元も近くでグリムの動きが活発になってて、町の外にはハンター無しでは出られねぇってよ」
「うわ…まじかよ…
でも今、ハンターも人手不足なんだろ?大丈夫なのか?」
「どうかな…人口の増加に伴ってハンターへの依頼も増えてるが、受注するハンターがいないまま待たされてるって依頼もあるみたいだ。俺も届け物のために隣町までの護衛を頼みたいんだが、それがいつになるか…」
「ハンター」と呼ばれる者たちが、グリムを狩り、人々を守っている事はラグナも知っていた。その手が十分に回っておらず、依頼が滞っているという。ラグナはニヤリと笑いながら、その話をしていた男たちに近づく。
「なぁ、あんたら」
「ん?なんだぁ、にいちゃん」
「すまねぇ、あんた達の会話が耳に入ってな。隣町に行きてえけどハンターが捕まらなくて困ってるんだろ?その護衛、俺に任せちゃくれねぇか?」
「お!にいちゃんハンターなのか!?」
「いや、ハンターではねえんだが、その真似事みてえなもんだ」
「なんだ…ちげえのか…
なら用はねえよ。ハンターでもない奴に命なんぞ預けられるか」
シッシッと手を振り、ラグナを追いやろうとする男たち。しかし、ラグナはそこを動かずこう続けた。
「あんたのハンターへの依頼の報奨金っていくらだ?」
「あ?隣町への護衛となると行き帰りで2回分だから、1回2万として4万ってとこか?」
「俺ならその依頼、半額の2万、今日の夕飯を手配してくれるなら1万5千で受ける」
「はぁ!?」
ハンターは命がけの過酷な仕事である。そのため、依頼に見合った報奨金が両者の合意の元に設定される。そんな中、相場の半額以下は文字通り破格と言える。
「どうだ?悪い話じゃねぇだろう?」
「…………」
男は揺れていた。仕事をしているからといって、決して生活に余裕があるわけでもない。もしあったとしても、もっと楽な方向へと願うのは人の常。
そんな中、もう1人の男が口を開いた。
「そんな破格の値段で依頼を受けて、にいちゃんは何が目的なんだ?」
「俺も入り用なんでな。手っ取り早く金がいるんだ、生きていくためにな。それにこういう仕事は実力主義だろ?元から依頼をもらえないよりも、まず安くても俺の力を見せて信用を買った方が手っ取り早い」
「…そうか。
うーん、良いんじゃねえか?」
ラグナに質問を投げかけた男は、依頼の男にラグナを勧めた。
「お、おい!」
「だってお前、今月彼女の誕生日で節約しなきゃって言ってたじゃねえか。今回はにいちゃんに頼んで、浮いた金で彼女に良いプレゼントでも買ってやれよ」
「…………」
男は腕を組み、上を向いては唸り、下を向いては唸りを繰り返した。三度その素ぶりを繰り返したと思うと、覚悟を決めたように言った。
「わかった、今回はにいちゃんに頼むとするよ」
「よし、いつ行くんだ?」
「出来れば今すぐにでも。今から出れば日が落ちる前に帰ってこれるだろう」
「いいぜ、じゃあ俺は門の所で待ってるからよ。準備が出来たら来てくれ」
「ああ」
男達と別れ、仕事が決まったことに一先ず安心しながら注文した料理を食べる。
ここはヴェイルの首都から少し離れた町で、ある程度栄えているとは言っても田舎の域を出ない。というのが、ラグナが持った主観だった。ハンターの派遣もままならないのなら、しばらく此処に腰を降ろし、金を稼ぐのも良いかもしれないと密かに考えていた。
食堂から出て、門に寄りかかり男を待っていると、程無くして先ほどの依頼の男が現れた。
「じゃあ、よろしくな。えーと…」
「ラグナだ」
「よろしく、ラグナ。俺はカインだ」
「その荷物が届け物か?」
「ああ、俺は薬屋の倅でな、隣町に足りなくなった薬を時々届けてるんだ」
「そうか、なら早えとこ行くか」
ラグナが先程まで歩いていた丘陵を再び歩く。隣町までは歩いて3時間程の距離にある。この世界は科学技術が発達しており、車などの乗り物も存在しているが、町の整備された道路を移動するためのものという点とただ単に高価な品という点が相まって、町の外での移動手段は歩きや馬車などの先進技術を必要としないものに限られていた。もっと高価なヘリなどがあれば話も違うのだが。
「いつもはハンターは連れてないのか?」
「ああ、隣町までの道は町ほどではないが軽く柵なんかが整備されていて、普段ならグリムは近寄らないはずなんだ。しかし、最近グリムが活発化していて対グリム用の柵が突破されちまって、グリムに襲われる被害が増えているんだ」
「なるほど、道理でこんなにもグリムと出食わすわけだ」
ラグナが剣を握る。カインは頭の上に?を浮かべるがーーーー
「ちょっと下がってな」
ギャウァァ!!
草陰から人狼が襲いかかってきた。
「ひぃっ!!」
カインは悲鳴をあげ後ろへとたじろぐ。ラグナは人狼のグリム「ベオウルフ」が爪で切り裂こうと襲い来るのに合わせ、剣を振り抜いた。
ベオウルフの左腕が吹き飛び、ギャン!と耳をつんざく悲痛な叫びをあげる。ラグナを視野に入れ、ガルル…と威嚇をするベオウルフの傍にもう一体のベオウルフが現れた。
「ベオウルフが2体も!?おい、ラグナ!1対2じゃ分が悪い!逃げよう!」
「安心しな。ベオウルフのたった2体ぐらいわけねえよ」
ラグナの見下した発言を知ってか知らずか、2体のベオウルフは再度、ラグナへと跳びかかってきた。ラグナもそれに対抗し、ベオウルフ達へと向かって行き、左腕を突き出す。
「ヘルズ…ファング!!」
突き出した左腕は、まず左腕を失ったベオウルフの腹部を貫き、息の根を止めた。更に左腕を引き抜き、もう一方のベオウルフへ向け、今度は右腕を下から上へと振り抜き、ソウルイーターの効果で生命力を刈り取った。ベオウルフ達は声もなくドサ…と地に伏すと消え、黒い霧だけが残った。
「うし、行くか」
「お、おう…」
その戦いを呆気にとられて見ていたカインは、生返事を返す他なかった。
結局、グリムとの遭遇はその一度だけに終わり、無事隣町へと配達を終えて、元いた町へ戻ってきた。
その夜、ラグナは約束通り、夕飯をご馳走になるため、カインと共に再び食堂へ来ていた。
「いやぁ、それにしてもラグナ、お前強いんだな。びっくりしたよ。その腕でハンターやってないって勿体ねえなぁ」
「ハンターになるには学校に通う必要があるんだろ?俺は訳あって学校に行けなかったからな」
「そうか…
まぁ今回は助けて貰った礼だ!なんでも食べてくれ!」
「おう、ありがとよ」
2人で食事をし終えた後、カインは徐ろに財布を取り出し、2万をラグナの前に置いた。ラグナが怪訝そうな顔でカインを見つめると口を開いた。
「やっぱり、まんま半額以下っていうのは気が引ける。受け取ってくれ」
「いや、そりゃ受け取れねぇ。その代わりと言ってはなんだが、俺の事をあんたの口から紹介して欲しいんだ。今回みたいな護衛でも、グリム討伐でもなんでもやるからよ。しばらくこの町に居座ろうと思う。依頼があるやつはこの食堂に来たら良いって言って回って欲しいんだ。カインは依頼を受けさせてくれたが、俺みたいな他所者を信用してくれる人が多いとは思えないからな」
「そうか、そういう事なら引き受けた。でもまあ、それとは別にこれは受け取ってくれ。わざわざ財布から出したのに、もう一回仕舞うのも面倒だからよ」
カインの冗談めかした言い分に、ラグナは渋々金を受け取り、そのままカインの勧めで、その日はカインの家に厄介になった。
それからしばらくして、ラグナの名はその町だけに留まらず、近隣の町にも届く事になり、依頼は後を絶たなくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うーん…」
ここはヴェイルが誇るハンター養成学校「ビーコン・アカデミー」の校長室。そこでアカデミー校長のオズピンは頭を抑えていた。
「どうかしましたか?オズピン教授。何か悩み事でも?」
その様子を見ていたビーコン・アカデミーの教員で、オズピンの助手的存在であるグリンダ・グッドウィッチは問いかける。
「いやね、近頃この辺りの町からの依頼が激減しているんだ」
オズピンはディスプレイに映し出された地図で、ある土地を指差しながら言う。そこは今現在、ラグナが居座っている町だった。グリンダは怪訝そうに顔を歪めた。
「2年前からグリムの活動が活発化していて、他の地域からの依頼は増える一方。しかし、この一帯だけ、半年程前から依頼がほとんどない。この一帯だけ、グリムが居ないというわけでもないのにも関わらずだ。そして、もう一つは、この地域でのグリムによる被害件数も激減している。これは何かあると考えた方が良さそうだね」
「では、ハンターを派遣して、実状を調べさせますか?」
「いや、私が行こう。何が起こっているのか、非常に興味深いからね」
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では恒例の謝辞を
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