長い間音沙汰無く、お待たせしてしまって申し訳ありません。
ブレイクが自身の過去についてルビーへと説明を行なっている間、ラグナは捕らえたファウナス達の引き渡しと被害確認の為に警察と共にいた。
「今回、オズピン学長からダスト護衛を任された、ラグナだ」
「はい、この度は、ダスト強盗の阻止、及び、犯人の捕縛のご協力、誠にありがとうございます」
「つっても、主犯のローマンには逃げられちまったが…」
「無理もありませんよ。あいつは引き際を見極める事に関しては他の犯罪者と一線を画します。周到に用意し、万が一の場合に備え自分の逃走手段の複数確保も怠らない。だからこそ、今まで捕まっていないのです。
して…あの少年少女達は?」
「ああ、ビーコン・アカデミーの生徒とその友人達だ。今回一緒にダスト強盗の阻止に協力してくれた。やった事自体は危険な行動だったが、結果的に今回はあいつらの貢献が大きい。身元は俺と、オズピン学長が保証してくれる筈だ」
「なるほど、わかりました。ですが、あのファウナスの少年だけは3日前にヴァキュオから密航した人物の特徴と一致します。我々としても、見逃す訳には行きません」
「その事なんだが…
もう少ししたらオズピン学長がここに到着する。あんたら警察と一緒に事情聴取に同席させてくれ」
「……彼もダスト強盗阻止の功労者だそうですし、オズピン学長であれば信頼出来ます。特別に許可しましょう」
「助かる」
警察とのやり取りが終わり、ブレイク達の方を見ると、そこにはヤン、そしてワイスの姿があった。その穏やかな笑みからチームRWBY内で起きたいざこざは無事収束したようだ。そんな事を考えていると、ルビーはキョロキョロと周りを見渡した後、ラグナの方へと駆け寄って来た。
「ラグナ、ペニー見なかった?」
「ペニー?
いや、見てねえが…」
「さっきまでいたはずなんだけど、急に居なくなっちゃって…
「そういや、あいつは
あの武器といい、強さといい、ただの一般市民な訳ねえよな?」
「私もまだ友達になったばかりだからよく知らないの。トーナメントに出る為にヴェイルに来たって言ってたけど…」
「なら他のアカデミーの生徒って訳だ。あいつの強さとさっきまでお前達といたって状況から攫われたとかは考えにくい。つーことはあいつは自分の意思で居なくなったんだろ」
「どうして?」
「さあな。トラブルに巻き込まれた事を知られたくなかったとかじゃねえか?
まぁ、何にせよトーナメント出場のために交換留学生として来てるんならまたすぐに会えるだろうよ」
「そっか、そうだね」
納得したとばかりに頷いたルビーにラグナはオズピンが来るまで待つように伝えた。
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「だからよ、俺は何度も言ったんだよ。ヘイヴンの生徒でヴァキュオの実家からシェイド・アカデミーの船に乗せてもらって、ここに来る許可を校長から貰ってるから確認してくれってさ。
それなのに、あいつら確認もしねぇくせに俺の事を門前払い、無視しやがって…
俺も頭に来ちまってよ、だから目を盗んで、勝手に乗り込むことにしたんだ」
「ふむ…」
あの後少しして、オズピンが現場へと到着すると、ラグナは約束通り警察の事情聴取室に同席していた。オズピンはサンの発言を受け、なにやら思うところがあるように、顎に手を当てていた。
「いかがですか?
オズピン学長」
「確かに、ヘイヴンからの交換留学生の名簿に彼の名前はあります。連絡に不備があったのでしょうね。ヘイヴンの学生がシェイドの船で来るという報告が入っていなかったのも事実。
確かに、彼のしたことは褒められたものではなかったかもしれませんが、その行動に至らせてしまったのは我々アカデミー側であるとすれば、非は我々にあると考えています。
警察の方々には申し訳ありませんが、何卒寛大な処置をお願いしたく思います」
取り調べを行なっていた警察官は記録係としていたもう1人に目を向けると頷き、それを見た警察官がスクリーンを取り出した。
「…わかりました。今回は情報伝達の不備とのことで不問とします。本部にも事件性は薄いと報告しておきましょう。
しかし、船の乗船料は支払って貰いますので」
「俺はしっかりとヴァキュオからヴェイルまでのチケット代もアカデミーに支払ったんだぞ。だから余計に腹が立ったんだ」
「なるべく早くヘイヴン・アカデミーと連絡を取り、情報のすれ違いが生じた原因がわかり次第、すぐにお支払いします」
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取り調べ室から出た後、ビーコンへと戻った一行は、オズピンの学長室でヘイヴンへの連絡はオズピンが取るということで決定し、サンはヘイヴンから自分の荷物がしっかりと届けられているか確かめるため、交換留学生の寮へと向かった。ルビー、ブレイクも取り調べ室で一時の事情聴取を終えた後、合流したワイス、ヤンと共に自室へと戻っていった。
オズピンとラグナ、2人が残された学長室で、オズピンはニコリと笑った。
「取り敢えずお疲れ様、君のお陰でダスト強盗を阻止出来た」
「いや、俺がダストを護衛してる事は相手にバレてた。おそらく下見の時に敵に見られていたんだろうな。十分に気を払ったつもりだったんだが…
俺だけだったら阻止出来なかった可能性が高え」
「それでも君がいなければ阻止する事は出来なかった。君もブレイク達も全員が無事、これ以上の戦果はないよ」
その言葉を後に、オズピンの顔から笑顔が消え、真剣な眼差しが眼鏡ごしに見えた。
「しかし、問題はここからだ。実はヘイヴン・アカデミーの学長とは、しばらく連絡が取れていないんだ。お互い多忙の身だし、あまり問題視はしていなかったんだが…」
「大切な生徒についての連絡が来ないのは不自然、か?」
「その通りだ。彼がこういった連絡を怠る事はなかった。だからこそ、少々、嫌な胸騒ぎがしてならない」
ラグナはオズピンの瞳に並々ならぬ決意の色を見た。それはただ漠然とした不穏な予感のみしかない状態で灯す色としては、ラグナには不相応に見えた。その「嫌な胸騒ぎ」の原因について、オズピンの中で何か思い当たる節があるのではないだろうか。
そのラグナの視線に気付いたのか、オズピンは僅かに口角を上げた。
「君には、もう話して置くべきなのかもしれないね」
「あ?何をだ?」
「君がビーコンに入学する前に、私が読む事を勧めた物語を覚えているかな?」
「それって、『光と闇の兄弟神』とか『四人の女神』の物語の事か?
まあ、覚えてっけどよ」
『光と闇の兄弟神』とは
〈光を司る兄が「創造」した
「創造」と「破壊」の終わらない争いを永遠に続けることに虚しさを感じた兄は弟を諭し、2人で協力して最高傑作を創り出そうと持ちかけた。弟は兄の提案を承諾し、2人で力を合わせて最後の作品である人類を創り出した。〉
と描かれている、グリムと人類の創世神話である。
そして、『四人の女神』の物語は
〈ある森の奥に年老いた冷淡な魔法使いが何世紀も孤独に暮らしていたが、そこにウィンター、スプリング、サマー、フォールの4姉妹が順番に訪れた。 訪れた4姉妹は魔法使いに物事について深く思慮することを勧め、荒れた畑を整え作物の恵みをもたらし、世界を広い視野で見ることを促し、彼が自分の持っているものに感謝することを願った。
4姉妹のおかげで生きる活力を取り戻した老魔法使いは、なぜ自分にこうも優しくするのかと彼女たちに尋ねる。それを不思議に思った4姉妹は、誰かを特別扱いしているのではなく、ただ自分たちができることをしているだけだと答えた。 4姉妹の優しさに感激した老魔法使いはそのお礼として、彼の持つ魔法と自然界の力を彼女たちに授けた。力を受け取った4姉妹はそれを人助けに役立てることを老魔法使いに約束し、1人ずつ彼の元から旅立っていった。 最後に4姉妹は毎年、親愛なる友人である老魔法使いを訪ねに戻ってくることを約束した。〉
という物語である。
どちらも童話として、古くからレムナント全土で親しまれており、ラグナもアーガルムの町にいた時から大まかな内容は知っていた。
「それが空想の物語ではなく、実際に起こった出来事だと言ったら…四人の女神が、魔法が今現在も実在すると言ったら…
君は信じるかい?」
「………」
その言葉にラグナが少しばかり驚いたのは事実である。しかしながら、ラグナにとっては前の世界で暗黒大戦や六英雄なども物語として語られていたために、多少の驚きはあっても嘘であると断ずる事は出来るはずもなかった。
「……まあ逆に、それが出鱈目だっていう根拠もねえしな」
少し息を吸い込んで、そう答えるラグナ。オズピンはあまりにも簡単に信じたラグナを意外そうに見つめたが、話が早いと話を持ち直した。
「事の発端は、今代の『秋の女神』が何者かに襲撃された事から始まった」
「今代…?」
「ああ、というのも女神の力は1人が永遠に保持するものじゃない。女神達はそれぞれ力を次の担い手へと代々受け継いで行く。だから世代毎に違う女神が誕生するんだよ」
「その話からすると、あんたはその女神達を知ってんのか。それと、女神の力を受け継ぐ条件は何かあんのか?」
「当初は『若い女性に受け継がれる』ということしかわかっていなかったんだが、『先代の女神が最後に思い浮かべた女性』に受け継がれると判明した。だから、女神の継承者は少なからず、先代との関わり合いがある人物というわけだ。
女神の力は世界の為に使われるものであり、決して悪用されてはならないものだ。だからこそ、女神の存在を知る者達はこれを物語とし、存在自体を曖昧なものにした。女神の実在が明らかにされればどうなるか、君なら言わなくてもわかってくれると思う」
「…世界は少なからず混乱し、それに乗じて、女神の力を手に入れようとするものが現れる…か…」
ラグナの言葉に、オズピンもゆっくりと首を縦に振る。
「それを俺に話してもいいのか?」
「私は短くない時間の中で、君と過ごし、君が信頼に足る人物だと考えた。だからこそ、全てを話し、君に協力を求めることにした」
「…まあ、助けが必要なら助けるって言ったしな」
「ありがとう」
オズピンは目を細め、口の端を上げる。そして、一つ息を吐き、告げた。
「兄弟神の弟が作り上げたグリム、あれらの主人たる力を持つ者がいる。名はセイラム。
私たちは女神の力を秘匿しながら、彼女と戦い、この世界の平穏を守ろうと試みている」
ラグナは思いを巡らす。世界への情報の開示の少なさとオズピンがこれほどまでに危機感を覚えるセイラムとやらは、文字通り世界を脅かす存在なのだろう。それこそ、かつての
「そういや彼女って事は、女なのか?というか人なのか?
そのセイラムってのは…」
「人と呼べるかどうかは怪しいが、人型ではある。異形である事は間違い無いけれどね」
名前だけでなく、姿形まで見知っているという事は、実際に対面した経験もあるという事なのだろう。
「それで、ローマンやホワイトファングの奴らもそのセイラムの手先だってのか?」
「それはまだわからない。が、手を組んでいる可能性は捨てない方が良いだろう。
とはいえ、君にこの事を話したからといって、君の生活が著しく変わる訳じゃないから、これまで通りに過ごしてくれて問題ない。私も生徒である君に頻回に協力を求めるのは忍びないからね。ただ私の切り札として、いざという時の為に準備をしておいて欲しい」
「…あんたには返しきれない恩がある。そんなのは気にしなくて良い」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「さっきの女神達の話を知ってるのは?」
「私を含めた各アカデミーの学長の4人とグリンダ・グッドウィッチ教授、それからルビーとヤンの叔父であるとクロウ・ブランウェン。
しかし、秘密を知る1人であるヘイヴン・アカデミーのレオナルド・レオンハルト学長とは連絡がつかない」
これまでの話を纏める為に、ラグナは1度目を閉じて思案する。今現在、アカデミーが尽力しているのはヴァイタルフェスティバルの準備だ。それ加えて、参加する交換留学生の受け入れがある。
「……交換留学生…か…」
ポツリとラグナが呟いた声にオズピンは眉をしかめる。それには気付かぬまま、ラグナは過去に戦ってきた敵の事を思い返す。
テルミ、レリウス、イザナミが用いていた手段として、目的と近しい位置にある組織に潜入し、組織を乗っ取る、または崩壊させるというものがある。
「そういや、そのセイラムの目的をまだ聞いてなかったな」
「正確な事はわからないが、秋の女神を襲った事を考えるとおそらく
「その
「各アカデミーの学長が厳重に守護している」
「…そうか」
(現状から最悪な事態を想定するとしたら、ヘイヴン・アカデミーと遺物が敵の手に堕ちちまってる事だ。その場合、次に狙われるのはヴァイタルフェスティバルが開催されるこのビーコン・アカデミーである可能性が高い。丁度良い潜入の手段として、交換留学生という名目もある。
オズピンは学長の仲間や短時間とはいえ自分の生徒となる奴らを疑いたがる人じゃない。となるとスパイを見つけるのは俺の役目だな。めんどくせぇが、そうも言ってらんねえか…
「わかった。俺も注意はしておく」
「ありがとう。ああ、それともう一つ…」
「ん?」
「チームRWBYの事を気にかけておいて欲しい。今回の事件にホワイトファングが関与しているとわかった以上、ブレイクの心緒に揺らぎが出るのは間違いない。一時の感情にはしって危険な行動に出るやもわからない。だからーー」
「わかってる、ガキの世話は経験多くて慣れてんだ。不本意だがな」
「ルビーを除けば君も同い年だが?」
「細けえ事は良いじゃねえか。ちょっとばかり社会に出てた経験の差ってやつだ」
「そうか、それもそうだね。頼んだよ」
「おう」
ラグナはオズピンの焦燥入り混じった様子が消えたのを確認し、柔らかい笑みで歯を見せる。そんな中、「あっ」とラグナが何かを思い出した声をあげる。
「そうだオズピン、ローマンが連れていた俺を足止めした女について、情報が欲しい」
「…ふむ…その少女なんだが、いかんせん情報が無くてね。ローマンの側近らしき人物という事までは分かってるんだが…」
「そうか…
役に立つかわからねえが、あいつはローマンに『ニオ』と呼ばれてた」
「おお、名前らしきものが判明したのは僥倖だね」
「何かわかったらすぐに俺に伝えて欲しい。能力でも素性でも良い」
「君がそこまで情報を欲しがるなんて、そんなにも強敵だったのかい?」
「……まあな」
「?
わかった。どうせ敵の一味の構成員は全員調べなければならないからね。情報が入り次第、君に伝えよう」
ラグナの少し悪くなった歯切れを、オズピンは不思議そうに見つめながらも男としてのプライドがそうさせたのだろうと結論付けた。
「頼む。じゃあ部屋に戻るぜ」
「ああ、ゆっくり休むと良い」
その言葉を最後に、ラグナは学長室から出去った。部屋へと続く通路を歩きながら、ラグナはもう一度、自身と戦った少女について思いを巡らす。実のところ、オズピンから貰いたいあの少女の情報はセンブランスなどの能力よりも素性であった。
確かに強敵だった。能力も分からなかった。しかし、それよりどうしても少女の瞳が頭に張り付いて消えてくれない。自分と同じ、オッドアイだからと言うわけでもない。しかし、あの目には見覚えがある。
幼き日にガラスに写った自分と同じーー
淀みを持った瞳の色ー
「ったく…胸糞悪い目しやがって…
嫌な事思い出させんじゃねぇよ」
ラグナは髪を乱暴に掻き乱しながら舌を打った。
これにてvol.1分は終了でございます。
こんな気まぐれな私に感想評価、意見、誤字指摘を送って頂きありがとうございます。
失踪する事はありませんのでその点だけはご安心ください。